今、世界で深刻な危機が起きている。それは新型コロナウイルスをきっかけにした経済危機かもしれないが、政治的な危機や社会的な不安も含めた複合的な問題に発展する可能性がある。(1)

  『危機の時代』 ジム・ロジャーズ 日経BP  2020/5/21 <新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、世界経済が大混乱> ・私は2019年から「2008年のリーマン・ショックをはるかに超える危機が迫っている」と警告してきた。それが今、始まろうとしている。強調しておきたいのは、新型コロナウイルスはあくまできっかけに過ぎないことだ。経済危機が来ること自体は、以前から見えていた。 ・残念ながら、繁栄には必ず終わりが訪れる。もちろん、日本経済にも同じように終わりは訪れる。それでも国は存在し続けるし、なくなるわけではない。だがそれまでとは状況が変わる。 ・「終わりの始まり」が幕を開けたのだ。中国では企業倒産が相次いでいるようだ。インドでは数年前から多くの債務不履行(デフォルト)が起こっている。 <人生で最悪の危機が来る> ・今回の危機が、過去とは違うというようなことは決してない。歴史は繰り返すからだ。 ・危機の本番が迫っている。次がどこになるかは分からないが、このままでは多くの国がデフォルトする可能性がある。世界中の多くの企業、多くの国、多くの自治体が過剰な債務を背負い込んできた。みんな、これからツケを払わなければならない。  過去にも危機が起こるたびに、同じようなことが起きている。 ・現在の状況は、1939年に始まった第2次世界大戦の直前と似ているという指摘もある。私もその通りだと思っている。 ・今回の危機が今後どうなるか分からないが、戦争が起きる可能性は否定できない。1939年と現在の経済環境に数多くの類似点があるのは確かだ。 <オリンピックが国を救ったことはない> ・過去100年を振り返ると、オリンピックは国を救ったことがない。多くの国がオリンピックを開催したが、どの国も大きくは変わらなかった。 <ユニコーンブームはバブルだった> <アリババ株への投資はいいアイデアではない> ・一方、バブルの前に購入して、バブルの時に上手に売り抜けられる人はほとんどいない。そうできる人は素晴らしい投資家だ。 <米国の教育を高く評価するのは間違い> ・多くの大学教授は、ただ型通りの授業をするだけだ。ほとんどの米国人は、大学に通ったとしても、素晴らしい教育を受けているわけではない。 そこに問題がある。 <危機に瀕する米国の大学> ・高いコストを賄えないようになると、最終的には大学は破綻せざるを得なくなる。 <教育はどんどんオンライン化する> <変化の時代に求められる教育> ・学生は、多くの収入が得られる勉強に興味を持っている。どの分野が儲かりそうなのか、そのためにどんな勉強をしたいと思っているのかを理解する必要がある。彼らにとって良い教師になれる人なら、需要があり、きっと成功するだろう。 <MBAは役に立たない> ・毎年のように何十万人ものMBA取得者が世界で増えていく。明らかに供給過剰だ。そして、MBAを取得した人の多くは金融の世界に関心を持っている。平均給与が高いからだ。  だが、すでに述べたように、ブロックチェーンは金融の世界を劇的に変えるだろう。金融機関で働く人が大量に職を失う時代がやってくる。 <経営以外に学ぶべきことがある> ・私は15年間ですべてが変わることについてすでに述べた。学校でそれを学んだとは思わないが、歴史については十分な知識を得ることができた。 <MMTはタダで食事を配るような考え方> ・今注目を集めているのはMMT(現代貨幣理論)だ。「自国の通貨建てで、政府が国債などを発行してお金を借りて赤字が増えても、インフレにならなければ問題がない」とするような理論だ。いくらでも借金をして、財政赤字になっても問題ないという驚くべき考え方と言えるだろう。 <ベーシック・インカムの議論はばかげている> ・何千年もの間、人類は互いに競争するためのゲームを考え出し、一方が他方に勝つようにした。ベーシック・インカムは、人間の本性を変えようとするようなアイデアであり、ばかげている。 <シリコンバレーはイノベーションの聖地でなくなる> ・シリコンバレーはイノベーションの聖地と呼ばれてきたが、それは過去のものになるだろう。未来はそうではなくなる。あなたが今、常識だと思っていることは、15年後には真実ではない。