非民主国家が日本の周りに三つも存在して、しかもそれが束になってかかってくる恐れがあるわけだから、どうしてもGDP比3%の防衛費をつぎ込んで国を守らなければいけない。(6)

・中年層も同じです。これからは、海外の工場と低賃金争いをして、従来と同じように比較的単純な作業の雇用まで守ろうとしても無理です。日本人技術者は、プレイヤーではなく、これからはコーチになるのです。プレイングマネージャーでもいいかもしれません。一線で働きつつ、新興国へ赴任、出張して、現地の労働者、スタッフのコーチになるのです。

 そのためには、技術そのもののレベルが高いだけでは駄目で、異文化の労働者、技術者、スタッフをリードするコーチとしての能力と経験が必要になってきます。そういう学校、教育も必要です。

・日本経済は、新しい現在の世界経済構造のなかで、新しい役割を担うのです。その場合もすべては「人」です。その「人」に、新しい構造のなかで、新しい役割を持たせ、新しい働き方をつくる。そのために、政府の政策は動員されるべきなのです。

『自民党ひとり良識派』

村上誠一郎   講談社   2016/6/15

誰よりも自民党を愛するからこそ覚悟の正論!

<日本をおかしくした5つの法律>

・私は最近の自由民主党の方向性を非常に心配しています。

 昔と違ってなぜ自由闊達な議論のできない「不自由民主党」になってしまったのか。

・私の自民党衆議院議員生活30年間、自民党が国会に提出した法案で、私が猛然と反対を表明した6つの法案があります(うち一つは廃案)。

1987 スパイ防止法(廃案)

1993 小選挙区比例代表並立制

2005 郵政改革法案

2013 特定秘密保護法

2014 公務員法改正案

2015 集団的自衛権の行使容認

 これらの6つの法案によって自民党は徐々に変容し、現政権による集団的自衛権の行使容認」という、解釈改憲、立憲主義の否定に至るのです。

<小選挙区制導入で劣化した議員の質>

・国民の支持率が高いあいだは官軍ですから、政権の言いなりになって、ウケのいい政策だけを言っている方が楽ではないでしょうか。自らあれこれと政策を考える必要がない。ただ、党の言うことに、従っていればいい。

 逆に従っていないと、次の選挙では公認はもらえないし、比例代表では、よい名簿順位をもらえなくなります。

 小選挙区比例代表並立制とはそのように政治家が選挙とポストだけを考えてしまうようになる制度なのです。その結果、選挙とポストのすべてが官邸や党幹部次第ということになるのですから、時の権力者の言いなりになってしまう危険性をはらんだ選挙制度だと私は思います。

<言うことを聞けないのなら自民党を辞めろ!>

・「自民党をぶっ壊す」

 というのが、その時のセリフですが、実は特定郵便局というのは、自民党田中派以来の経世会の有力な支持母体です。「自民党の経世会支配をぶっ壊す」というのを感じました。

 ともかく、小泉政権の郵政選挙で「郵政民営化」に反対した自民党の政治家はすべて公認を取り消され、その上に刺客まで送り込まれました。

 郵政民営化反対を言ったら政治家が政治生命を奪われたのです。「俺の言うことを聞けないのなら自民党議員を辞めろ!」と。

<小選挙区比例代表並立制は即刻廃止せよ!>

・小選挙区制はできるだけ早く見直すべきだと思います。

 小選挙区制が政権交代で民主党中心の連立政権をもたらして失敗、さらに解釈改憲を許す遠因となったわけですから。

 衆議院選挙制度の抜本改革を目指す議員連盟は2011年に発足しています。中選挙区制の復活を議論する議連で、選挙制度に欠陥があるというのは、今や自民党、民進党はもちろん、社民党や共産党など各政党すべての共通認識なのです。

・そもそも、私が最初から反対していたように、斡旋利得罪と連座制の強化を行っていれば、選挙制度を中選挙区制から小選挙区制にしなくても、金のかからない選挙ができたのです。

