人生を最後まで“自分らしく生きる”ためのビジョンを持っていれば、自分のピッタリ合った服を仕立て直すことは、それほどむずかしいことではないと私は思うのです。(5)

(2023/6/3)

『自民党という絶望』

石破茂 &その他    宝島社新書 2023/1/27

<空気という妖怪に支配される防衛政策 石破茂>

・年間11兆円の防衛予算となれば800億ドル以上。インドの766億ドルを抜いて、米国、中国に次ぐ世界3位の軍事大国となる。

<GDP比2%がいつの間にか既定路線に>

・石破:GDP2%、NATO並み、という話は安倍晋三元総理が生前に言っておられたことです。

・ウクライナ侵攻が国民に大きな衝撃を与えたことは間違いありません。

・台湾の陸海空軍の防衛力について、日本としてどれだけ正確に分析評価できているかということも重要です。台湾には2018年まで徴兵制があり、さらに予備役の訓練にも力を入れています。陸海空軍合わせて166万人もの予備役がいる。

・「ウクライナの教訓は、自分の国は自分で守るという強い意志と能力を備えなければ、他の国は助けてくれない、ということだ」

・当たり前ですが、フリーランチなどありません。大切なものはタダでは手に入らないのです。自民党はよく「国防こそ最大の福祉である」というフレーズを使うのですから、そうであるならば、恒久的な財源が必要だというのはきわめて当然の議論でしょう。

<アメリカからの“買い物リスト”が増えるだけではいけない>

・今回の防衛費増額によって、日本の大企業も受注が増えていくことになるでしょうから、法人税増税という選択肢は合理的だと考えます。

・陸海空のオペレーションを統合するのですから、防衛力整備につても当然統合して考えるべきで、この点は以前から指摘していたことなのですが、今回は「統合運用に資する装備体系の検討を進める」という表現にとどまりました。

<「自衛隊がかわいそう」という空気は予算倍増の理由になるのか>

・しかし、実力組織として、自衛官には国の独立と平和を守るという任務があり、その遂行のために物理的破壊力を行使します。

・戦後日本に軍事法廷はありません。人権侵害をするかもしれないから、あるいは自衛隊は軍隊ではないからと、そもそも設置をしていない。しかし、そのために個々の自衛官の人権を守れないということが起きている。これこそ本末転倒です。

・その意味で、日本は怖い国です。かつてはアメリカを相手に戦争をしたのですから。日米開戦当時の昭和16年、アメリカのGDPは日本の約10倍、工業生産力も10倍ありました。まともに考えれば勝てるはずのない相手なのですが、それでも、この国は戦争に突き進みました。当時、これを批判したメディアはほとんどありませんでした。

<保守の間で「戦後」がうまく伝承されてこなかった悲劇>

<――なぜ、国家の安全保障政策について冷静な検証や議論が深まらないのでしょうか。>

石破:敗戦の検証が不完全だったからではないでしょうか。

・保守というのは本来、右翼の街宣車ではありません。本来の保守に必要なのは、柔軟性と寛容性です。

<国家として自主独立は居心地のよいものではない>

・その意味では、私は日本はまだ真の独立国家には達していないと思っています。日米安保の本質は、その非対称性にあります。

・自主独立は、まったく居心地のよいものではありません。どうやって抑止力を維持していくか、常に緊張を強いられることですし、自分たちで決めたことに対して自分たちで責任を負うしかない。しかし、それこそが独立国家のあるべき姿ではないでしょうか。

<実力組織は「情」ではなく「規律」で動く>

石破:むしろ、それだけの予算があるのであれば、予備役を増やすことを考えたほうがいいと思います。

・企業が予備役を雇用する際のメリットをもっと用意して、予備役をきちんと確保する環境を整えることが必要でしょう。

・命を懸けて任務を遂行する実力組織を持っているということは、国民全体でその責任と覚悟を負わねばならないということです。これもまた、民主主義の根幹だと私は思っています。

<反日カルトと自民党、銃弾が打ち抜いた半世紀の蜜月 鈴木エイト>

・この統一教会問題を長く取材し、『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』(小学館)などの著書があるジャーナリストの鈴木エイト氏に、日本の宿痾とも言える「政治と宗教の癒着」について聞いた。

