一番儲かる商売は本来ソフトの開発である。それをすれば創業者利益や、独占利益が手に入る。理由は簡単で、一番最初は必ず独占しているからである。(1)
(2025/4/9)
『未来の読み方』
明日が見つかる7大法則と51の小法則
日下公人 PHP研究所 2009/6/23
<「五感」の法則――豊かな時代に新商品をつくるヒントとは?>
<五感の「順番」の法則――なぜ視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚の順番か>
・それから、視覚や聴覚を刺激し、満足させるような商品は、簡単に複製ができ大量生産できるという特徴がある。視覚商品の代表格は、なんといってもテレビだが、それこそ日本中の家庭に「タダ」で娯楽が配られている。聴覚商品の代表の音楽も、最高の音質のCDが今や手軽に買うことができる。かなり安上がりの娯楽といえるだろう。
ところが、味覚・嗅覚・触覚となると、コピーしての大量生産はしにくい。
<「五感の進化」の法則――原始的な感覚ほど強くて高級>
・そういう順番で五感が発達していく。探知距離の拡大も大事である。触覚、味覚はゼロメートルで、嗅覚、聴覚は約100メートルまで遠距離探知する。視覚は宇宙まで見える。それだけ餌の発見と危険の探知が早くなる。
<「匂い」の商品が高級になる理由>
・人間の五感の中では、匂いが一番本能に直通する。それは、神経の発達の中で、嗅覚が一番先だからである。
<「始まりは贅沢」の法則――これからのビジネスの「芽」はどこに?>
<「贅沢品」と「必需品」の法則>
・まず、経済発展の歴史は、「昨日の贅沢は今日は当然になり、今日の贅沢も明日は必需品になる」ということである。
<恋愛と贅沢と資本主義の「発展法則」>
・ゾンバルトは資本主義がスタートする前には貴族の間に贅沢競争があり、贅沢競争が盛んになった理由には「恋愛ごっこ」があったと説く。
<「文化が先、工業化が後」の法則>
・以上をまとめると、工業化とは文化の普及段階であって、創造段階ではないということである。重要なことは、大衆が憧れるような本当の贅沢が事前に創造されていないと、大量生産や工業化は発生しようがないという点である。
・日本発の21世紀文化は要注目である。ビジネスチャンスはいたるところに存在している。
<「普及率」の法則――ヒット商品とはなんだろう?>
<「流行の順番」の法則>
・この話の結論は「理念より普及率」になるから、一般の常識とは少し違ったものになる。一般の常識は「理念はその正しさにより普及する」というものだが、それは事の半分で、「普及率にはもっと奥深いそれ自身の原因がある」と私は思っている。
<「モード→ファッション→スタイル→礼服」の法則>
・モード、ファッション、スタイル、礼服という言葉の違いは、流行の「順番」を表したものだ。
新しい様式が最初に出てきたときが「モード」で、やや時を経て世間に広がった状態が「ファッション」と呼ばれる。さらに時を経て大多数が採用すると、これが「スタイル」。そしてスタイルとなったものの一部は、最後には日常生活とはほとんど無縁の「礼服」となり、しだいに社会から消えていく。
<ヒット商品の栄枯盛衰に見る「生命曲線の法則」>
・たとえば電気洗濯機でもパソコンでもケータイでも大衆商品は何でも同じだが、初めはちょろちょろで、あるとき急に売れ出して、どこかでゆっくりになり、やがて世帯普及率が100になる。
・すなわちS字型曲線になる。市場側の事情が原因だから、どんな商品でもこのS字型が出る。これは生命曲線である。
<「五種類の人間」という法則>
・消費者の購買行動を観察し、ロジャースが五種類に分けた人間の第一種は「イノベーター」と名づけられている。挑戦者、あるいは革新者である。
・第二種は「アーリー・アダプター」。直訳すれば、初期採用者。別名オピニオン・リーダーとも呼ばれる。
・次はフォロワー、つまり大衆だが、これはさらに二つに分類される。ひとつは、第三種の「アーリー・マジョリティー」、初期多数者。もうひとつは第四種の「レイト・マジョリティー」、すなわち後期多数者。最後に第五種は「ラガード」、直訳すれば遅行者であるが、伝統主義者と言ったほうがわかりやすいだろう。
