その意味で、アメリカの核を日本に配備するという、「核シェアリング」は有効な手と言えます。しかもこの手は、アメリカにとっても「渡りに船」となります。(1)
(2023/7/8)
『日本は第2のウクライナとなるのか ⁉』
コロナとウクライナが世界とあなたの生活を一変させる
浅井隆 織田邦男 川上明 関和馬 石破茂
第二海援隊 2022/3/30
<どんなに必要で、どんなに正当化されようと、戦争を犯罪ではないと考えては絶対にいけない>
・ロシアのウクライナ侵攻という暴挙によって、世界は不安と悲しみ、そして恐怖と怒りに覆われた。この戦争の行くつく先、そして日本はもちろん世界にもたらす影響は何か?極東有事はありうるのか?私たち日本人は、このウクライナの危機を「対岸の火事」ではなく「いつか起こる未来」として捉え、「国は自分たちの手で守るもの」と戦うウクライナ人の勇猛かつ危機的状況を教訓として、思想や判断、そして行動を変える必要があるのだ。
<対岸の火事では済まされないウクライナ情勢>
・率直に言って、今の日本人の98%は「能天気」で「愚昧」なのではないか、とすら感じる。国政に関わる政治家ですら半分は、「どうせ、よその国の戦争でしょ」くらいに思っていることだろう。自分たちには関係ないし、いざ日本に同様なことが起きても、「国家を守るのは、自衛隊かアメリカがやってくれる」などと他人事のように考え、それで安心しきっているようにすら見えるのだ。
ただ、残念ながらこれは日本人という民族に宿命的な発想なのかもしれない。
<ウクライナはどうなるのか。日本周辺は大丈夫なのか。>
<緊急対談
今回のロシアによるウクライナ侵攻はなぜ起こったのか?そして、極東有事はあるのか? 対談参加者 浅井隆、織田邦男、関和馬>
・浅井:専門家、あるいはロシアをよく知っている人ほど、まさかプーチンが本当にウクライナ侵攻をやるとは思っていなかったと言います。
(織田)すべては、2014年のクリミア半島併合から始まっています。これはプーチン独自の思想に基づく戦争です。ですからこれは、ロシアとウクライナの戦争ではなく、プーチンとウクライナの戦争なのです。
2014年はロシアが、言葉が変ですがクリミア半島を「見事に」併合しました。ほぼ、無血併合です。その伏線が2013年9月のシリア問題におけるアメリカ、オバマ大統領の対応にあります。
・クリミア半島は、九州の7割くらいの大きさで人口300万人の規模です。そこを、いとも簡単に陥としたわけで、プーチンはこれで自信を付けました。この時のプーチンのやり方が、“ハイブリッド戦争”でした。
・クリミア半島の併合はプーチンの思想そのもので、大ロシアの復活、それが彼の考えの根底にあります。大ロシア、つまりウクライナはロシアのものなのだと。それは決して譲れないのだと主張しているのです。彼は、それをずっと信条として持っています。そして、今回をそのチャンスと捉えているのです。
・実は、クリミア半島の併合から8年間、ドンバス地方ではずっと戦争をしています。クリミア半島は、無血併合でロシアが奪取しました。ドンバス地方では、ドネツク州とルガーンスク州の二つの州を含めて、確かに親ロシア派がいます。
・クリミア半島の住民は、不安に陥った中でうまく煽動されてしまい、結局ロシアになびいてしまったのです。その3週間後に住民投票をすると、なんと9割、本当は3割だったらしいのですが、9割の圧倒的な賛成で「民意は独立にある」という事実が捏造され、誰も反対できないようにされたのです。
織田:プーチンは最初、ドンバス地方だけを攻めるつもりだったのでしょう。そして、次の段階でウクライナを取ればよいと思っていたはずです。ところが、バイデンの弱腰、あるいはNATOがバラバラだったために、“これは行ける”と判断したと思われます。そして、ターゲットをキエフだ、ゼレンスキーの首だと判断したと思われます。ゼレンスキーの斬首作戦、主導者の首を取れば、簡単にウクライナが陥ちると考えて作戦を計画したと思います。
