腰から下の壁が小銃弾の貫通に耐えることができる強い壁になっていたり、建てる方向も、「緊急時」に監視できるように、陣地的な形で計画的に造られている個人の住宅もある。(1)

(2023/10/1)

『リスク大国日本』

国防/感染症/災害

濱口和久 グッドブックス  2022/4/18

 

<トータルディフェンスを支える4つの防衛>

・欧米諸国の多くが、「軍事防衛」「経済防衛」「心理防衛」「民間防衛」の4つが完備されてはじめて国の総合的防衛が達成されるとしている。日本人の多くは知らないが、民間防衛は世界の常識である。

 民間防衛(文民保護)は、積極防空(軍防空)に対し、消極防空(民間防空)ともいわれ、諸外国では次のように定義されている。

 敵の武力攻撃に対して国民の生命・財産を守り、公共の建物・設備、産業、文化財等を保護し、速やかに救助・復旧を図ることを主目的にする組織的、非軍事的活動をいい、あわせて、平時における自然災害、または人為的災害に対しても備えるものであり、中央政府の計画・指導と、それに基づく地方自治体の組織、指導のもとに軍隊以外の民間人(シビリアン)が主体となって行うものである。

・つまり、民間防衛は、戦争災害に備える民間人の防護活動を意味するが、通常爆弾や焼夷弾による爆撃のみであった第ニ次世界大戦までと、核兵器などの発達した大戦後では、組織や対策が大幅に変わった。

 現在の諸外国における民間防衛策は、核兵器に対する防衛に加えて、生物・化学兵器、サイバー攻撃、世論工作など、あらゆる手段の攻撃に対し、被害を最小限に食い止める対策が講じられている。

・警察や消防がそれぞれの任務を持って支援するのは当然として、軍隊も通信、輸送、機械力などを持って支援活動をするほか、法律によって民間防衛活動に専従する民間防衛隊を義務制または志願制、あるいはその両建てによって設けている国もある。

 

<核戦争の危機と民間防衛>

・この「日本市民防衛協会」は、政界、財界、労働界、教育界などにPRを行い、海外資料の調査、収集、研究界の実施、会報発行、国会および政府への意見具申を行い、「万一、敵の攻撃を受けた場合、日本は専守防衛を旨としている以上、本土での戦闘が避けられず、地域住民の防護、避難誘導が適切になされなければならない」として、民間防衛の必要性を訴えた。

・この「国民保護法」は、武力攻撃事態などにおいて、武力攻撃から国民の生命・身体・財産を保護するため、国や地方公共団体等の責務、住民の避難に関する措置、避難住民などの救援に関する措置、武力攻撃災害への対処に関する措置、およびその他の国民保護措置などに関して必要な事項を定めている。

・現在の国民保護法は、避難や救援については国民に協力を要請するだけで、応じるかどうかは任意となっている。政府は国民保護法に義務的任務を盛り込むことを真剣に検討するべきであり、同時に法律の内容を国民に周知徹底するべきだ。

<民間防衛の先進国・スイス>

・スイスは永世中立国であるが、日本ではスイスを非武装中立国と思っている人が多い。しかし、スイスは武装独立と徴兵制(国民皆兵制)を国防戦略の基本に据えている。

 スイスは1648年10月24日、ヨーロッパの30年戦争が終わって締結されたウエストファリア講和条約において独立を達成する。このときからスイスは武装中立国家を目指して国家建設を進めてきた。1648年というと、日本では徳川幕府第3代将軍の家光の治世のころだ。

・現在もスイスの男子は19歳もしくは20歳になると、初年兵学校で15~17週間の新兵訓練を受けなければならない。そのときに受領した小銃は、自宅に持って帰って格納する。その後、予備役という有事動員要員として、毎年3週間の訓練を10回に分けて受ける。訓練期間の日当と費用は、スイスの企業が80パーセントを負担している。

