腰から下の壁が小銃弾の貫通に耐えることができる強い壁になっていたり、建てる方向も、「緊急時」に監視できるように、陣地的な形で計画的に造られている個人の住宅もある。(3)
<「敵」と共同演習をする意味>
・2014年のリムパックに中国を招待したアメリカの目的はいろいろあるでしょうが、最大の狙いは中国の情報を取ることです。
<【常識⑪】情報を取るためには、ある程度情報を取られることもやむをえない。>
<韓国の実力と北朝鮮の存在価値>
・おそらく韓国軍は、北朝鮮軍との戦いには問題なく勝てるはずです。
・ただ、北朝鮮が駄々っ子のように振る舞い、時々ミサイルを発射することで、日本は防衛力の整備をやりやすくなります。
<【常識⑫】現代戦を左右するのは兵器の能力。特に、空と海では決定的。>
<自衛隊はどこまで闘えるか>
<「実力」は安易に語れない>
・情報システムや戦闘機の性能を見れば、中国軍は「脅威」とはほど遠いのです。では、航空自衛隊と中国空軍の「どちらが強いか」という問いに答えるならば、くわしく前提条件を設定しなければいけません。実際の戦闘は、特定の条件下で起こるものだからです。
・はっきり言えば、防衛の現場にいる人間でなくては、本当のところはわからない。
<【常識⑬】軍事の「専門家」の多くは、現実の戦闘を知らない。>
<スクランブルで鍛えられた空自の防衛力>
・結論から言うと、敵の侵入に対して即応する、という守りの実力についていえば、航空自衛隊は世界一の水準です。
<【常識⑭】領空を守ることに関しては、航空自衛隊の実力は世界でトップレベルである。>
<中国軍に「勝てない」と思わせる自衛隊の実力>
・こうした実力の差は、中国の軍人たちは当然わかっています。実際に海上自衛隊と総力戦で戦えばまず負けると中国海軍の軍人たちは把握しているのです。だから、本気で戦争を仕掛けるつもりはない。
<【常識⑮】軍人こそが、自軍と相手の実力をもっとも正確に分析している。だから軍人は暴走しない。暴走するのは常に文官。>
<自衛隊の「強さ」はアメリカ次第>
・自衛隊は、米軍の友軍として行動するときは相当強い。しかし、仮に米軍と敵対することになると、これまで述べてきたような優れた能力はほとんど発揮できなくなってしまいます。
・このように、ソフトウェアの暗号をつくっているのはアメリカなのですから、基本的にはアメリカにしか中身はわからない。
・日本の自衛隊が使っているGPS端末は、言うまでもなくアメリカのシステムに依存しています。もしもアメリカがGPSのコードを変えれば、その瞬間から使い物にならなくなるわけです。
・長い間、「武器輸出三原則」によって、「輸入する分にはいくらでもしていいが、武器を売るのはだめだ」という方針をとってきた日本は、自ら首を絞めているようなものでした。
<【常識⑯】アメリカはいつでも自衛隊を無力化できる。解決策は武器輸出の解禁しかない。>
<中国はなにを狙っているのか――シミュレーション・尖閣>
<中国の「戦争準備」の真意とは>
・つまり、日本と貿易をやめた途端に中国経済はやっていけなくなってしまう。だから、戦争になっては困るわけです。その意味では、日本は中国の首根っこを押さえているようなものです。
このように、軍事的に考えても、経済的に考えても、中国が日本と戦争をすることはできないわけです。
<【常識⑰】「戦争の準備」を宣言することは、戦う気がない証拠である。>
<中国軍に尖閣を攻める能力があるのか>
・中国はいまのところ、日本と戦争をする気はまったくない。その準備も進めていない。
・つまり、中国空軍機は、たとえ撃墜されなかったとしても、燃料切れで東シナ海に落ちてしまうのです。
・ただでさえ、中国空軍はまだ組織だった行動をとる訓練ができていません。
<【常識⑱】現状の中国空軍には、尖閣で制空権を取る能力はない。>
<ロシアで見たスホイ27の実力>
・また、中国空軍の最新戦闘機であるスホイ27の実力にも疑問符がつきます。
・そこで、なにも映っていないスコープを見るしかなかったのですが、そのときに感じたのはスコープの小ささです。それは、航空自衛隊のF15のスコープと比べても明らかに小さかった。率直に言って、必要なデジタルデータを全部表示するのは難しいのではないかと感じたのです。
