だがこの同じシャンバラは、西洋の秘密結社やロッジの一部が自らの源、<世界の王>の契約と警告が下る源と見なす場所でもある。(1)

(2024/8/8)

『北極の神秘主義』

極地の神話・科学・象徴性、ナチズムをめぐって

ジョスリン・ゴドウィン  工作舎 1995/9/1

<序文>

・極という主題に集中的に取り組み始めると、いやでも目に入ってきたのがいわゆる「極移動学派」――すなわち地球の両極は過去において移動したことがあり、そのたびに地上のすべての生物が深甚な影響を及ぼしてきたとする考え方――の存在である。

・それはすなわち、UFO、異星人、地球空洞説、ヒトラー生存説、極地帯のナチス基地現存説、そして「アガルタ」とか「シャンバラ」とか呼ばれる「霊的中枢」存在説、等々である。

<20世紀の神話>

・アーリア人の原郷説は英語圏ではもはやほとんど顧みられなくなってしまったが、ドイツでは第1次世界大戦後においても依然として花開いていた。

<黒騎士団>

<ランディヒのトゥーレ主義小説>

・シャンバラにある左道の物質的なエネルギーの源は、霊力と権力をもつ「上つ国」の都市、偉大なる<恐怖の王>が治める都市だ。だがこの同じシャンバラは、西洋の秘密結社やロッジの一部が自らの源、<世界の王>の契約と警告が下る源と見なす場所でもある。シャンバラは我らが意志を探る探照灯なのだ!そしてもうひとつ、第二の源がある。それは地下にある瞑想とそのエネルギーの内なる領域、アガルタである。そこにもまた<世界の王と支配者>がいて、自分の支配を約束する。

・グートマンはこれに対して、大戦中ドイツに秘密情報を提供してくれたのはロンドンに住むチベット人ではないか、と言う。然様、とラマ僧は答える。彼らはドイツ人を助けつつまた滅ぼしもした。アガルタの右道は、あるドイツ人グループがシャンバラの手に自らを委ねるまではドイツ人を助けていた。「左道の源は、右道と結び付いてている限りは善である。左道にのみ仕える者は敗北する」。さらに彼によれば、チベットは第三帝国の背信によって苦役の年月を無駄にした。

<黒騎士団を追って>

・ナチの生き残りたちのアジトが北カナダで発見されたという話は、神父マルタン師の『逆転――黒騎士団対ラ・ブカン』(1984)なる怪しげな書物にも登場する。こちらはランディヒ作品より有名で、いくつかの本で要約・評論されているので、その紹介にさほど多くのページを割く必要はないだろう。全編反ナチ色が濃厚であり、1971年に元ナチスの残党のグループが世界支配の舞台裏で活動しているのが発見されたところから話は始まる。この「黒騎士団」(元来はSSのあだ名)はもともともっていた高いテクノロジーをさらに発展させており、特に航空技術と、地震・隕石のコントロールに優れている。それをもとにまもなく彼らは完全に世界を掌握する力を得るだろう。全世界に跨る基地のネットワークをもつ彼らは、テロによって西欧諸国を揺動させ、悪と人種差別をはびこらせる一方、特に中央・南アメリカの右翼政権と結び付き、最終的にはアメリカ大陸全土をその封建的支配の下に置こうとしている。

<セラノは総統を賛美する>

・一般に容認された観点を逆転させる最も極端な例は、ミゲール・セラノである。

・600ページにも及ぶ哲学的総括の大著「最後のアヴァタール、アドルフ・ヒトラー」(ミゲール・セラノ)(1984年)

(セラノはチリ人でインド、ユーゴスラビア、オーストリアの大使を歴任し、様々な国際会議のメンバーであった。)

・現代トゥーレ哲学の宣言として、この『最後のアヴァタール、アドルフ・ヒトラー』(1984)に見いだされるが、この書物は「総統アドルフ・ヒトラーの栄光に」に捧げられている。セラノによれば、ヒトラーは、ヴィシュヌ神の10番目の化身(アヴァタール)、すなわちカルキ・アヴァターであり、カリ・ユガに終わりをもたらし、新時代の到来を告げるために受肉した存在である。彼は、末法の世のトゥルクあるいは菩薩であり、すでに解脱した身でありながら人類のために自発的に下生した。ゆえに彼はあらゆる批判を超越した存在である。ここで、「存在である」と現在形を用いたのは、セラノがヒトラー生存神話を堅く信じているからである。総統は、恐らく、ドイツ製の空飛ぶ円盤型航空機で1945年ベルリンを発ち、南極の地下で不可視の存在となって、顕教的な戦争の過ぎ去った今、ここから、秘教的な戦争を指示し続けている、と彼は考えている。

