当時、自民党の実力者であって脱税事件で逮捕された金丸信元副総裁ですら、政党交付金について「そんなものを導入したら「泥棒に追い銭」になる」と言って反対していました。(1)

(2024/9/11)

『検証 政治とカネ』

上脇博之  岩波新書  2024/7/22

<プロローグ>

・私は、1994年に北九州大学法学部の教員になり、2004年には神戸学院大学に移籍しました。

・また、2002年には、市民団体「政治資金オンブズマン」の結成に参加し、共同代表の1人になりました。「政治とカネ」をめぐる事件で100を超える刑事告発を行って記者会見を開いてきました。

・それほどこのたびの裏金事件の発覚は重大ニュースとなりました。それにしても、なぜ、自民党の派閥の政治団体は、裏金をつくったのでしょうか?

<政治家の収入源はどうなっているのか>

<政治家個人の収入>

・この法律では、衆議院と参議院の各国会議員は任期が始まった時点での議員本人の資産を100日以内に議長に報告し、以後、毎年増加分を「資産等報告書」として提出することになっています。

<公費の支給>

・このように様々な制度によって、政治家の活動は公費で支えられています。その中には、民主主義のために公費で負担しなければならない「民主主義のコスト」と考えられるため、公費で負担することは当然であるものもありますが、後述するように、その支出について憲法上の根拠がないものもあります。

<法律で収支報告が義務づけられている資金>

・ここまで見てきたように、政治家たちには公費から多額のお金が支払われていますが、それ以外にも、各議員や政党、派閥などの政治団体は、個人、政治団体、会社からの寄付やパーティー券収入により、民間からも資金を集めています。

・この政治資金規正法はしばしば「ザル法」といわれ、「政治とカネ」の問題を引き起こしてきたことは周知のとおりです。

<カネはどう規制されているのか>

<政治資金規正法の目的>

・政治資金規正法は、政治資金の出入りを透明化することで、国民が監視できるようにしようという法律です。

・どのように政治資金を規正するのかと言うと、基本的な考え方が二つあります。一つは、政治資金の流れを国民に公開することで、不適切な点がないかを国民に判断してもらうという考え方です。これは、まず、原則として政治資金を扱えるのを政治団体に限定し、政治資金を集めて支出したい者には政治団体の届け出をさせます。

・もう一つは、政治資金のやり取りを直接制限する考え方です。たとえば、企業や労働組合が政治家個人やその関連政治団体に寄付することを禁止したり、国や地方自治体から一定の補助金を受けている会社等からの寄付を禁止する、といった規定が存在します。

<政治資金規正法の歴史的変遷>

・企業や労働組合等の献金はこのようにしぶとく禁止を免れてきましたが、政治資金規正法は政界に不祥事が発覚するたびに、より厳しい規定が導入されてきた歴史がある。

<政治資金規正法が定める政治団体の枠組み>

・まず、政治資金規正法が適用されるのは、政治資金を受ける側と、提供する側の両方になります。ここで気をつけなければならないのは、報告書による収支の流れの公開などが義務づけられるのは、政治家個人ではなく、政治団体であるということです。

<抜け道だらけの政治資金規正法――裏金はこうしてつくられる>

<政治資金パーティーは事実上の企業献金>

・これまで不祥事が起きるたびに幾度となく改正を重ねてきた政治資金規正法ですが、残念ながら現在でも数々の「抜け道」が存在し、それが、「政治とカネ」の問題がいつまでもなくならないことにつながっています。

・ところが、政治資金規正法には寄付とは別に政治資金パーティーという枠組みが存在しています。政党だけではなく他の政治団体も開催でき、パーティー券購入は一般的には寄付ではないので、企業なども政治団体主催のパーティー券を購入することができるようになっているのです。

・企業がこのように大量のパーティー券を購入するのは、実質的には企業献金と変わりありません。企業などからの寄付を政党と政治資金団体だけに限定した政治資金規正法の規定は、政治資金パーティーが存在することによって骨抜きにされているのです。

<政治資金パーティーのもう一つのパターン>

・政治資金のパーティーの問題にはもう一つパターンがあります。それは、パーティーを主催した政治家の側が有権者を「接待」するというものです。

・この事例の代表的なものが、2020年に発覚した安倍晋三元首相の「桜を見る会」前夜祭をめぐる問題です。

<「透明化」の網をすり抜ける政治資金パーティー>

・企業献金の制限をすり抜ける「抜け道」となってしまっている政治資金パーティーですが、もう一つの問題は、政治資金規正法が目指す収支の透明化を阻害する役割を果たしていることです。