・今回のロシアの軍事作戦は、実はアメリカのインテリジェンス機関には、事前に察知されていました。
浅井:日本やウクライナでは、直前まで専門家までロシアによる侵攻は“ない”と言っていました。
織田:日本やウクライナの国民と同様に、ウクライナ大統領のゼレンスキーも平和ボケしていました。今は、英雄になっていますが………。戦争前は支持率が20%で、開戦後は90%まで上昇しています。
昨年の11月以降、バイデンは記者会見など主要なところで逐一情報発信しており、それらが見事に当たっているのです。
織田:そうです。結局、侵略を抑止できませんでしたね。侵攻の前の切羽詰まった1月19日、バイデンは「プーチンが動く可能性がある」と言っています。直前の2月10日「もう、全面戦争があるからアメリカ人はすぐウクライナから退避するように」と勧告しています。この時もまだ、ゼレンスキーは平和ボケしていました。
そして、2月18日には「ロシアが1週間か数日のうちにウクライナを攻撃しようとしている、信じるに足る理由がある。ターゲットは、キエフだ」と、ここまで言っています。そして、まったくその通りになっています。プーチンが決断したと確信していたのです。プーチンの側近に内通者を持っていた、ということですね。
・浅井:アメリカのインテリジェンスはすごいのですね。
織田:今回、見直しましたね。これだけのロシアに対する情報は、やはり冷戦から始まって長い時間の積み上げの賜物です。
そして、2月19日にオースティン国防長官は「ロシアが攻撃体制にある」と言及し、20日にバイデンが「大規模攻撃に出る」と言っているのです。この、アメリカからの再三にわたる情報開示を活かせなかったのがゼレンスキーその人なのです。今でこそゼレンスキーは英雄ですが、私は緒戦の失態の責任を負う必要があると思います。
織田:日本もそうですけど、ゼレンスキーという国のトップが平和ボケしていたのです。
他にもウクライナのレズニコフ国防大臣が1月26日、「攻撃が差し迫っているわけではない」と述べ、「侵攻寸前との発言は不適切だ」とまで言及しています。本当に危機が迫っており、そしてアメリカが散々警鐘を鳴らしているにも関わらずです。結果的には、アメリカの情報はほとんどが正しかったのです。
織田:ですから、あの映像を見るといとも簡単に空軍が壊滅的な状況に陥ったのがわかります。ゼレンスキーは、本当に攻撃して来ないと思っていたのでしょう。空軍に、「警戒態勢を取れ」という上からの指示を出さなかったのでしょう。
さらに一番重要なレーダーサイトもやられ、基地がやられました。滑走路はやられていません。なぜかといえば、後で自分たちが使うからです。他に、貯蔵庫をやられ、格納庫をやられ、通信施設をやられたのです。
・さて、結局プーチンの目的はゼレンスキーの斬首で、傀儡政権を作ることです。そうすることで、ウクライナは簡単にロシアの手に陥ちるだろうと思っていたのです。しかし、かなり大幅に目算が外れました。
織田:私がウクライナ人に「空軍は極めてだらしなかった。それに対して陸軍はよく頑張っていますね。なぜですか」と聞いたところ、即座に答えが返ってきました。「我々は、8年間戦い続けて来た」と、ウクライナの陸軍は8年間、ドンバス地方で培ったゲリラ戦や市街戦のノウハウを持っているのです。
織田:ゼレンスキーは、これまで3回暗殺に遭って生き延びています。ただアメリカの情報では、6月までにはやられてしまうだろうと言われています。厳しいですが、これが現実です。武器は援助してくれますが、援軍がないのですから仕方ありません。