<成立した「被害者救済法案」の問題点>

鈴木:いわゆる「マインドコントロール」に関する規定が明記されていないという点です。

<「何が問題かわからない」という本音>

・日本において、自民党議員のカウンターパートとなってきたのは、統一教会と表裏一体の関係にある政治団体の「国際勝共連合」です。

・教団が議員たちに重宝された最大の理由は選挙協力です。

<安倍元首相が統一教会に接近した「瞬間」>

・安倍氏が教団との関わりを深めたのは、第二次安倍政権が発足した2012年の以降のことだったと思います。

・ところが冒頭でもお話しした通り、2013年夏の参院選で、安倍氏は自ら票の取りまとめと選挙支援を統一教会にお願いするわけです。この候補とは、山口県出身で産経新聞の政治部長を務めた北村経夫氏で、比例全国区から立候補した北村氏は当選を果たしました。

<「マザームーン」問題の本質はどこにあるのか?>

・教団は、ある時期まで政治家との関係性を外部に向けてアピールしませんでした。

・結局のところ、山本氏も山際氏も、自分で行きたいから統一教会の会合に顔を出しているわけではなく、自民党から場の盛り上げ隊として「お使い」に出されているにすぎない。

<“商業性とマッチしないテーマ”を追求する難しさ>

・事件が起きる前は、統一教会問題や2世信者をテーマにした本を書きたいと言っても、出してくれる出版社などありませんでした。

・私自身のスタンスは事件前から変わっていませんが、本来は取材する側だった自分が今では取材を受け、仕事のオファーがくるようになりました。

・安倍元首相銃撃事件によって噴出した自民党の「統一教会汚染」が、国民に重要な事実をはっきりと見せてくれました。それは、政治家の劣化です。本来、社会的弱者に目を向け、その言葉に耳を傾けなくてはいけないはずの政治家が、多くの被害者やその家族が苦しんでいる事実を知りながら、元凶となっているカルト教団をひたすら庇護してきた。

・統一教会を追求することは、自民党、ひいては日本の政治を追求することと同義であり、ジャーナリズムがこの問題の検証を終わらせてはいけない意味もそこにあると私は考えます。

<理念なき「対米従属」で権力にしがみついてきた自民党  白井聡>

白井:日米関係の意味合いについて理解するには、戦後の自民党の成り立ちのところまでさかのぼって考えざるを得ません。

<アメリカによる“自民党支配”の歴史的起源とは>

・これについては、岸自身が獄中で残した手記がヒントになります。堀の外では、中国で共産主義政権が成立し東西対立がどうも激しくなっているようだが、もっともっと燃え上がれば俺にも再起を果たすチャンスが巡ってくるぞ、と書いています。そして実際にそうなっていったわけです。

<自主外交を試みて、アメリカの逆鱗に触れた角栄>

・経済成長をうまく取り仕切っているということで、自民党の政権基盤は強化されていきます。

・しかも、実は沖縄返還を先に持ちかけているのはアメリカですからね。いつまでも返還要求してこない日本に困惑して、「お前ら、そろそろ返還要求しろよ」とケツを叩かれた形で実現しただけ。佐藤栄作の手柄でもなんでもありません。

・角栄はソ連とも関係を改善しようと動いていましたから、ある意味で石橋湛山のような全方位外交をやろうとしていました。

<対米交渉のカード=反米勢力を、自ら叩き潰した中曽根>

・ところが、中曽根政権の頃には、このアンビバレントが解消されている。敗戦の痛みはすでに癒え、ベトナム戦争も過去のものとなる中で、暴力としてのアメリカという側面がどんどん見えなくなっていったのです。

・白井:そういうことです。やがては自立するために従属している。

白井:実績ベースで考えるならば、社会党は、万年野党として万年与党の自民党と55年体制を確立したときから、居心地のよい野党第一党の地位を確保できればそれでよし、という勢力に堕してしまった。

<拉致問題で爆発したナショナリズムが安倍政権を生んだ>

・しかし結局は、拉致問題がはじけてしまい、「こんなとんでもない国とは国交交渉なんてできないぞ」という被害者ナショナリズムが国内で爆発してしまった。このナショナリズムの爆発から、「保守派のプリンス、安倍晋三」が誕生するわけです。

