日銀は、ありえない経済を求めて、過度の金融緩和を行なってきたことになる。(3)

<「低金利」ニッポン>

<日本企業に低金利が及ぼす影響>

・金融緩和がなぜ景気を刺激することにつながるかと言えば、自国通貨が安くなることで経済の競争力が強まることに加えて、お金を借りやすくすることで設備投資をしやすくしたり、利払い負担を減らしたりする効果があるからです。

 しかし今の日本では、企業はお金を使う主体ではなく貯め込む主体になってしまっています。それにより、本来プラスに働くはずの金利低下が、企業にとってもマイナスの影響を及ぼしかねない状況になってしまっています。金利低下の恩恵があるのが政府だけで、企業に対してはむしろ恩恵が少ないというのは、世界的に見て異常な状態です。

<そもそも日本の金利はなぜ低いのか>

・金融政策の基本は、金利をコントロールすることです。そして、金利をコントロールする際に基準になるのが「中立金利」です。では、何が中立金利を決めるかと言えば、お金の需給です。

・しかし、海外の研究などを見ると、日本の現在の中立金利水準は大幅マイナスになっているとされています。なぜなら、日本の企業も家計も、将来のためにお金を貯め込みすぎているからです。

・逆に、利子収入を増やすために「金利を上げろ」との声もありますが、マクロ経済学の立場から見れば、中立金利がマイナスである以上、ここで無理に金利を引き上げてしまったら金融引き締めになり、さらに景気が悪化してしまうことになります。

<流動性の罠>

・つまり、現在の金融緩和というのは、本当はもっと金利を下げたいのに物理的に下げられないでいるわけです。このように、中立金利が低すぎて金融政策が効きにくくなっている状況を、経済学では「流動性の罠」と呼びます。

・サマーズ氏は2021年11月にNHKで放送されたインタビューで、日本において必要な政策は「財政出動と減税」と言っています。

・どこの国でも、財務省は大規模な財政出動をやりたがらないものですが、海外では官邸主導、政治家主導で大胆な政策を行ってきました。その意味では、日本も海外を見習うべきでしょう。

<日本の政府債務残高の伸びは少なすぎる>

・サマーズ氏やバーナンキ氏に限らず、海外の主流派経済学者の間では、デフレ脱却のためには金融緩和に加えて財政の積極的な出動が必須であるというのが常識になっています。

 しかし、日本では均衡財政主義が主流になっています。

・政府債務は増えるのが常識で、毎年予算は「過去最大」がふつうなのです。

・日本は政府から民間へ回すお金が圧倒的に少なすぎたことも、低成長の一因と言えるでしょう。

<財政健全化は必要ないのか?>

・そうすると、政府債務残高を減らす=財政の健全化は不要なのか? という疑問が湧いてくると思います。実は、そこが日本と海外の専門家の考え方の最大の違いにもなります。

・この考え方で見れば、日本のインフレ率はグローバルスタンダードな目標の2%に遠く及びませんので、まだまだ財政出動が可能という判断になります。少なくとも中立金利が低すぎて金融政策が効かない状況(流動性の罠)から脱するまでは、財政出動によって政府が効果的にお金を使わないと、日本経済は良くならないでしょう。

<フィッシャー方程式と「明日は良くなる」という期待>

・金利が低くなるのは、お金の需要が逼迫していないからでした。

・経済学的には、以下の「フィッシャー方程式」という金利とインフレ率の関係を示した理論があります。「名目金利=実質金利+期待インフレ率」という式で表されます。

・日本では中長期的な実質金利と類似する潜在成長率も0%台、期待インフレ率もインフレ目標の2%に遠く及びませんから、諸外国の水準まで金利が上がりようのないことがわかります。

<日本は低金利から脱却できるか?>

・一方、期待インフレ率も含めて日本の物価が上がらないのは、インフレ目標2%が達成できる程度に経済が回復していないからです。

・しかし、アベノミクスでは2%に届くことが期待されましたが、拙速な消費税増税のせいで結局、2014年度以降下がってしまいました。

・さらに、「少なくともインフレ率がプラス2%に達するまで続ける」「その間は増税や金融引き締めを我慢する」ということを厳守することも必要です。

・バブル崩壊以降の日本経済は、経済政策の出口の面での稚拙さが目立ちました。経済が少し上向いてきたらすぐに引き締めてしまい、元に戻してしまいました。拙速な消費税増税や利上げしかり、もう少し辛抱したら結果は違っただろうに、ということがいくつもあります。