小さな城の城主が、援軍がないことを理解した上で、籠城しているようなものなのです。ですから、数ヵ月経てばおそらくゼレンスキーは斬首されるでしょう。この時、第二のゼレンスキーが出て来るかどうかにウクライナの運命が掛かっています。
織田:さて、そのような状況の中、プーチンがしびれを切らし、キエフで化学兵器や戦術核兵器を使うかもしれません。市街戦では建物を破壊せずに、中にいるウクライナ軍を殺すには化学兵器が一番効果的です。ただ、国際法違反です。すでに散々国際社会から非難されていますから、「いっそのこと、キエフを全部破壊すればいいじゃないか」と「戦術核」を使っても不思議ではありません。
浅井:それは、ロシア軍にとっては大変な脅威ですね。
織田:はい。対戦車ミサイルの「ジャベリン」もそうです。操作が簡単です。今回のウクライナ侵攻では、ジャベリンが非常に効果的であることがわかりました。ヒットエンドランでいいんですよ。撃った後、逃げればいい。
・ロシア空軍の作戦としては、大きく二つあります。一つは近接航空支援です。端的に言えば、陸軍をいかに支援するかという空軍の作戦です。もう一つは航空阻止で、陸軍の動きに関係なく、作戦全局に必要な攻撃を行なうということです。日本の防弾チョッキにしてもそうですが、今まさに装備品や弾薬、ミサイルなど、これからもどんどんポーランドから国境を越えてウクライナに入って来ています。
航空阻止の極めて重要な役割の一つは、補給路を断つことです。
織田:もし、ポーランド国内の武器集積所を誤爆したとしたら、明確なNATOに対する攻撃です。ポーランドに対する攻撃は、NATO30国に対する攻撃を意味するわけです。その時、NATOはどうするのか?もし反撃しなかったら、NATOは終わりです。
織田:そう。プーチンは戦術核について一貫して言っています。「我々は核を持っているよ。とんでもないことになるよ」と。すると、多くの人が「プーチンならひょっとしたら使うかもしれない」と思わせることで、外交力、国防力、交渉力、抑止力を強化できるわけです。
今回のロシアの動向については、金正恩も習近平もじっくり見ているに違いありません。
織田:トランプも日和見ですからね。私は違う意味で「歴史にifはない」ということを考えてしまいます。1991年にソ連が崩壊し、ウクライナが独立しました。その時、ウクライナには1800発の核弾頭と180発のICBMが残されていました。
織田:そうです。金正日時代もそうです。クリントン政権の時に北朝鮮への攻撃が検討されたことがあります。アメリカの空軍将校と演習している時に聞いてみたのですが、北朝鮮にはトンネルが1万箇所あり、そのうちのどこかの中に火砲が入っているといいます。「全部叩けるのか?」と聞くと、やはり「無理だ。1万箇所同時に叩くのは無理だ」と。当時は金泳三が反対したとか何とか言われていますが、要は軍事的に叩けなかったということです。
織田:そして、INF条約で500キロから5500キロの射程のミサイルを全廃しました。これで誰が得したのかと言えば、中国です。中国から5500キロとなると、ワシントンには届かないですが日本列島全域とグアムには届きます。そういう核ミサイルが、中国には1250発あるわけです。片や、アメリカはゼロです。この状況はまずいということで、トランプは条約を破棄しました。今、アメリカは急ピッチで造っています。
