(アベノミクスの10年とは何だったのでしょうか)。小野:まったく効果がないのに昔の経済理論がまだ通用すると思ってやって、案の定、失敗した壮大な実験でした。(2)
<足りないのは新しい需要を考える力>
――アベノミクスの10年とは何だったのでしょうか。
小野:まったく効果がないのに昔の経済理論がまだ通用すると思ってやって、案の定、失敗した壮大な実験でした。ムダに流動性を増やし、あとの収支がつかない状態まで持っていってしまいました。途中で失敗とわかっているのにやめなかった。それは金融緩和と財政出動のマクロ政策だけではありません。生産性向上とか働き方改革、女性活躍など、成長戦略と言われる分野にも同じことが言えます。
<日銀券への「信心」が崩れたら恐い>
――日本の供給力が相対的に強すぎるということですか。政府の借金財政をもっと拡大してもかまわないというMMT論者たちは、その供給力がある以上は政府がどれだけ借金を膨らませても政府財政が破綻することもハイパーインフレが起きることもない、と主張しています。それは本当ですか。
小野:供給力の問題とハイパーインフレはぜんぜん関係ありません。
<「ジャパニフィケーション」は日本だけの問題ではない>
――格差や貧困、金融危機の頻発など、近年、資本主義の欠陥が目立っています。資本主義は曲がり角を迎えたのでしょうか。
小野:人々がまだ貧しかった成長経済の時代には、資本主義は非常にうまく機能する制度でした。しかしモノがあふれ、人々が物質的にとても豊かになった今日のような成熟経済では、慢性的に需要が不足し、失業が増え、長期不況に陥ってしまう構造的な欠陥をもっています。
――日本人の民族性が引き起こした特殊な状況ではないのですね。
小野:そうです。長期停滞に陥ることは資本主義の宿命と言ってもいいくらいです。人々がある程度豊かになって、モノが満ち足りた成熟社会になると、「もっと買いたい」という欲求が少なくなるからです。そういう社会では、「お金のまま保有しておきたい」という欲望が逆に高まります。これこそが長期停滞の原因です。
<人々の「お金の欲望」が不況を作る>
小野:ところが、お金にはもう一つ大きな特徴があります。時間を超えて購買力を「保蔵」できる機能です。経済が拡大してくると、この機能の魅力がどんどん増してきます。何を買おうか具体的な目的がなくとも、お金の保有そのものに魅力を感じるようになるわけです。この欲望のことを、私は「資産選好」と名付けました。いまの日本経済はその資産選好が異常に高まっており、貧しかった時代のモノの経済からお金の経済へと変わってきたのです。
<二宮金次郎の道徳律は害になる>
――日本には世界最大の対外純資産があり、家計の金融資産は2000兆円を超える金持ち国です。もっと景気が良くなってもおかしくないと思うのですが、なぜそうならないのでしょうか。
小野:逆です。それでは景気は良くなりません。家計金融資産がそんなにたくさん積み上がっているということは、貯蓄をしたまま使わない人が非常に多いということですから。
<格差拡大は資本主義のもつ病理>
――格差拡大も需要不足が原因なのですか。
小野:経済格差も、資本主義が抱える構造的な欠陥がもたらす症状の一つです。資本主義経済においては人々が資産選好をもっているかぎり、金持ちと貧乏人の資産格差は縮まるどころか、むしろどんどん拡大してしまいます。
<どれだけ魅力的な需要を作れるか>
――エコノミストや経営者たちは、停滞から脱するには「生産性向上こそが重要」と主張しています。生産性が日本経済の活性化のカギを握るのでしょうか。
小野:成長時代の時代ならそれにも意味がありました。効率的にたくさんモノを作れば必ず売れたからです。でも、今のようにモノ余りの時代になると、単に生産性を向上させるだけでは逆効果です。
小野:重要なのは新たな需要を作ることです。もちろんそれは簡単ではありませんよ。
<おわりに>
・その「負の遺産」がどれほど重く巨大なのか、アベノミクスでもたらされた受益に対していかに割の合わないものかを感じとっていただけたのではないだろうか。
・20世紀に世界最速で経済大国に駆け上がった日本は、21世紀になってゆっくりと階段を下りる時代を迎えていた。
・ところがその大事な時期に、さらに経済大国の高みに無理やり駆け上がろうと逆噴射してしまったのがアベノミクスということになる。その時代錯誤の罪は大きい。
