こうした状況から判断して、アメリカ民主党はいま党体制を改善できたとしても、2020年の大統領選挙戦にはとても勝てそうにない。(1)

 『アメリカは中国を破産させる』 ワシントン発 最新軍事情報&世界戦略 日高義樹  悟空出版  2019/11/22 <日本は「憲法改正」だけでは生き残れない!> ●日米安保は消滅する ●朝鮮戦争は終わらない ●日中接近をアメリカは許さない ●「戦うアメリカ」は消える ●北朝鮮と韓国に国家主権はない ●アメリカはファーウェイ戦争で勝利した ●習近平は香港強奪に失敗した ●アメリカはイランと戦いたくない ●在日米軍は急速に縮小する <日本を取り巻く世界が大変動を起こしている> ・日本を取り巻く世界が大変動を起こしている。その劇的な状況のなかで、日本が国家の存在を脅かすような危機に襲われようとしていることに、日本の人々は気がついていない。「経済大国」という、口当たりの良い言葉に慣れ自己満足にひたっているあいだに、取り返しのつかない事態になろうとしていることに気がつかない。 日本が緊迫した状況にあることに盲目的な人ばかりというわけではなく、憲法を変え、日本を自ら守る体制をつくろうという動きが始まっている。だが私のように数十年にわたって世界の軍事情勢を取材してきた者からすると、その動きはいかにも不十分で、また遅きに失した感が否めない。  アメリカは冷戦が終わったあと、「戦う」という本来の国家姿勢をなくしてしまった。 ・そうした世界情勢のなかで、自分の国を守るという使命を放棄したまま、日本が経済的な繁栄を続けてこられたのは奇跡とも言える。 ・「憲法を変えるだけでは乗り越えられない厳しい現実が日本に迫っている。日本の人々が日本の存在を守るためにやるべきことは、まず世界の情勢を正確に把握すること、憲法だけでなく政治体制を変えること、そして国民一人ひとりが意識を変えることである」 <ペンタゴンの悲劇――朝鮮半島戦略がない> ・つまり韓国や北朝鮮を脆弱な三流国家と見なしているために、アメリカの政府首脳は戦略も戦術も持っていないのである。 <南北朝鮮の統一は難しい> ・何よりも懸念されるのは、アメリカ第一主義を標榜するトランプ大統領のもと、アメリカが伝統的なアジア戦略を放棄して、アジアから撤退しそうな姿勢をとりはじめていることである。 <中国を破産させる> <中国はアメリカへの輸出パワーではなくなった> ・しかしながらトランプの登場によって、あっという間に中国からのアメリカへの輸出はカナダ、メキシコに越され、第三位に後退した。今後の動きを予想すると、中国はこれからアメリカに対する輸出国としては「ワン・オブ・ゼム」、つまりその他大勢の国の一つ、ということになる。 ・アメリカのマスコミは民主党の宣伝を真に受けて、中国との関わり合いを過度に重要視しているが、もともとアメリカと中国は、経済的にはさして密接な関係を持っていたわけではない。 <女性政治勢力が戦争に反対する> ・アメリカ政治は猛烈な女性政治家旋風に襲われている。2020年11月に実施される大統領選挙と総選挙の選挙戦がすでに白熱化し、大勢の女性候補者たちが活発な動きを始めている。アメリカの政治はいまや、女性の力によって物事が決められる新しい時代に入った。  これまで政治は常に戦争と結びついてきた。とくにアメリカでは大統領がアメリカ軍の最高司令官である。外交の先には戦争があるという基本的な考えが存在し、話し合いのテーブルの下で相手に銃を突きつける。つまり何事も戦い、という国である。だがそういったアメリカの政治が大きく変わった。 ・この五人の女性政治家のうち、オカシオコルテス、オマール、トゥライブ、ガバードの四人は、ナンシー・ペローシ下院議長のもとで腐敗し停滞してきたアメリカ民主党の体制を改革するために、活発な活動を始めている。 「アメリカ民主党は進歩的である」と言われてきたが、ペローシ体制のもとで腐敗し、混迷し、そして弱体化しつづけてきた。その最大の理由は、ペローシ体制のもとであまりにも長いあいだ同じ政治家たちが実権を握り、労働組合など既成勢力と密接な関係を続けてきたからである。 ・ペローシ下院議長は、アメリカの労働組合、とくに教師の労働組合やトラック業界の組合、そしてレストラン関係の組合の幹部と密接な関係を長く続け、組合費から拠出される政治資金を一手に掌握し、その莫大な資金を選挙に使い議員たちを操ってきた。 ・このアメリカ民主党の若い女性政治家たちは、新たに当選した議員たちを動かし、これまでの腐敗と無気力と無責任の集合体のようなペローシ体制の民主党を揺り動かした。そして11月の総選挙ではペローシ側近と言われる政治家たちを多く落選させた。  オカシオコルテスらをはじめとする若い女性政治家たちは、年をとった古参政治家たちがこれまで考えていながらも口にできなかったことを、明確な政治目標として主張した。 その第一は、アメリカの全国民を健康保険に加入させることであった。 ・トランプ大統領のいわば型破りの政治活動を、こういったアメリカ民主党の新しい女性政治家がどこまで追い詰め、倒すことが可能なのか。アメリカの政治の焦点は、これまでの単なる共和党対民主党という政治対決とはまったく違った様相を見せている。 <アメリカの政治原則が変わった> ・アメリカ政治が女性パワーの時代に入り、女性たちが時代の寵児となりつつある。こうした新しい動きは、これまで簡単に男のものとされてきた政治の原則、ルールがアメリカで変わりつつあることを示している。  女性が感情的である、という言い方は一方的すぎるかもしれない。しかしながら一つの大きな原理原則によって動かされている政治が、女性の政治家が多くなったことによって変わりはじめている。少なくともアメリカでは、若い女性政治家たちのパワーが政治の仕組みを変えつつあるように思われる。 ・このカマラ・ハリスやアレクサンドリア・オカシコルテス、さらには、イルハン・オマールなどにまつわるスキャンダラスな話は、これまでのアメリカの政治の世界では、見過ごしならない類のものである。 <バイデンは大統領になれない> ・この本を書いている2019年10月の段階で、次のアメリカ大統領選挙まで1年もあるというのに、アメリカの政界では異例の大騒ぎが始まっている。トランプ大統領の再選を阻止しようと、民主党寄りのアメリカのマスコミが騒ぎ立てて混乱を起こしているからだ。  アメリカ民主党の指導者たちは、若い女性政治家を中心とする革命的な勢力は、リベラルな民主党員たちの支持を集めることはできるものの、「中立保守」と言われるアメリカ一般大衆の支持を得るのは難しい、と思っている。  しかしそうかと言って、古い政治勢力ではトランプ大統領を打ち負かすことはこれまた難しい。 ・アメリカ民主党は若い政治家の台頭で、古い体質が打ち破られたものの、大統領候補としては、古い体質のままのバイデン前副大統領を押し立てたために、選挙の始まる前から負け戦を強いられている。  ジョー・バイデンがとても勝てないと思われ、私自身もそう考えている最大の理由は、ジョー・バイデンが76歳という、民主党に老害をもたらしている政治家たちの一員であるうえ、汚職にまみれているからだ。  ジョー・バイデンのマイナス要因のなかでも、これからもっとも決定的になると思われるのが、アメリカの人々が認識しはじめた不正な経済大国、中国との関わり合いがあまりにも強いことである。  汚職以外でもジョー・バイデンには、人種差別主義者とまでは言われなかったにしろ、黒人問題に関心を持たなかったことで非難されている。 ・2016年当時、民主党の首脳は、民主党を支持する組織がすべてヒラリー・クリントンを推していたところから、全力を挙げてヒラリー・クリントンを支援し選挙戦をくり広げた。  しかしながら現実には、アメリカの人々はヒラリー・クリントンの古い体質や汚職体質を嫌っていた。  ジョー・バイデンとその一族の腐敗した体質、汚職体質はクリントン一族をはるかに上回っている。アメリカのマスコミはバイデン一族の汚職についてはあまり熱心には伝えていないが、マスコミが伝えなくても、あり余るほどの情報がネットに溢れ出てくる。 ・こうした状況から判断して、アメリカ民主党はいま党体制を改善できたとしても、2020年の大統領選挙戦にはとても勝てそうにない。 <インターネット企業がアメリカを裏切っている> ・トランプ政権だけではなく、アメリカ議会をはじめアメリカ指導者とアメリカのインターネット企業の対立が激しくなっている。いまやアメリカではグーグルやフェイスブックなど、インターネット企業は反米勢力だと見なされている。 ・そうした状況に対してアメリカ議会では、アメリカの巨大電話会社AT&Tの解体を前例にしながら、インターネット企業を何らかの形で分断すべきだという提案がなされ、その方法についての研究が進んでいる。 ・これまでアメリカでハイテク通信企業に対する規制がきわめて緩かったのは、オバマ前政権が企業と癒着し、ハイテク通信企業に有利な体制をつくり、アメリカの政治を動かしてきたからである。 ・しかしながら、『ワシントン・ポスト』だけでなく『ウォールストリート・ジャーナル』『ニューヨーク・タイムズ』なども、反逆罪の疑いでグーグルを捜査することには、批判的な姿勢をすでに明らかにしている。 <アメリカ政治の「振り子」は元に戻るのか> ・アメリカの歴史の特徴は常に変化することである。はっきりしているのは、変化を起こして大きく一つの方向に動いた後、やがてもとに戻ることである。  アメリカの歴史は、独立戦争の時代から常に対立と分裂の歴史だった。イギリスと戦争を戦った「建国の父」と言われる人々のあいだにも厳しい対立があった。だがそういったアメリカの建国から始まり、南北戦争に至る対立と分裂も、常に融合と統一という形でもとに戻った。ところが、いまアメリカで起きている変化が、再び統一へ戻るのか、きわめて心もとない。 ・ウクライナ問題をきっかけにトランプ大統領に対する弾劾騒ぎが起きたのは、構造的に分裂してしまったアメリカ政治の現実である。さらにアメリカが構造的に大きく変わってしまったことを示しているのは、現在のアメリカ議会の行動である。 ・アメリカ外交をざっと見通しただけでも、アメリカの歴代大統領は戦争をやってきている。そうしいたアメリカ大統領による戦争の歴史というのは、アメリカ外交や戦略を取り仕切る国防総省、国務省、CIAなどの戦略を反映している。 ・アメリカの歴代大統領は、官僚たちのつくり出す戦略と分析に従って戦争を続けてきた。しかも多くの人々はそうしたアメリカの戦いがアメリカの利益になると信じて疑わなかった。  確かに基本的な情勢から分析すれば、アメリカが戦い勝ちつづけることが、アメリカの影響力を拡大させ、アメリカの利益を守ってきた。このことは歴史的に見てもはっきりしている。 <日米安保は消滅する> <アメリカは「特別」な国ではなくなった> ・アメリカの歴史を紐解くとまず明らかなのは、「アメリカという国は特別である」という思いがあまりにも強いことである。この「特別」という言葉は、日本人が思い浮かべる「スペシャル」ではなく、「エクセプショナル」、つまり、例外である、という意味である。  アメリカは自らを特別であると思っているがゆえに、この70年あまり日米安保条約の、もとで日本をタダで守るという「特別の行動」をとりつづけてきた。しかしながらこのアメリカの特性が変わり、日本はアメリカの保護を失おうとしている。  アメリカの人々は世界の歴史のなかで、アメリカがきわめてエクセプショナル、普通とは違っていると思っている。世界の国々が共通の認識やしきたり、歴史、血のつながりなどが国家の基本であると考えて大切にしているのに対し、アメリカの人々はそういったものをすべて無視して、国に対する人々の忠誠心によって国が維持されていると思っている。  つまりアメリカという国は、世界の他の国々が基本として考えているようなものではなく、アメリカという国に忠誠心を持つ人々によってアメリカが成り立っていると思っている。しかもそのことがアメリカをエクセプショナル、例外的な存在にしていると認識しているのである。 ・20世紀に入って世界中での戦いに勝ち、ついにはソビエトとの冷戦にも勝ったアメリカが、いまや世界で特別な国であるという扱いを受けられなくなった。その状況が世界の混乱の原因になっている。  アメリカ人が自分の国を特別である、と思うと思わざるとにかかわらず、いまや世界では特別な国とは見なされなくなってしまった。この事実は、アメリカという国のもとで第2次大戦の破壊のなかから立ち直った日本の国のあり方に、決定的な影響を与えることになる。 <在日米軍基地は急速に縮小する> ・日本を中心とする世界的なアメリカ軍基地の存在と機能が急速に縮小している。