織田:多くの人が誤解していますが、今、ヨーロッパで5カ国が保有するアメリカの核弾頭は、「戦術核」なんです。「戦術核」も「戦略核」もごちゃ混ぜに議論しているから、まったく議論になっていないんですね。安倍さんが言っている「核シェアリングがどうこう」とかいうのは、「戦術核」じゃないんですよ。日本の場合は、陸続きで戦車が来るわけではないし、船を沈めるのに核弾頭まで使う必要もありません。普通のミサイルでも十分です。では、なぜアメリカ軍がグアムや日本に中距離核を配備するかというと、それは北京を射程に収めるためです。INF条約の廃棄でゼロだった、アメリカの中距離核戦力が準備できたらそれを第一列島線に抑止力として配備しようという文脈は、中国の首都にナイフを突き付けるという話であって、それは実践的な核兵器の運用の話ではなく、外交カードとしての核配備、つまり「戦略核」なんです。
織田:もし、日本に中距離核を配備するなどということになれば、中国だって当然、似たようなことは仕掛けるでしょうね。市民活動家だけでなく、過激派や反社会組織、政治家、マスコミ、インタ―ネット、あらゆるところに中国の付け入る余地がありますから、妨害工作もそれは大掛かりにやるでしょう。
織田:これはまず、両者にとって時間が掛かるのは決してプラスにならない、という前提があります。その上でですが、長期化するとすればおそらくゼレンスキーは殺されます。その後、ウクライナ市民がパルチザン(非正規軍)みたいに自発的に武器を取り、抵抗を続けられるかどうかが分かれ目になるでしょう。ゼレンスキーの代わりとなるリーダー、第二のゼレンスキーが出て来て、国民を主導できるかどうかで変わってきますね。
もし抵抗を続けば、今度はロシアが国内から弱体化するかもしれません。なにしろ、あれだけの経済制裁を受け続ければ国はどんどん疲弊するし、戦闘が長期化してロシア兵がどんどん死ねば、そのたくさんの死体が国に帰って来るわけです。ロシアは今、一人っ子が多いんです。もし、自分の大事な一人息子が殺されたら、いかに強権政治下であっても絶対に反戦運動が出てきますよ。
織田:これは予想が付きませんが、ただロシアに未来はないでしょうね。プーチンも、これで終わりだと思います。
浅井:世界中がプーチンを、悪魔以下の存在として糾弾するでしょうね。
浅井:さて、いよいよ極東に話を移したいと思います。織田さんが先ほどから指摘している通り、中国の習近平と北朝鮮の金正恩は現在の情勢を目を皿のように注目していると思います。そして、それを教訓としてどう生かすかを、必死に思案していることでしょう。
中国は、「台湾は絶対取る」ということを言っています。一方で、台湾も蔡英文総統が「米軍が来ないことも想定して、自分たちで戦う」と言っています。台湾は日本とはまったく違ってすさまじい危機意識を持って臨んでいるわけですが、実際のところ台湾の軍隊は、人民解放軍に対抗しきれるほど強いのでしょうか。あるいはどの程度、戦い得るものなのでしょうか。
織田:彼らがどの程度本気なのかは、昔と今ではかなり違うと思います。
織田:周辺環境にも恵まれていたように思います。香港でああいうことが起こり、誰もが次は台湾だと危機を感じていました。だから、中国とのそうした関係をバッサリ切ってもあまり軍からも文句がでなかったわけです。
ある意味、あれが一つの契機になったのかもしれません。台湾は、この数年で生まれ変わったと思います。
織田:では、日本の自衛隊の時はどうするのかと言えば、秘密のパラメータももちろん使用しています。というのも、米軍と自衛隊は分業体制を敷いており、実戦で使うパラメータを使わないと訓練にならないからです。
織田:しかし、「台湾有事は日本有事」はそれだけの話ではありません。台湾が本当に攻略された場合、人民解放軍の空軍と海軍が台湾に常駐することになります。これは、非常にまずいことです。なぜかと言えば、日本のシーレーンを自由に操られてしまうためです。実際にこれをやられたら、日本は本当に中国の属国にならざるを得ないでしょう。なにしろ、経済的に立ち行かなくなるわけですから。
・浅井:それは、極めて深刻ですね。では、ウクライナ情勢が極めて深刻化している今、中国が何かことを起こす可能性はありますか?