・前項で述べた流行の順番でいえば、イノベーターが採用した商品や風俗は、モードということになる。
<「7%の壁」を越すとヒットする法則>
・さて大切なこととして、このアーリー・アダプターは、ひとつの文化が広がっていく過程で重要なポイントを握っている。
・これらの商品が世に出た最初は、遅々としてなかなか普及が進まない。ところが普及率が7%を超えるあたりを境にして、爆発的に普及していくのである。
・アーリー・アダプターが採用するかどうかが、つづく第三種・第四種人間、つまり70%近くいるフォロワーの動向を決定する。
<歳をとると「一段階ずつ下がっていく」法則>
・人間はそのような行動をする五種類に分けられる。
・両者の相違は、イノベーターが未来と対話しているのに対し、ラガードは過去と対話していることだ、と言えるだろう。
<「ビジネスを拡大」させる法則――儲かるとはどういうことか?>
<「適正価格」とは何かの法則>
・このように、「消費」として自分の生活に使う人は取得価格から処分価格、せいぜい複製価格でしか考えないが、回して「儲け」の材料にしようとする投資家は収益還元価格で考えるので、同じ船が30億円に跳ね上がったりする。これがまじめな人から見ればバブルに見えてしまう。ただし商人になって資金を回して使うとすれば、これこそが命で、あとは関係のない話である。
<同じ商品が「10億円から120億円まで」となる法則>
・だからバブルは何度でも再発するのである。それから「今はバブルだ」と、そのときは分からないものである。破裂してからはじめて分かるもので、事前に分かるということはない。
<「投機、投資、消費」に潜む法則>
・前項の考えを突き詰めると、実は消費も同じで、投機と投資と消費、この三つの区別は、客観的、学問的にはつかない。
・ついでながら、新聞を読んで一喜一憂するのは考えものだとわかる。アナリシス風に書くことが流行しているが、アナリシスそのものがまだ成立していないのである。
<「商品が社会に広がる三段階」の法則>
・第一段階:新機能の開発。第二段階:周辺機能の開発。第三段階:周辺との調和、人間性の追及。
・さて、生産者側は、周辺環境との調和を図るための研究開発に対してはどうしても腰が重い。それよりも、第二段階の機能に合った環境を有する市場のほうを、国内外に求めがちである。しかし、それはこれからの時代を生き抜くには、賢明な態度とは言いがたい。
<「量産か、値上げか」を決めるときの法則>
・ある商品が当たった場合、二つの選択がある。一つは量産と拡販の道。もう一つは値上げの道である。経済学的にいえば量産と拡販の場合の値段は、生産原価プラス適正利潤によって決まる。つまり「労働価値説」が相当する。一方、値上げによる場合の価格は、お客の満足度によって決まる。つまり「効用価値説」である。日本の会社はたいてい前者の道を選んだ。
<「先端が一番儲かる」という法則>
・だからビジネスで成功しようという人は、「大きな利益は先端にある」という昔から変わらない本質を押さえたほうが利口である。
一番儲かる商売は本来ソフトの開発である。それをすれば創業者利益や、独占利益が手に入る。理由は簡単で、一番最初は必ず独占しているからである。
<「真似してくれるから、先進国になる」法則>
・カラオケ、マンガ、アニメ、コンピュータ・ゲームといった、日本から世界に広がる文化商品で注目してほしいことは、もともとは自家消費用で、儲けるというよりはまず自分が楽しんでいるという点である。それを後進国や中進国が文化に憧れて買ってくれるから、いつのまにか国際的高付加価値商品になっている。
・ベンチャーが出る国は勝つ。だから日本は規制緩和をし、社会の常識を変えて、好奇心の強い若者をみんなで褒めたほうがいい――そんなことが勝つための社会条件になる。
<豊かな時代の「成功」の法則――「目」のつけどころのヒントとは?>
<遊びながら儲ける>
・日本人は自分が勉強する。アメリカ人はシンクタンクをつくって人に勉強させる。イギリス人は遊びが勉強になっている、――とでもまとめておこう。
<「文化産業のお手本」は日本にある>
・すぐれたお手本は世界中いたるところにあるし、さらに言えば日本にもある。
<豊かな時代は「同時生産、同時消費」の法則>
