それは、日本にスパイ活動防止法という法律がないということが大きい。先進国でスパイ活動防止法がない国は、日本くらいだ。(1)
(2024/12/12)
『警視庁公安捜査官』
スパイハンターの知られざるリアル
勝丸円覚 幻冬舎新書 2024/5/29
<はじめに>
・日本には他の先進国にある「スパイ活動防止法」がない。現在の日本ではスパイ活動によって国防や外交上の機密情報が盗まれても、スパイ活動そのものを禁じ、またスパイを逮捕する法律がないのだ。
・このように「特定秘密保護法」は、「特定秘密」の保護を大前提としたものであるため、広く「スパイ行為」自体を取り締まるための「スパイ活動防止法」の制定が別途必要になる。
よって「特定秘密保護法」や「経済安全保障推進法」は成立されたものの、肝心のAIや半導体の最先端技術や、軍事に転用される恐れのある技術に関しては、まだまだ外国人スパイから狙われ放題だと言わざるを得ない。
<外国人スパイによる「技術情報流出の脅威」>
・これらのスパイ事件から、米国連邦捜査局(FBI)長官は、米国の知的財産や経済力にとっての最大の脅威であると発言。さらに2021年7月には、英国保安庁(MI5)長官が、ロシア、中国イランに関して、「過去5年間で1万件以上、外国のスパイによるイギリス国民に対する接近行為が確認された。スパイによって国内の研究機関の優れた研究データが盗まれることで、国内の企業が劣勢に回っている」と発言するなど、国外に知的財産が流出することへの懸念を示した。
<アウトリーチ活動の重要性>
・海外では、MI5の関連機関、FBI、オーストラリア保安情報機構(ASIO)などの情報機関が、技術情報の流出防止のために企業や研究機関に対して、その流出事例や流出防止策について積極的に情報提供している。
・我が国においても、警察の捜査を通じて得た外国のスパイ組織の手口やそれに対する有効的な対策について、情報提供するアウトリーチ活動を強化している。
47の都道府県警察に置かれる1100以上の警察署を基盤とし、企業や研究機関に対してアウトリーチ活動を行うことで、スパイによる技術情報の流出を未然に防ぐ効果が期待されている。
・しかし、これだけスパイ活動が活発になると、公安警察のマンパワーにも限りがある。どうしても手薄になる可能性が高いことから、民間人自身にスパイ関しての知識や情報を知ってもらうために、警察も手の内を明かすようになってきている。
私がやっている活動もまさに同じで、スパイの手口やテロリストはなぜ危険か、ということを一般の人にもっと知ってもらうことで、スパイが入り込まない環境を社会全体でつくってもらうことが私の役目だと思っている。
・日本に「スパイ活動防止法」がない今、課題は一般市民がスパイ活動に対して知識を身につけることで、スパイに仕事をさせないことに尽きる。「日本はスパイがしやすい、天国だ」と、これ以上、言わせてはいけない。
<公安捜査官、鬼の修業ものがたり>
<恵比寿、品川、上野は新人公安捜査官の尾行研修の最前線>
・公安の大事な仕事は、スパイやテロリストなどの動きを早めにキャッチして、ミッションを事前につぶすことだ。
そのための必須スキルは、一にも二にもスパイやテロリストを「尾行」することにある。
<尾行研修で一番困るのは、逃げ役が女性の下着売り場に入ること>
・実際にスパイやテロリストを追っているときには、失敗は絶対に許されない。そのためには、日々、実地研修と研究が欠かせない。
<公安は自分が不得意なことはやらないのが鉄則>
・このように公安の世界では、不得意なことはやらないのが鉄則。「私、失敗しないので」と言い切れる得意なことを磨くことこそ、気鋭のスパイハンターになれる条件である。
<プロのマジシャンからテクニックを学ぶ>
・マジック実演を受けて感じたのは、見た目はすごいマジックでもタネはものすごく単純であるものが多かった、ということだった。
