漢の武帝が男鹿を訪れ、五匹の鬼を毎日のように働かせていたが、正月十五日だけは鬼たちが解き放たれて里を荒らしまわったという伝説があり、これを起源だとする説もある。(3)

<野原の「サティパロウ」>

・野原では、この行事を「サティ(里)パロウ(祓い)」という。旧暦12月最後の丑の日に実施され、旧正月前に人々を祓い清め、福を迎え入れる行事である。

・この「パーントゥ」の行事には、琉球王国の誕生以前から続いている「ニライ・カナイ」という信仰が認められる。宮古島では「ニライ」は「ニッジャ」と呼ばれていて、死者の魂は、そこに帰って祖霊神になると信じられている。そしてその祖霊神が年に1度、海の彼方または海の底から「マレビト」として集落の家族のもとへ異形の神の姿「パーントゥ」として現われると信じられている。

 一方、八重山の人々は、「ニライ・カナイ」を「地の底」とみている。八重山では、地下の深いところを「ニーラ底」といい、井戸を掘った時、深い底にいる虫を「ニーラ・コンチェンマ」という。このように八重山の人々は「ニライ・カナイ」を海の彼方ではなく、「地の底」と考えているのである。

・琉球文化圏の来訪神信仰には、この「ニライ・カナイ」と呼ばれる異界観が認められる。「ニライ・カナイ」とは、人間の魂が死後赴く世界であると同時に再びこの世に戻ってくる、いわば、魂の原初となる所であると考えられている。

 琉球文化圏の地域では、宮古島の「パーントゥ」をはじめ、八重山列島に伝わる「アカマタ・クロマタ」、「ダートゥーダー」、「ミルク」、「アンガマ」、石垣島の「マユンガナシ」、西表島の「オホホ」など様々な来訪神がよく知られている。

<来訪神用語辞典>

●異界(イカイ)

・「異界」は日常社会から離れた所に存在する非日常の世界と考えられている。ヨーロッパでは、森、洞窟、泉などが異界と考えられ、そこには不幸をもたらす悪魔、魔女、妖怪などが棲息しているといわれる。一方、人間を幸せにしてくれる神や精霊、祖先霊などもそこにいると信じられている。

 来訪神は、こうした「異界」から威嚇と慈愛の二面性を持って季節の変わり目にやってくる。人々は迎えた来訪神を「祭り」の「ハレの日」に歓待、交流し、再び「異界」へ送るのである。

 日本では、山中、海上、海底、地下世界などが「異界」と考えられており、そこには、神や仏、祖霊、精霊などの善霊の他に鬼や幽霊、怨霊などの悪霊も棲んでいると信じられていた。

●異人(イジン)

・文化人類学者の岡正雄は、論文「異人その他」の「異人論」の中で、秘密結社において人が扮した来訪神を「異人」と呼んでいる。

 秘密結社においてその男性構成員が定められた季節の変わり目に恐ろしい仮面をかぶり、異様な服装で、音を出してその出現を奉じ、家々を巡り歩く。子どもたちには訓戒を与え、言うことをきかぬ子には威圧を与える。迎えた家の主人は、訪れた異人、仮面・仮装の神に酒を振るまい歓待する。

●鬼(オニ)

・人々に危害を加える邪悪な霊や死者のイメージを基本としながら、祝福をもたらす性格も合わせもった存在を鬼という。

 中国の鬼は死者の魂や亡霊を意味し、現在でも、中国や台湾では「鬼」といえば、基本的に死者の幽魂を指す。

 日本語の鬼の語源については「隠」が変化したという説がある。折口信夫は古代の和語においては神と鬼は同義であったという説を提唱し、時代の変化の中で恐怖のイメージや邪悪な性格のみが鬼に集約されるようになったと考えた。

・折口が指摘した神と一体化した鬼は男鹿の来訪神「ナマハゲ」に代表される鬼で、折口は「ナマハゲ」を「春来る鬼」と呼び、時を定め海の彼方から来訪する「マレビト」であると考えた。これは日本の鬼の原型であるといえる。