 海外で生活していても、帰国して新兵制度、予備役の訓練を受けなければならない。もし悪意を持って、あるいは意図的に訓練に参加しなかった場合には、最悪の場合はスイス国籍を剥奪されてしまう。

・スイスでは1963年、核シェルターの設置を義務づける連邦法が制定された。同時に公共シェルターのネットワークを管理する連邦民間防衛庁を新設。2012年から自宅の下にシェルターを設置しない場合は、自治体に1500スイスフラン(約19万円)を支払い、最寄りの公共シェルターに家族全員分のスペースを確保することになっている。

 スイスのパンはまずいことで有名だが、なぜまずいのか。その年に獲れた小麦は、すぐには使わず、備蓄に回し、古い小麦から使うという政策を実施しているためだ。

 スイス国内の道路・橋・橋梁・堤防などのインフラ施設は、有事には破壊して障害化できるように細工され、民間の飛行場も軍用に転換できる。農地も機関銃陣地や、対戦車陣地がいつでも造れるような形になっている。腰から下の壁が小銃弾の貫通に耐えることができる強い壁になっていたり、建てる方向も、「緊急時」に監視できるように、陣地的な形で計画的に造られている個人の住宅もある。

<各国の核シェルター準備>

・各国は核ミサイル攻撃に対する避難施設としてシェルターを整備している。NPO法人日本核シェルター協会の調査によると、日本は人口1人あたりのシェルター普及率が0.02パーセントしかない。諸外国のシェルター事情はどうか・

 同会の調査によると、スイスと同様にイスラエルは100パーセント、ノルウェー98パーセント、米国82パーセント、ロシア78パーセント、英国67パーセント、シンガポール54パーセントとなっている。

 スイスとイスラエルには、学校や病院などの公共施設には公共シェルターがあり、「緊急時」は国民には呼吸用の防護マスクが無料で支給されている。ノルウェーにも、公共の場にシェルターがあり、「緊急時」は国民の大半を収容可能だ。

 ノルウェーの隣国であるスウェーデンは、首都ストックホルムをはじめ主要都市に全住民を収容できるシェルターを設け、日ごろは地下駐車場や屋内運動場などに使用している。

 米国は、軍事施設や政府機関にシェルターを完備している。近年、公立の小学校、中学校、高校に「3カ月生存の地下シェルター」を逐次整備している。

・ロシアも冷戦時に大都市を中心にシェルター設置を奨励しており、現在では冷戦時の名残としてサンクトペテルブルク地下鉄やモスクワ地下鉄がその役割を果たしている。2016年、ロシア非常事態省は「モスクワ市民すべてを地下シェルターに避難させる用意ができた」とも発表している。

 英国では、有事の際に指揮を執る政治家や政府高官のためのシェルターは完備しているものの公共シェルターはない。シェルターに入れない国民には、屋内退避が指示されることになっている。

 シンガポールは国民の86パーセントが公団住宅に住み、1997年のシェルター法の法制化以後に建設された公団住宅の各住戸には、核や災害に備え、シェルターが設置されている。

 北朝鮮と国境を接する韓国の場合は、地下鉄の駅や線路(経路)をシェルターとして使えるように設計されているため、日本の駅よりは頑丈な造りになっている。特にソウル市は地下鉄の駅が地下深くまで階層で伸びており、多くの住民が避難できるようになっている。人口密集地域には、空襲などに備えた地下退避施設が整備され、民間施設でも床面積60平方メートル以上で退避可能な地下室がある場合は、避難場所として使用できるようになっている。これらの国以外にもシェルター整備をしている国は数多くある。

・ロシアがウクライナに2022年2月24日に侵略を開始した。

 ウクライナ国内ではサイレンが鳴ると、自宅の防空壕や地下鉄構内、公共のシェルターに避難する市民の姿が映像を通じて映し出されている。各国のシェルター事情を文字で説明するよりも、ウクライナで起きていることを映像で見るほうが、はるかにシェルターの必要性を理解してもらえるだろう。

