中国の歴史法則からすると、経済の自滅によって滅びる可能性が高い。 だいたい、旧ソ連にしても、アメリカとの軍拡競争の果てに経済破綻して自滅しました。(1)

(2022/4/12)

『中国敗戦』  

米中新冷戦の真実と結末 もう中国は死んでいる!

ついでに韓国も終わる!世界は無法な「中華思想国」を潰すと決めた

石平、黄文雄    徳間書店 2019/8/30

<米中対立は「中華思想」と「近代文明」の戦い  石平>

・アメリカの中国に対する制裁関税が始まった2018年7月から、米中の対立は日ごと激化している。

 2019年8月初旬、トランプ政権は中国からの輸入品3000億ドルに10%の制裁関税を課すことを決定し、中国を「為替操作国」に認定した。

・中国の為替操作国認定もそうだが、日本が韓国を「ホワイト国」から除外したことなどは、日本の戦後脱却の一環でもある。

・経済問題にしろ、南シナ海や尖閣諸島などの領有権問題にしろ、「自分たちこそ絶対に正しい。だから他人がつくったWTOルールや国際法など無視、ルールは俺たちがつくる」というのが中国の姿勢である。こう考える背景には中華思想がある。

・現在の米中対立、ヨーロッパにも広がる中国への警戒感、そして日本と韓国の対立には、こうした「中華思想」的な国家との対決という側面があるわけだ。そう考えれば、米中貿易戦争が単なる経済戦争ではないことが見えてくる。

<アメリカはどこまで中国を潰すのか>

<アメリカは決して中国に妥協しない>

石平;2018年の夏から始まったアメリカによる対中貿易戦争は、米中両国が何度も交渉を重ねるなかで、一時的に楽観的観測が広がると思ったところに、「中国が約束を守らない」ということでアメリカの追加制裁が発表され、再び楽観ムードが広がるということを繰り返してきました。それが意味することは何なのか。

・このように、米中貿易戦争は、楽観と悲観を繰り返しながら、方向としては、完全に中国を叩いていく、潰していく方向に向かっていると思いますが、どうでしょうか。

黄文雄;まず一つには、アメリカには中国に裏切られつづけてきたという、強烈な不満があるということです。

・このことについても後々ふれていきますが、だから米中の対立は、さらに厳しくなっていくことはあっても、決して安易に妥結するということはありえないと思います。

石平;アメリカはまったく中国への追及の手を緩めていない。しかも、「為替操作国」に認定したということは、「早く為替を自由化しろ」という圧力でもあります。

・IMFも人民元の早期自由化を求めていましたが、実際には中国当局は相場を管理して、対ドルレートを1日あたり基準値の2%の変動しか認めてこなかったわけです。

黄文雄;為替の自由化、資本移動の自由化というのは、じつは中国の政治体制を大きく変えてしまう可能性があります。

・とはいえ、もしも為替の自由化や資本移動の自由化を認めてしまうと、中国は現在の共産党一党独裁体制が崩壊する可能性が高い。

・アメリカが求めるものを中国は決して受け入れられないのです。だから、米中貿易戦争は単なる経済摩擦ではなく、中国という国家が潰れるかどうかを賭けた戦いなのです。

<対中戦争を仕掛けるための米朝首脳会談>

石平;本来、中国が関税戦争に勝つ見込みはまったくない。アメリカが中国から輸入している額は約5500億ドルで、この全額に追加関税をかけることができますが、中国がアメリカから輸入している額はせいぜい1300億ドルですから、関税競争に勝てるはずがないのです。もっているカードは、トランプのほうが何倍も多い。

石平;しかも、第3弾が発動されて中国国内では、輸出向けの企業が倒産したり、中国から出ていく外資企業が加速したり………外資企業が中国でものをつくってアメリカに輸出すると同じように制裁関税をかけられるから、みんな制裁関税のない国へ逃げていくわけです。

<アメリカを裏切った中国>

黄文雄;一説によると、やはり「為替の自由化」と「資本移動の自由化」を中国側はどうしても飲めなかったといわれています。

 中国では中国共産党の指導は絶対無謬のものとされています。中国の憲法にも、すべてにおいて中国共産党の指導が優先すると書かれている。そのため、経済を自分たちでコントロールできることが、共産党の正当性につながるわけです。

