自衛隊への入隊を考えている人たちに、まず知ってもらいたいことは、自衛隊は「不条理の筑前煮」みたいなものだということです。(1)

(2024/7/25)

『「もう歩けない」からが始まり』

自衛隊が教えてくれた「しんどい日常」を行きぬくコツ

ぱやぱやくん   扶桑社  2023/9/24

<「もう歩けない」からが始まり>

・陸上自衛隊には、「もう歩けない」からが始まりという教えがあります。

・これは、「もうダメだ」と思ってからが自分との闘いであり、弱気な気持ちを乗り越えなくてはいけないということです。

・そうした行軍をしていて、いかに辛くとも、なんとかしてその辛さをごまかしながら歩き続けられるかが、本当の訓練の始まりになります。

・教官は、「次の電柱まで歩け!」と伝えます。そして、次の電柱に着いたら、「その次の電柱まで歩け!」と伝えます。

・これは、一流マラソンランナーが限界ギリギリのトレーニングを行うときに用いられる考え方です。

・本書では、このエピソードのように、私が自衛隊で学んだ「辛いときに役に立ちそうな教え」を中心にまとめています。

・そして、入隊しなくても「陸上自衛隊の知識のエッセンス」を学べるように書き上げたのが本書です。

<「もう歩けない」から始まる陸上自衛隊の訓練>

<自衛隊は「不条理の筑前煮」>

・自衛隊への入隊を考えている人たちに、まず知ってもらいたいことは、自衛隊は「不条理の筑前煮」みたいなものだということです。

この言葉は、私が自衛隊を表現するときに使う比喩ですが、自衛隊は、ありとあらゆる不条理を混ぜて煮た筑前煮のようなものという意味です。

そもそも自衛隊は、任務そのものが不条理です。不条理に侵攻してきた敵軍隊と戦って、よくわからないうちに死んでしまうこともありうる職業です。

・また、自衛隊生活の日常は、普通に暮らしていたらありえないような不条理の連続です。

・ところで、「陸上自衛隊は諸外国の軍隊に比べて理不尽な訓練が多く、遅れている」と言う人がいますが、それは誤りです。アメリカ軍は、自衛隊よりはるかに合理的な組織ですが、理不尽で過酷な訓練は存在します。むしろ、陸上自衛隊の方が安全管理が徹底されているので、「洗礼された理不尽さ」と言えるかもしれません。

・ただ、99%は不条理で構成されている自衛隊にも、1%の本当にすばらしい瞬間があります。「不条理の中できらめく宝石」です。

・私は、「人生が一度しかないなら自衛隊に入る価値はある。二度あるなら、2周目はやめとけ」とよく入隊希望者に伝えます。

<「体力がなくても自衛隊に入隊できますか?」>

・自衛官募集を担当している広報官は、高校生や大学生、転職を考えている社会人に、「体力がなくても大丈夫だよ!」と勧誘してきます。

・自衛隊は、消防や警察とは異なり、採用時の体力試験がありません。

・そして、入隊後に雨の日も風の日も訓練し、真夏の炎天下でもさんざん走り、匍匐前進をして強くなります。

・「体力がなくても大丈夫だよ!」という言葉の真意はこうです。「(入隊時が)体力がなくても大丈夫だよ!」

 しかし、入隊後、陸曹に上がるときに体力検定があります。

<「反省」という名の腕立て伏せ>

・自衛隊に入隊すると、腕立て伏せをする機会が増えます。腕立て伏せは、腕・大胸筋・体幹を鍛えるのに良いトレーニングです。

 なぜ、腕立て伏せをする機会が増えるかというと、自衛隊では、日常生活や訓練のペナルティとして腕立て伏せを行うからです。自衛隊では、これを「反省」と呼びます。現在は「『反省』は体罰だ」という風潮が強くなったため、もう行われていないのですが、一昔前の教育隊や防大では、「反省」は生活の一部でした。