・これが現在の空中戦なのですが、いまだに無線で「右行け」「左行け」「高度を上げろ」「下げろ」と指示するような訓練をしているのが中国空軍です。こちらから無線の電波に妨害をかければ、一発で無力化します。この点でも、中国の実力はまだまだ、ということがわかります。
<【常識⑲】現代の兵器は「情報端末」でもある。この視点から見れば、実力は見破れる。>
<自衛隊がどうやって軍事的なプレゼンスを出すか?>
・このように、尖閣を中国は攻撃できるのか、と考えると、まず最初の航空優勢を取ることが中国空軍にとっては不可能だということがわかります。
<【常識⑳】軍事的プレゼンスをしっかりと見せることが、戦争を防ぐ。>
<竹島はなぜ、どうやって韓国が占有したのか?>
・戦って国を守る、という軍事的プレゼンスを明確に打ち出す。これを怠ったために、最悪の結果となってしまった前例があります。韓国に実効支配されている竹島です。
<【常識㉑】「不測の事態」を恐れる思考こそが、戦争を引き起こす。>
<中国が仕掛ける「情報戦」>
・そして、それを真に受けて「中国脅威論」を唱える、あるいは大人の対応、冷静な対応を唱える日本の評論家や政治家は、残念ですが中国との情報戦にすでに敗北しているのです。
<【常識㉒】平時でも情報戦は行われている。情報戦で遅れをとれば、戦わずして負けることもありうる。>
<情報戦としての「防空識別圏」>
・2013年11月に「東シナ海上空に防空識別圏を設定した」と発表したのも、こうした情報攻勢の典型例でした。
・そもそも、防空識別圏とは自国の空軍に向けた規定です。領空侵犯されないためにはこの辺から識別しなければいけない、ということで自国の空軍に向けて言っているだけの話なのです。言ってみれば「国内法」で、それを決めたからといって外国に対し影響を与えることはできません。これが現在の国際法なのです。
<【常識㉓】防空識別圏は、どこに設定しようと、その国の勝手である。>
<まがいものの軍事知識に騙されるな>
<自衛隊だけが知る真実の軍事情報>
・現代の戦争は高度な技術の戦いであり、防衛の現場では大量の情報が取り扱われています。しかも、それは普通に集められるような情報ではなく、特別な技術と体制があってはじめて収集・分析できる情報です。
したがって、正しい軍事情報を得られるのは、我が国では自衛隊だけであると言ってよいでしょう。
<Q① 「旧ソ連を仮想敵国とした日本の防衛は時代遅れ」は本当か?>
・だから、日本の防衛が、いまでもロシアを仮想敵としていることはなにも間違っていないのです。ロシアに対して備えることで、中国にも充分対応できるのです。
<【常識㉔】真に警戒すべき仮想敵は、騒いでいる国ではない。力をもった国である。>
<Q② 「米軍あっての自衛隊。単独ではなにもできない」は本当か?>
・結論から言うと、嘆かわしいことですが、その通りなのです。
・現代戦の帰趨を決するのはソフトウェアで、そのコードはすべてアメリカが握っているわけですから。
・2014年には、CIAがドイツのメルケル首相を盗聴していたことが問題になりました。このことからもよくわかるのは、アメリカはたとえ同盟国であろうと、徹底的な情報収集をする国です。つまり、根本的には同盟国を信用していない。このことは絶対に忘れてはいけません。
<【常識㉕】アメリカは、同盟国を信用していない。>
<Q③ 「日本は独力で尖閣諸島を守れない」のか?>
・日本は独力で尖閣諸島を守るだけの実力をもっている。このことはすでに明らかでしょう。
<【常識㉖】防衛力=能力×国を守る意思>
<Q④ 自衛隊は「継戦能力」が弱点なのか?>
・継戦能力が勝敗を決するほどの意味をもつのは、国同士が総力を挙げて、相手の国を徹底的に破壊するまで戦うような「総力戦」においてです。
<【常識㉗】現代の戦争において、「継戦能力」の優先順位はさほど高くない。>
<Q⑤ 「軍事力ランキング」はどこまで信用できる?>
・しかし、こうしたスタティックな軍事力を比較したところで、強さの比較にはなりえないことはもうおわかりでしょう。
<【常識㉘】「軍事力ランキング」はお遊びか情報操作の一環である。>
<Q➅ 正しい軍事知識の学び方とは?>
・そのためには、自衛隊の高官を務め、退職後10年以内ぐらいの人の話を聞くことが有効であると思います。
<【常識㉙】軍事のことは軍人に聞くべし。>
