日本が長期デフレに陥った諸悪の根源は、日本人の努力不足などではなく、過去の政府や日銀の経済政策の失敗です。(1)

(2024/12/14)

『日本病』

なぜ給料と物価は安いままなのか

長濱利廣  講談社   2022/5/18

<はじめに>

・日本経済はバブル崩壊以降30年、ほとんど成長していません。

「好景気」とは何であったか忘れるほど、あるいは「経済成長」も「オイルショック」も教科書でしか知らない世代が30代になるくらい、日本はずっとデフレのなかにありました。「低所得・低物価・低金利・低成長」の「4低」は、もはや「ふつう」になります。

・確かに、経営幹部の給与を比較すると、日本は主要国のなかで下から数えたほうが早くなっています。中国対比で約3割安、韓国対比で約2割安で、フィリピン、インドネシア、タイより低い水準です。日本の賃金は非管理職レベルではそれほど安くないのですが、課長レベルで韓国に肩を並べられ、部長レベルでは中国に逆転されているのです。

<日本病――低所得・低物価・低金利・低成長>

<「ビックマック指数」でみる「安い日本」>

・世界中のマクドナルドで売られている「ビッグマック」の価格を比較した、有名な「ビッグマック指数」という指標があります。これは、イギリスの経済誌「エコノミスト」が毎年2回発表していて、世界共通で売られているハンバーガーの価格を比較することで、各国の購買力を比較しようというものです。

 2022年1月版を見ると、日本は389円で57ヵ国中33位です。韓国は440円で27位、中国は441円で26位、タイは442円で25位と、すでにタイ、中国、韓国よりも安いことがわかります。

 上位を見てみると、3位のアメリカは669円、2位のノルウェーは736円、首位のスイスは804円と、日本とは2倍を超える差がありました。

<「100均指数」で見る「安い日本」>

・日本発の商品でも見てみましょう。日本の「100円ショップ」は世界中で展開されている巨大なグローバルチェーンです。

 しかし、日本では「100円均一」として認識されていますが、商品を本当に100円で買うことができるのは実は日本だけです。某チェーンの世界各地の店舗で同じ商品を比較した、いわば「100均指数」を見てみると、次のようになりました。

 アメリカ162円、中国153円、タイ214円、シンガポール158円、オーストラリア208円、ブラジル215円。

 どこも日本の1.05倍以上の値段です。

・100円ショップの大手企業が国内展開を始めたのは、なんと1980年代後半のことです。つまり30年以上も、100円のまま値段が変わっていないのです。これは世界的に見るとかなり異常です。そして「値上げできない」というのは、日本のデフレ長期化にもかかわる大きな問題なのです。海外の国々ではそうならないよう、日本を反面教師にしていることもあり、「100円ではない均一ショップ」になっているのでしょう。

<今や韓国よりも低い賃金>

・日本が安いのは物価だけではありません。図表1-3は、主要先進国と言われるG7諸国+韓国の1年あたりの平均実質資金を算出したグラフです。日本のずいぶん低い位置が気になると思いますが、まずは用語を説明しておきます。

 縦軸にある「購買力平価」とは、わかりやすく言えば、「ビッグマック指数」を、すべての財・サービスに換算したようなものです。もう少し正確に言うと、「自国通貨と外国通貨で同じものを購入できる比率で算出された為替レート」です。これで実質賃金を比較しています。

・つまり「購買力平価」で見ることで、単に為替レートで単位を揃えただけでは見えてこない、より生活実感に近いかたちで国際比較ができるのです。

・長い間、賃金が上昇していない国も日本とイタリアだけです。日本は0.4%、イタリアはマイナス3.6%で、2000年からの20年間、実質的に「昇給ゼロ」状態だったことを示しています。