 ちなみに、私が考える選挙制度改革は、150選挙区定数3人は良いとしまして、実現は難しいでしょうが、一人2票制にするのはどうかと考えています。

 義理やしがらみで1票を投じる有権者も多いでしょうが、残った1票は、政党なり政治家の政策に対して投じてもらいたいのです。もちろん、2票とも、継続的に支持している議員に投票しても構いません。

 これによって、個々の政治家の政策の継続性がある程度、担保されますし、人の顔色、雰囲気、風頼みといった、およそ政策とは無関係な事柄が政治活動に悪影響を及ぼすことを排除できるのではないでしょうか。

<派閥崩壊がもたらしたもの>

・中曽根首相から、2回連続の当選の重要性を指導していただいたというわけです。

 さらに、中曽根首相自身が、初当選後からずっと、日本の今なすべき政策は何かを考え続け、これと思う政策や提言には真摯に耳を傾け、重要だと思う政策等はすべて大学ノートに書き留めてきたという話がありました。

 私は中曽根元総理の精神を取り入れ、今も政治活動のため収集した資料や、制作をパワーポイント化して、国政報告、講演の場ではすべてパワーポイントを使って説明することにしています。

<河本派に所属した理由>

・このような環境の中で育った私は、東大に進学したあと、司法試験を目指していました。ある日、農林大臣、郵政大臣、三木内閣の官房長官を歴任した、当時、三木派の重鎮だった井出一太郎先生が私に会いたいと言ってきました。

 井出先生は、私の顔を覗き込むようにしてこう言いました

「君は票が取れそうな顔をしているな」

・「政治家には休みはありません」

 そのときに河本先生からは、座右の銘が“政治家は一本の蝋燭たれ”だということなどを伺いました。蝋燭は、わが身を焦し周囲を明るくするのだ、と話されました。

私は、この先生についていこうという決心をしたのです。

<議論するより携帯で撮影>

・初当選の頃、ある先輩が、

「自民党は1回生でも10回生でも発言は自由であり、皆、黙って聞いている。しかしアナタが発言している間、頭のてっぺんからつま先まで人物鑑定しているんだよ。発言する場合はよく勉強して理論武装を完璧にしておけよ」

 と、忠告してくれたことがありました。

 徐々に、その助言が、先行きの政治活動に大きな影響を及ぼすことになることがわかってきたのです。政策をめぐって意見をするのは自由ですが、しっかりと勉強をしておかなければいけません。逆に何か問われてもきちんと反論や返答ができるようにしておかなければいけないのです。

 しっかりした議論ができて初めて、派閥や党の幹部に認められて大事な仕事を任されるようになっていくのですから、我々が若い頃は、部会や党の税制調査会等が言わば登竜門、大切な真剣勝負の場のひとつでした。

・若手の皆さんが自分のツイッターやブログなどの更新に熱心なようなのです。もちろん政策の議論がないとまでは言いませんが、どちらかというと勉強会や部会に参加したことを、有権者に情報発信することに重きを置いているような気がします。

 せっかくの真剣勝負の場、政治家としての質を高める場が十分に生かされていないのではないでしょうか。

<部会や勉強会の形骸化が、政治の劣化、政治家の劣化につながっているような気がします>

・それもこれも、次の選挙が不安だからだと思います。政治家として、確立した選挙基盤と支持者との信頼関係が構築されていないことに原因があるのではないでしょうか。

・小選挙区制が導入されて、小泉政権以降、派閥が力を失った結果、自民党も野党も政治家の質が落ち、知性や専門性を持つ人物は、だんだん少なくなっているのです。

<自民党が健全だったころ>

・小泉政権以降、現在の安倍政権まで、天下の自民党がこのようなことをしてはならない、総裁辞めなさい、などと言える雰囲気が自民党に残っているでしょうか。

 今は何も言わず、選挙の公認をはずされるような問答無用の状況に追い込まれるのですから。

 若手から、政権幹部まで今はあまり見識が感じられないのです。

<意見が言えない優秀な官僚たち>

・国民の皆さんは誰が政治をやっても変わらないとよく言われますが実は違います。政治や行政が失敗したら取り返しのつかないことが起こるのです。小選挙区制の導入が政治家に人材が集まらなくなった要因ですが、公務員法の改正で官僚にも人材が集まらない危険性を持っているのではないか。非常に憂慮しています。

