80歳はサワラビ(童)、90歳となって迎えに来たら、100歳まで待てと追い返せ。我らは老いてますます意気盛んなり、老いては子に甘えるな。長寿を誇るならわが村に来たれ。(1)

(2022/3/19)

『外国人が見つけた長寿ニッポン幸せの秘密』

エクトル・ガルシア、フランセスク・ミラージェス

エクスナレッジ   2017/7/22

<不思議なことば>

・そんなことをふたりで話しているうちに、ふと出てきたのが、「生きがい」という不思議なことばだ。

 この日本語をざっと訳すとすれば、「常になにかに携わっている幸せ」とでもなるだろうか。ロゴセラピーとも関連するが、それだけではない。なにしろ、日本人、なかでも沖縄の人たちが驚異的に長生きである理由が、どうやらこのことばにありそうなのだ。

沖縄県は、人口10万人あたりに占める百寿者の割合が55人と、世界平均を大きく上回っている。

・日本の南方にあるこの島で暮らす人々が、世界中のどこよりも長生きである理由を調べていくと、ふだんの食事やお茶を飲む習慣、野良仕事を含むシンプルな暮らし、亜熱帯気候(平均気温はハワイと同じ)といったことのほかに、「生きがい」という人生哲学がカギを握っていると考えられる。

・百寿者がほかのどこよりも沖縄に多いのは、この「生きがい」のためだろうか。沖縄の人たちが死ぬ直前までずっと活動的なのはなぜだろうか。幸せに長生きする秘訣は何なのか。

 いろいろ調べていくと、沖縄本島北部にある人口3千人ほどの村が、長寿者率で世界一だとわかった。そのために、「長寿の里」と呼ばれている村だ。

 この長寿者の秘訣を探りに、現地へ行ってみることにした。なにしろその大宜味という村では、お年寄りが人生最期の日まで活動的で、満ち足りた生活を送っているというのだ。

<百寿者から得るインスピレーション――幸せに長生きするための大宜味村の伝統やモットー>

・この企画を立て始めてから約1年、いよいよ、世界最高齢級の人たちと知り合うことになる。

 着いてすぐに感じたのが、ここではだれもが永遠のいまを生きているようで、まるで時が止まったままのようだ。

<大宜味村に到着>

・平良さんのファイルには村民全員のリストがあり、「グループ」ごとに年齢順に並んでいる。(「模合(もあい)」という友の会の一種)に属し、互いに助け合っているのだという。

 模合は特に目的がわるわけではなく、ほとんど家族のように機能している。この村では、多くのことが報酬なしに自発的に行われているそうだ。だれもが協力を申し出、村役場がすべきことをまとめて采配する。こうすることで、だれもが村の一員であると感じ、村の役に立てるというわけだ。

・近くの山頂からは村全体が見渡せ、すべてがヤンバルの中、というくらい緑に覆われている感じがある。3千2百人ほどの村民はいったいどこにいるのか。家は数軒見えるが、海のそばか狭い谷間に集落が散らばっていて、そこに細い道が通っているだけだ。

<地域社会での暮らし>

・ユキコさんは88歳だが、いまも車を運転し、それを誇りにしている。助手席にいる人は99歳で、今日1日、わたしたちに同行してくれるという。

・「食事で寿命が延びるわけじゃないのよ。長生きの秘訣は、笑顔で人生を楽しむこと」

・大宜味村にはバルもなければ、食事をするところも数えるほどしかないが、人づき合いはとても濃厚だ。いくつかあるコミュニティセンターが社交の場となっている。村は17の字(あざ)から成り、それぞれに長がいて、文化活動、祭り、社会活動、長寿活動など、人によって異なる役割を担っている。

 特に長寿活動にはかなり力が注がれている。

 わたしたちは、この17ある字のひとつの集会所に呼ばれた。ヤンバルの山腹にある古い建物だ。このヤンバルに住んでいる「ブナガヤ」という妖怪は、この村のイメージキャラクターでもある。

<ヤンバルに住む妖怪「ブナガヤ」>

・「ブナガヤ」とは、大宜味村やこのあたりの村のヤンバルに住む妖怪のこと。赤い髪を垂らした男の子の姿をしている。ふだんは川底に住んでいるいると言われ、浜辺で魚をとる。

