その結果、投票率が50%を切り、有権者全体の4分の1を超えるくらいの支持を固めれば選挙に圧勝できるという「必勝の方程式」が完成した。(3)

<コロナ禍で悔やまれた行政のオンライン化>

・第二次安倍政権は、アベノミクスのスタート当初から、「第一の矢」(金融)と「第二の矢」(財政)は合格点だが、「第三の矢」(成長戦略)は落第だといわれ続けてきた。評価は履らないまま、長期政権が終わった。

 成長戦略の一丁目一番地とされたのは、「岩盤規制改革」だった。

・だが、多くの分野で規制改革は停滞した。とりわけ、世界で急速に進むデジタル変革への対応では、出遅れた。医療や教育のオンラインなど部分的には前進しつつも、厚い壁をなかなか突破し切れなかった。そうこうするうち、2020年の新型コロナウイルス感染症の流行で、図らずも改革の遅れが露呈した。

<成長産業に電波帯を空けるアメリカ>

・「岩盤規制」がもたらしているのは、「オンラインで診療や授業を受けられない」といった利便性の問題にとどまらない。

 経済社会全体での生産性の低迷、ひいては一人当たりGDPの低迷をもたらしてきた。

・その主な原因は、デジタル化への対応の遅れをはじめ、イノベーションの欠如だ。そして、古い仕組みを強いているのが、「岩盤規制」だ。だからこそ、安倍政権の成長戦略の一丁目一番地は、「岩盤規制打破」でなければならなかったのだ。

 こうした古い仕組みが随所に残る代表的分野が、「電波」である。

<自民党長老議員の電話一本で規制改革がストップ>

・こんなことが起きるのは、無人ロッカーの設備投資ができるのは比較的大手の事業者であり、資力の乏しい零細クリーニング店にとっては解禁が好ましくないためだ。零細クリーニング店も業界団体などによる政治力はあるので、無意味な規制維持を政治や行政に強力に求め、これがまかり通っているのが現実だ。

 現に、規制改革推進会議でこの議論をした際、自民党の某長老議員が直ちに事務局に電話をかけてきて、ストップをかけた。残念ながら、そんな電話一本で止まってしまうのが、現在の規制改革の実情だ。

<安倍政権は「官邸主導」ではなかった>

・では「安倍一強」ともいわれた強力な政権で、なぜ「岩盤規制改革」は進まなかったのか?答えの一つは、安倍政権は決して「官邸主導」ではなかったことだ。

 安倍政権では、外交や安全保障は別として、官邸の力は強くなっておらず、内政は概ねコンセンサス重視だった。内閣人事局を作って官邸が思うがままの人事を行い、結果、官僚の忖度を生んだというようなことがいわれたが、官邸主導の政策決定など、それほどなされていなかった。

 結局、官僚機構のほうがまだまだ強く、官邸主導で突破していくことは難しかった。

<新・利権トライアングルの正体>

・そして安倍政権で規制改革を阻んだ、もう一つの、より重要な要因は、国家戦略特区での規制改革が、2017年でぱったりと止まったことだ。2017年の通常国会で「加計学園問題」への疑惑追及がスタートして以降だ。

・マスコミと野党議員にとって、事実がどうかはどうでもいい。マスコミが「疑惑」を報じればそれを国会で追及、国会で「疑惑追及」したらマスコミで報道、と「証拠なき追究」を無限サイクルで回し続けることができる。

 証拠は要らず、「疑わしい」と唱えるだけで十分なのだ。そして、2017年以降に国家戦略特区の規制改革がぱったり止まったように、それで十分に効果は上がる。

<各省設置法を一本化し事務分担は「政令」で>

・民間企業でも、組織の改編は執行部が決めている。そうでないと、時代の変化に対応でないからだ。

 この発想からいえば、現在ある各省設置法をすべて束ねて政府事務法として一本化し、各省の事務分担は「政令」で決めればいい。こうした枠組みを作れば、そのときの政権の判断で省庁再編を柔軟に行える。

<内閣人事局の破壊力>

<省庁や業界が族議員と築き上げた利権構造>

・各省庁には、それぞれの縄張りで、所管業界や族議員とともに長年築き上げてきた利権構造がある。端的にいえば、国民一般の利益を犠牲にして、既得権者が利益を得る仕組みだから、時の政権が国民目線でこれに切り込もうとすることは、古くからときどき起こった。