あなたが知っているすべては変わることを忘れないでほしい。2035年には、シリコンバレーの地位は劇的に変わっているだろう。 <ソフトとハードの両輪がそろう場所> ・もし私が中国と米国のどちらに賭けるのかと聞かれたら、エンジニアリングの将来という意味では、中国に賭けるだろう。 <欧米のメディアの見方が正しいとは限らない> ・もちろん欧米から見た中国のイメージが悪いという指摘に私は同意する。グローバルに力を持っているメディアは、英国営放送のBBCや米国放送局のCNNのような西側の組織や企業だからだ。 <“邪悪な国”の情報発信から学べること> ・もちろん中国は、西側における彼らのイメージが悪いことを理解しており、それを改善しようとしている。中国は、西側のメディアは巨大な一枚岩で、BBC、CNNだけでなく、NHKも仲間だと思っているかもしれない。 <CNNは見ない方がいい> ・あなたが海外のホテルで目覚めるときは、CNNを見ない方がいい。アナウンサーやキャスターたちはあなたにこう言い続ける。「人々は叩かれて、奪われている。ロシア人は邪悪であり、中国人はもっと悪い。彼らはあなたの顔を認識し、あなたを見張っている」。CNNがあなたに伝えるすべてのことが本当に正しいかどうか気を付けるべきだ。 <中国から得たインスピレーション> <民主主義と経済の成功はほとんど関係ない> ・つまり民主主義であることは、経済成長とほとんど関係がない。歴史的に、民主主義であるか独裁であるかは、経済にそれほど大きな違いを生み出していない。 <ネズミを捕まえるネコはいいネコだ> <アジアの女性不足で何が起きるのか> ・アジアでは女性の数が不足している。何かが不足すると、価値はより高くなるので、アジアの女性の価値は今後高まるだろう。それは単純な経済学だ。 <マリファナにも投資チャンスがある> <コロンビア訪問で得た気づき> ・マリファナには多くの薬効もある。このため、ますます多くの国で合法化されるだろう。ウルグアイ、カナダに加えて、ブラジル、英国、チリ、ドイツ、フランスなど、医療用大麻なら認められている国も多い。米国でも、カリフォルニア州、コロラド州、マサチューセッツ州、ネバダ州、オレゴン州、首都ワシントンDCなど多くの地域で完全に合法化されている。 <誕生する巨大なビジネス> ・これはマリファナに巨大なビジネスチャンスが存在することを意味する。現在、いくつかの酒類メーカーは、すでにマリファナ事業に着手し始めている。カナダでは大手企業も参入している。 ・マリファナ関連のスタートアップも次々と株式を上場しており、次の成長業界として期待が高まっている。  カジノとマリファナはどちらが危険なのか。私はギャンブルをしないのでよく分からない。しかしカジノは、胴元が常に儲かるビジネスだ。無料の食べ物と無量のエンターテインメントを備えた大きなホテル施設を運営する費用を誰が払うのか。それはギャンブルをする人たちだ。一時的にはギャンブルで勝っても、勝てばもっと熱中することになるので、それは良くない。もちろん政府にとっては、税金が入ってくるので、カジノは魅力的かもしれない。  米国の多くの州がマリファナを好むのは、カジノと同じように税金収入が期待できるからだ。米国ではかつて禁酒法があり、お酒は違法だった。しかし今は合法であり、政府は酒類に課税することで、多くの収入を得ている。マリファナにも課税することで、政府は多くの収入を得ることができるだろう。 <ブロックチェーンがもたらす破壊> ・それは、すべてのお金がコンピューター上にある場合に実現できる。しかし、それは政府のデジタル通貨であり、民間の暗号通貨ではない。交換可能であっても、ビットコインなどとは違い、政府のお金だ。暗号通貨を扱う民間企業は、政府のデジタル通貨を使うほかなくなっても、警察力を持つ政府の言うことを聞くしかない。 <商品市場に深刻な問題が起きる> ・私はさまざまな分野で投資の機会を探っている。(原油や鉄、銅、大豆といった)商品については、予見可能な将来において、深刻な問題が起きると予想している。 <常識とされていることを信じてはならない> ・くり返しになるが、今、あなたが当たり前と考えている常識は、15年経つと、何もかも間違っている可能性がある。だからこそ、あなたは周囲の人たちが言っていることを、盲目的に信じるべきではない。 ・危機はチャンスでもある。