「ブナガヤ」は沖縄の民話や伝説によく出てくる。いたずら好きで、言うことなすことをころころ変える、予測できな生き物。地元の人によると、ブナガヤはこのあたりの山、川、木、海、土、風、水、動物を大切にしているから、ブナガヤと仲良くしたければ、自然を敬わなければならないという。

<誕生祝い>

・集会所へ入っていくと、20名ほどのお年寄りに迎えられる。「この中で一番若いのは83歳だよ!」と自慢顔だ。

 大テーブルでお茶を飲みながらインタビューをおこない、それが終わるとホールへ案内された。今日集まってくれたうち、三人の合同誕生祝いがあるという。99歳と94歳の女性、それに、89歳になったばかりの「若造」の三人だ。

・これが、1週間の滞在中にわたしたちが参加した最初の宴会となった。もちろん、これが最後ではなく、後日、わたしたちより歌が上手なお年寄りとのカラオケ大会や、地元の民謡バンド、踊り、屋台が出る伝統的なお祭りに参加することになる。

<毎日一緒に楽しく過ごす>

・宴会や祝いごとは、大宜味村のライフスタイルに不可欠らしい。

 ゲートボールの試合にも呼ばれた。沖縄全島のお年寄りに人気のスポーツだ。スペインのペタンカのようなもので、スティックでボールを打つ。

<沖縄の神々>

・沖縄には「琉球神道」という宗教がある。「神々の道」という意味だ。道教、儒教、仏教、神道のほか、シャーマニズムやアニミズムの要素も混ざっているいる。

 昔からあるこの信仰によると、この世には無数の精霊が住んでいて、家の精霊、森の精霊、木の精霊、山の精霊など、さまざまなタイプに分けられる。こうした精霊を、儀式や祭りを通じて喜ばせたり、聖域を定めたりすることも重要だ。

 沖縄本島はいたるところに神聖な密林や森がある。そうしたところには二種類の社がある。「ウタキ(御嶽)」と「ウガンジュ(拝所)」だ。

・沖縄伝来のこの信仰によると、女性は男性より霊的に上とされている。これは日本のほかの地域の伝統的神道と逆だ。そのため、霊力は女性の領域と考えられている。「ユタ」は、伝統的儀式で霊界とつながる。民間から選ばれた霊媒師のこと。

<マブイ>

・「マブイ」は、生きているわたしたちそれぞれの真髄のこと。魂であり、生命の源である。マブイは永遠不滅で、ひとりひとり異なっている。

 たまに、亡くなった人のマブイが生きている人の中に捕らえられてしまうことがある。その場合、その亡くなった人のマブイを解き放つ儀式が必要となる。

<老いてますます意気盛んなり>

・振り返ってみると、大宜味村での日々は強烈だったが、同時にリラックスした時間でもあった。地元の人々の生活スタイルにいくらか似て、一見重要な用事でいつも忙しそうでいて、よく見ると、なにごともゆったりとおこなっている。常に「生きがい」に従いつつも、急がない。

<長寿宣言の村>

・80歳はサワラビ(童)、90歳となって迎えに来たら、100歳まで待てと追い返せ。我らは老いてますます意気盛んなり、老いては子に甘えるな。長寿を誇るならわが村に来たれ、自然の恵みと長寿の秘訣を授けよう。

<お年寄りへのインタビュー>

・1週間の滞在中、のべ百人にインタビューをおこない、お年寄りたちにそれぞれの人生哲学や「生きがい」、元気で長生きするための秘訣を尋ねた。

1 くよくよしない

・「長生きの秘訣はくよくよしないこと。気持ちを生き生きと保ち、老けさせない。とびきりの笑顔で相手に心を開く」

2 よい習慣

・「野菜をつくって自分で料理する。それがわたしの生きがい」

「年をとってもぼけない秘訣は、指先を使うこと、指先を使うと脳が刺激され、その逆もしかり、いつも手先を動かして働いていれば、百歳まで生きられますよ」

「好き嫌いなくなんでも食べる」、「働くこと。働かないと具合が悪くなります」、「毎日体操をします」、「野菜を食べれば長生きできます」「仏壇にお線香をあげます。御先祖様を忘れてはいけません」、「長生きのコツはたった三つ。健康体操をする、きちんと食べる、人に会う」