・だが、なぜヒトラーのようなアヴァタールが必要か。それを理解するには時をはるかに遡り、銀河系外からやって来て「第一ヒュペルボレア」を築き上げた存在に目を向けなくてはならない。セラノによれば、彼らの起源を隠蔽しようとする巨大な陰謀が存在し、その最後の記録は、アレクサンドリアの大図書館と共に破壊された。また彼らを宇宙的存在、すなわちUFOに乗ってやってきた「ET」である、と誤解させることを目的とした陰謀もある。

 確かに我々が彼らを目撃すれば、それは光の円盤のように見えるが、それは我々が彼らを正しく認識する感覚を失ってしまったからに他ならない。彼らの地球上での中枢である<第一ヒュペルボレア>は非物質的なものであって、地理的に限定されるものではない。すなわちそれは、かつても今もこの惑星の支配者である<デミウルゴス>の統治する領域=「円の中の円」の外側にある。

<以来この世界はデミウルゴスとヒュペルボレア人の戦場となった。>

・劣位の擬神のひとりであるこの<デミウルゴス>は一種の人間を作ろうとしたが、それは下等なロボット的存在に過ぎず、その名残りこそネアンデルタール人である。デミウルゴスの計画ではこの被造物は死後、<祖先の道>に従って何度も土に帰るようになっていた。一方、ヒュペルボレア人にとって、このような自分の意志によらない転生は<デミウルゴス>の<円>に捕らわれた忌まわしきものであった。彼らは死後は<神々の道>を通り、トゥルクや菩薩の如く、そう望んだときだけこの世に戻ってくる。彼ら<ヒュペルボレア人>は<ヴリル>の力を使いこなし、<第三の目>をもっていた。性的な方法によらず、自分自身の肉体からプラズマ的に流出して増殖し、その血管には<黒太陽>の光が流れている。この世すなわち<デミウルゴス>の機械的宇宙と戦うためにこの宇宙に受肉することは、彼らにとっても大きな冒険である。

・神々がこの聖戦に参画し、<第二ヒュペルボレア>が作られた。それは最初は不可視であったが、後に北極点を取り囲む円形の大陸となった。サトゥルヌス(「時を貪り食う」神)とその妻レアが治める<黄金時代>すなわちサティア・ユガはここで花開いた。寛大にも<ヒュペルボレア人>はこの惑星の下等な人種を訓練し、半動物的状態から脱出させようとした。

黒人、黄色人、赤色人に不死の分子が与えられ、地球の霊的進化が始まったのである。

・次に、大きな破局が訪れた。『創世記』第六章第四節はいう、「神の子らが人の娘たちのところに入って産ませた」。<ヒュペルボレア人>たちは、<デミウルゴス>の被造物に自分たちの血を混ぜるという失敗を犯した。この異人種混淆の罪によって、楽園は失われた。

・爾来、この世界は、<デミウルゴス>と<ヒュペルボレア人>の戦場となった。後者は常にその血を薄められる危険に瀕している。

・<黒太陽>といえばランディヒの103地点の象徴として既に登場しているし、<緑光線>の性質についてはおいおい述べていく。セラノは自らもヨガを実践し、またその書物の大部分をチャクラに基盤を置いた秘教的解剖学に割いて、そこにノルディックのルーン文字を当てはめている。匿名の大師が彼に告げたところによれば、ある特定の段階までヨガを修めれば人は自分の肉体を離れて神秘的な死を経験し、<黄金太陽>を過ぎて<黒太陽>に向かい、新たな光である<緑光線>を見るという。そのとき、人は自分の生命の本体は星幽(アストラル)体に他ならないことを知る。これこそ、彼の「銀河系外に由来する」神話の鍵らしい。

・彼の言うヒュペルボレア人は、物質的宇宙のどこにも属していないが、同時に地上で意識を持つことのできる並行した存在状態にあり、二つもしくはそれ以上の世界における戦いを遂行することができる。 だが、この種の超越意識が宿るのは古代の白人、すなわち<ヒュペルボレア人種>の記憶を保存する血の持ち主に限られている。セラノは、インドのバラモンがその血を、すなわちゴビ文明の破壊の前の記憶を保存してきたことを讃え、ティラクによるバラモンの北極原郷理論を引用するのである。ナチスの「アーリア」原理と同工異曲であることはいうまでもない。

 

・<デミウルゴス>とは、エホヴァもしくはヤハウェであり、ヒュペルボレア人の干渉を絶対に許さず、開闢以来、彼らに対して無慈悲な戦いを挑んできた。この戦いで、彼が用いる道具は、セラノが常に言及する<大陰謀>に与る<反人種>ユダヤ人である。彼らは、この世界のすべての宗教的、政治的、顕教的、秘教的団体の背後にいる。セラノは、フリーメーソンのみならず、キリスト教も憎んでいる。その両者共に、ユダヤの陰謀の一部であると見なしているのだ。ヒトラー自身も貴族的なキリスト教徒とメーソンの将軍たちに裏切られ「この<暗黒時代>の最も正当な戦争に敗れた。それは<円の中の円>を破り、この惑星を贖う唯一の戦いであったのに」。