・残念ながら、現在ではこうした「反省」はなくなってしまいましたが、その代わり「体力練成」というものがあります。

・体力練成にも腕立て伏せの項目がありますので、いずれにしても腕立て伏せをする文化は残っています。入隊を考えている人は、日ごろから腕立て伏せをする習慣をつけておいた方がよいでしょう。

<陸上自衛隊名物「ハイポート」>

・ハイポートとは、身体の前に小銃を持った状態で走るトレーニングです。

・陸上自衛隊では、体力のない人間をサポートするために、「脱落しそうな隊員の銃を体力のある人間が持って走る」という文化があります。そのため、気がついたら武蔵坊弁慶みたいに武器だらけの隊員が走っていることもあります。

・ちなみにレンジャー過程などでは、「10マイル走」と呼ばれる訓練があり、強度の高いハイポートで16㎞を走ります。さすがレンジャーですね。

<大地を抱きしめ地面にキスする「匍匐前進」>

・陸上自衛隊に入隊すると、匍匐前進を必ず学びます。実は、匍匐前進には5種類あり、状況に応じて使い分けます。

・最も姿勢の低い第5匍匐は、地面に這いつくばりながら進みます。「大地を抱きしめろ! 地面にキスしろ!」と私は言われたことがありますが、

陸上自衛官であれば、そのくらいの心構えが必要です。

<銃剣道練成隊での修行>

・陸上自衛隊に入隊すると、「銃剣道」という競技も行います。

 銃剣道とは、剣道の竹刀を銃剣に模した木銃に持ち替えて、その先端で突き合うという競技です。

・陸上自衛官にとっては銃剣道の練度は、部隊の強さを示す一つの指標になっています。

<痛みはただの電気信号にすぎない>

・陸上自衛官として勤務していくうえで、必要な能力はいくつかあります。使命感の強さ、肉体的な強さ、法令遵守意識、戦闘センスなど多岐にわたります。

 しかし、努力しても身につけることのできない能力があります。それは、「痛みへの強さ」です。

・行軍の荷物で肩がうっ血し、迷彩服を脱ぐと紫色になっているのに、平気な顔をしている人もいます。

<限界を超える過酷なレンジャー訓練>

・このレンジャー訓練は、かなり過酷です。食料や水の制限をし、文字通り不眠不休で山中を活動します。

・日常生活ではここまでの幻覚・幻聴を経験することはまずないでしょう。しかし、山中で遭難した人は、同じような経験をします。

<安全管理基準をすべて遵守したら何もできない>

・陸上自衛隊の訓練では、成果以上に「殉職者を出さない」「けが人を出さない」「機材を壊さない」「物品を紛失しない」などの事柄が重要視されています。どんなに効果的な訓練を行っても、「参加者はケガ人だらけ」や「高価な通信機が落下で壊れた」ではお話にならず、成果としては最低評価になります。

・安全管理を意識すぎて、「部隊を精強化する」という目的から、「何も事故を起こさずに終える」という目的にすり替わっていくのです。こうした考え方を突き詰めれば、「熱中症で倒れたら大変だから、真夏の暑い日は訓練をやめよう」「高価な機材は壊れたら大変だから、演習では使わない」などの本末転倒な話になってしまいます。

・そのため、運用訓練幹部などは、厳しい安全基準とにらめっこして、「安全と訓練の両立」を四苦八苦しながら、訓練を立案することになります。私の先輩は、「安全管理基準は“準拠”するものであって、“遵守”するものではない」と言っていましたが、まさにその通りです。

<訓練のための訓練をするな>

・特に安全管理が重要なのが、「実弾を使用した訓練」です。実弾を取り扱う訓練は、厳正な規律の中で実施します。なぜなら、事故の発生するリスクが非常に高まり、死傷者が出ると取り返しのつかないことになるからです。