<2023年の日銀総裁交代で、異次元緩和は終了する?>

・「アベノミクスの異次元緩和は効果がないから、金利を元に戻すべき」という意見があります。もちろん、この発言は間違っています。

・官邸主導で人事を行わないと、強気の金融政策を推し進める日銀総裁・副総裁が選ばれない可能性もあります。それをリスクと見る向きが多いことも事実です。

<日銀総裁交代の影響>

・しかし、日銀の総裁が交代しただけでそんなにマーケットは変わるものなのか、と思う人がいるかもしれませんが、これが、大いに変わるのです。

・経済にとって、期待値やマインドがいかに大きな要素であるかがわかります。

<「低成長」ニッポン>

<世界的に見ると、日本はどのくらい低成長なのか>

・日本はかろうじてイタリアよりも上ですが、特にアベノミクス以前は、しばらくイタリアに抜かれていました。

<なぜ日本は低成長なのか>

・しかし、なぜかくも長期にわたり、日本は低成長なのでしょうか。

 ここまでの章では財政政策の不十分さを力説したわけですが、そもそも、もうひとつの金融政策が後手に回り続けてきたことも大きな要因です。バブル崩壊後、正しいタイミングで正しい金融政策が行われなかったことがデフレに陥ってしまったことは明らかだからです。

・このように、リーマン・ショックに対して欧米がこぞって量的緩和政策でデフレ回避をしていた一方、このときすでにデフレに陥っていた日本は欧米に追随しませんでした。そこで起きたのが、1ドル70円台の異常な円高です。

<少子化はどのくらい影響しているのか>

・低成長の原因を少子化に見る向きもあります。しかし、少子化傾向の国がすべて低成長かと言うとそんなことはありません。

・インフレ率と関係の深い失業率と自殺者数にも関連があることは、コロナ・ショック以降よく取り上げられています、まさに、長期デフレは人口を減らし、国力を削いでいくのです。

<「悪い円安」論は本当か?>

・リーマン・ショック後の日本は、量的緩和が足りずに異常な円高を招き、産業構造全体が大打撃を受けたわけですが、2022年4月現在は、1ドル120円台と円安傾向です。

・まず、私は、少なくとも現状の日本においては、ある程度は円安のほうが良いと思っています。

・貿易収支だけで見れば、現在は原油高によって貿易赤字になっていますが、それ以上に海外への証券投資や、海外進出している企業の直接投資を含めると、日本の経常収支は黒字が一般的です(アメリカの経常収支は赤字が一般的です)。通貨が安めであることが経常収支でいかに有利かは、ユーロ圏に入っているがゆえに自国通貨が割安に保たれてきたドイツの強さにも表れています。

<デフレ日本における、妥当なドル/円相場>

・つまり、国内需要が旺盛な国は自国通貨が高いほうが良いが、国内需要が弱い国では安いほうが良い。これはマクロ経済学的にも通説です。

 ただし、トータルで見ればそのとおりなのですが、当然、産業によって為替の影響は異なります。

・ただし、日本はエネルギーや食料品の輸入依存度が高いので、こうした必需品の値段が上がることによって生活が厳しくなる「スクリューフレーション」という問題は解決しなければなりません。

<円安は家計にプラスになる?>

・ちなみに、内閣府のマクロ計量モデルに基づけば、円安を家計レベルで考えた場合、1年目は家計にとってマイナスですが、2年目からはプラスに働く、との結果になっています。

・このように、マクロ経済政策を間違ったことで長期停滞を生み出したばかりではなく、企業経営にも大きく影響するデフレマインドを常態化させたことを考えると、経済政策の重要性を再認識せざるを得ません。

<日本にはびこるデフレマインド>

・こうしたデフレマインドと貯蓄超過をもたらした原因は、政府とマスメディアによる間違った喧伝にもあるのではないでしょうか。

・日本にはびこるデフレマインドを象徴的に表しているのが、家計の可処分所得と金融資産を比較したグラフです。

・それだけ可処分所得を消費ではなく貯蓄・投資に回しているということを表していますが、ここにも日本の特殊性があります。家計における金融資産のなかでも、投資は少なく、圧倒的に現預金が多いことです。

