私は、70代以上のおトシヨリには、がんを治療せず放っておく選択肢もあると考えています。ちなみに私は、もし70代でがんになったら手術はしないと思います。(1)
(2025/5/6)
『トシヨリ手引き』
90代になっても輝いている人がやっている
和田秀樹 毎日新聞出版 2023/3/13
<プロローグ 6000人以上のおトシヨリを診て、願うこと>
<「トシヨリらしく」は捨てましょう>
・おトシヨリは、若い人にはない豊かな人生経験をもっています。経験知を現役世代に伝えておくことは、とても大事なことです。
<「わがまま」がおトシヨリを元気にする>
・おトシヨリになって、やっと自分だけが使える時間を手にしたのです。
<おカネは自分のために使う>
・ならば、今ある貯金は、老後を楽しむための活動に充てたほうがいいと思います。
<これからの「老い方」を知っておくと、ラクになる>
【健康寿命】 健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間です。その年齢は男性が72.68歳、女性が75.38歳です。
【平均寿命】 生まれてから死ぬまでの平均年数です。男性は81.41歳、女性が87.45歳です。
・長く健康でいるためには、健康寿命の期間をどれだけ延ばせるかにかかっています。
<10年後に来る「老いの傾向」を知っておく>
・一つ目は、老化によって体力は低下していきますが、同時に心も弱っていくことです。二つ目は、老いていく過程で、健康を維持できるか、衰えてしまうのかが決まってしまう「分かれ道」があることです。三つ目は、老いることに過度な不安をもってしむことです。
<60代 60代を待つ定年というハードル>
・定年は、第二の人生の始まりと言われるように、新たな環境へとあなたの背中を押してくれるものであります。
<介護を1人で抱え込んではいけない>
・私は、介護保険など公的な福祉制度をできるだけ利用して、1人で抱え込まないようにとアドバイスしています。
<70代 70代は、健康寿命を延ばせるラストチャンス>
・70代で認知症になる人は8%、要介護になる人は9~10%います。これは、生活するうえで必要な筋肉や足腰が衰えてきているということです。
<健康なままか、ヨボヨボか? 体のサインを見逃さない>
・70代になると前頭葉が萎縮し、とくに男性は男性ホルモンの減少が大きく影響してくると考えられます。
<「手術するか、しないか?」問われる70代>
・病気は、突然表れる大きな人生の「分かれ道」です。
<80代 80代からは「老いを受け入れる」>
・ただ80代は、体力と気力の衰えが一気に出てくる年代でもあります。
<「できなくなった」と嘆かずにあきらめる>
・目が悪くなったSさんは、目を使う読書はあきらめ、オーディオブックを活用して耳で読書を楽しんでいるそうです。
<できることを大事にする>
・そのかわり、「できること」を補助してくれる道具を積極的に使うことです。
<90代 認知症が当たり前の90代>
・ですが、高齢になれば、ほとんどの人が認知症になります。90代は、認知症になるのが当たり前の年代なのです。80代ではおよそ30%、90歳を超えると60%以上が認知症と診断されます。
<「やってみたかったこと」が意欲を生み出す>
・感情の老化こそ、あらゆる老化現象の元凶ともいえるのです。
<感情の老化は前頭葉の萎縮が原因>
・では、なぜ感情の老化が起きるのでしょうか? その原因のひとつは、前頭葉が萎縮し、老化するためです。
<ルーティンを避けることが前頭葉の老化を防ぐ>
・ですから、前頭葉の老化を遅らせるための手っ取り早い方法は、日常生活におけるルーティンをなるべく避けることです。
<習慣化がめんどくさい気持ちを解消する>
・新しい習慣が体に根づくまでには時間が必要です。ですが、習慣にできれば、もうめんどくさいという気持ちは消えて、ずっと続けていけるでしょう。
<「昔、やってみたかったこと」が意欲を鍛える>
・このように、日常生活のなかでさまざまな目標を設定すると、ルーティンな生活から抜け出せます。
<男性ホルモンを増やしてやる気をアップ!>
・男性ホルモンの低下が原因のうつ症状の場合は、男性ホルモンを投与して、症状を回復させることができます。