<尾行が上手だとスパイハンターとしてスカウト合戦になる>
・スパイハンターとして一番需要があるのが、「尾行が上手」ということだ。公安捜査官にとって「尾行」は基本中の基本だからだ。
・私が公安にスカウトされた理由は、自分で言うのもおこがましいが、学生時代から英語が得意で予備校で講師のバイトをするくらいのレベルだったのと、尾行が得意だったためだと思われる。
・政治団体によるデモなどの集会や監視対象の建物周辺には公安捜査官が必ず頑張っている。公安捜査官は「面割り」といってターゲットの顔を正面だけではなく、横顔、後ろ姿からでも認識できる。
<公安が人の顔と名前、情報を瞬時に記憶する方法>
・公安捜査官には共通する特技がある。それは相手の顔と名前、住んでいる場所などの基本情報を瞬時に記憶することだ。
じつはこれにはコツがあり、相手の情報と自分のデータを上手にリンクさせる。
・この瞬間記憶術はモニターから情報を得るときにも役に立つ。ときにモニターから「Eyes Only」と書かれた資料を見せられてメモをとれないことがある。
<スパイVS公安警察、水面下の死闘>
<SPや機動隊と公安が唯一、タッグを組むとき>
・警察の警備部と公安は基本、一緒に活動することはない。しかし、唯一、タッグを組むのがVIPの警護をするときだ。
・かわって公安警察は、国民の安全を確保するため、国際テロ組織、過激派、右翼などによるテロ活動を未然に防ぐために対策をはじめ、日本に対しての有害活動の取締り、サイバー攻撃に関わる捜査や対策、NBC(核・生物・化学物質)テロを実行させないための予防活動がメインとなる。
<ハニートラップは段階的に接近してくる>
・スパイ関連の話になると、必ず出てくるのが「ハニートラップ」についての話だ。ハニートラップとは読んで字のごとく「色仕掛けの甘い罠」のこと。
最近ではスパイに限らず、芸能人が売名行為や示談金目当てで近づいてきた美女に騙されて、ツーショットの写真やネタを週刊誌に売られることも指すようになった。
・心理学用語に「ザイオンス効果」(単純接触効果)というものがある。人は接触回数が多い人やものに対して心を開いて親近感を抱いてしまう、というもの。ハニートラップはこの心理を利用する。
・またハニートラップの場合は、仕掛ける側の女性が騙したい相手の男性にあえて自分の弱みや悩みを話すこともよくある手だ。国際ロマンス詐欺も、まさにこのパターン。
・ちなみに、「ザイオンス効果」には、効果のある期間が決まっていると言われている。接触回数は10回までがピークなのである。
・じつは、こんな実話がある。ある大物政治家に外国のスパイ組織がハニートラップを仕掛けた。何人かの美女を送り込んだが、その政治家は全く見向きもしない。そこで送り込まれたのが、長身のイケメンだったという話だ。ハニートラップも多様性の時代なのである。
<経済安全保障大臣のポストが創設されて変わったこと>
・公安警察に身を置いた人物には、退職後、暗黙のルールがある。「自分の功名を語らないこと」「現役時代に得た秘密や情報は墓場までもっていくこと」
かくいう私も、公安部外事課に所属していたため、日本の国内外の機密情報に触れることも多く、墓場までもっていく情報はいくつもある。
・それは、日本にスパイ活動防止法という法律がないということが大きい。先進国でスパイ活動防止法がない国は、日本くらいだ。
現在の日本ではスパイ活動によって国防や外交上の機密情報等が盗み出されても、スパイ活動そのものを禁じ、またスパイを逮捕する法律がない。
アメリカやイギリスなら、スパイ活動がわかった時点で逮捕、起訴できるが、日本の場合は、情報が流出した際、現行犯かそれに近い状況以外は逮捕することができないため、なかなか立件されることはないのが現状だ。
・スパイ活動防止法がある主な国のスパイ罪の最高刑は、次のようになっている。
