ティタン神族と争い、覇権を握ったとされるのが、ゼウスを筆頭とするオリュンポス神族だ。ギリシア神話の中心的存在である。(1)
『世界を読み解くためのギリシア・ローマ神話入門』
庄司大亮 河出書房新社 2016/6/14
<神話は生き続ける>
・「ギリシア・ローマ神話」は、古代ギリシア文明の時代(前8~前4世紀)に記録されたものが中心となっている、神々と太古の英雄についての物語群である。その後も新たな解釈・物語が加えながら語り継がれ、古代ローマを経て、西洋文化の重要な要素へと昇華した。さらに西洋にとどまらず、現代世界において様々な形でギリシア・ローマ神話は生き続けている。
<日常の中の古代神話>
<NIKEとVICTORIA>
・古代ギリシア人は「勝利」を、ニケという翼をもった女神の姿で擬人化していた。それが、スポーツ用品メーカー「ナイキNIKE」の由来。ナイキのマークはニケの翼をイメージしている。また、オリンピックは古代ギリシアで開催されていたオリュンピア競技会に由来するが、その結びつきから、夏季オリンピックのメダルには決まってニケがデザインされている。
・「ニケ」はローマでは「ウィクトリアVictoria」(ローマのラテン語を表記する際、vは「ウ」)。ギリシアと同様に勝利の女神として擬人化された。英語の「ヴィクトリー」の由来であるVictoriaという言葉は、イギリス女王の名として有名な女性名や地名としても受け継がれている。このように、古代神話のイメージは世の中の様々な事物につながっているのだ。
<スターバックスのセイレーン>
・たとえば、日本でも1000店舗ほど展開しているカフェ「スターバックス」のマークは、意識しないうちに覚えてしまっている人も多いと思うが、あれは「セイレーン」という人魚で、ギリシア神話の怪物に由来している。もともとは上半身が女、下半身が鳥の姿をしていると想像され、歌声で船乗りを惑わせてしまうという怪物で、その声に注意しなければならないというところから、「サイレンsiren」の語源でもある。
<世界・神々・人間の成り立ち>
<始まりのカオス>
・ヘシオドス『神統記』によると、始原に存在したのはカオス(混沌)だった。そこにガイア(大地)とタルタロス(冥界の最下層、奈落)が生まれる。また愛の神エロスも誕生したという(のちに美の女神アフロディテの子と考えられるようになった)。そしてカオスから、エレボス(暗黒)とニュクス(夜)が生じ、両者が交わってアイテル(光)とヘメラ(昼)が生まれた。ニュクスは単独でタナトス(死)、ヒュプノス(眠り)なども生んだという。
さらにガイアは単独でウラノス(天空)と山々、そしてポントス(海)を生み出す。このポントスとガイアが交わり、海の神々・精霊と様々な怪物が生じることになる。
・そして大地たるがガイアは天空たるウラノスと交わって、神々の第2世代であるティタン神族を生み出していった。彼らは、オケアノス、コイオス、クレイオス、ヒュペリオン、イアペトス、クロノスという6人の男神と、テイア、レア、テミス、ムネモシュネ、フォイベ、テテュスの6女神だった。オケアノス(大洋)とテテュスの間から、冥界を取り巻く川「ステュクス」、ギリシアを流れる「アケロオス」といった河神が生じたとされるなど世界はさらに形成されていく。
<母なる大地ガイア>
・神々の母ガイアについては、もう少し詳しく見ていこう。ガイアは大地を擬人化した女神で、天空神ウラノスとの間に多くの神々を生んだ。主だった神々であるオリュンポス12神はガイアの孫の世代にあたる。原初の女神のイメージ、そして大地を女神とする発想は世界の神話に見られ、そこには「生命を生み、育む女性」のイメージが重ねられているのだろう。
<ティタン神族>