 

<省庁OBが「縦割り利権」を護持するわけ>

・この不文律のもとで何が起きていたのか? 官僚たちが、大臣よりも、実質的な人事権のある官僚機構のボスを見て仕事をするようになったのだ。「政権の方針」より「省庁の論理」が優先されるわけだ。

 しかも、ボスは必ずしも現職の官僚トップではなく、省庁のOBたちが実権を握っていたりする。こうしたOBたちは所管の利権団体に天下りしているのだから、「縦割り利権」護持が最重要課題になるのは当然だった。

<省庁のガバナンス構造改革のため内閣人事局を>

・「内閣人事局構想」は、言い換えれば、各省庁のガバナンス構造の改革だ。旧来の構造では、国民によって選ばれた政権の方針が貫徹されない。だから、古くからの「縦割り利権」に手を付けられない。これを、「国民によるガバナンス」が利く構造に改めようとするものだ。

<民主党政権が内閣人事局を設置しなかった謎>

・付け加えておくと、政府・与党は当初は、内閣府の外局として「内閣人事庁」を提案した。これに対し、官邸直結の「内閣人事局」を強く主張したのは、当時の民主党だった。

<「利権のボスへの忖度」から「国民への忖度」へ>

・そのようななかで、「内閣人事局」を廃止ないしは弱体化すべきだ、との主張が唱えられるようになった。「内閣人事局」が人事を握っているので、官僚による「官邸への忖度」が生じているという指摘だ。

・旧来の縦割り、あるいは官僚主導行政が「深刻な機能障害を来している」ことは、1997年の行政改革会議における「最終報告」で、はっきりと指摘されている。

<人事評価はAばかり>

・ではなぜ安倍政権において、内閣人事局が万全に機能していなかったのか?大問題は、内閣人事局が客観的な人事評価をサボってきたことだ。

 霞が関の官僚人事の伝統は、「身分制」と「年功序列」だ。

<いまも色濃く残る「身分制」と「年功序列」>

・もちろん、霞が関全体が本当にそんな素晴らしい働きぶりをしていたら、政府はずっとよく機能している。馴れ合いで「みんなよくできました」を続けてきたわけだ。

 結果として、霞が関の人事は、あまり変わっていない。

<人事評価を各省庁に丸投げしてきた内閣人事局>

・ところが、現状は先に述べた通りだ。内閣人事局は人事評価を各省庁に丸投げし、基準確立も適格性審査もサボり続けてきた。結果として、「各省庁の仲間内人事」は旧来のままで、たいして変わっていない。

<安倍政権が「岩盤規制」で成果を出せなかった背景>

・安倍政権が「岩盤規制改革」を唱えながら十分な成果を出せなかったのは、結局、こうして霞が関の内実が変化せず、縦割り利権を頑強に守り続けていたためだ。その一方で、客観評価を欠いた「内閣の人事権行使」は、中途半端な官僚たちのあいだで「官邸の歓心さえ買えば出世できる」との間違った忖度を生む要因にもなった。

 

・方針決定後には従うとの大前提が守られる限り、当然、「異論を唱えたら左遷」などということがあってはならない。

 菅首相もそんなつもりはないはずだ。しかし、「反対したら異動」ばかりが流布されてしまっており、誤解を招きかねないので、菅首相は改めて明確にしておいたほうが良いだろう。

<公式会議でのガチンコ討論を避けた安倍政権>

・残念なことに安倍政権では、首相の出席する公式会議でのガチンコ討論を避ける傾向があった。小泉政権での経済財政諮問会議などとは大きく違った。そのために、あとから「無理やり押し付けられた」などと刺されやすかった面も否めない。

 これから菅政権が規制改革の難題に取り組むうえでは、政府・与党内での意見の対立は避けられない。これを表に晒して決着を付ける仕組みを確立することこそが重要だ。菅政権発足以降、実際に、官邸での政策会議は、ガチンコ討論に徐々に切り替わりつつあるようだ。

・菅政権は、「内閣人事局」の機能不全の解消をはじめ、縦割り利権の打破を目指す体制をさらに強化していくだろう。これは様々な難題を解決していくために、不可欠であるはずだ。