さまざまなものが割安になるので、うまく投資できれば、経済の回復に伴い、大きな利益を得ることができる。あなたが日頃から自分の得意分野を磨いており、ほかの人が気づいていないような変化を見つけることができれば、それはまたとない投資の機会となる。 <世界に満ちていた楽観論> ・「2008年のリーマン・ショックを超える金融危機が迫っている」。2019年に私がこう言っても信じない人が多かった。 <バブルは常にはじける> <危機の予言者たち> ・リーマン・ショックは突然起きたと思っている人もいるかもしれない。しかし多くの人が気に留めないような小さな兆しがたくさんあり、その後の深刻な金融危機につながった。それらは危機の予言者のようなものだ。  リーマン・ショックが起きた当時と比較すると、最近の世界経済はどのような状況にあったのか。同じような危機の予兆がいたるところで見られた。 <深刻なインドの経済危機> ・インド経済の危機はもっと深刻だ。2019年11月には、同国の中央銀行が、デフォルトを起こし住宅金融会社の破綻処理に踏み切った。インドの銀行では不良債権比率の上昇が続いていたため、以前から中央銀行が検査を厳格化して引当金を積むよう指示していた。不良債権の増加が大変な状況にあることが、鮮明になっている。 <世界を救った中国も借金漬けに> ・しかし、そんな中国も今では多くの債務を抱えている。今回は、リーマン・ショックの時と違って、中国経済が危機に陥るというシナリオも考えられる。それが現実に陥るというシナリオも考えられる。それが現実になると多くの人に衝撃を与えるだろう。 <米国が抱える巨額の借金> ・米国には財政が破綻したり、破綻寸前になったりしている地方自治体が目立つ。 ・イリノイ州は大麻やスポーツ賭博を合法化したり、名画を売却したり、あの手この手で財政再建に取り組むが、焼け石に水だ。ある大きな州が破綻すれば、その州内にある自治体も破綻するなど、ドミノ効果が起きるリスクがある。  米国は世界史上最大の債務国であり、借金の水準はますます高くなっている。 ・財政再建はよく話題になるが、緊縮財政を実行に移すケースは少ない。誰もがもっと多くのお金を借りて、もっとたくさんお金を使おうとしている。だから状況はますます悪くなるだろう。私の人生の中で、もっとも悪い状況になるはずだ。 <身近で起きる危機の予兆> ・リーマン・ショック前のサブプライムローン問題も非常に興味深いものだった。2006~2007年にかけて、サブプライムローンの問題が短期間で重大な危機に発展する可能性があると警告する声があった。多くの人は、その指摘を深刻に受け止めていなかったが、実際には危機はその後まもなく現実になった。 ・世界のすべての国は、繰り返される経済問題を抱えている。歴史的にみて、経済的な問題を抱えたことがない都市、国家、社会はない。 <加速する無制限な金融緩和> ・世界の多くの国で、金利が限りなくゼロに近い状態になり、日本ではマイナス金利にさえなった。米国でも金利が非常に低い水準にある。金利が通常のレベルになると、多くの人にとって大変なことが起きるはずだ。それでもFRBは「低金利は問題ない。ニューノーマルだ。心配しないでいい。大丈夫だ」といった風に主張してきた。 ・しかし金利は最終的に通常の水準に戻ると私は確信している。すでに巨額の負債が存在する。そして、借金が増えれば増えるほど、金利に対する圧力は大きくなる。今、中央銀行は大量のお金を印刷している。日本銀行も毎日せっせとお金を印刷している。 <債券やETを買いまくる中央銀行> ・日本だけでなく、米国やEUなど世界中で同様の動きが加速している。無制限な金融緩和がはびこっている。ある英国人はこう言った。「世界中どこでも、総ての中央銀行がこれをやっている」と。 <どんどん大きくなる借金のスノーボール> ・借金のスノーボール(雪玉)がどんどん大きくなっている。だからこそ今回の危機の影響は、リーマン・ショックよりも大きくなる。借金がどこでも非常に多くなっていると、危機が起きた際のショックはより大きくなる。 <貿易戦争に勝った国はない> ・トランプ大統領は自分ではなく、外国人を責める。そして、彼はより厳しい貿易戦争を外国にしかける。それが、今回の危機が私の人生で最悪の事態になると考えている理由の1つだ。 <経済対立が戦争になる可能性> ・日本が1941年に米国を攻撃したとき、日本政府は国民に対して何を語ったのか、「米国が石油や鉄くずの日本に対する輸出を禁止したからだ」といった説明をした。