腰から下の壁が小銃弾の貫通に耐えることができる強い壁になっていたり、建てる方向も、「緊急時」に監視できるように、陣地的な形で計画的に造られている個人の住宅もある。(2)

<米国大統領選挙における影響工作>

<2016年の米国大統領選挙における影響工作>

・影響工作が世界的に有名になったのは、2016年の米国大統領選におけるロシアの影響工作で、「ロシアゲート事件」とか「プロジェクト・ラクタ」と呼ばれている。ロシア参謀本部情報総局(GRU)は、ヒラリー・クリントン候補を落選させる目的で、彼女の選挙戦を不利にする偽情報などをSNSやウィキリークスなどに大量に流布した。

<2020年の米国大統領選挙における影響工作>

・2020年の米大統領選挙に際しても、諸外国による大量のメール送信やSNSなどに偽情報を流すなどの情報工作がなされた。

<Qアノン信奉者やトランプ支持者による偽情報の流布>

・典型的な偽情報のひとつに、「米大統領選挙で大規模な不正があり、じつはトランプが勝利していた」という主張がある。

 このトランプ支持者がらみの偽情報が大きな影響力を発揮した要因は、トランプ前大統領自身が「米大統領選で大がかりな不正がおこなわれた。不正がなければ私が当選していた」という虚偽の主張を執拗にくりかえしたからだ。

<●Qアノンとは>

・中国やロシア以外にも複数の団体や個人が、2020年米大統領選挙に関連してSNSなどを通じて、偽情報を流布し、社会を混乱させた。これらの行為は、団体や個人による影響工作といえるだろう。彼らの代表がQアノンである。Qアノンとは、2017年10月に匿名掲示板「4chan」に政府関係者「Q」を名乗る人物が登場し、米政府の機密だと主張する内容の投稿を始めたことに由来する。アノンは、匿名を意味する「アノニマス」に由来している。「Q」はトランプ政権内にいた者だと私は思っている。

 Qアノンの主張を熱狂的に信じる支持者(熱心な層だけで米国に数十万人)はトランプ支持者と重なる。彼らは「米国や世界はディープ・ステート(DS:世界を操る影の政府)に支配されていて、DSと戦う救世主がトランプだ」という陰謀論を信じている。

・このQアノンやトランプ支持者らの偽情報が大きな影響力を発揮した要因は、トランプ氏自身が「米大統領選挙で大がかりな不正がおこなわれた。不正がなければ私が当選していた」という根拠に乏しい主張を執拗にくりかえしたからだ。

<●QアノンやJアノンが信じた偽情報>

・日本にもQアノンの支持者が流布する偽情報を信じ、SNSで活発に偽情報を流す者が多数いるが、彼らはJアノンと呼ばれている。

<新型コロナをめぐる影響工作>

・新型コロナのパンデミックにともない、中国やロシアの「意図的な偽情報の拡散」が世界的な問題になっている。

 さらに問題なのは、中国やロシアの偽情報とまったく同じワクチン陰謀論などをSNS上で拡散する日本人も相当数存在することだ。彼らは、知らず知らずのうちに中国やロシアの偽情報を拡散するデュープスの役割を果たしている。

<SNSの問題:偽情報や誤情報の流布をいかに防ぐか>

・現代は「フェイクの時代」だと私は思っている。2016年の米大統領選挙以降に顕著になった誤情報や偽情報などの有害情報やヘイトスピーチなどのSNS上での氾濫は「ポスト真実」の時代のひとつの表れだ。

<●事実は虚偽に負ける ⁉>

・情報を受け取る者にも問題がある。人はみたいものをみて、聞きたいものを聞き、読みたいものを読む傾向がある。人々はSNSを通じて事実か否かよりも面白さを重視して情報収集し、それを好んで拡散する。また、すでにもっている先入観に合致する情報を選択的に収集し、拡散する傾向がある。SNSで同じような考えの人とつながることを好み、自分が信じたい情報を好み、好みの情報を流布することにより、フェイクニュースが急速に拡散されていく。

<●アテンション・エコノミー(注目経済圏)>

・偽情報や誤情報はいかなるメカニズムによって、広がり浸透するのか。それについては「アテンション・エコノミー」の効果が注目されている。フェイスブックやユーチューブなどのビジネスモデルのベースは、人々が閲覧し、クリックすることでコンテンツ提供者に収入が発生するネット広告の仕組みだ。この構造全体は「アテンション・エコノミー」と呼ばれている。

