現在のロシアがウクライナに執着するのは、そもそもロシアという国家がウクライナから始まったためとも考えられます。ウクライナは、エネルギー戦略と海軍のために、絶対にゆずれない。(1)
(2022/4/28)
『図解でわかる14歳からの地政学』
鍛冶俊樹・監修 インフォビジュアル研究所・著
太田出版 2019/8/24
<地政学 Geopolitics=地理学+政治学>
<「引っ越しのできない隣人同士」が共存するための理想と理性の地政学は可能だろうか>
・例えば、日本と中国の関係は、しばしば「引っ越しのできない隣人同士」と形容されます。ずっと土地の境界を巡って争いが絶えず、先祖代々仲が悪い。かといって引っ越すわけにもいかず、これからもずっと隣同士で暮らさなければならない。この絶対的な地理的条件の中で、我が家は隣との関係をどうするか。これを考えるのが典型的な地政学の課題です。
・狭いヨーロッパをナチス・ドイツが席巻した時は「帝国の生存圏」という地政学的概念が他国への軍事侵略を正当化しました。同様に日本がアジアに進出した時には「大東亜共栄圏」という地政学的概念が提唱されました。また、アメリカが一貫して追求してきたのは「海洋大国」という地政学的国家戦略であり、その結果としての太平洋支配でした。
しかし、それらの結果起きた戦いのあまりの非道さ、あまりの破壊の凄まじさに、人間はやっと理性に立ち帰り、理性による地政学的問題解決を試みます。1000万人近い死者を出した第一次世界大戦のあと、国際連盟が誕生します。
・しかし、この理性の平和の時は、いま大きな転機を迎えています。
再び自国第一主義が叫ばれ、異民族・異教徒の排斥が叫ばれ、恒久平和という理想のために人類がつくり出した国際協調の制度が揺らいでいます。
<ホムルズ海峡 日本のタンカー攻撃事件は中東地政学の高等練習問題>
<謎に包まれたタンカー攻撃の意図>
・2019年6月13日、ホルムズ海峡オマーン沖で、日本の会社が運行するタンカーが、何者かの攻撃を受け、炎上しました。折しも、緊迫するアメリカとイランの関係調整のために、日本の安倍首相がイラン首脳と話し合いを行った、その日に起こった事件でした。
この事件の意図と犯人をめぐって、世界では様々な憶測が流れ、幾つもの犯人説が浮上しました。
・「中東では、何が起こるかわからない」
<中東情勢は、なぜ予測不可能なのか>
・この民族、文明、宗教が複雑に絡み、対立する地域で、近代になり石油が発見されたことで、欧米との資源をめぐる抗争の歴史が始まります。特に、イランとアメリカの積年の抗争、そこから拡大したイラク、アフガニスタン、シリアの紛争が現在へと受け継がれています。
今回のタンカー攻撃事件は、地球の地層のように深い、中東の地政学的な歴史が、地表に噴出させた噴火のひとつとも言えるでしょう。
<南沙諸島 なぜ大陸中国は南シナ海内海化を強引に推し進めるのか>
<南シナ海進出によりアメリカを牽制>
・地政学の法則のひとつに内海化があります。海域周辺の島々、沿岸地域を勢力圏に収め、その海域をあたかも自国の海のように支配することです。現在、中国が南シナ海で実施する強引な島嶼の軍事基地化は、その典型といえます。
・そして中国のもうひとつの目的は、アメリカに対して核報復力を誇示することです。大陸間弾道ミサイル搭載の原子力潜水艦を、この内海の深部に潜ませ、台湾から西太平洋へ進出させることを意図しています。
<アメリカは大陸国家を包囲しいま中国は、その包囲の突破を図る>
<覇権国家アメリカの3つの勢力圏>
・アメリカは、この地球全域を覆う勢力圏に世界最強の軍事力を配備しています。海洋には打撃艦隊と呼ばれる、原子空母を中核とした、海洋から内陸を攻撃できる戦力を配備しています。陸上にも世界に約800箇所、約20万の兵を配備しています。