・民主主義国家であれば、政府の経済政策に不満が募れば、政権交代というかたちで国民の意志を反映させられます。しかし独裁国家では、国民の不満を政治に反映させるには革命によって政権を転覆させるしか方法がありません。

 それを避けるには、旧ソ連のように民主化するか、あるいは独裁体制をもっと強めて民衆の不満を力で押さえるしかないのですが、現在の習近平政権は後者の道を歩んでいます。

 中国の経済自由化は、共産党一党独裁の終焉を意味することであり、習近平にとって絶対に飲めないものなのです。

<中国で巻き起こった「投降派」批判>

石平;中国国内では、2019年5月、6月にかけて、アメリカに妥協すべきとする派と、徹底抗戦を叫ぶ派に分かれました。

 一時は、「人民日報」が毎日、妥協しようという勢力を「投降派」と評して批判していました。

黄文雄;「投降派」というのは、「売国奴」といった意味です。

<米中貿易戦争はすでに勝負がついている>

黄文雄;米中貿易戦争の本質的な問題は力の差なんです。

 中国がWTOに加盟する以前から、アメリカが中国への最恵国待遇をやめれば、それで中国の改革開放は終わりだという見方がありました。

・日本や中国の世論でも、米中貿易戦争は長期戦になると予測されていますが、実際は中国には長期戦が不可能なのです。通商国家に変化した中国は、すでに過去の社会主義の仕組みから変わっている。というか、変わらなければ通商国家ではありつづけられない。私はもう勝負がついたと思っています。

石平;中国のWTO加盟時から現在まで、アメリカは20年近く、ずっと中国に対して大いなる誤算があった。

 中国を世界市場に引き入れて近代化させれば、中国国内で中産階級が大きく育ち、穏やかな民主主義国家に向かうだろう、中国も国際市場のルールを守るようになるだろう、そう期待したのですね。

 しかし、アメリカのこの期待は完全に裏切られて、国内で経済が繁栄すればするほど共産党の統治や民衆弾圧が厳しくなって、独裁化が進んでしまった。

・アメリカは、中国はアメリカからお金を稼ぎながら、それを軍資金に使ってアメリカを潰そうとしていることに気づいた。アメリカが苦労してつくったこの世界の、いわゆるフェアな貿易のルールを中国は潰そうとしている。

 要するに、中国は世界貿易のルールを悪用してお金を稼いで、そして世界一の外貨準備高をもつ。この世界一の外貨準備高を「一帯一路」に使って、いろんな発展途上国を子分のように集めてきて、アメリカを頂点とした世界秩序に挑戦する。あるいは、あちこちに植民地を広げていく。

黄文雄;中国はこれに反発している。まだ「中国は発展途上国だ」と言い張って、優遇措置を受けようとしている。しかし、これは「いいとこ取り」で、不公正のそしりを逃れられません。

石平;要するに、中国は強くなったといっても、「張子の虎」なのです。

<米中衝突で破綻が迫る中国経済のヤバイ実態>

<中国が抱える9700兆円という巨額の債務爆弾>

石平;2018年5月に出された中国政府の数字として、全国の国有企業の負債総額だけで108兆元、日本円にして1795兆円に達しています。1795兆円といえば、日本のGDPの3倍以上です。

 2018年の中国のGDPは約90兆円でしたから、国有企業の借金だけで一国の国内総生産を上まわっている。極端にいえば、2018年1年間で、中国国民が頑張ってつくった経済価値が国有企業の負債返済にも足りないという話です。

 加えて、民間負債も膨れ上がっている。

・2019年1月下旬、中国国内の各メディアは香港上海銀行(HSBC)が行った経済調査の数字を大々的に報じました。それによると、いまの中国では、20代の若者たちが抱える個人負債額は1人当たり12万元で、この世代の平均月給の18倍強に相当する。「12万元」となると、日本円にして約200万円。現時点での中国国民と日本人との平均収入の格差を考慮に入れれば、「負債額12万元」は、日本での感覚でいえば、20代そこそこの若者たちが平均して「500万~600万円の借金」を抱えていることになります。