<パーティー券の購入を企業に強制>

・実際にはその収入のほとんどが寄付収入なのに、政治資金パーティー収入であることを「建前」とした政治資金パーティーの悪用が、半ば公然のこととして行われているのです。

<政党から政治家個人への「寄付」>

・政治資金パーティーだけでなく、政治資金規正法には看過できない「抜け道」がもう一つあります。それが、政党から政治家個人への寄付です。この手法によって、実質的な「裏金」を合法的につくることが可能になってしまっています。

・ところが、この第21条の2は、第2項でこんな例外規定を設けています。「前項の規定は、政党がする寄附については、適用しない」この項によって、寄付者が政党の場合だけは、政治家個人への寄付が許容されています。ここで言う政党とは、本部、支部の両方を含みます。

 この条項を考えた人はよほどずる賢かったのだと思いますが、たった1行のこの規定が、政治資金規正法に大きな「抜け道」をつくってしまっています。

・ですから、政治家が政党からどれだけお金を受け取っても、どんなに巨額の支出をしても、市民はチェックできませんので、事実上のブラックボックスになってしまっているのです。

 この仕組みを一番巧妙に使っているのが、政治資金を一番持っている自民党です。

・これらのお金は、いったい何に使われたのでしょうか。これだけ多額の寄付ですから、本来ならば各国議員の指定した資金管理団体で受け取ったことにして収支報告書に記載すべきなのですが、そのような運用は行われていません。

・以上のような合法的な裏金づくりは自民党本部に見られるばかりではありません。都道府県支部連合会などの各支部でも、「組織活動費」や「政策活動費」のほか、単なる「活動費」名目で地方議員らに寄付をしている支部が多数あるのです。北海道から沖縄まで裏金が全国に蔓延しているといっても過言ではない状態が続いてきました。

・自民党による前述の合法的な裏金づくりをやめさせるにはどうしたらよいのか。これについての答えはシンプルで、政党から政治家個人に寄付ができるという例外を認めた政治資金規正法第21条の2第2項を削除する法律改正をすればいいのです。

<政治家が多くの政治団体を持つ理由>

・多くの国会議員は、自身に紐づけられた「国会議員関係政治団体」以外にも、後援会関係者などを代表とした「その他の政治団体」を持っています。

・何のためにそのようなことをしているかと言うと、幾つか考えられる理由があります。一つは政治資金の受け皿を複数つくっておくことが便利だという理由です。

・政治家が複数の政治団体を有する別の理由としては、支出の透明度の一番高い「国会議員関係政治団体」が支出の明細を収支報告書に記載する義務を免れるためです。

 「国会議員関係政治団体」のお金の流れを追っていて、なぜこんなところに多額の寄付をしているのだろうと思って調べてみると、寄付の相手はその議員が持っている「その他の政治団体」だったということもよくあるそうです。

<寄付の上限額の定めにも抜け道が>

・政治資金規正法が定める寄付の上限にも、「抜け道」が存在します。

・例えば個人から政治団体に対しての寄付は、同一の受領者に対して年間150万円までと決まっています。

 しかし、先ほど述べたように多くの国会議員が複数の政治団体を持っていることにより、容易にこの規制をすり抜けられるようになってしまっています。

・上限規制をすり抜ける手法には他に、迂回献金があります。

<コロナ禍を逆手にとった脱法「オンラインパーティー」>

・コロナ渦の時期に「オンライン飲み会」が流行ったことがありました。これと同じように、オンライン上で会費を徴収して実質的な政治資金パーティーを行った場合、これ果たして政治資金規正法が定める政治資金パーティーに当たると言えるでしょうか。

<「裏金」は何に使われているのか>

・ここまで見てきたように、政治家たちは今回問題になった自民党派閥の政治資金パーティー以外にも、法の隙間を突いた様々な手法で「裏金」をつくっています。

・結局、使途をチェックする術がないので真相はわからないのですが、常識的に推測すると、考えられる使い道は大きく二つに分かれると思います。

 一つは、政治活動には使わず、自らの懐に入れ、ポケットマネーにしてしまっている場合です。

・使途としてもう一つ考えられるのは、政治活動や選挙に使ってはいるものの、もし収支報告書に記載したら批判を浴びるような後ろ暗い使い方をしている場合です。

・最近でも、2019年の参院選を舞台に、自民党の河井克行元法相と妻の案里参議院議員が地元議員らに現金を配っていたことが発覚し、公職選挙法違反で逮捕・起訴された大規模買収事件がありました。