米国が航空機用の燃料を禁輸したり、日本の在米資産を凍結したりするなどの措置もあった。米国は明らかに日本を挑発していた。そこで日本の政府は「開戦せざるをえなくなったのは米国のせいだ」と非難した。 <戦争の最初の犠牲者は真実> ・ここから得られる教訓は、1つの情報源だけに耳を傾けてはいけないということだ、外国人を非難するという安易な手段に頼る政府が愚かな戦争を引き起こすことを、歴史は証明している。 <世界のすべての人は広島を訪れるべき> ・多くの人は歴史に学んでおらず、戦争がどれほど悪いことなのか知らない。 <多くの人々は戦争を好む> ・人間は何世紀にもわたって戦争を止めようとしたが、不可能だった。むしろ多くの人は戦争を好むことを歴史は証明している。人間は戦争が大好きだ。  戦争を止める方法を見つけられたらいいのだが、私には分からない。 <経済的な問題がなかった時代はない> ・すでに世界中でさまざまな問題が発生している。中国やインドだけでなく、米国や日本を含めてあらゆる場所に火種があったので、危機は避けられなかった。借金が膨大なせいで、今回の危機は非常に悪くなるはずだ。  トランプが貿易戦争を起こしていたので、状況はさらに悪化し、1930年代のようにはるかに落ち込んでいくだろう。世界中の政治家が多額の借金を重ねるという過ちを犯していたため、通常の不況で済む可能性もあったはずなのに大きな災害に変わってしまった。 <いかなる賢者も危機を止められない> ・経済危機は世界中で繰り返し起きている。誰もが危機を食い止めようとするが、どんな賢者でもそれはできない。 ・歴史は、経営失敗の責任を取らせずに企業を支えることが最善の方法ではないことを示している。取るべき対応が遅れたのが、日本経済が長年停滞した理由の1つだった。それは正しい方法ではない。 <山火事は世界のために森を再生している> ・しかし、日本は1990年代にバブル経済が崩壊した際に、有能な人々にお金を与えず、無能な人々にお金を与え続けた。そして政府からお金をもらった無能な人々は、賢い人々と競争した。 <いったん成功した日本が転落した理由> ・しかし戦後、危機から立ち上がり、高度成長を成し遂げた日本の成功は台無しになった。バブル崩壊後、経営に失敗した企業が破綻しないように救済するケースが目立つなどして、経済は長い間落ち込んだ。ダメになった企業が倒産しないことは、長期的にみて間違っており、日本は、失われた10年どころか、30年にわたる経済の停滞を経験することになった。  今の日本は多くの問題に直面している、出生率は低く、莫大な借金も抱えている。そして問題を抱えた産業や企業を支えるためにひたすらお金を借り続けている。そんな時に未曽有の危機が迫っている。私は日本が大好きだが、その将来が明るいものだとは決して思えない。 <危機の際にどう行動すべきなのか> <すべての常識は15年で劇的に変わる> ・それでは危機の際にどう行動すべきなのか。  まず重要なのは危機に対するあなたの認識を変えることだ。危機は一定の頻度で必ず起きる。そして、あなたが今正しいと信じている常識の多くは、15年後に間違っている可能性が高い。 ・私は歴史を学ぶ中で、10~15年経つと、世界が劇的に変化するケースが少なからずあることに気づいた。 <危機が起きてて絶望する必要はない> ・危機で何もかも失い、あなたの気分がどれほど落ち込んでも、どん底から復活できるチャンスはある。絶望が深ければ深いほど、次に来る幸福は大きいことだろう。 ・日本を見てもそうだろう。1965年に証券市場が崩壊したときに、絶望的な状況だと考えた人も多かったはずだ。だが、日本はその後、短期間で復活した。1980年の日本は非常に成功した経済大国になっていた。しかし、その15年後にはバブルが崩壊して、日本経済は大変な落ち込みを見せた。繰り返しになるが、15年経って、物事に大きな違いがなかった時代は、歴史上ほとんどない。 <まずしなければならないこと> ・危機に対応するためにまずしなければならないことは、何が起きているかを知ることだ。ほとんどの人は危機が来る兆しがあっても、積極的にそれを見つけようとしていない。だから世界の仕組みと、何が起こっているのかを理解する必要がある。 <みんなが失敗している時こそ、チャンスがある> ・ほぼすべての人が失敗しているとき、賢い投資家は上手に立ち回っている。