・このような観点から見れば、トゥーレ協会とはゲルマン神話とルーンの学問による<ヒュペルボレア>の理想の復活であった。その遠源のひとつはイギリス、たとえばジョン・ディーにあったのかもしれない。セラノは彼について興味深いことを書いている。また、彼によればトゥーレ協会は聖堂騎士団と同じ「黄金の系統」に属していたが、この騎士たちは自ら<ヒュペルボレア>の伝統を発見してユダヤ・キリスト教と決裂した。これが「シオンの小修道院」からの離反である。彼らの中には、ヒトラーの如く自らの組織の壊滅を脱しておそらく1307年のアメリカに渡った者もいる。この年、彼らの艦隊はラ・ロシェルから姿を消した。トゥーレ主義たちの時代に近づくと、明らかに<秘教結社ゴールデン・ドーン>とのつながりも出てくるが、セラノによればそれはアレイスター・クロウリーとユダヤ人であるベルグソン兄妹の倒錯のために邪道に陥ってしまったという。かくして、トゥーレ協会を受け継いだ唯一正統な組織は、人類の退化の方向を逆転させる突撃戦部隊、すなわちSSである、ということになる。

・セラノによれば、ヒトラーの侵攻の初期段階においては、彼の意図は単にアーリア人、すなわちヒュペルボレア人の古代の領地を回復しようとするものにすぎなかった。

・ヒトラーは、アヴァタールとしての宿命に着手した、すなわち、国際的ユダヤ人と<デミウルゴス>に対する、そしてその最後の創造物である共産主義ソビエト連邦に対する全面戦争である。

・ほとんどの人は、私達が対戦中のヒトラーの主要な精力は、「魔術的現実」の実験に注がれていたと言うと驚くに違いない。それはたとえば、空飛ぶ円盤の製造、物質の透明化、潜水艦による北極探検、チベットとの慎重な接触、そして北極か南極の要塞における先端科学の探求である。その後、ベルリン陥落と共に、彼は、アルベルト・シュピールの設計によるブンカーとテンベルホフ離着陸場を結ぶ地下道を通って脱出し、もうひとつの世界に達した。

・ドイツの潜水艦は、北極点もしくはジョン・ディーの言うグリーンランドに、あたかも黒い漏斗のように他の極とつながる地点を発見し、もはやここにはないが厳然と存在しているあの楽園のような陸地や海に行ったのだろうか。その難攻不落の楽園からなら、戦争を継続し、あまつさえ勝利することもできる――この戦争に敗北するときが、もうひとつの戦争に勝利するときなのだから。<黄金時代><究極のトゥーレ><ヒュペルボレア>、すなわち物事の裏側に達するのはきわめて簡単で、そして困難である。内なる地球、他の地球、反地球、星幽的地球に至るには、スイッチを「カチッ」と切り替え、空間の二重性、三重性を体現するのだ。

・このような文章を、UFOや地球空洞説の熱心な支持者とナチス修正主義者を結び付ける与太話、たとえばエルンスト・ツュンデルの『UFO――第三帝国最後の秘密』や『秘密のナチ極探査』などの同類と見なすことはできる。

<死者との進軍:ジャン・パルヴレスコの場合>

・<黒騎士団>について述べられた最新かつ最も曖昧な言説は、ルーマニア出身でフランス語で作品を書いている詩人・作家のジャンパルヴレスコの作品『予言の螺旋』である。

 パルヴレスコのテーマは多くの点でセラノと共通するし、特に<黒太陽>、<緑光線>、ナチズム、性的ヨガなどに熱心している点はそっくりである。

<隠された地>

<アガルタと<北極星>>

<アガルタ神話の起源>

・これまでの章では、世界の霊的中枢が北極から他の場所に移動したという考えを追ってきた。その移動先はミゲール・セラノによれば南極であるが、これについては後に考察する。他に中央アジア説や南アメリカ説もあるが、いずれにせよ、それが世界の進歩と人類の運命を導いているという意味では、霊的中枢を今なお「極」と呼称することは可能である。そしてそれは物質世界から窺い知ることはできない。

・秘密の中枢が話題になると、いつも決まって突如として浮上する名称が、「アガルタ」と「シャンバラ」のふたつである。ランディヒの本の最終章では、両者は対立するふたつのオカルト的な力の源泉とされていた。前者は善で理想主義的であるが、後者は悪で物質主義的である。