・この軍事によって平定された世界は、同時にアメリカの通貨ドルによる自由貿易と、自由な経済行為が保証された世界でもあります。国境を越えて、単一の通貨システムと経済・金融システムが働く世界をグローバル経済の世界と呼び、このようなシステムを設定した国家を覇権国家と呼ぶこともあります。
<トランプのアメリカ トランプ大統領を誕生させた分断されたアメリカの地殻変動>
<白人貧困層の怒り>
・共和党のドナルド・トランプ氏が、第45代アメリカ大統領に選出されたとき、アメリカは自身の国土に巨大な亀裂があることを、世界に暴露しました。
これまでの政権政党であった民主党は、主に北西部のカトリック教徒と、西部海岸、そして北東部のリベラルな白人層を基盤としていました。その一方で共和党は、一般的に保守的と言われる中西部、南部を地盤としています。その南部にはプロテスタントの原理主義の超保守層が存在します。
・かつて製造業ベルトと呼ばれていたこの地区は、現在はラストベルト(さびついた地帯)と呼ばれています。衰退した産業と、そこにしがみつく白人未熟練労働者たちの地帯というわけです。
・トランプ氏は、彼らに訴えました。製造業を再びアメリカに呼び戻そう。安い賃金で働くメキシコからの移民は、壁を作って締め出そう。一見粗暴な訴えは、確実に労働者層を動かしました。トランプ大統領は、アメリカの亀裂から誕生したのです。
<アメリカの資本主義 世界を覆ったアメリカ型資本主義 その特異性と正義の源>
<富は善であるとする教義が発端>
・グローバル経済という言葉をよく耳にします。当初は成長する世界経済を表す言葉として肯定的に使われていましたが、2008年に起きた経済危機以降は、アメリカ主導の強欲な資本主義によって世界に経済格差と貧困を持ち込んだ経済政策として、批判にさらされています。覇権国の軍事力で世界の政治をコントロールしたアメリカが、経済政策でも世界をコントロールした結果、その失敗が問われている、とも言えるでしょう。
・アメリカに渡ったカルヴァン派の教義のひとつに、勤勉に働いて豊かになることによって、人間は神の善を体現し、天国へ行けるというものがありました。反対に、勤勉に働かず、負債を背負う者は、罪人と見なされます。これらの人々は貧弱の道を進み、地獄へ堕ちるというのです。
<戦略パターン ただ一国戦い続ける帝国がもつ不可解な戦略パターン>
<担ぎ上げて裏切るアメリカ>
・第ニ次世界大戦から約70年が経過し、全世界を巻き込む大規模な戦争は、いまのところ起きていません。しかし、その間もほとんど絶え間なく戦争を続けている国があります。世界の警察官を標榜するアメリカです。自由主義・資本主義世界のために、敵対する国々と戦ってきました。
・民主主義の名のもとに、アメリカが誰かを担ぎ出して政権をつくります。その誰かは必ず独裁を始め、汚職と腐敗にまみれます。するとアメリカは、この誰かを、やはり民主主義の名のもとに、謀略、クーデター、軍事侵攻で排除します。イラクのフセイン元大統領は、その典型です。
<シーパワー 太平洋を支配することが海洋帝国アメリカの基本戦略>
<シーパワーによって太平洋を西へ>
・こうして確保した太平洋を、いかに支配するか。その戦略理論を提示したのが、海軍軍人マハンの『海上権力史論』でした。
「世界の諸処に植民地を獲得せよ。アメリカの貿易を擁護し、かつ外国に強圧を加えるために諸処に海軍基地を獲得し、これを発展させよ」と、マハンは述べています。こうした海上の権力をシーパワーと定義して、その獲得の手段として海軍力、造船力、工業力の育成を提唱。シーパワーによって、公海での商船隊・漁船隊の活動が保障され、アメリカは太平洋支配に乗り出します。
・これ以降のアメリカの太平洋戦略は、マハンの理論通りに展開されていきます。次々と太平洋の島々を領有し、1897年には、フィリピンでスペインと争い、独立しようとするフィリピンに侵攻し、1902年に植民地化します。
<宗教国家 巨大宗教国家アメリカの神の正義と戦争の正義>