 繰り返しになるが、日本は人口1人あたりのシェルター普及率が0.02パーセントしかない。わが国は「専守防衛」を安全保障政策の基本理念に掲げているが、国民保護のためのシェルターについては、世界最低の整備状況だ。

<アナウンスだけで終わっているJアラート>

・2017年から運用が開始されたJアラート(全国瞬時警報システム)は、弾道ミサイルが日本の領土・領海に落下する可能性または領土・領海を通過する可能性がある場合に使用される。Jアラートは「屋外にいる場合は近くの建物(できれば頑丈な建物)の中、または地下(地下街や地下駅舎など地下施設)に避難してください。屋内にいる場合は、すぐに避難できるところに頑丈な建物や地下があれば直ちにそちらに避難してください。それができなければ、できるだけ窓から離れ、できれば窓のない部屋へ移動してください」とアナウンスするだけで終わっている。はたして、国は国民の避難方法を本気で考えているのだろうかと疑いたくなる。

(2023/2/4)

『日本はすでに戦時下にある』

すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル

渡部悦和  ワニ・プラス  2022/1/26

<まえがき>

<平和なときにおいても「目にみえない戦い」は進行している>

・我が国周辺の安全保障関係は世界でもっとも厳しい状況にあると言っても過言ではない。

・また、北朝鮮は核ミサイルの開発を継続し、その能力は目を見張る進歩を遂げ、やはり日本の脅威になっている。さらにロシアは、ウラジーミル・プーチン大統領が唱える「ロシアの復活」に基づき、米国を中心とした民主主義陣営を敵視する政策を展開している。北方領土問題を抱える日本にとってロシアは警戒すべき国家である。

 つまり、日本周辺には中国、ロシア、北朝鮮という民主主義陣営と対立する世界的にも有名な独裁国家が存在していることになる。

・マイケル・ピルズベリーは、現在進行中の中国が仕掛ける戦いについて、「我々はゲームに負けているのかどうかわかっていない。実際、我々はゲームが始まっていることさえ知らないのだ」と表現している。

 ピルズベリーが言っているゲームとは、中国が100年間の屈辱の歴史を晴らし、世界一の覇権国を目指して実施している「100年マラソン」のことで、習近平国家主席が主張する2049年を目標とする、「中華民族の偉大なる復興」の実現と符合する。

<あらゆる領域が侵略される「全領域戦」の時代>

・米国は、現在の国際情勢を称して「大国間の競争の時代」と呼んでいるが、大国とは米国、中国、ロシアのことだ。とくに中国は米国と覇権争いを展開している。米中覇権争いがおこなわれている現在を、ある者は「新冷戦の時代」「第3次世界大戦の時代」「ハイブリッド戦の時代」「超限戦の時代」などと表現している。私は現代を「全領域戦の時代」と表現したいと思う。

・官庁や民間企業では、システムが不正アクセスされて秘密情報を盗まれ、システム全体を凍結され、その解除のための身代金を要求される事件(ランサムウェア攻撃)が日々報道されている。

 そのような不法なサイバー攻撃には個人や民間組織のみならず、国家レベルの軍事組織が関与しているケースが多い。例えば、中国人民解放軍やロシア軍、とくにロシア連邦参謀本部情報総局(GRU)は、自らサイバー攻撃をおこなうのみならず、民間のサイバーグループを組織化してサイバー攻撃をさせるケースが増えている。

<オーストラリアにおける中国の統一戦線工作>

・中国との戦いがすでに始まっていることを知らない人は多い。中国共産党の中央統一戦線工作部(以下、中央統戦部)の工作(統一戦線工作)のことを知っている日本人は少ないと思う。中央統戦部についてはいままで語られることが少なかったからだ。私は中央統戦部と統一戦線工作を多くの人に知ってもらわなければいけないという使命感をもって本書を書いた。