<●訴訟による賠償請求など>

・最近、SNSで相手を誹謗中傷した者が訴えられて賠償請求されるケースが目立ってきた。将来的には、新型コロナワクチンに関する偽情報を流布した者が訴えられるケースが出てくる可能性もある。また、偽情報や誤情報を安易に垂れ流すソーシャルメディアに対する集団訴訟の可能性もあるだろう。

 偽情報の垂れ流しに対する訴訟は、安易な偽情報や誤情報の流布に対する一定の抑止手段になる可能性はある。

<情報戦に際して個人で対応できること>

・SNSには偽情報や誤情報が満ち満ちている。出所の怪しい情報をファクトチェックすることなく簡単に信じている人たちがなんと多いことか。怪しい情報を鵜呑みにする人が、米大統領選挙の陰謀論者になり、同時にワクチンの陰謀論者になっている。

 陰謀論の氾濫は、「誰もが自由に情報発信できること」が招いた危機である。

<宇宙戦:宇宙平和利用は甘い、宇宙での戦い>

<「宇宙の平和利用」が通用しない「宇宙は戦場」という現実>

<米国の宇宙政策>

<ドナルド・トランプ政権の国家宇宙戦略>

・トランプ前大統領が2018年3月に発表した、国家宇宙戦略は、米国が宇宙における覇権を死守することを宣言したものであり、その要点を紹介する。

・宇宙に関しては、米国の利益を最優先し、米国を強く、競争力があり、偉大な国家にする。

・米国の宇宙をめぐる足枷を取り除き、米国が宇宙サービスと技術において世界的なリーダーであり続けるための規制改革を優先する。

・宇宙における科学・ビジネス・国家安全保障上の利益を確保することが政権の最優先事項だ。

・米国の繁栄と安全にとって不可欠な宇宙システムの創造と維持において引き続き主導的役割を果たす。宇宙における米国のリーダーシップと成功を確保する。

・宇宙分野における「力による平和」を追求する。宇宙への自由なアクセスと宇宙での活動の自由を確保し、米国の安全保障、経済的繁栄、化学的知識を増進する。

・米国のライバルや敵が宇宙を戦闘領域に変えてしまった。宇宙領域に紛争がないことを望むが、それに対応する準備をする。米国と同盟国の国益に反する宇宙空間の脅威を抑止し、対処し、撃退する。

 以上で明らかなように、トランプ前大統領の「アメリカ・ファースト」は宇宙にも適用される。明らかに宇宙における覇権を追及しているからだ。

<電磁波戦:みえない領域での危険な戦い>

<電磁波について>

<電磁波の軍事利用>

<ハバナ症候群>

<中國人民解放軍の「マイクロ波兵器」>

・マイクロ波を利用した対人兵器システムは、もともと米国企業が暴動鎮圧用に「非致死性兵器」として開発したもので、米軍はアフガンとの対立で短期間戦地へもちこんだが、使用しなかったとも言われている。

 マイクロ波は、電子レンジや携帯電話に利用されることで知られているが、専門家によれば、95ギガヘルツのマイクロ波を照射されると、一瞬で皮膚表層が熱くなり、やけどこそしないものの、皮膚細胞の水分が体内に到達して脳や内臓にダメージを与え、頭脳、吐き気、記憶障害、激しい倦怠感などを引き起こすという。微弱なため、当初は自覚症状がなく、外傷も残さないのが特徴だ。兵器化にあたっては、その出力と条件を研究することが課題だともされる。

 指向性エネルギー兵器とは、レーザー、メーザー波、マイクロ波、素粒子エネルギー、電子ビーム、音響など、多種にわたるエネルギーを使用して、目標物や人間に対して直接照射し、破壊したり機能を停止させたりする兵器だ。現在も研究開発の段階にあるとはいうものの、技術の進歩と投資の増加により、2027年までに、世界の指向性エネルギー兵器市場は大幅な拡大がみこまれている。