その縮小の模様はアメリカ議会予算局が示したアメリカ国防費の内訳からも明らかになっているが、アメリカは孤立主義という政策のもとで、急速に世界の軍事基地を縮小しているのである。とくにアジアでの活動の後退に伴って、日本およびその周辺の基地活動が大きく低下している。  アメリカ軍の基地の縮小は、日米安保体制の縮小を意味する。日本を中心に、アジアの軍事情勢を動かしてきた日米安保時代の終焉の始まりと言うことができる。 <中国が日本に急接近している> ・中国がアメリカの企業や研究機関から締め出されてしまい、周章狼狽して日本への接近に全力を挙げている。 ・中国の習近平は「中国製造2025」を標榜し、中国独自の技術力によって2025年には世界に降臨する、と思いあがっている。確かにAIや5Gといった先端技術面では中国の学者たちの研究とパテントが世界のトップにいる。 ・アメリカ側の調査によると、アメリカに博士号を取るためにビザを申請している中国人が数万人にのぼっている。そういった学者たちがアメリカで共同研究を行い、その研究結果を中国に持ち帰って中国の技術として開発を進めるのである。  アメリカの学者たちの話を聞いていると、中国から研究費を携えてやってきた中国人の学者は、研究が終わると論文を持って、あっという間に中国に帰ってしまうケースが多いという。研究を文字通り盗んで姿を消す事例も報告されている。 ・こうしたトランプ政権の厳しい措置によって、アメリカの大学や研究所から締め出されたため、中国が日本の大学や研究所に大接近を始めているのである。 ・アメリカ国務省の高官が私にこう言ったことがある。 「東京都の小池知事が中国と協力して、東京都の先端技術研究所を中国につくる、と発表した。これはトランプ大統領に対する挑戦というだけでなく、日本が中国共産主義に取り込まれていることを示している」  この小池東京都知事の決定は、日本ではあまり大きな反響を集めなかったが、アメリカの政府当局者はハラを立てている。私の友人はこう言った。 「小池知事は共産主義者なのか。あるいは社会主義者なのか。どちらにしろ、いまごろ中国に、東京都の先端技術センターをつくるなど正気の沙汰ではない」 <「経済大国」は自己陶酔にすぎない> ・日本は、あたかも経済の力が主権の力として国を動かし、安全を維持してきていると誤解しつづけてきた、誤解、というよりもむしろ自分たちを騙してきたというのが正しい。 ・私がすでに指摘したことだが、国家間の交渉を進める外交にあたって、もっとも重要なのは、外交的な行動の背後にある軍事力である。外交上の話し合いによる意見の対立を解決するのは、軍事力であり、戦争しかない、というのが歴史の常識であった。 <「アメリカ第一主義」が日米安保を押し潰す> ・トランプ大統領が主張している「アメリカ第一主義」というのは、アメリカのことだけを考えようという、アメリカ国民の新しい動きを反映しているが、このアメリカの人々の考え方は、アジアにおけるアメリカの安全保障体制の基本であった日米安保体制をなくす動きにつながっている。  世界の状況を見ると、トランプ大統領の「アメリカ第一主義」、習近平の「中国製造2025」などといった動きは、きわめて刺激的なナショナリズムの台頭である。この考え方の延長線上として、これから起きてくる世界情勢は、1930年代の世界列強の権力争いであり、同盟体制の強化であると考えている専門家が多い。 ・私は、習近平が永代主席になったことは、むしろ中国共産党体制が、末期的な状況になり、崩壊に向かっているからだと考えている。 <中国がアメリカと対等の超大国になることは、どう見ても不可能である> ・中国が行き詰まっているのは、共産主義体制のもとでの資本主義という、歪んだ経済体制が、十数億という膨大な数の国民を養うためには十分に機能しなくなっているからである。中国はこれから、国民を養っていくことがますます難しくなる。 <国営企業体制という反資本主義的なシステムを続けることが難しくなっている> ・数十年にわたって驚異的な拡大を続けてきた中国経済の基本は、国営企業による大量生産とダンピング輸出である。それがトランプ大統領の強硬な関税政策によって、続けられなくなっている。  この問題について、いまここで再び論じるつもりはないが、アメリカと対等の大国になり、アメリカとの対立をマラソンのように続けると予測された中国の共産党体制は、いまや明らかに限界に来てしまっている。 ・アメリカの指導者たちが、パーティーや研究会の席上で「日本はいつまでアメリカの核の傘に頼るつもりか」と冗談めかして言うようになっている。遠く離れたアジアにいつまでも関わっているわけにはいかないと考えているからである。それと同時に、「優れた経済力のある日本は自分で自分の国を守る手立てを考えるべきだ」という姿勢が強くなっていることを示している。このアメリカの人々の変化に、我々は留意しなければならない。日本の安全の基礎になってきた日米安保体制にすでに亀裂が入りはじめているからである。 ・世界の人々のほとんどが、今後もアメリカの時代が続くものと確信している。しかしながらアメリカ国内をよく見れば、明らかに政治体制が瓦解し、社会の分裂が始まっている。アメリカでは、貧富の差がとめどもなく拡大している。  大統領が聖書に手を置いて、宣誓を行うキリスト教の国アメリカに、イスラム教徒の移民が流入して、ヒジャブを被った女性をスーパーマーケットやデパートでのキャッシャーで見かけることも珍しくなくなった。  南米や中南米、中国、韓国などのアジア諸国からやってきて、英語を話さず、学ぼうともせず、自分たちのコミュニティーをつくる移民も急速に増えている。アメリカにはキリスト教を基本とするこれまでの価値観とは違った価値観を持つ集団がつくられつつある。 ・これから世界で起きてくるのは、1930年代の世界列強の対立というものではない。むしろ、16世紀のリフォーメーションの時代と呼ばれるものの再来ではないかと思われる。  16世紀、ドイツから現れたマルティン・ルター、スイスから現れたジャン・カルヴァンといった宗教改革派が、人々を縛りつけていたローマ法王庁の絶対的な権力に抵抗し、カソリックを改革して新しいキリスト教、プロテスタントを大きく広めた。  このリフォーメーションの動きはやがてフランス革命などにつながっていくが、「世界を人間的なものにしよう」という動きが人々の考え方や暮らしを変えたのであった。いま、16世紀の大変革と同じように、中国共産党をはじめとする非人間的で弾圧的な体制が崩壊して、新しい世界がつくられようとしている。 ・私が、いまや世界は1930年代ではなく16世紀に戻っていると指摘しているのは、日本を取り巻く世界の情勢が、これまでの常識的な政治感覚では動かなくなっているからである。歴史的に見て日米安保体制の時代が終わったことは歴然としている。日本は新しい国際情勢に適応して存続するための体制と思想を持たなくてはならなくなっている。  憲法を変えるという話が現実味を帯びはじめているが、歴史と世界の流れを見れば、憲法を変えただけでは済まないことは歴然としている。憲法を変えたあと、その憲法のもとで国家として必要な変革をどのように行うかが、日本の命運と将来を決めることになる。 『日本の「非核」神話の崩壊』 日高義樹  海竜社   2019/7/12 <「核兵器は使えない」> ・これまで「核兵器は使えない」という思い込みのもとで、いわゆる非核戦略つまり核兵器を保有しない安全保障政策を維持してきた我々はいま一度、国が国民の安全を保つために何をするべきか、考えざるをえなくなっている。 ・中国は習近平のもと、経済だけでなくあらゆる面で世界との戦いに敗れ、滅亡の道を辿り始めている。 ・国際社会の現実を直視するならば、核兵器は「使えない」のではない。敵対する者に「核兵器を使えない」と思わせる強力な抑止力があるから、「使えない」のである。 ・技術の目覚ましい進歩の結果、究極の兵器と言われてきた核兵器を、北朝鮮という遅れた国までが持ってしまった。 <「始めたら負け」が核戦争の大原則> ・これまで核戦争が起きなかったのは、アメリカの学者たちが作り出した「相互確証破壊」という概念なのである。双方が同じ核兵器を使った場合、双方が壊滅する。こう考えれば、核兵器を使うことはない。専門家であろうがなかろうが、この概念は理解できる筈だ。  いまアメリカをはじめ世界の専門家のあいだで、相互確証破壊戦略が不確実になったと考えられていることには別な理由がある。 ・「敵対国からの核兵器による報復」について考えた場合、中国、北朝鮮という国がほかの先進国とまったく違っていることに留意しなければならない。