・疑いなくハウスホファーが1905年の時点で知っていた伝説、そしてルネゲノンが『世界の王』で解釈を加えている伝説によれば、ゴビの洪水の後、この偉大な文明の支配者たちや導師たち、すなわち<全知者>たちや<超越世界からの知的存在>の子孫たちは、ヒマラヤ山脈の下の大洞窟に避難した。そしてそこで、すなわちその洞窟の中心で、彼らはふたつの集団に分かれ、一方は「右道」、他方は「左道」をとった。前者はその中心をアガルティ、すなわち瞑想の場にして隠れたる善の都、世界と没交渉の神殿に置いた。後者はシャンバラ、暴力と権力の都に移った。この都の力は四大元素や人類の大部分を支配し、人類は「時間のターニングポイント」に到達するのを速める。世界の諸民族を導く賢者たちは、シャンバラとなら契約することもできた。それは堅い誓約と犠牲によって為された。

・読者は、このアガルタとシャンバラの対立の構図のもともとの出所を特定できればと思われるだろうが、それは不可能だ。

・それによれば、ヒュペルボレアを居住不能にしたおそらく6000年前の大洪水の後、住民たちは現在ゴビ砂漠に覆われている土地に移民し、新たな領地を築いたという。それがアガルタである。人々は八方からこの「世界の中心」に集まり、2000年もの間、絢爛たる文明を享受した。その後、原因不明のもうひとつの破局が起こり、この地域の地表は荒廃したが、アガルタは地下に生き残った。ここに、偉大な秘儀参入者たち――フレールによれば、ピタゴラス、テュアナのアポロニウス、そしてイエスら――が、<世界の師>から叙階を受けるためにやって来た。そしてアーリア民族は、ふたつの方向に移民して行った――第一の集団はヒュペルボレア原郷を指して、失われた領域を征服するために北西へ向かい、第二の集団は南のヒマラヤに辿り着いて、その地下空洞にもうひとつの秘密の中枢を築いた。

・<地球外知性体>の息子たちは、ふたつの集団に分かれたらしい。一方は「黄金日輪」の下で「右道」を採り、他方は「黒日輪」の下で「左道」を採った。前者は<ヴリル>の力をもつ善なる普及の瞑想の地、アガルタの中心を護持し、後者はシャンバラに新たな秘儀伝授の場所を作った。それは四大元素と大衆を操り、「時の終わり」の到来を急がせる暴力の都である。

・フレールは、初期のナチスが1920年から1925年までの間にこの教義を学んだこと、後にドイツ大衆に及ぼしたナチスの力はシャンバラの方法の典型であることを指摘する。

・アガルタ神話の創作者は、南インドはシャンデルナゴルの行政長官を務めたこのジャコリオということになるであろう。

・ジャコリオのアスガルトは、「ブラフマトマ」が治める先史時代の「太陽の都」である。ブラフマトマはバラモンの司祭長にして神の化身であり、王といえども彼らにとっては奴隷にすぎない。彼らは少なくとも紀元前1万3300年のヤティ=リシの即位以来インドを治めている。

・かくして神話は生まれたが、それはアーリア人種やその古さ、そしてその地理学上の起源に関する空想的な理論が数多く生まれた19世紀の精神をきわめてよく反映するものとなった。

<サン=ティーヴ・ダルヴェードル>

・ジャコリオのアスガルタ神話は、本当にインドの秘密の伝承に由来するものなのだろうか。もしサン=ティーヴ・ダルヴェードルによる考証がなければ、それは妄説として退けられていただろう。

・サン=ティーヴは、その師を通じてはアガルタに十分肉薄することはできなかったが、それに代わる接近手段をもっていた。彼は自らの星幽(アアラル)体を投射する技術を身につけており、これによって自分自身でアガルタに行くことができたのである。

・結論からいえば、我々がアガルタの何たるかを知ったのはこの『インドの使命』のおかげである。それは東洋のどこかに隠された国で、地下にあり、何百万という人口を「ブラフマトマ」と名乗るエチオピア人の「祭司王」が治めている。このほとんど超人的な存在は、「マハトマ」と「マハンガ」のふたりの仲間に支えられている。サン=ティーヴによれば、それは紀元前3200年のカリ・ユガの開始と共に地下に移り、地表人の目から隠れたが、ガス照明、鉄道、飛行機械等々、長らくの間我々よりもはるかに進んだテクノロジーの恩恵を享受してきた。その政体は理想的な「共同統治」の一種である。それは紀元前4000年期の<世界帝国>の分裂以来長きにわたって地表人が失ってしまったもので、モーセ、イエス、そしてサン=ティーヴ自身がその再建のために苦悶してきた。ときにアガルタは地表世界に密偵を放つことがあり、ゆえに地表のことも完璧に掌握している。その図書館には、現代において初めて発見された知識のみならず、時代を超えたすべての叡知、たとえば魂と肉体の関係や、肉体を離れた魂と肉体の中の魂の間の交流法などがヴァタニア文字で石に刻まれ、蓄えられている。我々の世界が共同統治の政府を樹立したとき、アガルタが姿を現わしてその霊的・物質的恩恵を我々に施す時が熟する。