・そういう「同時生産、同時消費」のイベントを演出し、場を提供し、というのがこれからの文化産業の一つの特徴であり、ヒントである。もう一つヒントを言えば、瞬間の喜びがウケる時代である。
・個人で生産し、個人で消費する、これを流行語でいえばSOHOの時代。過去に例のなかった社会の到来である。
・豊かな時代のヒット商品は、「同時生産、同時消費」、「瞬間の喜び」、「個人で生産、個人で消費」、「遊びの中にヒントあり」、「文化のお手本なら日本にこそある」、「金持ち消費と貧乏消費はよく似ている」、「ハイ・テックは流行れば、ハイ・タッチも流行る」
<「金持ち消費と貧乏消費」はイコールの法則>
・それは、「消費行動において、トップとボトムは共通した様式を持っている」という法則である。くだけた言い方をすれば、金持ちと貧乏人はやることが似ている。これは食生活に限らず、他の分野でも適用する。
<「ハイ・テックとハイ・タッチは伴走」する法則>
・IT革命なる言葉が大流行したが、それならば「ハイ・タッチ」にもビジネスチャンスが生まれる、というより多くの人が見落としてしまう「ハイ・タッチ」のほうが、ビジネスチャンスとしては有望だといえる。
<高齢者向け商品は日本が先端国になる>
・21世紀の大きな流れとして、「世界は日本とアメリカの真似をするようになる」と言えるが、高齢者向けの商品やサービスにおいては、世界は日本の真似をして、アメリカをあまり真似しないと思われる。
高齢者向けの商品は、日本こそが世界の先端国となるだろう。
<高齢者がほしいのは個人サービス>
・執事や召使いがいいか、それともロボットや派遣サービスがいいか。21世紀文明はどれになるのかが、いままさに闘われている。
結論を言えば、私は両方だと思う。
・とくにこの分野でこれから大きく広がってくるのは介護である。対個人サービス、スキンシップサービス。そして機械半分、心遣い半分、または自分の筋肉半分と気配りでお金をいただく。これは20世紀の非常に有望な分野である。
<「非交換の生産活動」という新しい法則>
・言い換えれば、初めは貢献するつもりでやったことが、いつの間にか自分の生き甲斐になり、やがては思いがけずに儲けになっていく、そんな時代が来たということである。実際、それは先端に達した国がこれまで歴史のなかで見せてきた、もっとも幸福な姿でもある。「経済成長を追求する産業」ばかりが仕事ではない。非貨幣的幸福というものもある。
<「アイデア誕生」の法則――発想倍増のヒントのヒントは?>
<明るさは成功への道>
・ある生命保険会社の重役から聞いたことだが、営業成績の悪い支店でも、支店の雰囲気が明るければ、かならず成績はよくなる。反対に、今は成績がよくても、何か悪い印象のある支店は、いずれ成績が落ちてしまうという。営業成績に限らず、明るさは、人間関係をよくするものだ。
<数を撃つ――打率の法則>
・そのベテランの数の撃ち方はすさまじい。1日の訪問件数はなんと50軒。帰宅後は風呂に入り、風呂から上がると剃刀で足のマメを削っているらしい。彼いわく、「訪問件数を何とか30軒に減らして同じくらいの成績を上げようなどと考えている人は駄目だ」――。営業の世界はかくも厳しい。他の世界でも、おそらく同様なことだろう。
<自分を「ソフト化」するときの法則>
・ソフト化とはどういうことかとよく聞かれるが、一つの答えをわかりやすく言えば、「固定観念を捨てれば、物事の真実が見えてくる」ということである。
あるいは逆に「物事の真実を一生懸命に考えれば、自然に新しい発想が生まれるので、おのずから固定観念を捨てることができる」と言ってもいい。それができたときは、目からウロコが落ちたような気がする。
<「オンリーワン」とはどういうことか>
・戦後間もなくウォルト・ディズニーは、自分の信頼する何人かの人たちを集め、世界にただ一つしかないディズニーの世界を新しくつくろうではないか、我々の手で完全な発明品をつくろう、と語りかけた。
・日本であれば、世界中のいいものを根こそぎ集めてこいというだろうが、ディズニーは死んでも真似はするなと厳命した。
<マドル・スルー(「泥んこ突破作戦」)が先頭の宿命>
・ソフト化の定義をもう一つすれば、「先端分野へ出ること」である。目標探しも含めてとにかく「人より先に出よう」とすることである。