<再生エネルギーと脱炭素で世界を救う>

<エネルギーの脱炭素化が進んでいない日本>

・菅首相は所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスゼロ(カーボンニュートラル)」を宣言した。しかしこの分野では、日本は世界の流れに乗り遅れてきた。

・東日本大震災以降、原子力発電所がほとんど動いていないことに加え、再生エネルギーの比率が低いことが、日本のCO2排出量が多い原因なのである。

<国民は再エネを電力会社は原発を>

・「エネルギー供給の脱炭素化」が課題であることは論を俟たない。これが置き去りにされがちなのは、厄介な難題であるからだ。

<安倍「経産省内閣」で起こった思考停止>

・たとえば原発の新設をどうするか、その方針も不明なまま、2030年の電源構成では、原発比率を「20~22%」と掲げ続けてきた。そして、処理水やバックエンド問題の解決もなされなかった。

<発送電分離のあとも残る電力市場の歪み>

・たとえば、発送電分離で送電網は切り離されたが、発電と小売りは基本的に一体で運営されている。

・発電市場の8割を大手電力会社が支配しているから、自社の小売部門に対してだけ安価に電力供給をすれば、小売市場でも有利な立場に立てるのだ。

<電電公社の民営化後に行ったこと>

・実際に、大手電力会社による不当廉売など、新規参入者を追い落とそうとする動きも見られた。

・さて電力の分野では、周回遅れで本格的な自由化に踏み出した。これまでのところ「規制緩和」(自由化)はなされたが、「規制改革」(競争促進=市場の歪みの解消)の観点では、まだまだ道半ばである。

<新電力市場で得た1.6兆円も火力設備更新に>

・こうした歪みの問題が噴出した一例が、2020年夏に入札のなされた「容量市場」だ。電力には、卸電力市場や先物市場など複数の市場があるが、容量市場はその一つであり、2020年から運営が始まった。

・容量市場の問題は、電力市場の歪みが噴出した一例に過ぎない。こうした歪みを解消していくことこそが、菅政権に求められる課題なのである。

<新聞と国会議員のファクトチェック>

<ファクトチェックでは保守派の言論がターゲットに>

・原は2020年4月、問題意識を共有する関係者とともに、オンライン上で「情報検証研究所」を立ち上げた。マスコミ、政府発表、国会論戦、ネット情報など、様々な媒体で、いい加減な情報が乱れ飛んでいる。そこで媒体を問わず、事実に基づく検証(ファクトチェック)を行い、レポートや動画で公開しているのだ。

・さて日本では、これまで新聞社がネット情報や政治家の発言などを検証するのがファクトチェックの中心だった。特にファクトチェックに熱心なのが毎日新聞や東京新聞などである。このほかに独立したファクトチェック機関もちらほらと活動を始めているが、まだまだ少ない。

<ファクトチェックのファクトチェックを>

・ファクトチェックの主体同士による「ファクトチェックのファクトチェック」も大いに結構。そうしたなかで、ルールを守って好プレーを連発する有力プレイヤーと、ルールを守れないダメなプレイヤーは、自ずとはっきりする。この切磋琢磨を通じて、言論空間はより良いものになっていくはずだ。

<新聞紙面とサブチャンネルの開放を>

・世間的には、フェイクニュースとは、主にネット上に流れる怪しい情報や、いい加減な政治家の発言を意味すると考えられている。リテラシーの高い人ならば、「ネット情報よりも、むしろ新聞やテレビのほうがデマだらけだ」というかもしれないが、世間一般の主流ではない。

 だから新聞は、いまも自分たちは怪しげなネット情報を「検証する側」だと固く信じ、自分たちが「検証を受ける側」になることなど、思いもよらない。

<毎日新聞が「大阪都構想」で行った故意の「誤報」>

・先述の通り毎日新聞は、「大阪都構想」の住民投票の直前、「市四分割 コスト218億円増 大阪市財政局が試算」と報じた。ところが、この「218億円」は、「大阪都構想」の4つの特別区に分割する場合ではなく、4つの政令市に分割した場合のコストの試算であることが判明した。その後、大阪市は「あり得ない数字だった」として、試算を撤回している。

 この記事が、住民の意思決定に相当の影響を及ぼした可能性は否めない。

 というのも一般の人には、この記事は「大阪都構想で218億円のコスト増」との意味しか読めない。住民投票を控えるなか、まったく議論のなされていない「四政令市分割構想」のコストを一面トップで報じることは、常識的にいってあり得ないからだ。