・彼によればアガルタとは「不可侵」という意味であり、それは「世界の王」が治める世界の霊的中枢であるが、この<世界の王>とは、悪魔を意味する「この世の支配者」とは別物であるという。

<極の同胞団>

・さて、人間を超えた力の中枢の存在は地上にも反映されている。アジアには常にそうした伝承があった。この<中枢>は中央アジアではアガルタと呼ばれ、またそれ以外にも多くの異なった名称があるが、ここでは触れている余裕はない。この<中枢>の使命もしくは存在理由は地球の霊的活動を導くことにある。

・<北極星>の名の由来は、古代より多くの異なる伝承において「極」と同一視されてきた<秘儀参入の中枢>の象徴的な場所――聖なる<山>にある。この<山>がかつては実際に、地理的な意味においてこの世界の極であったと考えるのはきわめて妥当である。何故ならあらゆる場所で、<北極伝承>が、もともとヒュペルボレアの領域にあったといわれているからだ。

・ハインリヒ・ヒムラーの命令で書かれた彼の第二書『ルシファーの宮廷』から抜粋しよう。

「ルシファーの廷臣」と私が呼ぶのは、ノルディックの血が流れ、その血に忠実で、神の探求の究極の目的としてははるかなる真夜中の北にある集いの山を選んだ者である。中東にあるシナイ山やシオンの山を選んだ者ではない。

<シャラントンのプラフマトマ>

・アガルタが仏教のラマたちの聖なる都となる前に、人間の体を住処とする金星の蛇の生き残りを浄化する必要があった。彼らは多くの劫にわたってこの最後の都を占領し、同じく人間の肉体に転生している火星の妖術師の精神と戦うため、その砦から邪悪な情報をばらまくのである。大ラマに率いられた500人のラマたちが、自ら「世界の王」と名乗る悪の大王の砦に進軍し、この浄化を行なったという。

・後に南極について考察するとき、この蛇は再びお目見えする。今のところは、たぶんディクホフはゲノンよりも「アメージング・ストーリーズ」誌を読んでいたのだろうと言っておけば十分であろう。その交友関係もきわめて胡散臭い。ディクホフに「至高の赤きラマ」の称号を奉ったオーム・チェレンジ=リンド公は1930年代から40年代にかけての悪名高い詐欺師で、自分はアガルタの統治者にして<偉大なる白き同胞団>の指導者であるクート・フーミの生まれ変わりである、などと称していた。その救い難い文章によれば、「アガルタの首都は、有名なアガルティにある」という。さらに、それは現在世界の聖地である天山のチャン・チェン・ロブにあり、そこにはいつも<統治者>が住んでいて、仲間たちとテレパシーでコンタクトしているらしい。また、ディクホフを弥勒と見なしていたヴァルター・ジークマイスターは、「レイモンド・バーナード」の筆名で地球空洞論やUFO、南米の地下空洞などの本を書いている。アガルタが地球の内部の空洞の名称で、空飛ぶ円盤はそこから飛来し、その首都はシャンバラである、と言い出したのはおそらく彼である。

<シャンバラ>

<チベットのシャンバラ観>

・そもそもチベット語である「シャンバラ」の定義は、チベット人自身に聞くのが最適であろう。

・時輪のタントラは[……]シャンバラの国およびその96の地方、そのそれぞれの王や住者たちと密接な関連があるとされてきた。だが、地図を広げてシャンバラを探しても見つけることはできない。それはカルマと徳の熟した者以外には見ることも訪うこともできぬ清浄な土地なのである。

・ダライ・ラマの言葉は、シャンバラとは通常の地理的・物理的な意味における「場所」ではないということを示している。数多い参入者の中には、「肉体と精神を浄化するシステム」である時輪タントラ自体を、将来シャンバラの清らかな土地に転生する目的で学ぶ者もいる。

<ゴビのシャンバラ>

・ここで西洋の専門家に目を向けると、神智学者は異口同音にシャンバラをゴビ砂漠の失われた文明と同一視していることがわかる。古くはブラヴァツキーの『ヴェールを剥がれたイシス』に、アダムとイヴのはるか以前、中央アジア全域に及ぶ広大な内海があったと記されている。「美しさでは世界に右に出るもののないその島に、我らに先立つ根源人種の最後の生き残りが住んでいた」。後に彼女は『シークレット・ドクトリン』でこの発言を訂正し、この場所に避難して来たのは我々の二代前の根源人種・レムリア人であったと述べている。