・安倍政治が破壊したものは財政や金融政策にとどまらない。政治から節度と責任感を追いやり、官僚組織や中央銀行の矜持を踏みにじり、日本の国家システムの根幹をかなり壊してしまった感がある。
・アベノミクスの後始末はそういう意味では想像以上にやっかいな取り組みだ。表面的な政策修正だけでは、とてもおぼつかない。
(2024/8/25)
『高橋洋一のファクトチェック 2023年版』
高橋洋一 ワック 2023/4/22
・「経済政策も安全保障も、私は常にデータと根拠に基づいた国際標準の政策を採用すべきだと言って来ました。そんな単純なことがわからない輩が、政治家にも学者にも、そしてマスコミにも何と多いことか。彼らの間違いを徹底的に指摘していきたいと思います」
<「はじめ」に替えて>
<高市さんが言った通り捏造だったでしょ!>
――小西文書とは一体なんでしょうか。
・第一面に「厳重取扱注意」と書いてありますが、普通は「取扱厳重注意」です。「あれ、どうしてなのかな」と正直に思いました。後から取ってつけて書いたのかもしれません。そんな間違いを役人はしませんから。
・また、通常、大臣室での話は、大臣秘書官にも回しています。というのも、変な記録があったらまずいからです。だから、必ず配布するのですが、それが明記されていないのは不可解です。どのように記録を取ったかが重要だから、先方に回すのが当然です。
・私は小泉内閣時代、総務大臣補佐官をしていましたが、当時の総務大臣は情報共有として補佐官と秘書官を集め、「今から小泉総理に電話するから」と言ったうえで、報告していました。ただ、必ず情報共有するかといえば、総務大臣に拠るので、何とも言えません。
――行政ファイルの管理簿への記載も行われていないことが判明しています。
・小西さんは「超極秘文書だから、行政ファイル管理簿に記載されなかった」と言っていますけど、それほど重要な書類を管理簿に記載しなかったら、重大な規律違反です。
――小西議員は、総務省の答えで諦めることはないでしょう。
・でも、答弁を見る限り、西がたさんは、正しいことを書いたようです。だから、上司2人が怪しいと思われる。3人のうち、少くとも1人は正確なことを言っていない。今後の追求を待ちたいと思います。
・これは2023年3月21日まで3回にわたって放送した「高橋洋一チャンネル」の「高市早VS小西洋之問題」をまとめたものです。
<国内経済篇「悪い円安」?財務省も日経も経済オンチ>
<政権最大の敵は財務省! 安倍回顧録の衝撃>
――安倍元総理の回顧録『安倍晋三 回顧録』(中央公論社)が話題になっています。お読みになった感想は?
・売り切れ続出で一般の書店では入手困難になっているようですね。
――なんで出版が見送られていたんですか。
・とくに感慨深いのは財務省に関する記述です。財務省という言葉が繰り返し、繰り返し計71回出てくる。めちゃくちゃ多い。それも「財務省にやられた」とか、「財務省に騙された」とかって、すごく率直に語っているんだよね。
私は日頃よく「財務省は酷いことを平気でする」と言っているでしょ。するとみんな「高橋さん、それはちょっと大げさでしょ、言い過ぎですよ」と笑うんだけど、安倍さんも同じように思っていたってことなんだよ。森友事件は財務省の倒閣運動だったんじゃないかとか、そんなことまで書いてある。
・経済政策についても、「強硬に増税を主張してくる財務省に対抗するためには選挙しかない」というので、「選挙で消費増税を先送りにした」と、そういうことも書いてあります。
・<財務省の発信があまりにも強くて、多くの人が勘違いしていますが、様々なコロナ対策のために国債を発行しても、孫や子に借金を回しているわけではありません。日本銀行が国債を全部買い取っているのです。日本銀行は国の子会社のような存在ですから、問題ないのです。信用が高いことが条件ですけどね。
国債発行によって起こり得る懸念として、ハイパーインフレや円の暴落が言われますが、現実に両方とも起こっていないでしょう。インフレどころか、日本はなおデフレ圧力に苦しんでいるんですよ。財務省の説明は破綻しているのです。もし、行き過ぎたインフレの可能性が高まれば、直ちに緊縮財政を行えばいいわけです>
・これ、私が年中している話と同じでしょ。「増税なしでコロナ対策がどうやったらできるか」と安倍さんに聞かれたので、私はこの話をしたんですけどね、財務省の主張を真っ向から否定する文章が総理の回顧録にはっきりと載っているんだから、痛快ですよ。
――本の中に高橋さんのお名前が出てくるのですか?