<巨神族の支配>
・次にガイアに続く神々について見ていく。大地の女神ガイアと、天空神ウラノスとの間に生まれた神々、すなわちクロノスを筆頭とする巨神族ティタンが、当初は世界を治めたという。
・またティタン神族のオケアノスは、大地のまわりを囲んでいると想像された大洋の擬人神で、妹である女神テテュスとの間に川や泉を生み出した。
・ヘシオドスによると、ガイアとウラノスの間には、キュクロプスという一つ目の巨人や、100本の腕と50個の頭をもつヘカトンケイルという粗暴な巨人もそれぞれ3人生まれるが、ウラノスはこれらを嫌い、冥界の最下層タルタロスに閉じ込めてしまったという。ウラノスの横暴に憤ったガイアは、子のティタン神族にウラノスの力を奪うように命じ、その方法を教えた。そしてティタンのクロノスは、父であるウラノスの性器を大きな鎌で切り取って(!)力を奪ってしまい、支配者となったのである。
・そのときに流れた血が大地ガイアに滴り、後述の巨人族ギガスが生じた。またその血からは、罪の追求、復讐の女神であるエリニュスたちも生まれた。父が息子クロノスに傷つけられたような、特に肉親間での争いや不当な行為に対しての罪を追求する女神たちである。
切り取られたウラノスの性器は海に落ちたが、そのときに生じた海の泡からは、なんと美の女神アフロディテが誕生した。アフロディテはのちにオリュンポスの神々に加わる。
<子を食らうクロノス>
・クロノスは姉のレア(レイア)を后として、世界に君臨する。しかしクロノスは、ガイアとウラノスに予言を告げられていた。それは父と同様にクロノスも子に王位を奪われるというものである。予言を恐れたクロノスは、レアとの間に生まれてきた子たちを次々に飲み込んでしまう。
古代ローマ人は古い世代の神クロノスを「サトゥルヌス」という古の農耕神と同一視していた。
<オリュンポス神族誕生>
<ゼウスの登場>
・ティタン神族と争い、覇権を握ったとされるのが、ゼウスを筆頭とするオリュンポス神族だ。ギリシア神話の中心的存在である。彼らの成り立ちを見ていこう。
我が子を次々と夫に飲み込まれて嘆き悲しんだレアは、ゼウスを身ごもるとクレタ島に行き、生まれたゼウスを隠して、布で包んだ石を赤子と偽ってクロノスに渡す。クロノスは疑わずにそれを飲み込んだ。
そしてゼウスは密かにニンフ(自然界の精霊)によって育てられた。このニンフの名はアマルティアといって、飼っていた牝山羊の乳をゼウスに飲ませたという。その山羊の角が折れ、果物や花があふれるようにそこから生じてくる不思議な角として受け継がれた。
・成長したゼウスは、父クロノスに薬を飲ませ、それまでに飲み込まれた兄弟たちを吐き出させた。飲み込まれていた者たちも、そもそも不死の神々だったからか、父の体内で生き続けていたのである。こうして、ヘラ(ゼウスの妃となる)、ヘスティア、ディメルの三姉妹と、ポセイドン(ゼウスの兄、弟とする伝えも一部にある)、先述のアフロディナ、さらにゼウスとヘラや他の女神との間の子(ホメロスによるとアフロディテもゼウスとティタン神族の女神ディオネとの娘)が加わって、オリュンポス山に居場所を定めた神々が、オリュンポスの12神である(ハデスはゼウスの兄弟だが、地下の冥界の神なので12神には入っていない)。
オリュンポスは標高2917メートルのギリシアで最も高い山だ。人々は最高峰に神々が住んでいると想像したのだろう。日本では光学機器メーカーの名「オリンパス」としても知られている。
<神々の世代間闘争>