・この<聖師団>の中心はシャンバラにある。それはゴビ砂漠にある中枢であり、古代の文献では<白き島>と呼ばれる。それはエーテル物質として存在しており、地上の人類がエーテル視力を発達させたとき、その場所は認識され、その実在が認められるであろう。

・ベイリーのシャンバラを支配する<世界の主>は、すべての人間と神霊が「救われる」、すなわち悟りを得るまでそこに留まり、その進化を見届けようとする。目には見えないが地理的に存在している中枢から地球の進化を統括している霊的存在を指して「世界の主」という称号を用いたのは、これがおそらく最初の例であろう。ルネ・ゲノンのアガルタおよびその「世界の王」の場所や機能との比較は、あまりにも明瞭なので強調する必要もない。そしてちょうどジャコリオのブラフマトマと同様、この偉大な秘儀参入者が年に一度出現するという主題もアリス・ベイリーの書物にある。こうしたことから、単純にシャンバラとアガルタを同一視する人がいても不思議はない。後に詳しく取り扱うニコライ・リョーリフもそう仄めかしているし、アレク・マクレランとジャン・アンジュベールはこのふたつは同じものであることをはっきり断言している。

 

<リョーリフ一家>

・リョールフは、シャンバラについて次のように書いている。

 シャンバラとは、世俗の世界が最も高い意識の状態とつながる<聖なる場所>である。東洋では、ふたつのシャンバラの存在が知られている――地上のそれと、不可視のそれである。地上のシャンバラの位置に関しては、さまざまな考察が巡らされてきた。これを地球の北の外れにあるとする人々は、北極光こそ不可視のシャンバラの光であると説明する。

 だが、この説明は正しくはない。リョーリフによれば、「北」とはインドから見た北を意味するにすぎず、シャンバラはおそらくパミール高原かトルキスタン、あるいはゴビ砂漠中央部にあるという。

・1927年8月5日、ククノール地方で、リョーリフ隊は典型的なUFOを目撃した。1947年のケネス・アーノルドの目撃によってそれが「公式の」現象となるよりも20年も前のことである。現代の良質のUFO文献に比べればいささか陳腐ではあるが、あえてここで彼の描写を全文抜粋しよう。

 北から南に向けて、太陽の光を反射して輝く大きな卵形のものが、すごいスピードで飛んで行くのを我々全員が目撃した。我々の夜営地に差しかかると、この物体は南から南西へと方向を変えた。と見るや、それは深い青色の空に消えてしまった。我々は双眼鏡を取り出して、その輝く表面をはっきり観察する時間すらあった。その片側は、太陽の光を受けてきらめいていた。

<シェイヴァー・ミステリー>

・最後に、この章を始める動機となったそもそものテーマに戻ろう。シャンバラとアガルタの違いを明確にしようとするならば、これまで述べてきたように、例のふたりとはまったく逆の結論が出るようである。瞑想を通じて到達できる「隠された善の都」は明らかにシャンバラの方であり、アガルタは地上を脅かす物理的な地下の領域である。両者の関係は、瞑想中や死後における魂の状態と、ダンテらが提示した観念における死後世界との関係に譬えることができよう。後者においては、地獄とは物理的な地下にある場所であるとされているのだ。

・このような対照の典型例は、「シェイヴァー・ミステリー」として知られているものである。リチャード・シャープ・シェイヴァーは、1943年以降、SF雑誌『アメージング・スト-リーズ』に数多くの記事を寄稿した。それは、地下の洞窟世界に住む「アバンダンデロス」なる人類をテーマとしたものであった。彼らは1万2000年以上前に地上を離れた狡猾で劣悪な人種の生き残りで、地表人にあらゆる害悪をもたらす存在であるという。さまざまな賤業を転々としてきたシェイヴァーは、かつて8年間、この「発狂したロボット」すなわち「デロス」の虜囚として洞窟で暮らしたことがあると主張したのである。この経験から彼らの策謀を知った彼は、これに関するさまざまな情報を所有している、という。それはたとえば、もうひとつの地下人種「テロス」が彼らとの接触を図っている、などといった内容で――パルプ雑誌には不可欠な要素であるセックスや暴力に彩られたものであった。『アメージング・スト-リーズ』の編集長レイ・パーマーは、シェイヴァーの物語には商品価値があると判断し、それを読める文章に書き直した。その後しばらくして、彼は実際にシェイヴァーが何年かを過ごしたのは、洞窟ではなく精神病院だったという事実を知らされた。とかくするうちに、パーマーは1881年にジョン・バロウ・ニューバラに掲示された「新たなる聖書」=『オファスプ』の存在を知り、そこにシェイヴァーの物語との多くの類似点があることに気づく――両者の違いは、『オファスプ』ではこのシナリオの舞台が地下ではなく、地球を取り巻く星幽(アストラル)界になっているという一点だけであった。パーマーはこれに基づいて、シェイヴァーの経験の主観的現実を否定するどころか、彼は入院中に脱魂状態に陥ったのだ、と解釈した。すなわち彼のさまよう意識が目撃したデロスやその堕落ぶりは、『オファスプ』に登場する「闇と悪のさまよう霊」、すなわち霊界の低次星幽(アストラル)界に住む死者の魂の状態に当たると考えたのである。彼は気づかなかったが、「テロス」とはヘレナ・リョーリフの『アグニ・ヨーガ』に登場する防御の心霊的エネルギーの名称でもあるのだ。