・とくに大きかったのは新型コロナの蔓延である。オーストラリア人が

新型コロナを機に中国が仕掛ける「静かな侵略」の脅威に覚醒したのだ。この静かな侵略に対して堂々と戦っているオーストラリアは日本のいいお手本になる。

<日本におけるトロイの木馬>

・日本も統一戦線工作のターゲットになっていることを強調したい。この工作は、日本の政界、経済界、メディア、アカデミア(学会)、中央省庁、芸能界、宗教界、自衛隊、警察などあらゆる分野に浸透している。

 外国資本が自衛隊や海上保安庁の基地周辺の不動産や北海道などの広大な土地を買いあさり、日本の団地に中国人が大勢住むようになり、その団地が彼らに占領されかねない状況になっていることなど、工作の例は枚挙にいとまがない。

<我々は賢くて強くなければいけない>

・以上記述してきたように、我々がいまは平和なときだと思っていても、中国などが仕掛ける「目にみえない戦い」は進行している。このままでは「目にみえない戦い」に気づかないまま敗北してしまう可能性がある。

 中国は、統一戦線工作の国家であり、「超限思考」の国家でもある。

・『超限戦』の本質は「目的のためには手段を選ばない。制限を加えず、あらゆる可能な手段を採用して目的を達成する」ことを徹底的に主張していることだ。民主主義諸国の基本的な価値観の制限を超え、あらゆる境界を超越する戦いを公然と主張している。

・超限思想を信じる国家にとって、日本は鴨がネギを背負った状態の“鴨ネギ”国家だと思う。目的のためには手段を選ばない手強い国に対して、日本はあまりにも無防備だ。

 愚かなことに我が国は非常に多くの安全保障上の制約やタブーを、自ら設けている。日本人はもっと危機感をもたなければいけない。そして、鴨ネギ状態から脱却しなければいけない。

 脅威には目にみえるものと目にみえないものがある。日本人は賢くなければいけないし、強くなければいけない。

<あらゆる領域が戦いの場となる「全領域戦」の時代>

・米国のジョー・バイデン大統領は2021年3月の記者会見で、米中のせめぎ合いは「21世紀における民主主義と専制主義との戦いだ」と表現した。「民主主義」対「専制主義」という構図は、2021年3月18日にアラスカでおこなわれた米中の外交トップ会談でも明確であった。

・中国があらゆる手段で米国を中心とする民主主義陣営に対抗しようとする際に、米国の同盟国である日本も攻撃の主たるターゲットになっている。だからこそ、「日本は戦時中である」という認識になるのだ。

・筆者は、『現代戦争論―超「超限戦」』で、情報戦、宇宙戦、サイバー戦、電磁波戦、AIの軍事利用を中心に現代戦の一端を紹介した。これらの戦いが中国要人の発言にある「あらゆる手段」になるのだ。

・全領域戦の特徴は、①あらゆる領域を使用すること、②軍事的手段や非軍事的手段などあらゆる手段を活用すること、③軍事作戦が主として戦時におこなわれるのに対して、全領域戦は平時と戦時を問わずおこなわれること、④いままで平時とおもわれていたときをとくに重視しておこなわれることである。

<「平時と戦時」の概念の変化>

・米陸軍はその作戦構想「多領域作戦」において、期間を競争と紛争のふたつに分けている。つまり、昔でいうところの平時は文字通りの平和なときではなく、競争相手国と競争している期間だと解釈したのだ。この解釈は適切で、中国やロシアはこの競争の期間を重視して情報戦、宇宙戦、サイバー戦などを仕掛けてくる。

・米海軍はその作戦構想「統合全領域海軍力」において、日々の競争から危機を経て紛争になると考えている。

・米空軍はその作戦構想「全領域作戦」において、協力から競争を経て武力紛争になると考えている。

・筆者の造語である「全領域戦」は、米国防省や米軍が最近主張している全領域作戦からヒントを得ている。米軍の作戦構想に関しては、前述のように米陸軍が主導する多領域作戦がある。米国防省や米軍は最近、多領域作戦を一歩進めた全領域作戦を提唱しており、その具体化を進めている。