・それがソフト化である。今ではイギリス人とアメリカ人が先端化をやってくれた。それをようやく日本人もやるようになった。これは言ってみれば「マドル・スルー」である(「泥んこ突破作戦」とでも訳しておこう)。泥んこになってもがいて進む――それが先頭を行く人の宿命である。
<帰納法こそ、文化の時代の思考法>
・ものごとの考え方には二通りある。「演繹法」と「帰納法」である。
すでに正しい理論や法則ができていて、それを各方面に適用していくのが演繹法である。
・演繹法では、予定された解答にはたどりつけても、それを超えて先にいくことはできない。そこで重要になるのが帰納法である。帰納法には、あらかじめ解答は用意されていない。
・直感力は天の啓示というが、やはり努力の積み重ねによって得られるもので、それが帰納法の達人になる道である。
<アナロジーからアナリシスの時代へ>
・直感力については、こんな言い方もできる。人間が知らないものを理解するにはふたつの方法があり、ひとつは「アナロジー」で、もうひとつは「アナリシス」である。たとえ話がアナロジー、箇条書きがアナリシス。これは分析と統合という問題でもある。
・この場合どっちがいいかといえば、一長一短で結局は両方、アナロジーとアナリシスをさらに総合するのがいちばんいい。
<イメージのパワー>
・まだまだ未完成品とはいえ、脳の「長所」もある。たとえばチャレンジする分野、クリエイティブな分野では、イメージの力は非常に大きい。
・同じ考えるなら一階級上などと言わず、もっともっと上になったつもりで考えておくとさらによいだろう。
<サロンのすすめ>
・人間が最終的に行き着く快楽は何だろう。それは、寄り集まって会話を楽しみ、知的刺激を交換し、情感の共有を確認し合うことである。これ以上の快楽はない。これをなるべくお洒落にやったのがサロンである。
・新しいシンポジウム、新しいサロンはケータイが創造している。
<「幸福倍増」の法則――これからの時代をどう生きますか?>
<実力の「身につけ方」の法則>
・すなわち、「本物の体験」をたくさん積むのが大切だということである。
・要は、本物と出会う機会を増やすことで、それが本物と偽物の見極める目を養うことになる。本当の実力を身につけることにつながる。
<サラリーマンの三段階>
第一段階:20代、「新機能」失敗を恐れず、自分の能力をアピール
第二段階:30代、「付属機能」一段上の成果を上げ、かつ失敗しない手堅さが求められる
第三段階:40代、「周辺との調和」下から慕われ、上からも信頼されることが大切
<欧米のレッスンプロに学ぶ生き方>
・第三の道という言葉があるが、豊かになったおかげで日本でも人生の選択肢がずいぶん増えた。
・だがそこには、も一つの道がある。日本全国に少なからずその道の愛好者がいるのであれば、トーナメントプロに未練を残さず、レッスンのプロとして立派にやっていくこともできるのではないか。
・サービス産業は「対個人サービス」と「対事業所サービス」の二つに分けられる。これからは対個人サービスが発展すると誰でも言うが、なかなかそれに努力する人はいない。
<まずは動機――ベンチャー成功の条件>
・というわけで、まず先端開発は投機の世界だと確認し、それを投資に近づけるためには何を見ればよいのかが問題だが、人が言わないことを言うと、次の四つを挙げたい。1、動機、2、英明さ、3、度胸、4、情緒の安定。この四つを見る。
<「やる気の効用」の法則>
・しかし多くの人は、いやいやで最小限の仕事をするから、しているあいだも不愉快を味わっている。
・そんなことなら、むしろ仕事を選んで2倍したほうがよっぽど幸福になれるというもの。
・どちらにせよ、いやいやしぶしぶで手抜きの仕事をするのは、一番早くそして確実に不幸になる道である。
<「差」か「平等」か、その正しい答とは>
・だから社会を活性化しようと思えば、平等の時代と差の時代は交代に来る必要があるし、また人間の心理としても交代することに意味があるのではないだろうか。
<成功したスーパーを売ってしまう理由>
・成功したら、しがみつかずに、さっさと次の新しいビジネス、時代に合ったビジネスを始めてしまう。いまの日本に必要なことだと思いませんか?