 中国の20代が抱える負債の多くは民間の消費者金融からの借金です。

黄文雄;中国の家計債務が急拡大していることは、世界のリスクとして認識されるようになってきました。

・また、中国では民間企業は相互債務保証をしています。銀行は国営企業ばかりに貸し込み、民間企業への融資には及び腰だからです。

 そのため、いったん債務不履行が起こると、次々と連鎖していく。

石平;中国ではすべてが借金で賄われている。中国高速鉄道にしても、85兆円もの債務を抱えているといわれています。つくりすぎで、ほとんどが赤字路線なのです。

・2019年1月20日、中国人民大学教授の向松祚氏は上海で行った講演で、中国国内で各方面の抱える負債総額は「約600兆元(約9700兆円)に達している」と語りました。これは、中国の名目GDPの6倍以上という、天文学的な数字です。

 向松祚氏は前年12月の人民大学の学内シンポジウムで「重要研究機関の内部調査によると、2018年の中国の成長率は1.67%だが、別の試算ではマイナス成長だ」と披露したことでも注目を集めましたが、そんな低成長率の中国が、それほどの負債を抱えていることになる。

 日本円で9700兆円ということは、もう少しで1京円ということです。これは、中国経済を脅かす時限爆弾となってくるでしょう。

黄文雄;中国当局は1ドル=7元を壁として、それ以上の人民元安を警戒しています。しかし中国経済の減速、不良債権の増大などで人民元の暴落が起こる可能性も否定できない。

 中国のアメリカ国債保有高は約1兆2000億ドルですが、米中貿易戦争によって貿易黒字が減少すれば、このアメリカ国債の保有高も細っていく。そうなると、一気に人民元の下落に対処できずに、資金流出が加速する可能性が高いわけです。

<5000万戸が空室>

石平;バブルが弾ける懸念があるのが、不動産です。

 中国国内の不動産時価総額は65兆ドル(約7310兆円)で、これはアメリカ、EU,日本のGDPをすべて合わせた約60兆ドルをも超えている額です。

・投資用に購入されたマンションの空き室が5000万戸にも達しているといいます。北京・上海の不動産価格は、ニューヨークや東京も超えています。しかも誰もが借金をして投資用に2軒目、3軒目を買っている。

・売れなくなると開発業者は大量の在庫を抱えるので、そうすると資金繰りが苦しくなる。そうなると、みんな大量に投げ売りすることになります。

黄文雄;2019年上半期では、国内31の省・市のうち、19の省・市の不動産投資伸び率が鈍化し、300社近い不動産中小企業が破産したとも報じられています。

石平;消費も落ち込みつつありますね。米中貿易戦争による景気の減速で内需不足が起こりつつある。

 たとえば、自動車販売台数は2018年7月から11カ月連続で前年実績割れが続いています。

・米中貿易戦争がいつまで続くか、また負債問題がいつ爆発するか。それが現在の中国が抱える最大のリスクでしょう。

黄文雄;いずれにせよ、海外に資本を移動できなくなったことで、マネーが国内不動産への投資に向き、中国の不動産バブルを維持してきたという側面があることは間違いない。

 中国の不動産ですが、上海でもその75%が不良建築だといわれています。ということは、不動産バブルが弾けたら、まったく資産価値がなくなるということです。

石平;中国のバブル崩壊の規模は、日本のバブル崩壊やリーマンショックの比ではないわけですね。前述したように、中国国内の債務は9700兆円という途方もない額です。場合によっては、これがすべて不良債権になる。

 そんなことになったら、中国経済30年間の成果が一瞬で吹き飛ぶことになる。

黄文雄;私は数回アルゼンチンに行ったことがありますが、中国は将来、第2のアルゼンチンになるんじゃないかと思っています。

<いまだに経済の水増しは止まらない>

石平;中国経済はバブルだといわれますが、それ以前に、実態の水増しをずっと続けてきたわけです。

 アメリカのブルッキングズ研究所が2019年3月7日に発表した報告書では、中国政府はここ10年近く、GDP成長率を平均2%水増ししてきた可能性があるとしています。

黄文雄;中国では地方政府のGDP合計が中央政府発表のGDPと大きく乖離していることも有名ですね。

・前述のように、習近平は水増しをやめるように指示していますが、その一方で2020年のGDPを2010年の2倍にすると公約しています。習近平の独裁体制が進むなか、これが達成できなければ、それは担当者の責任となる。だから、どうしても水増しが増えていくのではないかと思います。