・この状況が悪化していくと、「訓練は去年と同じことをやっておけばいいだろう」という感覚になり、「上手な訓練をする劇団」に成り下がっていきます。

<自衛隊に学ぶサバイバル術>

<喉の渇きは人を狂わせる>

・軍隊では極限状態に対する経験を学ぶため、水分を制限する訓練を行うことがあります。陸上自衛隊においても、レンジャー過程などでは水分を制限する訓練が行われることがあります。

 水が飲めないと、人間は驚くべき行動に出ます。実際、レンジャー隊員の中には、「雨が降ると水分補給ができるから嬉しい」「偵察中は泥水が飲めたからハッピーだった」「朝露はチャンスだから、とにかく草をなめまくった、時にはコケもなめた」など信じられないエピソードを語る人もいます。

・しかし、不衛生な水を飲むと、下痢になったり、寄生虫に寄生されることもあります。

 ただ、教官がどんなに強く注意しても、隊員たちは、極限の渇きに耐えられず、泥水をこっそりと飲んでしまうのです。それゆえに、訓練終了後に虫下しなどを飲まされるそうです。

 なお、北海道だと生水はエキノコックスに感染する可能性があるため、隊員が生水を飲むことは絶対に止める必要があります。

 先の大戦では、旧日本軍は各地で飲料に適した水を確保できず、田んぼや道ばたの泥水を飲んでしまい、疫痢やコレラにかかってしまう兵士が大勢いたそうです。

・ある人のエピソードに、「米軍が飲み残したサイダーをめぐって、日本兵同士が殺し合った」という話があったそうです。戦争の悲惨さを物語ると同時に、喉の渇きは人を狂わせるということがよくわかります。

・製品の性質にもよりますが、携帯浄水器があれば、化学物質などに汚染されていないかぎりは、川の水や泥水なども飲むことが可能です。濾過された水は、ケガをしたときに傷口を洗うのにも必要になります。

 携帯浄水器は、自衛官や登山などの野外活動を行う人だけでなく、災害時にも効果を発揮するので、持っておいて損はないと思います(値段も数千円程度です)。

<陸上自衛官はどこでも寝られる>

・「陸上自衛官はどこでも寝ることができる」とよく言われます。たしかに陸上自衛官はどこでも寝られます。

・なぜ、陸上自衛官はどこでも寝られるかというと、どこでも寝られるようにさまざまな工夫をしているからです。

・なぜなら、睡眠不足が続くと、任務に支障が出るからです。たとえば、「相手が何を言っているかわからない」という症状が表れることがあります。このように、睡眠不足のときは言語能力が著しく低下します。

・睡眠不足は、言葉の理解だけでなく、他にも、真っ直ぐ歩くことが難しくなるので、身体や机や椅子にぶつかることが増えたり、物もなくしやすくなります。

<本当にやばいときは痛くない>

・痛みとは、危険を感じるサインの1つです。「痛い」と感じるときは、身体が傷ついている証拠です。

・ピンチのときに「痛い!」と騒いでいると命を落とす危険性が高まるので、脳内麻薬により、痛みを麻痺させる機能が生き物には備わっているようです。つまり、「本当にやばいときは痛くない」と覚えておく必要があるのです。

 従軍経験者の手記などを読むと、「銃に撃たれても痛くなかった。周りが騒いでいて撃たれたことに気がついた」という記述をよく見ますが、負傷した直後はどうしても痛みを感じにくくなります。

<疲れてくると人は密集する>

・陸上自衛隊の野外活動では、「分散」して「各人・各装備間隔を確保」することが部隊行動の基本になっています。

・自衛官にかぎらず、人は疲れてくるとどんどん密集するようになります。

<疲労を取りたいならカフェインよりもアミノ酸>

・しかし、栄養剤・栄養ドリンクをとって栄養補給をしているつもりでも、実は、疲労回復のための主成分がカフェインで、カフェインの効果しか感じられないケースも多くないでしょうか。