<「国家戦略特区」でも執拗な誹謗中傷のキャンペーン>

・原は、この光景に見覚えがある。実は別件で、毎日新聞と訴訟係争中なのだ。

 前述の通り2019年6月、毎日新聞は、一面トップで原の顔写真を掲載し、国家戦略特区の民間提案者から200万円を受領し、会食接待を受けたなどと、事実無根の記事を掲載した。

 その後の1ヵ月で11回(うち一面で7回)にも及ぶ執拗な誹謗中傷キャンペーンがなされた。原は繰り返し記事が間違っていると指摘したが、訂正がなされないので、やむなく訴訟を提起した。

 このときも毎日新聞は、「原が200万円受領」としか見えない記事を掲載したが、訴訟になると「記事に『原が200万円受領』とは書いていない」と主張した。記事の文面には、確かに、よくよく見ると「別の会社が200万円受領」と書いてある。ここでも、そんな事実はないと、最初から分かっていたわけだ。

 明らかなのは、どちらも、うっかり間違った「誤報」ではないということだ。事実ではないと分かっていながら、そうとしか読めない記事をわざわざ掲載した「意図的な虚偽報道」としか考えられない。

<共産党市議の発言で露呈した「新・利権トライアングル」の連携>

・二つの記事の共通点はそれだけではない。もう一つの共通点は、「政治勢力や利権との連携関係」である。

 「大阪都構想218億円問題」の記事は、反対派の自民党市議が大きく拡大してパネルを作り、街頭演説に活用した。これも、原にとっては見覚えのある光景だ。「国家戦略特区200万円問題」の記事は、森ゆうこ参議院議員がパネルにして国会に持ち込み、NHKの中継がある国会質問で、原が犯罪相当の不正行為を行ったと、大いに宣伝した。

 この事案では、おそらく背後に、国家戦略特区における規制改革に反対する省庁や利権団体がいたはずだ。加計学園問題でも同様のことがあった。

 規制改革をなんとかして潰したいのだが、規制改革を唱える政権に抗するだけの気概や理屈は持っていない利権組織が、マスコミと野党の裏に隠れて抵抗するのだ。

<毎日新聞は特定勢力の「工作機関」なのか>

・原の事案では、200万円受領という記事の続きで記者が取材していた内容を、なぜか記事の掲載前に森ゆうこ議員が知っており、それを国会で質問した。これに対しては、毎日新聞はノーコメントを貫いているが、記事の掲載前に政治家へ取材内容を提供したとすれば、報道機関としてはあり得ない異常な行動だ。

・「意図的な虚偽報道」「政治勢力や利権組織との連携関係」「報道前の情報漏洩」……これらの共通点から浮かび上がるのは、毎日新聞は、特定勢力に利用され、いわば下請け機関として「情報工作」を行っていたのではないかという疑念だ。

 もしそうならば、毎日新聞は報道機関とはいえない。もはや特定勢力のための「工作機関」である。

 毎日新聞にはぜひ、自らの紙面を解放して、記事をファクトチェックする検証記事を掲載してもらいたい。呑気に櫻井よしこ氏らの発言をファクトチェックしている場合ではない。

<ネットメディアを見倣うべきは新聞>

・社会一般の通念では、ネットメディアは新聞より低レベルであり、フェイクニュースの巣窟とされる。だが、原の経験上、そんなことはない。

 2020年6月、まったく面識のない国会議員が、原に対する誹謗中傷を含んだ記事を月刊誌に寄稿し、ネット上では「ハーバー・ビジネス・オンライン」などに、あるときは「参照:しんぶん赤旗」などと注記を付けて転載されたこともあった。

・さらには、およそあり得ない疑惑をにおわせている。たとえば前記文面では「真珠販売会社の要望に沿って漁業法改正がなされた」といいたいらしいのだが、もともと真珠養殖では漁協に優先権がないので、論理的にもあり得ない。デタラメで、話にならない内容だった。

 原は、この国会議員のことも月刊誌のこともよく知らない。だが、影響力のあるネットメディアで誹謗中傷を拡散されるのを看過することはできない。そこでネットメディアの問い合わせ窓口に連絡し、デタラメな内容であることを伝えたところ、迅速に記事を削除してくれた。