<「戦後レジーム」の正体>
<日本の地政学的現実>
・経済の相互依存関係が強まり、情報が一瞬にして世界を駆け巡る現代においては、あからさまに武力に訴えるという手段は使いづらい。
<【常識㉚】世界地図をひっくり返して見れば、日本の置かれている現実がわかる。>
<アメリカは中国になにもできない>
・現在では、アメリカは中国の脅威をしきりに煽っていますが、アメリカと中国の現実の軍事力の差となると、すでに述べたように10対1ぐらいの大差がつきます。勝負にならないと言っていいでしょう。しかもこれは、中国が20年以上2桁のパーセント以上の軍拡を続けたにもかかわらずです。
それでもアメリカが中国の脅威をしきりに訴えるのは、これ以上軍事費を減らすわけにはいかない事情があるからです。
アメリカの軍人たちは、実は中国の脅威などまったく感じていないはずですが、彼らは財政状況の悪化による軍事費の削減に脅かされています。
・ウクライナの件でも、結局、アメリカは動けませんでした。ロシアは核武装国であり、アメリカとしてもまさか戦争をするわけにはいかないからです。
・幸いにして、いまはまだ中国の能力が不充分なのですから、日本はいまのうちに軍事力を整備しなくてはいけません。
それは当然のこととして、もうひとつ、ぜひ考えなければいけないのは核武装です。核兵器は徹底的に防御用の兵器です。核の一撃を受けて大丈夫な国などありませんし、核攻撃をすれば必ず核による反撃を受けることになるわけですから、核戦争に勝者はいないのです。だから核戦争は誰もしようとはしません。
けれども、核武装をしたがる国が多いのはなぜなのか。言うまでもなく、核武装している国が国際政治を動かしているという現実があるからです。
<【常識㉛】国際社会のルールを決めているのは核武装国。一流国とは核武装国のこと。これが現実である。>
<「改革」という名の第二の敗戦>
・それは、具体的にはアメリカからつきつけられる「改革」の要求として表れました。1989~1990年の日米構造協議、その後1994年から2008年まで毎年行われた「年次改革要望書」の交換などがその典型例です。
・小泉内閣時代の郵政民営化をはじめとする「改革」は、そのひとつの頂点だったと言えるでしょう。
しかし、これらの「改革」のおかげで、少しでも日本は良くなったのでしょうか。「構造改革をして日本はいいほうに変わった」と言えるものがひとつぐらいあるのでしょうか。なにもありません。結局は悪くなっているだけです。
・要するに、これらの「改革」なるものは、「改革」という名の日本ぶち壊しでしかなかった。日本政府はアメリカの要求に基づいて、国の弱体化をしてきたというのがこの二十数年なのです。みずから弱体化して、世界の経済競争に勝てるわけがありません。
<【常識㉜】「失われた20年」とは、アメリカによる日本弱体化計画にほかならない。>
<アメリカの基本方針はdivide and conquer>
・アメリカ外交の基本方針は分割統治divide and conquerです。
・お人よしな日本人の感覚からするとずいぶんと腹黒い策略のように見えるかもしれませんが、本来、外交戦略で自国、相手国とは別の国をカウンターパワーとして使うのは当たり前です。
<【常識㉝】外交交渉では自国、相手国のほかに、カウンターパワーとなる第三国をうまく使うべし。>
<安倍政権の右にしっかりした柱が必要>
・日本の政治家は、大きく2つに分けることができます。親中派の政治家と、これに対する保守派といわれる政治家です。
しかしこの、保守派といわれる政治家の大半は、実はアメリカ従属派にほかなりません。嘆かわしいことに、日本には、日本のことを心底考える「日本派」の政治家がほとんどいないわけです。
この状況を変えるには、「日本派」の政治家が集まって政党ができ、一定の議席を占めるようにならなくてはいけないでしょう。
<【常識㉞】保守政治家はいても、「日本派」の政治家はいない。>
<本気で「戦後レジームからの脱却」を目指すために>
・安倍首相といえば、その就任以前から、「戦後レジームからの脱却」を旗印に掲げています。
・結局、日本がここまで弱体化してしまったのは、国のあり方を自分で決められなくなってしまったのは、要するにいままでのリーダーがダメだったからです。