・もし、疲労で困っている人は、バリン、ロイシン、イソロイシンといったアミノ酸を摂取することをおすすめします。

<私物の迷彩服が禁止されている理由>

・陸上自衛隊では、訓練に必要な装備品が一式貸与されます。

・なお、私物の迷彩服は、耐熱・対赤外線などの効果がないので、現在では禁止されています。

・迷彩服と違って私物が許されているのが、雨衣(かっぱ)です。雨衣は官品とゴアテックスの私物とでは、快適度が天と地ほど違います。

<靴下には金をかけろ>

・陸上自衛隊では行軍をよく行いますが、空挺団や幹部候補生学校などで行われる100㎞行軍では、疲労以上に足のマメに苦しむことがよくあります。

・一度、この痛みを知ると、どうにかして次は特大のスーパーボールの痛みを避けたいと思うようになります。そうすると、自ずと高級な中敷きや靴下を買おうという気持ちになります。

<リュックには直接物品を入れない>

・当日雨が降ったらリュックの中にも雨がしみ込み、持ち物が濡れてしまい、準備のすべてが無駄になることがあります。

・そのような事態を防ぐために、陸上自衛隊ではリュックには直接物品を入れません。大きなビニール袋を内部に入れ、内部の防水処置をします。

<食器にはポリ袋をかける>

・なぜかというと、ポリ袋をかけると食器を洗わなくても済むからです。

<人里離れた場所では防虫対策は必須>

・野外行動では、防虫対策が必須になります。人里離れた地域の虫たちの数は半端じゃありません。

(ハッカ油)

(蚊取り線香)

(虫除けネット)

(タバコの煙)

<ヘッドライトとメッシュベスト>

・日常ではあまり使わないアイテムですが、災害時の備えとしてヘッドライトとメッシュベストを持っておくことをおすすめします。

<自分が歩ける距離を知っておく>

・そのためには、日ごろから、「自分が歩ける距離」を知っておくようにしましょう。

<いざというときの徒歩帰宅の備え>

・徒歩帰宅に必要な事前準備の物品についてお伝えしましょう。

(オフィスにスニーカーと替えの靴下を準備しよう)

(携行食を準備しよう)

(飲み物を準備しよう)

(手提げカバンではなく、リュックにしよう)

<体力を温存し無事に帰宅できる方法>

・次に体力を温存し、無事に帰宅できる方法についてお伝えします。

(気候・天候を見極めよう)

(同じ道を歩く人を探そう)

(50分歩いたら10分休憩しよう)

(水を飲みすぎない、塩分を補給する)

<災害時はキャッシュレスより現金>

・キャッシュレス決済は便利ですが、災害時にはその利便性はすぐに失われます。使う機会がなくても、現金は常に一定額持っておくことをおすすめします。

<自宅が被災したら被害状況を撮影しておく>

・自宅が被災したときには、片付けや修繕を始める前に、その被害のすべてをまず写真で撮っておいてください。

<自衛隊に学ぶ「自己防衛・自己保全」>

<護身術の極意は「危ないところに行かない」こと>

・世の中には、「暴漢に襲われたらどう対処するか」という護身術が多くあります。ですが、護身術の極意は「危ないところに行かない」ことだ思います。

・それでは、暴漢に襲われたときの対策について紹介しましょう。

(チャンスがあればすぐに逃げる。)

(相手から目をそらさない)

(人を呼ぶ)

(相手を笑わせる)

(自分が笑う)