・最後になったが、シャンバラは第2~3章で述べた原初の<楽園>や北極原郷のさまざまな解釈と、興味深い共通点をもっている。それを物理的な地球上に位置づける者もいれば、神々や「徳の高い」人間にのみ到達し得る特別の状態、すなわち我々のいう非物質的・エーテル的状態だと解釈する者もいる。ダライ・ラマの説く<シャンバラへの道>は、まさしくその原初の状態への回帰であり、外部の条件にかかわりなく、<鉄の時代>から<黄金時代>への移行を個人の中にもたらすのである。

<南極大陸>

<南極の神話>

・少なくとも、それが教育のある人々の科学的な見方である。だが、バード司令官が飛行機で極を超えて地球内部の空洞に入ったなどと書くような人々は、そこには青々と植物が茂り、おそらくはマンモスが下生えの中をのそのそ歩いているような土地がある、とただちに決めつけてしまう。1938-39年、クイーンモードランドを探検したドイツの南極探検隊は、アイスランドの荒涼たる温泉地帯にも似た「たくさんの湖があり、雪や氷のまったくない一群の低い丘」を始めとするいくつかの驚くべき発見をした。このノルウェイ領にスワスティカの旗を立てたドイツ人は、ここを新たにノイシュヴァーベンラントと名づけた。

・ミゲール・セラノによれば、ドイツ人はそこに地球空洞とその秘密の都市への連絡口を見つけた。それは極を逆転させた大災害の際の、ヒュペルボレア人の避難所である。戦時中からそこには秘密基地が準備されていたが、そこにヴィマーナ(空飛ぶ円盤型航空機)に乗ったアドルフ・ヒトラーが入城し、今日に至るまで「秘教的戦争」を指導しているのだという。セラノは自らの哲学的信念を表明した書物の中でこれを事実と断言し、物理的なものと形而上学的なものを融合させた地球の図を掲載する。これは部分的には前章でお目にかけたものに類する地球内部の断面図であるが、また両極間の微妙な気流と相補的関係も示している。

 

・とはいうものの、セラノは単にネオナチ・テーマや煽情的な読み物にお定まりの話題を繰り返しているにすぎない。それよりも資料的価値の高いドナルド・マケールの研究書『ヒトラー生存神話』(1981)によれば、ヒトラーが南半球に脱出したという神話の最初の源は、1945年7月初頭、アルゼンチンのマル・デル・プラタで予期せぬ降伏をしたドイツの潜水艦であるという。アルゼンチン海軍の公式発表をものともしないいくつかのブエノス・アイレスの新聞は、その潜水艦からゴムボートが上陸するのが目撃され、他の潜水艦もその海域で停泊していたと報じた。『クリティカ』紙は1945年7月17日、アドルフ・ヒトラーとエヴァ・ブラウンがU―530で南極大陸に上陸した、という内容の記事を掲載したが、その中で1938~9年の探検に言及し、その探検の結果「新たなベルヒテスガーデン」が「作られたらしい」と書いた。この記事は7月18日の『ル・モンド』紙と『ニューヨーク・タイムズ』紙に引用されて広く流布することになる。またすでに16日の『シカゴ・タイムズ』紙はヒトラーたちがアルゼンチンに脱出していたという煽情的な記事を掲載していた。

・空飛ぶ円盤で武装した南極の避難所という神話は、W・A・ハービンソンのスリラー小説『創世記』(1980)で頂点に達する。これはジュール・ヴェルヌによる「世界の支配者」のテーマを発展させたもので、この支配者はナチの科学を受け継いだため、ワシントンやモスクワを震え上がらせるほどの技術力をもっている。この小説には、ナチの円盤型航空機や南極探検に関する一級の資料が投入されている。同じ神話を扱ったものに、ジャン・ロバンの奇怪で皮肉な作品『オルト計画』(1989)がある。優れたルネ・ゲノン研究家であるロバンは、ヒトラーを「反・秘儀参入」の第一の代理人であったと見なし、これを憎悪する。