●アメリカ(死刑)、イギリス(拘禁刑)、フランス(無期懲役)、スウェーデン(無期懲役)、ロシア(死刑)、中国(死刑)、北朝鮮(死刑)。
・最高刑に死刑が多いことから、国の機密情報の流出は、厳罰に処せられることがわかる。それほどスパイを取り締まることが重視されている。
元公安である私から言えるのは、日本も国を挙げてスパイやテロに関しての抑止力を高めることが重要だということだ。「日本はスパイにとって天国だ」といつまでも言わせておくわけにはいかない。
<追っている組織の中にモニター(協力者)をつくれ!>
・公安の捜査方法としては、潜入捜査よりもスパイ組織の中に協力者(モニター)を作るほうが主流である。だからと言ってモニターを作ることは容易ではない。
・口外する恐れがある場合は、情報の対価として金銭を渡して、口封じをするケースもある。
<公安には表部隊と裏部隊がある>
・スパイなどの対象者を尾行するチームには、外事警察の存在をあえて相手に知らしめて、相手の意図する行動をさせずに見張る「強制尾行チーム」(表部隊)と、絶対にバレずに尾行する「秘匿尾行チーム」(裏部隊)がある。
・「強制尾行」をすることでスパイが任務を果たすことができないと、スパイは任期半ばで帰国することもある。
<JR大塚駅は、スパイが「点検/消毒」に使う駅>
・公安捜査官がスパイを尾行していると、逆に相手に気づかれて尾行し返されることがある。
ターゲットの組織も当然、公安の動きをつねに探っている。
・それをわかった上で、公安の尾行班の捜査官は、尾行した日は必ず「点検」(尾行されていないか何度かチェックすること)と「消毒」(尾行者を振り切る行動)を徹底して行う。
<スパイを追うときは目くばせ禁止。ブロックサインで指示>
・とくにロシアのスパイは自国でしっかり訓練をしてから派遣されるので、こちらも慎重に尾行しないと、相手にバレる危険性が高かった。
<たった一度だけの失尾。忽然と消えた外国人モニター>
・どんな職業にも「ヒヤリハット」の事例はある。とくに医療現場での「ヒヤリハット」は、患者さんの大事に至るので、細心の注意を払わなければならない。
それは公安の仕事でも同じ。私も現役時代、たった一度だけ、ターゲットを途中で失尾したことがあった。
・このように尾行していたターゲットが神隠しにあうように、忽然と消えることがある。スパイの組織がどこかでかくまっている可能性もあるが、この一件だけは今も謎のままだ。まさに真実は小説より奇なり、である。
<北朝鮮は暗号に乱数表を使う>
・在日北朝鮮人は、日本に30万人ほどいたが、今では数万人に減っている。それでも、北朝鮮にいる将軍様のために日本でスパイ活動を行っている者もいると聞く。そういう人たちを「スリーパー」と呼ぶ。
・ロシアのスパイのなかには、軍出身の外交官も多い。逆に中国大使館にいるスパイは普通の外交官が多い。中国はそれ以外にも、日本の企業に多数の中国人スパイを潜り込ませているという情報がある。
<家バレした先輩公安の悲劇>
・家バレするということは、住んでいる場所がバレただけではなく、身バレ、顔バレしたということ、それは公安の仕事の継続が難しいことを意味する。
ある意味、公安捜査官はどんなトップスターよりも、家バレしてはいけない存在でもあるのだ。
<日本はなぜスパイ天国なのか?>
・先進国でスパイ活動防止法がないのは実際、日本だけだ。
例えば、日本では企業の情報をプリントアウトしたり、USBに入れたりして持ち出した場合、窃盗罪や横領罪などの現行犯に近い形で捕まえないと、スパイ行為を取り締まることができない。
・そもそも「スパイ活動防止法」がある国であっても、外交官は逮捕できないのである。
しかしスパイ活動防止法がある国では、「お金を渡すから、資料を持ってきてくれ」と頼み、「わかりました」と了承した時点で、協力者をスパイで逮捕できる。
・実際にある国から日本に送り込まれているスパイは3万人と言われている。それは外交官だけでなく、日本で働くビジネスマンもいれば、留学生もいる。
