人間はそれぞれふたりの天使にまもられていると言います。ひとりは良い行い、もうひとりは悪い行いを促し、すべての言動はこれらの天使の命令によります。(1)
(2023/3/15)
『小さい手のひら事典 天使』
ニコル・マッソン グラフィック社 2018/1/10
<ガブリエル、ラファエル、ミカエル>
・古代メソポタミアの翼のある神格化された存在に源を発する天使は、その後、ギリシア・ローマの万神殿の神々の影響を受けました。よく知られているのはガブリエル、ラファエル、ミカエルの三大天使で、一神教では共通しています。また、守護天使たちは、人々と日常生活をともにする、眠りの番人でもあります。主の御使い、青い翼のケルビム、神への愛と情熱に燃えるセラフィム等々、天使たちは選ばれた存在で、国や民の庇護者としてそれぞれ特別な任務を担っています。庇護しているのは、旅行者、薬剤師、パン屋、パティシエだけではありません。ラジオやテレビで働く人々も天使にまもられています。超自然的なパワーに魅了された人々は、天使に恐れや希望を託し、おびただしい数の天使の一団は、天の軍勢として悪の勢力(サタンや堕天使、反逆天使)とおおいなる戦いに挑んできたのです。
<熟慮について>
・まず天の国に住むものが、機能と栄光の至福の霊であり、ペルソナ的には区別され、品位においては階級のある霊、個々の使命には忠実、本性においては完全、全く天上的で苦しむことも死ぬこともない霊、人間のように体とともに造られたのではなく、最初から今の状態で決められた純霊であることをわたしたちは知っています。
・全き平和のうちに一つになって神から計画されたとおりの状態にとどまる、これが天使たちの真の姿です。要するにかれらは神への奉仕と賛美のためにその全存在をささげているのです。
<天使の起源>
・比較宗教学によれば、いずれの宗教にも、死すべき運命にある人間と全能の神の中間に位置する霊的存在がいるとのこと。旧約聖書を聖典とする宗教も同様で、天使は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教にも存在します。
<バビロニアの精霊>
・メソポタミアの首都バビロニアは、チグリス川とユーフラテス川の間、ほぼ現在のイラクの位置にありました。預言者ソロアスターを開祖とするゾロアスター教が栄えたのもこの地で、ゾロアスター教は、翼のある小さな精霊たちを信仰し、その彫刻がイラクで発見されています。
バビロニアの精霊は、半人半獣の怪物で、翼があり、獅子、牛、雄牛、鷲を彷彿させる姿。旧約聖書に描かれた天使たちは、この精霊によく似ています。
・ゾロアスター教は、善悪二元論を特徴とし、ゾロアスター教の対立霊と聖書の堕天使は無関係ではありません。ゾロアスター教とキリスト教は相互に影響を及ぼし合っています。
<天使の見分け方>
・天使は天上界を構成する霊的存在で、よく知られているのはセラフィムとケルビム、そして大天使です。旧約聖書には、天使の定義やそのアトリビュート(持ちもの)、名前、位階に関する記述はいっさいありません。天使が文献に登場するのは、もう少しあとのこと。キリスト教においては、多少なりとも異論のある外典などの書物です。
聖書の天使は目に見えません。しかし、神の命令で突然、人間の前に姿を現します。顔も体も光輝き、純白の衣をまとった「光の天使」は、まばゆい光の中にしばしば現れ、見る人の目をくらませます。火に取り巻かれていることも多く、炎の上を歩くことも可能。
・天上で暮らす中間的存在である天使は、空気のように軽く、翼で天と地の間を自由に行き来し、神のメッセージを地上に伝える任務を担っています。翼があるおかげで、天使は即座に天まで舞いあがり、そこから人間を見まもっています。天使は食事を取らず、子孫を残さない、不死の存在です。
<天使の翼>
・聖書の中で、天使は白く輝く光背とともによく現れます。また、翼の色は、ケルビムは天空の紺碧を反映した深い青、燃えるようなセラフィムは、アトリビュートである火と同じ赤で描かれます。通常、画家はこの3色で天使の翼を彩りますが、例外もあります。