<電磁パルス(EMP)攻撃>

<EMP攻撃とは>

・EMP攻撃とは、核爆発などにより強力な電磁波(ガンマ線など)を発生させることで、電子機器に過負荷をかけ、誤作動を発生させ、破壊することを目的とした攻撃である。EMP攻撃は、パソコン、電車、飛行機、自動車、インフラなど、対象地域の全ての電子機器に致命的な打撃をもたらす。

 核EMP攻撃は、高高度で核爆発をおこなうことにより、地上で人体に有害な影響――爆風、熱、降下物による被害――は発生しないが、電子機器に致命的な被害を引き起こすため、敵の防衛力を低下させる比較的簡単な手段であるとみなされている。このため、中国、ロシアなどは、核EMP攻撃は核攻撃ではないと主張している点が厄介である。

<西側は北朝鮮の核ミサイルの実験やEMPの脅威を軽視してきた>

<EMP攻撃シナリオ>

・プライ博士は、2020年6月18日の論考のなかで、「(世界は武漢ウイルスで右往左往している場合ではない。というのも、)中国は長年、EMP攻撃を計画してきた。中国のEMP攻撃こそ脅威なのだ」と主張している。

<北朝鮮による日本と韓国に対するEMP攻撃シナリオ>

・北朝鮮は自らが世界の大国であることを証明するために、国際法を無視して核ミサイルをテストし、配備している。北朝鮮の戦略は、核戦争の恐怖を高め、米国とその同盟国を従属させるために、「核による恫喝」を通じて韓国と日本に対する米国の安全保障協力関係を断つことだ。

●東京上空で核爆発を引き起こす

●EMP影響圏は北朝鮮には及ばない

●中国は米国の空母打撃群に対しEMP攻撃をおこなう

<日本よ、賢くて強靭な国家を目指せ>

<強靭な国家・日本を目指せ>

・「超限戦」の主張は、突き詰めれば、国家もマフィアやテロリストたちと同じ論理で行動しなさいということだ。しかし、国家が「超限戦」の教えを実践することにはリスクが大きすぎ、実行すべきではない。一方、中国には民主主義国家のような倫理や法の限界などない。超限戦は日本人をはじめとする民主主義国家がしてはいけない戦いなのだ。

<日本における機微技術管理を強化せよ>

・中国などの各種工作に有効に対処するのは難しい状況だ。「スパイ天国日本」の汚名を返上すべきだ。

 そのためには、憲法第9条の改正とスパイ防止法の制定は急務であり、日本の膨張組織の充実、サイバー安全保障体制の確立も急務である。さらに、米国の輸出管理や投資管理を参考にした法令の整備も急務になっている。

<スパイ防止法の制定と諜報機関の充実を急げ>

・我が国はスパイ天国だと言われている。我が国にはスパイを取り締まる法律「スパイ防止法」がないからだ。スパイ防止法がないということはスパイ罪の規定がないということである。

 我が国では、国家の重要な情報や企業等の情報が不法に盗まれたとしても、その行為をスパイ罪で罰することができない。スパイ行為をスパイ罪で罰することができない稀有な国が日本なのだ。

・日本以外の国では死刑や無期懲役に処せられるほどの重大犯罪であるスパイ活動を、日本では出入国管理法、外国為替管理法、旅券法、外国人登録法などの違反、窃盗罪、建造物侵入などの刑の軽い特別法や一般刑法でしか取り締まれず、事実上、野放し状態なのだ。

<日本の諜報機関の充実を>

・世界各国では、国外でも諜報活動を実施する米国のCIA、中国のMSS、英国のSIS、ロシアのFSB、ドイツのBND、イスラエルのモサドなどの有名な対外諜報機関が存在するが、日本には国外で諜報活動を実施する機関は存在しない。

<日本政治の抜本的な改革が必要だ>

・かつては「日本の経済は一流、政治は三流」と言われてきたが、一流と言われた経済も三流の政治の影響で二流の経済になる可能性がある。かつては政治が三流であっても、一流の日本企業が頑張って一流の経済を実現していた。しかし、失われた30年を経て、一流の企業が諸外国の企業に敗北するケースがだんだん増えてきている。電機産業や半導体産業が典型的である。

 米国や中国をはじめとして主要国のなかで成長力が最低なのが日本である。ひとりあたりの国民実質所得が低下しているのも日本だけだ。失われた30年の責任の相当の部分は三流の政治にある。