・数カ所出てきます。安倍さんの回顧録に名前を出していただけるのは非常に名誉なことで、私としては満足といえば満足なんだけど、それよりも、やはり生きていていただきたかったというのが本当のところです。
<日銀総裁人事についての岸田政権の思惑と植田新総裁>
――じゃあ、黒田さんが退任間際に示した利上げ路線はもう変わらないということですね。
・その答えは『安倍晋三回顧録』に書いてある。総理だよ、総理がこういうことをキチンと理解していたんです。歴代の総理でここまで理解している人はいない。その部分を引用してみます。
<世界中どこの国も中央銀行と政府が政策目標を一致させています。政策目標を一致させて、実体経済に働きかけないと意味がない。実体経済とは何か。最も重要なのは雇用です。2%の物価上昇率の目標は、インフレターゲットと呼ばれましたが、最大の目的は雇用の改善です。マクロ経済にはフィリップス曲線というものがあります。英国の経済学者の提唱ですが、物価上昇率が高まると失業率が低下し、失業率が高まると物価が下がっていく>
実に素晴らしい。このあたりのくだりって、私がこの番組でかつて言ったことと同じですよ。
<完全雇用というのは、国によって違いはありますが、大体、完全失業率で2.5%以下です。完全雇用を達成していれば、物価上昇率が1%でも問題はなかったのです>
数字まで入れて説明しているわけ。完全失業率を2.5%以下にするためにインフレ率が2%必要だと、安倍さんは回顧録にはっきり書いているんですよ。素晴らしい回答です。私が大学の教授として採点すると満点です。
・インフレターゲットっていうと物価の話のように思えるけれど、本当は雇用がポイントなんだよね。雇用を重視するのかそれ以外を重視するのかっていうので真面目に議論すると、経済学者でも時々、「雇用以外を重視する」って人がけっこういるんだよね。
<実は日本は黒字! 国債の仕組みを解説します>
――日銀が国債を買い取れば政府の借金は消えるということですが、これはどういうことでしょうかという質問がきています。
・どういうことかと言うと、政府が借金するということは国債を発行するということです。ということは国債を買って持っている人に必ず利息を払わなきゃいけない。これは間違いない。普通の借金と同じです。だけで、国債を持っているのが日本銀行だったらどうなるかって話だよ。
もちろん、日本銀行にだって政府は利息を払う。政府から国債をどうやって買うかっていうと、お札を刷って、その刷ったお札で国債を買う。お札は無料で刷れるから、日本銀行の収益はどのように発生するかっていうと、国債の利子がまるまる日本銀行の収益になる。ここまではいいよね。ところで、日本銀行は政府の子会社だから、日本銀行の収益は100%政府に収めることになっている。これを日銀納付金というんだ。
・だから日本銀行に政府はどれだけ利払いしてもぜんぶ納付金で回収できるから、その意味では日本銀行が持っている国債については全く利払いする必要がない。
――では国は借金漬けだという巷説は誤りですか。
・日本銀行からの“借金”がいくらかを言わないで、全体として「1000兆円の借金がある」という言い方をするから、大変な借金を背負っているように聞こえるけれど、1000兆円のうち日本銀行の持ち分が500兆円あるんです。
――それでもまだ500兆円ある。大変な額だという人もいるのでは。
・500兆円を民間に借金しているのは事実だけれど、一方で政府は、実は600兆円以上の金融資産を持っているんです。
――実は日本政府は黒字経営なんですか?
・ものすごい黒字というわけでもないけど、トントンって感じかな。
――国債を日本銀行が引き受け続けると、日銀が保有する割合が増え続け、いずれ日本国債市場が消滅してしまうと思います。すると国際的な信用がなくなって円や日本株式が暴落してしまうのではないでしょうか……こんな質問もきています。
・日本銀行がどんどん国債を買い増していくと、最後は1000兆円になる。そうなったら実は財政問題はなくなっちゃう。だって、いくら利息を払ったってぜんぶ戻ってくるんだから、財政再建なんてする必要がなくなるぞって。それは理論的にあり得ることなんですよ。
――国際的な信用がなくなるという問題は?