・ゼウスをリーダーとしたオリュンポスの神々は、彼らの親を含むティタン神族に戦いを挑んだ。この戦いを「ティタノマキア」という(マキアは「戦い」の意)。争いは10年にわたり続くが、ゼウスらは冥界の最下層タルタロスに閉じ込められていた先述のキュクロプスとヘカトンケイルを解放して味方にした。このとき、火を扱い鍛冶に優れるキュクロプスによって、ゼウスは雷光、ポセイドンは三叉の矛、ハデスはかぶると姿を隠せる兜という、それぞれの象徴となる物を与えられたという。この助力もあって、ゼウスたちは最終的に勝利した。そしてティタン神族はタルタロスに幽閉され、ヘカトンケイルが牢番となった(後述の巨人族との戦い後にティタン神族は解放されたとの伝えもあるように、ティタンとその子孫はその後も神話に関わってくる)。ここに、オリュンポス神族が世界を支配する時代が到来する。
その後ゼウスたちは、ガイアから生じた巨人族ギガスとも戦った(ギガントマキア)。ゼウスらは人間の協力がなければこの戦いに勝利できないと預言されていたので、ゼウスと人間との間に生まれた英雄ヘラクレスを味方に引き入れる。ヘラクレスの弓矢による支援もあって、オリュンポス神族はギガスを全て倒すことができた。
・さて大地から生じたティタン神族とギガスを打ち破ったオリュンポス神族に怒った大地ガイアは、タルタロスと交わって怪物テュフォンを生み出す。巨体で、翼を備え、腿から上は人間だが、腿から下は巨大な蛇、肩からは100の蛇の頭が生えているという怪物である。「タイフーン」の語源という説もある。暴れたら手がつけられないこの怪物に、オリュンポスの神々も苦戦するが、ついにテュフォンをシチリア島まで追いつめ、エトナ火山の下に封印したと伝えられる。ここに至りガイアもゼウスらを認め、オリュンポス神族の支配が確立したのだった。
<神々の司る領域>
・アテナAthena(アシーナまたはアシーニ/ミネルウァ(ミネルヴァ、ミナーヴァ)……ゼウスから誕生した、戦いと知恵、技芸の女神。
アフロディアAphrodite(アフロダイティ)/ウェヌス(ヴィーナス=金星)……海で泡から誕生。美と愛欲の女神。
アポロンApollon/アポロ……ゼウスと女神レトとの子。神託や文化的な領域を司る神。アルミテスと双子。太陽の神でもある。
アルテミスArtemis(アーテミス)/ディアナ(ダイアナ)………森と山野を駆ける狩猟の女神。アポロンと双子。月の女神でもある。
アレスAres(アリーズ)/マルス(マーズ=火星)……軍神。ローマで重視された神。ゼウスとヘラの子。アフロディテの愛人。
ゼウスZeus(ジウス)/ユピテル(ジュピター=木星)……天空の神にして、神々の支配者。
ディオニュソスDionysus(ダイアナイサス)、別名バッコス/バックス(バッカス)………ゼウスと、テバイという町の王女セメレとの子。酒、祭り、豊穣の神。
デメテルDemeter(ディミータ)/ケレス(セリーズ)………大地、豊穣の女神。ゼウスの姉。ゼウスとの娘ペルセフォネ(パーデファニ)は冥界にさらわれ、ハデスの妻となった。ラテン語でプロセルピナ(プロセパイン)。
ハデスHades(ヘイディーズ)※古い形ではアイデス、アイドネウス、別名プルートーン/プルートー ……ゼウスの兄で、冥界の神。
ヘスティアHestia(ヘスティア)/ウェスタ(ヴェスタ)………家の中心であるかまどの女神。
ヘファイストスHephaistos(ヒフェスタス)/ウルカヌス(ヴァルカン)……工芸、鍛冶と火の神。ゼウスとヘラの子。ヘラが単独で生んだともいわれる。アフロディテの夫。
ヘラHera(ヘラ、ヒーラ)/ユノ(ジュノ)………ゼウスの正妻で、結婚の女神。
ヘルメスHermes(ハーミーズ)/メルクリウス(マーキュリー=水星)…………ゼウスと女神マイアとの子。商業、旅、盗みの神。伝令神として様々な場に顔を出す。
ポセイドンPoseidon(ポセイドン)/ネプトゥヌス(ネプチューン=海王星)………ゼウスの兄で、海神。