・「多くの日本の政治家は本来の意味の政治家ではなく“政治屋”だ」と言う人がいる。私は「政治屋は次の選挙のみを考えるが、真の政治家は日本の将来を考える」と思っているが、日本の将来よりも自らの生活を優先する政治屋がなんと多いことか。そういう政治屋が中国のハニートラップやマネートラップに引っかかり、中国の代弁者になるのだ。

 とくに政権与党の議員は奮起しなければいけない。議員一人ひとりが、厳しい国際環境のなかで日本が存在感のある国家として生き残るために何をしなければいけないかに集中すべきである。

<親中の政権与党・公明党の問題>

・中国共産党の機関紙である『人民日報』には、いかに公明党が親中であるか、いかに日本政府を親中に導いているかを記述した論考が掲載されている。

<統一戦工作や影響工作の実態を知り効果的に対処せよ>

・北京の世界戦略における第一の狙いは、アメリカの持つ同盟関係の解体である。その意味において、日本とオーストラリアは、インド太平洋地域における最高のターゲットとなる。北京は日本をアメリカから引き離すためにあらゆる手段を使っている。

<中国の超限戦に対して全領域戦で勝利せよ>

<「超限戦の中国」に「専守防衛の日本」は勝てるか>

・国際政治において、大国関係は基本的にゼロサムゲームである。一方が勝てば、他方が負けるという厳しい現実がある。日本人独特のガラパゴス的な発想を捨て、軍事や安全保障の要素をつねに取り入れた国際標準の発想をしないと、憲法前文に記述されている<国際社会における名誉ある地位>は確保できない。

<日本は現代戦のすべての分野で米中に比し出遅れている>

・米中ロは力を信奉する国々だ。この三国と比較すると、日本の現代戦への取り組みは遅れている。とくに米中に対しては、すべての分野において、出遅れていると言わざるを得ない。

・ここで強調したいのは、現代戦における日本の出遅れの原因は多岐にわたるが、最大の原因は憲法第9条にあるということだ。

・これらのドメインにおける戦いでは「先手必勝」の原則が成立する。なぜなら、攻撃する者は、いつどこを攻撃するかについて、主導権を持っているからだ。さらに、衛星が破壊される例が典型だが、攻撃による損害の早期回復が困難で、負けっぱなしになってしまう。だから、「先手必勝」なのだ。

 また、防御のみの戦いでは勝てないし、防御的な手段には膨大な費用とマンパワーが必要だ。なぜなら、受動的な立場にある防御側は、すべての攻撃に備えなければいけないからだ。

 現代戦における日本の出遅れを取り戻し、中国の超限戦に対抗するためには、まず第9条を改正するか、少なくとも専守防衛などの過度に抑制的な政策を見直すべきだ。

 なぜ憲法改正が必要か。憲法が国家の根幹をなすものだからである。その影響は多分野にわたるからだ。

<最先端技術開発のために人材および予算を確保せよ>

・予算なくしてまっとうなAIの軍事適用などできない。思い切った予算の増額が必要だ。現在の防衛費はGDPの約1%枠内だが、中国や北朝鮮の脅威を勘案すると、AIのみならず防衛省の事業のほとんどの分野で予算不足が指摘されている。

 防衛費の目標については、自民党の安全保障調査会が2018年5月に提言したGDP2%(NATOの目標値でもある)が基準になる。

<新たな「国家安全保障戦略」への提言>

・だからといって、全領域戦を無視するわけにはいかない。中国やロシアは全領域戦を日本に対して仕掛けてくるからだ。

 日本は全領域戦の戦時下にあり、これに対処しなければ日本はあらゆる領域において侵略されるだろう。これが本書でもっとも言いたかったことだ。

<あとがき>

<全領域戦の視点が重要>

・くりかえしになるが、全領域戦であるという観点で世の中の動きを観察することが有益だと思う。

 最近、我が国において中国の統一戦線工作に関連した書籍が出版されるようになったことは喜ばしい。それらを読むことによって日本への工作の一部を理解することができると思う。

・全領域戦を仕掛けられている日本は危機的な状況にある。中国の全領域戦に対処できていないのだ。

<日本はオーストラリアと台湾を参考にすべきだ>

・中国の日本への工作にいかに対処するかを考える際に非常に参考になる国がオーストラリアと台湾だ。両国は中国から激しい工作を受けているが、その工作に耐えている典型的な国家である。