<陰徳あれば陽徳あり、を忘れないこと>
・良くも悪くも何かに使ったエネルギーは、同じだけ自分に返ってくるという世の中の真理は、お金にもあてはまるらしい。
<デフレを生きる法則(一般編)>
・したがって、デフレのときは逆に借金をしてはいけない。
・その二、デフレのときは資産を持ってはいけない。
・その三、換金資産でなく、自分が利用する資産は別である。
・これを個人生活に当てはめるとどうなるだろうか。
その一、マイホームは売却して貸家に住む。
その二、自動車もレンタルかリースにする。
その三、必要なものは最小限をそのときどきに購入する。
その四、書籍を買わないで図書館を利用する。
その五、会社で働いて功績を上げたらすぐに対価を要求する。
その六、濃密な友人関係をつくるために時間や交際費を使うなどは、ムダだからやめる。
その七、学問ぎらいの子供に費用をかけて大学にやるのも、子供を苦しめるだけだからやめよう。
その八、自分の資産をすぐに現金化できるようにいつも考えている。
その九、以上を実行すると、その人はモノ持ちではなくカネ持ちになるから、次の心配はカネの運用である。
・以上をまとめて言えば、“所有から利用へ”の時代となる。
<デフレを生きる法則(個人編)>
・まず、マイホームは持たない。借家も大きいのは避ける。
・そのうえ、デフレが世界共通の現象として長引けば、人びとの生活も世界中がよく似てくる。つまり、生活面でもグローバル・スタンダードが出現する。家庭がスリム化し、生活はシンプルになる。
<これが世界の七大潮流>
・21世紀に世界はどうなっていくのか、その七大潮流を簡単に述べていくとこうなる。
① 大衆消費社会へ世界は進む。
② 中流社会へ世界は進む。
③ 大都市化へ世界は進む。
④ 平和へ世界は進む(国家より民族、軍事より経済)。
⑤ 少子高齢化へ世界は進む。
⑥ 東洋風へ思想革命が進む。
⑦ 多民族共存と人種平等へ世界は進む。
<「日本風」が世界中に広まる>
・世界中に人口減少が始まった。人口減少に伴う現象はみんな共通である。したがって、世界中が日本と同じようになるはずである。つまり日本のほうが先進国であり、すでに独走している。
・そういう日本を見れば、外国人はうらやましいと思うだろう。そして、日本の真似をするようになるはずである。つまり日本のほうが先進国であり、すでに独走している。だから「日本風」が世界に広がる。
<あとがき>
・貧乏国、弱小国といえども約百年で強大な富裕国になり、また、さらに変化を重ねて成熟国から老成国へ向かうが、その“変化の法則”を知らないのが現代日本人である。
生まれ変わって日本に似てくるアメリカにおいても、それからアメリカに似ていく日本においても、同じ法則が働いている。
それを心得れば、自然に未来が見える。
2018/12/16
『JALの奇跡』
稲盛和夫の善き思いがもたらしたもの
大田嘉仁 致知出版社 2018/10/3
<日本航空の再建>
・私は、大変幸運にも、稲盛和夫さんという無私の経営者の近くで25年ほど仕事をしてきた。特に、日本航空の再建では、主に意識改革担当として、3年間、ご一緒にさせていただいた。
<日本航空の奇跡的な再建>
・日本航空の奇跡的な再建は、日本航空の全社員の力によってなされた。それを可能にしたのは、稲盛さんという稀代の名経営者がいたからであり、稲盛さんの経営哲学、人生哲学が全社員に浸透し、彼らの考え方、心、行動を変えたからである。
<より良い生き方を教える成功方程式>
・稲盛さんの経営哲学のすばらしさの一つは、私たちの人生を「成功方程式」という極めて単純化された数式で、どうすればいい仕事ができるようになれるのか、また、どうすれば運命さえ好転させることができるのかを示していることだろう。
・成功方程式とは、「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」というものである。
・さらに、これに「考え方」が掛かってくる。
「能力」や「熱意」と違って、この「考え方」には、マイナス百点からプラス百点までの大きな幅がある。だから、人生・仕事の結果をよくしようと思えば、「考え方」をプラスにしなくてはならない。
・それは決して他人事ではなく、自分の仕事や人生にも当てはまる。自己本位という間違った「考え方」で仕事を進めると、いくら努力しても、思ったような成果が出ないということは、誰でも経験しているのではないだろうか。また、人を妬み、不平不満ばかり言っていては、決していい人生が送れないことも知っているのではないだろうか。
<正しい「考え方」を哲学へ昇華させる>