・財政問題がなくなるんだから、逆に国際的信用は高まりますよ。国債市場がなくなるということは事実ですけどね。
――円とか株式の暴落はあり得ない?
・だって、財政再建しないと円が暴落するっていうのと真逆の話じゃない。日銀が国債を買い続けて財政再建しちゃったら、どうして暴落するんだってことですよ。
――これはものすごくぶっ飛んだ意見なんですけど、国債の発行を際限なく増やして税金を減らせば実質的に無税国家になるみたいなことって理論的に可能なんですか。
・国債の発行による無税国家論というのは、頭の中では可能かもしれないけど、実際に計算してみると、税金の分だけ国債を発行するとものすごくインフレ率が高くなる。だからそういうおいしい話は実はほぼ起こり得ないですね。
――インフレギリギリのところで、国債によって無税に近くなるくらい税金を減らすことは不可能ですか。
・できないでしょうね。これは物価の状況に依存するんだけど、今回のコロナみたいな時には消費がドーンと落ち込むでしょ。そういう時には物価が下がるからできるけど、ノーマルな状況になったらなかなかできない。インフレ率が2%じゃなくて8%とか10%になるから。
――耐えられるインフレ率って10%くらいですか?
・10%は無理。せいぜい耐えられるのは4%ぐらいまでだと一般的に言われていますね。だから案外そういうオイシイ話っていうのは実はほとんど不可能なんです。残念だけどね。
<アベノミクス潰えて失われた20年がやってくる>
――高橋さんがツイッターに書かれていた、アベノミクスが潰えて失われた20年が再来する、というのは本当なんですか。
・本当になったらまずいなとは思っているんだけど、岸田さんは反アベノミクスの人だからね。可能性はなきにしもあらずですよ。
・失業率とインフレ率の間にはある一定の関係がある。それを表すのがフィリップス曲線です。失業率が高い時にはインフレ率が低くなる。そういう関係がこの線に表れるんですよ。
失業率はあるところで下がらなくなります。日本だと失業率2.5%くらいのところなんだけどね。そこに対応するインフレ率はだいたい2%くらい。
・ではインフレ率をどうやって測るかということだけど、GDPデフレーター(GDP算出時に物価変動の影響を取り除くために用いられる指数)で測るのが普通なんだ。GDOデフレーターで測ってインフレ率が2%を長く超えるようになると本当のインフレだから、こういう時には増税も許される。フィリップス曲線の「増税可」のあたりですね。ただしGDPデフレーターが2%をずっと超えない時は、もうちょっと金融緩和すると失業率が下がるから今は「増税不可」だって、安倍さんにもそういう説明をしていたわけ。
インフレ率の話をすると、みんなすぐ消費者物価が上がっているというけれど、GDPデフレーターで見ると現在は増税不可のところにあるんです。
――まだそのあたりなんですか。
・だってGDPデフレーターがマイナスなんだもの。増税したい人たちは自分たちに都合よく消費者物価でやるんだけど、GDPデフレーターで見るとマイナスだから、インフレ目標2%より右にいっているとは思えませんよ。インフレ目標を定めてやっている時に消費者物価を便宜的に使ってやっているんだけど、理論を言えばGDPデフレーターだから、そういう意味では私の認識はまだ増税不可の状況です。
・だから私が今の状況を説明するとすれば、「見かけ上はインフレ目標を達成したように見えるけれどデフレーターで見ると達成していませんから、こういう時には積極財政と金融緩和が必要ですよ」ということになる。緊縮財政と金融引き締めをすると、グラフの矢印が左に動くけれど、積極財政と金融緩和をすると右に動くんです。そうしてフィリップ曲線上の〇印を目指すのがアベノミクスです。
だから、アベノミクスって実はすごく簡単なんですよ。どこに現状があるかを判断して、この〇印を目指すだけ。簡単でしょ。これが本当の経済です。安倍さんはこの仕組みを完璧に理解していたから、安倍さんが御存命だったらおそらく日銀に利上げはさせなかったと思いますよ。
・安倍政権はインフレ率2%まで完全に行かなかったから失敗だと言う人が多いけれど、安倍政権以外、2000年代以降の政権はどれもインフレ率がマイナスばかりだから、安倍政権は2000年代以降ではトップの成績なんだよ。
――このいちばん右にある「鳩山政権」はあの民主党の鳩山由紀夫内閣とは別の政権ですか。