<天使の位階>
・天使の位階は、以下の9つ(各3層からなる3つの序列、それぞれ上位から下位の順)に分かれています。
【神のそばに仕える、上級天使】
・熾天使(セラフィム、聖なる熾火)、智天使(ケルビム、知識全体の象徴)、座天使(栄光に包まれた神の王座)。
【統治する、中級天使】
・主天使(優位にあり、神の命令を伝える)、力天使(力の象徴)、能天使(障害を除き、悪魔を遠ざける)。
【限定された任務を負う、下級天使】
・権天使(地方を統治する)、大天使(都市や共同体を統治し、人間に重要事項を伝える)、天使(天使一般で、人間を導く)
聖書では天使に序列はなく、おびただしい数の集団として語られます。天使の位階はキリスト教の他の聖典で紹介されていますが、序列は行使する力に基づくのではなく、神との関係によって決まります。旧約聖書中のセラフィムとケルビムが位階に追加されたのは、4世紀になってからのことです。
<第七天の番人>
・旧約聖書と新約聖書の間に書かれた非公式の文献は、天使たちを大系づけ、任務と活躍の場を明確に割り当てています。
・全体的に見て、数字や詳細に関する違いはあっても、天上の位階は、7つの同心円で構成される天界での天使の位置を反映しているようです。天上の王国は全部で72、俗界の喜びを離れて人間が赴く第七天には神殿が7つあり、天使が入り口をまもっています。
一見、ささいでたいしたことではないように思われるかもしれませんが、このような詳細が実は神秘的な解釈の根拠にもなっています。魂が天国に迎え入れられるには、天使に案内され、第一天から順に昇っていかなければなりません。各界層の入り口にある7つの門をくぐる時は、庇護の印章を示し、複雑な誦句を唱えます。このようにして天の車、または神の王座まで昇ってゆく神秘的な過程で、魂を導く重要な役割を果たすのが、大天使のミカエル、ラファエル、ガブリエル、ウリエルです。
<小天使、妖精、ケルビム、クピド>
・天使と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、ぽっちゃりした体に笑みを浮かべ、丸々とした頬と愛くるしい巻き毛の小さな子どもの姿。背中には1対の翼が生えていて、矢筒と矢を手に持ち、目隠しをされていることも。これは、宗教上のもとのイマージとはかけ離れていますが、様々な文化的伝統を背景とした、複数の翼のある存在が融合された結果です。
・ギリシア・ローマ神話には翼のある神様がたくさん登場し、万神殿に祀られています。エロースまたはクピド(キューピッド、愛の神)、かかとに翼をつけたメルクリウス、そして勝利の女神にも翼があります。すばやく移動し、天まで昇る能力を象徴する翼だけに、俗界と聖界、神話と宗教のイメージが入り混じってしまいました。
妖精、クビド、プットー(ぽっちゃりとした小天使でイタリアの建築物の装飾に見られる)は、神が遣わした使者ではなく、恋人同士の愛の会話を取り持ち、愛や欲望のために被った痛手を癒してくれる存在でしたが、もはや聖性は感じられません。
<天使に対する不信>
・ただ1つの神的存在を認める一神教のキリスト教、イスラム教、ユダヤ教は、多神教につながる恐れがあるとして、天使に対する信仰を常に警戒してきました。
特に教父たちは、神のひとり子として地上に送られたメシア、救世主が果たす役割を重視しました。神の使者である天使は、イエスに仕える下位の存在にすぎず、一般的な信仰の対象として重要な地位は不要だと考えたのです。
・キリストの受肉の秘儀が論点となり、キリストは神によって地上に遣わされた大天使でも預言者でもなく、まさに人となった神とされました。
<天使の性別>
・今日、フランス語で「天使の性別について議論する」と言えば、「時間の無駄」「無益な議論」を意味します。実際、このテーマは、ビザンティオンの(現在のイスタンブール)の神学者や教父によって盛んに取りあげられ、論争にはきりがありません。
果たして、天使には性別があるのでしょうか? それとも、天使は純粋に霊的な存在で、性別はないのでしょうか?