3 日々、親睦を深める

・「友だちに会うのが一番の生きがい。みんなここに集まっておしゃべりするのがとても大切なの。明日もまたここに集まる、そう思えることが、人生最大の楽しみ」、「一番の趣味はご近所さんや友だちに会うこと」、「仲良しと毎日おしゃべりすること。それが長生きの秘訣」、「近所の人とお茶しながらのおしゃべり、それが一番。それと、いっしょに歌を歌うこと」

4 のんびり生活する

・「長生きのコツは、『ゆっくり』『急がない』と自分にいつも言い聞かせること。急がないほうがずっと長生きできます」、「毎日、柳細工をしています。それが生きがいです」、「毎日いろんな用事をする。いつも忙しくしている」、「長生きのコツは早寝早起きと散歩。落ち着いて生活し、なにごとも楽しむ」

5 楽観主義

・「毎日、自分にこう言います。今日も健康で元気いっぱいの1日を送るぞって、思い切り生きるの」

「いま98歳ですが、自分ではまだ若いと思っています。やるべきことがたくさんありますから」

「笑うこと、それが一番大切」、「百歳まで生きるつもりです。もちろんですとも!それが大いに刺激になっています」

「孫といっしょに歌ったり踊ったりすること。それが一番の楽しみ」

「村でボランティアをしています。いろいろしてもらってきたことへのお返しが少しでもできるように」

「秘訣なんてありません。コツは人生を楽しむだけ」

<大宜味村の生活スタイルのカギ>

▼インタビューした全員が畑を持っていて、ほとんどの人が、茶、シークヮーサー、マンゴーなどを畑いっぱい植えている。

▼会員がなんらの会に所属していて、家族の一員のように感じている。

▼ちょっとしたことでもよく祝う。

▼人生においてなすべき重要なことがある。それがいくつもある人もいる。

▼自分たちの伝統や文化をとても誇りにしている。

▼どうでもよさそうなことでも、やるからには熱心におこなう。

▼「助け合いの精神」とでも訳せる「ゆいまーる」がしっかりと根づいている。

▼することはいろいろあるが、内容が異なるため、気晴らしにもなる。なにもせず、ただベンチに座っているようなお年寄りは、ひとりも見かけなかった。

<「生きがい」式ダイエット――世界トップクラスの長寿国では何を食べているのか>

・世界保健機関(WHO)のデータによると、日本は平均寿命が世界トップクラス、日本人男性が85歳で、女性が87.3歳だ。

 スペインも、気候や地中海式ダイエットのかけげで、日本に近づいている、スペイン人男性の平均寿命は79.5歳、女性は85歳。

 しかも日本の場合、百寿者の人口も世界一多いことは、この本のはじめに書いたとおり。人口百万人あたりの百寿者は、452人を超えている(2014年7月現在)。

・日本人の長寿の秘訣は何なのか。長寿ナンバーワンの国の中でもナンバーワンである沖縄県は何が違うのか。

 研究者の中には、沖縄が日本で唯一、鉄道のない県であることを指摘する人もいる。歩かざるをえない、というわけだ。また、日本政府が推奨している、塩の摂取量1日10グラム未満の目標を達成しているのも沖縄県だけだ。

<驚くべき沖縄式ダイエット>

・日本の南方にある沖縄本島は、心臓血管病による死亡率が国内最低で、食生活が大いに関係しているのはまちがいない。栄養に関する国際的な報告発表の場でも、いわゆる「沖縄式ダイエット」がたびたび取り上げられているが、これも偶然ではない。