 軍事作戦としての全領域作戦は、米軍を中心とした作戦構想を知るためには米軍の作戦を研究して、その考え方を模倣している。つまり、解放軍の作戦構想を知るためには米軍の作戦構想を知ることが近道になる。

 そして、全領域作戦は軍隊がおこなう軍事作戦であるが、筆者が提案する全領域戦は政府を中心として多くの組織が参加し、あらゆる手段とあらゆる領域を利用しておこなう戦いである。

<中国が考える現代戦――「超限戦」と中国の現代戦>

・習は、中国の夢を実現するために、海洋強国の夢、航空強国の夢、宇宙強国の夢、技術大国の夢、サイバー強国の夢、AI強国の夢など多くの夢を実現すると主張している。つまり、列挙したそれぞれの分野で世界一になるということだ。これらすべての領域で世界一になるという夢は、全領域戦に勝利する決意の表れである。

<領域(ドメイン)と全領域戦>

・中国が一番重視しているのが情報戦だ。通常の民主主義国家の情報戦は、主として軍事作戦に必要な情報活動を意味する。しかし、中国は情報戦を広い概念でとらえていて、解放軍の軍事作戦に寄与する情報活動のみならず、2016年の米国大統領選挙以来有名になった政治戦、影響工作、心理戦、謀略戦、大外宣戦(大対外宣伝戦)などをすべて含むものだと理解すべきであろう。

 解放軍にとっては情報戦が現代戦のもっとも基本となる戦いになる。情報戦を基本として、宇宙戦、サイバー戦、電磁波戦などがある。

<中国の政治戦:統一線工作による「静かな侵略」>

・中国において、その長い歴史のなかで繰り広げられてきた政治戦は、伝統的な戦いである。現代の政治戦は、中国共産党の一党独裁体制を維持するために、中共中央統一戦線工作部の工作として実施されているが、最近は習近平主席の意向もあり、国外における工作も重視されている。

<中国の統一戦線工作>

・このなかで中央統戦部は、「秘密主義」「曖昧」「目立たない」と表現されている組織であり、日本人には馴染みの薄い組織だと思われるが、我が国の平和と安定を維持するためにはさけて通れない組織だ。中央統戦部は、中共に対する中国本土の国民、海外の中国人、世界中の広範な華僑コミュニティの忠誠を確保しようとする、中共中央委員会直轄の組織だ。

<日本における統一戦線工作>

<日本における工作組織>

 ・日本での中央統戦部の活動についてはあまり公表されてこなかったが、その存在自体は日本の公安警察や米国の国防情報局などでもかなり把握されている。

<日本で懸念される「移民戦」の脅威>

・「移民戦」という言葉を知っているだろうか。ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が移民を利用して、ポートランドなどの隣接国の政情や治安を意図的に不安定にすることを狙っているが、このような戦いのことを「移民戦」という。

<外国人参政権・外国人住民投票の問題>

・在日外国人が増加してくると、次なる問題は外国人参政権や投票権の問題だ。

<突然襲ってくるウイルスと化学兵器との戦い>

・新型コロナウイルスが2020年以降2年にわたり、世界中で猛威を振るっている。これを「ウイルス兵器を使用したウイルス戦だ」と主張する人もいるが、否定する専門家は多い。いずれにしても、新型コロナのパンデミックは、私が現役の自衛官のときに恐れていた事態であることは確かだ。

 軍事の世界では大量破壊兵器またはNBC兵器という専門用語があるが、これは核兵器、生物兵器、化学兵器のことだ。

<新型コロナウイルスをめぐる中国の大問題>

<武漢で発生した新型コロナについて謝罪もなく情報隠しをする中国>

・新型コロナが2019年12月に中国・武漢市で発生してから2年が経過した。この間、世界における新型コロナの感染者数は約2.8億人、死亡者数は538万人(2021年12月23日現在)という未曽有の状況になっている。各国は新型コロナに対して悪戦苦闘しているが、発生源である中国からの謝罪は一切ない。