●神(カミ)

・人間の認識を超えて、幸いと共に厄災をももたらす存在で、善神・悪神を含む。神は元来、不可視で、雷など自然現象として示現し、木や石、鏡、剣御幣などを依代に宿り、人に憑依し、託宣する。神は基本的に「アニミズム」と呼ばれる霊的存在への信仰に根差している。その内容は多様だが、家の先祖も神とされ、社会構造と密着した「祖霊」でもある。

 柳田國男は「祖霊」が山に鎮まって、「山の神」となり、春には農耕を守り、里に降りて「田の神」となり、秋の収穫後、山に帰るという循環性を強調した。

●眼光鬼(がんこうき)

・「赤神山大権現縁起」によれば、5鬼について次のように記されている。『すなわち「眉間(みけん)」と「逆頬(さかつら)」は夫婦で、「眼光鬼(がんこうき)」、「首人鬼(しゅじんき)」、「押領鬼(おうりょうき)」は子どもの3兄弟である』

 この「眼光鬼」は、「ナマハゲ」の起源と伝えられている3匹の鬼のうちの1匹であり、これらの5鬼は武帝の使者として5色の蝙蝠に姿を変え武帝と共に天より男鹿に飛翔したと伝えられている。赤鬼と共に五社堂に祀られている。

●常世(トコヨ)

・古代日本人の他界観をあらわす代表的な語。「常世」という語は『古事記』や『日本書紀』にみられる。これらの文献から民俗学者の柳田國男や折口信夫は「常世」を他界観や異郷意識の問題として掘り起こした。

 折口信夫は「常世」と「常夜」は上代の特殊仮名遣いの違いから別語と考えられているが、折口はこの「常世」から「マレビト」と呼ばれる来訪神が訪れると考えた。そして「常世」を日本人の他界観や異郷意識の根本に関わる問題として捉えた。折口がこのように「常世」を来訪神の故郷と考えるようになった背景には、沖縄の「ニライ・カナイ」の信仰があったといわれている。

●秘密結社(ヒミツケッシャ)

・共通の目的のために組織される継続的な団体で、その団体の存在が構成員により秘匿されている団体。文化人類学者の岡正雄は『異人その他』に収録されている「日本民俗文化の形成」の中で「異人」の文化を「母系的・秘密結社的・芋栽培―狩猟文化」と規定する。この「異人」の文化は「ナマハゲ」に代表される日本の来訪神の文化にも認められる。

 岡正雄はメラネシア及びポリネシア社会における「秘密結社」の役割に強い関心を示し、それがメラネシア又はポリネシアの社会生活の根幹をなすものと指摘している。この「秘密結社」では、未成年や女性の参加は認められていない。

●魔多羅神(マタラジン・マタラシン)

・慈覚大師円仁が中国大陸より、請来したと伝承されている。読み方は「マタラジン」または「マタラシン」。

 「魔多羅神」は天台系寺院の念仏の道場である常行堂の「後戸」に祀られている神。

●マレビト

・民俗学者で国文学者の折口信夫によって1929年に提唱された概念で、海の彼方の異界から時を定めて来訪する神のこと。「まろうど」とも呼ばれる。

●山の神(ヤマノカミ)

・山に宿ると信じられている神霊の総称。「山神」ともいう。

 神道では、大山祇神(おおやまつみのかみ)とその娘の木花開耶姫(このはなさくやひめ)が「山の神」にあたる。大木や樹木を依代として祀る。

 柳田國男は農民の信仰する「山の神」は春になると、山から里にくだって「田の神」となり、秋の収穫が済むと山に帰って「山の神」となると考え、「山の神」が「祖先神」や「田の神」と同一の神であるとした。

●アスムイウウタキ(安須森御嶽)