どうダメかと言えば、自分がトラブルに巻き込まれないことを最優先していたということです。
・戦争で勝敗が決着すると、戦後秩序をつくるのは当然ながら戦勝国です。
<【常識㉟】自分を守ることを第一に考えるリーダーでは、国を守ることはできない。>
<日本は侵略国家であったのか>
・アメリカ合衆国軍隊は日米安全保障条約により日本国内に駐留している。これをアメリカによる日本侵略とは言わない。2国間で合意された条約に基づいているからである。我が国は戦前中国大陸や朝鮮半島を侵略したと言われるが、実は日本軍のこれらの国に対する駐留も条約に基づいたものであることは意外に知られていない。日本は19世紀の後半以降、朝鮮半島や中国大陸に軍を進めることになるが相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めたことはない。
<自分の国は自分で守らないと長期的に損をするのです。>
・しかもいざとなったらアメリカが日本を命懸けで守ってくれるかといえば、それは極めて確率が低いのです。日米安保は日本に対する侵略を抑止するためのものではあるが、万が一抑止が破綻した場合に機能する確率は極めてゼロに近いと私は思っています。
・国際社会とは徹底して腹黒なものだということがわかります。アメリカが日本を守ってくれるというのは幻想にすぎません。
とはいえ、正面から日本の独立を唱え、アメリカとぶつかると日本の政治家は必ず潰されるというのは歴史が証明しているところです。だから反米になることはできない。安倍首相が本音を語ったら、アメリカに潰されるでしょう。
『21世紀の戦争と平和』
徴兵制はなぜ再び必要とされているのか
三浦瑠麗 新潮社 2019/1/25
<いかに平和を創出するか>
・したがって、本書では平和について規範的な議論を行うものの、あくまでもそれが人びとの利害構造や自然な感情を土台として展開するように留意している。「間違った戦争をしてはならない」という規範を述べるにとどまらず、人びとが政治的感情をもつときに当然に介在するナショナリズム、同胞意識といった強い感情を受け容れる。その上で、ナショナリズムや同胞意識が、戦争を思いとどまるにあたってある働きをしていることを積極的に評価する。この点は、本書の重要な特色の一つだろう。ナショナリズムを活かした平和主義というと、かつてイギリスの知識人が、ナポレオンのフランスや軍国主義のプロイセンを見て、自らの国が優れた平和性を持つと主張したようなことを想起する人もいるかもしれないが、本書の主張はそれらと同列のものではない。むしろ自国を含めて国や社会のあり方を批判的に見つつ、ナショナリズムと同胞意識を平和に活かすという発想である。そこにおいては、「血のコスト」と、「負担共有」という発想がカギとなる。
・平和を求めない人は少ない。しかし、平和のイメージはそれぞれの国で異なるだろうし、国内でも平和を実現する手段をめぐって激論が戦わされる。そうした中で、ひとまず生存を確保した国家が熟慮すべきは、国家が軍という実力組織を有していることの意味と、その自己抑制の方法であろう。リアリズムの神髄は熟慮であり、それが欠けている社会に平和は訪れないからだ。
<変動期世界の秩序構想>
<変動期に入った世界>
<ポスト「冷戦後」はカオスか>
・冷戦が終結して四半世紀の時が流れ、世界は二極でも単極でもない、多極の時代になだれ込んだ。領土紛争や軍事的緊張が残存する地域では、国家間での古典的な勢力争いがエスカレートする危険をはらんでいる。長い雌伏の時期を経て台頭した中国や軍事大国ロシアの「失地回復」の動きも活発化している。他方で、2010年代初頭の「アラブの春」に存在した中東の民主化への期待は空しくしぼみ、破綻国家や自国民の生活を破壊する政府が作り出されてしまった。
・全てをカオスと見るか、それとも不確実性の中で世界が秩序や平和を取り戻そうとする調整の過程と見るのかによって、現在の一つ一つの出来事の解釈が違ってこよう。私たちは、最近、国家の方針転換や変化をいくつか目撃しているが、その解釈は定まっていない。例えば次のようなニュースである。
◎2016年3月29日、日本の安倍晋三政権下において集団的自衛権を容認する安保法制が施行された。
◎2017年5月7日、徴兵制復活を公約とするエマニュエル・マクロンがフランス大統領選に勝利した。