<「中国人は100年単位で考える」の嘘>

石平;では、中国のバブルが終わったら何が残るのか。国際市場を席巻したファーウェイがアメリカに潰され、国内の不動産バブルが崩壊したら、もう何も残らない。そもそもファーウェイの技術は自分たちが開発したものではないですしね。

黄文雄;中国の知識人にしても、だいたいこの30年くらいの時間しか見ないし語らない。たしかに、中国の経済成長率は長い間10%以上でしたし、改革開放前に比べると中国の経済規模は300倍近く成長したという数字もある。しかし、そこしか見ないから、20世紀がどういう時代だったかといった、俯瞰した視点に欠けているんですよ。

・よく「中国は100年単位でものごとを考えている」という論がありますよね。100年後、200年後のことを考えて策を練っていると。私は、これは中国を過大評価しすぎだと思っています。

 だいたい。中国は20~30年ごとに大乱が起こっている。中華人民共和国にしても、成立してまだ70年です。その間に大躍進政策、文化大革命、天安門事件など、国内に大混乱をもたらした事態が何度も起こっていますし、現在は香港での大規模デモですね。

 しかも、天安門事件については現在でも公に語ることはタブーとなっている。

黄文雄;どんなに長く続いた王朝でも300年はもたなかった。漢は前漢と後漢あわせて402年ですが、途中で王莽によって王朝を簒奪されています。しかも、漢王朝の崩壊を最後に漢人は天下散り散りになり、やがて根絶したともいわれています。

 漢人王朝ともされる明は約280年続きましたが、中国歴史上、もっとも過酷で悲惨な時代でした。

石平;中国史は、新しい王朝が生まれると、やがて必ず内部腐敗と権力闘争が起こり、それが全土を巻き込んで権力と富の争奪による経済疲弊を招き、各地で飢饉や大災害が頻発し、そして大規模な農民の反乱で天下が大いに乱れて王朝が滅亡する、ということが繰り返されてきました。

 結局、経済の自滅によって王朝が滅んできたわけです。現在は世界を舞台に、中国は天下の権力と富を争奪しようとしている。

 しかし、中国の歴史法則からすると、経済の自滅によって滅びる可能性が高い。

 だいたい、旧ソ連にしても、アメリカとの軍拡競争の果てに経済破綻して自滅しました。決して、直接的にアメリカが戦争して勝利したわけではない。

 今回の米中貿易戦争も、中国は「最後までお付き合いする」などと強気でしたが、結局、弱体化した中国経済に追い打ちをかけ、自滅を加速化させると思います。

<短期的な金儲けしか考えない世俗性>

石平;とくに現在の中国人が近視眼的なのは、この数十年間の改革開放のなかで、一部のエリートも、あるいは経営者たち、そして一般民衆たちも、みんな数十年のスパンで将来を見据えて考えるのではなく、いまこの時の一攫千金を狙ってやってきたということが大きいですよ。

黄文雄;それは現在だけのことではなくて、中国人というのはそもそもきわめて世俗的な民族なのです。儒教は昔を尊ぶ尚古主義で先祖崇拝ですから、家族主義となります。だから家族だけが大切で他人はむしろ敵となる。

 道教は不老長寿の仙人になることを理想としますし、道観(道教の寺)では財神爺が祀られ、「恭喜発財」(お金持ちになる)ことを祈り、ともかく現世利益ばかりに固執する。

石平;中国人経営の中華料理店では、とにかく商運・金運を招くための金ヒカのグッズや壁かけがよく飾られています。

・いずれにせよ、金儲けに固執するという中国人の性格は、経済数値にもよく表れています。

 たとえば、毎月発表される、各商業銀行からの融資内訳を見ると、新規融資として産業に流れているのはおよそ4割未満です。大半は非生産部門の個人に流れている。

・そのような国で企業融資がまったく伸びずに、不動産投資のための融資ばかりが膨らんでいる。生産活動ではなく、やはり一攫千金を狙った融資ばかりが膨らんでいるわけです。