 新型コロナへの対処は国家の危機管理あるいは国家防衛そのものであり、新型コロナとの戦いはまさにウイルス戦の様相を呈している。

 新型コロナのパンデミックは明らかに武漢市から始まったが、その発生源に関しては明確な答えが出ていない。感染拡大の早い段階から、多くの人や組織が「武漢ウイルス研究所からの流出説」を主張している。

<新型コロナをめぐる論戦の結論>

・新型コロナの起源に関する論戦の最終的な結論は、中国当局が武漢での感染発生当初の情報を開示しない限り出てこない。敢えて現時点における私の結論を出すとすれば以下の通りだ。

① 新型コロナは解放軍が関与したウイルス兵器として開発されたものか?

新型コロナは、ウイルス兵器として開発されたものではない可能性が高い。

② 新型コロナは自然由来のものではなく、人工的に作られたものなのか?

新型コロナは、おそらく自然由来(コウモリなどが起源)のもので、人工的に遺伝子操作されたものではない可能性が高い。

③ 武漢ウイルス研究所(WIV)から流出したものではないのか?

WIVから流出した可能性を完全に否定することはできない。しかし、WIVから流出したものではなく、コロナウイルスがコウモリから他の動物へと伝染したあと、遺伝子の構成に重大な変化が生じ、ヒトに感染した可能性もある。つまり、「WIVから流出した」と断定することはできない。

私の結論は、米国の国家情報長官と国家情報会議が共同でまとめた報告書、ウイルスの専門家の意見を重視している。とくに国家情報長官は米国の16ある情報機関を統括する立場にあり、その結論は重視すべきだと思う。

新型コロナの起源をめぐる議論は、客観的事実が明確でない状況ではポジショントークになりがちである。ポジショントークとは、自分の立ち位置に由来する発言をおこなうことで、自分に有利な状況になることを目的とした発言のことだ。

とくに米中覇権争いにおいて、中国を徹底的に批判したい者は米国のみならず世界中にいるが、それに対して米国の情報機関の冷静さは注目に値する。この点が、中国やロシアなどの権威主義諸国の嘘に満ちた情報機関の主張と大きく違う点だ。

新型コロナのパンデミックを、将来的にウイルス戦として積極的に利用する国家や非国家主体が出現しても私は驚かない。まさかそんなことは起こらないだろうという考えはやめたほうがよい。つねに最悪の事態を想定し、それに備えなければいけない。

<サイバー戦:サイバー空間を利用した仁義なき戦い>

<サイバー戦とは>

・サイバー戦の明確な定義はないが、本書においては「サイバー戦とは、ある目的達成のために国家や非国家主体が実施するサイバー空間での戦い」と定義する。

 サイバー空間は、インタ―ネット、インタ―ネットに接続されているネットワーク、これらのネットワークに接続されている電子機器が作り出す人工の空間だ。人体で譬えるなら、脳とその他の器官をつなぐ「脳神経系統」と言えるだろう。

 このサイバー空間は、情報通信分野に目を見張る発展をもたらし、インタ―ネットを利用した様々なビジネスを生み出した。それにより経済を発展させ、民間でも軍事においても不可欠な空間になっている。

 一方で、悪意ある者がサイバー空間を悪用し、サイバー犯罪、サイバースパイ活動、重要インフラに対するサイバー攻撃が発生し、世界の安定を脅かす大きなリスクになっている。そしていまやサイバー空間は、陸・海・空・宇宙に次ぐ第五の戦場と呼ばれ、安全保障における重要な空間である。

・防衛省を例にとると、一日に膨大な数の不正アクセスを受けている。日本に対するサイバー戦でとくに注意しなければいけない国々は中国、北朝鮮、ロシアだ。

<サイバー戦の三つの要素>

・サイバー戦を区分すると、サイバー情報活動、攻撃的なサイバー戦、防御的サイバー戦に分かれる。

 サイバー情報活動には、ふたつの目的がある。第一の目的は、相手のシステムやネットワークに存在する情報を収集し、分析すること、即ち作戦遂行に直接必要な情報を収集・分析することである。