・国頭村辺戸の標高248メートルの岩山で、ヘドウタキ(辺戸御嶽)とも呼ばれる琉球「開闢七御嶽」のひとつで、最初に作られた聖地。

「ニライ・カナイ」から渡来した来訪神「アマミキヨ」が天下りして最初に作ったウタキ(御嶽)といわれている。「アマミキヨ」は琉球王国の創始神だが、神話において王と水の関係は重要である。

●アマミキヨ、シネリキヨ

・琉球神話に登場する琉球王国の開闢の女神と男神。琉球最古の歌謡集『おもろさうし』には、「アマミキヨ」と「シネリキヨ」の2神が太陽神に命じられ、島々と人間を創造したという神話が謳われている。この2神は島々を創造した際、琉球王国にウタキ(御嶽)も造ったとされる。

●アマンチュ(天人)

・竹富島の「タナドゥイ(種子取祭)」の「キョンギン(狂言)」に登場する老翁の姿をした来訪神。琉球王朝の神話に登場し、沖縄本島および周辺の島々を造ったとされる国造りの来訪神。

●ウシュマイ(翁)

・八重山諸島では、旧暦お盆に実施されている来訪神行事「アンガマ」に登場する木彫りの面をかぶった来訪神。八重山諸島の島々では、旧暦のお盆に、あの世から「祖先」である「アンガマ」がやって来ると信じられている。

●ウタキ(御嶽)

・琉球王国が制定した琉球の信仰における集落の守護神を祀る聖域の総称のこと。

●キンマモン(君真物)

・琉球神道に伝わる女神。別称「キンマンモン」ともいう。漢字で「君真物」と表記される。これは「最高の精霊」という意味、海の彼方の「ニライ・カナイ」から来訪し、最高神女の「キコエオオキミ(聞得大神)」に憑依する人の目には見えない来訪神。海底の宮に住むといわれている。

●グショー(グソー、後生)

・死後の世界のこと。仏教用語の「後生」と同じ。琉球では、死後、七代して死者の魂は親族の守護神になるという考えが信仰されている。

●ジョウギモチカンサー

・加計呂麻島の瀬戸内町木慈の集落の背後のオボツ山から下ってくる来訪神の大工神のこと。この神は建築用の木の定規をもって、敏速に動き、集落をまわり、やがてオボツ山に帰っていくと伝えられている。

●チカタカイ(地下他界)

・人間の暮らす世界とは別の世界を他界と呼ぶが、その他界を地下に想定したものを地下世界という。「ニルヤ」ともいわれる。沖縄では、仮面・仮装の来訪神は海の彼方の海上にある「ニライ・カナイ」から来ると信じられているが、来訪神は地下の他界から出現すると信じている地域もある。

 また地下の他界から訪れる来訪神は、海の彼方から訪れる来訪神よりも古い姿であると提唱する研究者もいる。

●ホンジャー(大長者)

・竹富島の「タナドゥイ(種子取祭)」の8日目に仲筋村の奉納芸能として上演される演目、踊りキョンギン(狂言)「仲筋ホンジャー」に登場する翁姿の神。「ホンジャー(大長者)」は芸能の統括者、責任者であり、芸能の神様として君臨する神。その姿は白髪の翁で、鉢巻きをしており薄に粟の穂をつけた棒を持つ。

●マブイ

・霊魂のこと。「マブイ」には「イチマブイ」と「シニマブイ」の2種類があると信じられている。「イチマブイ」は生きている人間の霊魂であり、「シニマブイ」は死後まもない死者の霊魂のことである。

●ミルクガミ(弥勒神)

・「ミルク」は弥勒の神のこと。

・八重山諸島では、各島に様々な来訪神の「ミルク神」が出現する。

●リュウグウシン(竜宮神)

・竜宮神、竜宮の神、竜神、竜王のこと。南西諸島の海神信仰は種類が多い。

<世界の仮面・仮装の来訪神>

●スイスのジェラ州ル・ノワールモンでは、懺悔の3が日の直前の満月を知らせるために「オム・ソヴァージュ」と呼ばれる来訪神「ワイルドマン」が現われる。「野蛮人」という名前の通り、全身毛むくじゃらで、手には棍棒を持っている。