・そういう意味で、中国の金融も産業も完全に異常事態になっているといえます。そのような経済が長く続くはずがありません。

黄文雄;それでもまだ、中国経済の発展に希望を抱いている日本人経営者や学者も少なくないですね。中国が発表した数字にすぐ飛びついて、その本質をあまり見ていない人が少なくない。

<邪道で成長してきた経済が弾けたら何も残らない>

石平;そういう意味では、中国経済そのものが、王道ではなく邪道です。

 日本はかつてのバブル期に、株や不動産投資という邪道に少し走りましたが、少なくとも高度成長時代には産業育成による経済成長という王道を歩いたわけです。企業が生産を拡大し、それで給料を上げる。給料が上がると消費が拡大する。三種の神器が揃う。

 みんなが消費すると、企業がさらに生産活動を拡大する。そして、日本の企業は技術開発も熱心に行い、品質レベルを上げて世界市場でも競争できるようになった。1970年代には日本車の輸出台数が世界一になった。そうやって日本経済は健全に成長し、技術立国となったわけです。少なくともバブル期以前は、そして、現在もそのときの記憶と蓄積がある。

 しかし、中国経済は最初からバブルです。意図的に土地バブルを起こし、それを維持させてきた。

黄文雄;その背景には、地方政府が財政のほとんどを土地譲渡収入に頼ってきたからです。2010年には、地方歳入の72%を土地譲渡収入が占めています。中国では土地の個人所有ができず、すべて国有です。

石平;だから、不動産バブルが弾け、ファーウェイが潰れたら、中国にはもう何も残らないわけです。あとに残るのはコンクリートの塊だけ。現在は、不動産に価値があるという「共同幻想」で、上海のマンションが東京やニューヨークより高いというようになっていますが、その共同幻想が崩れれば、もう中国経済は潰れるしかない。

<「ホワイト国」除外に狂乱した韓国に見る中華思想の病理>

石平;しかし、アジアで「ホワイト国」だったのは韓国だけで、ほかのアジア諸国は違うわけです。ヨーロッパも韓国をホワイト国にしていない。ホワイト国から除外されたとしても、貿易上の手続きがこれまでより少し煩雑になるかもしれないくらいで、他国同様の手順を踏めばいいだけでしょう。

<「盗み」を正当化するのが中華思想>

石平;悪いのは相手で、自分は絶対に悪くないと考えるのが中華思想ですから、まさにその性質がはっきり出ましたね。

 中国人にしろ韓国人にしろ、もちろん頭のいい人はいるのですが、どうも王道ではなくて邪道に進むのですよね。韓国にしても、大統領ですら日本を「盗っ人猛々しい」と口汚く罵るだけで、内省もなければ今後のビジョンも示せない。韓国のメディアにしても、ほかの政治家にしても、ヒステリックに日本批判するだけ。

<習近平政権の経済対策は「国民監視」>

石平;これから中国経済がますます低迷していけば、失業が拡大しますが、これに対して習近平政権はどう対応するか。

 現在、中国で起こっているいちばんすごいことは、もっとも野蛮的な独裁体制がもっとも先端の技術を使って、完璧な社会監視システムをつくり上げようとしていることです。

 中国全土には2億台の監視カメラが配置されているといわれています。

<中国で復活しつつある密告制度>

黄文雄;習近平自身も、父親が文化大革命で失脚して拘束・迫害されていますから、密告制度についてはよく知っている。

 中国では、国営企業内に共産党の支部を設置することが義務づけられていますが、習近平時代になってからは、民間企業、さらには外資系企業にも共産党支部の設置を求める動きが活発化しています。これも監視体制の強化でしょう。