 対してアメリカは25.3%、カナダは25.0%、イギリスは17.3%、韓国に至っては43.5%と、世界の国々の賃金は右肩上がりで伸びています。

 いかに日本の経済が、長期的に停滞しているかがわかります。

 なお、韓国が順調に賃金上昇しているのは、最低賃金を段階的に引き上げ続けていることも大きな要因です。

<日本病の現状>

・日本病の様子は、「賃金上昇率」「インフレ率」「長期金利」「経済成長率」を並べてみても、よくわかります。

・そしていずれも、1990年前後のバブルの頃の値を超えていません。日本はバブル崩壊以降、低所得・低物価・低金利・低成長の「4低」時代に突入し、30年後の今なお日本病から抜け出せないのです。

 

・「バブル」とは、株や土地などの資産価値が実態より過剰に上がってしまうことです。

 そのため、例えば不動産を担保にお金を借りる場合にも、その不動産以上に高額なお金を借りられてしまいます。

・「経済が良くなる」とは、稼いだお金がモノやサービスの消費に使われて、世の中のお金の循環が良くなることです。しかし過剰債務になると、モノやサービスにお金を使う前に、まず借金を返済しなければなりません。稼いだお金が借金返済に回ってしまうため消費に結びつかず、消費が低迷していきます。

<日本病の本質はデフレにある>

・IMFの定義によれば、2年以上にわたり物価が下がり続けることを「デフレ」と言います。

「物価が下がる」ということは、裏を返せば「お金の価値が上がる」ということです。

・そうなると、デフレ状況における合理的な経済行動は「欲しいモノがあったときはなるべく我慢する」になります。

・しかし、値下げによって儲けは減るので、働く人の給料は上がりにくくなります。給料が上がりにくくなれば人々はさらにお金を使わなくなり、モノやサービスが売れなくなります――この悪循環がデフレスパイラルです。

 当然、景気はますます悪くなっていきます。

<日本化(ジャパニフィケーション)の恐怖>

・「低所得・低物価・低金利・低成長」――バブル崩壊以降、日本に定着したこの「日本病」は、海外の国々からは「日本化」と呼ばれています。「ああはなりたくない」という恐れから、日本の不況は世界の経済学の研究テーマにもなってきました。

 特に「100年に一度の不況」と呼ばれた2008年のリーマン・ショック後には、各国で「日本化」現象が起きました。

・しかし、日本以外の先進国では、日本のように長期間デフレに陥ることはありませんでした。

・海外は日本の失敗から学んでいたのです。経済政策の失敗でデフレを放置してしまい、日本病に陥った日本の姿を見て、不況への対策を研究していたからこそ、リーマン・ショックのときに迅速かつ大胆な経済政策を行うことができたのです。

 その結果、デフレを回避し、「日本化」を免れることに成功しました。

<デフレを放置すると、取返しのつかないことになる>

・海外の国々がここまで「日本化」を恐れるのは、30年間デフレを放置するとどうなるか、実際に日本の状況を目の当たりにしているからです。

 不況になると自殺者が増えます。日本では1998年に年間自殺者数が3万人を超え、以降は減りつつあるものの、なお2万人を上回る高い水準のままです。

・さらに低所得や将来不安の影響か、結婚しない若者が増えており、出生数もほぼ毎年下がり続けています。

<デフレを克服する方法>

・リーマン・ショック当時、FRB議長だったベン・バーナンキ氏は、プリンストン大学でバブル崩壊後の日本の長期不況を研究していた人です。

・その後、バーナンキ氏は、デフレ脱却の特効薬として机上で考えていた「量的緩和政策」を実行に移すことを決めます。

 そもそも、経済を安定させるために国ができる政策は、大きく分けて「金融政策」と「財政政策」の二つです。

・リーマン・ショック後、欧米が積極的に行った経済政策とは、この二つを両輪で回すことでした。「日本化」を防ぐため、バブル崩壊後の日本を反面教師に、大胆な金融政策と大規模な財政出動を行うことで、なんとかデフレを回避できたのです。