この問題を解決するために、聖書をひもといてみましょう。
『創世記』の一節には、一部の天使が神を裏切っただけではなく、女性の愛人だったこと、こうしたいきすぎた好色ゆえに天から堕ちたことが書かれています。これらを考えると、やはり天使には性別があるのだと結論せざるをえません。いずれにしても、堕天使が奔放な欲望の赴くままに行動したことは事実。
・女性の体に忍び込む淫乱なインクブス(男性の悪魔)と、男性を惑わし、挑発するスクブス(女性の悪魔)は、誘惑者である悪魔となった反逆天使の典型です。
<天使の性と完全な存在>
・ユダヤ教神秘主義カバラの世界では、天使は完璧な対をなし、相互に求めあうことで力を得ています。契約の櫃(ひつ)にのった2体のケルビムも互いに向き合い、愛で結ばれているようです。
しかし、『マタイによる福音書』には天使は妻をめとることも、夫に嫁ぐこともなく、復活の時には、人間も天使のようになるのだとはっきり書かれています。したがって、性別があっても、それをどう使うかはまた別の問題ということでしょうか。結局のところ、天使は本来、禁欲的で、神に生涯を捧げる人間もそれにならい、禁欲を実践することになっています。
・天使は、無性の完全な存在の象徴だと言えるでしょう。
<主の御使い>
・主の御使いは聖書に何度か登場するものの、詳細は書かれていません。地上に遣わされた他の天使から報告を受け、大天使ミカエルと見なされることもあります。
主の御使いは、神の最も近くで仕え、人間に天命を伝えます。重要なメッセージを伝達することも多く、サムソンの誕生を人々に伝えたのも主の御使いです。
・また、主の御使いは預言者をまもり、子のないザカリアに息子の誕生を預言し、人間が罰を受けずにすむよう仲立ちをしました。
信仰の証として、ヤハウェがひとり息子であるイサクを犠牲にするようアブラハムに命じた時は、犠牲を捧げる意志だけで十分だと、間一髪のところでアブラハムをとめました。
主の御使いは神よりも人間に近く、聖書の中のいずれのエピソードでも、神から遣わされた使者、案内人、兵士として人間の前に現れます。主の御使いは常にサタンと戦い、イスラエルの息子たちを救うのです。福音書では「主の天使」と呼ばれることもあります。
<ケルビム>
・ケルビムの語源はヘブライ語のkeroub。この語自体は、バビロニア語のku(a)ribuに由来し、翼を持つ下位の神を指しました。
東方正教会のケルビムは、神殿や都市、寺院の入り口に立っている半人半獣(獅子または雄牛)の怪物で、顔をその場所を訪れる人の方に向けています。
・注釈者によると、ケルビムはセラフィムとともに天上の位階の中でも上位に位置し、十全なる知識の象徴。愛がなければ信仰は完全でないと唱えた聖パウロに従えば、完全な知識を求めるケルビムと古代の小さな妖精が関連しているのも、もっともなことだと言えるでしょう。
<ケルビムの姿>
・ケルビムの姿は、時代と文献に応じて大きな変化を遂げました。聖書に登場するケルビムは、通常、天空と同じ青色の翼と顔を複数持つ半人半獣の怪物で、伝説の動物グリフォンを思い起こさせます。
・ルネサンス期になると、ケルビムは、ぽっちゃりした子どもの顔に、2つの翼を持った生きものに。教会の穹窿(きゅうりゅう)の要には、装飾としてよくケルビムが使われています。
・イスラム教では、アッラーの神を永遠に讃えています。
<神の使者>
・天使たちは、神の栄光を讃えるために創造されましたが、人間に寄り添う使命も担っています。天使は私たちの親切な友人で、旧約聖書では悲嘆にくれた人を力づけ、慰めました。
・また、天使は人間の日常生活につき添い、諭し、おおいなる謎を説明するとともに、庇護し、仲立ちをします。
ユダヤ教の一派であるエッセネ派は、とりわけ天使を重視し、人間は天使によって常に見まもられていると考えました。
さらに、イエス自身もその教えの中で天使について触れ、正確な名こそ明らかにしていませんが、子どもをまもるのは、天界で光輝く神の御顔を常に仰いでおり、守護天使と見なされるとおっしゃっています。
<天使の任務>
・『ヨハネの黙示禄』には、「香炉持ち」と呼ばれる天使が登場し、香は神への大切な捧げもので、天に向かって立ち昇る煙は祈りの象徴とされています。天使は香炉を持つことで、あらゆる人間の願いや祈りを天に届けるのです。また、天使のひとりは、聖なる祈禱を未来永劫、神に捧げています。
天と地の間を自由に行き来し、人間の行いを神に報告するのも天使の役目。文献によっては、大天使ミカエルに報告するのだと言います。いずれにしても、神は天使からの報告に耳を傾け、人間の行いに報いるのです。