<投資するか、貯蓄するか>

・家計の金融資産のうち、株式や投資信託の割合がアメリカでは50%を超えるのに対し、日本ではたったの14%です。一方、日本では55%近くを占める現預金は、アメリカでは13%程度しかありません。

<岸田政権のスタンスに注目>

・しかし、なぜ財務省は頑なに「日本の政府債務は危機的」と言い続けるのでしょうか。ひとつには、増税をして目先の税収を増やしたいのだと考えられます。

・アベノミクスでようやく、日本はグローバルスタンダードな金融政策を行い、少なくともデフレではない状況にまで戻しましたが、これが先祖返りしてしまえば再びデフレに陥りかねません。

・経済政策の結果が表れるまでには、しばしの辛抱も必要です。現在は、「日本病」から本当に立ち直れるか否かの重大な局面にあると思います。

<スクリューフレーションの脅威――1億総貧困化>

<締め付けられる中低所得者層>

・スクリューフレーションとは、「締め付け」と「物価上昇」を合わせた、10年ほど前にアメリカで作られた造語です。直訳すると、「締め付ける物価上昇」ですが、特に「中低所得層を締め付けるインフレ」のことを指します。

・自分たちはスクリューフレーションで締め付けられる一方、自国の経済成長の恩恵は富裕層に集中し、彼らはますます富を増やしていく――こうした労働者たちの反発が、イギリスのEU離脱やアメリカのトランプ政権誕生につながっていったのです。

<スタグフレーションとスクリューフレーション>

・景気が悪化すると需要が落ち込むのでふつうはデフレを伴いますが、原油価格や原材料の高騰などで不景気とインフレが共存することがあります。これが、スタグフレーションです。

一方、スクリューフレーションは、景気の良し悪しに関係なく、中低所得者層がより締め付けられている現象を指します。

<日本におけるスクリューフレーションの実態>

・ここまで、スクリューフレーションは「中低所得層への締め付け」と説明してきました。事実、欧米ではスクリューフレーションによって、中低所得者層がますます貧しくなる一方、富裕層は豊かになり、格差が広がっている国もあります。

<日本は格差社会ではない?>

・なぜ格差が縮小したかについては、明確な理由があります。女性や高齢者などを中心に、雇用者数が500万人以上も増えたからです。

・次に「再配分所得」のほうを見てみましょう。再分配所得とは、当初所得から税金や社会保険料を差し引き、年金などの社会保障給付を加えたものです。

 そして、再分配所得のジニ係数は、2000年代半ばを境に下がっており、これは再分配がうまくいっていることを表しています。

<非正規労働者の増加は本当に悪いことか?>

・第2章で述べたとおり、日本の非正規雇用者のうち「正社員になりたいけれど、なれない」という人は全体の1割強しかいません。

・2013年~2015年頃、アベノミクス下で日本の賃金が下がっています。これは、それまで働いていないかった人が働き始めたことの影響です。

・逆に、2010年~2011年、民主党政権下で実質賃金が上がっているのですが、実はこのときは景気悪化により低賃金の人たちが多く解雇されたことで、今度は逆に平均賃金が押し上げられたのです。

<下り坂ニッポンを上り坂に変えるには?>

<今の日本における財政政策の重要性とは?>

・特に日本の場合は、貯蓄超過により中立金利が大幅にマイナスに落ち込んでおり、中立金利以上に政策金利を下げることが難しい「流動性の罠」に陥っていますので、金融政策だけでは立ち行きません。

となると、海外の主流派液剤学者たちが口を揃えて言うように、財政政策によって景気を引っ張り上げることが必要です。

 その効果は、現状ではまだまだ足りていません。少なくともインフレ率が安定的に2%を上回る程度には、政府債務残高を積極的に増やして効果的な財政政策を実行する必要があります。

<政府債務残高と成長率は比例する>

・第4章では、日本がいかに財政出動が少ないか=政府債務残高の伸びが少ないかを見ました。

・イギリスはこの20年間で政府債務を6倍以上に増やし、GDPを3割近く伸ばしています。日本は政府債務を1.8倍程度にしか増やしておらず、GDPも1割程度しか伸びていません。ここには、積極的な財政出動の重要性がはっきり示されています。