・自称保守ですね。安倍氏に代表されるナショナリズムの前提には、常にアメリカ依存があります。

<“腹話術師に操られた人形”と化した岸田政権の惨状>

白井:あの長かった安倍政権において注目すべき点は、前半と後半で外交方針が見境もなくブレていったところにあるでしょう。

・つまり、いずれの方向転換も不徹底で、簡単にブレる、場当たり的だったことが特徴と言えるでしょう。

・そして、今や防衛費の大幅増額、大軍拡が進んでいます。この動きの背後にあるのは、要するにアメリカでしょう。

・この光景は何なのですか。3人の政治家がいるけれども、3人全部同じ、金太郎アメの腹話術人形ではないですか。もちろん背後の“腹話術師”はアメリカです。

<日本という“戦利品”の利用価値>

白井:「軍隊は強くしたいけど、増税はイヤ」というのは単なるバカじゃないでしょうか。強い軍隊が欲しければ、カネがかかります。

・つまり、自国の兵隊を大勢殺すような戦争はできなくなっているわけです。

・「対米従属のための対米従属」で延命を図ってきた自民党が、そうした流れの中でどのように振る舞うのかは、すでに自明でしょう。自己保身のためにいくらでも自国民の命を差し出すはずです。

<永田町を跋扈する「質の悪い右翼もどき」たち  古谷経衡>

・自民党は「保守政党」と呼ばれている。ただ、そこにいる政治家の顔ぶれを眺めると、必ずしもそうとは言えない。“リベラル”もいれば、“伝統的な右翼”もいて、まさしく呉越同舟の包括政党というのが実態だ。

<――まず、岸田政権についてどのような印象を抱いていますか。>

古谷:率直な感想として、「自民党の絶望」をこれ以上ないほどわかりやすい形で示した政権だと感じていますね。多くの人が、「少しは何か変わるじゃないか」と期待して結局、裏切られたからです。

・自民党の最後ともいえる良心が失われてしまったわけですから、「絶望」以外の何ものでもありません。

・一言でいうと、伝統的な宏池会の方向性と完全に真逆のことをしているところです。

・そんな宏池会の衰退ぶりがよくわかるのが、旧統一教会問題です。あれはもちろん自民党全体の問題ですが、発端は岸信介――つまり清和会(保守傍流)を中心としたものであるはずなのに、調査をしたら、宏池会もけっこう関わりを持っていたことがわかった。宏池会は政策に明るい一方で、武闘派的な争いが得意ではないことから公家集団、なんて呼ばれていますが、結局はそんな高尚な集団ではなく、「汚れた公家」だったというわけですよね。

<岸田政権迷走でわかった、保守本流の消滅>

<――宏池会はなぜ、ここまで姿を変えてしまったのでしょうか。>

古谷:やはり、「清和会政権」が異常なまでに長く続いたことが大きいと思っています。

・つまり、タカ派風の主張をしたり、新自由主義路線みたいなことを言ったりしたほうが、政治家として生き残れるんじゃないかという「空気」に自民党内が支配されていくのです。

<――つまり今、多くの人が自民党に「絶望」している原因を突き詰めていくと、清和会の20年支配の弊害がある、と。>

古谷:そうですね。私は今の自民党には3つの絶望があると思っています。

・このように同じ政党の中でも、政権交代すればガラリと色が変わるっていうのが自民党の売りだったはずなのに、この20年でそれが完全に失われてしまったというのが、第一の「自民党の絶望」です。

 第二は、そのおかげで保守本流である宏池会の「良心」まで消滅してしまったことです。そして第三の絶望は、左側にいてバランスを取っていた公明党まで鳴かず飛ばずになってしまったというところですね。

・たしかに選挙の区割りとか、票の格差とかの問題もありますが、自民党がこれほどまでに衰退したのは、基本的には「貧すれば鈍する」ということでしょう。

・一方で、この20年間は人口も減少し経済もどんどん縮小、日本人がみんな貧乏になってしまったことで、政治もすごくディフェンシブになってきた。市場がシュリンクしていく中で、生き残るためにはエッジの効いた「何か」を打ち出さないといけない。そうした生存戦略が、自民党の中では、清和会的なタカ派っぽい政治信条だったということでしょう。経済力と政治思想は関係ないと言う人もいますけど、実はめちゃくちゃ関係があると私はみています。