<原初の人間と大洪水>
・今度は、人間の歩みに目を向けてみよう。実はギリシア神話では最初の人間について統一的な誕生譚は語られていない。ギリシア神話とは別物である聖書の物語(旧約聖書の『創世記』)では、神が世界も人間も動物も創造したと語られているのと対照的である。ギリシア人にとっては、人間が存在するのは当たり前だったのだろうか(地域によっては「大地から生まれた」と人間の起源を伝えているところもある)。ほとんどの神々を人間の姿でイメージしていたギリシアは、結局のところ、きわめて人間中心の世界観をもっていたといえるかもしれない。
・「女」は神が創造し、地上に送られたことになっている。こうした考え方は、やはり古来の男性中心の世界観を反映しているのだろう。
・さて人間たちは地上に増えたが、しだいに堕落していった。そこでゼウスは人類を滅ぼそうとして、大洪水を起こす。しかしこのとき、正しい人であったデウカリオンは父プロメテウスから警告を受けていたので、箱船を建造して、妻のピュラと共に大洪水を乗り切ったのだった。神々を敬う二人はゼウスに許され、この二人から再び人間が増えたのである。二人が神託を受けて石を投げたところ、それが変化して人間が誕生したと伝えられる。
・さらにその後、デウカリオンの子ヘレンがギリシア民族(自称はヘレネス)の祖となり、ヘレンの子アイオロスなどがそれぞれギリシア民族のアイオリア人などの種族の祖となった説明されている。
・ところで、聖書にも似たような洪水伝説、すなわち「ノアの洪水」の物語があるが、デウカリオンもノアの洪水も、メソポタミア文明初期のシュメール洪水伝説に影響を受けていると考えられる。
<プロメテウス――火をもたらした神>
<奪われた火>
・プロメテウスは、オリュンポスの神々の前に世界を治めたティタン神族の子孫だが(ティタンのイアペトスの子で、後述のアトラスと兄弟。一説には母は、オケアノスの娘で地名アジアの由来であるアシア)、ゼウスたちが支配するようになった時代には地上に暮らしており、人間の側に立つ存在で、物語によっては人間のようにイメージされている。オケアノスの娘クリュメネとプロメテウスとの息子が(異説あり)デウカリオンで、こちらも人間的存在として先述の大洪水の物語に登場している。
・いずれにせよ、人間に火を与えたくなかったゼウスは怒ってプロメテウスを捕らえ、この世の果て(とギリシア人が漠然とイメージしていた)、コーカサスの山の岩に縛りつけてしまう。そして大鷲に肝臓を食べられるという罰をプロメテウスに下した。しかもその肝臓はゼウスの力によって毎日再生する。つまり、プロメテウスはいつまでも痛みに苦しんだ(彼はのちに英雄ヘラクレスによって解放されたと伝えられ、一説には神々の仲間に復帰したともいわれるが、その後について詳しく語られていない)。
ゼウスの怒りはそれでおさまらず、火を得た人間にも怒りの矛先を向けた。そこで地上に、あらゆる災厄と共にパンドラという女を送ったのである。プロメテウスはゼウスに捕らえられる前から仕返しを予想して弟に忠告していた。神から送られるものは、決して受け取るのではないぞ、と。しかし弟は忠告を忘れて、地上に送り込まれたパンドラの美しさに心奪われ、妻にしてしまった。エピメテウスとパンドラの娘がピュラ。デウカリオンの妻となった女性である。この二人から人間は増えていったのだという。
<喩えとしてのプロメテウス>
・火によって人類は文明の第一歩を踏み出したわけであるから、プロメテウスは神に逆らって人間に文明をもたらしたといえる。またプロメテウスこそが土に水を加えてこね、神々の姿に似せ人間を創りあげたとの伝えもある。