織田:率直に言って、私はないと思います。今の時期にことを仕掛ければ、世界中から「火事場泥棒」とのそしりを受けるでしょう。中国は、実は以外にも国際社会の反応を気にする面があります。
織田:台湾で行なわれるハイブリッド戦争は、大規模な軍隊を用いずに行われると想定されます。「制脳戦」とも表現されますが、台湾の人々に「これはもうダメだ。中国に降伏しよう」と思わせるやり方です。
織田:今の中国では、能力的な問題でノルマンディ作戦のような上陸作戦を行うのは不可能でしょう。現在の中国軍の運用能力では、一度に運べる兵隊の数は2万5000人程度とされます。そして台湾は、地形的に見て北西部と南西部の海岸しか上陸作戦を遂行できません。この条件では、台湾軍は上陸軍を全滅させることが可能です。
織田:具体的には、ヘリボーン作戦で、5000人程度を台湾に送り込みます。中国本土から台湾までは高々百数十キロメートルですから、十分に可能です。100機くらいのヘリコプターを深夜に飛ばし、レーダーにジャミングをかけて一気に部隊展開し、5000人くらいで要所を抑えるわけです。総統府に行って蔡英文を拉致し、政府やマスコミなどを抑えれば作戦は成功です。後は、国民にデマを流せばよいのです。「蔡英文はアメリカに亡命した」と。いかにもそれらしい合成映像なども作って流せば、完璧でしょう。国のトップが逃げたのですから、残された市民が果たしてどこまで踏ん張れるか。まず、厳しいでしょうね。
・浅井:おそらく1万5000円くらいは下がるでしょうね。今が2万5000円くらいですが、それが1万円になっちゃう。あるいは、1万円割れるかもしれませんね。7000円台すらあり得ます。円も暴落して、1ドル=200円超えてしまいますね。こうなれば、もはや日本は恐慌です。
織田:はい。あくまで想定ではありますが、あり得るとしたらそういうハイブリッド戦争ではないかと考えています。我々は、「こういうシナリオはあり得ますか?可能性はどのくらいですか?」という問いは考えません。そうではなく、今、彼らが戦うとしたらどんな戦い方があるのか、ということを考えるわけです。たまに、中国がノルマンディ作戦みたいに堂々と台湾に上陸して………というような話をする方もいるのですが、我々の立場ではそれを考えてもしょうがないというか、現実的な選択肢ではないから考えないのです。
・浅井:たとえば中国が、ハイブリッド戦争などで台湾を攻撃する時、同時に八重山群島を攻撃することはないですか?
織田:それはないでしょうね。人間のいるところを攻撃して戦術的に何の意味があるのか、ということです。それよりも久場島に「S-400」を設置することの方が戦術的価値は高いでしょうね。尖閣は五つの島からなりますが、久場島と大正島はいまだにアメリカの射爆撃場なのです。尖閣というと、なんとなく切り立った岩肌の使い道のない島のようなイメージですが、実は上空から見ればよくわかるのですが、久場島は平たんな開豁地(かいかつち)(目の前が開けて遠くまで見通せる土地)なのです。山もありません。あそこにレーダーを置けば、戦術的な意義は大きいでしょう。
織田:いえ、それをやったら間違いなく中国が攻撃しに来ますよ。戦争になりますね。それで、どうやって中国が「S-400」を置くかということですが、民兵を使えば現在の日本では対応ができません。海上民兵です。
彼らは、漁船なのに機雷敷設の訓練などをやっているのですよ。そんな船が、70万隻もあります。大体の漁船は、海上民兵に登録しています。登録した漁船には、「北斗」(中国版GPS)の端末が載せられるのですが、この「北斗」はアメリカのGPSシステムと違って、テキストメッセージが送れるようになっています。これを使って、中国側が登録漁船に「どこどこに集合」とメッセージを送れば、それこそ雲霞(うんか)のごとく漁船が集まるわけです。
・そこで、私が中国軍だったらこの海上民兵を使って海警にその支援をさせます。そうすると、もう日本は事実上対応不能になるでしょう。なにしろ、今日本で対応できるのは海上保安庁だけで、しかも表向きは有事ではありませんから、彼らは武力行使できません。
・浅井:さて、話はウクライナに再び戻りますが、昔、ソ連が健在だった頃、ソ連による北海道侵攻論と言うのがありました。ソ連崩壊後にわかったことは、旧ソ連には極東地域に上陸用舟艇などまったく存在せず、単なるお話に過ぎなかったということです。それなのに、日本ではとんでもない尾ひれが付いて、多くの専門家が本気で議論していたのです。今後は、どういう展開になるとお考えですか?