< グレーゾーンの「陣中見舞い」>

・前述の件は「買収」と見なされて刑事事件となりましたが、このように国会議員が「陣中見舞い」などの名目で地元の地方議員にお金を配る行為は普段から行われています。

・先述の柿沢氏の例を見てもわかる通り、どこからが買収に当たるのかグレーゾーンの部分も大きいですから、こうした「陣中見舞い」自体を規正すべきではないでしょうか。

・ちなみに、買収というのは立証のハードルが高い犯罪なので、公職選挙法ではその一歩前の対策として、選挙中以外の期間も含めて、自分の選挙区内の有権者に財産的な価値のあるものを配るのを禁じています。

・このように、「買収一歩手前」の行為はあちこちで行われています。こんな現状を正そうともせずに「政治にはお金がかかる」と言うのであれば、そんな主張はまったく聞く必要がないと思います。

<自民党総裁選で使われている?>

・「裏金」の使い道に話を戻すと、他に可能性として考えられるのが、自民党の総裁選をめぐる多数派工作に使われているのではないかということです。

<金権政治を加速させてしまった90年代政治改革>

<中途半端に終わった政治資金規正法の改正>

・なぜ、政治資金規正法は「抜け道」だらけになってしまっているのか。なぜ「政治とカネ」の問題はなくならないのか。1990年代に行われた政治改革には本音と建前があり、建前の方は、結局は失敗だったのだと言わざるを得ません。

・また、企業が政治団体に寄付することを禁止しても、政治団体の代表が支部長を兼ねていれば、選挙区支部で企業献金を受け取り、自らが代表を務める政治団体にそれを寄付すれば、政治団体も事実上企業献金を受け取れてしまうのです。政党支部を迂回した企業献金です。

<「泥棒に追い銭」の政党助成金>

・1994年の政治改革は、企業献金という腐敗の温床を断つことができなかったばかりか、国会議員に新たに財源を与える大盤振る舞いをしてしまいました。それが「政治改革4法」のうちの一つ、政党助成法による政党交付金の導入です。

・ところが先ほど述べたように、企業献金は事実上容認されたままになりましたので、結果としてかつての財源も温存しながら、政治家たちの新たな収入源をつくってしまったことになります。当時、自民党の実力者であって脱税事件で逮捕された金丸信元副総裁ですら、政党交付金について「そんなものを導入したら「泥棒に追い銭」になる」と言って反対していました。彼は自民党の金権体質がよくわかっていたのでしょう。

・いっぽう、2018年から2021年の平均は248.1億円ですから、バブル時代よりも現在のほうが収入は増えています。政党交付金のおかげで、世間が不景気になっても自民党だけは「バブル状態」が続いているとも言えます。これでは、一般の国民の苦しみが理解できるとは思えません。

<政党交付金には違憲の疑い>

・私は、政党交付金制度は違憲だと考えています。

 

・もう一つ、政党助成制度の問題点は、政党交付金があるために野党が必要以上に多党化してしまうことです。

<国会議員を「資金中毒」にした政党交付金>

・このように様々な害がある政党交付金ですが、野党からも廃止論が盛り上がらないのは非常に残念なことです。

・政党交付金については唯一、共産党だけは受け取りを拒否し続けているうえ、廃止法案も提出しているのですが、他党の協力が得られない以上、成立する可能性はゼロに等しい。

・お金を儲ける最大のポイントは、与党でいることです。政党交付金もそうですし、企業献金にしても本質は「形を変えた賄賂」なのですから、企業にとっては野党に対して出してもさしたるメリットはありません。

・ちなみに、自民党は党員がどんどんすくなくなっていて、90年代初めに547万人いた党員が、2012年には73万人まで下がっています。2023年には109万人まで持ち直していますが、それでも往時の5分の1程度です。

・かつての自民党は「総合病院」とも言われていました。市民の間には、「あそこに相談に行けば、何かしら助けてくれる」というようなイメージがあったわけです。

・ところが、どれだけ党員が減っても、自民党議員は与党の座を絶対に手放したくない。選挙で勝ち続けたいわけです。国民に痛みを強いて、どんどん福祉サービスをカットして、個人からの寄付が集まらなくなっても、政党交付金もあるし、企業献金もある。パーティー券で収入が得られる。財政的にはまったく困りません。私から見ると、わざわざ国民に痛みを強いる政党に、国民が頑張って働いて収めた税金から政党交付金を払うなんて、踏んだり蹴ったりな構図です。