 この事例から見る限り、ネットメディアには、確かにフェイクニュースが多いかもしれない。しかし事後の対応は、新聞に比べてずっと誠実だ。

<国会議事録が拡散する劣悪な言論>

・新聞よりも、さらに事後対応がなっていない低劣なメディアがある。それは、国会議事録である。

 ネットメディアに削除依頼をした記事の事案では、この亀井議員は、国会でも同じような発言をしていた。

<2020年4月7日 衆議院地方創生に関する特別委員会 亀井亜紀子議員(抜粋)

「スーパーシティ」構想の実現に向けた有識者懇談会の名簿、7人の名前が並んでおります。その中で、座長は竹中平蔵さん、座長代理が原英史さんですよ。この原英史さんは、漁業法の改正のときにもワーキンググループで名前が出てきて、真珠販売会社から要望をヒアリングして、内閣府にも言ったんだけれども、そのときの議事録は作成されていなかったということで、随分追及を受けた人物ですし、また、株式会社特区ビジネスコンサルティングというところにも関係していたということでも指摘をされている人です>

・ネットメディアの記事は削除されたが、こちらはそのまま国会議事録に残り、ウェブで公開され続けている……現状では、これを削除してもらおうと思っても、不可能なのである。

 なぜか? 国会内での議員の発言には憲法上の免責特権があり、訴訟などによって争うことはできない。国会での対処を求めても、取り合ってもらえる可能性は、まずない。

・なお、原は森議員とも訴訟係争中だが、これはネットで自宅住所を晒したことなど、森議員の国会外の行為を対象にしている。しかし国会での発言そのものは、これ以上争いようがない。

 こうして国会議事録は、まともなネットメディアならばすぐに削除するような劣悪な言論を、野放図にばらまく媒体になっている。

・国会論戦にもファクトチェックが必要だ。猪瀬氏の「ラストニュース方式」で、国会議事録の最後に、当事者の反論やファクトチェック機関の検証記事を掲載する仕組みを設けるべきだ。

『政治家の覚悟』

国民の「当たり前」を私が実現する

菅義偉   文藝春秋    2020/10/20

<政治家の覚悟>

・覚悟を持って「国民のために働く内閣」を作り上げると明言した政治家の信念とは何か――。改革を断行し続けてきた姿からは、その原点がはっきりと見えてくる。

<「政治の空白」は許されない>

・今年に入ってからは新型コロナウイルス感染症の拡大というかつてない国難に直面する中で、感染拡大と医療崩壊を防ぎ、同時に社会経済活動を両立させるという課題に真正面から対処してきました。

・しかし、この国難への対応は一刻の猶予もなく、「政治の空白」は決して許されません。

<政治家を志した原風景>

・私は雪深い秋田で農家の長男として生まれました。子どもの頃は水道がなく、家の前の堰に流れる水で毎日顔を洗っていたものです。すごく冷たくて、冬には手がしびれるほどでした。今でも毎朝、冷たい水で顔を洗うと、当時が思い出されます。

・高校を卒業すると、多くは農業を継ぎます。しかし私は、すぐに農業を継ぐことに抵抗を感じ、違う世界を見てみたいとの思いから、高校卒業後に、家出同然で東京へ出ました。東京には何かいいことがあると思っていたのです。

・しかし、現実はそんなに甘くありませんでした。板橋区の町工場に見習いとして住み込みで働き始めたのですが、想像していた生活とまるで違いました。本当に厳しかった。中学を卒業して先に上京していた同級生達と、日曜に集まることだけが楽しみでした。この時期、ここでこのまま一生を終わりたくないという思いが芽生えてきました。ほどなく会社をやめて、築地市場でのアルバイトなどをしながらお金を貯めました。一番思い出したくない青春時代です。

 そして、やはり大学に行かないと自分の人生は変わらないのではないかと考え、勉強して2年遅れで法政大学に入りました。当時、私立大学の中では法政の学費が一番安かったのです。

 当時は学生運動が全盛で、大学はほとんどロックアウト状態でした。授業も試験もなくレポート提出ばかりだったことを覚えています。私は学生運動を尻目に、生活のために稼がなければならないので、銀座にある日劇の食堂でカレーの盛り付けをしたり、NHKでガードマンをしたり、新聞社の編集部門で雑用係をやっていました。自分を思い切って試してみたいと思い、空手にも打ち込んでいました。