<暴れている人には一人で対処しようとしない>

・暴れている人間は、すぐに倒せると思わず、複数人で対応してようやく取り押さえられると覚えておいてください。

<護身武器として便利な「催涙スプレー」>

・なお、私が考える最大の護身武器は、「催涙スプレー」です。

・ただし、催涙スプレーは、不用意に屋外で持ち歩くと、軽犯罪法に抵触する可能性があります。

・なお、催涙スプレーがなくても、人間は制汗スプレーでも殺虫剤でも目にかけられたら単純に染みるので、一瞬ひるみます。そのスキに逃げるのも手です。

<住んでいる地域を現地偵察しよう>

・自衛官は、現場に地図を持って来て、その土地の危険地域、地盤などを自分の目と足で調べていきます。これを「現地偵察」と言います。

・ただし、ハザードマップは絶対ではありません。

・防災に対する情報は絶対的なものではないので、あくまでも暫定的なものとして考えておきましょう。

<治安は張り紙でわかる>

・転職や引っ越しなどにより、新しい環境に移ることを考えている人は、その環境を判断するために張り紙を見るのがおすすめです。張り紙は治安や民度のバロメーターだからです。

<夜は敵が強くなる>

・治安の良い日本にいると実感できませんが、開発途上国などに行くと、夜中に急激に治安が悪化することを実感できます。極力、夜間は外出しないのが鉄則です。

・なお、海外では、トラブルに巻き込まれた際は、「戦ってはいけない」「殴り合いの喧嘩をしてはいけない」が鉄則です。

・夜間は人間だけでなく、動物たちも姿を変えます。特に危険なのが野犬です。野犬は日中と夜間では姿を変えるので、野犬が多くいる地域は、夜間出歩かないのが得策でしょう。

<秘密保全・情報保証を心がける>

・自衛官として勤務をするうえで、口すっぱく指導されることの一つに、「秘密保全・情報保証」があります。ミサイルの射程など機材の性能に関することはもちろんのこと、部隊の実情・活動などにも部外秘となります。

・また、自衛官の場合は、「ハニートラップ」があるので要注意です。

・そして、情報保証とは、コンピュータウイルスなどのよる情報流出を防ぐため、コンピュータなどの端末を厳正に取り扱うことです。

・加えて、一般の人には理解できないようなことが重要な秘密の手がかりになったりもします。

<デマにだまされないために>

・では、私たちはデマにだまされないために、どういうことに気をつければいいのでしょうか。そのためのいくつかの方法を紹介しましょう。

(状況はすぐにはわからない)

(不確かなことは広めない)

(身の危険があるなら行動する)

(日ごろから準備しておく)

(被災地に足を運ぶ)

<自衛官が仕事を辞めたいと思うとき>

・自衛官が、「仕事を辞めたいな……」と考える状況の1つに、「時間に余裕があるとき」が挙げられます。

・これはまさに、「小人閑居して不善をなす」、つまり、「つまらない人間は、ヒマになるとろくなことをしない」という状況を誘発してしまっているんです。管理職にある立場の人間は、できるかぎり組織の不平不満をなくす努力をする必要があります。

<自衛隊で出会う「霊感がある人」>

・自衛隊には「霊感がある人」がたまにいます。私自身は霊感がなく、幽霊などは信じないのですが、「自分は見えるんですよ」と話す人に何人か出会ったことがあります。

・自衛隊で行われた講演の途中に、私の隣にいた同期が、「おい! 壇上の後ろに変なヤツがいるぞ!」と驚いた顔をして言っていましたが、私が見ても何もいませんでした。

・このような話はたくさんあります。陸上自衛隊の施設は、旧日本軍や米軍が使っていた施設が多く、過去の因果が現世まで残っていると言われることもあります。

・九州の某駐屯地は、実は、南北朝の大合戦の跡地で、数千人の遺体を1箇所に埋めた場所であり、地元の人は誰も買わない土地でした。そんなことは後から入ってきた隊員たちは知る由もなかったのですが、すぐに「夜になると落武者が出る!」と話題になりました。

・このような逸話は全国の駐屯地にあり、駐屯地の奥の方に現役隊員もよくわからない謎の祠があったりします。

・また、九州の現役隊員でも存在すらあまり知られていない某演習場では、地域でも有名な呪われた場所で、訓練前にお祓いをする部隊もあるそうです。

 ある訓練の最中、何人もの隊員が、「なんでここに子供がいるんだ ⁉」

といるはずのない子供の姿を目撃し、訓練中に撮影された写真を見た中隊長は、顔を真っ青にして「こんなものを報告資料に載せられない」といって、すべてのデータを消去したそうです。