こうしたイメージから、人類に何かをもたらしたり、創造したりする者の喩えとして、プロメテウスの名が用いられる。
<パンドラ――最初の女>
・プロメテウスの火盗みを前日譚とする、パンドラの物語について見ていこう。ゼウスは人間をこらしめるためにパンドラという最初の女を創造して、あらゆる災いを閉じ込めた壺と共に人間界に送った。それまでは、地上にいる人間とは男だけだった。神々が様々な能力を与えて創ったので、「パンドラ」とは「全ての(パン)贈り物(ドロン)」に由来する。
地上に送られたパンドラは、プロメテウスの弟エピメテウスと暮らし始めるが、先だって持ってきた「壺」を決してあけないようにとゼウスに言いつけられていた。しかし全能のゼウスはパンドラが壺をあけてしまうことを見越していた。パンドラは好奇心から壺をあけ、壺の中に入れられていた病苦などのあらゆる災厄が飛び出し、世界に広まってしまったのである。
・この物語は、そもそも人間とは「男」で「女」は後から誕生した、しかも世の不幸は女がもたらした、という考えを表している。聖書でも神はアダムという男を創造し、後から女のイヴを創造したとされており、本来の人間は男だけだと宣言するような話は、ギリシア神話と聖書において一致している。ここには古代の男性中心社会の発想が色濃く影を落としているといえよう(ちなみに、DNAレベルでいうと人間は本来「女」なのであり、「男」は副次的な存在と考えられるのだが)。
<5時代の説話>
・ヘシオドスによれば、人間の歩みは5つの時代に分けられている。
最初がティタン神族のクロノスの時代。この時代の人間は正しく高潔で神のように暮らしたとされ、「黄金の時代」と呼ばれている。この言葉の影響で、現代でも繁栄を「黄金時代」と表現するのである。
次は、オリュンポス神族が世界を治めるようになった「銀の時代」。人間は強欲になり、神々を敬わなかったため、主神ゼウスが彼らを滅ぼしてしまったという。そこでゼウスは青銅の種族を創造し、「青銅の時代」となるのだが、彼らは暴力的で、互いに争い滅んでいったという。整合的に理解しようとするなら、この時代の終わりが、本章で述べた「デウカリオンの洪水」にあたるはずだが、そうした対応についてヘシオドスは明確には語っていない。
後に続くのが「英雄の時代」、この時代にはのちに物語が語り継がれることになる偉大な英雄たちが数多く現れた。しかし人類全体の堕落は止まらず、トロイア戦争などの争いによって衰えてしまった。
最後に到来したのが「鉄の時代」。神話を語る詩人たちは、この時代こそ徳を失った今の人間が生きる時代と捉えていたのである。
現代から見てギリシアの青銅器時代末期と捉えられるのは、神話の英雄が活躍したとギリシア人が想像していた時代。その後、ヘシオドスの時代(前8世紀頃)にはすでに鉄が普及していた。つまり、青銅、英雄、鉄という時代名は、実際の時代の移り変わりにある程度は対応しているといえよう。
<ゼウス/ユピテル――天空の最高神>
<隙のある支配者>
・ゼウスは大地と天空が生んだ神クロノスの子で、ギリシアの最高神である。ローマではユピテル、英語ではジュピターと呼ばれ、太陽系最大の惑星である木星に重ね合された。
・しかし最高神とはいえ、絶対的支配者ではなく、ときには妻のヘラにやり込められたりする。そういった点が、一神教の唯一絶対の神とは異なる、多神教の古代神話の面白いところでもある。
<女好きのゼウス>
・ヘラという正妻がいながら、ゼウスには浮気によって生まれた子が数えきれないほどいる。ヘラクレスやベルセウスなど有名な英雄は、ゼウスが見初めた女たちとの間に生まれた子だ。