織田:今進んでいる、ロシアのウクライナ侵攻が仮に成功したら、という前提でお話しします。ロシアはまず、グルジアに手を出し、その次にかつてウクライナの領土だったクリミアに侵攻し、そして今回、ウクライナ本体に侵攻して来たわけです。これは何を意味するかと言うと、ロシアと国境を接する国が、非NATOであることにこだわっているのです。そしてもし、ウクライナを完全に掌握した暁には、バルト三国へと向かうはずです。特に、ロシアと国境を接しているのはエストニアとラトビアの二カ国ですね。
NATOの一番の弱点と言われるのは、バルト三国とポーランドの間の65キロにわたる国境なのです。
・織田:長い目で見ると、ウクライナ侵攻はプーチンの戦略的過ちと言えます。と言うのも、中立のフィンランド、スウェーデンまでNATO側に行ってしまう、さらにあの永世中立国のスイスまでNATO側の対ロシア経済制裁に加わってしまったのです。ロシアの国益にとっては、とんでもないマイナスです。
・関:ちなみに、中国はウクライナ侵攻のことを、事前にプーチンから知らされていたと思われますか。
織田:その詳しい内容までは、知らされていなかったのではないでしょうか。しかし、習近平は「北京オリンピックの最中だけはやめてくれ」と要望は出していたのではないかと思います。
織田:西で軍事活動をする場合、ロシアの特徴として、東でもちょっかいを掛けるのです。領空侵犯したりして、ロシアには東にもちゃんと戦力があるよ、というフリをする。これを必ずやります。だから、あまり心配する必要はありません。
織田:ロシアは、軍事力のほとんどを西(ウクライナ)へ持って行っていますし、ロシア陸軍の数は意外と多いように見えますが、その中でちゃんと使えるのは33万人くらいと言われています。
浅井:そのうちの20万人近くを、ウクライナに投入してしまったわけですね。
織田:しかも、動かせない部隊というものもあるわけです。その特定の場所に張り付かせておかなければいけない部隊ですね。そこで、動かせる部隊を全部終結させて、今回19万人をすでに投入したと言われていますが、今度さらに予備の部隊も投入すると言います。昔から、予備のない戦いは負け戦と言われます。その予備まで投入せざるを得ないというのは、もはやムチャクチャです。ロシアは、相当苦戦している証拠ですよ。それで、これからキエフで市街戦をやるといいますが、徴兵制の兵隊を投入してもできるわけがない。
織田:ロシアは今、予備兵力が底を突き始めているので、今回のようにシリアに頼んだり、さらにはアフリカにロシアの「民事軍事会社」の要員を派遣していますが、その要員も出してくれと要請し始めているのです。これがまた、ムチャクチャ残虐そのものの元兵士なのです。
・浅井:プーチンなどは、毒殺から始まってあらゆる虐殺をして来ているわけですから、核も効果的な手段の一つくらいにしか思っていませんね。そういう意味で、ロシアがウクライナで核を使うというのは、私は十分にあり得るシナリオだと思います。ただ、そうなったら世界経済はかなり動揺しますね。
関:話は変わりますが、米軍の第一優先はやはりアジアだと思うのですが、今回の件で中長期的な戦略の変更は起こりえますか?
織田:いえ、おそらくはその路線は変わらず、むしろより強化されますね。事実、NATOの正面配備はやらず、中東やアフガンからも手を引いていることからも明らかです。すべて東アジアへの重点配備のためです。
・今のアメリカの戦略では、主敵は中国ということを明記しています。したがって、「NATOは自分で頑張ってくれ」という話になっています。バイデンは、欧州への対応が弱腰というのではなく、世界全体を戦略的に捉えてバランスを見ているんですね。
・さて、ウクライナがなぜ戦争を未然に防止できなかったのか。彼らには三つの方策があったはずです。一つ目はNATOに入ること、二つ目は同盟国を持てないなら強烈な核を持って自衛力を身に付けること、三つ目はロシアの属国になることです。
浅井:それって、日本もまったく同じですね!