また、人間が死の決定的瞬間を迎えると、天使たちは魂を天に連れていきます。そのため、天使は「霊魂を冥界に導く案内人」とも呼ばれ、葬送の場面では、天使の一団または守護天使が、死者の魂を引き取って天に至る道へと導き、昇天の間もそばにつき添っている姿がよく描かれます。
<反逆天使の堕落>
・『創世記』第6章の冒頭、神が洪水によって地上の生きとし生けるものすべてを滅ぼす決心をされて、ノアの箱舟が作られる以前のこと、「ベネイ・エロヒム(神の子)」という被造物がありました。
ベネイ・エロヒムは人間で、アダムとエバの第3子、セトの子孫ではないかと言う注釈者もいれば、神または半神で、まさしく天使だと考える注釈者もいます。
・ベネイ・エロヒムが「人の娘たちが美しいのを見て、おのおの選らんだものを妻にした」と書かれた謎めいた一節があり、神によって禁じられた姦淫は天使の堕落の源で、ここから「天使の罪」または「天使の狂気」という表現が生まれました。これらの淫乱に憑りつかれた堕天使は、サタンとなって悪魔の軍団を構成しては夜な夜なエロティックな夢に現れ、インクブスは女性を誘惑し、スクブスは男性を魅了するのでした。
天使と人間の結合は、ギリシア・ラテン神話だけではなく、他の宗教でも認められますが、聖書で堕天使が犯した罪は完全にネガティブなもの。根源的に悪は確立された聖なる秩序との断絶であり、天上の被造物と人間とを明確に分けています。
善と悪の戦いは、聖書全体を通じて、繰り返し語られるテーマです。
<天の軍勢>
・神は至高の存在で、王座に腰かけ、天使たちを従えています。旧約聖書の神がヤハウェと呼ばれる一種の「軍神」であることから、天上の描写には戦争のメタファーがあふれ、天使たちはしばしば騎士として、火を掲げています。天使は不死で、『詩篇』ではそのおおいなる力について、たったひとりの天使で敵の軍隊を全滅させることができると記されています。どうやら、天使はいつでも「天使のように愛らしい」というわけではないようです。
天使は神の戦闘員。よって日頃は善と平和のために奉仕をしていても、時には破壊、破滅させる使命を帯びることがあるのでしょう。
・世界滅亡に際して、天の軍勢を率いる大天使ミカエルは悪魔が姿を変えた竜と戦い、力によって取り押さえ、千年の間縛っておいたのち、底なしの淵に投げ入れたと言います。
<天使の歌>
・天使の第1の使命は神の功績を永遠に讃えること。『ヨハネの黙示禄』でも『イザヤ書』でも、セラフィムが「聖なる、聖なる、聖なる万軍の主。主の栄光は、地をすべて覆う」などと、「聖なる」を3度繰り返して神の御業をうたいます。この歌は「トリスアギオン(三聖唱)」と呼ばれています。
カッパドキアのバシレイオスとエルサレムのキュリロスはいずれも4世紀の人物ですが、同じフレーズを繰り返し唱えるよう信者にすすめました。そうすることで、天の軍勢と結びつくことができると説いたのです。
・「エノク書」で主を讃えるのはケルビムのコーラス。2世紀に書かれたこのエチオピアの書物では、天使は特別な位置を占めています。この本は注釈者からよく引用されますが、信憑性が認められないため、聖書正典には含まれていません。書物の中で、メトシェラの父であり聖書の族長であるエノクは、天上の神殿の中で一番聖なる場所まで導かれ、神の栄光を讃えるケルビムの歌を聴きながら神の王座に近づいていきます。
<守護天使>
・外典によれば、人間は両肩に天使をのせていて、ひとりが告発し、もうひとりが弁護すると言います。こうして神は一種の「口頭弁論」に耳を傾け、罪人の運命を決するのです。
ユダヤ教でもイスラム教でも、人間には試練にかける悪と、無垢を貫く善からなるふたりの天使がついていると考えられています。神学者オリゲネスは、人間の魂の中では善と悪の両天使が戦っていると唱えました。
守護天使は、信者が徳行を積んで救済を得られるよう助けます。人間が寝ている間も見まもり、代わって神のもとに行き、朝になると起こし、怠け心を起こさないよう支えるのです。
・中世になって個人主義が広がると、重要な使命が天使に加わります。天使は人を見まもり、悪魔を遠ざけ、神の前で証言し、魂を冥界に導くもうひとりの自分になりました。使徒トマスによれば、守護天使は洗礼を通じてその人をまもる力を獲得し、新しく誕生したキリスト教徒に生涯つき添うのだとか。
守護天使の祝日は、当初、聖ミカエルとともに祝われていましたが、1608年以降、10月2日になりました。