・長寿ナンバーワンの沖縄の食生活を25年間研究調査して、次のようにまとめている。

▼沖縄の人たちは「さまざまな食材、特に植物由来のもの」を食べている。食材という点で、多種多様性は非常に重要だと考えられる。

▼「1日最低5品の野菜料理」、少なくとも7品目の野菜や果物を毎日食べている。

▼「穀物が食事の基本」。日本人は白米を毎日食べるが、日によってはそばやうどんにすることもある。いずれも主要な麺類だ。米は沖縄でも一番よく消費されている食物だ。

▼「砂糖をそのまま摂ることがほとんどない」、摂るとしてもきび砂糖だ。

・沖縄式ダイエットのこうした要素以外にも、この島の人たちが平均して週3回は魚を食べていること、日本のほかの地域とちがい、肉といえばたいてい豚肉だが、それでも食べるのは週に1、2回にとどまることにも注目すべきだ。

▼沖縄人の砂糖消費量は一般的に、日本のほかの地域の3分の1である。

▼塩の摂取量も日本のほかの地域の半分ほど。

▼1日の摂取カロリーが少ない。

<腹八分>

・というわけで、1章で触れた、あの8割ルールに戻ってきた。日本語で「腹八分」という。このルールを実行するのはいたって簡単。ほとんどお腹いっぱいだけど、もうちょっと食べられそう、というところで食べるのをやめればいい。腹八分を習慣づけるごく簡単な方法は、デザートを食べないこと。

<小食は長生きにつながるのか?>

・これは明白であり、疑問を抱く人は少ないだろう。栄養失調となると極端だが、体が欲しがるより少なめのカロリーを摂取することが、長生きには最適のようだ。

・カロリー制限の利点のひとつは、IGF―1(インスリン様成長因子1)値が下がることだ。これはタンパク質の一種で、老化プロセスに大きく作用している。人も動物も老化するのは、血中のIGF―1が多すぎるのが一因となっている。

 接待など仕事の関係で、腹八分を毎日実行するのが難しければ、週のうち1、2日は断食するという方法もある。いまアメリカで流行っている「5対2」ダイエットは、週に2日断食し(1日500キロカロリー未満)、それ以外の日はふつうに食べるというもの。断食によって消火器系を休ませることができ、デトックスにもなる。

<抗酸化作用のある自然食材15品目>

・抗酸化物質とは、細胞の酸化を遅らせる分子のこと。細胞を傷つけて体の老化を引き起こすフリーラジカルのはたらきを中和してくれる。緑茶の抗酸化力はよく知られているが、これについてはあとでみよう。

 沖縄の人たちがほぼ毎日食べていて、その活力元とされる、抗酸化物質を多く含む15品目は次のとおり、

▼豆腐、味噌、カツオ、ニンジン、ゴーヤ、昆布、キャベツ、海苔、タマネギ、モヤシ、ヘチマ、枝豆、サツマイモ、ピーマン、さんぴん茶

<沖縄でもっともよく飲まれている「さんぴん茶」>

・沖縄で一番よく消費されるお茶は、緑茶にジャスミンの香りをつけた「さんぴん茶」だ。西洋で一番近いのは、中国から入ってくることが多いジャスミンティーだろう。さんぴん茶には血中のコレステロール値を下げる働きがあることがわかっている。

・緑茶には抗酸化作用に加え、次の利点がある。

▼心臓発作のリスクを減らす。▼免疫系を強くする。▼ストレスを和らげる。▼コレステロール値を下げる。

・沖縄の人はさんぴん茶を1日平均3杯飲んでいる。

<お茶の神秘>

・お茶が薬用効果の高い飲み物であることは古くから知られている。それは最近の研究でも科学的に確認されており、お茶をよく飲む人に長生きが多いのも、この千年余りの歴史があるお茶と関係があることがわかっている。

・発酵させずに乾燥させる雑種のお茶は、有効成分がそのまま残っている。それは粉末にしても変わらない。そのため、次のように健康にいい成分が多く含まれている。

▼コレステロールを抑える。▼血糖値を下げる。▼血液の流れをよくする。▼ビタミンCを含み、インフルエンザを予防する。▼フッ素を多く含み、骨を強くする。▼ある種の細菌感染から身を守る。▼紫外線から身を守る。▼浄化・利尿作用がある。

・白茶ならポリフェノールの含有量がもっとも高く、アンチエイジング効果がさらにありそうだ。実際、白茶は自然食材の中では抗酸化力が一番高いと言われている。一杯の白茶は、100%のオレンジジュース12杯分に相当するという。