・特に「オム・ソヴァージュ」はお気に入りの少女の1人を捕まえて、顔を靴墨で黒く塗り、泉に連れて行って、水の中に投げ込む。「オム・ソヴァージュ」は海の彼方から訪れる神だと考えられている。

・この「オム・ソヴァージュ」は沖縄県宮古市の島尻で毎年、旧暦9月上旬の2日間現れる来訪神「パーントゥ」に類似している。

●カリカンツァロイ

 19世紀ギリシアの来訪神。毎年、「十二夜」にギリシアでは、「カリカンツァロイ」と呼ばれる「恐ろしい化けモノ」が徘徊すると信じられていた。これは巨人で、身体も顔も真っ黒で、毛むくじゃら、腕と手は猿の腕と手で、目は赤く光っており、耳は山羊の耳をしている。「十二夜」以外は地下の世界に棲んでいると考えられている。

●キェカタス

 バルト海沿岸のラトビア共和国の仮面・仮装の来訪神行事。この行事は冬祭りの12月24日夕方から行われる。この日はラトビア人にとってはクリスマスではなく冬至の日にあたる。この行事では、熊、山羊、牛、魔女、小男などが登場する。

・仮面・仮装した来訪神の「キェカタス」は熊を先頭に暗闇迫る雪道を歩いて家々をまわる。

●ケルヌンノス

 ケルト神話の狩猟の神、冥府神。「ケルヌンノス」は頭に2本の角を持っている。この角は牡鹿の角といわれている。この神はガリア(イタリア半島北部、フランス、ベルギー、スイス、オランダ、ドイツの一部地域)の人々に崇拝されている。

●シヴァ神

 ヒンドゥー教の神。「シヴァ」は「吉祥者」の意味。この神の神話では、慈悲深い面と恐ろしい面の二面性を有する。この二面性はギリシアのディオニュソスに通じる。アレクサンドロス大王の時代の文献には、「シヴァ」は「インドのディオニュソス」と呼ばれている。

 また日本の七福神の中の大国天は、「シヴァ」から発展した神格であると考えられている。

●シャープ

 オーストリアの農村地帯のミッテンドルフの村では、12月5日の夜、「ニコロシュピーレン」という仮面・仮装の行事が開催される。そこには、麦藁で全身を包み、ムチを打ち鳴らす「シャープ」という精霊が登場する。村の人々は麦藁には穀物霊が宿ると信じている。

●シャドウ

 影のようなもの。幽霊。人間の影のような真っ黒な姿をしたものを「シャドーピープル」または「シャドーマン」という。アメリカなど世界各地で目撃されたという報告が伝えられている。

●シャナルト

 中国四川省平武などの海抜2000~3000メートルの峡谷地帯に居住し、白馬語を話す民族、白馬チベット族(ベマチベット人)は、万物に霊を認める原始宗教を信仰している。これらの神々の最高位の山神で別名「白馬爺さん」と呼ばれている神のこと。

・この期間には、「十二相」と呼ばれる魔除けの仮面をかぶった仮面踊りが奉納される。各村はそれぞれ固有の山神を信仰しており、シャナルトはそれらの総合神である。

 多くはチベット仏教を信仰せず、チベット族とは異なる宗教観を持つ。

●シュトローマン(藁男)

 ドイツのライブフェルディンゲンでは、カーニバルに「シュトローマン」と呼ばれる藁男が登場する。

・この藁男は日本の佐賀県佐賀市蓮池町の見島地区で毎年2月第2土曜日の晩に行われる「カセドリ」の扮装に類似している。「藁男」は「カセドリ」と同様に悪霊を退散させる目的で行われる。

●シルバチカリ、シルバチカリチ(年神)