・こうして現在では、この「量的金融緩和政策+大規模財政出動」が、デフレ対策の定石となっています。

 ちなみにこのとき、日本はこれに加わらず、慎重な姿勢を崩さなかったため、異常な円高・株安を招きました。それによって引き起こされたのが、多くの生産拠点の海外移転とそれに伴う地方経済の破壊、いわゆる「産業空洞化」です。これはバブル崩壊で傷んでいた地方経済を完全に疲弊させました。完全な失策です。

<バブル崩壊後、ゼロ金利政策まで>

・なぜ日本は、こんなに長期間、デフレを放置することになってしまったのか。

・バブル崩壊により資産価値が暴落したことで、日本は不良債権処理に追われることになります。しかし、本当は不良債権処理から始めるべきではなかったのです。このときは、まず、金融政策と財政政策を積極的に行って、経済を健康な状態に戻すことを優先すべきでした。そして経済が良くなったところではじめて、不良債権処理を行えばよかったのです。

・さらに、行うスピ―ドも大切です。

 日本は1990年にバブルが崩壊してもしばらくの間、利上げしていました。ようやく利下げに転じたのが1991年7月、そして日銀の速水優総裁が「ゼロ金利政策」を打ち出したのは1999年2月でした。バブル崩壊から、実に9年後のことです。そもそも金融緩和に転じたのが遅かったうえ、利下げペースも遅く、10年くらいかけて段階的に行いましたので、結局デフレに陥ってしまいました。

・一方、アメリカを見ると、リーマン・ショック後も、コロナ・ショック後も、3ヵ月程度で一気にゼロ金利まで下げています。

<アベノミクスと黒田バズーカ>

・要するに、バブル崩壊以降の20年以上、日本はデフレ対策をきちんと行えないまま、不況だけが続いていました。

・通称「黒田バスーカ」と言われるこの金融政策には、やりすぎだという批判も一部に根強くありますが、そんなことはありません。私はむしろ、これをバブル崩壊後の1990年代初頭にやっておけば、あるいはせめて2008年のリーマン・ショック後にやっておけば、ここまで重篤な日本病は防げたのではないかと思っています。

・結果としては、拙速な消費税増税も相まって、リーマン・ショック後の欧米のような回復までには至りませんでした。

・今からみれば、バブル崩壊後にさっさと量的緩和政策を実施しておけばよかったわけですが、これは結果論でもあります。

 先に述べたように、リーマン・ショック後にアメリカが踏み切るまで、金融政策として大規模な量的緩和を実践した国はなく、机上の理論でしかありませんでした。

・そのようなわけで、バブル崩壊後の日本が大規模な量的緩和に踏み切れなかったのは、理解できなくもありません。逆に「黒田バズーカ」を躊躇なくできたのは、アメリカやヨーロッパでの成果を見たことが大きかったはずです。

<「今日より明日は良くなる」と感じられるか?>

・逆に、「明日は今日よりも生活が苦しくなるかもしれない」という不安があれば、将来のためにお金を取っておこうと過剰に貯蓄をしてしまいます。企業も従業員の給与や設備投資に回すより現預金を増やし、リスクを取るよりも小さく安定しようとする――まさに日本を表すような心理状態ではないでしょうか。これがデフレマインドです。

<「低所得」ニッポン>

<なぜ日本の給与は上がらないのか>

・厚生労働省の発表によると、2018年に日本の平均給与は433万円でした。しかし、バブル崩壊直後の1992年は472万円。四半世紀前より40万円近くも平均給与が下がっているのです。

・日本は3.9万ドル(411万円)で、これはOECD加盟諸国の平均以下の数値です。

・日本はアメリカの半分強しかありません。スイス、オランダ、カナダ、オーストラリアの6~7割、韓国やスロヴェニアの約9割です。日本が停滞していた間に、世界は着実に成長していたことが窺えます。