・公務員法を改正してしまった結果、官僚たちが本音と正論を言いにくくしてしまったのです。公務員法改正は、国民の皆さまには関心が薄いか、あるいは日本の意思決定を遅らせたり、無責任な行政が続くのは官僚制に原因があるから、良いことなのではないかとみる向きも多いでしょう。けれども、実はこの法律によって有能な官僚が意見を言えなくなってしまったのです。

<政権に迎合する官僚ばかりになる>

<遠ざけられた財務省>

・財務省の影響が落ちたのは1998年に発覚した大蔵省接待汚職事件からで、官僚は小狡い輩と国民からみられるようになりました。

<官僚を活用できない>

・公務員法改正は能力本位にするためだと言いますが、政権に異を唱えるような言動をすれば、人事権をいつでも発動できるという脅しが効いています。

<名こそ惜しけれ>

・「名こそ惜しけれ」とは、名を汚すような恥ずかしいことをするなという日本人独自の道徳観だというのです。

 ところが、司馬遼太郎が想像もしなかったような政治家の不祥事が、大臣の収賄報道から若手議員の女性スキャンダルまで、2016年に入って続出しているのが、今の自民党なのです。言語道断です。

 いくら官僚たちが、「清潔」だったとしても、公務員法改正で、彼らに「ニラミ」を利かせやすくなった政治家たちに問題があったとしたら、「この国の将来のかたち」は、いったいどうなってしまうのでしょうか。

<最優先事項は財政再建>

<金融緩和、自国通貨安で繁栄した国はない>

・つまり、アベノミクスはこの3年半の間、ずっと金融緩和と当初の機動的財政出動によって経済を刺激し続けているだけなのです。実体経済は、すなわち賃金上昇と個人消費は、デフレ下の経済状況からなんら変わりがありません。新たな提案もしくは産業による雇用の創出が求められてきましたが、骨太の成長戦略が打ち出されないままですから、アベノミクスは金融緩和に頼っただけの経済政策であったという結論になります。

・2015年4月、安倍首相は「来年の2月までに物価目標2%を達成できないのであれば、アベノミクスは失敗であったと言わざるを得ない」と発言しました。約束した期日はとうに過ぎているのですから、その一点だけを考えても、アベノミクスはうまくいっていないと言わざるを得ません。

 実態経済が伴わず、自国通貨を安くする経済政策で繁栄を築いた国はどこにもないのです。

<子や孫にツケを回してはならない>

・このまま、量的緩和でお金をばら撒いていけば国債の金利の上昇を招き、国債の価値は暴落するかもしれません。国債を保有している個人、銀行、生命保険会社や日銀が大きな損を被り金融資産を失うとともに、悪性のインフレになりかねません。

 そこまでいかなくても、成長戦略の成果がないままお金をばら撒いているので、賃金が上がらないのに物価が上がる傾向が出てきます。

<国民一人当たりの借金額は830万円!?>

<消費税は予定通り10%に>

・では、この経済状況をどのように乗り切ればいいのかと言えば、やはり、財政再建を行うことが日本の経済危機の最善の処方箋なのです。国が安定すれば、経済活動も活発化し、国民は安心して暮らすことができるのです。

 そのためには、予定通り消費税を10%に引き上げ、財政再建路線を明確に打ち出すことで、国民も国際社会も日本に対する信用を取り戻すことができるのです。

<社会保障改革へ>

・私は、消費増税を予定通り10%に引き上げるという主張をしました。私自身の選挙を考えればマイナス材料となるばかりですが、日本のため、国民のため、次の世代のためを思えば、反発されることを承知で消費増税を有権者に説得し続ける覚悟です。選挙のための間違った財政政策、経済政策はやるべきではありません。