 つまり、お茶か白茶を毎日飲めば、抗酸化につながるため、若さをより長く保てるというわけだ。

<別格の大宜味村>

・「長寿の里」と呼ばれる大宜味村は、沖縄県でも長寿人口の割合がもっとも高い。しかも、ただの長生きではない。年をとっても元気なのだ。この農村では、90歳を超える人たちがバイクであちこちへ移動したり、百寿者が歩いて畑の手入れに行ったりするのは珍しくない。

 日本のほかの地域と比較すると、大宜味村では

▼緑黄色野菜を1日あたり3倍多く食べる。

▼豆類(大豆)を1.5倍多く食べる。

▼海藻や魚を多く食べる。

▼米の消費量が国内平均より少ない。

<シークヮーサーの威力>

・シークヮーサーは沖縄特産の柑橘類で、日本国内の生産トップが大宜味村だ。

・シークヮーサーに多く含まれる「ノビレチン」はフラボノイドの一種で、抗酸化力が高い。グレープフルーツ、オレンジ、レモンといった柑橘類はどれもノビレチンを含んでいるが、沖縄のシークヮーサーには、オレンジの40倍のノビレチンが含まれている。ノビレチンは、動脈硬化、がん、2型糖尿病、それに肥満の予防につながることが確認されている。ほかにも、ビタミンC、ビタミンB1、カロチン、各種ミネラルを含む。

<身体を軽く動かすことが長生きにつながる――健康長寿に役立つ東洋の体操いろいろ>

・ブルーゾーンで行われた調査によると、長生きしている人は、よくスポーツをする人ではなく、よく動いている人だという。

 世界一の長寿村である大宜味村を訪れたときも、80、90を超える人たちがとても活動的なことき気づいた。家にこもって窓から外を眺めたり、新聞を読んだりなどしていない。大宜味村の人たちはよく出歩くし、車でカラオケへ行ったり、早起きして朝ごはんを済ませると、すぐに畑に出て雑草とりをしたりしている。これといったスポーツをしているわけではないが、日々の用事でしょっちゅう動き回っているのだ。

 街中で暮らしていると、日常生活でごく自然に体を動かすのは難しいかもしれない。その場合は、健康にいいと何百年も前からわかっている体操の力を借りればいい。

・心身のバランスを目指す東洋のさまざまな体操は、いまや西洋でも大はやりだが、それぞれの発祥国では、数千年も前から健康づくりのために行われている。

 たとえば、ヨーガ、太極拳や気功などは、誠意、歓喜、平静さを持って人生に向き合えるよう、心身の調和を図ろうとするもの。

・なかでも太極拳には、骨粗鬆症を軽減する、パーキンソン病の進行を遅らせる、血の巡りをよくする、筋肉の柔軟性を高めて強化する、といった効果があることがわかっている。メンタル面の効果も見逃せない。日頃のストレスやふさぎ込みから身を守ってくれるからだ。

<席を立つ。たったこれだけ>

・「30分座っていると、メタボリズム(新陳代謝)の速度が約90%低下します。血中脂肪を筋肉へ運ぶ酵素のはたらきが不活発になるからです。2時間ずっと座りっぱなしでいると、血液中の善玉コレステロールが約20%減ります。しかし、席を5分立つだけで、すべてが元どおりになるのです。たったこれだけのことをしないなんて、愚かだと言っていいでしょう」。そう言い切るギャビン・ブラッドリーは、この分野の第一人者。座ってばかりいると体に悪い、と啓蒙する国際組織を率いている。

<ラジオ体操>

・日本で戦前からおこなわれている、朝の準備体操。名称に「ラジオ」とあるのは、体の動かし方をラジオ放送で説明していた当時の名残。

・大宜味村でインタビューお年寄りのほぼ全員に共通していたのも、朝のラジオ体操の習慣だった。訪問先の老人ホームでも、すでによぼよぼで車椅子に座っている人でさえ、5分間のラジオ体操を日課にしていた。