 ブルガリア、ベルニク州の地方では、かつて聖バシリウスの日だった1月13日に「シルバチカリ」という来訪神が現れる。

・またブルガリアのバニシテの「シルバチカリ」は、ラフイアの繊維で作った衣装をまとい、角をつけた仮面か、革や鳥の羽根で飾った丈の高い仮面をつける。仮面の形は村によって様々である。

 レスコヴェツの「シルバチカリ」は毛皮をまとって2本の角をつけている。この地区では、「シルバチカリ」の角を特に重要視している。突き出した顎には数本の牙もつけられている。

●ディオニュソス

 ディオニュソスは古代ギリシアの葡萄酒の神であり、演劇の神。この神は冬に外からギリシアの村々を訪問すると信じられている神で、その祭礼は、どれも外からやってくる来訪神のディオニュソスを迎えるための祭りである。

・西洋古典学者の吉田敦彦は、古代ギリシア神話に登場するディオニュソスと日本神話に登場する須佐之男命とは大変共通するところがあると指摘。共に「来訪神としての性格を持っている」としている。

●デーモン

 ギリシア神話では、半神半人。ギリシア語の「ダイモーン」を語源とする。キリスト教では、「デーモン」は邪悪な悪魔を意味するが、古代ギリシアの「ダイモーン」は「精霊」や「鬼神」を意味する超自然な存在である。

●テルフス・ヴィルダー

 オーストリア西部に位置するチロル州のテルフスでは5年に1度、1月あるいは2月の日曜日に「シュライヒャーラウフェン」と呼ばれるテルフスのカーニバルで仮面行列が開催される。

 その仮面行列には、「ヴィルダー」と呼ばれる来訪神が登場する。

・ヨーロッパの伝説では、異類婚で生まれた者を祖先としていることが多い。「ヴィルダー」は動物の毛皮などを身にまとい、仮面をつけて登場する。

●ドゥク・ドゥク

 ニュー・ブリティン島やニュー・アイルランド島の死者の霊。時を定めて海の彼方から来訪神として訪れる。

・文化人類学者の岡正雄は、ニュー・ブリテン島の「ドゥク・ドゥク」のような来訪神と、秋田県男鹿市の「ナマハゲ」や八重山諸島の「アカマタ・クロマタ」のような日本の来訪神との間に親縁性があると考えた。そして岡は集落の人々の祖先(祖霊)崇拝から「ドゥク・ドゥク」が死者の国から訪れるという宗教観念が生まれたと考えた。来訪神の文化の基盤をなす観念も、こうした海の彼方から時を定めて「祖霊」が死者の国から訪れるという宗教観念によって生まれたと考えられている。

●トリックスター

 各国の神話の中で自然界の秩序を破り、物語を展開するもので、善と悪、破壊と生産など、異なる両面性を持っているものを「トリックスター」という。

・日本の神話では、須佐之男命、猿田彦がトリックスターの原型と考えられている。ナマハゲに代表される人神的来訪神の「マレビト」にも、トリックスターのもつ両面性が認められる。