・沖縄で史跡研修に行くと、顔が真っ青になり、「これ以上先には絶対に行けない」と話す人などもいます。特に旧日本軍の洞窟に入る際には、「いいか、この洞窟は特に危険で、過去に何人もの学生が倒れている。入るかどうかは自己判断に任せる」といったアナウンスがあることもあります。

 沖縄の隊員は慰霊碑清掃をすることが多いのですが、埋葬された人の身元がわかっている慰霊碑などは大丈夫であっても、身元のわからない遺骨を納めた慰霊碑で隊員が倒れる確率が高いそうです。

 私の知人に、怖い物知らずの屈強な陸曹がいたのですが、沖縄の平和記念公園の戦没者墓苑の前で、冷や汗が吹き出て止まらなくなり、足が一歩も前に出なくなったそうです。

・また、沖縄の激戦地には嘉数高地が有名ですが、高地よりもその前の嘉数の谷の方で震えが止まらなくなったとも彼は言っていました。

・何回も巡察をしているとさすがに慣れてきますが、そういうときにベテラン隊員は、「ちゃんと敬礼をして『服務中異常なし!』と言えば、答礼してくれるから大丈夫。ビビっていると日本兵殿に怒られるぞ」

 と怖いアドバイスをしてくれます。そんなベテラン隊員は、「幽霊は怖くないが、イノシシが怖い」と言います。夜間巡察中にサル、イノシシ、ハブなどはリアルな恐怖です。幽霊は殴ってきませんが、イノシシは突進してきます。

・朝霞駐屯地では、1964年の東京オリンピックでマラソン銅メダルになった陸上自衛官の円谷幸吉(つぶらやこうきち)さんが亡くなった後に、「夜、誰も走っていないのに走っている足音が聞こえる。あれは円谷幸吉の足音だ」と言われていました。

・最後に自衛隊と幽霊のエピソードで欠かせないのが、硫黄島のエピソードです。硫黄島は第2次世界大戦の激戦地であり、かつては夜になると滑走路から死者の腕が無数に見えると言われたほどでした。現在でも、「石を持って帰るな」と言われていますが昔はその比ではなかったそうです。

 しかし、転機になったのは1994年の天皇皇后両殿下の硫黄島行幸啓です。このお蔭で多くの英霊が静まったそうです。

<自衛隊に学ぶ人間関係と組織論>

<話を聞いていないヤツほどいい返事をする>

・ある中隊長は、「元気よく返事をするヤツがいたら、ちゃんと質問して理解しているか聞いてみろ」と言っていました。

<攻撃的な人ほど実は繊細>

・攻撃的な人は、「粗暴で思いやりがない」という印象がありますが、「実は繊細で傷つきやすい」という側面を持っていることがあります。

・攻撃的な人には、スルーが最良の方針なのかもしれないですね。

<方言への指導>

・防衛大学校に入校して、厳しく指導されたことのことの1つには「方言」があります。防大は全国から学生が来るため、日常で使う言葉やニュアンスが少し異なることがあるからです。

<ただ命令するだけでは隊員は動かない>

では、どうすれば部下が納得して戦うことができるのかを解説していきましょう。

(なぜやるのかをよく理解させる<企図の明示>)

(相手の本音をよく理解しよう)

・そもそもAIの指揮官の「データとして正しい行動」に自分と仲間の命を託す兵士なんて、きっといないでしょう。人間の気持ちはそんなに単純ではないですからね。

<必要以上に厳しい規律が服務事故を招く>

・理由なき厳しい規律は、人の心を荒ませ、組織への不信感につながっていくので要注意と言えるでしょう。

 厳しい規律を設けるときには、隊員に対して「なぜ設けるのか」と「いつまで行うのか」をはっきりと明示する必要があります。

<人や組織は締めつけるだけではダメ>

・まず、「勤務環境を醸成し」「指示は最小限に」「適時に進捗を確認し」「必要があれば修正すべき方向を示す」、そして、細かいことに動揺せず、「どっしり構えて親分らしく振る舞う」、これが大切ではないでしょうか?