<中国・韓国を叩けばいいという「質の悪い右翼もどき」>

・でも、私はけっしてタカ派が悪いと言いたいわけではありません。私自身もタカ派ですから。問題なのは、言い方はちょっと悪いのですが、「質の悪い右翼もどき」のような政治家や自民党支持者が増えてしまったことなんですね。

・つまり、ネット右翼の強烈な後押しで安倍政権が誕生したわけではなく、瞬間風速的なブームのような形で火が点いただけなんです。

<ネット右翼にさほどの実力はなかった>

・そういう実態を踏まえれば、ネット右翼の力はかなり過大評価されていると言っていい。私の調査では、ネット右翼の総人口は全国に200万~250万人です。参議院全国比例で2議席程度の実勢です。

<忖度コメンテーターによる“イス取りゲーム”>

・ベースにあるのは日本の経済停滞です。とりわけテレビメディアの広告収入がどうしようもなく停滞しており、業界は完全に守りに入っています。

・今の勢力を何とか維持するだけで精一杯ですから、忖度が横行します。日本の経済停滞が、言論の分野にまで「保守化」を生んでいくのです。

<「はだしのゲン」の鮫島町内会長=自民党>

・また、私はこういった現象は、中沢啓治先生の漫画『はだしのゲン』に登場する「鮫島町内会長」という人物を引用することで、構造的には説明できると考えています。この鮫島という男は、戦時中の広島で典型的な中間階級の右翼(体制派)として描かれます。反戦を鮮明にするゲンとその家族を「非国民」となじって嫌がらせをするのですが、被曝して九死に一生を得ると、戦後は広島市議会議員になってコロッと態度を変えて反戦平和を唱えるようになる。

・『はだしのゲン』は、一般的には反戦や被爆体験をテーマにしていると思われがちですが、実は戦後日本の痛烈な批判として見るべきです。

・その中でたとえば、「議論や正当性ではなく、強い者の意見に従ったほうが得」という権力者の顔色を窺う忖度みたいなもの、またミソジニー(女性嫌悪)批判や同性愛は社会を壊すものであり、許せない、などという偏見などが解体されませんでした。これはつまり封建的な農村部の発想です。

・たしかに明治国家は急速な近代化を果たしました。

・いわゆるGHQによる民主改革が不徹底で終わったからです。

<戦後80年を経て“グロテスクな親米”だけが残った>

・そして究極的には、日本は本土決戦をしていないということが大きいと思います。

・GHQの民主改革が冷戦のせいで「逆コース」に転換したのがすべての因でしょう。

・戦時中には「鬼畜米英」を標榜していたはずなのに、戦争に負けた途端、空気を読んで「民主主義万歳」と叫ぶ、『はだしのゲン』の鮫島町内会長みたいな人たちが集まったのが自民党なのではないですか。

<“旧ソ連みたいな日本”に希望はあるのか>

古谷:私の好きな野口悠紀雄先生が「今の日本ってソ連末期みたいだ」って言っているんですが、それにはすごく共感しますね。

・ただ、仮に移民政策が来月始まったとしても、日本社会の人口構成が大きく変わるのには数十年かかるでしょう。衰退を食い止める即効薬にはなりません。

・しかもベトナムでは、日本に行けば奴隷労働をさせられるという悪評も広まっています。

・今、私たちにできるのは、「自民党ってもう絶望しかないよね」ってどんどん言っていくことしかない。

<“野望”実現のために暴走し続けたアベノミクスの大罪 浜矩子>

浜:まず、私はアベノミクスではなく、本質を明確にするために「アホノミクス」と呼ばさせていただきますが、アホノミクスにおいて経済の舵取りが「うまくいかなくなった」のではなく、「非常に悪質になった」ということだと思っています。