<中福祉・中負担>

・社会保障制度についても、現在は高福祉・低負担でありますが、将来、中福祉・中負担への改革を提案したいと思っています。

 自分の受けたサービスに見合う費用は受益者負担として応分に負担しなければならないと思うのです。方策としては、電子レセプト、電子カルテルの活用、末期医療の改革、オーバートリートメント(過剰診療)の解消、初診システムの見直しなどが挙げられます。

<人口問題と移民政策>

・要は、国民はすでに、アベノミクスでは経済再生は一朝一夕には立ち直ることがないとわかってしまったのです。政治に対して国民はまったく期待感が持てないということが、徐々にわかってきているのではないでしょうか。

・これまでの経済統計から、日本の潜在成長率は1%程度しかないことがはっきりしていますので、税収を50兆円とすれば、翌年には5000億円の税収増しか見込めません。これ以外のほとんどは赤字国債に頼っているのが日本の財政実態なのです。1300兆円の借金を返すには直ちに消費税を30%近い高水準にしなければならないという試算を財務省が公表していますが、これほど、財政状況は危険水域に達しているのです。

・一方で、人口は減り続け、生産年齢人口は2010年時点で8000万人と推計されています。2030年には17%前後減り、6700万人と予想されています。人口減少によって十数年後には50兆円の税収も見込めないことになるのです。一刻も早く、財政再建をしなければならないということがご理解いただけると思います。

 そこで、私は、自民党内で移民問題検討会議のメンバーとなり、移民受け入れのルール、有り様を模索しています。

・20年前からヨーロッパ並みの消費税率にしていれば、私たち世代が作った膨大なツケを子や孫に回すことにはならなかったのではないでしょうか。私たち政治家がこうした将来設計を怠り、国民への説明を避けてきたというそしりは甘受しなければならないのです。

(2023/6/27)

『有事、国民は避難できるのか』

「ウクライナ戦争」から日本への警鐘

日本安全保障戦略研究所  国書刊行会  2022/10/10

<ウクライナ戦争の教訓から緊急提言――日本に「民間防衛」が必要――>

・2022年2月24日に勃発したロシアによるウクライナへの軍事侵攻(ウクライナ戦争)は、日本をはじめ世界中に深刻な衝撃を与えました。特に、戦後の平和ボケの中で戦争のことなど全く念頭になかった日本人にとって、その衝撃は計り知れないものとなりました。

 ウクライナ戦争が日本人に突き付けたことは、①戦争が始まれば国土全体が戦場となり、安全な場所などないという現実です。

 また、②民間人を保護することによって、戦争による被害をできる限り軽減することを目的で作られた国際法は安易に破られるという現実です。

 いま、国際情勢も安全保障環境も激変する中で、日本は空想的平和主義から現実的平和主義への大転換を迫られています。

・ウクライナ戦争では、ロシアは「国連憲章第51条に基づいて『特別軍事作戦』を行う」と述べ、ロシア軍がウクライナ領土に侵攻しました。それをJus ad Bellum(戦争法)に照らして大多数の国家が非合法であると明確に意志表示しています。

 ウクライナ戦争では、多数の民間人が犠牲になるとともに、国内外併せて1300万人の避難民が発生しています。このロシア軍による攻撃は、ジュネーヴ条約第1追加議定書52条2項の軍事目標主義を逸脱しています。つまり、Jus in Bello(戦争遂行中の合法性)の考え方に明らかに反しています。

・本書では、特にJus in Belloに違反する民間人への戦争被害をいかに極小化するかについて「民間防衛」というテーマで考察しています。

・提言の主要な事項は、憲法への国家非常事態及び国民の国防義務の規定の追記、民間防衛組織とそれを支援する地方予備自衛官制度の創設、各地域の国民保護能力と災害対処能力の拡大などです。

 

<はじめに>

・こうした緊張状態が加速する中、2023年2月24日にはロシアがウクライナに軍事侵攻しました。非戦闘員である民間人の犠牲者は日々増加しているとの報道が毎日のように流されています。

