ゴーストハンティングでは幽霊が出るといわれる場所について通常、系統立った調査をする。20世紀のもっとも有名なゴーストハンターは、ほとんどが米国と英国の中産階級の白人男性たちだった。(1)
(2023/10/25)
『イラストで見るゴーストの歴史』
アダム・オールサッチ・ボードマン マール社 2023/6/23
<はじめに>
・だが、人々はなぜ幽霊を信じるのだろう?ある人は文化や伝統の影響だという。幽霊は神話や伝説にも登場しているのだ。また、信仰には説明できないものに育まれる。
<幽霊とは何か?>
・幽霊は死んだ人の霊で、その人にとって生前重要だった場所の近くに潜んでいることが多いと考えられていた。英語のゴーストという言葉はゲルマン語で魂や諸神を意味する「ガスト」を語源とする。
どの時代でも多くの人が幽霊を見たと話している。幽霊との遭遇は、怪しく光る墓場の霊を垣間見たというものから、嵐の海で幽霊船を見たというものまで、幅広い。現代の説明とは別に、幽霊は神話や伝説を通じて伝承されてきた。
【伝説】伝説は人々と場所についての物語で、史実であることもそうでないこともあるが、たくさんの人々によって信じられているものである。
【神話】神話は聖書や古代ギリシャ神話のように信仰と強く結びついた物語だ。神話が出来上がるまでは数千年を要し、神秘的な現象の説明として使われることも多い。
<幽霊の種類>
・幽霊の性質は文化によって説明と定義が違うので、混同しやすい。
・エレメンタル(精)(妖精やゴブリン、魔物など)/ポルターガイスト(ドイツ語で騒がしい幽霊という意味)/伝統的な幽霊(安らかになれない死者の霊で、ひどくおしゃべりなこともある)/精神的痕跡(歴史的な出来事によって物質世界に取り残された霊姿)/危機と死を生き延びた姿(死に臨む人の友人や家族が見る霊姿)/タイムスリップ(ある地点にタイムトラベルで現れた幽霊で、歴史的な場所に突然出現する)/生き霊(霊能力者による精神的投影)/物体に取り憑いた幽霊(霊的な活動をみせる物体や媒介物)
<ホーンティングとは何か?>
・幽霊が決まった場所に住み着いていると信じられているとき、これをホーンティング(取り憑き)という。伝統的には、幽霊は自分が死んだ場所や自分にとって生前重要だった場所に取り憑くと考えられてきた。
・人々は奇妙な現象を多数目撃すると、ホーンティングが原因だと考えた。
・霊姿(幽霊としか思えない姿の全体または部分が見えた)/物体引き寄せ(物体が突然現れる)/電気的干渉(電灯が暗くなり電化製品が奇妙な動きをする)/幽霊が書いた文字(壁や鏡に書かれたメッセージ)/ノック音や足音(日常的な音だが、何が原因かわからないもの)/奇妙なペット(動物の奇妙な行動)/ファントム・ミュージック(どこから聞こえるかわからない音楽)/虚空からの声(はっきりしない囁き声や主のいない会話)/コールド・スポット(部屋が異様に寒い)/霊染(染みや印が出現する)/異常な負傷(ポルターガイスト活動の結果として報告されるこぶ、あざ、ひっかき傷など)/空中浮遊(物体が自ら宙に浮いているように見える)/憑依(人間は物や邪悪な霊に取り憑かれて勝手に動かされる)/ハイ・ストレンジネス(夢の中のような感じで起こる遭遇)
<懐疑的調査>
・超常現象だという主張をそのまま信じて受け入れずに、証拠を詳しく調べることを懐疑的調査という。歴史を通じて、懐疑論者だと自認する人々が有名な心霊現象の科学的な説明を提供すべく、調査を行ってきた。
・不安定な基礎(基礎部分に損傷がある建物は揺れたり、奇妙な音を発生させたりする)/配管(パイプやボイラーは、幽霊のような奇妙で多様な音を発生させることが知られている)/イカサマ(人々は様々な理由で偽の心霊現象をでっち上げる。一杯食わせてやろうというイタズラから、詐欺のための人だましまで、理由は幅広い)/幻覚(幻覚は、頭部の怪我や精神疾患が原因で起こることがある)/不気味な這い虫(クモやハエ、小動物などが記録装置のカメラの上を這って、幽霊と間違われることがある)/錯視(光と影のトリックが幽霊のように見えるもの)/超低周波(低周波の音が不安やめまい、吐き気などを引き起こすという研究結果がある)/パレイドリア現象(無関係なものにランダムなパターンを見出して、それに意味を与えてしまう現象)/金縛り(睡眠中に夢を見ているような状態で起きると、胸の上に重みを感じた幻覚を見たりする)/確証バイアス(目撃者が元々、超常現象を信じていると、他の説明を拒否することがある)/一酸化炭素(幻覚を見たりする)/電磁場(電磁場が人に影響を及ぼすかどうかは、今も激しく議論されている)
<近代以前>
<死後の世界>
・古代の神話の多くでは、幽霊は死後の世界に行くことを避けた死者の魂だと信じられていた。
【リンボ(辺獄)】