<経済を政策ではなく「手段」にしてしまった安倍政権>

浜:日本経済があの時、そして、今もなお直面している最大の問題は何だと思いますか。それは豊かさの中の貧困問題でしょう。貧しさの中の貧困ではありません。

<“企業のため”の働き方改革を推進>

・つまり、「フリーランスや非正規雇用などのさまざまな形態により、労働者を安上がりに使いまくることができる環境を作る」ということが、働き方改革構想の土台にはあったわけです。

・それと並行するようにして、2014年には日本取引所グループと日経新聞が共同開発したシステムによる株価指数「JPX日経インデックス400」がスタートします。このインデックスは全東証上場銘柄から「投資魅力の高い会社」として選ばれた400銘柄を並べるというものですが、ROEが重要な選択基準になっています。

・ROEを高めるために、必死になって収益率を上げようとするわけですが、その結果、コストの削減が大命題になり、最大のコストである人件費を減らしていくという流れにつながっていきました。流行りのようにして今、盛んに取り沙汰されているギグワーカー(単発の仕事をいくつもこなしていく働き方をする労働者)やフリーランスであれば、コストをカットしやすい、状況に応じて変動させやすいということで、雇用の流動化が一気に進んだのです。

<――8%の利益率を死守するために、資本額の変動に対して人件費が調整弁のような役割を果たしているということですね。>

浜:本来、賃金というのは固定費であるはずなのですが、正規雇用の社員ではなく、フリーランサーやギグワーカーを活用することによって、人件費を固定費から変動費に移してしまったのです。

・つまるところ、アホノミクスによって「稼ぐ力を取り戻せ」というプレッシャーを企業がかけられ続けた結果、労働者は完全に“モノ扱い”されるようになってしまったということです。

<利益率8%を迫られ、泣く泣く労働者を“モノ化”>

・2008年にリーマンショックの打撃を受けたことで、収益性確保のためには全身全霊を傾けないといけないといった感じで、経営者は完全にゆとりを失いました。

・さらに本質的なことを言うならば、やはり異次元の金融緩和なるものは、実際には財政ファイナンスであったということだと思います。

<日銀は事実上、政府の子会社に>

<――打出の小槌のような状態ですよね。でも、そうした財政ファイナンスを繰り返せば、当然ながら財政規律が機能しなくなり、円安が加速して国際競争力が下がるだろうというような予測は、安倍さんの中になかったのでしょうか。>

・ですが、日銀が保有する国債の割合は、2022年9月時点で初めて5割を上回りましたから、日本人の保有者の多くが国債を手放しつつあるということですよ。

・円安になればなるほど、輸出主導の日本は経済成長できるはずだ、という時代錯誤な発想が安倍さんの中にずっとあったと思います。

・今や輸出している工業製品も安いから売れるわけではなく、品質勝負になっているのですから、円安になったからといって輸出がぐっと伸びるような商品構造にはなっていません。かたや、現在はサプライチェーンがグローバル化しており、多様な消費財を大量に輸入していますから、日本は完全なる輸入大国です。

・為替相場の変動というのは、基本的に、その時の一国の経済事情を反映している動きなのかどうか、ということを問題にすべきです。

アメリカのみならずヨーロッパ諸国も、インフレ対応で金利を上げ始めたのに、日本は金利ゼロないしマイナスという金融緩和策を続けました。

・2022年も終わろうという時期になって、日銀はようやく、長期金利抑制の上限を0.25%から0.5%へと引き上げましたが、遅きに失したというべきでしょう。

<「分配」を企業に丸投げした岸田政権>

・岸田政権は、成長と分配の好循環というアホノミクスを丸パクリしているので、「アホダノミクス」と呼ばせていただきます。

・岸田さんが打ち出した「新しい資本主義の実行計画」では「これが成長分野だ」とさまざまなテーマを羅列しています。DX推進や、デジタル田園都市構想などが並んでいますが、詰まるところ、地球温暖化や環境保全の分野を成長戦略として捉えたものでした。これは菅政権でも同様でしたが、大いなる矛盾をはらんだものと言わざるを得ません。