<恥ずかしながらエロティックになっていい>
・世間がタブー視していても、自分にブレーキをかけず、「楽しそうだな」とか「面白そうだな」と思えることを、あれこれやってみたらいいのです。
<1日15分の日光浴が元気と快眠をもたらす>
・それは、脳内にある神経伝達物質、セロトニンの分泌量が、日光を浴びることで増えたからです。もうひとつ、日光浴が大事な理由は、睡眠の質を向上させるからです。
<長生きする人は肉を食べている>
・さらには、コレステロール値が低いと、がんになりやすいというデータもあります。ですから、おトシヨリは肉を食べることを控えてはいけません。
<引退するのは老後生活のリスク>
・じつは、働くことが、もっとも手っ取り早く前頭葉を刺激してくれるのです。
<やりがい重視で仕事を選べるのは、おトシヨリの特権>
・退職後の社会参加として、ボランティア活動はひとつの選択肢です。
<すぐやりたくなるトシヨリ手引き>
<コレステロール値も気にしない、好きなものをしっかり食べる>
・いろいろなものを食べる「雑食」がよく、私のおすすめは、ラーメンです。
・このようにコレステロールは、おトシヨリに不可欠なものです。罪悪視しないで、自分が好きなものをしっかり食べることが大切です。
<よく噛むことも、健康長寿につながる>
・よく噛むことは、健康で長生きすることに直結しているのです。
<心地よく眠るためには寝る前に温かいミルク>
・それは、寝る1~2時間前に、温かいミルクを飲むことです。牛乳がセロトニンの材料である「トリプトファン」という必須アミノ酸を含んでいるということです。
・このほかにも豆腐、チーズやヨーグルトなどの乳製品、納豆や湯葉やきな粉などの大豆食品、牛や豚や鶏のレバーなども、トリプトファンを多く含んでいます。
<「フーテンの寅さん」のように旅に出る>
・生活圏からちょっと離れた場所へ行くことも、旅なのです。
<運動のやりすぎは逆効果>
・おトシヨリには、長く続けられるゆるやかな運動が適しています。いちばんいいのは、やはり散歩です。
<おしゃべりが頭の老化を予防する>
・アウトプットするいちばんいい方法は、「人と話す」ことです。
<オムツ、杖、車いす……使えるものは、なんでも使う>
・今は、若い女性も尿ケア用のパッドを使っている時代です。もはやオムツは高齢者を象徴するものではありません。
<イライラしてきたらまず深呼吸、そして好物を食べる>
・深呼吸で取り込まれる酸素量は、通常の7~8倍にもなります。さらに、いい方法をご紹介しましょう。好きなものを食べることです。
<おトシヨリを幸せにする言葉「そのうちなんとかなるだろう」>
・私は「老後こそ、楽天主義が必要」だと考えています。おトシヨリは、年を重ねるほどに、プラス思考を心がけることです。
<トシヨリは、わがままがいい>
<「年甲斐もなく」は人を老化させる>
・そして、年を重ねるにしたがい、社会人としての“常識”が蓄積されていきます。
<おトシヨリの生き方は「テキトー」がいい>
・そこで提案したいのは、「選択肢はひとつだけではなく、いくつもある」と考えることです。
<嫌いな人とは付き合わない>
・はっきり言いますが、嫌いな人間と付き合うのは、時間の浪費です。
<身だしなみを整えると生活にメリハリがつく>
・しかし、容姿の衰えていく高齢期こそ、普段の身だしなみに気を配ることで、生きる意欲が得られるのです。
<男性ホルモンで元気になる>
・80歳で再びエベレストに登頂することができたのは、三浦さんの地道なトレーニングと不屈の精神力があったことは間違いありませんが、男性ホルモンの注射が筋肉の増強に効果があったのも事実です。
<年をとったら食べなさい>
・つまり、日本もアメリカも、痩せている人より、太めの人が長生きできる、という結果が出ているのです。
<車の運転免許を返納してはいけない>
・その調査結果によると、運転を継続している人に比べて、運転をやめてしまった人は、要介護状態になるリスクが2.2倍になるのです。
<相続トラブルが起きないよう財産は残さず使う>
・私は、日本が超長寿社会を迎えたことで、子どもに財産を残すことは、ほぼ無意味なったと思っています。
<老後資金の調達法リバースモーゲージとリースバック>
・リバースモーゲージは、融資枠内で毎月、あるいは一括で借り入れた分の残高を、最後にまとめて返済するものです。