●ナハトイエーガー

 ゲルマン民族の「百鬼夜行」。夜に暴れまわるため「夜の狩人」と呼ばれている。

●ハーベルガイズ

 一説には、ヤギをデフォルメした妖怪的な怪物ともいわれているが、白い髯の雄山羊の仮面をかぶり、白布で全身を包んでいる動物霊である。

●パヒテル

 オーストリアの農村地帯のミッテンドルフの村では、12月5日の夜、「ニコロシュピーレン」という仮面・仮装の行事が開催される。

●バリーマン

 8月の第2金曜日にスコットランドのサウス・クィーンズフェリーのフェリー・フェアには、「バリーマン」と呼ばれる来訪神、草木の精霊が現われる。

●ハロウィン

 10月31日に行われる「ハロウィン」は古代ケルト人が起源と考えられる祭り。

●ピィー信仰

 主にタイ族が信仰する精霊信仰。「ピィー」とはタイ語で「精霊」などの霊を意味する語。

●ファストナハト

 ドイツ、スイス、オーストリアなどの山岳地帯では、カーニバルは「ファストナハト(謝肉祭)」と呼ばれている。

●フィブ

 中国貴州省イ族の正月儀礼「撮泰吉(ツォタイジー)」に登場する来訪神。猿が歩くような異様な歩き方をする。

●ブショーヤーラーシュ

 ハンガリー南部、ドウナウ川の流れる街モハーチで、クロアチア人の一派とされる民族集団のショカツ人によって行われる、毎年恒例の祭事。

 この祭りには、「ブショー」と呼ばれるハンガリーの「ナマハゲ」ともいえる来訪神が登場する。

●ペール・ノエル

 フランスの北部や東部では、「ペール・ノエル」というナマハゲのような存在が信じられている。

・やがてこの「ペール・ノエル」が聖ニコラウスとなり、現在のようなサンタ・クロースが子どもにプレゼントを配るという形態になったのである。

●ヘクセファストナハト

 謝肉祭の仮面・仮装の行列で中心的な存在は「ヘクセ」と呼ばれる魔女である。

●ベルツメール

 ドイツのバーデン=ヴュルテンベルク州バート・ヘレンアルプのクリスマスには、藁男の伝統を受け継いだ「ベルツメール」と呼ばれる「ドイツのナマハゲ」が現れる。

●マオグース(毛古斯)

 中国の湖南省西部の少数民族のトゥチャ族では、来訪神を「マオグース」と呼ぶ。これはトゥチャ族の語で「毛むくじゃらの祖先」という意味で、その装いには茅または稲藁が使用される。

●マホモ

 中国貴州省のイ族の正月儀礼「掃火星」という民俗行事の中で演じられる「撮泰吉(ツォタイジー)」に登場する黒い髭の面をつけた1200歳の人物。中国の来訪神。

●マンガオ

 ミャオ族の人々は来訪神を「マンガオ」と呼ぶ。「マンガオ」はミャオ語で「古い祖先」を意味する。

●メラネシアの仮面・仮装の来訪神

 メラネシアの諸島では、バンクス諸島のタマエ、ニュー・ブリテン島のドゥク・ドゥクなどに来訪神儀礼を中心とした秘密結社がある。

●ヨンドンハルマン

 慶尚道地方を中心とした韓国南部の農村や済州島で2月1日に風雨の神を迎える祭りの名称であり、その祭りで出現する風雨の神である来訪神の名称。

●ルガアプ

 中国貴州省イ族の正月儀礼「撮泰吉(ツォタイジー)」と呼ばれる芸能に登場する、面をかぶらない山林の老人。「ルガアプ」はイ族の祖先に文明を伝えたとされる猿人の最高神。イ族の語で「ルガアプ」は「森林上方の祖先」という意味。

●ロイチェクタ

 レッチェンタール渓谷のファストナハトには、山羊の毛皮を身にまとい、恐ろしい仮面をつけた「ロイチェクタ」が登場する。

●ロノ神

 「ロノ」はハワイの農業、豊穣を司る神で、農業に関連する気候や天気も司る神である。

●ワイルドマン

 英語では、「ワイルドマン」、ドイツ語では「ヴィルダーマン」、フランス語では、「オム・ソヴァージュ」と呼ばれる来訪神は冬至、春分、夏至、12夜などの特定の日に開催される仮面の祭りに登場する。特に冬は人々が最も仮面の力を必要とする季節である。この時期に仮面・仮装の来訪神が世界各国の祭りに登場する。

 「ワイルドマン」は伝説では、1匹の熊と1人の人間の女性が結ばれ、その間に生まれた息子だといわれており、「超人」的な存在である。ヨーロッパの伝説では、異類婚で生まれた者を先祖としていることが多い。

 「ワイルドマン」は動物の皮などを身にまとい、仮面をつけて登場する。仮面の代わりに顔を黒く塗ったり、藁帽子をかぶったりする場合もある。仮面には、「老人」、「悪魔」、「老婆」、「魔女」など人間を思わせる造型がされた仮面の他、動物の仮面が用いられる。