・NPO法人「日本核シェルター協会」が2014年に発表した資料によれば、本書で「民間防衛」研究の対象とした米国、韓国、台湾、スイス4か国の「人口あたりの核シェルターの普及率」は、アメリカが82%、韓国(ソウル市)が300%、スイスが100%であり、各国ともに緊急避難場所を確保していますが、日本はわずか0.02%にしか過ぎません。

 台湾は、本資料には入っていませんが、100%です。台湾では、全国の公的場所には必ず地下壕を用意することが法的に義務付けられており、年に一度は必ず防空演習も行われています。

 世界各国では、核ミサイルの脅威に対する備えの重要性を認識し、いざという時の避難場所として、核シェルターの整備を政府主導で進めています。しかし、わが国は唯一の戦争被爆国であり、周囲を中国、ロシア、北朝鮮などの核保有国に囲まれているにもかかわらず、核シェルターの普及が全く進んでおらず、議論すら行われていません。

 

・このため、世界の国々は、武力紛争事態において国民の生命及びその生命維持に必要な公共財等を守るために軍隊以外の政府機関及び地方自治体並びに民間組織及び一般国民が参加する、国を挙げて行う「民間防衛」の制度を整備しています。

 わが国においても、遅ればせながら、武力攻撃事態等において、国民を保護するための「国民保護法」が作られ、2004年に施行されました。

<諸外国の民間防衛を知ろう>

<諸外国との比較による真の「民間防衛」創設に向けた日本の課題>

<諸外国の民間防衛を知ることの意義>

・その際、日本の唯一の同盟国である米国、日本と同じように中国や北朝鮮の脅威に直面し、かつ自由、民主主義などの基本的価値を共有する隣接国の韓国と台湾、及び「永世中立」政策を採り世界でも最も民間防衛に力を入れているスイスの4か国を対象とする。

<諸外国における民間防衛の概念>

・一般に諸外国では、自然災害及び重大事故に対応する措置を市民保護と称し、武力攻撃に対する被害の最少化を民間防衛と位置付けており、民間防衛こそが軍事行動―国防と密接に連動した概念である。

<民間防衛の歴史的変遷>

・戦時に国民を保護する体制を意味するものとしての民間防衛の起源は、欧州における第一次世界大戦時の空襲経験にその緒を見ることができる。

<民間防衛と市民保護の関係性>

・民間防衛と市民保護の関係性をみると、国家レベルの民間防衛が、地方レベルの市民保護の発展を促してきたという各国に共通した特徴をみることができる。

<「共同防衛」を基本とする米国の民間防衛>

<アメリカ合衆国憲法>

<全般>

・わが国の現行(占領)憲法の起草に当たって、基礎史料の一つとされたアメリカ合衆国憲法は、その前文で、次頁のように宣言している。

 われわれ合衆国の国民は、より完全な連邦を形成し、正義を樹立し、国内の平穏を保証し、共同の防衛に備え、一般の福祉を増進し、われらとわれらの子孫のために自由の恵沢を確保する目的をもって、ここにアメリカ合衆国のためにこの憲法を制定し、確定する。

・なかでも、「…、国内の平穏を保障し、共同の防衛に備え、…」の記述は、州政府を束ねる連邦国家が、各州および国民の力を結集して社会全体で国を守ろうとする強い決意を表わしており、それを踏まえて、付帯的な内容が、立法、行政及び司法の各条項に定められている。

 まず「連邦議会の立法権限」では、「宣戦布告」、「陸軍の設立」、「海軍の設立」、「軍隊の規則」、「民兵の招集」、「民兵の規律」に関し規定している。

 「大統領の権限」では、冒頭の1項目で「大統領は、合衆国の陸海軍、及び現に合衆国の軍務に服するために召集された各州の民兵の最高指揮官である」と軍の統帥権について規定している。

・なお、米国議会は、1950年5月に、それまであった沿岸警備隊懲戒法を含むすべての軍事犯罪に関する法律をまとめた『軍事法典』を可決、施行している。

 以上の他に、連邦議会の権限の冒頭にある徴税の項で、「共同の防衛および一般の福祉のため、租税、(…)消費税を賦課徴収すること」として、税徴収の主要な目的は防衛のためであることを明記している。