<神の名のもとに進められた開拓>
・アメリカを建国した人々の精神のバックグラウンドには、故郷であるヨーロッパの名誉革命の精神を受け継いだ市民の武装の権利がありました。そして、もう一つ、未開の蛮地、西部開拓を支えたものに、アメリカで誕生した独特な信仰があります。
新天地アメリカ大陸は、神から与えられた「約束の地」である。この土地を開拓=文明化することは、キリスト教徒である自分たちの使命であると考えたのです。
・今でも週に1回は教会に行く人々が、たくさんいる社会だ。
<武装する市民 戦い続ける覇権国家アメリカ その精神のルーツを探る>
<建国以来守られる武装市民の権利>
・しかし、トランプ大統領を始め、アメリカの政界も主流の世論も、年間1万人以上が銃により死亡しても銃規制に動きません。アメリカ以外の国であれば規制されている銃が、なぜ放置されているのでしょうか。
彼らが銃の所持を擁護する根拠は、アメリカ合衆国憲法修正第2条です。そこにはこう書かれています。「人民が武器を保有し、または携帯する権利は、これを侵してはならない」
なぜこのような物騒な憲法ができたのか、その理由は、アメリカという国家ができた時代にまでさかのぼります。
<インド1 第二のアジアの大国が中国を超える日はくるのか>
<パキスタン、中国との地政学的緊張>
・インドと隣国パキスタンとは、常に地政学的緊張関係にあります。両国が1947年にイギリスから分離独立する際、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒の間に起こった凄惨な虐殺から、相互の憎悪は生まれました。
この分離独立以前、イギリスが支配するインド帝国は、現在のインド、パキスタン、バングラデシュにまたがる国家でした。
・その結果起こったのが、流血の惨事と、それ以降のカシミール、アッサム、バングラデシュをめぐる3度の戦争、そして印パの核開発競争の危機でした。ガンディーが予見した危機が、そのまま現実のものとなったのです。インド、パキスタンの地政学的危機は、イギリス帝国の意図的な置き土産だったともいえるでしょう。
インドはまた、ネパールとブータンという小さな緩衝国を挟んで、中国とも緊張関係にあります。イギリスがアッサム地方に設定した国境線を不満として中国が攻撃、領有権を主張しています。また、カシミール地区でも両国は戦火を交え、実効支配地域を分け合う状態が続いています。
・中国は一帯一路の一環として、ミャンマーのチャウピュ港、パキスタンのグワダル港など、沿岸の港の運営権を次々手に入れ、インド洋に進出。この「真珠の首飾り」とも呼ばれる包囲網に対抗し、インドは日米との連携を軸に、インド洋沿岸に拠点を張り巡らせる「ダイヤのネックレス」戦略を図っています。
<インド2 21世紀のアジアの時代にインドのもつ多様性が何をもたらすのか>
<多様な人々を束ねる巨大な民主国家>
・21世紀の世界経済の中心軸となると期待されるアジアの中で、インドは常に中国と比較されてきました。人口では2030年までに中国を上回り、少子高齢化の進む中国に比して、若年層の多いインドはGDPが高まるだろうと予想する声もあります。
・インドには17種類の公用語と200以上の方言があり、それらをもとに29の連邦州と7つの直轄行政区に分けられています。この地理的な区分のほかに、インド独特の身分制度(カースト制)による社会的差異が存在します。インドは、このように細分化された人々が、民主主義のもとに束ねられた世界でも稀な国家だといえます。
<海洋と大陸 大陸国家と海洋国家の法則 陸と海、二兎を追う国は破綻する?>
<地政学的ポイント>
・大陸国家と海洋国家は相互依存的存在で、共存が可能。長期間、一国が海洋国家と大陸国家の役割を担うことは困難。
<大陸国家と海洋国家の違いを知る>
・この大陸国家と海洋国家の違いとは何でしょうか。