石平;そうです。現在の中国ではAIによる監視体制ばかりではなく、北京や上海では居民委員会のような機能が復活しています。

 小学校でも教師が子供たちに、自分の家族や親戚に反共産党の行為があるかどうかを報告するように教えている。

 また、教師も学生たちに監視されています。

・学生のなかに共産党のスパイがいて、教師が共産党にとって不都合な発言をすると、すぐに共産党委員会に密告するわけです。そうなると教師は解雇され職務を解かれる。そういうことが何件も起こっています。

黄文雄;これも中国に限らず、台湾も同じです。たとえば、私が高校生のときは、「軍訓」(軍事訓練)という科目と家でやる宿題の「週記」がありました。「週記」とは1週間の感想を書く記録ですが、これも監視されているんですよ。最初、われわれは何も知らなかったから、感想を書いているだけですが、みんな思想チェックのための資料とされていたのです。

 それで卒業のときにみんな集められて、思想総チェックのため正座させられるんですね。

黄文雄;凶悪犯罪を減らすために、もっと死刑を増やせという意見も中国には多いですね。死刑にしないと、国民が怖がらないからということです。恐怖政治を求めている中国人も少なくない。

<自分以外に無関心な中国人の悲劇>

石平;そうですね。私も、別の対談本で同じような話をしました。

 毛沢東時代、建国記念日やメーデー、共産党記念日などの前日は、だいたいどこの街も何十人かの公開処刑が行われました。一種の前夜祭です。10月の国慶節の前になると公安が忙しくなるのですが、前夜祭の公開処刑のための死刑囚をかき集めなくてはならなかったからです。

・しかし、習近平は鄧小平のやり方をやめて、完全に毛沢東時代に戻してしまった。失脚した共産党幹部のほとんどは刑務所に入れられています。そうなると、自分も失脚したとき刑務所に入れられる可能性がある。だからますます権力にしがみつく。しがみつくために国民全体を監視する。

 現在、中国では人権派弁護士がどんどん逮捕されていますが、国民の大半は自分の身に災いが降ってきたわけではないから無反応です。しかし、人権派弁護士がみんな刑務所に送られれば、普通の人々の人権を守ってくれる人がいなくなる。気がついたら、一般中国人はすべてを失う。

 残念ながら中国の歴史は、つねにそういうことを繰り返してきました。

<経済衰退とともに強まる人権弾圧>

石平;国際的にはそうかもしれませんが、国内的には経済が衰退すればするほど、監視体制が強化されていくでしょうね。

 先ほど、企業内に共産党支部を強制的につくる圧力が高まっているという話がありましたが、共産党組織はがん細胞みたいなもので、気がついたら、企業は共産党組織に乗っ取られてしまう。

 企業は共産党に乗っ取られて支配される。個人はプライベートを監視され支配される。いまはまだ中国国民が海外に出る自由があるけれど、いずれこの自由は奪われるでしょう。

黄文雄;大躍進政策では数千万人が餓死したとされていますし、文化大革命の犠牲者も百万から千万人単位でしょう。みんな極貧でしたが、中国が潰れるとか、共産党が潰れるといった危機感はなかった。社会は見事にコントロールされていました。習近平もそれを目指しているのでしょう。

黄文雄;しかし、近代軍というのは、カネがないと維持できない。アメリカによってカネの道が絶たれると、軍も崩壊するでしょう。中国は公安費が軍事費以上にかかっている。この公安と軍と監視システムを維持できなくなったら終わりかもしれない。

 もう一つ、私は、中国の崩壊というのは、パンデミックによって実現するかもしれないと思っています。宋と元はペスト、明はコレラによって滅んだという側面があるからです。

 中国大陸は疫病の発生地であり、近現代史から見ると、数年前にはSARS、現在は豚コレラが大流行しています。だから、伝染病が流行るときに、この国は滅びるのではないかと思っているのです。

<無法な「中華思想国」を排除しはじめた世界>

<「一帯一路」はもう終わっている>

黄文雄;ただし、そうやって建設作業員も資材も中国からもちこみますから、現地の雇用につながらないし、地元民からすると、単に環境破壊をしているようにしか見えないため、非常に評判が悪い。