・なぜ、日本の給与はこんなに低いままになっているのか。

 それはひとえに、日本が長期のデフレスパイラルに陥っているからにほかなりません。

<賃金が上がらない理由①――労働分配率が低い>

・バブル崩壊中の1990年代前半、日本では「価格破壊」という言葉が流行りました。まさに「デフレスパイラルの始まり」の象徴と言えるでしょう。

・そして、このデフレスパイラルは、海外よりも、日本で起きやすいことが知られています。理由はいくつかありますが、まず挙げられるのは「労働分配率の低さ」です。

・「労働分配率」とは、付加価値に占める人件費の割合です。

・ドイツやアメリカに比べて、日本の労働分配率が一貫して低いことがわかります。とりわけドイツとは10ポイント近い差がついています。これは企業が儲かっても従業員の賃金としてなかなか反映されにくいということですから、労働分配率の低さとは「賃金の上がりにくさ」を表していると言えます。

<賃金が上がらない理由②――労働者の流動性が低い>

・では、なぜ労働分配率が低いのか? それには、新卒一括採用・終身雇用という日本の安定しすぎた労働環境が影響していると考えられます。

・このように労働市場の新陳代謝が悪いことを、「労働者の流動性が低い」と言います。

・しかし日本の場合、賃金が上がらなくても従業員が簡単に辞めないので、企業は賃金を上げるモチベーションが低くなるのです。

・この制度下では、よほど良い転職をしない限りは、途中で辞めたら損、ということになってしまいます。

<賃金が上がらない理由③――独特の雇用慣行>

・また、労働分配率を引き下げている別の大きな要因として、正社員と非正規社員との賃金格差が挙げられます。

 2020年時点で、日本の非正規雇用労働者は2090万人。非雇用労働者全体のうち37%を占めますが、正社員と非正規社員との賃金格差は、額面においても昇給率においても明らかに存在しています。

・さらにアメリカとの比較で言えば、さまざまな職種が「総合職」として一括され、賃金格差が少ないことも、日本の独特な雇用慣行のひとつと言えます。

 アメリカの場合には、エンジニア、研究、営業、人事など「職種」ごとに労働市場が決まっています。日本では「会社」ごとの新卒一括採用なので、学生にとっては「どの会社に入るか」ということが重要になりますが、アメリカでは「どういう専門性を追求するか」のほうが遥かに大事です。

・固定化された人間関係が、過度に「空気」を読むことを求めたり、いま問題になっている職場のハラスメントが起きやすくなる一因にもなり得ます。

<企業そのものの新陳代謝も悪い>

・労働者の流動性の低さは、企業自体の新陳代謝のスピードの遅さにもつながります。

・そうすると、時代ごとの産業構造に応じた新しい企業が次々と生まれ、企業も産業自体も新陳代謝が活発になる――当然、こんな国では経済も成長しますから、給与も上がっていくわけです。

<失業率と賃金上昇率は比例する>

・そして実際、失業率が高い国の賃金上昇率のほうが高いことがわかっています。

・その意味では、失業率が低いかわりに賃金の上がりにくい日本は、「安心して失業できない国」と言えるのかもしれません。

<安心して失敗できる「トランポリン型社会」>

・「安心して失業できる国」とまではいかなくても、日本はもっと「安心して失敗できる国」であっても良いのではないでしょうか。

 職業訓練や就業支援といった再就職支援を充実させることは、失業者の労働市場への早期復帰につながります。これは労働市場の流動性を高めるうえで重要なポイントです。

 このような、一度キャリアを離脱しても、再び戻れるような社会を「トランポリン型社会」と呼びます。

 特に、スウェーデンやフィンランドなど北欧の国々では、再就職への手厚い支援があることで知られています。

・ただし、アメリカの場合は社会人年齢での教育参加率は高いのですが、GDPに対する再就職支援の割合は非常に低くなっています。これは、すべて自己責任という社会を反映しています。