・こうしたイメージには実は深い理由がある。ギリシア人たちが先住民とも融合しながら統一的な宗教的世界観を形成していく過程で、各地で崇められていた神・女神や名家の先祖が、最高神ゼウスに結びつけられていったと考えられる。つまり「女好きのゼウス」の背景には、土着信仰の統合、名家の血統の権威づけといった実際的な事情があるのだ。また正妻ヘラは先住民の女神に由来するとの見方もある。つまり侵入民族のギリシア人が、自分たちの主神と、もっと以前からギリシアの地で崇められていた重要な女神とを、宗教統合のため結婚させたのではないかとの推測である。
<ゼウス=木星にまつわる物語>
・木星の衛星には、ゼウスと関係する女神や女性の名前がつけられている。たとえばレダ。それはギリシア中部アイトリアの王の美しい娘の名で、ゼウスが白鳥に姿を変じて油断させてレダに近づき、交わったというエピソードから名づけられた。この白鳥がはくちょう座の最も有名な由来説明である。
<美少年もさらう>
・一方、ガニメデという木星の衛星は少年の名が由来である。美少年ガニュメデスが気に入ったゼウスは、大鷲の姿になって少年をさらい、神々に酒をつぐ給仕とした。ガニュメデスが持つ甕が、みずがめ座Aquariusの由来と伝えられる。
<罰を下すゼウス>
・威厳ある神にそぐわないようなエピソードを紹介してきたが、ゼウスには正義と秩序を司るという、まさに最高神らしい面がもちろんあった。いずれの神々も不敬な人間に罰を下すのだが、特にゼウスにはそうした物語が多く語られている。
<オリンピックの起源>
・ゼウスは最高神として広く崇められていたが、特にペロポネソス半島北西部のオリュンピア(オリンピア)はゼウス信仰の中心地だった。その名は、オリュンポスの最高神であるゼウスの呼称の一つ「オリュンピオス」から転じた地名だ。オリンピックの起源である競技会は、当地においてゼウスに捧げられた祭典である。ギリシア中の国々から集った代表選手が競う聖なる祭典の開催期間は、戦争が禁止されていた。この慣習を意識し、オリンピックは「平和の祭典」とも称されるのである。ゼウスの威光は、こんな形でも生き続けている。
『エイリアンの夜明け』
(コリン・ウィルソン) (角川春樹事務所)1999/3/1
<このとき彼は別の惑星に送られていた>
・ 1953年9月、アンジェルッチは、トランス状態に陥り、それが一週間続いた。このとき彼は別の惑星に送られていた。そこには、不老不死をもたらす神の酒や食べ物で暮らす高貴なエーテル体の人々がいた。そこで、アンジェルッチの本当の名前は、ネプチューンで、男の師の名は、じつはオリオンであり、女の師のほうはリラという名だと聞かされる。
・ 1952年9月23日、またもや同じことが起こったー夢のような感覚、そして巨大な半球体のシャボン玉のようなものの出現。それにはドアがついていた。中に入ると、座り心地の良い椅子に腰掛けた。ぶーんと、うなるような音がして、周囲の壁から音楽が聞こえてきた。気がつくと、彼は宇宙空間から地球を眺めていた。
<アンジェルッチの神秘体験>
<アンジェルッチは、アブダクティ(誘拐現象)で突如として、空飛ぶ円盤ビジョンの福音伝道者になった人物だ>
・ アンジェルッチは、1952年5月23日、夜勤明け車で帰宅途中、意識がぼっとなって、夢を見ているような感覚に陥り、その後、地平線上に赤い楕円形の物体を見た。その物体は、突然、上昇し、二つの緑の光球を放ったが、そこから声が聞こえてきて、アンジェルッチに恐れることはないと告げた。
・ 超自然的な美
しさの一人の男と一人の女の姿を見た。
・ テレパシーの声の説明によると、このUFOは、一隻の母船からやって来きているのだが、実を言うと彼らには、空飛ぶ円盤は必要ない。“エーテル”的存在だからだ。UFOはただ、人間の前に形として現れるために用いているにすぎない。宇宙法によって、着陸し、人間の運命に干渉することはできない。しかし、地球は今、大きな危険にさらされている。