・中国が核心的利益と主張する台湾に対しても中国の全領域戦がおこなわれている。習近平主席は2019年1月の演説で、①解放軍による軍事的圧力、②対外的な台湾の離脱、③浸透工作と政治体制の転覆、④中央統一戦線工作部との連携、⑤サイバー活動と偽情報の拡大、という五つの対台湾工作を重視するとした。

・日本としては、台湾の状況を注視しながら、そこから多くの教訓を得て、中国の対日工作を撃退する資とすべきであろう。

<真珠湾攻撃から80年:日本は相変わらず国家戦略なき国家>

・この日中の違いは何なのか。私は国家として戦略をもっているか否かの違いだと思っている。

 中国の超限戦は邪道ではあるが、厳しい国際社会を生き延びていくひとつの戦略だと思う。しかし、日本には超限戦に匹敵するようなしたたかな国家戦略がない。

・本文でもふれた書籍『超限戦』では、<21世紀の戦争は、すべての境界と限度を超えた戦争で、これを超限戦と呼ぶ。この様な戦争であらゆる領域が戦場となりうる。すべての兵器と技術が組み合わされ、戦争と非戦争、軍事と非軍事、軍人と非軍人という境界がなくなる。>との主張がなされている。 

 これは私が主張する全領域戦の考えと合致する。

・日本人は、「平和がノーマルで戦争がアブノーマルだ」と思っているが、世界的には「平和がアブノーマルで戦争がノーマルだ」と思っている人たちが決して少なくない。

・しかし、「超限戦」では、<敵国に全く気づかれない状況下で、相手の金融市場を奇襲して、金融危機を起こした後、相手のコンピューターシステムに事前に潜ませておいたウイルスやハッカーの分隊が同時に敵のネットワークに攻撃を仕掛け、民間の電力網や交通管制網、金融取引ネット、電気通信網、マスメディア・ネットワークを全面的な麻痺状態に陥れ、社会の恐怖、街頭の騒乱、政府の危機を誘発させる、そして最後に大軍が国境を乗り越え、軍事手段の運用を逐次エスカレートさせて、敵に城下の盟の調印を迫る。>と主張しているのだ。

 まずは、この日本と中国のギャップを認識し、全領域戦で戦いを仕かける相手に対していかに対処するかを真剣に検討すべきだ。

(2022/5/26)

『戦争の常識・非常識』

戦争をしたがる文民、したくない軍人

田母神俊雄  ビジネス社  2015/8/22

・文民統制のほんとうの意味はご存知だろうか?

日本人が知らない軍事の常識・非常識35

「中国脅威論」も9割引して考えるのが正解!

<日本の危機管理体制>

・日本人には、とにかく軍隊の行動に制約をかけよう、軍が動かなければ戦争にならないし国民が不幸にならない、だから軍事について考えたり、論じたりすることも避けようという思い込みがあります。

 しかし、こうした思い込みは国民を不幸から遠ざけるどころか、タブーを増やし、軍事について考える機会を減らし、誤った軍事知識の横行を許し、結局は日本人を危険に晒しているのが現実なのです。

<戦争のできない軍事力は抑止力とならない>

・戦争ができる国は、戦争に巻き込まれない。戦争に巻き込まれるのは、戦争ができない国である。

・同様に、「核武装するよりは核武装しないほうがより国は安全である」というのも、日本以外の国では絶対に通らない非常識です。

 軍事力が強ければ、他国は戦争を挑んできません。プロレスラーに殴りかかろうとは思わないのと同じことです。だから、軍事力が強いほうが国は安全である。したがって、核兵器はもっているほうが安全に決まっているだろう、というのがごく普通の考え方です。

<【常識①】軍事的に強い国は、戦争に巻き込まれない。これを「抑止力」という。>

<核武装国同士は戦争ができない>

・核兵器についていえば、もうひとつ日本では非常識がまかり通っています。それは、核兵器が「攻撃兵器」だという見方です。

・核兵器はあまりにも破壊力が強大です。たとえ1発でも食らえば、その被害に耐えられる国家はどこにもありません。

 つまり、核兵器を使った戦争には勝者はいない。だから核武装国同士はけっして戦争ができないわけです。撃てば必ず相手も撃ち返してきて、両者が負けることになるからです。こんな愚かな戦争を仕掛ける指導者はいません。