誰もが悲観的になって「もうダメだ」と言っている時に、チャンスを見つけて投資しておけば、回復した時に得られるリターンは大きい。だから、自分自身がよく知っている分野に投資するというルールを守るべきだ。 <企業は何をすべきなのか> ・危機に対応するために、企業は何をすべきなのか。まず負債を劇的に削減すべきだ。同時に顧客=取引先に注意する必要がある。借金の多い取引先は、危機の際にトラブルに陥り、代金を回収できなくなるリスクが高くなる。 <手っ取り早く儲けようと思ってはいけない> ・投資は難しいと誰もが理解すべきだ。多くの努力、多くの研究、多くの知識を必要とすることを知っていれば、人々はおそらく安易に投資をしないだろう。 <豊かな生活を送るために必要な金額> ・私が知っている唯一のことは、危機が起きても目を覚まし続けることだ。自暴自棄にならずに常にチャンスを探し続けるしかない。それ以外に方法はない。 <良い投資家になるためにはバランスシートを読もう> ・バランスシートは損益計算書よりもはるかに重要になる。健全な会社かどうかが分かるからだ、損益計算書柄よりもバランスシートに企業の経営の本質は現れる。だから、私はいつも企業分析をバランスシートから始める。 <株式インデックスへの投資は有効な手段> ・多くの研究成果は、ほとんどのプロの投資家の投資パフォーマンスが、株価平均よりも良くないことを示している。債券や商品や通貨に関しても同じことが言える。そうであるならば、株式の場合、株価平均に連動する株式インデックスに投資した方がいいことになる。 <何をしているか分かっていない人が多い> ・だが、多くの投資家が、自分たちが何をしているのか良く分かっていないことに気づくのに、長くはかからなかった。投資の世界では、自分が何をしているか理解していない人がどれほど多いことか。彼らはみな同じように考え、同じ考えに従う。 ・ローマの劇作家テレンティウスの格言に「幸運は勇者に味方する」という言葉もある。それは正しいが、無謀では仕方がない。多くの情報を持っている方が、幸運を得やすいものだ。多くの研究をすればするほど、幸運は増していく。 <40失敗しても、3つ成功すればいい> ・日本という国は人々を失敗させたがらない。すでに述べたように、バブル崩壊後の1990年代、日本は経営が立ちいかなくなった企業を簡単には破綻させなかった。人々が失敗を許さないカルチャーが日本にあるからだろう。 <投資するチャンスの見つけ方> ・投資する際には、どのようなチャンスがあるのか。  例えば、政府がある問題を解決することを決めた場合、多額のお金を投じるケースがある。それは結果的に、誰かがたくさんのお金を稼ぐことを意味する。政府が正しいか間違っているかは関係ない。政府はたくさんお金を使うので、関連する事業に携わる企業は利益を手にすることだろう。 ・最近、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が話題になっているが、それが良いことかどうかは関係ない。間違いなく、誰かがたくさんのお金を稼ぐことになる。人々はESG経営を実践する企業は良いと言っているが、彼らの言葉をそのまま信じるべきではない。 <私は道を見出そう。さもなくば道を作ろう> ・「私は道を見出そう。さもなくば道を作ろう」というラテン語の言葉もある。カルタゴの英雄ハンニバルが、ローマを攻める際に、「象でアルプスを越えるのは不可能だ」と言われた際にこう答えたとされている。時代を超えて多くの人に愛されている格言だ。まさに私はこの言葉を自分の子どもたちに贈りたい。 <借り手にも貸し手にもなるな> <経済、政治、社会の複合的な危機になる> ・今、世界で深刻な危機が起きている。それは新型コロナウイルスをきっかけにした経済危機かもしれないが、政治的な危機や社会的な不安も含めた複合的な問題に発展する可能性がある。  危機を克服する方法は容易には見つからないが、準備できることはある。変化は投資のチャンスであることも忘れてはならない。 ・今回の危機が深刻になるのは、世界中で債務の水準が非常に高く、多くの国の中央銀行が金利をゼロにしているためだ。そのため、多くの人がたくさんのお金を借りている。  好況が続いているなら、お金を借りていることは何の影響もない。自由にできるお金があるなら問題ないと多くの人は思っている。しかしひとたび危機が起きると、借金は深刻な問題につながる。  