リースバックは、家を売却して現金化したお金で家賃を払っていくというものです。
<納めた税金は老後に取り戻す>
・私は、税金とは「納めた分だけ市民に還元されるもの」という意識が、日本人には希薄な気がします。
<元気なうちに知っておきたい介護保険制度>
・実際に介護が必要になったときは、まずは地域包括支援センターに相談しましょう。
・介護保険証とは、介護保険料を25年間払い続けたという証明書です。国と市区町村から支援を受ける権利を獲得した、ということです。
・もつとも軽い「要支援1」でも、週1回はヘルパーさんが自宅に来てくれますので、洗濯や掃除を頼むことができます。いちばん軽い「要支援1」の支給限度基準額は、月に約5万320円、最も重い「要介護5」で、月に約36万2000円です。自己負担額は1割の人の場合は、「要介護5」だと約3万6000円です。
<介護認定で得られるメリット>
・もし、足腰が弱り、自力で立ち上がったりスムーズに歩行したりするのが難しくなったら、「要介護3」以上の認定を受ければ、金銭的な負担をあまり感じることなく、特別養護老人ホームに入居することができます。
<「いい医師」「いい病院」を見分ける手引き>
<医師と本音で話せていますか?>
・それは日本の医師のほとんどは、自分が学んだことがある臓器の専門家にすぎないということです。
<死ぬまで付き合えるかかりつけ医を見つける方法>
・まずは、薬について医師と話をしてみることです。高齢者診療の基本は、個人に見合った診療をすることです。
<病院との相性は、待合室でわかる>
・病院との相性は、待合室に入った瞬間にもわかるものです。待っている患者さんが明るかったら、医師が患者さんとちゃんと向き合っているということです。
<長生きを邪魔している健康診断>
・もし健康診断が長生きに役立つなら、男女の寿命を逆転していたはずです。ところが、寿命の年齢差が広がってしまった。健康診断がその要因になっているのではないかと思います。
・異変がなく体調になんの問題もないのに、数値だけで「異常」と判断され、薬を飲み続けるというのはおかしいのです。
<血圧、コレステロール値、血糖値は、ちょっと高めがいい>
・健康診断で「異常」「再検査」と指摘される数値は、コレステロール、血圧、血糖値が多いと思います。そのためこれらの薬を飲んでいるおトシヨリも多いことでしょう。薬を服用して血圧や血糖値を下げたりするのは、心筋梗塞や脳梗塞、脳卒中のリスクを減らすためです。
・逆に、血圧を下げすぎている人のほうが、死亡率が高いというデータがあります。じつは、血圧と同じで、コレステロール値が高めの人のほうが長生きするというデータがあります。
・このように、健康診断の数値は健康を守ることから大きくズレているのです。私は、70歳をすぎたら、もう健康診断を受ける必要はないと考えています。
<薬は、がまんしてまで飲まなくていい>
・そもそも、薬で血圧や血糖値を下げるのは、心筋梗塞や脳梗塞、脳卒中のリスクを減らすためです。心筋梗塞などの心血管障害が発病するまでに、10~20年かかるのがふつうです。
・飲んでも飲まなくてもいいような薬を飲み続けるというのは、おかしなことなのです。
<突然死がイヤなら、心臓ドック・脳ドックは受けておく>
・そうは言っても、心筋梗塞や脳卒中はやはり心配だという人もいらっしゃるでしょう。本気で予防したいと考えるなら、心臓ドック、脳ドックはとても有効です。
<コロナ禍でも出かけよう!>
・3年間もがまんを強いられてきたのです。免疫細胞をもう一度元気にするためにも、不要不急の外出は大いに結構。出かけることです。
<がんが見つかっても、手術してはいけない>
・健康診断を受ける理由のひとつは、がんの早期発見が可能だからと言われます。
・私は、70代以上のおトシヨリには、がんを治療せず放っておく選択肢もあると考えています。ちなみに私は、もし70代でがんになったら手術はしないと思います。
<おトシヨリは、誰でもがんをもっている>
・その結果わかったことは、85歳をすぎて、がんのない人は一人もいないということです。
・近藤説に従えば、がんの「早期発見」も、ほとんど意味をなさなくなります。
<病気と闘わない「共病」のすすめ>