◎2018年1月1日、スウェーデンが2010年に廃止されていた平時における徴兵制を復活させた。
・結論を先取りすれば、これらの試みは、戦争を抑止し、平和をもたらす新たな構造を作り出そうとする国家の自助努力であると私は考えている。1945年以降の秩序に寄りかかっているだけでは、国家も平和も維持できない時代が到来したからだ。むろん、安全を確保しようとする試みはときに軍拡競争を生んでしまうという有名なジレンマがある。「合理的な行動」が不合理な結果を生んでしまう構造として、幾度となく指摘されてきた。だから国家の本能に任せていてはいけないのだという意見は正しい。けれども、いま私たちが直面しているのが単にそのようなジレンマを生んでしまう構造なのか、それとも先ほど提起したような、ポスト「冷戦後」へ向けた新たな対応という大きな文脈のなかで理解すべきことなのかは、検討してみなければわからないだろう。
<アメリカの内面化が与えたダメージ>
・これまで、西側の平和はアメリカが提供する圧倒的な公共財と投資、開かれた市場、それらを支える軍事力によって成り立ってきた。冷戦後には、東側陣営が西側の経済圏に組み込まれることでグローバル化が急速に進展し、公共財を提供してきたアメリカの力が持続することによって、世界はさらなる平和と繁栄を享受できるかに思われた。
・十年スパンの因果関係で考えてみる。すると、混乱の原因はアメリカのイラク戦争とアフガニスタン戦争に求めることができよう。これらの戦争で挫折し、国力を費消したアメリカが結果として内向きになったことで、世界は大きな転換点を迎えることになったからだ。
・およそ四半世紀続いた「冷戦後」という時代は、BREXITの国民投票とトランプ大統領当選があった2016年には明白に終わりを告げた、と私は考える。後世の歴史家は、時代の終焉の地点を私たちより明確に指定することができるだろう。
<民主的平和論はなぜ下火になったか>
・ここでいう方法論とは、「民主化こそが問題を解決する」という認識を指す。つまり、冷戦後の失敗の経験によって、人びとは「民主化がすなわち平和を意味しない」ということを痛いほどわかってしまったのである。急激な民主化は内戦を呼ぶ場合もあったし、民主化した後の世論が平和的だとは限らないことも分かってきた。
・民主主義であることに疑いがない国々の行動も、平和とは程遠いものがある。アメリカをはじめとする西側先進国が行った戦争も、決してなくなったわけではないからだ。イラク戦争、アフガニスタン戦争、レバノン戦争など、不毛な戦争がたびたび戦われてきた。これらの戦争は、民意によって後押しされた戦争であった。
<過去の安定に引きずられる危険>
・そこで、アメリカの存在感が低下していく将来の見通しを踏まえ、1945年以降の常識を前提としない現代的な平和のための処方箋を考えていく必要がある。そのためには、国際的な構造全体として戦争を抑止し、平和を実現する構想が必要であるが、その過程では一国の政策、つまり内政が支配する領域にも踏み込まざるを得ない。
<民主主義を前提とした同盟管理>
・「民主主義は最悪な政体である。これまで実在したほかのいかなる政体を除いては」と言われる。これは、民主主義の決定が合理的であるとは限らないが、だからと言って民主主義を否定するのではなく、他の要素を取り込んで民主主義を補強していくべきだとする考え方だと言い換えることができる。
・まとめれば、安保法制の位置づけは、東アジアにおける安全保障環境の悪化とアメリカの内向き化のなかで、日米同盟の信頼性を強化することで、軍拡競争に一国で立ち向かうことを避けようとするものだった。しかし、将来にわたって日本の民主主義が軍事行動に対して抑制的であり続けられるかどうかは、まだわからない。
<「シビリアンの戦争」の時代>
・民主主義を前提としたうえで、平和を実現するために調整を行わなければならない最大の理由は、民主主義が戦争を選んでしまう可能性があるからである。
経済的に豊かな先進国では、実際に戦場に赴き血を流すリスクを負う兵士たち、つまり「血のコスト」を負担する人びとは、往々にして一部の層に偏りがちである。それゆえ、こと総動員ではない限定的な戦争においては、「血のコスト」を負担しない統治者や市民層が、不必要で安易な開戦判断に傾く危険がある。