・これは1955年の鳩山一郎政権。自民党の初代総裁で、鳩山由紀夫さんの祖父です。この時は高度成長期だったから、放っておいても右側にいく。
・もう一つ、図表6で歴代政権の雇用状況を見てみましょう。
横軸に失業率の低下をとって、縦軸で就業者数がどれだけ増えたかを見るわけ。これは右上のほうがいいに決まっているけど、安倍政権は歴代政権の中でトップ、それも断トツなんですよ。こういうデータを見て評価しなきゃいけませんね。
・マクロ経済についての私の採点基準も簡単で、まず雇用のウェイトが6割。なぜかというと、雇用さえ確保できればまあ及第点と言えると思う。残りの4割は給料上がったかどうか。それはGDPで見ればいい。だからGDPの成績が4割。安倍政権は雇用が断トツだから、これは100点満点で60点をあげてもいい。成長率のほうは、2000年代以降はトップなんだけど、歴代政権をぜんぶ含めて考えるとだいたい真ん中あたりだから、GDPは50点。それが4割だから20点。60点と20点を足して80点。安倍政権にはそういう成績をつけています。
――まずまずのいい成績ですね
・まずまずですね。ABCDでいうとBくらいかな。
・そういうふうに見ていくと、今の岸田政権の防衛増税と利上げの話はいちばん最初に出したインフレ率と失業率のグラフの矢印が左側に向いている。これはまずいですね。
――だから失われた20年の再来ということですね。
・〇印のターゲットにいっていないのに増税なんかすると、もう一回、あの時代がくるかもしれない。安倍政権と菅政権は、どんな状況にあってもアベノミクスでいつも〇印を目指してやっていた。だから、安倍政権も菅政権も増税はしなかったんです。消費税は前の民主党政権で決めたことだからしかたがないけれど、ほかは基本的にやらなかった。利上げもしませんでした。
<ようやく30年前に戻れたのに、円安の何が悪い?>
――昨年(2022年)秋以降、1ドルが150円になって、マスコミは円安の危機感を煽って大騒ぎしました。この状況をどうとらえればいいでしょうか。
とくに日経新聞ね。円安だ、大変だ、大変だって騒いでいた。面白いね。
日経新聞がなぜこういうスタンスにあるかを先に言っておくとね、日経は今まで日本企業の中国進出をすごく後押ししてきたわけ。そのためには、実は円高のほうが都合がいいんだよね。少ないお金で大きな投資ができるから。ところが、円安が進むと中国進出もままならない。それに加えて、中国の経済成長も鈍化しているし、ウイグルをはじめとする人権問題も露わになってきた。かといって、今まで中国進出を勧めてきた手前、いまさら日本に戻るべきだとも言いにくいし、そもそも中国は資本規制が厳しいから、撤退するのが難しいんだよ。下手をすれば撤退と引き換えにこれまでの工場からインフラからすべて取り上げられてしまう。そんな中国をずっと推してきたわけだから、円安が悪い悪いって言わざるを得ないんだ。
・日経新聞の事情はさておいて、経済学の話をすると、自国通貨安は「近隣窮乏化政策」と言われるんです。日本の円安に限らず、どこの国もみんなそうだけど、自国通貨安というのは自国の輸出関連を優遇して、外国からの輸入関連にペナルティを与えることになる。輸出関連企業のほうが自国のエクセレントカンパニーが多いでしょ。だからそこに恩典を与えたほうがGDPは増えます。これは輸出依存度とかに関係なく、どこの国でもだいたい同じ。だから近隣窮乏化と言われるんですよ、
・日本の場合で言うと、10%の円安で成長率を0.5~1%ぐらい引き上げているから、例えば今のIMFの世界見通しでも日本だけ成長率が高いんだよね。これは円安だからですよ。
・円安は、だから本当はすごくいいことなんだよね。それなのに円安をけなしたい人はどういうふうに言うかっていうと、現在の為替レートでやると日本のGDPが世界の30位、40位になっちゃうと、そういう言い方をするわけですね。
・その話を解説する前にね、32年ぶりの円安だと騒がれているので、それじゃ32年前の1990年の経済状況はどうだったかについてちょっと言っておきましょう。そんなに良くない時代だったかどうか、数字を見てみると、1990年の名目経済成長率は7.6%、実質経済成長率4.9%、失業率2.1%、インフレ率3.1%。まったく文句のつけようのない数字です。
――それはいわゆるバブルの時代ですか?