 中華の国の人々は建前と本音が異なり、立場によって必ず別の目的を隠しています。多くの中国人は、党幹部や政府高官にとっての「一帯一路」最大の目的は賄賂と私腹を肥やすことだと考えているのです。キャピタルフライト(資本逃避)のためだと見る人も少なくありません。

石平;2019年6月18日に世界銀行が「一帯一路」に関する報告書を発表しましたが、そこには「一帯一路」が透明性に欠けており、かかわった12ヵ国が中期的に対外債務の返済負担増で苦しむことになるという見通しが述べられていました。

<中国のインフラ整備に高まる不満、信頼される日本>

石平;中国の融資はサラ金なみの高金利で、しかも最初は安値でインフラ整備プロジェクトを落札しても、さまざまな費用が後から乗っかってきたり、工期が守れなかったりということで、挫折することも多い。

 そこでやはり頼れるのは日本だということで、東南アジアのインフラ整備では日本の存在感が非常に高まっています。

<中国人はシルクロードの担い手ではなかった>

黄文雄;中国人は時間にルーズだし、途中で約束を反故にしたりしますからね。中華思想という優越意識をもっているから、現地住民と衝突することも少なくない。

 「一帯一路」はかつてのシルクロードを復活させて、ヒト・モノ・カネの東西交流を活発化させるというのが基本コンセプトですが、そもそも論でいえば、中国人はシルクロードの担い手になった歴史はないのです。

 陸のシルクロードの担い手はペルシア系のソグド人でした。

黄文雄;先ほどから出ている「債務の罠」への警戒感があるからです。中国はAIIBの25%以上の議決権をもっているため、重要議案での事実上の拒否権をもっています。

 しかもAIIBの総裁は中国人で本部も北京にあり、運営や意思決定プロセスが不透明。中国が恣意的に運用することが簡単にできてしまいます。だから、日本もアメリカも参加していないのです。

<EUに魔の手を伸ばす中国>

石平;それでも、EU内で警戒感が広がりつつあるのはいいことでしょう。数年前まで、習近平がヨーロッパを歴訪した際、どの国も諸手を挙げて歓迎していましたから。

<世界分裂を歓迎する習近平の本性>

石平;なるほど、ただ、習近平はEUを分断しようとしている。というよりもEUの亀裂に乗じて「一帯一路」への参加国を増やそうとしている。EUが一致団結して、アメリカのように中国と対立するようなことは困る。イタリアを取り込んだのは、EUの団結にくさびを打ち込む目的もあるわけです。

<日本はしがみつく中国にどう対処していくか>

<日米両国が台湾を国家承認する日>

石平;アメリカと相談して日米両国が揃って台湾を承認し、外交関係を回復するというのも、中国に対する強烈なメッセージになるでしょうね。

 もう一度、台湾を国家として認めて、台湾と正式な外交関係を結び、そして国交回復する。

黄文雄;もしも中国が武力によって台湾統一をしようとしても、日本は出てこないでしょう。

石平;もちろん台湾統一において、最大の問題はアメリカがどう出るかということです。もし万が一、アメリカが出なかったら台湾はどうなるか。台湾はもちこたえられるのか。

 中国は大国ですから、長期戦になれば、台湾はもちこたえられないのではないですか。

<アジアでは日本主導の中国包囲網を構築せよ>

黄文雄;結局は国際問題が絡んできて、中国がいくら国内問題だと主張しても、アメリカがどう反応するか、アジア、ヨーロッパ、インドやロシアがどう反応するか、中国も考えざるをえないと思いますよ。

石平;そういう意味で日本は、中国とある程度安定した関係をつくることは悪いことではないですが、アメリカやこれらの国々と協力しながら、日本がリードしてアジアにおける対中包囲網を本気で構築していくべきです。

<日本の保守派と親中派で共通する反米感情>

黄文雄;ただ、日本の保守派もリベラルも、反米感情が結構強いですよね。反米姿勢を丸出しにしながら、安全保障ではアメリカにおんぶに抱っこしている。

 中国がいつ攻めてくるかわからない状況を過ごしてきた台湾人にとって、どうも日本の言論人や活動家は浮世離れしている感が否めません。

 アメリカと日本の関係が切れたら、日本は自主防衛せざるをえなくなりますが、どのように自分の身を守るかということは、あまり論じない。

 保守派もリベラルも、日本を守る気がまったくない。

<日本のリベラルが抱える闇と欺瞞>

・中国はものすごい賄賂社会だということも見えてきた。文革時代、朝日新聞をはじめ多くの日本の新聞、あるいは進歩的文化人が中国を賛美していました。それが間違いだったことは文革終結後にわかった。