<公安の表舞台と裏部隊でスパイ活動を未然に阻止>
・「スパイ事件なんて、数年に1回くらいしかないでしょう」ある著名人に言われたことがある。表に出ている情報はほんの一部。氷山の一角でしかないことを思えば、そう言われても仕方がないのかもしれない。
<スパイハンターマル秘テクニック>
<循環式尾行の華麗なフォーメーションとは?>
・公安部のスパイハンターのチームには、それぞれチームごとに得意技がある。例えば、尾行の際、スパイに絶対に気づかれないために、途中で追う人間が入れ替わる尾行のやり方がある。
これは「循環式尾行フォーメーション」なのだが、そのテクニックは他の班には共有されない秘伝となる。
<公安外事課の中では事件班と追跡班に完全に分かれている>
・追跡班は尾行などで得た情報を元に、スパイ事件として立件できるとなったときに、事件班に情報を移す。
<モニター(協力者)の作り方>
・公安はスパイを追いかけるだけが仕事ではない。スパイの関係者や周囲の人たちから情報を得ることも大事な任務となる。
そのためには、情報を得るためのモニター(協力者)を作らねばならない。
<スパイの見破り方>
・日本が「スパイ天国」であるのは、再三、お伝えしてきたとおりだ。日本には現在、世界各国から数万人規模のスパイが潜んでいる。
三歩歩けばスパイにあたる日本にも拘わらず、日本国民はスパイの見破り方をあまりにも知らない。
<高度な尾行は対象者の前につく>
・例えば、「尾行者は自分の後ろにいる」という思い込みを利用して、スパイの前で見張るというテクニックがある。
<モニター(協力者)と会うときの心得>
・公安捜査官は、スパイを追うだけでなく、情報提供者であるモニターから、つねに新しい情報を入手している。
<情報の受け渡し方「デッド・ドロップ」とは>
・これは、顔を合わせることなく物や情報を二人の間で受け渡す、スパイ技術のひとつで、秘密の場所を用いて、直に会う必要がないようにする手法である。
<大型ショッピングモールで行う「フラッシュ・コンタクト」>
・スパイがよく集まる場所として挙げられるのが、「大型ショッピングモ-ル」「会員制外資系店舗」「人気の観光地」である。
・「フラッシュ・コンタクト」とは、古典的なスパイの手法で、スパイとモニターが情報交換するため、すれ違いざまに機密資料を手渡すやり方だ。
<スパイの見た目>
・やはり、見かけが派手で目立ってしまうとスパイとしてのミッションは成し遂げにくい。そんな意味でも、スパイは地味に限るのである。
<スパイの変装テクニック>
・公安捜査官もスパイやモニターが潜伏している建物を監視するときに変装をすることがある。
じつは公安の各課には主要な制服がほとんどそろっている。「電気店員」「配管工」「宅配業者」などの制服があり、私の場合は「看板持ち」「サンドイッチマン」「釣り人」に変装して張り込みをした経験がある。
<公安警察、噂の真相>
<使える⁉ 公安用語集>
・「居空(いあ)き」=住民が在宅中に隙を見て住居に侵入し、金品を盗むこと。ちなみに、留守の家を狙うのは「空き巣」という。深夜に寝静まった家を狙うのは「忍び込み」、忍び込みのプロは「ノビ師」と呼ばれる。
・「ゼロ」=日本の公安警察で特別な協力者運営や情報収集などを担当する班。
・「ケツもち」=組織において最終的な責任を請け負う立場の人間のことを指した言葉。
<公安に配属が決まったら、警察学校、機動隊の同期とはいっさい連絡を断つ>
・公安捜査官が他の警察官と大きく違うのは、公安に配属が決まった時点で、警察学校の同期や機動隊にいる同期とはいっさい連絡を断つルールがあることだ。
<公安メンバーは、カラオケボックスで反省会 ⁉>
・ひと昔前までは、公安捜査官のチームでの反省会や次のオペレーションの作戦会議は、居酒屋の座敷などで行っていた。それが今ではカラオケボックスで行うことが多い。