・うん、実はバブルの時代の経済の成績は文句のつけようがないくらい良いんです。それを日経新聞がバブルは悪いものだと煽りに煽った結果、バブル潰しのために日銀が金融引き締めをした。日本の不況はその時から始まったと私は見ています。
ところが日銀は今でもその金融引き締め策を間違いと認めていない。間違った政策を正しかったものとして継続したために、実はその後30年間の平成不況があったというのが私の解釈です。
・日本のバブルは悪くなかった。上がっていたのは株と資産価格だけだったんだよ。それだけが上がったのは別の要因、つまり、税制上の問題で上がっていた。それだけの話。マクロ経済のパフォーマンスは全く悪くなかったんです。それなのに日銀が間違った金融引き締めをしてしまったというのが正しい理解ですよ。
――現在は当時と同じ為替レートに近づきつつあるわけですね。
・それが悪いかのように騒いで、円高を狙って金融引き締めなんてやったら、バブル後の30年間の過ちを繰り返すことになります。バブルの終わった後に不況が待っていることに誰も気がつかず、ずっと金融引き締めを続けた。それと同じことを繰り返したら、新たな不況がまた起こるよ。
――要するに、円安は悪いことではないんですね?
・今回、1ドル150円台になったのは、いい話なんですよ。ようやく30年前に戻れると思わなきゃいけない。失われた30年を取り戻すいいチャンスだよ。
それを日経のように円安が悪いと言っていたら大変なことになる。
――いま思えば平成の初め頃はすごく良い時代でしたものね。
・それは円安だったからだよ。ただそれだけのこと。なんでその時代に戻っちゃいけないの? 30年ぶりにようやくいい時代が来ると書いてしかるべきなのに、日経を読むとバカになるというけど、そのいい例だよ。
――日銀はまだ金融緩和を続けるべきだということですね。
・当たり前でしょう。インフレ目標がある限り、金融引き締めはやっちゃいけない。これはあの「平成の鬼平」と言われた三重野康さんが日銀総裁だった時はインフレ目標がなかったから、バブルが悪い世論に押されて三重野さんは引き締めをやっちゃった。そのせいで長い長いデフレを招いた。その反省の上に現在の日銀総裁はある。
・この質問はどういうことかっていうと、インフレ目標の中に株と土地の価格は含まれているかどうかとい意味です。「含まれません。土地と株価が上がったからといって引き締めるのは間違いです」と、先生ははっきり答えたよ。実に明快な答えでありました。
――インフレ目標の中に株価と土地の価格は入っていないんですか?
・そう、どの二つは私の分析だと税制上の問題だからです。だから金融引き締めするのは間違い。税制上の対策をするのが正しい政策だった。その間違いを日本銀行は犯し、しかもそれを失敗と認めないから、こんな不況になっちゃった。そのうえ日経をはじめとするマスコミも性懲りもなく、また同じ間違いに誘導しようと煽っている。今はそんな非常に情けない状況ですよ。いくらなんでも同じ間違いを二度繰り返してはいけません。
<防衛三文書と防衛増税に関する朝日・産経のおかしな社説>
――政府は、防衛費の大幅な増額と反撃能力の保有などを盛り込んだ新たな防衛三文書を決定し、防衛費はGDP比2%に増やすと発表しました。
・本当はみなさんご自身で三文書の全文をお読みになったほうがいいんだけれど、それもなかなか大変だろうから、どう理解すべきかのノウハウを、初めにお教えましょう。
各新聞の社説を読むんですよ。
・だから、社説は朝日と毎日、読売と産経をそれぞれ読むとよろしい。なぜかというと、朝日と毎日は左派、読売と産経は右派にはっきり色分けされているので。この4紙を読めば、左右両方の意見がわかります。
――何をダメだと言っているんですか?
・とにかく防衛費を増やすのはけしからんと言っているわけだよ。防衛費について議論する場合、当然ながら防衛の中身の議論が必要になってくる。
――ではどうしろと言っているのですか。
・この期に及んでも、「防衛費を増やすとお隣の国を刺激するからやめろ」という意見だよ。
――とにかく防衛費を増やすのはけしからんということ?