 中毒患者に必要なのは「禁断治療」です。彼らにとっての「麻薬」となっている企業献金を禁止するなどして資金源を断つべきなのです。それなのに、政党交付金という形でわざわざ国民の税金を投入して、それまで以上に「お金まみれ」にしてしまった。

<小選挙区制で政治がクリーンになるという「幻想」>

・やはり「政治とカネ」の問題を起こす人は出てくるわけです。

<過剰代表で議会制民主主義を歪める小選挙区制>

・小選挙区制の欠陥として真っ先に挙げられるべきなのが、特定の政党が過剰に代表されるシステムだという点です。

・ところが困ったことに、1994年の政治改革によって新たに導入された衆議院議員選挙の小選挙区制は、与党の過剰代表を生み出してしまう制度なのです。

・ところが、選挙後の議席配分を見ると、小選挙区選挙の議員定数に占める自民党議員の割合は実に79%にのぼりました。4割の得票率で8割の議席がとれてしまうわけですから、これが主権者の意思の正しい縮図であるとは到底言えません。この問題は、他の年の総選挙にも当てはまります。

・現在の制度の中では民意をもっとも正確に反映している比例代表選挙の結果を見てみると、政権与党の得票率は2005年の衆院選を除いて20%を超えていません。参院選でも同じです。

 ところが、実際の獲得議席数を見ると常に与党が圧勝し続けているわけですから、現在の与党というのは小選挙区制の歪みが生んだ「上げ底」によって成り立っていると言っても過言ではないでしょう。

・こうした制度のゆがみが、実際に民意が支持している以上に自民党を強大なものとすることで、「投票してもどうせ勝てない」という野党支持者の諦めを生んでしまいます。こうした構図が、昨今の慢性的な投票率の低さにもつながっているのではないでしょうか。

<小選挙区制が生んだ「イエスマン」政治>

・小選挙区制を導入した結果生まれたもう一つの弊害として、内閣に対する議会の力が弱くなってしまったことがあります。

・だから、党内から時の総裁に対する批判の声が公然とあがることも珍しくありませんでしたし、時に「非主流派」や「反主流派」の議員が結集して「総裁降ろし」の動きが巻き起こることもありました。

 しかし自民党のこうした特徴は、1994年の政治改革による小選挙区制の導入を境に徐々に変質していきます。

・解散を受けて行われた衆院選では、小泉氏は郵政民営化関連法案に反対した37人の自民党議員たちを党の候補として公認せず、「刺客」として公認した対立候補を送り込みました。

・トップダウン型の政党になることで小泉首相は自分の思う改革を実現することができたと言えるかもしれませんが、その代償は非常に大きなものでした。結局、自民党のトップを決める総裁選に勝って強い権限を持った者がすべを決めるという構造になってしまった。これが何を意味するかと言うと、内閣総理大臣が決めたことに対して、自民党が多数派を占める国会はただ追認するだけの、単なる多数決のための機関になり下がってしまったわけです。

<小選挙区制が一層の政治の劣化をもたらした>

・官僚にとって人事を握られるということは自らの生殺与奪を握られるようなものです。それまでは政治家の言いなりになるばかりではなかった官僚たちも、次第に首相官邸の顔色をうかがい忖度する「イエスマン」の集団へと変貌していきました。

 現在でも自民党には派閥が存在していますが、自民党内の「ミニ政党」のように機能していたかつての派閥の面影はなくなりました。

・ところがこれまで見てきたように、小選挙区制が導入されて以来の30年間で、内閣が国会に対して非常に大きな力を持つようになってしまった。

・こうして見てきたように、1990年代の政治改革は、政治資金規正法に裏金づくりの「抜け道」を残したばかりでなく、政党助成制度や小選挙区制度の導入を通じて日本の議会制民主主義のあり方を歪めるという、現在まで続く大きな禍根を残してしまったのです。

<市民の手で「政治とカネ」を究明する――私が告発を続けるわけ>

<憲法学者が政治家を刑事告発し続ける理由>

・私はこれまで、数多くの「政治とカネ」の問題について、報道機関の貴重な調査結果を踏まえた取材に応えてコメントしてきただけではなく、検察に多くの刑事告発をしてきました。