織田:そうです。三つ手があったのにやって来なかったというのは、ウクライナが完全に平和ボケしていたということですが、日本は彼らを批判することはできません。日本もまったく同じ状況で、しかも同じようになにも対策できていないですから。アメリカが東アジアに関与し続けない限り、日本は独立国として平和に生きて行くことはできませんから、日本は何が何でもアメリカをつなぎとめておく必要があります。
もしも、つなぎ留めておくことができなくなるならば、その時は日本も核を持つしかありません。核兵器を作るのは時間が掛かるため、そのスキを突かれる可能性があります。その意味で、アメリカの核を日本に配備するという、「核シェアリング」は有効な手と言えます。しかもこの手は、アメリカにとっても「渡りに船」となります。
織田:今年に入ってからも1月に7回、2月に1回、3月に2回の計10回の「飛翔体」発射が確認されていますが、実はあの弾道ミサイル実験はワシントンを標的にしたものです。ワシントンにまで届く弾道ミサイルは、大気圏外近くに射出して大気圏に再突入する時には「マッハ20」もの高速になります。こうなると、空気との摩擦によって弾頭が溶けてしまうのですが、その問題を彼らはまだ解決できていません。
・今、行っているのは、まさにその弾頭の熱処理のための実験でしょう。上空500キロメートルにまで飛翔し、300キロメートル先に落としてそれを観測することで、大気圏再突入に耐え得る弾頭の開発を行なっているのです。近くに落としているのは観測のためであって、飛ばせる能力が低いからではありません。
浅井:では、北朝鮮は日本を射程圏に収めているということですね。
織田:その通りです。もう、とっくに核攻撃できるようになっています。ミサイルで核弾頭を飛ばせば、10分で東京に着弾します。そして弾道ミサイルの種類にもよりますが、もし短距離弾道ミサイル「イスカンデル」のように、途中で軌道の変更が可能な準中距離のミサイルが開発・使用された場合には、残念ながらこれを迎撃することは原理的に不可能です。
・つまり、ひとたびミサイルが発射されてしまえば、都市クラスの標的は確実にやられてしまうということです。したがって、もし北朝鮮から「東京に核を落とすぞ」と脅されたらどうするか。それはもう、発射される前に、つまり北朝鮮の地上で叩くしかないわけです。
ミサイル防衛の話が出ましたのでちょっと言及しておきますと、2015年の日本のガイドラインでは弾道ミサイル防衛は日本が主体的に対応し、アメリカはこれを支援・補完するとされています。そして、ミサイル防衛の範囲がどこまでかというと、飛んで来たものを撃ち落とすに留まらず、発射前の地上にあるミサイルを叩くこともその範囲とされているのです。
・参考までに、敵基地攻撃能力という議論をする時には、大きく分けて三つの攻撃目標に分けて議論する必要があります。一つは官邸や国会議事堂などの政権中枢、二つ目は軍事司令部や通信施設、補給処など、そして三つ目はミサイル自身です。
・しかし残念ながら、わが国に「敵地のミサイルを叩く」能力はありません。技術的には十分に可能であるにも関わらずです。固定式発射台ならいざ知らず、「TEL」(輸送起立発射機)のような移動式の発射台を狙うことは無理だという議論もありますが、そんなことはありません。リアルタイムで発射準備を捉えることさえできれば、十分にこれを潰すことができます。
・問題は、どこからミサイルを撃とうとしているか特定することです。残念ながら、今の偵察衛星ではこの特定はできません。衛星コンステレーションが必要となります。小さい人工衛星をたくさん上げて、これをリンクさせることでリアルタイムで全地表面を網羅するという方法です。いくらお金が掛かるか詳しくはわかりませんが、実現にはかなりの予算を割く必要があります。たとえば、アメリカと共同して実現させるなどの方策が必要でしょう。
ただ、いずれにしてこのようなミサイル防衛能力を保有することは、政治・外交的に極めて重要です。
織田:「いかに敵と戦うか」よりも、「いかに戦わせないか」という、戦争を未然に抑止する方策こそが重要です。日本では「敵地攻撃能力」の攻撃目標として敵地の政治中枢も軍事中枢もミサイルも全部ごっちゃの議論をしていますが、そんな浅薄な議論をしていてはいけません。敵地にある「何を」攻撃するのか、きちんと切り分けて精緻に議論すべきです。