「撃てるものなら撃ってみろ。必ず撃ち返すぞ」とお互いに牽制しあって戦争を抑止する。その意味で、核兵器は徹底して防御用の兵器なのです。

<【常識②】核兵器は徹底的に防御用の兵器である。>

<総力戦がなくなった時代>

・核戦争にかぎらず、国を挙げて戦争すること、つまり総力戦を国家同士が戦うことは、これからの時代にはまずありえません。先進国は世論の反発を恐れて国民が死ぬことを非常に嫌いますし、総力戦の犠牲はあまりにも大きすぎるからです。

 また、軍事力を強化するとすぐに「徴兵制が復活して若者が死ぬことになる」と警戒する人がいますが、これも時代錯誤としか言いようのない主張です。

 世界の軍隊は、徴兵制から志願制へ、という流れが圧倒的になっています。

・ところが、中国では一人っ子政策を長く続けてきましたし、年金制度も生活保護制度もないので親は子供の世話になるしかない。すると、まともな子供は絶対に軍にとられたくない、と親は考えます。結局、あまり期待されていない若者が「お前、行ってこい」ということで選ばれる。だから中国の兵隊は3分の1ぐらいは使いものにならないのが実態です。

<【常識③】徴兵制の軍隊は弱く、志願制の軍隊は強い。>

<文民統制の本当の意味は?>

・というのも、文民統制、シビリアンコントロールとは結局「戦争をやるかやらないかの判断を誰がするか」というだけのことだからです。

 戦争を始める決断は軍がやるのではなく、政治がする。そして、戦争をやめるときにも、「もうやめろ」と命じるのはやっぱり政治であって、軍ではない。軍は戦争をやれと言われれば一生懸命に戦い、やめろと言われれば即座にやめる。これがシビリアン・コントロールで、当たり前の話でしかありません。

・これは、日本の戦後教育のなかで、「軍部の独走によって戦争になった」といった教育がなされているせいもあるのでしょう。しかし、大東亜戦争でも、宣戦布告を行って戦争を始めたのは日本の政府です。シビリアンコントロールは旧軍にも働いていたのです。

・実際に歴史を見るならば、戦争をやりたがるのは軍人ではなく、文民であることのほうが圧倒的に多いことがわかります。

 戦前、日本が支那事変の泥沼にはまっていったのは近衛文麿首相の判断のせいです。1937年に南京が陥落した時点で、当時の陸海軍のトップ、陸軍参謀総長と海軍軍令部長(両方とも宮様だったので、実際には軍人であるナンバー2)は「戦争をやめてくれ」と近衛首相に哀願をしています。北からソ連の脅威が迫っているのに、中国と関わり合っている暇はないという合理的な判断です。

 けれども、近衛首相は「それでは中国になめられる」という論理で対中戦争を強行したのです。

・少し考えればわかることですが、軍人は戦争をやりたがりません。当たり前です。戦争になれば自分が死ぬかもしれない。自分の大事な部下が死ぬかもしれない。そんなことを好き好んでやりたがるわけがないのです。

 軍人はもっとも戦争をしたがらない人びとであり、安全なところにいる文民が軍人を使って戦争をしたがる。

・先ほど日本の戦後教育が軍人を悪者にした、と言いました。これは、さらにさかのぼってみると、大東亜戦争後の東京裁判で、アメリカが日本を分断する政策として「指導者のあの軍人たちが悪かった」というプロパガンダを広めたことが原因でしょう。

<【常識④】戦争をしたがらないのが軍人、したがるのが文民である。>

<軍隊の行動はポジティブリストからネガティブリストへ>

・これがなにを意味するかというと、自衛隊は国内法上根拠法令がなければなにもできないということ。なにもしてはいけない、というのが原則で、「こういうことをしてよい」という根拠規定(ポジティブリスト)が定められた場合だけ、例外的に自衛のための行動ができるだけ、ということです。

・有事の際、相手国はネガティブリストで動く。すなわち、条約と慣習法の集合体であるところの国際法が禁止していること以外はあらゆる手段を用いてくる。

<【常識⑤】根拠規定(ポジティブリスト)で動く軍隊は役に立たない。>

<日本を軍事的に自立させずに経済支配をするアメリカの戦略>

・日本が防衛出動発令までは集団的自衛権はおろか個別的自衛権さえ行使できない現状では、なにか事が起きないように日米安保でアメリカの抑止力に期待するしかありません。すなわちアメリカに守ってもらっている状況なのです。