・このように成功方程式用いて稲盛さんは「考え方」がいかに重要かを教えている。では、どのような「考え方」がプラス百点なのだろうか。それを稲盛さんは「人間として正しい考え方」だと表現されている。
それは何かといえば、それほど難しいことではなく、子供の頃、親や学校の先生から教えてもらった、「やっていいこと」「悪いこと」である。
・それはなぜか、人間には本能というものがあり、生きていくために必要だからである。生命を維持し、種族を残すために必要な食欲などの欲望、他者から自分を守るための怒りなどは、自分が生き延びていくために不可欠なものであり、それを本能として生まれてきた時から備え付けられている。
だから、正しい「考え方」をもち続けることは難しい。特に私たち凡人の「考え方」のレベルは簡単にプラスからマイナスに変わってしまう。
・私自身、近くで仕事をさせていただく中で、稲盛さんが悩まれている姿に接することもあったが、それ以上に、いつも数冊の哲学書などをカバンに入れ、時間があれば、それを読み、学ばれている姿のほうが印象に残っている。
<「熱意」とは「考え方」を実践に導くもの>
・このように「考え方」は大事なのだが、いくら人間として正しい「考え方」をもっていたとしても、実践が伴わなければ価値がない、そのために必要なのが、「熱意」である。
この「熱意」とは、願望、情熱、意志とも呼べるものであり、すべての行動の原動力になる。
・稲盛さんには、社員の物心両面の幸福のために、京セラのすべての事業を成功させたいという潜在意識にまで透徹していた強く持続した願望、つまり志があったのだ。
<「能力」は進化する>
・「仕事において新しいことを成し遂げられる人は、自分の可能性を信じることのできる人です。現在の能力をもって『できる、できない』を判断してしまっては、新しいことや困難なことなどできるはずはありません。人間の能力は、努力し続けることによって無限に拡がるのです。何かをしようとするとき、まず『人間の能力は無限である』ということを信じ、「何としても成し遂げたい」という強い願望で努力を続けることです」
・私たちは、自分を含めて、誰にでも同じように無限の可能性があるということを信じることが大切であり、そのような思いが、必ず、自分や組織の成長につながるのである。
<外から見える「能力」、外からは見えない「考え方」と「熱意」>
・このように稲盛さんの成功方程式、「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」は、一見複雑で起伏の多い人生をクリアに説明できる。これまでの自分の人生を振り返る時、これからの人生を考える時、多くの示唆を得ることができると思う。この方程式が人生の真理を表していると思うゆえんである。
<稲盛さんの人生と成功方程式>
・稲盛さんは、若い頃に、大した能力もない自分がどうしたらすばらしい人生を送れるのだろうかと考え、この成功方程式を思いついたと話されている。その稲盛さん自身の人生も、この方程式で説明できる。
・その時に、「赤の他人ではあるけれど、社員は自分の人生をかけて、入社してきたのだから、経営の目的には経営者の私利私欲が少しでも入ったものであってはならず、全社員の物心両面の幸せを願うものではなくてはならない」と気が付き、京セラの経営理念を「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類社会の進歩発展に貢献すること」と定めた。つまり、「考え方」を高めたのである。
創業時の全社員がもっていた、燃えるような情熱、つまり百点近い「熱意」に、同じく百点に近い「考え方」が掛けられ、京セラは急成長を遂げた。その間、全員参加経営を可能とするアメーバ経営も導入され、全社員がもてる能力をフルに発揮できるようになった。その結果、技術力、生産力、資金力などの企業としての「能力」も高まり、さらに躍進を遂げるようになったのである。
<成功方程式で組織も変わる>
・成功方程式は人生・仕事の結果を表すことができる方程式であるが、京セラやKDDIの例でもわかるように、人間の集団である、組織、企業においても適用できる。
・そして、経営トップは、必ず成功できるという戦略を立て、それを実践して見せることも重要だ。その実績が社員からの信頼を得、社員の「熱意」を高める。
・十分な資金も技術力もあり、優秀な社員もいる。それでも低迷している企業があるとすれば、リーダーの資質や社風に問題があるのではないか。そのことをこの成功方程式は教えている。つまり、企業経営において本当に重要なのは、目に見えない社風や文化であり、経営者を含めた社員の「考え方」や「熱意」なのである。すばらしい経営戦略を立案することは重要なことではあるが、それを実行するのは人であり、突き詰めれば、その心、つまり「考え方」や「熱意」なのである。