<スウェーデンと日本の働きやすさの差>

・ところで、総務省の「労働力調査」によれば、日本の2090万人の非正規雇用労働者のうち、正規雇用を望んでいる人は、実は全体の11%しかいません。残り89%の人々は、自分で非正規社員を選択しているのです。

 しかしこれを、「好きで選んでいるならいいではないか」と、非正規雇用の労働条件の悪さや賃金格差を是認する論拠にすることはナンセンスです。

・実際、スウェーデンを見ると、非常に「働きやすい」環境が整っていることがわかります。例えば、男女とも育児休業制度が非常に充実しています。

・一方、日本ではシングルマザーの貧困化や「ワンオペ育児」などが問題になっています。男性の育休取得率もまだまだ低いままです。非正規雇用を選択せざるをえない状況は多いと思います。

・トランポリン型社会を目指すには、単に離職者に再教育を施すだけでなく、こうした法制度の整備や社会の変革と、両輪で進める必要があると思います。

<「低物価」ニッポン>

<日本の物価上昇率を海外と比較してみる>

・2000年から2020年にかけて、20年間の物価上昇率(インフレ率)をOECD加盟諸国で比較したものです。軒並み上がるなか、なんと日本だけが下がっています。日本ほどではありませんが、スイスもプラス0.3%と、他の国に比べると際立って上昇率が低くなっています。

 これは、通貨価値と物価に相関関係があることによります。

 日本とスイスは、為替市場においてはともに「逃避通貨国」と認識されてきました。日本円とスイスフランは、マーケットでリスク回避の動きがあるときに買われやすい通貨だったのです。いわゆる「リスク回避の円買い」と言われるものです。

・なので、インフレ率が低めで安定していること自体は必ずしも悪いことではありません。残念なのは、スイス経済は「高水準」で安定しているのに、日本経済は「低水準」で安定しているところです。

<適切なインフレ率は2%>

・各国の物価上昇率にはかなり差がありますが、一般的に先進国のインフレ率は、消費者物価指数の前年比プラス2%程度が経済の安定にとって望ましいとされています。穏やかに物価が上がることで、お金が回るようになり、企業も家庭も国も豊かになります。

・しかし、各国が2%を目指しているということは、各国が「通貨の価値を年に2%ずつ下げる」ことを目標にしていると言い換えることができます。

・日本の現状では、需要不足解消のために適度な円安のほうが望ましいですから、各国に合わせて2%目標を掲げ続けるほうが合理的なのです。

<なぜマンション価格は上がるのか?>

・日本の消費者物価指数は1997年をピークに下がり、2013年のアベノミクス開始頃から少しずつ上がっています。

・一方、不動産や株、あるいは金などの資産=ストックには、将来期待される儲けが反映されます。

<物価が上がったもの、下がったもの>

・いずれにせよ、物価上昇の内訳を見ると、日本国内が恩恵を受けにくいところが上がり、日本国内の人の所得につながるところでは下がっていることが明らかです。

・物価上昇率をモノとサービスに分けて欧米圏と比較してみると、日本ではいかにサービス価格の上昇率が低いかがわかります。

<異次元の金融緩和をしたのに、なぜ物価は十分上がらなかったのか?>

・この低物価・低賃金のデフレを打破すべく、2013年4月、日銀も他の先進国に遅ればせながら、インフレ率2%を目標に「量的・質的金融緩和」に踏み切りました。

・しかしながら、インフレ2%という目標には不十分でした。なぜでしょうか。金融緩和は十分にやりましたが、財政出動が足りなかったからです。

<「良いインフレ」「悪いインフレ」>

・先ほども見たとおり、ひとえに「物価上昇(インフレ)」と言っても、「良いインフレ」と「悪いインフレ」があります。

・「良いインフレ」は「需要が供給を上回ることによる物価上昇」と言い換えることができます。

 逆に、「悪いインフレ」とは、原料価格の値上がりなど、「生産コストの高騰による物価上昇」を指します。

・しかしながら、消費者物価指数を見ただけでは、どちらのインフレにあたるのか見分けがつきません。そこで、それを見分けるためには「GDPデフレーター」という指標を使います。