<ユーロ圏の特殊な事情>

・ドイツは世界第2位の経常黒字国ですが、なぜユーロ圏でこれだけ突出して経常黒字を保っていられるかと言えば、経済力の弱い国と通貨を統合させることで、自国通貨を割安にできているからです。

<MMTvs.海外の主流派>

・ところで、2019年頃から、現代貨幣理論という言葉を耳にすることが増えました。その内容は、一般的には、「自国通貨を発行できる国は、自国通貨建てで国債を発行していれば、過度なインフレが起こらない限り、財政赤字が大きくなってもデフォルトすることはない」と理解されています。

・MMTは、第一義的には金融政策の有効性は低く、財政政策への依存度を高める必要があるとしています。つまり、財政政策主導で経済を安定させられる、と主張していることが、両者を決定的に分かつところです。

 これは、海外の主流派経済学が、財政出動主導を推し進めるのは中立金利が下がりすぎていて金融政策の効果が出にくい「流動性の罠」を抜け出すまで、と限定を付けて考えているのに対して、MMTでは、金利は自然に決まるものであり財政政策主導で経済の安定は実現できる、としている。ここが最大の違いです。

<分配政策のメリットとデメリット>

・分配政策がもたらすメリットとは、経済が成長することによって新たに増えた税収を、意図的に低所得者層に分配することで底辺を底上げすること。デメリットは、経済のパイが拡大しない中で、経済を牽引するような高所得者層の所得を低所得者側に分配することで、そもそもの経済成長すら止めてしまうことです。つまり経済が拡大しないことには、分配政策を正しく行うことはできません。

・岸田首相は「『成長と分配』の好循環を実現する」と強調してはいますが、しかし、金融所得税率を一律に引き上げたりすれば、貯蓄から投資への流れに冷や水を浴びせることになり、これだけでは全体のパイを増やす政策とは言えないでしょう。

<消費税増税は必要か?>

・大きく見れば、消費税増税も社会保障の財源とすることを目的としている点では、分配政策的な意味合いがあります。

・1989年に3%の消費税が導入されて以来、3回の増税が行われました。これまで見てきたとおり、3度の増税はいずれもデフレ下の失策だったわけですが、導入時だけはそこまで景気は悪くなりませんでした。

<日本がハイパーインフレにならない理由>

・では、社会保障費の不足分についてはどうすればよいかと言えば、インフレ目標の範囲内では国債発行でまかなえばよいでしょう。

・日本は世界最大の「対外純資産国」であり、中国に次ぐ世界第2位の「外貨準備保有国」であり、中国、ドイツに次ぐ世界第3位の「経常黒字国」です。こういう国ではまずハイパーインフレは起こりえないでしょう。

<改めて、日本は成長できるのか?>

・機材が国家おいて、長期的な経済成長は、次の3つで決まると言われています。①労働投入量、②資本投入量、③全要素生産性

・お先真っ暗な気持ちになるかもしれませんが、世界広しといえど、先進国でこんなに長きにわたって成長していない国は日本だけです。

・日本がバブル崩壊から20年目にして、ようやくデフレ脱却への歩を進めつつあったのはアベノミクスの成果です。

・「株主資本主義の是正」についても、そもそも日本企業は海外と比較して株主資本の利益率が低く、「株主資本主義の恩恵」すら受けられていない状況です。

<「トランポリン型社会」と「世界を目指す個人」で日本は変わる?>

・第2章で、日本で給料が上がらない理由の一つとして、企業が正社員を解雇しにくいという日本的雇用慣行により、労働市場が流動化しにくいことを挙げました。そして、これを改善するためには、企業が正社員を解雇しやすくすると同時に、公的な職業訓練を充実させることで、リストラされてもより良い条件で社会復帰できるような「トランポリン型」の仕組みをつくるのが重要であると述べました。

・つまり「いかに海外の富を獲得するか」ということに、より積極的に動いていくような思考に変えていくことです。少なくとも、投資の世界ではすでにそうした流れになっています。

これにもっと早い段階で危機感を持ち、国家レベルで取り組んできたのが韓国です。

・日本は中途半端に国内市場が大きかったので、これまでなんとなくドメスティックな産業だけで回せてきてしまいました。

・もし日本がこのまま「日本病」を続ければ、何もしなくてもジリ貧になっていくことは避けられないでしょう。

<第一次産業に大きな可能性>

・こうしたなか、私が日本の産業の中で、特に大きな可能性を感じているのが第一次産業です。非常に品質が良いにもかかわらず、輸出が少なすぎるということで、国策としてもグローバル展開が推し進められています。