中国は朝鮮戦争で、国府軍から降伏した兵士を最前線に送り込む人海戦術をとった。この無慈悲な戦術の結果、数十万の兵士たちが無残に殺された。  文化大革命では紅衛兵が、子供や年よりまで無差別に殺害した。天安門事件の際にも、政府の手で大勢の若者が殺された。いまでも何百万という異民族に対する残虐な弾圧が続いている。 「中国軍は反政府の指導者だけでなく、何の関わりもない一般人を平然と殺害したり投獄したりしている」  国外に逃れたウイグル族の女性がアメリカの報道人にこう述べているが、中国の指導者たちにとって国民を殺害すること、犠牲にすることは、人道的にも政治的にも配慮するべきものではないのである。   ・核戦争になった場合、中国の国民がどれだけ殺され、犠牲になるかという問題は、政治的にも戦略的にも真剣には考慮されないのである。中国の指導者には相互確証破壊戦略という概念がない。  国民が核兵器による報復攻撃で何人殺害されようと、中国政府の戦略にはまったく影響を与えない。これまで何千万という国民を殺害し続けて来た中国の指導者にとって、「国民の損害」というのは無意味なのである。  専制国家の北朝鮮も同じである。ロシアもスターリン時代に行われた数々の虐殺をみれば、中国や北朝鮮と同様の性格を持った国である。アメリカの専門家が信じている相互確証破壊戦略というのは、中国、北朝鮮に対しては意味の無い戦略であり、理論なのである。 ・相互確証破壊戦略の概念がない中国や北朝鮮と戦争になった場合には「指導者層をすべて抹殺するほかはない」というのが、現在のトランプ大統領の国家安全保障担当補佐官、ジョン・ボルトン博士の考え方である。  ボルトン博士とはテレビ取材を通じて幾度か会話を交わし、一緒に食事をしたこともある。人間味に溢れた真正直な学者で、「共産主義の指導者と話し合いはできない。政権を変え、指導者を抹殺するほかはない」という考え方をしている。 ・このジェームズ・シュレジンジャー博士が提唱した核戦略は、全方位戦略と呼ばれている。ソビエトの重要拠点をすべて攻撃するというものであった。現在のロシアで言えば、軍事拠点だけでなく、重要な都市、プーチン大統領が大切にしている油田や王宮など、あらゆる拠点を攻撃して徹底的に破壊し、プーチン大統領を降伏に追い込むという戦略である。 ・現在の中国、ロシア、北朝鮮に対して、人間味のある戦略に効果がある筈はない。中国、ロシア、北朝鮮に対する核戦略は、習近平、プーチン、キム・ジョンウンとその政権をすべて抹殺するか、排除する戦略しか効果はないと思われる。これまでアメリカの基本戦略であった相互破壊確証戦略は通用しないと思われる。 <世界の核バランスを変える北朝鮮> ・北朝鮮が新しい核技術を手にして、飛躍的に核戦力を向上させた。政治的な脅しだけにとどまらず、実際に軍事行動を起こす能力を身につけ、水爆を搭載した核ミサイルをアメリカに撃ち込む能力を持ったのである。恐るべき事態であるが、それ以上に世界にとっての脅威は、深刻な政治的影響である。 ・「アメリカは北朝鮮と核問題について話し合わなければならないが、その話し合いを北朝鮮に対する譲歩と考えるべきではない。アメリカにとって同盟国の安全を維持することが重要で、北朝鮮の政権を変える必要はないと考えていることを北朝鮮側に伝えなければならない。アメリカをはじめ西側は早急に、北朝鮮に核兵器をあきらめさせなければならない」 ・「現在の状況は1953年、冷戦が激しくなった時以来の深刻な状況である。しかもこうした状況に対してアメリカおよび同盟国の首脳たちは対応策を誤り、事態を悪化させてしまった。新しい核技術が拡散している状況のもと、我々は核戦争を防ぐための努力を始めなければならない」 <失敗したアメリカの朝鮮半島戦略> ・北朝鮮は依然として水爆の製造を続けている。大陸間弾道ミサイルの開発もやめていない。つまり北朝鮮の核の脅威という問題は未解決のまま残されている。この状況から見る限り、北朝鮮から核を取り上げるというトランプ大統領の目論見は失敗してしまった。 <核保有国家として認められたい北朝鮮> ・北朝鮮は世界の核保有国の常識である核融合爆弾、水爆の実験に成功したのであった。しかもアメリカ国防情報局の情報によると、北朝鮮の純度の高いプルトニウムの作成や濃縮ウランの量産体制からみて、すでに50発以上の核爆弾の製造に成功している。  