<【常識⑥】武器輸出解禁は、日本が自立するために必要な政策である。>

<「核の傘」はどこまであてになるのか?>

・国際社会というものは、本当に腹黒で、ダブルスタンダードがまかり通っている熾烈な社会です。どの国も自分の国が儲かればいいと考えていて、その点はアメリカでもロシアでも中国でもみな一緒です。

・前にも述べたように、核兵器はあくまでも防御のための武器であり、抑止力でしかありません。

・「核の傘」も日米安保条約も、あくまで抑止力でしかないのです。だから日本は、一歩ずつ「自分の国は自分で守る」という体制に近づいていくしかない。そのことを日本人は自覚しなければいけないのです。

【常識⑦】「腹黒」な国際社会で生き残るには、軍事的自立は不可欠である。>

<日本をめぐる国際関係の常識>

<ウクライナで見えてきたもの>

・2014年3月の、ロシアによるクリミアの併合は、一度は終わったかに見えた東西冷戦の新たな始まりを画すものでした。

 日本ではあまり報道されませんでしたが、現在のウクライナ暫定政権は、2010年に選挙で選ばれたヤヌコビッチ大統領をクーデターで倒して権力を掌握したものです。つまり、民主的な手続きをふんでつくられたものではなく、なんら正当性をもっていません。

 その暫定政権が、ウクライナの憲法上の手続きを無視してクリミアの編入を決めたロシアを非難している構図ですが、果たしてそんな資格があるのでしょうか。どっちもどっちだと言わざるをえません。

・そのアメリカも、併合から1年が経ってもロシアに対する効果的な「制裁」はできていません。できるわけがないのです。ロシア自身が常任理事国である国連安保理では制裁を決議できないのはもちろん、実力的に見ても核武装国に対する軍事攻撃はありえないのは第1章で見た通りです。あらためて、核兵器は究極の戦争抑止兵器であることがよくわかるでしょう。

 一方では、今回のロシアの動きを見て、「帝国主義が復活する」などと言っている人も見受けられますが、そこまでいくとは私は考えません。

 国際社会がここまで緊密につながるようになり、情報が瞬時に世界を駆け巡る時代において、かつてのような大規模な侵略はほぼ不可能です。

大きな動きをしようとすれば、それだけ露見しやすくなる。昼に動けば夕方までにはすべてが世界に報じられてしまう時代です。

 新たな冷戦がどのようなものかは、こうした前提のもとで見ていかなくてはなりません。

<【常識⑧】グローバル化、情報化時代にかつてのような「侵略戦争」「帝国主義」は存在しえない。>

<中国の軍事力はアメリカに迫りつつある?>

・現在の世界情勢について、しばしば言われるのが「米中2軍事超大国」ということです。20年以上にわたって軍拡を続けた中国は、いまやアメリカに匹敵する実力を身につけつつある、というわけです。これはまったくの誤りです。軍事を知らない素人の誤解にすぎません。アメリカを10とすれば中国は1にも満たないでしょう。それくらい、アメリカの軍事力は圧倒的なのです。

<【常識⑨】「中国脅威論」は9割引きしてみればちょうどいい。>

<アメリカが本当に恐れていることは>

・では、アメリカが本当に警戒しているのはなにかと言えば、もちろんロシアです。軍事力で言えば、ロシアは中国とは比較にならないほどの脅威であることは言うまでもありません。

・このことに限らず、軍事においては「常に本当のことを言う」という正直な情報発信の仕方は得策ではありません。

 ですから、中国の「脅威」を言い立てるアメリカのように、自分たちに有利な情報を流す、そのためにウソもつくのは常識なわけです。

 それに加えて、もし本当のことしか言わなければ、相手方に情報収集能力を推測されてしまいます。自軍の情報収集能力を隠すためにも、時にはわかっていてもわからないふりをしなければいけない。また、わかってないこともわかっているような顔をしなければならないのです。

<【常識⑩】わざわざ「脅威」を否定する軍人はいない。予算を削られるからである。>

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