<刑事ドラマとリアルの違い>
・ターゲットとは50メートル以上離れず、それ以上、近づかずに尾行する。この距離感こそ、プロのスパイハンターの鉄則だ。
<「別班」の存在はある>
・私が公安監修をしたドラマ『VIVANT』の大ヒットで、一躍注目を浴びたのが、自衛隊の中にある諜報組織「別班」だ。
もともとは旧日本軍の参謀が、スパイ養成機関と言われていた陸軍中野学校出身者を集めて情報面から国の防衛に貢献するために、戦後作ったのがはじまりである。
<芸能界を取り巻くスパイの噂>
・アメリカのCIAでは、日本で顔が広いタレントや、CIAが関心をもっている情報を入手しているマスコミ関係者などを協力者として運営している。
<SIT、SATと公安の関係>
・警察にはさまざまな部署があるが、公安と同じく秘密裏に動く部隊が「SIT」と「SAT」である。
まず「SIT」とは、警察における部署のひとつである「特殊事件捜査係」の通称。
・かわって「SAT」は、警備と公安にまたがる存在で、警備部に所属する特殊部隊の通称である。日本語では「特殊急襲部隊」と呼ぶ。
・「SIT」の場合は犯人の身柄確保を優先するが、「SAT」では犯人の射殺も選択肢に含まれているのが大きな違いだろう。
<できる公安は「ひとたらし」>
・繰り返しになるが、事件が起きれば捜査をし、犯人を特定して捕まえるのが刑事のスタイルであるのに対して、公安はスパイやテロリストを監視して実行させないようにするのが仕事である。
<公安と別班の関係>
・わかりやすく言えば、警察バージョンが「外事警察」で、自衛隊バージョンが「別班」ということだ。
<実録・公安警察、秘匿ファイル>
<1995年、警察庁長官狙撃事件の失態の原因は?>
・こうして警察庁長官の狙撃という大事件は、迷宮入りしたのである。
じつはこの事件は地下鉄サリン事件の10日後に起きた。世間も、警視庁も「教団によるテロ」だと思い込んだこともあって、狙撃事件の捜査本部は、通常、殺人未遂事件を手掛ける刑事部ではなく、オウム事件と同様に公安部に置かれた。
・ここで大きな疑問を感じる読者もいるだろう。警視庁が総力をあげて捜査をしながらなぜ犯人を検挙できずに時効を迎えてしまったのか……?
<公安の監視対象に自衛隊がある>
・公安の監視対象に関して、意外と詳細を知っている人は少ないかもしれない。監視対象は次の団体や個人である。
●テロリスト及び、その可能性がある個人や団体
●過激な極右翼、極左翼団体
●過激な思想の政治団体
●在日外国人の活動団体
●過激な宗教団体
●自衛隊
・同時に重要な防衛機密もあることから、自衛官はスパイに狙われやすいのだ。
・2015年、元自衛官が現役自衛官を使ってロシアに情報を流していた事件があった。陸上自衛隊の元陸将が、スパイとみられるロシア大使館の駐在武官に陸自関係の軍事訓練に関する教科書を渡すなど情報を漏洩していたのだ。
・繰り返しになるが、日本にはスパイ活動防止法はない。現行犯で捕まえるのは難しいがゆえに、自衛隊についても、重要な防衛機密が漏れたり、日本を揺るがすような行為に出るようなことがないよう、公安が監視しているのである。
<安倍元首相暗殺事件とローンオフェンダー>
・安倍元首相暗殺事件から、ローンオフェンダーをマークする必要性がますます高まり、それだけ公安の狙う役割は大きくなった。
ローンオフェンダーとはテロ組織に属さず、単独でテロ行為に及ぶ個人を表す用語である。
・行為はテロと同じでも、ローンオフェンダーは組織のメンバーではない個人という特徴がある。テロリストも時代とともに変容する。
ローンオフェンダーの対策は世界的な課題でもあり、今後、警察は幅広い情報収集が求められるだろう。
<岸田首相襲撃事件の裏側>
・事件後には選挙応援の際、一か所で検問場所を作り、そこで荷物チェックをしてから中に入れるシステムに変更したが、本来なら事件が起こる前からこの体制にすべきだった。