・卒業後はいつかは田舎に帰るつもりでいたので、それなら東京でもう少し生活したいと思い、会社勤めを始めます。そこで世の中がおぼろげに見え始めた頃、「もしかしたら、この国を動かしているのは政治ではないか」との思いにいたります。そして、「自分も政治の世界に飛び込んで、自分が生きた証を残したい」と思うようになったのです。当時私は26歳でした。

 ですが、伝手などありません。法政大学の学生課を訪ねて、「法政出身の政治家を紹介してほしい」と相談をしました。そこからの縁で通産大臣も務めた小此木彦三郎先生の秘書として働くことになりました。小此木先生は、けじめとか基本を大切にする人でした。

・ただ、秘書になり政治を間近で見るようになったものの、当時の私には「地盤」も「看板」も「鞄」もありません。政治家になれるとは思っていませんでした。いつか田舎に戻らなければならないという気持ちは消えていなかったのです。

・小此木事務所には7人の秘書がいて、私はその中では一番若くて下っ端です。ところが入って9~10年目のときに小此木さんが通産大臣になり、私を大臣秘書官に登用してくれました。おかげで小此木さんにお供しながら、ヨーロッパやアメリカなどを30代半ばで回ることができました。

 その後、1987年に38歳で横浜市会議員選挙に出馬しました。それまでの私にとって市会議員というのは雲の上の存在で、自分がなれるとは思っていません。ところが、偶然、横浜市内の77歳の現職議員が引退し、息子を後継に指名して出馬させようとしていたものの、その息子さんが急逝されてしまったのです。勉強こそあまりしてこなかった私ですが、『三国志』や戦国武将の歴史の本はよく読んでいたので、「もしかしたら、俺は運が強いのかな」と思いました。そして、「やろう!」となったのです。ただ二転三転して、その議員が「また出る」と言いはじめ、自民党の人たちからは「今回はやめておけ」、「4年後にまた出ればいい」と何度も諦めるように言われました。しかし、私は頑として応じなかった。「これはチャンスだ」と思って貫き通しました。そこが一つの運命の分かれ目だったと思います。チャンスが巡ってきた時に判断できるか。やはり最後は本人の覚悟しかありません。

 ただ、出馬はしたものの、そのときの選挙区は、地元意識が強く、私のようなよそ者は厳しい状況だと見ていました。

<メリハリの利いたコロナ対策>

・そして、内閣総理大臣に就任したいま、取り組むべき最優先の課題は、新型コロナウイルス対策です。欧米諸国のような爆発的な感染拡大は絶対に防がなければなりません。

・このように国民の命と健康を守り抜き、そのうえで経済活動との両立を目指していかなければ、国民生活が立ち行かなくなってしまうでしょう。

<コロナ禍でもマーケットは安定>

・バブル崩壊後、こうした最高の経済状態を実現したところで、新型コロナウィルスが発生してしまいました。しかし、ポストコロナの社会の構築に向けて、集中的に改革し、必要な投資を行い、再び力強い成長を実現したいと考えています。

<ポストコロナ時代に迫られるデジタル化>

・ですから、できることから前倒しで措置するとともに、複数の省庁に分かれている関連政策をとりまとめ、強力に進める体制として、「デジタル庁」を新設する考えです。

 一方で、ポストコロナ時代においては、こうした新しい取り組みだけでなく、引き続き、環境対策、脱炭素化社会の実現、エネルギーの安定供給にも、しっかり取り組んでいきたいと考えています。

<地方創生の切り札>

・また、地方の活性化を進める中で、官房長官として何よりもうれしかったのは、26年間下落し続けていた地方の地価が、昨年27年ぶりに上昇に転じたことです。

・これからもインバウンドや農産品輸出の促進、さらには最低賃金の全国的な引き上げなど、地方を活性化するための取り組みを強化し、「がんばる地方」を応援するとともに、被災地の復興を支援していきたいと考えています。

<待機児童数が減少に>

・待機児童問題については、経済成長の果実を活かし、72万人分の保育の受け皿の整備を進めたことにより、昨年の待機児童数は、調査開始以来、最小の1万2千人となりました。今後も保育サービスを拡充し、この問題に終止符を打ちたいと考えています。