<GDPデフレーター>

・まずGDPとは、「一定期間内に国内で生み出されたすべての付加価値の総和」を示す値です。

・これに対し、物価変動の影響を差し引いて算出したGDPが「実質GDP」です。

・計算式は、「GDPデフレーター=名目GDP÷実質GDP」です。

 つまり、GDPデフレーターが上昇していればインフレ、低下していればデフレと言えるわけですが、良いインフレのときには消費者物価とGDPデフレーターがともに上がり、悪いインフレのときには消費者物価は上がるものの、GDPデフレーターは輸入物価の上昇が押し下げに効くので下がることになります。つまり、良い物価上昇か悪い物価上昇かを見抜けるわけです。

 そして実際に2021年以降を見てみると、消費者物価指数はプラスなのにGDPデフレーターはマイナス幅が拡大していて、まさに悪いインフレの状態であることがわかります。

<ただし「良いデフレ」はない>

・このようにインフレには「良い」「悪い」がありますが、「良いデフレ」というものは存在しない、ということは強く申し上げておきます。

 実は、1990年代には日銀ですら「良いデフレ論」を主張していました。

・ではここで、アメリカではデフレにならずにIT化(効率化)を進められたのはなぜだろうか、という疑問が浮かびます。

・一方、経済が冷え込んでいるときは人が余っているときですから、過度の効率化を行うと余計に人が余ってしまい、景気がさらに悪化してしまうので、むしろ控えたほうがよいのです。

・アメリカの好景気は、もちろん新しくて強い企業がたくさん生まれていることにも由来します。しかし、いくら素晴らしい企業がたくさんあっても、デフレを長期化させてしまったらどうなるか、それはここ30年の「日本病」が証明しています。

<なぜ物価が上がらないといけないのか>

・そもそも、なぜ物価は上がらないといけないのか。もう皆さん、おわかりだと思いますが、ひと言で言えば、物価が上がらないと賃金も上がらないからです。

・世界的に見ても、またバブル崩壊以前の日本でも、「賃金は上がり続ける」のが常識でした。バブルが崩壊しても、その常識はまだ生きていて、なんとか賃金を上げようとした努力が見られます。それが崩れ去ったのが1997年という年でした。実際に、その後2022年の今日まで、バブル直後の水準までは賃金を回復できていません。

・そして、2022年の物価上昇も、ロシアによるウクライナ侵攻による「悪いインフレ」と言えるでしょう。

<家計も企業も過剰貯蓄>

・優良と思われていた大企業も潰れる時代、明日は我が身もどうなるかわからない。となれば、いざというときのため、手元にお金を残しておこうと考えるのは人の常です。こうして、企業も家計も貯蓄を優先し始めました。

・2021年に、日本の家計の金融資産は2000兆円を超えました。しかも投資で増えたのは部分的で、半分以上が現預金となっています。

<企業の貯蓄超過は日本だけ>

・このグラフで、本当に異常なのは「企業の貯蓄超過」です。

・それでも一昔前までは、儲けを人件費に還元することも多かったのですが、グローバル化で経済構造も変わるなか、企業は株価を維持するために株主への配当に重きを置くようになっています。

<過剰貯蓄はマインドの問題か、政策の問題か>

・近年で、(法人企業の)現預金比率が上がり始めたのは2008年に起きたリーマン・ショックの後からです。

・ここで注意しなければならないのは、「現預金」と「利益」は別物だということです。

・企業がため込んでいるお金を吐き出させるために、一部の政治家などからは「現預金課税」などの案も出ています。法人税は基本的に利益にかかるもので、資産である現預金にはかからないからです。