<日本国憲法とアメリカ合衆国憲法>

・日本国憲法の成立過程研究の第一人者とされる米国のセオドア・マクネリー博士の研究によると、日本国憲法の前文は、時系列的に、①アメリカの独立宣言、②米合衆国憲法、③リンカーン大統領のゲティスバーグ演説、④米英首脳による大西洋憲章、⑤米英ソ首脳によるテヘラン宣言、⑥マッカーサー・ノートの6史料を基礎として作られた。

・すなわち、米国憲法は、連邦法律の執行、反乱の鎮圧及び侵略の撃退を目的とする軍務に服する組織として民兵団を設けることを定め、その招集、編成・武装・規律及び統率に関して規定する権限を連邦議会に、将校の任命及び訓練の権限を各州にそれぞれ与えている。

 その歴史は、アメリカ合衆国の植民地時代に遡る。当時、各植民地は志願者から成る民兵団を結成した。それは基本的に入植民による自警団であったが、独立戦争では大陸軍とともに重要な戦力の一翼を担い、また独立後も国内外の紛争・事案にたびたび動員されたことから、1792年民兵法が制定され、究極の指揮権を州に与えた。

<米国民の「国防の義務」>

・国防の義務については、ほとんどの国の憲法に明確な規定がある。しかし米国の場合は、さらに踏み込んで、修正第2条で「規律ある民兵は、自由な国家にとって必要であるから、人民が武器を保有し、携帯する権利は、これを侵してはならない」と規定し、国民の民兵としての必要性を強調するとともに、武器を保有する権利すなわち武装の権利を保証している点に大きな特徴がある。

<米国の「武器保有権」と銃規制問題>

・アメリカでの銃の所持は、建国の歴史に背景があり、アメリカ合衆国憲法修正第2条によって守られているアメリカ人の基本的人権である。

 全米で適用されている銃規制の法律では、銃販売店に購入者の身元調査を義務づけ、未成年者や前科者、麻薬中毒者、精神病者への販売を禁止し、また、一部の自動機関銃などの攻撃用武器の販売を禁止している。

・銃販売、保持するための許可証の取得、使用など銃に関する法律は州によって異なり、カリフォルニア、アイオワ、メリーランド、ミネソタ、ニュージャージー、ニューヨークなどの州は銃規制が厳しく、銃の所持禁止区域が設定されている。

・しかし、近年、銃乱射事件が劇的に増加し、銃規制強化を訴える世論が高まりを見せている一方、米国社会では銃規制より、自衛のための銃器に関する正しい使い方の教育、情報、訓練の必要性と強化を求める動きも広がっている。

なお、2022年5月に発生した南部テキサス州の小学校銃乱射事件など相次ぐ銃乱射事件を受け、上下両院が超党派で可決した銃規制強化法案にバイデン大統領が署名して6月25日、同法が成立した。本格的な銃規制法の制定は28年ぶりで、21歳に満たない銃購入者の犯罪暦調査の厳格化や、各州が危険と判断した人物から一時的に銃を取り上げる措置への財政支援などが柱となっている。

<「国家警備隊」あるいは「郷土防衛隊」としての州兵>

<連邦政府と州政府との関係>

・州政府は連邦政府の下部単位ではない。各州は主権を有し、憲法上、連邦政府のいかなる監督下にも置かれていない。ただし、合衆国憲法や連邦法と州の憲法が矛盾する場合には、合衆国憲法や連邦法が優先する。

<州兵>

・州兵は、アメリカ各州の治安維持を主目的とした軍事組織で、平時は州知事を最高司令官として、その命令に服するが、同時に連邦の予備兵力であり、連邦議会が非常事態を議決した場合には、アメリカの連邦軍の一部として、大統領が招集することができる。

<兵役制度と予備役制度>

<兵役制度>

・米国の兵役制度は、志願制である。

 予備役は、現役の連邦軍および州兵とともに米軍を構成する重要なコンポ―ネントの一つであり、「総合戦力」として一体的に運用される。その勢力は、約80万人である。

<予備役の目的>

・予備役の目的は、戦時または国家緊急事態、その他国家安全保障上必要な場合に、米軍の任務遂行上の要求に応えるため、動員計画に基づいて部隊および人員を確保・訓練し、現役に加え、必要とする部隊および人員を提供することである。