・ここまで見てきたように、私は今の日本の政治制度を、日本国憲法が想定している議会制民主主義の名に値しないと考えています。

・ところが、現在の日本の制度は、国会が本来持つ権力へのチェック機能を弱め、内閣の暴走を許してしまっています。小選挙区制による与党の過剰代表で民意が歪曲されてしまう仕組みもそうですし、違憲の政党助成金や企業献金、使途不明金の裏金、官房機密費などによって「与党=内閣」がお金の力で政治を動かせてしまうようになっています。

・本来は歪んだ制度自体を正していかなければ問題は解決しないのですが、現状がこうなってしまっている以上、権力の暴走をできるだけ食い止める必要があります。そこで「政治とカネ」問題に特化した市民運動として、政治家たちの不正を検察に刑事告発していくことにしたのです。

・私の場合、坂口弁護士とその人脈で多くの弁護士の方々の力を得ることができたのは大変ありがたいことでした。

・このように市民運動として実践してみて感じたのは、「政治とカネ」に関する問題のチェックというのは、政治を監視する方法として非常に有効だということです。

・まったく情報がない中で、ただ「何かこういう犯罪が行われているんじゃないか」という告発を検察にしてもまず受理してもらえません。一方で客観的な証拠があれば、検察側も無視できなくなりますし、政治家側ともそれを根拠に戦えるようになります。

<日本の検察を信用していいのか>

・これまで様々な不正について刑事告発をしてきましたが、検察が正式に受理してくれないことがたまにありました。不起訴にされてしまうことも多々ありました。

・検察の判断に対して市民判断を活かすこうした制度はあるものの、それでも、基礎に至らなかったケースは数多くあります。

・なぜ、検察は政治家の立件に対して消極的なのか。検察側の論理からしたら、おそらく捜査機関として暴走してはいけないので、抑制的に捜査をする、という建前があるのでしょう。

・いずれにしても、特に今回の自民党派閥の裏金事件のように、「国会議員は4000万円以上、秘書は3000万円以上の裏金をつくっていることが立件の目安」などという話が出るのは、本当におかしな話です。

<「単純ミス」で済まされてよいのか>

・ましてや、今回の派閥の裏金事件は、派閥全体で何億円もの裏金をつくって、その一部をキックバックや中抜きにしていたわけなので、議員側だけで裏金をつくった過去の事件とは性格が違いますから、過去の事件における起訴の「相場」を適用するのは事件の本質を見誤っているとしか思えません。

・もう一つ問題だと感じているのは、私たちが政治資金収支報告書の問題を指摘しても、議員側があとからその部分を修正し、「単純ミス」だったと弁解すれば、罪に問われないということです。

・私に言わせれば、虚偽記載や不記載を指摘されてからその部分を修正するのは、確かに不正をしていましたという「自白」に等しい意味を持つと思っています。

・しかし、政治資金のやり取りは通常は金融機関の口座を通じて行うでしょうし、現金でやり取りしても領収書が発行されているはずです。不記載があれば、年末に収支が合わなくなり、必ず気づくでしょう。金額の多寡は基本的に関係がありません。選挙買収では時給1000円でも起訴されています。

・そう言うと、買収事件は実質犯だが、収支報告書の不記載は形式犯だとの反論が予想されます。

 元検察官の中には、政治資金規正法違反について、「この事件には被害者がいない」といった説明をする人がいました。あくまでも形式犯であって、実際に被害が発生している実質犯とは違う、という解釈です。

・しかし、私はこれには異論があります。政治資金規正法は、お金の出入りの真実を書くことを求めています。憲法論で言えば、「知る権利の保障」です。

・それだけではありません。裏金をつくって国民から見えないところで一部の企業や業界団体などと癒着し、国民全体ではなく一部の人々の利益を優先した政治が行われていることも疑われます。こうなると、本来あるべき民主主義が歪められることで多くの国民が不利益を被っていることになります。

 このように考えていくと、政治資金規正法違反が「微罪」であるような態度というのは、ことの本質を理解していないものだと言わざるを得ません。

<検察は変わったか>

・安倍政権時代には、内閣と検察との“癒着”を思わせるような動きがありました。2020年、安倍政権は検察官には適用しないとされてきた国家公務員法の法解釈を突如変更。当時、63歳での定年を目前にしていた黒川弘務・東京高検検事長の任期を半年間延長しました。