たとえば、2003年のイラク戦争のように、専門家である軍からすると必然性が低く、またリスクが高いと思われる戦争であっても、アメリカのような安定したデモクラシー国家では政治や民意の力が強いゆえに、軍の反対を押し切る形でよく考え抜かれていない攻撃的な戦争が起きてしまうことがある。私はこのような戦争を「シビリアン(文民)の戦争」と名付け、警鐘を鳴らしてきた。
・シビリアンの戦争は、総動員がかかるような大戦争ではないところに重要な特徴がある。限定的な戦争である限り、シビリアンが負う戦争のコストは相対的に低いし、「血のコスト」の負担は一部の階層に集中するので、現実の犠牲が国民全体に強く感じられることはない。現代の豊かな民主国家では、軍は厳正なシビリアン・コントロールの下にあるが、見方を変えれば、それは自らが戦争に行くとは考えない国民が兵士の派遣を判断していることを意味する。歴史を繙けば、実に多くの民主国家が、民主的正当性のもとに安易な戦争を繰り返してきたことがわかる。
・そこで前著では、「シビリアンの戦争」を避けるためには、国民が血のコストの認識を共有できるような仕組みを導入すること、つまり国民一般を対象とした平等な徴兵制を導入することを解として示した。
<「徴兵制」復活は何のためか>
・フランスのマクロン大統領による徴兵制復活の公約や、スウェーデンでの徴兵制復活の試みを、どのように理解することができるかを考えてみよう。
まずロシアの脅威が再び欧州を脅かしつつあることが背景にあるのは確かだろう。スウェーデン政府は、かつては軍隊の花形であった、対露
防衛の拠点であるゴットランド島への配属志願者が不足していることに危機感を持っている。フランスはロシアと共存しつつも、その勢力浸透に警戒心を抱いている状況だ。
しかし、兵器の高度化が進んだ現代戦においては、もはや徴兵制は軍事的には役に立たない。それどころか、軍隊が面倒を見なければならない素人が増えるだけで、むしろお荷物であるという評価の方が根強い。徴兵制の訓練には多額の予算が必要となり、ただでさえ苦しい軍事予算を圧迫する可能性があるからだ。現に、フランス軍は徴兵制の復活に否定的であった。
・反対に、スウェーデンでは、軍が徴兵制の復活を望んでいた。それは、端的に言えば人員が欠乏していたからであり、引き続き有能な軍隊を維持しようと思えば、志願兵だけでは定員を賄いきれなかったからである。
<変革期世界の秩序構想>
<平和を創るための5つの次元>
・1次元;大戦争の抑止、2次元:国際的取り決めと制度化、3次元:政府の意思決定における自制、4次元:紛争抑止と平和構築、5次元:人びとの敵意の逓減
・つまり、誰かが政府のように強制力をもって粛々と法執行してくれることが期待できない国際社会では、やはり核戦争に発展する恐れのない戦争は起きてしまう。
<国家の意思決定を拘束するもの>
・では、そのようなシビリアン・コントロールの下で、自衛や懲罰の目的で頻繁に起こる戦争を、この第3の次元である「政府の意思決定における自制」の段階で食い止めるにはどうすればよいだろうか。
「シビリアンの戦争」の経験に学べば、一つの考え方として、血のコストの担い手である軍のプロフェッショナリズムからなされる提言を、政治が重く受け止め、受け容れることがあげられよう。これは、民主主義が健全な判断をしにくいときに、非民主的な要素を持ってバランスするという考え方に基づくものである。
もう一つは、戦争における国民の負担共有を明示しておくことで、開戦決定の際に国民がそのコストを自覚した上で判断できるようにするやり方もあるだろう。特に血のコストの平等負担を課すことにより、国民の多数がより慎重で抑制的な態度を示すことを期待するというシナリオである。
<内戦を防ぐ次元の努力>
・第4の次元は、戦争抑止と平和構想、いわば内戦を防ぐための取り組みである。全世界が内戦のない統治の安定した国々であれば、そもそも第1から第3までの次元ではほとんどの戦争は防げる。しかし、実際にはそうではない。戦争がない状態というのは、何も対外戦争がないことだけを意味するのではない。近年、武力紛争の多くを占めているのは、むしろ内戦だからである。
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