<予備役としての州兵>

・民兵に起源があり、国家警備隊あるいは郷土防衛隊としての性格をもつ州兵には、陸軍州兵と空軍州兵があり、連邦と州の「異なる二つの地位と任務」を付与されている。

<米国の民間防衛体制が示唆する日本への主な教訓>

<憲法前文における「共同防衛」の欠陥>

・連邦制を採る米国の憲法は、その全文で、国家の安全を保障するためには、「共同防衛」が重要であることを強調している。この共同防衛では、中央の連邦政府から州・地方政府に至るまで、また軍官民が一体となり、社会全体で国を守る防衛体制が必要であると説いている。

<米国の州兵に相当する「郷土防衛隊」の欠如>

・米国の州兵は、植民地時代の志願者から成る「自警団」としての民兵に起源があり、国家警備隊あるいは郷土防衛隊としての性格をもち、地域の緊急事態等において、大規模災害対処や暴動鎮圧等の治安維持などの主任務に携わっている。

・このような、多種多様な任務の急増に応えているものの、自衛隊は前掲の「主要国・地域の正規軍及び予備兵力」に見る通り、その組織規模が列国に比べて極めて小さいことから、本来任務である国家防衛への取組みが疎かになるのではないかとの懸念が高まっている。

 自衛隊は、中国や北朝鮮からの脅威の増大を受けるとともに、ロシアに対する抑止にも手を抜けないことから、本来任務であり国家防衛に一段と注力する必要がある。そのため、自助、共助を基本精神として具現化すべき、米国の州兵に相当する「郷土防衛隊」が欠如していることは大いに懸念されるところである。

<予備役制度の拡充の必要性>

・予備役は、陸軍、海軍、空軍、海兵隊、沿岸警備隊、陸軍州兵、空軍州兵の各予備役、そして公共保健サービス予備役団の八つから構成されており、その体制は極めて充実している。

 

・近年、東日本大震災以降、即応予備自衛官が招集され、また、医療従事者、語学要員、情報処理技術者、建築士、車両整備などの特殊技能を有する予備自衛官補の需要も高まっており、この際、予備自衛官制度の抜本的な改革増強が急務である。

<国家非常事態における国家の総動員体制と組織の統合一元化の欠落>

・日本国憲法には、その根本的な問題の一つである、国家の最高規範として明確ににしておかなければならない「国家非常事態」についての規定も各省庁を統合する体制もない。

<「統合防衛」体制を支える韓国の民間防衛>

<大韓民国(韓国)憲法>

<全般>

・大韓民国(韓国)憲法は、米国の軍政下にあった1948年7月に制定、公布されたものであるが、その後9回の改正が行われている。

<韓国の民間防衛体制が示唆する日本への主な教訓>

<日本国憲法には国防及び国民の「国防の義務」についての規定なし>

・韓国の憲法は、前記の通り、国軍の保持とその使命並びに国民の「国防の義務」について明記している。また、憲法の規定を根拠に、「民防衛基本法」を制定し、民間防衛体制を整備している。

 一方、日本国憲法は、第9条2項で、「戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認」を謳い、国家の唯一の軍事組織である自衛隊は、憲法のどこにも明記されていない。

<国民の「国防の義務」に基づく民間防衛体制の欠如>

・韓国は、憲法によって国民の「国防の義務」を定め、徴兵制度と民防衛隊を制度化してその目的に資する仕組みを作っている。

 わが国の憲法には、国家と国民が一体となって国の生存と安全を確保するとの民主主義国家としてごく当たり前のことが記述されていない。

<国家非常事態に国を挙げて対処できる枠組みの欠如>

・韓国は「江陵(カンヌン)浸透事件」を契機に、国家として適切な対処が行えなかったという反省を踏まえ、「統合防衛法」を制定し、この法律のもと、国防関連諸組織をすべて組み合わせ、網羅して、外敵の侵入、挑発などに一元的に対処する仕組みを作った。