<天使のパン>
・天使はものを食べませんが、神が贈りたもうた中で最も美味で、元気を与える食べものが天使のパンです。エジプトを脱出して荒れ野に逃れた時、神に選ばれし民のために必要に応じて「天からパンを降らせる」とモーセに約束します。その約束は、40年間まもられました。
<トマス・アクィナス「天使の博士」>
・大著『神学大全』を執筆し、カトリックの大学や学校の守護聖人にもなっています。
この他、「天使の博士」という呼び方もあります。自著の中で、「聖霊」すなわち天使を重視したからです。天使と神または人間との関係、天使の本性、堕天使に関する考察は膨大で、トマス・アクィナスの神学的展望の中で、天使がいかに特別な位置を占めていたかがよくわかります。
<イエスの僕(しもべ)>
・マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネによる4つの福音書で、天使は僕として、イエスに遣える使命を与えられています。キリストの神性を示すかのように、受胎告知、降誕、荒れ野での隠遁生活、受難のはじまり、復活など、キリストの生涯における重要な瞬間はいつも天使が立ち合い、天に昇る時も活躍し、使徒や最初のキリスト教徒たちの庇護もします。また、主の御使いは、囚われの身となった使徒やペトロを何度も救いました。
<セラフィム>
・ケルビムと同じく、セラフィムは翼を持った東方の精霊の子孫で、グリフォンやスフィンクスに似ています。
セラフィムの名は「熱い」または「燃える」を意味し、「熾天使」と呼ばれることも。
・図像でよく見られるのは立ち姿で、空を飛ぶ、裸の体を隠す、神の御顔を直接目にしないという3点のために、3対の翼を備えています。蛇や竜の姿をしていたり、両手に蛇を1匹ずつ持っていたりすることもあります。
ケルビムが天上の車を支えているのに対して、セラフィムは上の方に控え、翼を広げて神をまもります。主な使命は、神の功績を永遠にうたい続けること。
<中世の天使>
・当初、キリスト教の絵に描かれる天使はもっぱら白い衣を着た若者でした。その後、翼のある異教の精霊と区別するため、画家は宮廷人が着るような豪奢な服をまとわせるようになります。
<七大天使>
・大天使たちは天上の位階の中でも別格で、正確な名前がわかっているのはこの天使たちだけ。
とはいえ、七大天使は位階の最上位を占めているわけではなく、最下位から2番目にすぎません。大天使は人間との関わりが深いため、ひとりずつ名前で呼ばれているのです。
・ミカエル、ラファエル、ガブリエルの三大天使については、異論の余地がありません。4番目はウリエルですが、ローマ教会からは認められていません。745年のローマ教会会議で、大天使は最初の3人に限定されたため、ウリエルを除くあとの3人は引用する文献によって異なります。「エノク書」ではラグエル、ゼラキエル、レミエルですが、多いのはバラキエル、イェフディエル、セラフィエル。
・七大天使の主な任務は、悪魔と戦うこと、人間のところへ行って重大な啓示を告げたり、特別な手助けをしたりすること。
イスラム教では、アッラーの王座を支えています。
<大天使、聖ミカエル>
・ミカエルの名には、「神に似ているものは誰か」という意味があるとか。ミカエルは天上界の偉大なプリンスで、聖書、特に『ダニエル書』では、最も背が高く、イスラエルの守護者で、主の御使いもミカエルではないかと言われています。黙示文学の1つでは、ミカエルがアブラハムにきたるべき死を告げます。
ミカエルは、いわば天使のチャンピオン。天の軍勢を率い、平和の天使として選ばれた民をまもり、闇の天使である悪魔に立ち向かう光のプリンスです。『ヨハネの黙示録』でも、天使の軍を率いて、大きな竜、古代の蛇、悪魔に挑みます。戦いに勝利を収めたミカエルは、千年の間、悪魔を縛り、底なしの淵に投げ入れました。
・ミカエルには、また別の一面があります。人間の死に際して見られるように、情け深くて辛抱強いのです。教父の多くは、亡くなった人の魂を秤にかけ、その人の行いを神に報告する役割をこの天使にゆだねました。そのため、魂を天秤にかけている聖ミカエルを描いた絵をよく見かけます。聖人と処女は計量を免れ、魂は天使の歌声に送られて即座に天に向かうのだとか。昇天する魂に同行するのは、多くの場合、聖ミカエルです。
<聖ミカエルの奇蹟>
・聖ミカエルの祝日は年に2回。それぞれミカエルの奇蹟を記念しています。
9月29日は三大天使の祝日。493年のこの日、イタリア・ブーリア地方にあるガルガーノ山に、聖ミカエルが現れたと伝えられています。