・SPは重要人物を守るのが使命だが、その周辺に集まっている一般市民を守ることも重要だ。そのためには、私服の警官も群衆の中で警備すべきだろう。この事件が大きな教訓になることは間違いない。
<東京オリンピックはドローン監視が最重要課題だった>
・ここ数年、ドローンの性能は革新的に進歩しており、なかには昆虫ほどのサイズのドローンもある。
・今後も、ドローンの技術はさらに進化するだろう。それゆえに、悪用する幅も広がる。引き続き、ドローンに関する動きに、公安は監視の目を光らせなければならない。
<尾行中に不審者に間違われて通報>
・公安は尾行のプロであるが、思わぬアクシデントに見舞われピンチに陥ることもある。私と同僚の二人で、あるスパイを追ってスパイが潜伏している建物の見える駐車場で張り込みをしていたときのことだ。
建物の向かいのマンションの人が、私たちを不審者だと勘違いをして、警察に通報してしまったのだ。
<潜入捜査のあれこれ>
・公安捜査官の活動のひとつに、潜入捜査がある。これはおもに、組織に潜り込む、デモに参加する。以上がメインだが、今は組織に長期間、潜り込んで捜査をすることはほとんどなくなったと言われている。
<全国指名手配犯の桐島聡が逃げ通した事件>
・2024年1月29日、連続企業爆破事件で重要指名手配されている桐島聡容疑者とみられる男が、入院先の病院で死亡した。
・私が数社のメディアから聞かれたうち、共通していたのは、「なぜ、桐島は50年もの間、逃亡を続けられたのか?」ということだ。
・今現在も全国指名手配されている逃亡犯はたくさんいる。もし仮に、似ている人を見かけたら躊躇なく、警察に通報してほしい。
・そういう意味で、たとえわずかな目撃情報でも、そのピースがつながることで犯人逮捕のきっかけになると知ってほしい。
<スパイ&テロから身を守るために>
<スパイを追っている最中に、不審者を見つけたら?>
・現職を退いた今も、街中で怪しい人物や車を見かけると、一応、警察に情報提供をしている。以前私が通報した怪しい車に乗っていた人物を警察官が職責してみたら、連続広域窃盗の指名手配者だった、ということがあった。
<公安的シックスセンスの磨き方>
・繰り返しになるが、次のことを日頃から意識することで、「公安的シックスセンス」は格段に上がる。ぜひ、実践してみてほしい。
●自分の中の「おや、変だな」という違和感を覚えておくこと。
●スマホばかり見ていないで、視野を広くすること=魚眼レンズの目をもつ。
●電車や店の中に入ったら、まずは周囲を見渡す癖をつける。
●自宅やマンションの敷地内で作業着を着た人がうろうろしていたら、自分から挨拶してみること。
●人がたくさん集まる場所では、妙に興奮している人、挙動不審者をチェックし、距離をとる。
・またこれは余談であるが、公安捜査官の中には、このシックスセンスを磨き続けたことで、相手の過去や取り巻く環境が映像のように見えてくる人がいた。
・物体に残る人の残留思念を読み取ることを「サイコメトリー」というが、相手の記憶の断片を読み取ってしまうのも、一種の特殊能力といえるだろう。
アメリカのCIAやFBIでは、特殊能力を持った人を職員として採用し、その特殊能力を積極的に捜査活動に活用している。
<海外でテロやスパイに狙われないために>
・まず、海外でのスパイは、日本人というだけで接近してくる可能性がある。
<おわりに>
・「日本のために、外国のスパイを監視して追い詰める」あのときの熱き想いが、今の自分を支えているのは間違いない。
・念願のスパイハンターとしての活動は、想像以上に忍耐強く取り組まなければならない任務の連続であった。
・スパイ活動防止法がない日本国において、海外から大量に送り込まれるスパイたちの脅威に、まだまだ気は抜けないのである。
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