世界の気候は何千年もの年月の中で、大きく変わっている。科学的な見地に立つと、氷山や木の年輪などを調べれば、それは分かる。 <世界は多面的に読み解いた方がいい> ・私は歴史が好きで様々な本を読んでいる。問題は、一冊の本を読むだけでは、真実が分からないことだ。ある国が教えている歴史と別の国が教えている歴史を見ると、まったく異なる2つの物語になっている場合がある。  だから新聞と同じような読み方をする必要がある。私は、5カ国の5種類の新聞を読んで、総合的に世界で起きていることを分析することで、真実を把握しようとしている。 <1つの情報源に頼るべきではない> ・大事なのは、1つの情報源から歴史を読み解こうとしないことだ。  他の情報ソースを探し、それらの見方も知ることで、あなたは本当は何が起きているのかを知ることができる。 <競争が少なければ、成功できる確率は高い> ・ここで学んだのは、競争がほとんどなければ、勉強でもビジネスでも成功する確率が高いということだ。私が投資する候補となる企業を分析する際に、最初に見ることの一つは、競争状態だ。競争が少なければ、そのビジネスは成功する可能性が高い。 <経営学より、歴史や哲学の方が人生に役立つ> ・投資に役立つのはビジネススクールで学ぶことではなく、むしろ歴史や哲学だ。 ・私は政治と経済だけ勉強したかったが、哲学も勉強する必要があった。私は望んでいなかったが、哲学を学んでいたことは、その後の人生で非常に役立った。 <世界はどこへ行くのか> <揺らぐ金融センターの地位> ・このため、EUを離れることになった英国は難しい状況にある。スコットランドや北アイルランドが分離しなくても、英国には莫大な借金があるのが問題になる。彼らはもはや世界に売るものがない。原油は永遠に続くものではなく、EV化が進むことで、自動車は今後ガソリンを消費しなくなっていく。  英国はかつて多くの産業を支配していた。銀行業と投資銀行業で圧倒的な強者だった。偉大な英国の商業銀行はもはや存在しないようなものだ。50年前には偉大な銀行があったが、もう残っていない。 <グーグルとアマゾンが支えるスイスフラン> ・一方、EUに加盟する多くのヨーロッパ大陸の国々も苦悩している。優等生とされてきたドイツでさえ、借金が膨らみ、金融システムに問題を抱えている。スイスでさえもそうだ。私が若い頃、スイスフランは健全な通貨の象徴だった。それは金に支えられており、誠実さと優れた頭脳に支えられていた。  現在、スイスフランはグーグルとアマゾンに支えられている。 ・今、米国とその同盟国はロシアに制裁をかけている。化学・生物兵器の使用国として非難し、政府や組織、個人を対象とするさまざまな制裁を課してきた。 <ロシア農民がトランプに感謝する理由> ・それでも毎日、ロシアの農民は目を覚ますたびに、「ありがとう、トランプさん」と喜んでいることだろう。ロシアの農業は制裁のために、かえって活況を呈している。  ロシアは輸入に頼らず、自国で農産物を生産しなればならなくなった。 ・ロシアは借金が少なく、エネルギーが豊富なだけでなく、物価が安い。私は投資をするうえで、ロシアの魅力は増していると考えている。人々はロシアを嫌うが、私はこのような変化を評価している。 <アフリカで中国の影響力が増す必然> ・今はどこでも中国人だらけだ。アフリカには膨大な量の天然資源があり、それを誰も必要としているが、特に中国が虎視眈々と狙っている。 <香港の暴動は自滅につながる> ・香港は崩壊することはないが、人々が香港に行かなくなるので、将来は暗いものになりそうだ。香港に問題があることはみんな知っているので、誰も選らばないようになる。 <インドの先行きに悲観的な理由> ・インドの先行きにかんしては、期待が大きかった時期もあったが、私は悲観的だ。そもそもインドの経済は非常に制限され、規制が多い。 ・日本の小売業も外資に対しては閉鎖的だった。おそらく20年前までインドと同じような状態だった。私は日本も外国人が好きではなかったことを知っている。日本もコントロールされ、閉じられた市場原理主義だったが、変化している。インドは日本と違い、今でも外資に閉鎖的だ。そのような国に投資するのは非常に難しい。 <朝鮮半島にはチャンスがある> ・北朝鮮と韓国がにらみあっている38度線が解放されると、今後10年または20年の間、非常にエキサイティングなことが起こるだろう。 <日本はどうすべきか> ・問題解決の方法は2つある。