 第二の目的は、相手のシステムそれ自体に関する技術的な情報を収集・分析することだ。

・一方、人間がおこなうハッキングは、相手のシステムへの侵入や偵察、プログラムの書き換えやすり替え、情報の窃取、システムダウンやシステムの物理的破壊などの工作をおこなう。

 例えば、敵政府組織や軍のシステムの破壊や混乱、電力や通信、金融、交通などのインフラを機能不全に陥れることができれば、戦う前から圧倒的に有利な状況を作ることができる。

 サイバー空間における防御にはふたつの備えが必要になる。

 ひとつ目は、DDos攻撃――攻撃目標に対し、大量のデータや不正なデータを送り付けることで、正常に稼働できない状態に追いこむこと――のようにシステム内部に侵入することなく、直接システムに負荷をかける攻撃への備えだ。

 ふたつ目は、敵が我々のシステムに侵入し、プログラムを書き換え、情報の窃取やシステムダウンをおこなう攻撃への備えだ。

<最近のランサムウェア攻撃>

・世界中でランサムウェア(身代金要求型ウイルス)によるサイバー攻撃が相次いでいる。

 ランサムウェア攻撃とは、標的型メールなどを利用して端末に侵入し、コンピュータ内のファイルを不正に暗号化したうえで、暗号を解除するための身代金を要求するというものだ。

 サイバーセキュリティの専門家は、事態を悪化の一途をたどっていると警鐘を鳴らしている。

<ランサムウェア攻撃を回避または被害を局限するための心構え>

・ランサムウェア攻撃は企業のみならず個人もターゲットになる可能性がある。とくに個人がランサムウェア攻撃をいかにして回避または被害を極力減らせるか、専門家に質問すると異口同音に返ってくる答えが、以下のようなサイバーセキュリティの基本を事前の予防措置として、日ごろから徹底することだという。

⓵データ等のバックアップをこまめに取る。

②OSやソフトウエアの更新を徹底し、セキュリティソフトを導入する。

④ パスワード保護を確実におこなう。

⑤ 不審なメールを開封しない。

⑥ 安全なネットワークのみを使用する。

<ランサムウェア攻撃を受けてしまったら>

・不幸にしてランサムウェア攻撃を受けた場合、以下の対処が推奨される。

⓵すぐに切断する

②身代金を支払わない

<日本における軍事面でのサイバー攻撃の実例>

・サイバー空間に「平時」はない。文字通りの「常在戦場」であり、つねにアップデートされた最新技術を駆使した攻撃が続けられている。その目的はただひとつ、政治、経済、軍事などあらゆる面で、対象国より自国の優位を実現することにある。

<ロシアによる攻撃>

・ロシアの場合、実際にサイバー戦の重要性を証明した例がある。2014年にロシアとウクライナがクリミア半島の領有権を争った「ウクライナ危機」だ。この紛争は「新時代における戦争の作法」として、各国の軍関係者から注目を集めた。

 クリミア半島の併合を目論むロシアの計画は周到だった。まず、軍事侵攻の7年前にウクライナへのサイバー攻撃を仕掛けた。

・当初、彼らはウクライナ国内の官民組織のネットワークのハッキングに着手。至るところにその後の工作・破壊活動を有利にする「バックドア(コンピュータへ不正に侵入するための入り口)」を設置し、以降は政府組織や主要メディアのサイトの改竄や変更をくりかえした。

 同時に「Redoctober」「MiniDuke」などのコンピュータウイルスを活用した「アルマゲドン作戦」に着手。これはウクライナ政府や軍の情報を搾取するほか、以降のロシア軍部隊の動きを支援する情報操作や撹乱を企図したものだ。