・それでも近年は、以前よりは検察の動きが活発化しているようにも見えます。

<不起訴でも刑事告発する意味はある>

・これまでに何件の刑事告発をしてきたのか正確には数えていないのですが、100件を超えているのは間違いありません。

・一つの理由としては、不正の証拠をきちんと集めた検察の判断でその議員が起訴されなかったとしても、問題のあるお金の使い方をしている議員がいるという事実を世の中に知らしめることができますから、社会に対しての問題提起になっていると考えています。

・政治資金規正法違反を指摘された場合の政治家の反応として一番多いのは、何かしゃべったらかえって自分の首を絞めてしまうと思うのか、雲隠れして黙っている例です。ある意味、これが一番したたかです。その次によく見るのは、「法令に則って適正に処理しています」と開き直る例。あるいは「単純なミスでした。訂正します。今後は気をつけます」と、素直に認めてくる場合もあります。認めて訂正しているからよいかと言えばそうではなく、「単純ミスだった」と説明することで摘発を逃れようとしていることも考えられますから注意が必要です。

<安倍晋三元首相の「桜を見る会前夜祭」事件>

・通算在任日数3188日、戦後もっとも長く総理大臣を務め、「安倍一強」とも言われる時代をつくった安倍晋三氏。その安倍氏が2020年9月に辞職するきっかけとなったのが、「桜を見る会」問題でした。

・各メディアの報道によれば、2015年から2019年の各費用総額は、約407万~634万円。それに対して、集まった会費の合計は約229万~384万円。各年の不足分は約145万から251万円の総額916万円で、これを安倍氏側が負担していました。

・この事件では、私を含む大勢の弁護士や法律家が参加した「「桜を見る会」を追求する法律家の会」が結成され、まだ秘書が任意聴取される前の2020年5月に、2018年分の政治資金規正法違反の収支報告書不記載罪と公職選挙法違反違反となる寄付行為の罪で、安倍氏側を東京地検に刑事告発しました。

・安倍氏は9月、総理を辞任しました。持病の悪化による体調不良を理由としていましたが、私たちの刑事告発によって、検察による捜査の手が自身の身に迫っていいることを感じていた可能性もあるのではないかと思います。

<再び安倍氏を告発する>

・2020年12月には、私や弁護士ら数名で、5月以降に新たに判明した事実を元に、安倍氏らを再び刑事告発しました。

 捜査に動きがあったのはその直後のこと。

・前夜祭についてはここまでの捜査で安倍事務所が補填した金額まではっきり出てきていたので、なぜ公職選挙法違反に問うことができないのか理解に苦しみます。また、数百万円規模の補填を何年も続けていたわけですから、安倍氏本人の承諾があったと考えるのが当然であり、秘書だけが逮捕されるという「トカゲの尻尾伐り」は到底許されることではありません。

・現役首相に対して強制捜査を行うことを躊躇したか、あるいは政権への“忖度”があったのか。しかし、現役の首相であればなおさら高い倫理観が求められるはずです。時の総理が、自分の政策を訴えて支持してもらうのではなく、有権者の買収に近い行為を行っていたことを許していいはずがありません。

・この事件については、私を含む多くの弁護士や法律家が刑事告発を行ったことで、検察としても動かないわけにはいかなくなり、安倍氏の公設第一秘書の略式起訴という結果につながったという自負があるのですが、安倍氏本人を有罪にすることができなかったことは残念でなりません。

・以上の告発は多くの弁護士さんと一緒に行ったものですが、前夜祭事件で私が独りで告発したものも複数あります。

<「闇パーティー」で議員本人が有罪に>

・議員本人が有罪となったという点で特に印象に残っているのは、安倍政権で内閣総理大臣補佐官を務めた自民党の薗浦健太郎衆議院議員(当時)の「闇パーティ」事件です。

・薗浦氏は報道機関の取材に対して、秘書からの事前報告や過少報告の認識を否定。「会計責任者が全部やってたんじゃないか」などと話していました。

・薗浦氏は特捜部による任意の事情聴取を受けた後、12月21日の報道陣に対して虚偽の説明をした責任をとるとして議員辞職し、自民党を離党。翌22日には、東京地検特捜部が薗浦氏と秘書2人を政治資金規正法違反で略式起訴しました。

・同様の事件では秘書に責任をなすりつける「トカゲの尻尾切り」で議員本人は逃げ切ることが多い中、この件では秘書が薗浦氏に事前報告して承諾を得ていたことを供述し、証拠も残っていたことで、議員本人の立件にまでつながったと思われます。珍しいパターンではありますが、議員の逃げ切りを許さず有罪判決・公民権停止まで追い込めたという点では今後、大いに参考にしたい事例です。

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