<石破茂氏「インタビュー」ウクライナ情勢――この不可解な戦争>
・今回のロシアのウクライナ侵攻は、軍事的にも財政的にも不可解な点が多いと思っています。あらゆる点で侵攻することがロシアの国益にかなうとは思えない状況で実際に侵攻に踏み切ったことを考えると、今後の予測は極めて困難です。
・2014年にロシアがウクライナ領のクリミア半島を併合した際、欧米から経済制裁を受けましたが、そのころからロシアは将来的な制裁を見越して、世界の金融システムへの依存度を低減させる取り組みを続けてきました。具体的には、外貨準備の積み増し・多角化・脱ドル化、そして財政の健全化です。
・日本の政府債務の対GDP比は、250%近くにおよんでいますが、ロシアの政府債務の対GDP比は18%程度に抑えられています。これは、かつてのルーブル危機で懲りたという面もあるかもしれません。
・このように、ロシアは以前から、最も厳しい経済制裁を受けたとして何年それに耐えられるのか、ということをシミュレーションしてきたのではないかと思います。
・軍事面における不可解な点としては、まず、前時代的とも思える戦車を用いた侵攻方法です。
・このような極めて効率の悪い戦車を大縦列で用いる戦い方は、およそ第ニ次世界大戦時代のものです。しかも民間人に多くの死傷者を出せば、ウクライナ人の反ロ感情が高まります。今回、ロシア軍があえてこうした戦い方を採用している理由が、私にはまったくわかりません。
・プーチン大統領は、このような米軍の実力を認識しており、その証拠に大統領就任以来、一貫してロシア軍の近代化を図ってきました。にもかかわらず、今回の前時代的な戦術は極めて不可解です。
ロシアは、第二次産業(製造業・加工業)がほとんど発展していません。
ロシア経済は、原油やLNGを売って成り立っています。それを原資に年金制度を充実させたことで、プーチン大統領は国内の支持を盤石なものにしてきました。
しかし、数年前に高齢化や財政健全化などを理由に、年金支給開始年齢を男性60歳から65歳へ、女性55歳から60歳へ引き上げると発表しました。ロシア人の平均寿命は男性68歳、女性78歳ですから、特に男性は「それじゃ年金がもらえないじゃないか」と多くの国民が憤り、プーチン大統領の支持率が低下したと言われています。
そんな中、国家財政から考えても、クリミア併合は大きな負担となっています。それに加えて今回の侵攻ですから、なぜさらなる負担を強いられる選択をしたのか釈然としません。
・米国は、ときに同盟関係にない国のためにも参戦しています。湾岸戦争ではクウェートを助けましたが、クウェートはNATOでも同盟国でもありません。
・今、ウクライナのゼレンスキー大統領が注目を浴びています。「俳優出身の大統領にしてはやるな」といった高評価が目立ちます。確かに素晴らしい大統領だと思いますが、私はあまりに彼が持ち上げられている風潮にも違和感を覚えています。
・プーチン大統領は、ウクライナ侵攻の目的として二点を挙げました。一つはウクライナの「非軍事化」、そしてもう一つはウクライナの「非ナチス化」です。
これはあくまでもロシア側の言い分ですが、ウクライナには「アゾフ大隊」と称するネオナチ集団があり、2014年5月にウクライナのオデーサという港町で起こった数十人のロシア人の殺害を指導したのがアゾフ大隊だとされています。あながち、すべてがプロパガンダであるとも言い切れません。2015年くらいから、アゾフ大隊をCIAが援助しているという話も聞かれます。
私は決してロシアの肩を持つつもりもありませんし、ロシアの侵攻はどこをどう取っても国連憲章第二条第四項違反であり、まったく正当化されるものではありません。ただ、この紛争をどうやって終わらせるか、と考えた時にロシアの言い分をまったく無視することはできません。終結に向けた交渉のためには、単純な敵と味方という構図は役に立たないのです。
この点に関しても、各国の知恵と力が必要です。
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