浜:「企業の延命か、労働者の保護か」といった二者択一的な考え方に陥ってしまうと、行き詰まります。労使一体となってどうするかを考えることが重要でしょう。

<「ぶん取りのシェア」から「分かち合いのシェア」へ>

浜:そうした分かち合いに徹している経済社会のことを、私はケアリングシェア経済、あるいはケアリングシェア社会と名づけています。

・人間の皮を被った化け物のような存在に経済社会を占領されてはいけないというのが、スミス先生の基本的な理念だったのだろう、と今は考えています。

<「デジタル後進国」脱却を阻む、政治家のアナログ思考 野口悠紀雄>

・「デジタル敗戦」という言葉がメディアに登場するようになったのは、2010年代前半のことである。

・先進国からの脱落危機が叫ばれる日本にとって、このデジタル化の遅れは今や国力低下の主要な要因として認識されつつある。

・2020年、コロナ特別定額給付金10万円を一律に給付するとなった際、全国の自治体が大混乱に陥ったのも、個別のシステムが温存されていた「弊害」でした。

<ITを理解していない日本の政治家>

・野口:重要なことは、デジタル化の中味が中央集権的なものからオープンな仕組みに転換したことで、その変化に日本が対応できなかったということです。

・デジタル化の障害となっていたものが、日本の強固な縦割り社会であるという観点に立てば、デジタル庁ができたからといっていきなりその障害をクリアできるとは思いません。

<新たな利権の温床になりかねない「デジタル庁」>

野口:この問題を理解するには、日本社会の「多重下請け構造」について知る必要があります。

・仮に厚労省に専門知識のある人材がいたとしても、責任の所在が曖昧になりがちな「多重下請け構造」が残っていると、不具合が生じた場合の解決は困難です。

<電子政府の構築に成功したエストニア>

・実はすでにそれを実行しているのがエストニアです。エストニアは人口約133万人という小さな国ですが、世界に冠たる電子政府を持つデジタル先進国として知られています。

・イギリスの作家、ジョージ・オーウェルが1949年に発表した小説『1984』の中に、「真理省記録局」に勤務する主人公が、日々、歴史記録の改ざん作業を行うシーンがあります。残念ながら日本ではそれと似たことが実際に起きてしまった。

<「マイナンバーカード」の失敗と教訓>

野口:マイナンバーカードの普及が進まなかった理由はいくつかありますが、ひと言でいえば、利便性がなかったからです。

野口:国民の生活にむしろ不便を与えることにならないかと危惧しています。

・デジタル化の帰趨は、今後の日本の国力を計るうえで非常に大きな要因になると思います。

<「デジタル後進国」から脱却するために>

・政治家はまず、意識を変えないことには始まりません。「国の舵取りは、デジタル化と関係ない」という誤った考えを根本的に改めない限り、日本は浮上できないでしょう。

・世界の最先端を行くGAFAと、「ハンコをやめよう」{FAXをやめよう}と言っている日本では、大学院と幼稚園ほどの差があります。

・意識と現状を変えようとしない政治家は、退場すべきです。

<食の安全保障を完全無視の日本は「真っ先に飢える」  鈴木宣弘>

・食料自給率38%。日本の食の安全保障の脆弱さは、今までもたびたび指摘されてきた。中でも大豆や小麦などの自給率の低さはよく知られているが、野菜はまだまだ国産が多いようだし、コメに至ってはつい数年前まで減反していたくらいだから、自給率も高いに違いない――そのように思い込んでいないだろうか。

 農産物を育てるには、当然ながら、種や肥料が必要になる。畜産物にはヒナや肥料などが必要だ。そして、日本は野菜の種の9割、養鶏において、飼料のとうもろこしは100%。ヒナはほぼ100%近くを海外からの輸入に依存している。コメも、肥料や農薬を勘案すれば自給率はぐっと低くなる。そう考えると、日本の食料自給率は37%どころではないだろう。

・そんな懸念を確信に変えるような試算が2022年8月に英国の科学誌『ネイチャー・フード』で発表された。米国ラトガース大学などの研究チームが試算したもので、それによると、核戦争が勃発して、世界に「核の冬」が訪れて食料生産が減少し、物流も停止した場合、日本は人口の6割(約7200万人)が餓死、それは実に全世界の餓死者の3割を占めるというのだ。

 なぜ、日本の食料戦略はかくも悲惨な状況に至ってしまったのか。

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