 わが国でも、東日本大震災において、国家として適切な対処が行えなかったことなど多くの問題や課題が指摘された。

<「全民国防」下の台湾の民間防衛>

<中華民国(台湾)憲法>

・中華民国(台湾)憲法は、その「まえがき」で、「国権を強固にし、民権を保障し、社会の安寧を確立し、人民の福利を増進する」ために憲法を制定するとし、国家目標の四つの柱の一つに国防の重要性を掲げている。

<台湾(中華民国)の民間防衛体制が示唆する日本への主な教訓>

<全国民参加型の国防体制の欠如>

・台湾は、憲法20条で「人民の兵役の義務」を定め、それを基に台湾全民参加型の「全民国防」体制を敷いている。

 台湾は、九州とほぼ同じ面積の領土・領域を守るため、現役を約16万人にまで削減したが、約166万人の予備役を確保しており、有事には現役と予備役を併せて約182万人を動員することができる。さらに、高等学校以上の生徒を含めた70歳までの市民の力と自衛・自助の機能を有効に活用し、人々の生命、身体、財産を共同で保護する民間防衛体制を整備して、全民国防の実効性を担保している。

<民間の力と国民の自助・共助の機能を組織化した民間防衛体制が欠如>

・台湾は、「人民の兵役の義務」を背景に、全民参加型の「全民国防」体制を敷き、現役及び予備役を背後から支える民間防衛体制を整備している。 

 その役割は、「民間の力と市民の自衛と自助の機能を有効に活用し、人々の生命、身体、財産を共同で保護し、平時の防災・救援の目標を達成し、戦時中の軍事任務を効果的に支援すること」にある。

 民間防衛体制は、現役及び予備役以外の、高等学校以上の生徒を含めた70歳までの市民によって組織化されており、平時の重大災害対処と戦時の軍事任務支援の平・戦両時に備える構えになっている。

<学校における国防教育の欠如>

・台湾では、「全民国防教育法」に基づき、台湾全民に対する国防教育に力を入れ、全民国防を知識や意識の面からも高めている。特に、学校教育では、国防教育を必修科目とし、青少年の愛国心と国防意識を高揚し、軍事能力の向上を図っている。

 それに引き換え、日本の国防教育は、あらゆる世代を通じて皆無に等しい状態にある。

 中国は、現代の戦争の本質を「情報化戦争」と捉え、「情報戦で敗北することは、戦いに負けることになる」として、情報優勢の獲得を戦いの中心的要素と考えている。そして、「情報化戦争」においては、物理的手段のみならず非物理的手段を重視し、「輿論戦」、「心理戦」および「法律戦」の「三戦」を軍の政治工作の項目に加えたほか、それらの軍事闘争を政治、外交、経済、文化、法律など他の分野の闘争と密接に呼応させるとの方針を掲げている。特に近年は、サイバー、電磁波および宇宙空間のマルチドメインを重視して情報優越の確立を目指そうとしている。

・その際、情報の優越獲得の矛先は、軍事の最前線に限定される訳ではなく、相手国の政治指導者、ソーシャルサイトやメディアそして国民など広範なターゲットへ向けられるため、中国の「情報化戦争」は、一般国民の身近な生活や社会活動、ひいては国の防衛に重大な影響を及ぼさずには措かないのである。

 台湾と同じように、中国の世論戦、心理戦、サイバー戦などの脅威に直面する日本としては、敵から身を守り、敵の侵略を阻止するには、物理的な力と無形の力を組み合わせる必要性に迫られている。自衛隊の防衛能力を強化するのは当然であるが、併せて国民が脅威を正しく認識し、防衛意識を高める施策が伴わなければならない。

 そのため、特に学校教育では、国防教育を必修科目とし、青少年の愛国心と国防意識を高揚し、自衛隊の活動に関する理解を深め、それに協力して共に支える社会環境の醸成が不可欠であるものの、甚だ不十分な状況と言わざるを得ない。

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