・がんが見つかって病院で手術や治療をすれば、おトシヨリの体に大きなダメージが及びます。つまり、病院は「健康を取り戻す」ところではないのです。
・おトシヨリは、手術や治療で寿命を延ばしたいのか、放置して自宅で平穏にすごしたいのかを考えて、選択する必要があります。
・私は、おトシヨリには「闘病」より、病気を受け入れてともに生きる「共病」をおすすめしています。
<大学病院へ行ってはいけない三つの理由>
・大学病院には各臓器の専門医はいますが、高齢者診療の基本をわかっていない人が多いことです。決して、大学のブランド名や規模の大きさで判断してはいけません。
<認知症を先延ばしにする手引き>
・実際、多くのご遺体を解剖してわかったことですが、85歳以上のすべての人の脳に、アルツハイマー型の認知症の変性がありました。症状は表れるけれど、あくまで老化現象のひとつであって、病気ではありません。歳を重ねていけば、誰でも認知症になるのです。
<頭と体を動かして認知症の進行を防ぐ>
・認知症の進行を遅らせる最良の方法は、頭を使い、体も使い続けることです。
<脳の7割が縮んでも発症しないこともある>
・全体が縮んだとしても、使う余地はふんだんに残されているのです。
<おしゃべりが認知症の進行を緩める>
・働くことやボランティアがいいのは、人と話す機会が増えるからです。
<「脳トレ」をやるならカラオケに行こう>
・「脳トレ」をするよりも、カラオケで歌ったり料理をしたりと、日常生活で行うことを楽しく続けるほうが、よほど効果があるということです。;
<認知症の症状には段階がある>
・85歳以上の人の脳には、変性が起こるとお話ししました。年を重ねていけば、いつかは症状が出てくるのです。認知症の多くの場合、「もの忘れ」から始まります
・もし認知症ならば、次に起こるのが「失見当識」です。場所や時間の感覚が鈍くなり、道に迷ったり、いま何時なのかがわからなくなったりします。そして、「失見当識」の次は、「知能低下」が起こります。
・もの忘れの原因が、ほかにも考えられるからです。認知症以外で考えられるのは、脳腫瘍や、甲状腺機能低下などがあります。それ以上に多いのが、うつ病と男性ホルモンの低下です。まれに、正常圧水頭症のときもあります。
<認知症の症状を知る>
・認知症には、いろいろな種類があります。ただ、どれも治療薬はなく、症状が進行性なので対応に大きな差はありません。あまり認知症になった原因にこだわる必要はないと、私は思います。
●アルツハイマー型認知症 65歳以上の人でいちばん多く見られる症状です。脳神経細胞の外側に、アミロイドβという「脳のゴミ」と呼ばれる不要なたんぱく質の沈着が、多く見られるようになります。
●レビー小体型認知症 「レビー小体」とは、神経細胞にできる変性したたんぱく質で、大脳皮質や脳幹にたまり、神経細胞を壊してしまいます。
●血管性認知症 脳卒中によって、脳の神経細胞が壊死することで表れる認知症です。
●前頭葉型認知症 前頭葉と側頭葉の神経細胞に変異したたんぱく質の塊が現れ、脳の前頭葉や側頭葉が萎縮してさまざまな症状が表れます。
<認知症専門医が認知症になって伝えてくれたこと>
・長谷川さんは、日本を代表する認知症の専門家と言っていいでしょう。その長谷川さんは2017年に、認知症であることを講演会で公表しました。
当時、長谷川さんは88歳、おトシヨリなので、もの忘れは当たり前でした。
<認知症予防にはメモが効く>
・私は、認知症の初期症状の人にメモをとることをすすめています。
・そこで桂さんは、三つある部屋それぞれに大きめのカレンダーを置いて、それらすべてに、忘れてはいけない事柄を書き込んでいったのです。
<認知症とは「素」の自分の戻っていくこと>
・認知症は子どもに戻ることではない。素の自分に、飾らない本来の自分に戻っていくということなのです。
<認知症の介護では「否定しない」が大原則>
・知っておいてほしいのは、認知症とは、正常だった知的機能が徐々に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすものなのです。
<仲間はずれにしてはいけない>
・また、なにかを決めるときも、「話しても無駄だから」と、本人を無視してどんどん話を進めてしまうことも、よくありません。