 大いに反省したかと思いきや、親中派の人たちは、それでも中国を批判しない。そのかわり、相変わらず日本を叩いています。

<もっと習近平を暴走させて自滅に追い込め!>

黄文雄;とはいえ、全体から見れば、日本は大きく変わりつつあります。韓国を「ホワイト国」から除外したのも、その変化のあらわれではないでしょうか。毅然と韓国との対決姿勢を示したのは、戦後はじめてといっていい。

 日本が変わりはじめてきっかけとなったのが、2015年8月に発表された安倍首相の「戦後70年談話」ではないかと思います。先の戦争を人類全体の問題として、中国や韓国に謝罪しなかった。あれが一つのきっかけだったと思うのです。

石平;たしかに、韓国の「ホワイト国」除外は衝撃的でした。

黄文雄;まさに令和の「脱亜論」ですよね。日本人の多くが、韓国とはもう絶縁、断交したほうがいいと思っている。経済産業省が募集した韓国の「ホワイト国」除外に関するパブリックコメントも、98%以上が賛成でした。

 

石平;戦略的、地政学的に考えて、韓国は切り捨て、中国とほほどほどの関係を保って、そのかわりほかのアジアの国々とうまく連携すべきですよ。インドネシア、ベトナム、台湾、フィリピン、インド、ニュージーランド、オーストラリアなど、このあたりの国々と今後、連携して中国包囲網を築くのがいちばん正しい。

黄文雄;私は前にも述べましたが、習近平をもっと焚きつけて、彼の野望を実現させてやるというのがいいのではないかと思います。

 習近平が掲げる「中華民族の偉大なる復興」「中国の夢」というのは、「人類の夢」とは逆行するものです。習近平の考える「中華民族復興」をもっとやらせる。すると必ず「人類の夢」と衝突する。

石平;習近平に好きにやらせて、彼らの本性をもっとむき出しにしてもらい、「習近平の夢」がどれほど恐ろしいものかということを、世界に認識させるわけですよね。彼らのとっての夢は、われわれにとって悪夢です。

黄文雄;だから、中国を封じ込めるというよりも、むしろ、もっと暴走させて自滅させたほうがいい。おそらく、中国共産党も薄々わかっているのだと思いますよ。習近平がいずれ自滅することを。だから習近平への権力集中も、彼の神格化も許しているのではないでしょうか。「責任はすべて習近平にある」とするために。

石平;そういう意味では、習近平さんにもう少し頑張ってもらいたい。それが本書の結論ですね。

<世界の未来を決する最大にして最後の戦い 黄文雄>

・石平氏と中国問題を論じ合うシリーズも、本書で7冊目となる。

 今回は2018年7月から始まり、現在もなお世界に大きな影響を与えつづけている米中貿易戦争の意味とその行方について語り合った。

 本書でも述べたように、米中対立は民主主義や人権主義といった近代文明と、独裁体制かつ人権無視の前近代的野蛮との戦いであり、世界の文明史における大転換点となると、私は見ている。

・アメリカは中国の人権問題にも介入する動きを示しているわけだ。ペンス副大統領やポンペオ国務長官などは、以前から中国のウイグル弾圧を問題視しており、また、アメリカ議会も中国の人権問題を明確に批判している。

・このように、世界は中国に対して、きわめて厳しい目を向けつつある。一方、日本は相変わらず中国への幻想をもっているためか、政界にしても財界にしても、香港デモやウイグル問題、さらには台湾問題についても、ほとんど中国への批判の声があがらない。

 そのことが、長年日本に暮らす私としては、不満と懸念が募る点だ。すでに反日韓国が日本にとって無益どころか有害な存在になっている現在、日本はアメリカのように台湾の連携をもっと深化させるべきではないだろうか。

 

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