<国益を守る外交・危機管理>

・また、「戦後外交の総決算」を目指し、特に拉致問題の解決に全力を傾けたいと考えています。この2年間は、拉致問題担当大臣も兼務し、この問題に取り組んできました。米国をはじめとする関係国と緊密に連携し、全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく、引き続き、全力で取り組みます。

<官僚を動かせ>

<政治家が方向性を示す>

<両面性を持つ官僚の習性>

・政治家が政策の方向性を示し、官僚はそれに基づいて情報や具体的な処理案を提供して協力する。政治家と官僚、すなわち政と官は本来そういう関係にあるべきです。

・官僚は、まず法を根拠として、これを盾に行動します。

 一般国民からみると、理屈っぽくスピード感に欠けるでしょう。たしかに法律上は正しいかもしれませんが、国民感情からはかけ離れているとの印象をもたれてもしかたありません。加えて、その体質として外聞を気にする傾向があります。

・おそろしく保守的で融通のきかない官僚ですが、優秀で勉強家であり、海外の状況も含めて組織に蓄積された膨大な情報に精通しています。

 官僚と十分な意思疎通をはかり、やる気を引き出し、組織の力を最大化して、国民の声を実現していくことが政治家に求められるのです。

<責任は全て取るという強い意志>

・官僚はしばしば説明の中に自分たちの希望を忍び込ませるため、政治家は政策の方向性が正しいかどうかを見抜く力が必要です。

 官僚は本能的に政治家を注意深く観察し、信頼できるかどうか観ています。政治家が自ら指示したことについて責任回避するようでは、官僚はやる気を失くし、機能しなくなります。

 責任は政治家が全て負うという姿勢を強く示すことが重要なのです。それによって官僚からの信頼を得て、仕事を前に進めることができるのです。

<自らの思いを政策に>

<地方分権改革推進法の成立>

・スケジュールは非常にタイトでした。しかし、総理から同意を得た以上、なんとしても法案を成立させなくてはなりません。ここにいたって、官僚たちも重い腰をあげ、準備をはじめてくれたのです。

 安倍総理に直談判してから1カ月後に、地方分権改革推進法は、閣議決定され、会期内に無事成立しました。これを受けて、地方分権担当大臣が新設され、私が兼任することになりました。

 私にとっては、長年の思いの実現に向けて、大きな一歩となった法律です。

<「ふるさと納税」制度の創設>

・私は法制化に向けて、ふるさと納税研究会を立ち上げました。千葉商科大学学長の島田晴雄先生に座長をお願いし、地域振興に通じた有識者、地方自治体の長、税の専門家など十人で構成され、議論、検討が繰り返されたのです。

 その間、住民税を分割する方式ではなく、寄附金税制にすることで、受益者負担の原則や課税権、租税の強制性などの課題がクリアされる、との可能性が示されました。

<頑張る地方応援プログラム>

・頑張る地方を国としてもしっかり応援したい。そこで「頑張る地方応援プログラム」を具体化し、実行するための「頑張る地方応援室」を総務省内に設置しました。その背景には交付税制度上の矛盾がありました。

<若手官僚を市町村へ派遣>

・「頑張る地方応援プログラム」では財政支援だけでなく、若い官僚を市町村へ派遣するという新しい試みも始めました。

 従来、総務省の若手官僚は道府県庁に派遣されるのが慣例でしたが、地方の現場を知らなければ自治や分権は語れないと考えてのことです。

<税収を東京から地方へ>

・具体的には、法人二税のうちの法人事業税から税収の半分程度に相当する約2兆6千億円を分離して国税化し、それを「地方法人特別税」とします。国はその税収のうち2分の1を人口で、残りの2分の1を従業員数で按分し、各都道府県に一般財源として配分。これを「地方法人特別譲与税」としたのです。

<ICT分野での国際戦略>

・これまで日本経済を牽引してきたのは自動車産業ですが、これと肩を並べるような産業を育てる必要性を強く意識していた私は、総務副大臣の頃からICT(情報通信技術)産業に着目していました。

日本は津波による大きな被害をうけるだろう UFOアガルタのシャンバラ

コンタクティとチャネラーの情報を集めています。 森羅万象も!UFOは、人類の歴史が始まって以来、最も重要な現象といわれます。

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