まず人間の営みの基本である農業から考えてみます。農業には土地が必要で、人口が増えると、もっと広い農地が必要です。そこで国家は領土の拡大を図ります。
ユーラシア大陸の場合は、それぞれの国が拡大を続ければ、当然ぶつかり、争いが起こります。大陸国家は領土紛争が宿命。陸上の国境を守る強大な陸軍が必要であり、その資金と兵員維持のためには権威主義的な政権が生まれやすくなります。
・一方、アメリカは東西を海に挟まれています。農地が海岸に至れば、それ以上の拡張は不可能です。人口を養うには海に出て交易に励む必要があります。
この地理的条件から、アメリカは世界一の貿易国となり、全世界から膨大な資源、エネルギー、商品を輸出入しています。この交易のために、自由で開かれた貿易ルートが不可欠であり、アメリカはその防衛のために世界最大の海軍を擁しています。
・このように大陸国家と海洋国家は活動領域が異なるために、相互補完的で平和な関係の維持が可能です。しかし、どちらかが相手の領域を侵すと、戦いになります。
これまでの歴史のなかから、地政学が一つの法則を導いています。それは「大陸国家と海洋国家を、長期間兼ねることはできない」というもの。その理由は、一国が巨大な陸軍と海軍を同時に維持すると、財政的な破綻を招くから、現在の中国は、この法則に挑んでいる、とも言えるのです。
<シーパワーの誤算・日本>
・かつて日本は南太平洋にまで広大な権益を有する、典型的な海洋国家だった。その海洋国が中国大陸に進出し、大陸国家を形成しようとし、その一方で、海洋国としてアメリカと戦い敗北した。
<半島と内海 半島国家は大国に利用される宿命 ただし内海をもてば大国にもなる>
<内海の法則とは、海洋国家が内海を持つことで大陸国家に変身すること>
<半島国家の法則と内海の法則>
・次に半島に位置する国々を見てみましょう。地政学的な半島国家の典型は朝鮮半島です。朝鮮半島は、背後には広大な大陸国家、半島の先に広がる海洋には強力な海洋国家が控えています。この位置関係が、朝鮮半島に悲劇の歴史をもたらしてきました。
・同じような境遇にある半島が、イベリア半島とバルカン半島です。イベリア半島はヨーロッパとアフリカを結ぶ通路として、地政学的歴史を刻んできました。バルカン半島も地中海とスラヴの草原の境目にあり、両勢力の抗争の舞台であり続けてきました。こうした抗争が臨界に達したのが、第一次世界大戦だったと言えます。
しかし、同じ半島でも全く異なった地政学的条件で大英帝国となった例もあります。イタリア半島からスタートしたローマ帝国です。
<世界史で検証する地政学の法則① アテネとスパルタ>
<アテネとの戦いでスパルタが落ちた罠>
<陸海両軍の増強が破滅を呼ぶ>
・紀元前5世紀頃の古代ギリシアは、都市国家の集合体でした。その中で指導的な役割を果たしたていたのが、アテネとスパルタです。
・ペルシア戦争後、アテネとスパルタはギリシアの主導権をめぐって対立します。アテネはデロス同盟を作り、スパルタも対抗し同盟軍を組織します。ギリシアの覇権争いは、新興の海洋国アテネと旧勢力の大陸国スパルタという構造になりました。
この両勢力が戦ったペロポネソス戦争は、複雑な経緯をたどり、延々と27年も続いたのです。
・この戦いは結果的にスパルタの勝利となるのですが、それを決定づけたのは、海軍でした。それまで陸軍主体だったスパルタは、ペルシアと結び、その資金で劣勢だった海軍力を増強し、ついに大艦隊でアテネを破ったのです。ここでスパルタは大陸国家と海洋国家を一国で担うという、地政学的な罠に落ちたのです。
ギリシアの覇権を握ったスパルタでしたが、新興都市国家テーベとの戦いに、あっけなく敗北します。その理由は、スパルタの財政破綻による国力の衰退でした。陸軍と海軍を同時に維持することは、不可能だったのです。地政学の法則は、遠くギリシアの時代から生きていました。
<世界史で検証する地政学の法則② モンゴル>
<モンゴル帝国の世界征服と滅亡>