 ジャン・ロバンは、その場にいたという友人の証言として、堅い岩を通過できるヴィマーナを使ってバルパラインの近くから出入りする地下のハイテク複合工場のことを書いている。そこには<黒騎士団>の本部である新たなるアースガルドもしくはアガルタがあり、35万人の秘儀参入者たちが「来るべき御方」を待っている。また石の壁龕(へきがん)に吊るされたチェスキンと呼ばれる神秘的な緑の炎が彼らのエネルギーを満たし、その信仰心を高めているという。

 セラノが言うように、この「来るべき御方」とはアドルフ・ヒトラーなのだろうか。ノーである。ロバンの本では、ヒトラーは1953年に地下の隠遁所で死んでおり、その死体は六辺形の棺に入れられて神殿に祀られ、外から見ることもできる――そしてその隣には、戦時中に数千人のハンガリー系ユダヤ人を救い、ブタペストでソ連人に「誘拐された」スウェーデンの外交官ラオウル・ヴァレンベルクの死体が並んでいるのだ。ロバンの友人が告げられたところによれば、このふたりの存在は<黒騎士団>に属する多くのユダヤ人には何の問題も惹き起こさない。彼らは、進化の過程に「協力することを拒んだ」同胞を非難しているくらいなのだから。

 だがこの『オルト計画』は、その読者にはさまざまな問題を惹き起こす。何しろ読者は、ヒトラーとヴァレンベルクの衝撃的な和解の図や、そ<黒騎士団>のユダヤ人が大虐殺をけろりと忘れてしまうところを描き出したロバンの真の意図とは何なのか、首を捻るしかないのだから。本来ならユダヤ人やその伝統にとりわけ尊敬を払うはずのゲノン主義者であるロバンは、おそらく件の友人の話を実際に頭から信じ込み、我々に反=秘儀参入の忌まわしさを警告しようとするあまりにそんなことを書いたのだ、としか思いようがない。

・ヒトラーの生死、あるいはその在否にかかわらず、ナチの南極基地を信ずる人は米海軍の大規模な援助を受けたリチャード・バードの1946~7年および1956年の探検を重要視するだろう。だが奇妙なことに、彼の多数の飛行を記した公式地図によれば、バードはクイーンモードランドを完全に無視しているのだ。陰謀史観によれば、このことは簡単に説明できる。4機もの飛行機を失ったバードは、秘密の中枢の示す防御力に恐れをなし、触らぬ神に祟りなしを決め込んだのである。

<ブラヴァツキーの破局史>

・さてここで、本書の主題に関する最も肥沃な観念の源であるH・P・ブラヴァツキーに戻ろう、彼女の最初の大作『ヴェールは剥がれたイシス』(1877)には、地球の各<大年>を終結させる破局が描かれている。「極と赤道の気候は徐々に場所を変えてきた。極は線(赤道)と熱帯に向かってゆっくりと動いていき、その生い茂る植物層と群れ集う動物層を、氷の極の不毛な土地に変えていく。この気候の変化には洪水や地震などの宇宙的な陣痛が必ず伴う」。彼女は、古代の<大年>の中から「より真実に近い」ふたつを選んだ。1万800年と1万3894年である。いずれも大まかにいって、歳差周期の半分に近い。

・ブラヴァツキーの図式においては「地軸の傾斜には長期にわたる変化があり、その予定時期は偉大な<秘密の周期>のひとつに記録されている」。七つの<根源人種>の時代の終わりに来る七つの竟――休息あるいは空虚の期間――の内の三つまでは地軸傾斜の変化によって引き起こされる。それはまず<第二根源人種>の最後に来たらしい。このとき地球の傾斜の変化は<第二大陸>(ヒュペルボレア)のすべてをその住民ごと海中に沈めた――それから地軸は急速に以前の傾きに戻り、再び大地は海中から浮上し、それは次の<根源人種>――<第三根源人種>すなわち<レムリア人>の故郷となった。

<訳者あとがき 松田和也>

・かくしてゴドウィンは現代においてもなお巷間に広く流布しているオカルト的神話を次々に俎上に乗せてゆく。たとえばナチス現存説、南極のドイツ(あるいは異星人)基地と古代文明、UFO、地球空洞説、中央アジアの地底都市アガルタとシャンバラ、失われた大陸、秘密結社と陰謀史観、そして近い将来に現実のものとなるという、極移動による人類滅亡予言。このように列挙してゆくと如何にも怪しげだが、これらの取り扱いに当たって、ゴドウィンは終始、その高い学問的水準と、真摯で冷静な研究態度を崩すことがない。

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