・5月8日の祝日は、590年グレゴリウス1世のもとに大天使ミカエルが現れたことに由来しています。
<モン・サン・ミシェル>
・現在、モン・サン・ミシェルがある場所は、もともとケルト人のベレヌス信仰と、ローマ人のユーピテル信仰の聖地でした。709年、聖ミカエルがアヴランシュの敬虔な司教オベールのもとに現れ、墓と呼ばれていた山の頂にイタリアのガルガーノ山と同様の礼拝堂を建てるよう命じます。司教がこのお告げに従い、建てた礼拝堂が、今日のモン・サン・ミシェル修道院です。以来、カトリックの聖地として、訪れる巡礼者は絶えません。
聖ミカエルはフランスの守護者でもあり、その祭日は国民の祝日。
<聖ミカエルへの信仰>
・聖ミカエルは神の戦力として、暴虐に対する抵抗を象徴しています。ジャンヌ・ダルクに助言を与え、ともにイギリスと戦ったと伝えられているのもそのためです。1545年、トリエント公会議で、異教であるプロテスタントから信仰をまもる戦士という新たな役割が、聖ミカエルに付与されます。
・イスラム教ではミーカーイールと呼ばれ、雨と風、植物と収穫を司っています。
<聖ラファエル>
・外典「トビト書」で活躍するラファエルの名は、「神は癒す」ことを意味します。
・このエピソードから、ラファエルは、助言を必要とする人や旅人を助けると考えられるようになりました。地上、海上、空中を問わず、旅する人を保護し、都市や地方の護衛、特別な任務も任されます。軍の諜報部員の守護聖人になったのも、おそらくまもることがラファエルの使命だからでしょう。
また、民間信仰では、薬剤師の守護聖人でもあります。
<大天使、ガブリエル>
・ガブリエルの名は「神の力」または「神はわが力」を意味します。神の右腕として、屈強な若者の姿をしたこの天使の祝日は3月24日。その他、9月29日にも、ミカエル、ラファエルと一緒に祝います。
・ガブリエルは良き知らせを伝える神の使いで、聖書ではダニエルの見解を解釈し、キリストの到来を告げます。洗礼者ヨハネとイエスの誕生を知らせるのがガブリエルなのも、不思議ではありません。
イスラム教ではジブリールの名で、天使の中でも預言者に啓示を伝える最も重要な位置を占めています。聖霊と呼ばれることもあります。
<その他の大天使>
【ウリエル】
・「神の炎または光」の意。天体の案内人かつ地獄の炎の達人で、天上のすべての発光体を見まもっています。
・ローマ教会は、存在ばかりか、この大天使に対する信仰を認めていません。しかし、東方正教会には、三大天使を従えた万物の支配者(イエス・キリスト)とともに全能の神をまもっているという記述があります。
【バラキエル】
・「神の祝福」の意。怠け心、無関心、軟弱な信仰をたしなめ、神の意思に耳を傾け、熱心に従うよう人を促します。用心を怠らず、魂を信仰に捧げ、祭司に救いを求め、信仰の拡大に勤しみます。
【イェフディエル】
・「神への賞賛」の意。妬みや嫉妬と戦います。悪魔祓いの時、嫉妬深い精霊を追い払うため、イェフディエルの名を唱えるとも、神意を受け入れ、隣人の好意と愛を呼びさまします。
【セラフィエル】
・「神への祈り」の意。放蕩や酒の飲みすぎと戦い、節制を心がけ、悪徳に負けないよう助けてくれます。また、神の恵みを授け、人類が悔い改めるように導きます。
<「異端」と天使>
・キリスト教は、その歴史の中で、異端と呼ばれる異質な宗教を信仰する一部のマイノリティを、しばしば排除してきました。その例が、12世紀の後半、南フランスで大きな影響力をふるっていたカタリ派とアルビ派でしょう。
カタリ派では、神と悪魔が同等の力を持ち、善と光である神がもっぱら霊界に関わっているのに対して、悪と闇である悪魔はあらゆる種類の物質を創造すると考えられています。人間は悪魔によって創られましたが、光の天使が無理やり肉体に閉じ込めてしまいます。キリストは天使であるため、生きることも苦しむこともなく、復活も当然ありえません。最後の審判はすでにおりたあとで、この世界は地獄なのです。
・アルビ派の教義はいくらか異なり、万物を構成する要素と天使を創造した唯一神を進行しています。悪魔は旧約聖書の神に相当し、人間は肉体(悪魔によって創造された物質)に閉じ込められた堕天使。自由意志がルシフェルの堕落の源で、他の天使はこの堕天使によって誘惑されるのです。
こうした「異端」に対し、1215年の第4ラテラノ公会議では、この世に存在するすべては、目に見えるものも見えないものも、唯一無比の創造者である神によって創られたという立場で、天使と悪魔に関する教義を定めます。天使は神が創造した存在の1つで、人間は肉体も含めて神の被造物とされました。