<大陸を制して一大経済圏を確立>
・モンゴル帝国の創始者チンギス・ハンは、情報と機動力を生かした騎馬戦略を展開。わずか20年余りでアジア大陸の半分を制します。騎馬軍団の圧倒的組織力が、距離をものともしない遠征を可能にしたのです。
チンギス・ハンの死後も、モンゴル帝国は優れた後継者たちに恵まれて拡大を続け、13世紀末には大帝国が築かれました。それまで分裂していたアジア大陸の大半が初めて統一されたのです。
<海洋進出を阻まれた大陸国家>
・1271年、第5代皇帝フビライによって、モンゴル帝国は中国式に元と改称されます。当時、元は大都(現在の北京)を首都として中国北部を支配していました。中国南部には、海に面した海洋国家、南宋がありました。元はこの南宋を攻め滅ぼし、海軍を手に入れます。そして、南宋のあった地域を新たな海洋進出の拠点として、海洋国家としての道を模索し始めました。
・しかし、日本を始めとする周辺の海洋国家に度々遠征を試みたものの、ことごとく失敗。大陸国家と海洋国家は両立できないという地政学の法則は、ここでも実証されることになりました。そして、維持するにはあまりに広大になりすぎた帝国は、14世紀半ば、元の滅亡によって崩壊します。
<日本史で検証する地政学の法則① 日本内海>
<大和朝廷の興亡を決した瀬戸内海>
・神武天皇は現在の宮崎県から船で北上し、瀬戸内海を通って現在の奈良県に至り、そこで天皇として即位したと『古事記』も『日本書紀』も伝えています。これを神武東征と呼びますが、ここで重要なのは経路です。
・大和朝廷は神武天皇を始祖として、関西で勢力を拡大し、やがて日本全体を統一しました。神武天皇が瀬戸内海沿岸に拠点を築いていったのを見れば、成功の秘密は地政学の「内海の法則」にあったわけです。
<瀬戸内海を奪われて滅亡した平家>
・大和朝廷は奈良朝、平安朝と都の位置を変えながら平和と繁栄を維持しましたが、それは平安朝の終わりとともに潰えてしまいます。その原因は何だったのでしょう?
平安末期、太政大臣に登りつめた平清盛は、幼い安徳天皇を擁立し、南宋との貿易を推進するため、突如、瀬戸内海に面した福原に都を移しました。瀬戸内海を内海とする大陸国家となっていた日本を海洋国家に変えようとしたのです。
しかし、そのため大陸国家的な性格が濃厚な関東方面への防備がおろそかになり、源氏が挙兵して陸路を進撃するのを押さえられなくなりました。源氏の指揮官であった源義経は陸戦の名手でしたが、瀬戸内海に臨むや、海戦も恐れず、平家を攻め立てます。最後は北九州近くの壇ノ浦で、当時としては世界史上最大規模の海戦で平家を滅ぼしました。安徳天皇も崩御し、ここに平安朝は終わりを告げたのでした。
神武東征の地図と平家滅亡の地図を見比べてみると、朝廷が瀬戸内海を制圧して確立し、反対に瀬戸内海の覇権を奪われることによって衰退した様子がよくわかります。
<日本史で検証する地政学の法則② 秀吉の朝鮮出兵>
<秀吉はなぜ唐突に朝鮮を攻めたのか?>
<地政学の視点から見る朝鮮出兵>
・1592年、天下を統一して日の浅い豊臣秀吉が、突如、予備兵力も入れて30万という大軍を投入し、海を越えて朝鮮半島に攻め入りました。秀吉の朝鮮侵攻とも言われる、海洋国日本が半島国家に仕掛けた侵略戦争でした。
結局、秀吉の死後、日本軍は撤退することになりましたが、この唐突な朝鮮出兵の理由については、古くから様々な説が唱えられています。主君であった織田信長の野望の継承だとする説から、秀吉の家臣のための新たな領地獲得説、はては老齢の秀吉の妄想説まで諸説あります。しかしこれらの説に欠落しているものがあります。それは当時の東アジアの地政学的視点です。
16世紀は、ヨーロッパ諸国による大航海の全盛期。その主役はスペインでした。
1、 豊臣家臣団にはまだ200万とも言われる武士軍団がいた。
2、 この家臣団のために、新たな領地獲得も必要だ。