<本人のペースに合わせる>
・また、認知症になると、同時にいくつものことを理解するのが難しくなってきます。
<在宅介護にこだわらない>
・介護の要は、本人の意思を尊重するとともに、行政サービスや介護施設をフル活用して、本人と家族が共倒れにならないことです。
<エピローグ「最期」について思うこと>
・がんが見つかっても放置し、残りの人生をできるだけ充実させるという私の決意は、揺るぎないものになりました。
<恩師から言われた言葉「人間、死んでからだよ」>
・現世での本の売れ行きや知名度にあくせくしなくていい。死後、世間の人たちがどう評価してくれるかのほうが、よほど大切だ。生前の人の評価に一喜一憂する必要はない。
<お金を残さず記憶を残す>
・非婚化がすすみ、今や男性の4人に1人は生涯未婚という状況です。その結果、少子化が加速するいっぽうです。これからは、家も墓も、将来は絶えるものだという認識をもっておいたほうがいいのではないでしょうか。
<おわりに>
・どんなに年をとり、いろいろな経験をしていても、先のことは誰もわからないという実感がどなたにもあるのではないでしょうか。
・そして、この病院で得られた知見の多くは、これまでの医学常識と反したものでした。血糖値が高い人も低い人も生存曲線が変わらないこと、年をとればたばこを吸う人も吸わない人も生存曲線が変わらないこと、85歳をすぎて脳にアルツハイマー型の変性や体中にがんがない人はいないことなどです。その後も、約35年の間に6000人以上の高齢者の診療を行いました。その結果、浴風会で学んだことはほぼ正しいという確信がもてるようになりました。
(2025/4/30)
『老害の壁』
和田秀樹 エクスナレッジ 2022/11/18
長生きよりも「元気」「好きなこと」を優先させる生き方。
<はじめに>
・日本人の平均寿命は、女性87.57歳、男性81.47歳となっています。
一方で、介護なしで生きられる健康寿命のほうは、女性75.38歳、男性が72.68歳。女性は約12年、男性は約9年、誰かに介護してもらいながら晩年を過ごすことになります。
そうならないために、これまで私は、60代、70代、80代の過ごし方について、たくさん本を書いてきました。それらの内容は、身体的なことだけではありません。私の専門は老年精神医学ですから、心の問題も大きく扱っています。
・でも地方に住んでいる人はご存じだと思いますが、日本には車がないと買い物にも病院にも行けない地域がたくさんあります。
・また、コロナ禍の外出自粛を強く要請されたのもリタイアした高齢者です。高齢者は重症化率や死亡率が高いというのが根拠になっていますが、要請を真面目に守った高齢者の中には筋力が低下し、歩けなくなる人が続出しています。
<老害という名の同調圧力>
<高齢者が免許返納しないのは老害なのか?>
・高齢者に免許返納を促す理由の1つが、認知機能の低下。すでに75歳以上のドライバーには、免許更新時に認知機能検査を行うことが義務づけられています。
<高齢者の免許返納は死活問題>
・今の地方は車社会。車がなければ、買い物もできません。日本には、近くに鉄道もバス路線も通っていない地域がたくさんあります。
・車しか移動手段を持たない地方の高齢者が免許返納すれば、外出の機会が減りますから、運動しなくなります。その結果、筋肉量が減るなどして、自立歩行ができなくなる可能性があります。
<コロナ自粛でフレイルに>
・若い人なら自粛して筋力が落ちてもすぐに回復しますが、高齢者はそうはいきません。1カ月も家に引きこもっていたら、歩けなくなってしまうのです。
<高齢者が運転事故を起こす確率は低い>
・「令和3年の交通事故状況」によると、原付以上の免許をもっている人口10万人当たりの年齢別事故件数では、もっとも事故を起こしているのが16~19歳の1043.6件、次いで20~24歳が605.7件となっています。 これに対し、高齢者でもっとも事故を起こしているのは85歳以上で524.4件。次いで、80~84歳が429.8人、75~79歳が390.7人となっています。続く70~74歳は336.0人で、30~34歳の329.1人と同じくらいです。
<75歳を超えると個人タクシーの運転はできなくなる>