・ アンジェルッチは、伝道者になり、UFOの福音を説いて回ったが、人々は、彼の努力をひどく嘲笑した。あるとき、UFOを見たあとに、再びあのエーテルの体の友人が現れて自分の名前は、ネプチューンだと、告げ、地球の問題と未来の救済についてさらなる洞察を与えた。
『秘密結社の1ドル札』 アメリカ国璽に封印された数秘術
デイヴィッド・オーヴァソン Gakken 2009/9
<$記号に隠された意味とアメリカ建国を導いた秘密結社の謎>
・「ドル」という名称自体はドイツの通貨単位である「ターレル」に由来している。
・以上の概略の中に、アメリカ合衆国の建国において特に重要な役割を果たした3人の名が登場した。トマス・ジェファーソン、ベンジャミン・フランクリン、そしてジョージ・ワシントンである。いずれもここで改めて紹介するまでもない、よく知られた偉人であるが、彼ら3人には、一般にあまり声高に語られることのない、ひとつの共通点があった。と言うのも、彼らはいずれも、いわゆる「秘密結社」フリーメイソンリーの指導的な結社員だったのである。否、彼ら3人だけではない。一説によれば、アメリカ独立宣言書に署名した56人の内、実に53人までがこの結社に属していたという。
・では、フリーメイソンリーとは何か。
本書を手に取られるほどの方なら、これまでにどこかでその名を耳にされたことがあるだろう。フリーメイソンリーとは現在、全世界に数百万の結社員を擁すると言われる「秘密結社」である。
・実際にはフリーメイソンリーはその存在どころか、集会所であるロッジの場所に至るまで、何ひとつ隠し立てはしていない。つまり、彼らはいわゆる「秘密結社」ではない。「自由、平等、博愛」という、誰もがよく知る近代社会のスローガンを掲げる友愛団である。なお、「フリーメイソンリー」または「メイソンリー」がこの結社の名称であり、「フリーメイソン/メイソン」はその結社員を指す言葉であるので、ご注意いただきたい。
・われわれの知るメイソンリーは「近代フリーメイソンリー」と呼ばれるもので、1717年にロンドンで発足し、その後30年ほどの間にヨーロッパへ、アメリカへと急速に拡大していった。その過程で、たとえばドイツでは文豪ゲーテや哲学者フィヒテ、啓蒙君主フリードリヒ2世から音楽家モーツァルトなど、錚々たる人々がこの結社に参入した。
一方フランスでは、啓蒙思想家ディドロやダランベール、ヴォルテールなど、これまた錚々たるメイソンの面々が積極的に政治に参加し、後のフランス革命の原動力となっていく。そしてあのベンジャミン・フランクリンもまた、フランス滞在中にパリのロッジに参加していた。
・13州の各地を飛び回って各州の宥和を説き、統合への下地作りをしたのが、メイソンであるフランクリン。ワシントンがそのフランクリンと友誼を結んだのも、同じメイソン同士だったからである。そしてイギリスと13州の間に決定的な亀裂をもたらしたボストン茶会事件は、メイソンリーの手で惹き起こされたことが明らかとなっている。この事件の結果、険悪化したイギリスとの間に勃発した独立戦争は、天才軍略家ワシントンによって勝利に導かれ、1776年にはメイソンである先の3名らによる独立宣言が発せられるに至った。以上の経緯を見るに、アメリカ合衆国はまさにメイソンリーの戦略によって建国された国であると言えるだろう。
そして彼らはその後、合衆国の国璽に、そして1ドル札に、自らの理念を刻みつけることになる。では、その概念とは一体どのようなものなのか、その謎を探ることこそ、本書の主要な目的である。
<合衆国国璽と1ドル札にある13個の星は、特定の星座を表すと言われてきた>