3、 日本の武士は50万丁と言われる鉄砲を有するアジア最強の武装勢力だった。
<日本史で検証する地政学の法則③ 太平洋戦争>
<なぜ日本軍は、大陸と海洋への壮大な二面作戦を実行してしまったのか>
<分裂した日本の海軍と陸軍>
・日本軍が戦った戦域は、大きく2つに分かれています。中国大陸への戦域と、南太平洋から東南アジアを巻き込む戦域です。この2つの方向性を持つ日本の対外戦略は、北進論、南進論と呼ばれ、それぞれ陸軍と海軍が主張したものでした。極めて大雑把に言えば、アジア・太平洋戦争とは、陸軍と海軍が、それぞれの持論を掲げて戦った、2つの戦争だったとも言えます。
・1941年8月、対日石油輸出禁止という経済制裁に踏み切ったのです。
これにより、日本の南進政策が決定的なものとなります。インドネシアの石油とビルマ、マレーシアの資源確保のために、ついに英米蘭と開戦。初戦は奇襲によって勝利したものの、海軍はその半年後には劣勢に立ち、アメリカはオレンジ計画通りに日本を敗北に追い込みました。
陸海軍を統合する戦略をもてなかった、それが日本の過ちでした。地政学の法則に反し、陸と海を共に求めてしまったのです。
<ロシア1 世界最大の領土を持った大陸国家 ロシア帝国ができるまで>
<ハートランドを制したロシア帝国>
・現在のロシアがウクライナに執着するのは、そもそもロシアという国家がウクライナから始まったためとも考えられます。
ウクライナはユーラシア大陸で最も肥沃な平原と温暖な気候に恵まれた地。ここに9世紀頃、小さな国キエフ公国が誕生しますが、13世紀には東から押し寄せてきたモンゴルに征服されます。このモンゴルの臣下になって徴税を請負った一派が力をつけ、14世紀初頭にモスクワ大公国が台頭。モンゴルの衰退と同化、内輪もめなどを経て、1613年、のちにロシア帝国を築くロマノフ家の初代皇帝ミハイル・ロマノフが即位し、ロシアの近代史が始まります。
<ロシア2 ハートランド、ソ連を包囲しろ 冷戦とはリムランドの攻防戦だった>
<アメリカが目指したソ連包囲網>
・マッキンダーの「ハートランド」という地政学の概念は、第ニ次世界大戦後の対ソ連戦略を模索するアメリカ国防省で脚光を浴びます。1942年に地政学者ニコラス・スパイクマンは、ハートランドを包囲する周辺地域として「リムランド」構想を提唱。ハートランドであるソ連の拡張を外輪(リム)で防衛しようというものでした。
周りに味方の外輪を欲していたソ連は、チェコスロバキアを制圧して、ベルリンにも侵攻。社会主義圏を広げていきます。一方、大戦で疲弊した西ヨーロッパ諸国は、ソ連と対抗するためにアメリカの軍事力を盾に、防衛同盟NATOを誕生させます。
・この東西冷戦の時代、資本主義と社会主義の戦いは永遠に続くかと思われました。ところが、1991年、ソ連はあっけなく崩壊します。一体何が起こったのでしょうか。
社会主義国ソ連は内側から病んでいました。市場のニーズとは無縁の計画経済の破綻、共産党官僚の特権化と腐敗、市民の不満を押さえつける秘密警察の横暴。さらに、ソ連軍のアフガニスタン侵攻が、決定的な財政危機を生み出します。
そんな弱体化したソ連に誕生したゴルバチョフ政権は、ペレストロイカ(立て直し)に乗り出し、ついには共産党一党独裁を終了させます。しかし共産党というタガが外れるや否や、共和国が次々と独立。瞬く間にバラバラになったのです。このソ連崩壊を、中国は大きな教訓とします。
<ロシア3 プーチンの新ロシア帝国はエネルギーと宗教が生命線?>
<プーチンの初仕事は泥棒退治>
・旧ソ連の人々は、突然のソ連消滅に茫然自失します。あれほど強固と思えた共産党も消えて、腐敗の元凶だった特権的官僚たちは、一斉に国営企業の財産に群がりました。エネルギーを中心とした資産が、ロシア系ユダヤ人の企業家によってタダ同然で「民営化」され、西側の金融資本の資金がそこに流れこみました。こうして、気がつくと旧ソ連の国営企業の資産は、新興財閥と称される人々に簒奪され、その資源を西側諸国に販売した利益によって巨大エネルギー企業群が誕生していたのです。