<天使の名前>
・天使の数は何千人にものぼるのに、名前はそれほど知られていません。その理由を知るには、教義を決定するために開催される教会会議の歴史を遡る必要があります。
745年、ローマで開かれた会議では、天使の名前を唱えて祈ることを禁止し、聖書にはっきりと名前を記されているミカエル、ガブリエル、ラファエルの三大天使に崇拝の対象を限定しました。他の天使たちは「悪魔の精霊」と見なされたのです。
・民間信仰や秘教主義では、迷信から 天使に対する信仰が発展しました。もともと呪術は、悪魔が元凶とされるいくつかの病を遠ざける目的で行なわれていたものです。ミカエルが頭痛を治すと信じられているのには、このような背景があります。アメリカのニューエイジ・ムーブメントでは、守護天使と交信して、その名前を発見することが神秘に至る第1歩です。
<ユダヤ教の天使>
・タルムードによると、天使の概念は、バビロニアから帰還したユダヤ教徒がもたらしたもので、その名の一部はペルシアの宗教に由来します。天使は、天地創造の2日目に創られ、半ば水、半ば火でできていて、それぞれ特殊な任務を担っていると言います。ミカエルはイスラエルの子どもをまもり、ガブリエルは勇気と力を授け、ウリエルは闇にいる人間を明るく照らし、ラファエルは心身の病を治すのだとか。
<天使とプロテスタント教会>
・カルヴァンは、神から「遣わされた」天使が登場する聖書やエピソードから出発しました。天使の堕落も、神のそばに仕えて功績を讃える天使の存在も認めています。ただし、聖書に天使に関する記述はなく、その存在を決定的に証拠立てるものはないと主張しました。折々の説教で、カルヴァンは愛情をこめて天使について語っていますが、天使はあくまで「神の被造物」であり、世界を救済するために神から遣わされたのは、イエス・キリストたたひとりだと繰り返し述べています。
この点でカルヴァンは、天使を祀る儀式や祭事を発展させた当時のローマ・カトリック教会と明らかに意見を異にしました。天使は崇拝の対象でも信仰の対象でもなく、神の恩寵に与れるように天使にとりなしてもらうことがあってはならない、というのがカルヴァンの考えで、聖パウロの流れをくんでいます。
<天使の聖性>
・人間は原罪を犯す以前、天使の位階の最下位である10番目に位置していたと考える注釈者もいます。
神は人間を楽園から追放すると、エデンの園の東に天上の番人(ケルビム)をおいて戻ってこられないようにし、天上の位階からも抹消しました。しかし、人間が蘇る時には、キリストの犠牲と贖罪によって、天使が占める位階のさらに上、上級天使であるセラフィムをも超えて、神に最も近い場所を占めるようになるということです。
<黙示録の天使>
・ギリシア語の「黙示録」は「啓示」を意味します。しかし、作品としての『黙示録』ではもっぱら世界のおわりに関する啓示が語られているため、語の意味が変わってしまいました。
黙示文学では、天使ファヌエル、レミエル、ウリエルが良き魂の案内人を務めます。
福音書でイエスが世界の終末を語る時、引き合いに出されるのは栄光に包まれた父なる神を囲む天使たち。その数「万の数万倍、千の数千倍」にのぼる天使の大声とともに裁きをくだすのは、子であるイエスその人です。
<ヨハネの黙示禄>
・天使は至るところに存在します。例えば、小アジアにある7つの教会はいずれも天使によってまもられています。また、「最後の7つの災いに満ちた7つの鉢を持つ7人の天使」は、新しいエルサレムが天からくだってくることを示します。神意を告げて遂行し、キリストの預言と最後の審判で果たす役割を確認するのもやはり天使です。その他、香炉を持っているもの、聖なるものの祈りを神に永遠に捧げるもの、武装して大天使ミカエルとともに悪魔とのおおいなる戦いに身を投じるものもいます。
<最後の審判のラッパ>
・『ヨハネの黙示禄』では、7人の天使が7つのラッパを吹き鳴らし、迫りくる災禍の到来を告げます。
第1の天使がラッパを吹くと、血の混じったひょうと火が発生。第2の天使がラッパを吹くと、火で燃えている山が海に投げ入れられ、海が血に変わり、海に住む多くの生きものが死に絶えます。第3の天使がラッパを吹くと、大きな星が天から落ちてきて、川の水が苦い毒に。第4の天使がラッパを吹くと、太陽と月と星が損なわれ、空が暗くなり、災いが広まります。第5の天使がラッパを吹くと、別の星が空から落ちてきて底なしの淵が生じ、そこから獰猛なイナゴの群れが湧き出て、底なしの淵の使いの命令で罪人たちを苦しめるように。第6の天使がラッパを吹くと、黙示録の4人の天使が解き放たれ、武装した騎兵が人間を襲い、殺します。最後に、第7の天使がラッパを吹くと、24人の長老がひれ伏してキリストを礼拝し、その時、天にある神の神殿が開かれ、契約の櫃(ひつ)が垣間見えます。