・1853年、アメリカの歴史家スカイラー・ハミルトンは合衆国国璽の記述に用いられた「星座」というフレーズは特定の星座を表すと唱えた。彼によれば、この星座とは鷲に掴まれた天の竪琴、琴座である。
・ハミルトンによれば、アメリカは琴座の一等星、ヴェガと同一視されるという。これは全天でも最も明るい星の一つである。
図の竪琴の上には星座が描かれている。中でも最も明るいもの(鷲の頭と左翼の間)は八芒星で、これがヴェガであることを示している。ハミルトンは、この一等星――すなわち琴座を「率いる星」――こそ、全世界を率いるアメリカであると見なした。
<眼は万物を見通す全能なる神のシンボルである>
・メイソンリーもまた眼の図像を神のシンボルとして採用した。ゆえに1ドル札の眼は、メイソンリー的象徴であると同時に、また神を表す普遍的な象徴であるとも言える。国璽裏面の図像が、一度見れば二度と忘れられないほど強烈な印象を残すのも、その普遍性のゆえであろう。
・フリーメイソンリーの図像学に多大な影響を与えたと紹介されているヤーコブ・ベーメはドイツの神秘家で、靴職人として生計を立てるかたわら瞑想に打ち込み、数々の神秘体験によって啓明を得た。彼はまったくの無学でありながら、啓示によって数々の著述を成した。彼は言う、神秘体験の「その15分の間に、私は長年大学に通うよりも多くのことを見、かつ知った」。
すなわちある意味で、彼の著作に収録された難解なシンボルの数々は、直接神に由来するものである。メイソンリーがとりわけそれを好み、自らの象徴体系の中に取り込んだとしても不思議はない。
<魔力を秘めた国名とその由来の謎>
・ヴェガは古代世界において殊更に重視された星であるという。それはひとつには、この星が全天で5番目に明るい星であるという理由もあろうが、もうひとつ、今から1万年以上前の天界においては、この星が北極星であったという事実とも関係しているだろう。著者によれば、かつての国務長官ジョン・クインシー・アダムズはこの星をアメリカと同一視しており、自らパスポートの図案に採用したという。これはおそらく、ヴェガがかつて「急降下する鷲」と呼ばれた星であったことと無関係ではない。鷲はアメリカの象徴であると同時に、その鋭い視力から、「眼」を司る鳥でもあった。このことは、先の「すべてを見通す眼」とも繋がってくるかもしれない。ちなみにヴェガは、遠い将来――およそ1万2000年後――に、再び北極星となる。すなわちアダムズの願いどおり、全天を従えて回転する宇宙の中心となるのである。
・そして著者オーヴァソンによれば、このヴェガと同一視されるアメリカは、その国名自体に魔力が封印されているという。詳細は本文に譲るが、<AMERICA>の最初と最後の文字であるAはすべてのアルファベットの中でも最も強力な魔力を持つ文字であるというのだ。Aは、{始まり、数字1、未完成の作業、神の眼、三位一体}等の観念を表すシンボルである。<AMERICA>はその文字で始まり、その文字で終わる。のみならず、この国名自体が、ある意味ではその文字Aそのものであるのだ。そして1ドル札においては、そのAの意味をさらに強化するために、文字Aが図案上の絶妙な位置に配置されているという。
<鷲は霊力を表す古代のシンボルである>
・太古の昔から、鷲は霊力を表すシンボルであった。古代ローマ人にとって鷲は主神ユピテルの鳥だった。
天文学の黎明期から、鷲座は天なる鳥とされ、海豚座の西側で天の川を飛び駆けるとされた。この星座はユピテル自身を表すとされたり、古い星図では「ユピテルの鳥」と呼ばれた。
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