・ところが、個人タクシーのドライバーにも定年があって、75歳になったら営業できなくなるのです。
<高齢者マークをつけた車は安全運転>
・私も運転するのでわかりますが、高齢者マークをつけている車は基本的に安全運転しているように思えます。
<誰にでも交通事故を起こす可能性はある>
・確かに、高齢になれば動体視力や判断力が若い頃より低下するので、より慎重に運転する必要があります。でもそれは高齢者もわかっていることです。
<交通事故の原因は薬の副作用>
・長年、高齢者医療に携わってきた医者の立場から言うと、高齢ドライバーが交通事故を起こす事例の1つとして、常用している薬の影響が考えられます。
<老害という名の同調圧力>
・このように、薬の副作用で事故を起こした疑いがあるのに、ほとんど検証されていません。逆に、このような事故も、高齢者の免許返納の口実に使われているのが現状です。
<「老害恐怖症」の怯える高齢者>
・私は高齢者の免許返納の問題について、いろんな本で書いてきましたが、結論は一貫しています。それは、まだ十分運転できるうちは返納すべきではないということです。
・老害という名の同調圧力にしろ、老害恐怖症にしろ、現代を生きる高齢者の前には「老害の壁」が立ちはだかっています。この壁をぶち破るのは、かなり勇気がいることです。
<今さらタバコを吸っても寿命は変わらない>
・そもそも、高齢者がタバコを吸っても、寿命はそれほど変わりません。これも浴風会病院に併設された老人ホームでの追跡調査のデータにありますが、高齢者の場合は、タバコを吸っても吸わなくても生存曲線が変わらないという結果が出ています。
<快を犠牲にしてまで長生きしたいですか?>
・私自身は現在63歳で、高齢者に近い年齢ですから、もういつ死んでも悔いはないと思っています。
<お酒は暗くなってから飲む>
・依存症が心配な人は、お酒は暗くなってからと決めてはいかがでしょうか。
<高齢者がお金を使わないと経済は回らない>
・そうでなくても、何歳まで生きられるかわからないからと、高齢者はお金をあまり使いたがりません。
<「ぜいたくするな」という圧力に負けない>
・「年寄りのくせにぜいたくするな」といった世間の圧力に負けてはいけません。高齢者こそ、もっともっとお金を使って、快を求めて生きるほうが国のためなのです。
<老害の壁は壊すべき>
・現代ほど高齢者が生きにくい時代はないでしょう。
<老害を恐れていたら要介護に>
<シルバー民主主義なんてウソばかり>
・シルバー民主主義とは、有権者の中で高い割合を占める高齢者に向けた施策を優先する政治といった意味。
・例えば、保育園の待機児童が5634人(2021年)なのに対し、特別養護老人ホームの入居待機者数は約29.2万人(2019年)もいます。これを見ても、みなさん政治がシルバー民主主義を反映させていると思いますか。
<日本の道路は歩道橋だらけ>
・高齢者にとって歩道橋の階段を上るのは大変なことです。日本で歩道橋の整備が進んだのは、交通事故の死者数が1万6000人を超えていた1970年前後からです。
<駅にエスカレーターがない>
・今のような高齢化の時代に、JRは公益企業であることを意識していないから、バリアフリーを進める気がないのだなと思われても仕方がありません。
<運転免許も公共交通もなくなったら>
・赤字ローカル線が廃止されたら、これらの沿線に住む高齢者はいったいどうなってしまうのでしょうか。免許返納したら、移動手段は公共交通に頼るしかありません。運転免許もなく、鉄道もバスもないとしたら、まともに生活することができなくなるのです。
<高齢者にやさしい政策がない>
・現在、日本の人口の約3割が高齢者で、有権者ベースでいうと約4割、投票率で考えると高齢者の票だけで過半数を占めることができます。
シルバー民主主義というなら、もっと高齢者に寄り添った政策をどんどん実現すればいいのに、実際は行われていません。高齢者もそれに対して、あまり文句を言いません。いったい何を期待して投票しているのでしょうか。
<日本の街には休憩するイスがない>
・ところが、日本の都市はイスがほとんどないので、歩き疲れた高齢者が、座って休むことができません。
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