・国営企業の消滅、国家の混乱の中で、人々の収入も途絶え、ロシアは破綻国家になりかかっていました。そんな絶望的なときに、人々が喝采することが起こります。新興財閥の中心的人物を「泥棒」と呼び、逮捕・収監するヒーローが現れたのです。エリツィンに替わって登場したウラジーミル・プーチン大統領です。プーチンは次々と問題のある企業人を告発しました。その一人、ミハイル・ホドルコフスキーは、個人資産をキプロスなどの秘密口座に隠し、企業の株をアメリカの石油メジャーに売り払おうとさえしていました。
プーチンはこれらのエネルギー企業を再び国有化し、国家管理のもとに、ヨーロッパ諸国に対するエネルギー供給国としてロシアの国家戦略の再構築を図ったのです。
・解体寸前だったロシア経済をエネルギー政策で再稼働させたプーチンは、もう一つ、ロシアの新しい統一理念をつくろうとしています。それは、共産党政権下では非合法だったロシア正教の復権です。ロシア正教は、ローマ帝国の東西分裂後、カトリックと袂を分かったキリスト教の一派、東方正教会がロシアに根づいたものであり、ロシア帝国時代以前からロシア人の心の拠り所であり続けてきました。プーチンはこのロシア正教の聖地に何度も出向いて教会との連携を深め、宗教の権威のなかに、自らの権威も位置づけようとしています。
・(ウクライナ問題)ウクライナは、エネルギー戦略と海軍のために、絶対にゆずれない。
ロシア人の多く住む地区。現在ロシアが実効支配。
・(チェチェン問題)チェチェン紛争は西側諸国のロシアへの挑戦だ。ロシア帝国時代からチェチェン人の独立闘争は続き、ソ連崩壊で武装闘争。2009年にロシア軍により鎮圧される。
・(クリミア)2014年にロシアの支援でウクライナから分離独立。
・イラクの平和のためにロシアが動く。アメリカが攻撃の矛先をシリアからイランに変更した。シリアの混乱を調停する実力者はプーチンしかいない。
<海洋国家日本が選ぶ平和のための第3の地政学>
<太平洋ネットワークの起点国家へ>
<日本は国家の始まりから明治まで、繁栄するアジアの辺境にあった>
・この憲法が生まれた背景には、戦勝国の「理性による地政学」がありました。連合国側が戦後世界に期待した、国連軍による平和です。国連軍だけが国際紛争解決のための軍事力となり、国連軍は国連の安全保障理事国だけが組織できる。この構想の下では、日本の戦争と軍備の放棄は当然の道筋でした。
しかし、地政学的状況は激変します。平和憲法の制定を指導したアメリカが、日本に再軍備を要求したのです。原因は1950年に勃発した朝鮮戦争でした。
・しかし、視点をいま一度、太平洋を中心とした地図に戻してみましょう。ここで日本は辺境ではありません。台頭する中国の勢力圏とは、「引っ越しのできない隣同士」でもあります。日本はアメリカと中国、拮抗する2つの勢力の中央に位置しています。これが現在の日本が置かれた地政学的な位置です。
このような日本が選択し得る道筋は、大きく3つあり得ます。
1、 日本は、縮小するアメリカの太平洋勢力圏維持のための最前線として、中国の膨張圧力に対抗し続ける。
2、 日本は、勃興するアジア経済圏の一因として、中国の勢力圏に含まれていく。
3、 日本は2大国のどちらにも隷属せず、その中央に位置する地政学的特徴を生かして、太平洋の海洋国家をネットワークする新たな経済・文化圏を構築する。そして、このネットワークをインドやイスラム圏に繋ぐことで、アジアの成長のコア・センターの1つとして貢献する。このプランは、日本政府・ASEAN諸国が推進する構想と多くの共通点をもっています。
あなたなら、どの選択肢を支持するでしょう?
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