<イスラム教の天使、精霊、悪魔>
・天使を信じることはイスラム教の信仰箇条の1つで、イスラム神学でも重視されています。アッラーが光から創った天使の数は膨大な数にのぼり、あまねく存在しています。この世界に、地面に額をつけて神に跪拝(きはい)する天使のいない空間はないのです。天使は罪を犯しません。性別はなく、ムハンマドを除く人間と預言者の上の階級に位置します。天使は精霊(ジン)や悪魔と本質的に変わりはなく、ユダヤ・キリスト教の伝統と同様に、神(イスラム教の場合はアッラー)を礼拝し、7つの天に位置する王座を支えます。
天使には翼があり、女性以外の別のものの姿で現れます。まぶたにもぐり込んで神の御業を見まもったり、心の中に入ることもできます。光、祈り、甘やかな香りを好み、そこから栄養を摂ります。
<ムハンマドと天使>
・また、610年頃、ヒラー山の洞窟で瞑想をしている時のこと。ムハンマドは天使ジブリール(ガブリエル)の出現を受けます。天使は、ムハンマドが神から遣わされた使者であると明かし、神の御言葉をみなに伝えるよう命じました。
<イスラム教の主な天使>
【ジブリール(ガブリエル)】
・信頼できる誠実な聖霊とされ、預言者に啓示を伝え、光のターバンを巻いています。
【イスラーフィール(ラファエル)】
・終末の到来時に、真実のラッパを吹き鳴らします。最初のひと吹きであらゆるものが吹き飛ばされ、2番目のラッパの音を合図に復活します。
【ミーカーイール(ミカエル)】
・ある日、ムハンマドがジブリールに「ミーカーイールが笑うのを見たことがないのはなぜか」とたずねたところ、ジブリールは「地獄が造られてからというもの、ミーカーイールは笑うことがなくなりました」と答えたそうです。
【ハールートとマールート】
・罪を犯すよう人間をそそのかしますが、最初に必ず警告をします。誘惑に負けるか否かは、人間次第ということなのでしょう。
【イズラーイール】
・死の天使で、臨終に際して人間の魂を体から引き離します。
【マーリクとリドワーン】
・マーリクが地獄を監視し、リドワーンが天国を監督します。
・イスラム教にも守護天使に相当する存在がいて、人間はそれぞれふたりの天使にまもられていると言います。ひとりは良い行い、もうひとりは悪い行いを促し、すべての言動はこれらの天使の命令によります。罪が犯されると、改悛した罪人が赦しを請うことができるように、天使は罪人を登録する前に6時間の猶予を与えます。
<天使と聖パウロ>
・聖パウロにとって、旧約聖書の天使は御言葉を伝える神の使い。全能の神と人間を仲介する役目を担っていました。
・しかし、パウロは、キリストの受肉以降、主の使いとしての天使の役割は不要だと考えます。イエスは神の子であり、イエスだけがキリストの律法を明らかにするからです。同様に、最後の審判の時、天使または大天使が世界の終末を告げる伝令官と証人の役割を果たしますが、天から降臨するのはイエス・キリストです。
いずれにしても、パウロにとって天使は、身近で地上の人間を庇護するとともに、天上のエルサレムをまもる存在で、楽園に住まう神の功績を讃え、正義を司ります。
<モルモン教の天使>
・モルモン教はジョゼフ・スミス・ジュニアが創立しましたが、天使の出現がきっかけではじまります。1820年以降、まだ少年だったジョゼフ・スミス・ジュニアのもとに、天使が何度も現れていたのだとか。
・こうして、ジョゼフに聖典の翻訳という使命が託され、新宗教の聖書『モルモン経』が誕生します。
『モルモン経』によると、箱はモローニが421年にクモラの丘に隠したことになっています。そこには、キリストの時代にアメリカ大陸に住んでいた民の歴史が刻まれ、ニーファイ、レーマン、ヤレドの3大国家について記されています。いずれの国家も滅びますが、レーマンだけは存続し、この国の民がアメリカ原住民の祖先になりました。磔刑ののち、イエス・キリストはアメリカ大陸を訪れて、原住民を教え導いたのだと言われています。
モルモンの神学では、モローニは黙示録でヨハネが語っていた天使。
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