こうした国防情報局の情報とは別に、CIAや国家安全保障省の専門家は、プルトニウムやウランなど核爆弾の原材料の生産量や北朝鮮重工業部門の能力からみて、北朝鮮は100発ちかい核爆弾を製造したと考えている。  現在核爆弾を保有する国は、すべての敵を相手に核戦争を考える戦略をとっている。ある意味で言うと、かつてフランスのドゴール大統領が発表した全方位戦略を基本にしている。 ・中国は核装備についてなんの発表も行っていないが、製造しているミサイルの数と原子力発電所の数からみて、やはり5000発以上の核弾頭を保有していると推測される。フランスは400発ないし600発、インドとパキスタンも、ほぼ同じ量の核弾頭を保有しているとみられる。  イスラエルについては、アメリカCIAなどは100発前後としているが、文字通り、周りがすべて敵であるイスラエルは、同じように数百発の核弾頭を保有しているとみるべきであろう。 ・アメリカ国務省の核問題の専門家が私にこう言ったことがある。「北朝鮮は遅れた貧しい国だ。我々と対等の国とみるべきではなく、また扱うべきでもない」 <北朝鮮の危険な政治軍事体制> ・北朝鮮の軍事体制の遅れや、時代遅れの個人崇拝の独裁体制を変えることはきわめて難しい。 <現地にみる朝鮮半島の軍事情勢> ・我々がもっとも注目すべきは、核兵器という破壊力の大きい兵器を、専制君主による独裁体制が持つ開発途上国の北朝鮮が持ってしまったことの危険である。北朝鮮の核装備は軍事的な対立国である韓国とアメリカだけの問題ではなく、日本やヨーロッパも同じように考慮しなければならない重要な問題なのである。 <戦争に勝てない軍事大国中国> ・中国の力を過信し、やがてアメリカに代わってスーパーパワーになると信じている学者がアメリカには大勢いる。だがそうした人々は、中国の経済的繁栄と軍事力を数字の上だけで判断しているに過ぎない。中国の政治や経済、社会がきわめて歪んで異常なものであることから目をそらしているのである。 <人工頭脳AIを狂信する北京> ・中国の習近平は「2030年までに中国は人工頭脳AIの覇者になる」と豪語している。突出したAI技術を駆使して、アメリカを圧倒する軍事戦略をたてる野望を抱いているが、すでに述べたようにAI技術の軍事的な活用という面では、アメリカがはるかに先を行っている。 <電子マネーと借金漬けの中国経済> ・中国にはおよそ5万社の国営企業があるといわれているが、香港の金融機関の報告によれば、そうした国営企業の負債は、すでにGDPの159倍に達しているという。 ・中国が共産党一党の独裁という政治体制をとり続ける限り、中国の経済体制は資本主義を基盤とする正常な経済体制にはなり得ない。さらに危険なのは、中国の経済が安い賃金によるダンピング貿易によって成り立っている。国際的にみるといわば不正行為を基盤にしていることである。不法な経済活動によって拡大してきた経済に支えられた中国は、いくら軍事力を持とうが、私に言わせれば、スーパーパワーになる資格がない。 ・フーバー研究所は膨大な予算をかけ、大勢の研究者を動員して、中国が将来どうなるかを研究してきた。フーバー研究所は「中国はもはやスーパーパワーになれないだろう」と結論づけているが、習近平のアメリカへの挑戦は完全に失敗に終わったのである。  このフーバー研究所の報告は、つい先ごろまでアメリカでもてはやされていたハドソン研究所の学者による、「中国とアメリカの戦いは長いマラソンのようなものだ」という考え方を否定している。私はハドソン研究所の研究員だが、中国についてはフーバー研究所の結論をとる。 <崩壊し分裂するアメリカ政治> ・ロシア疑惑に関わるすべての問題を閉じてしまわずに、さらにトランプ大統領批判を続けると、いま渦巻きになっているワシントンの流れが津波になり、反民主党の動きになる危険が十分にある。  いまここでアメリカの国民が正しい判断をすれば、2020年の大統領選挙でトランプ大統領に大勝利を与え、トランプ大統領が強い政治力を行使して、アメリカの政治を正常に戻すことになる。   

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