・国土も狭いし無理、と思われるかもしれませんが、実現可能な根拠があります。それがオランダです。

・また、漁業についてはノルウェーが盛んです。日本では一流大学卒の優秀な学生は、外資系のコンサルティング会社や投資銀行などに行きたいと思う人が多いようですが、ノルウェーではそういう優秀な学生の多くが漁業を希望するくらい、漁業が儲かっているそうです。

<おわりに>

・日本が長期デフレに陥った諸悪の根源は、日本人の努力不足などではなく、過去の政府や日銀の経済政策の失敗です。それによってもたらされた過度の将来不安を、いろいろなところから解凍していくことができれば、日本が復活できるチャンスは大いにあるのです。

(2024/10/16)

『アベノミクスは何を殺したか』

日本の知性13人との闘論

原真人  朝日新書   2023/7/13

・この国にたまる、巨大な崩壊のマグマ。残された選択は、アベノミクスからの脱却しかない!

 財政悪化をものともせず、国の借金を膨らませ、日銀の紙幣発行を「打ち出の小槌」のように扱う……。なぜこれほど異端で、危険な政策が10年超も続けられたのか。

<はじめに>

・アベノミクス生みの親の安倍は選挙遊説中に襲撃され、命を奪われた。その不穏な時代の空気も、戦前的な政策のありようも、今なお続いている。

 言論への執拗な攻撃は、私だけに起きた特別な出来事ではない。

<すべてはクルーグマンから始まった>

・アベノミクスを語るときに、欠かすことのできないキーマンがいる。米国の経済学者、ポール・クルーグマンだ。

・内容はこうだ。日本は「流動性の罠」に陥っている。その罠から抜け出すのは容易ではない。日本政府が取り組んできた財政政策や構造改革では難しい。ではどうすればいいか。唯一の方法は、ゼロ金利まで下げきって無効になってしまっている金融政策を有効にするために、マイナスの実質金利を生み出すことだ。そのためには中央銀行(日本銀行)が「無責任」であることを約束し、人々に「インフレ期待」を作り出すことが必要だ――。そんな趣旨である。

・それが日本で現実のものとなった。1999年、日銀は世界で初めてゼロ金利政策に乗り出す。それでも、日本経済が目に見えるかたちで活気を取り戻すことはなかった。

・安倍はのちに自民党のアベノミクスに賛同する議員の集会で、「思い切った政策をやるときには権威が必要だ。クルーグマンやジョセフ・スティグリッツが支持してくれたことは大きかった」と振り返っている。安倍は2016年に消費増税を延期する際にも、クルーグマンらを官邸に呼んで、延期論の旗印として彼らの提言を利用している。

<安倍政権をとりまいた非主流のリフレ派>

・クルーグマンが権威を与えたことで、もともと「貨幣数量説」を根拠にリフレ論を唱えていた国内の学者たちは大いに活気づいた。

・実はクルーグマン自身も、リフレ派のような単純な量的緩和を唱えていたわけではない。持続的なマネタリーベースの引き上げによって「インフレ期待を引き起こす」という点に重きを置いていた。

・ノーベル賞受章者のクルーグマンはリフレ派にとって格好の広告塔だった。とはいえ、クルーグマンのノーベル賞受賞のテーマは国際貿易論と経済地理学であり、「流動性の罠」にかかわる金融緩和や不況理論がテーマではなかった。

<「日本への謝罪」クルーグマン>

・クルーグマン自身はリフレの「聖書」のような存在であった「日本の罠」の論考を、のちに「私にとって最高の論文の一つ」と振り返っている。だが、アベノミクスが始まって1年半ほど経った2014年秋、「日本への謝罪」と題して前言を翻すような論考もホームページに掲載している。そこではこんな説明をしていた。

「終わりの見えない停滞とデフレに苦しんでいた日本の政策を欧米の経済学者たちは痛烈に批判してきた。私もその1人だったし、バーナンキもそうだったが、謝らなければいけない。欧米も日本と同じように不況に陥っている」