・防衛費を増やすのはけしからん。そのための増税などもってのほかだ。わかりやすいと言えばわかりやすい議論です。「近くにどんな凶暴犯がいても温かく接しろと」いうことだよ。
――今の時代でも、まだそういうことを言うんですね。
・まだ言っている。だからこういう社説になるわけじゃない。これが朝日なんだよ。毎日の社説も似たり寄ったりだけれどね。
――それでも朝日と毎日にも一定数の読者がいるわけですよね。
・産経の社説も読んでみましょう。
「安保3文書の決定 平和を守る歴史的大転換だ 安定財源確保し抑止力高めよ」(2022年12月17日)というのが見出し。中身はどうかというと、「平和を守る抑止力を格段に向上させる歴史的な決定を歓迎したい。政府の最大の責務は国の独立と国民の生命を守り抜くことだ。岸田政権が決断し、与党と協力して、安倍晋三政権でさえ実現できなかった防衛力の抜本的強化策を決めた点を高く評価する」
・私は防衛国債がいちばん正当だと言っているし、当座をしのぐんだったら、たとえば外為特会の評価益とか、国債の一般会計に繰り入れている債務償還費というのが15兆円くらいあって、これがとりあえずは使えるから、それを充てるべきだと言ったわけね。
ところが、税制改正大綱という自民党の文書には増税が盛り込まれていて、さらに税調の資料には、財源確保法という法律を次期通常国会に提出すると書かれている。それが本当に出されたら増税確定で、一巻の終わり。だからいま自民党内では財源確保法を阻止すべく、いろんなバトルが水面下で行われていますよ。
――防衛三文書の中身自体は評価していますか?
・非核三原則と専守防衛に関してはちょっと弱いけれど、他のところは評価しますよ。けっこういいことがたくさん書いてある。まぁ当たり前といえば当たり前のことなんだけどね。
<マスコミは絶対言えないマイナンバーカード反対のホントの理由>
――マイナンバーカードと健康保険証の一体化に反対する人が大勢いました。これはなぜでしょう。
・それで、私は「立民と共産党とれいわが反対する理由は何でしょう?」ってクイズ形式でツイッターにあげたわけ。その答えは何かというとね。この3党に共通しているのは実は在日外国人の支持を受けている政党だってことなんだよ。
――けっこう杜撰だったんですね。
・そうなんですよ。だから健康保険証で本人確認なんて、ハッキリ言って意味ないんだよね。それもあって健康保険証からマイナンバーカードに移行することになったわけです。
――今まで通称名称でやっていた人たちと、その支持政党の声が大きいから、勘違いしてしまうというだけなんですね。
立民・共産・れいわはプライバシーがどうのこうのと理屈をこねるけど、マイナンバーカードのID(本人確認)で保険証や運転免許証、銀行口座やクレジットカードを紐付けるっていうのは、どこの国でもやっていることなんだけどね。そうしないとなりすましがいくらでもできちゃうから。でも、そういうごく当たり前のことを、マスコミは絶対に口にできないというのが、日本の特殊なところだよ。
<少子化対策・奨学金問題・研究開発費について語ります>
――少子化対策、奨学金や大学の研究開発費の問題について、まとめて解説をお願いしたいと思います。
・少子化対策については、私は人とはちょっと違う意見を持っているんですよ。少子化がこのまま進むと、経済成長が鈍って大変なことになると、そういう話をする人が世間には多いんだよね。
・だから、私は人を増やすということは考えない。人口の減少で何が困るかというと、基本的には労働力の不足です。だから、人が減った時にはロボット化を進める。そういうことを私はいつも言っているんですよ。
・つまり、人口を増やそうと考えるよりも、機械化を推進して一人当たりのGDPを高めるほうが人口減少に対する対策としては有効だと思うわけです。何かというと人口を増やさなければいけないとみんなすぐ言うんだけど、さっきも言ったように、人口を増やすのって案外難しいんだよ。お金があれば子供をたくさん産んで人が増えるかっていうと意外にそうでもないんですよ。だから少子化対策だといってお金をバラ撒くことを考えるんだったら、そのお金を機械化投資に回したほうがいい。
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