<ヨーガ>

・ヨーガは日本でも西洋でも普及しており、ほぼ万人向きといえる。体が不自由な人や妊婦用のヨーガまである。

<太極拳>

・太極拳は中国武術のひとつで、日本でも広くおこなわれている。当初あった流派は数百年前にさかのぼる。

<気功>

・「気」は生命エネルギー、「功」は活動のこと。したがってその目的は、身体の生命エネルギーを用いて活動することにある。気功は比較的新しく、この名称で呼ばれるようになったのもごく最近のことだが、気功術自体は、古くからある「導引術」に由来している。これは、心身の健康を改善する東洋の養生法だ。

<指圧>

・20世紀初め、関節炎の治療法として日本で生まれた指圧も、「気」を調整しようとするもの。親指や手の平で押すことで、圧をかけておこなう。ストレッチや呼吸法と組み合わせて、体の各部のバランス調整を目指す。

<レジリエンスと侘・寂――ストレスや不安で老け込まずに日々の課題や変化に対処する>

<レジリエンスとは>

・明確な「生きがい」がある人たちの共通点として、なにがあろうとそこに情熱を注ぎ続けることがあげられる。逆境にあろうが、障害だらけであろうが、決してあきらめない。なにがあっても奮闘し続ける。

 それが「レジリエンス」で、ここ数十年の間に心理学の分野でよくとりあげられるようになった概念だ。

 レジリエンスは、いついかなるときも粘り強く奮闘し続ける能力だけではない。この章でこれから見ていくように、培うことのできる姿勢でもある。

<感情のレジリエンスを追求したストア主義と仏教>

・ストア派が目指しているのは、キニク派のように人生のあらゆる感情や楽しみを排除することではなく、ネガティブな感情だけを排除することにある。

 仏教もストア派もその当初から、楽しみ・欲望・感情のコントロールを目指している。両者はかなり異なる哲学とはいえ、エゴ(自我)やネガティブな感情を抑える、という目的は同じだ。

 つきつめれば、どちらも「幸福を実践する」ための方法論と言える。

 ストア派によると、欲望や楽しみが問題なのではない。それに振り回されないかぎり、どちらも享受して構わない。ストア派は、自分の感情をコントロールできる人が徳の高い人だと考えていた。

<起こりうる最悪の事態を想定する>

・ストア派ではこうした欲望や野心を、追及するに値しないものとしている。徳の高い人が目指しているのは、心の平穏にいたること。つまり、不安、恐れ、苦悩、うぬぼれ、怒りといったネガティブな感情が一切なく、喜び、悲しみ、平穏、感謝といったポジティブな感情だけがある状態を指す。

 ストア派は、高潔な精神を維持するために、「ネガティブなことの視覚化」をおこなっていた。「起こりうる最悪の事態」を思い描くことで、ある種の特権や楽しみがなくなってしまう事態に備えておくのだ。

 ネガティブなことの視覚化には、ネガティブなできごとを思いめぐらせる必要があるが、心配はしない。

<ネガティブな感情に流されないための瞑想>

・ネガティブなことの視覚化や、ネガティブな感情に押し流されないようにするほかにも、ストア主義の基本には、「自分でコントロールできること、そうでないことを自覚する」というのがある。

<「いまこのとき」と、諸行無常>

・どの時間を生きるべきかを知ることも、レジリエンスを培うカギのひとつ。仏教もストア派も、私たちがコントロールできるのはいまこのときだけなのだと伝えてくれている。過去や未来を思い煩うのではなく、いまこのときのものごとを、あるがままに受け止めるのだ。

<「侘(わび)・寂(さび)」と「一期一会」>

・「侘・寂」は日本の概念のひとつで、わたしたちの取り巻くすべてにおける、はかなく移ろいやすい、不完全な自然の美しさを教えるもの。完全なものに美を見出そうとする。

 まん中にひびが入った、いびつな形の茶碗を日本人が愛でるのも、これが理由だ。

・「一期一会」はこれを補う概念と言えそうだ。「この瞬間はいましかなく、二度と繰り返すことがない」と意味になるのだろうか。

・この「一期一会」の概念は、茶道、禅の瞑想、日本武道でよく用いられる。こうした芸道はすべて、「いまこのとき」を特徴としている。

<レジリエンスを超えた「抗脆弱性」>

・ヘラクレスの伝説によると、レルネーのヒュドラと初めて戦ったとき、ヒュドラの首をひとつ切り落とすと別の首がふたつ生えてくるのを見て、絶望的になったという。ダメージを受けるたびにもっと強くなるのなら、ヒュドラを倒すのは不可能だからだ。