・「日本の罠」で主張していたような、金融緩和が不足していた日本だからデフレに陥った、という批判は間違いだったと認めたのだ。日本経済に特有な問題ではなく、実は先進国に共通する問題かもしれないと述べている。

<成長幻想も経済大国の誇りも、もういらない>

・以前、TPPの是非をめぐって、TPP反対論の佐伯に対し、私がTPP賛成の立場で論争を挑むという形のインタビューをしたことがあった。

・その後、世界は米国と中国の激しい経済対立、コロナ危機、ウクライナ戦争などが起きて、ある意味では佐伯がグローバリズムの未来に悲観的な見通しを示した通りに動いてしまったように思える。

<佐伯啓思  ●アベノミクスをなぜ見放さないか>

――社会に漂う不穏な空気もどこか戦前に似てきています。安倍晋三・元首相の殺害事件がまさにそうです。

佐伯:不穏さ、ですね。戦争前に似ていると言う人も多い。だけど僕はやはり状況は少し違うと思う。

佐伯:それから安倍元首相殺害事件の特徴は、安倍さんを狙った犯人の政治的意図は皆無なのに、結局は標的が安倍さんにいってしまったという点にあって、非常に妙なことでした。

<“失敗だと断定できない”>

――佐伯さんは、現代は「世界中が資本主義化している」と指摘しています。その権化のような思想が「アベノミクス」だったのではないですか。マネー中心であり、カネさえばらまけばうまくいく、という考え方です。

佐伯:それはむしろアベノミクスに対する過大評価でしょう。資本主義を定義すれば、基本的にはお金を運用し、資本を拡大して新たなフロンティアをひらくことです。

――ブッシュ(父)大統領が自動車大手の米ビッグ3のトップを引き連れて来日し、日本に米国製品を輸入するよう求めてきたこともありました。

佐伯:日本に進出した米玩具小売りチェーン「トイザらス」の店にまで視察に行きました。

佐伯:しかし、政治はあくまで相対的なものでアベノミクスにも一定の評価はすべきだと思います。批判はいくらでもできますが、では他にどのような改革がありえたのか。あの程度でも、それまでと比べれば、かなり経済のムードを変えました。

・そして第2次安倍政権は、基本的に、しかも大規模に米国の真似をしたと言ってよいでしょう。米国からの示唆があったのだと思います。

・なぜ日本の経済政策の立案に対してわざわざ米国の経済学者を招くのか、と思いました。まあ、日本の経済学者の大半は、米国の受け売りですから仕方ないのかもしれません。でもこれが実態です。米国の経済学者の考え方を、安倍さんは全面的に受け入れたのです。

・しかし、政治はあくまでも相対的なものでアベノミクスにも一定の評価はすべきだと思います。批判はいくらでもできますが、では他にどのような政策がありえたのか。あの程度でも、それまでと比べれば、かなり経済のムードを変えました。

――いや、やらない方がマシだったのではないですか。安倍政権によって財政は悪化しました。先の参院選では全野党が消費税廃止か消費税引き下げを求めるような風潮を作ったのも安倍政権です。

――しかし日本にはその後も「大胆にやれ」と言っていた。これでは日本市場を実験場扱いしたようなものです。それを真に受けたアベノミクスは日本に無責任さを蔓延させ、政治を壊してしまったのではないですか。

佐伯:僕は、ほとんどあなたと結論は同じです。それを前提に、いくつか流れを確認しておきましょうか。アベノミクスがうまくいったかどうかは非常に難しい問題です。

・一方、雇用状況も良くなりました。デフレはいちおう脱却できています。いま起きているインフレは米欧ほどひどくはない。その点では成果がなかったとは言えません。しかし実態経済はよくなっていません。所得格差も開いています。その点ではマイナスは大きいです。つまり成功とはとても言えないが、失敗と断定するのも難しいという中途半端な結果です。

 一番の問題はアベノミクスのいわゆる第3の矢、成長戦略だと思います。

<矛盾する「第1の矢」と「第2の矢」>

――アベノミクスをやらなかったとしても、そして異次元緩和をやらなくても、おそらく世界景気の波に乗って日本の景気は良くなっていたはずです。雇用だって、人口動態などさまざまな要因で上昇基調に乗るべくして乗った面がある。安倍政権は単にその波に乗った、ツイてる政権だったのではないですか。

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