 いよいよ侵攻を翌年に控えた2013年には、複数のテレビ局や新聞などのメディアとその関係者、反ロシア、親EUの立場の政治家やその支援者のサイトをダウンさせた。

・かくして2014年2月に侵攻作戦が始まった。親ロシア派武装勢力を装ったロシア特殊作戦軍や、ロシア軍が支給する武器や装備品をもたないことから「国籍不明」と判断され、「リトル・グリーンメン」と呼ばれた覆面兵士の集団――実際にはロシア軍特殊部隊の「スペツナズ」だった――が、半島中央に位置するシンフェローポリ国際空港や地方議会、政府庁舎、複数の軍事基地などの重要拠点を占拠した。

 作戦がスムーズに進んだ最大の理由は、ウクライナ国内のインタ―ネット・エクスチェンジ・ポイントや通信施設はほとんどが無力化されていたからだ。都市機能のマヒだけでなく、ウクライナ軍の通信網も大混乱に陥っていたのである。

<我が国の「サイバーセキュリティ」に対する甘い認識>

・しかし、本書においては「サイバー戦」という用語を重視して使用する。なぜなら、我が国では中国、ロシア、北朝鮮などのサイバー攻撃の脅威を甘くみすぎているからだ。

<日本のサイバー安全保障の体制>

・現実世界の戦いと同様に、サイバー空間でも敵を排除して攻撃を防ぐには、反撃の意志と能力をもつことが不可欠だ。しかし、自衛隊は「防衛出動」や「治安出動」が命じられない限り動けない。ここでも憲法に規定された「専守防衛」が足枷になっているからだ。

<世界各国のサイバー戦能力比較>

・ロシアの大手セキュリティベンダー「ゼクリオン・アナリティックス」によると、各国のサイバー軍の総合力は、1位・米国、2位・中国、3位・英国、4位・ロシア、5位・ドイツ、6位・北朝鮮、7位・フランス、8位・韓国、9位・イスラエル、10位・ポートランドである。日本は北朝鮮より下の11位。

・パイプラインへの攻撃が示す通り、一等国の米国でさえサイバー攻撃を完全に防ぐことは難しい。その米国と比べてはるかに劣る、日本の課題はあまりに多い。

<サイバー空間における将来のリスク>

・元NATO軍最高司令官ジェームズ・スタヴリディス大将の著書『2034』(翻訳は『2034米中戦争』二見文庫)は、米中核戦争を扱った小説であり、米国では10万部以上のベストセラーになっている。

『2034』では、米海軍の艦艇37隻が中国海軍に撃沈され、米本土の重要インフラに対する大規模なサイバー攻撃を受ける。米国はその報復として、中国の湛江(たんこう)市に戦術核攻撃をおこなうというストーリーだが、重要インフラに対する大規模なサイバー攻撃というシナリオは現実離れしている。さらに『2034』は、サイバー攻撃を過剰に評価している。

<情報戦、とくに影響工作の主戦場としてのSNS>

・SNS時代においては、ソーシャルメディアが世論の形成にますます大きな影響を与える存在になることを認識しなければいけない。私はSNSを多用しているが、SNSは影響工作の主戦場になっているという実感がある。

<我々はフェイクの時代を生きている>

<SNSを使った影響工作>

・インタ―ネットとSNSの普及により、真実や事実のみならず、偽情報や誤情報も流布され、私たちがそれらに踊らされる事例が数多く発生するようになった。

<中ロの影響工作とデュープス>

・SNSを使っていると、米国の大統領選挙や新型コロナのワクチンをめぐりSNS上で流布されている偽情報を簡単に信用し、その偽情報を自らも拡散する人たちの多さに驚かされる。私はこれらの人たちは、中国やロシアのデュープスではないかと思っている。ここでいうデュープスとは、「明確な意思をもって中国やロシアのために活動しているわけではないが、知らず知らずのうちに中国やロシアに利用されている人々」のことだ。中国やロシアが流す偽情報を信用して、その情報をSNS経由で拡散する人たちがなんと多いことか。

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