<自衛隊で学んだものごとの見方・考え方>

<人は3日経てば恩を忘れる>

・自衛隊における災害派遣は、あくまで「従たる任務」であり、「緊急性」「公共性」「非代替性」の原則にもとづいてサポートするのです。

<「日本しか知らないものは、日本をも知らない」>

・西原先生は、「日本しか知らないものは、日本をも知らない」という言葉をのこし、学生に広い知見を持つように求めたのです。

<戦争でも「敵への敬意」が必要な理由>

・戦争になると、お互いに憎しみ合って殺し合うというイメージがあります。ですが、そうした殺伐とした世界にも、敵将兵への配慮は存在します。

<兵器の性能を引き出すのは人間のクソ度胸>

・戦争では、「兵器の性能」がよく注目されます。ですが、それ以上に重視されるのは、「兵器を扱う人間の度胸」だと私は考えています。

・当然ながら、最新のステルス戦闘機であっても、操縦する人が、「自分は死にたくないから乗りません」と言えば、ただの置物になります。

・現在、ウクライナで配備が進んでいるジャベリンの誘導弾は、1発2000万円と言われており、かなり高コストになります。

 誘導弾が使えない場合は、無反動砲で戦うことになります。無反動砲で敵戦車を倒すのに必要なもの、それは「クソ度胸」です。

<軍人は何のために戦っているのか?>

・軍人とは、時の政権や資本家のために戦うのではなく、自分たちの文化・家族・誇りを守るために戦うものです。

・「戦う価値がない」と軍人が思うと、どんなに兵器がそろってそろっていても戦わなくなるのです。「こんな腐った政府は早く倒れてしまえ」と多くの国民が思っているのに、死ぬ気で戦うわけがないのです。

・現在、ロシア軍と戦っているウクライナ軍も、指導者であるゼレンスキー大統領とその政権のために戦っているのではなく、自分たちの家族や土地、文化をロシアに支配されたくなから命をかけて戦っているのだと私は思います。

<他国から侵略を受けたとき、あなたはどうする?>

・日本のメディアはよく、「あなたは国のために戦えますか?」というアンケートを若者に取っています。

・具合が悪くなりそうな質問ですが、侵略されるということは、すべての決定を占領国に委ね、そこにどんな不条理があっても受け入れるしか選択肢がなくなるということです。

・自衛隊では、「使命感」の1つに「先祖より守り抜いてきた祖国を次の世代に受け継ぐこと」があると教えることがあります。

・戦中の日本軍の将兵は、「お国のために」を合言葉に戦っていました。

<陸上自衛官も誰かの「大切な人」である>

・私が新米の幹部自衛官だったころ、定年前のベテラン幹部から、「訓練を考える前に、隊員の家族構成とライフイベントを掌握しなさい」と教わりました。

<「事に臨んでは危険を顧みず」とは>

・自衛官の宣誓書には、「事に臨んでは危険を顧みず」という文言が入っています。危険とは、「自分の命の危険」を指しますが、この文言は警察官と消防士にはありません。

<胸に手を当てる>

・もし、あなたがどうしても死にたくなったら、1回、胸に手を当てて、特攻隊の少年の気持ちを考えてみましょう。

<おわりに>

・つまり、現状としては「自衛隊のことを国民はよくわかっていない」「メディアの自衛隊賛美とバッシングが極端すぎる」などの課題があると考えています。

・ただ、私の経験で言えば、陸自の内部は本当に泥臭く、人情味やユーモアに溢れた組織です。

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