・アベノミクスでは企業の海外逃避を防ぐために、法人税の引き下げを行いました。

<貯蓄超過と金利の関係>

・過剰な貯蓄の問題は、単にお金が市場に出回らない、という以外にもあります。

・このため、日銀がマイナス金利政策をやっても、そもそも中立金利(経済に対して引き締めでも緩和でもない中立的な金利水準)が低すぎるので、それよりも実際の金利を下げることが困難になり、金融緩和だけでは効果が出にくいのです。

・このように、金融政策だけでは効果が不十分なときには、財政出動や減税によって政府がお金を使わなければならないのですが、日本政府は財政出動をしぶっているがゆえに、財政政策の効果が不十分となっています。

 こうして、企業と家計の貯蓄超過は続き、中立金利が低いまま保たれているわけです。

<「低金利」ニッポン>

<日本企業に低金利が及ぼす影響>

・金融緩和がなぜ景気を刺激することにつながるかと言えば、自国通貨が安くなることで経済の競争力が強まることに加えて、お金を借りやすくすることで設備投資をしやすくしたり、利払い負担を減らしたりする効果があるからです。

 しかし今の日本では、企業はお金を使う主体ではなく貯め込む主体になってしまっています。それにより、本来プラスに働くはずの金利低下が、企業にとってもマイナスの影響を及ぼしかねない状況になってしまっています。金利低下の恩恵があるのが政府だけで、企業に対してはむしろ恩恵が少ないというのは、世界的に見て異常な状態です。

<そもそも日本の金利はなぜ低いのか>

・金融政策の基本は、金利をコントロールすることです。そして、金利をコントロールする際に基準になるのが「中立金利」です。では、何が中立金利を決めるかと言えば、お金の需給です。

・しかし、海外の研究などを見ると、日本の現在の中立金利水準は大幅マイナスになっているとされています。なぜなら、日本の企業も家計も、将来のためにお金を貯め込みすぎているからです。

・逆に、利子収入を増やすために「金利を上げろ」との声もありますが、マクロ経済学の立場から見れば、中立金利がマイナスである以上、ここで無理に金利を引き上げてしまったら金融引き締めになり、さらに景気が悪化してしまうことになります。

<流動性の罠>

・つまり、現在の金融緩和というのは、本当はもっと金利を下げたいのに物理的に下げられないでいるわけです。このように、中立金利が低すぎて金融政策が効きにくくなっている状況を、経済学では「流動性の罠」と呼びます。

・サマーズ氏は2021年11月にNHKで放送されたインタビューで、日本において必要な政策は「財政出動と減税」と言っています。

・どこの国でも、財務省は大規模な財政出動をやりたがらないものですが、海外では官邸主導、政治家主導で大胆な政策を行ってきました。その意味では、日本も海外を見習うべきでしょう。

<日本の政府債務残高の伸びは少なすぎる>

・サマーズ氏やバーナンキ氏に限らず、海外の主流派経済学者の間では、デフレ脱却のためには金融緩和に加えて財政の積極的な出動が必須であるというのが常識になっています。

 しかし、日本では均衡財政主義が主流になっています。

・政府債務は増えるのが常識で、毎年予算は「過去最大」がふつうなのです。

・日本は政府から民間へ回すお金が圧倒的に少なすぎたことも、低成長の一因と言えるでしょう。

<財政健全化は必要ないのか?>

・そうすると、政府債務残高を減らす=財政の健全化は不要なのか? という疑問が湧いてくると思います。実は、そこが日本と海外の専門家の考え方の最大の違いにもなります。

・この考え方で見れば、日本のインフレ率はグローバルスタンダードな目標の2%に遠く及びませんので、まだまだ財政出動が可能という判断になります。少なくとも中立金利が低すぎて金融政策が効かない状況(流動性の罠)から脱するまでは、財政出動によって政府が効果的にお金を使わないと、日本経済は良くならないでしょう。

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