・タレブは、レルネーのヒュドラが持つ力、つまり、打撃を受けてより強くなるものを指すことばとして、「アンチフラジリティ(抗脆弱性)」を提唱した。

 この造語の裏には、ニーチェの有名な格言がありそうだ。「殺されないかぎり、強くしてくれる」

 大災害や非常事態が、抗脆弱性を具体的に説明できるいい例だ。

・では、この「抗脆弱性」の概念を日常生活にどう当てはめたらいいかを見ていこう。どうすれば自分の抗脆弱性を高められるのだろうか。

ステップ1 生活にゆとりをもたせる

 収入源を給料だけに頼るのではなく、趣味やほかの仕事で稼ぐ方法を探す。自分でビジネスを立ち上げるのも手だ。給料だけだと、会社になにか問題があったり、経営がうまくいかなかったりした場合、何もかも失い、「脆弱」な立場に立たされることになる。

・大宜味村でインタビューした高齢者全員が、主な仕事のほかに別の仕事もしていた。たいてい畑があり、そこで作った野菜を地元の市場で売り、小遣い稼ぎをしていた。

 これと同じことを、友人関係や趣味などにも当てはめられるはず。英語のことわざで言えば、「すべての卵をひとつの籠に盛るな」ということだ。

ステップ2 あるところでは守りに入り、ほかのところでは小さなリスクをとる

 これはお金で説明するとわかりやすい。1万ユーロの貯金があり、そのうち9千ユーロを投資信託か定期預金にし、残りの千ユーロを、成長性の高いベンチャー企業10社に投資するとする。1社に百ユーロずつの投資だ。

・抗脆弱性を身につけるコツは、大きな利を得られる可能性があるなら小さなリスクをとり、大打撃になりうる大きなリスクには身をさらないないこと。たとえば、不特定多数に宣伝しているような怪しげなファンドに1万ユーロを投資するのはリスクが大きい。

ステップ3 自分を弱くするものを排除する

・これは消去法を用いる。次のように自問してみよう。「自分を弱く」するものは何だろう。自分を害し、脆弱化させる、モノ・人・習慣があるはずだ。それは何か。

・例をあげよう。

▼間食をやめる。

▼ケーキを食べるのは週に一度だけとする。

▼借金を徐々になくす。

▼心に毒を持つ人たちと一緒にいないようにする。

▼しなければならないという理由だけで、したくないことに時間を費やさない。

▼フェイスブックは1日20分まで。

・要するに、打撃を受けること、不運ととらえるか、「いい経験」ととらえるかだ。後者なら、生活のあらゆる面に当てはめて、たえず軌道修正しながら、より大きな目標を自分に課すことができる。

「侘・寂」のことばどおり、人生は不完全そのものであり、時の流れは諸行無常を示している。それでも、はっきりした「生きがい」があれば、どの瞬間にも多くの可能性があり、永遠とも言えるのだ。

<人生を楽しむコツ、「生きがい」>

・相田みつおは20世紀の日本を代表する書家、詩人。非常にはっきりした「生きがい」に人生を捧げたひとりだ。その生きがいとは、思いを短い詩文にし、書にして伝えること。

 その詩の多くが、「いまこのとき」の大切さや、時の流れについて思索したものだ。たとえば、次のような詩がある。

いま ここにしかない

わたしの いのち

あなたの いのち

・自分の「生きがい」を見つけたら、日々それに従い、育てていくことが重要になる。自分の人生に意味を持たせるためだ。

<「生きがい」十戒>

・大宜味村の高齢者たちの知恵をまとめた「十戒」で、この本をしめくくろう。

1 すっかり隠退してしまわず、常に活動的でいる。

2 穏やかに生活する。

3 満腹になるまで食べない。

4 よき友人に囲まれる。

5 次の誕生日までに体調を整える。

6 微笑む。

7 自然に還る。

8 感謝する。

9 「いまこのとき」を生きる。

10 自分の「生きがい」に従う。

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