<稲盛会長の就任挨拶に漂う冷たい空気>
・JALに行く前後で私たちは再建計画の説明を受けていた。当然の話だが、再建計画というのは「その通りに実行すれば成功する」という案である。その計画では、給与の2、3割カット、社員約1万6千人の削減、約40%の路線縮小、多くの大型機の売却などが示されていた。一方、目標とする営業利益は1年目が641億円、2年目が757億円となっていた。
この再建計画は稲盛さんの会長就任と同時に公表もされたのだが、マスコミはこぞって「JAL再建計画に信憑性なし」と徹底的に批判した。
・稲盛さん自身は、航空業界には全くの素人であり、JALの内部事情にも疎い。だから、この再建計画が果たして妥当なものかどうかもわからなかった。しかし、管財人の方々は、今回の計画はJALの若手幹部も入って作ったものなので、これを確実に実行すれば必ず再建できると説明していた。また、会社更生法適用会社なのだから、再建計画を着実に実行する以外方法はなかったのである。
・そのような極限的な中で、稲盛さんの話をにわかに信じられる人がいないのは当然だったかもしれない。「自分たちプロでもうまくできないのに、何もわかっていない年寄りが突然やって来て精神論だけで再建しようとしている。困ったもんだ」と聞えよがしに話をする人もいた。
・また、先に紹介したカネボウの伊藤淳二会長のこともトラウマのようになっていた。伊藤さんは政府の要請を受けてJAL会長に就任したが、組合対策に注力し、独断で経営判断をすることも多く、結果として社内を混乱させたという。その後の苦労を知っている幹部も多い。同じように政府から派遣され、航空業界に素人の稲盛さんも、社内を混乱させるだけではないかと心配していたのである。
<「全従業員の幸せを追求」は組合迎合と反発した幹部>
・会長着任後、稲盛さんは「経営の目的は全従業員の物心両面の幸せの追求である」という話をよくされた。しかし、これについても反発があった。
ある幹部は私に「この発言をすぐに撤回するよう稲盛さんに伝えてほしい」と言ってきた。彼は稲盛さんがカネボウの伊藤さんと同じように組合に迎合していると受け取り、「稲盛さんに同じ失敗をさせたくない」という言い方をした。「そんなことはできません」と私が断ると、直接稲盛さんに「すぐに撤回してください。あんな言葉を組合が聞いたら、喜んでまた社内をめちゃくちゃにしてしまいます」と申し入れた。
<社内に充満する根深い相互不信>
・彼らには明らかなエリート意識があって、一般社員に対して優越感を抱き、現場の苦労を知らないのに、現場を見下すことがあった。逆に社員のほうは「本社の幹部がいい加減な経営をするから倒産した」と批判した。一体感どころか、相互に根深い不信感があったのである。
・それは、稲盛さんが会長に就任しても変わらなかった。例えば、稲盛さんは、経営数字をできるだけオープンにして全員参加の経営をしたいと話した。それに対しても幹部たちは「経営数字を知っているのは幹部だけでいいのではないですか」と抵抗をした。なぜかといえば、社員を信用して、経営数字を見せると他社に漏らすかもしれない、そうなると大変な問題になるというのである。
・それは、社員を単なる労働力と考えていたからだろう。極端に言えば、社員を、自分たち管理職と立場が全く違う労働力、つまりコストとしか見ていなかった。だから、いろいろな工夫をして労働力コスト、つまり人件費を下げ、生き残りを図るのが自分たちの役割だと考えていたのである。そのためJALでは、非正規雇用の派遣社員などを増やしていくと同時に多くの事業を子会社化していた。
<「JALは黒字を出してはいけない」という理屈>
・JALに着任して驚いたことの一つに、「我々は公共交通機関だから利益が出ないのが当たり前で、むしろ利益を目指さないほうがいい」との考え方が染みついていたことがある。何人かの幹部から「稲盛さんや大田さんは、収益性を上げろ、黒字にしろといつも言うが、それは基本的に間違っている」と真面目な顔で言われた時は耳を疑った。
しかしよく話を聞いてみると、そこにも彼らなりの理屈が存在することがわかった。つまり、黒字になって利益が出るようになれば国土交通省は「運賃を下げろ」と言ってくる。組合は「賃金を上げろ」と要求してくる。政治家は採算を度外視して「新しい路線を開設しろ」と求めてくる。だから、できるだけ利益を出さないのがよい――これが彼らの理屈だった。
そのような発想だから、利益目標に対する執着心はもっていなかった。公表された会社全体の利益目標はあっても、部門ごとの利益目標はない。
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