『来訪神 仮面・仮装の神々』

保坂達雄・福原敏雄・石垣悟   岩田書院   2018/12/1

<無形文化遺産の来訪神行事>

・また、日本における来訪神研究は、1980年代頃までは盛んであったものの、以降、フィールドワークを基にする民俗学・文化人類学の事例研究においては、情報化の進展もあり、行事の新発見はほぼなくなった。

・そして、2018年11月末、ユネスコ無形文化遺産保護条約の「代表一覧表」に「来訪神 仮装・仮面の神々」一件として記載された。本稿ではこれを登録と表記し、広範な来訪神行事のなかでも、10件とそれにかかわる行事に限定して述べる。

・10件は、①甑島(こしきじま)のトシドン(鹿児島県薩摩川内市)、②

男鹿のナマハゲ(秋田県男鹿市)、③能登のアマメハギ(石川県輪島市・能登町)、④宮古島のパーントゥ(沖縄県宮古島市)、⑤遊佐(ゆざ)の小正月行事(山形県遊佐町)、⑥米川の水かぶり(宮城県登米市)、⑦見島のカセドリ(佐賀県佐賀市)、⑧吉浜のスネカ(岩手県大船渡市)、⑨悪石島のボゼ(鹿児島県十島村)、⑩薩摩硫黄島のメンドン(鹿児島県三島村)からなる。

・以上のように、10件は異形の姿で村に現れるヴィジュアル面が強調され、ユネスコ関係者や諸外国に対するアピールになって登録に至った。と同時に現実問題として、来訪神にかかわる民俗信仰自体の決定的な衰退があり、そのための仮面・仮装という外見重視となったともいえよう。

 来訪神にかかわる「民俗信仰」は、高齢者に伝承される古層の神概念や南西諸島における秘儀的民俗行事などを措き、もはや終焉に近い。それらが提案・登録されたのは、伝承の危機に瀕する無形文化遺産を保護するという同遺産の理念に叶ったものといえよう。

<無形文化遺産提案の指標>

・10件は国の主導のもと、代表的・典型的な事例として政府提案され、それが国際機関に認められたのである。従来の民俗関係の登録においてもそうだったが、その影響力は好むと好まざるとにかかわらずかなり大きく、今後「来訪神」の用語やイメージは10件をモデルとして定着するであろう。

・下野敏見は全国的視点より来訪神行事の仮面・仮装に関して、①恐ろしい姿、②奇怪な・不思議な姿、③平常(普段着、晴着)の3種類に分類する。そして、「②は、本来、①であったものが人間に親しみを持って次第に②に変ったと見ることができよう、③は同様な論理で②の変貌と解釈できよう。つまり、装束からみるならば、おとずれ神は、本来、恐ろしい神である」とする。

 すなわち、③は最も新しく派生的に成立したという説であり、後世、社会が世俗的になり、本来の仮面・仮装が面倒になって直(素)面・普段着になった、という解釈である。

<可視/不可視・来訪/常在の神観念>

・その一方、例えば神社神道においては、土地(氏子地)とそこに居住する氏子たちを守る鎮守神・産土神としての常在神の観念がある。不可視の祭神は日常的には和鏡などに依りついて神体として本殿奥に祀られ、祭りの神輿渡御に際して氏子地を巡幸し、御旅所を往復するという神観念である。このような常在観念は神仏習合期に仏教の影響のもと成立し、10世紀以降、平安京において御旅所祭礼が形成され、各地で定着したものと考えられる。

<折口マレビト論――村への来訪から家々への巡訪へ>

・マレビトの故郷である他界、異界は「常世」とされ、もともと常闇の死者の国であったが、後に世をもたらす理想郷に転じた。また、常世は海上にあり、マレビトは海の彼方より箕笠姿で訪れたが、後世、常世を天空や山中に求め、マレビトも山から現れる形になったなどとも説明される。いずれにしても、常世の神こそがマレビトであり、外来神であるとともに、祖霊神であるとも論じられる。

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