膨れ上がる一方の借金に歯止めをかけて減らす。そしてより多くの移民を受け入れることだ、日本は外国人が好きではないが、それでは日本は衰退してしまう。 <農業にはチャンスがある> ・私は日本で有望だと考えている投資分野は農業だ。日本の農業従事者の平均年齢は67歳(2018年時点)と非常に高い。世界的に見ても、農業に関心を持つ人は少ない。米国では農業を勉強するよりも広報・PRの勉強をする人が多いほどだ。 ・日本が得意とするロボット技術をもっと活用すべきだろう。ロボットやドローン、AIを活用して、農業にイノベーションを起こせば、ビジネスチャンスは大きいはずだ。 <外国人に門戸を開かない国は衰える> <移民の力で繁栄してきた米国の変化> ・米国も世界中から多くの移民を受け入れることで発展し、繁栄してきた。外国人を歓迎し、彼らに土地を与えてきた。しかし、トランプ大統領は、外国人に寛容ではない。メキシコ国境に壁を建設したりしている。経済が悪くなると、外国人への風当たりはますます厳しくなっていくだろう。  我々は外国人に対して非常に差別的になることがある。 <歴史から教訓を得よう> ・私が歴史を好きなのは、そこからさまざまな教訓が得られるからだ。世界はどんどん変化するが、人間の本質は変わらない。同じような行動が常に繰り返されていることを、あなたは知ることができる。 ・テクノロジーが何であれ、人々は新しく興奮できるものにより多くのお金を払うものだ。だからテクノロジー企業は、常に市場価値のリーダーになる。かつてはラジオであり、固定電話だった。  固定電話はかつて信じられないほどエキサイティングな技術であり、通信企業の時価総額は驚くほど高かった。それは世の常であり、テクノロジーは市場の先導役になる。 ・新しいテクノロジーはそれが何であれ、世界を変える可能性がある。今では固定電話は技術とも思われていないが、100~150年前は固定電話ほどイノベーティブな技術はなかった。  今はブロックチェーンが、世界を最も興奮させている技術の1つだろう。ビットコインのような仮想通過に使われているイメージが強いが、それは一面に過ぎない。 <次に戦争が起きる地域> ・中東は、次に大きな戦争が起きる場所になる可能性が非常に高い。中東では、アラブ人とイスラエル人だけでなく、(米国やロシアなど)ほかの勢力も過ちを犯している。つまり中東では多くの人が失敗している。 <21世紀のサラエボになる可能性> ・それが今度は中東になるかもしれない。中東のどこかの地域が、21世紀のサラエボになる可能性がある。なぜなら、非常に多くの間違いを犯し続けているからだ。   


 『週刊朝日』(2020/10/9) 『世界3大投資家  ジム・ロジャーズがズバリ予言』(最終回) 「2020年、お金と世界はこう動く」 <「菅政権で日本はさらに衰退 若者は中国か韓国に移住せよ」> ・今年1月に始まった本連載も、今回が最終回となる。最後はあえて日本人に厳しいメッセージを伝えたいと思う。   ・私は、安倍晋三首相は一刻も早く辞任すべきだと言ってきた。安倍氏の行動原理は自分や自らの体制を維持することにあり、そのツケを払うのは日本の若者だからだ。  問題は、安倍氏の後継者である菅義偉首相も、「アベノミクス」という間違った政策を引き継ぐということだ。日本にとってこれほど不幸なことはない。   ・アベノミクスの第1の矢である金融緩和は、円安に誘導し、確かに日本の株価を押し上げた。しかし、日銀が紙幣を刷りまくり、そのお金で日本株や日本国債を買いまくれば株価が上がるのは当たり前だ。引き換えに、日本円の価値は下がり、いずれ物価が上がっていくと、今度は国民が苦しむ羽目になる。 ・第2の矢である財政出動も、日本を破壊するための政策にしか見えない。国の借金が増え続ける中で、それでもなお間違った経済政策が続けられた。  だから、日本に住む10代の若者は、早く日本を飛び出すべきだ。 ・それでも、菅首相は安倍路線の継承を訴えている。これでは、日本の衰退は必然である。やるべきことはわかっている。大胆に歳出削減をする、移民を積極的に受け入れる。しかし、日本が変わることはないだろう。 ・本連載をまとめた『ジム・ロジャーズ お金の新常識 コロナ恐慌を生き抜く』(朝日新聞出版 2020/9/18)が発売中。  


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