・カトリックの神学は、死んだ罪人はリンボ(中世ラテン語で「境」という意味)に行くとされた。魂は自由にリンボからさまよい出ることができて、この世に幽霊として現れるのだと信じられていた。中世ヨーロッパでは、リンボに行きたくないという人々に教会が免罪符を売っていた。
<ハントゥ>
・インドネシア、マレーシア、そしてこの近隣地域に住むマレー人は、ハントゥという霊について、多数の神話を発展させてきた。
<ダビー>
・カリブ海地方では、安らげない幽霊はダビーと呼ばれている。ダビー信仰はたどると西アフリカにさかのぼる。ダビーは動物のような形になることも、人間のような形になることもあると考えられている。
<幽霊の訪問>
・幽霊の集団が、現実世界をしばしば訪れる地域もある。これは悪い予兆だと考える文化もあるが、お祭りで幽霊を客として歓迎する文化もある。
【ラ・サンタ・コンパーニャ】
・大昔から、ポルトガルとスペインの人々は、伝説にある幽霊の行進、ラ・サンタ・コンパーニャ(聖なる訪問客)を目撃してきた。幽霊たちはガイコツの姿を白いフードで隠していて、集団の先頭にはトランス状態になった地元の人間がいる。この人間は翌朝起きたときには、夜の不気味な行進のことは全く何も覚えていないという。
・幽霊祭り(中国、マレーシア、ベトナムなどで大昔から続く祭り)/鬼王(儀式の中心となるのは大きな鬼王の絵姿)/最前列の席(目に見えない死者が座る席)/冥銭(死者への供物として冥銭という特別な紙を燃やす)/景色、音、匂い(幽霊を案内するために使われる)
<季節のお祝い>
・死者を祝う行事でもっとも有名なハロウィーンと死者の日で、一年のうちの同じような時期に行われる。現代知られているような形での祭りは、両方とも現代的にはカトリックの万聖節に基づいているとされているからだ。起源は同じといっても、2つの祭りはそれぞれはっきりと違う。
・死者の日(メキシコ)/死者を装う(カラベラは装飾を施した頭蓋骨のモチーフだ)/オフレンダス(祭壇)
【ハロウィーン】ハロウィーンは元々、11月1日の諸聖人の日、あるいは万聖節の前日のヨーロッパの祭りだった。時を経るに従って、万聖節イブがハロウィーンとなった。もっと古いケルト人の祭り、サムハイン(「夏の終わり」)がルーツだと信じる人々もいる。これは冬の始まりを告げるもので、アイルランドでは「超自然的な世界との境目が弱くなる日」だとされていた。
【トリック・オア・トリート】近所の住人を仮装して訪ねると、甘いお菓子が振る舞われる。この伝統は、人々が良からぬ霊を追い払うために動物の皮を身にまとったサムハインの祭りにさかのぼると考えられている。この他にゴシックな飾り付けをしたり、カボチャをくりぬいて飾ったり、ホラー映画を見たりする習慣も一般的だ。
<歴史に残るホーンティング>
・古い神話や伝説の他に人々は幽霊との遭遇を記録している。現存するもっとも古いホーンティングの記録は古代ギリシャのもので、多くの伝説や口承で伝えられているものと似ている。
【アテナイの幽霊】
ギリシャ アテナイ、紀元1世紀
・もっとも古いホーンティングの記録は、紀元1世紀頃の日付のある手紙に書かれたものだ。小プリニウスは友人に宛てた手紙の中で、古い幽霊屋敷の話をいささか面白がって書き記している。
【テッドワースのドラマー】
英国イングランド地方 テッドワース、1661-1663年頃
・1661年、地主のジョン・モンベッソンが英国で最初に記録されたポルターガイスト現象のひとつを経験した。この事件は、目に見えない太鼓を叩くような音と、モンペッソンの家の中の物体が動き回るというものだった。
【ゴーストハンター】グランビルは屋敷を徹底的に調べ、ゴーストハンターの先駆けとなった。グランビルの死後出版された『サドカイ派への勝利』(1683年)は、他の魔法、幽霊、魔女の妖術などの証拠とともにテッドワースでの体験を詳しく書き記している。
<魔物>
・神話や伝説では、魔物は人間ではない霊で、イタズラや邪悪なものと関連付けられている。伝統的な幽霊とは別の存在だが、魔物のホーンティングは幽霊のそれと非常に似通っていることもある。例えば魔物も、物体を移動させ、奇妙な音を立て、厄介ごとを起こすと信じられている。
【古代の神々】キリスト教の神話には、堕天使だとされている多彩な魔物が登場する。その名前の多くはモロクのように聖書以前の信仰に起源がある。
【イタズラな神(トリックスター)】ジンは様々な超常力を包括した存在で、トリックスターや願いを叶える霊として登場することが多い。
【幽霊な正体は魔物】16世紀、ほとんどのプロテスタントの主流組織はカトリックのリンボと幽霊についての信仰を拒否した。代わりに、悪魔と手下の魔物がホーンティングを起こしていると説いた。それにも関わらず、幽霊に対する民間信仰は根強く続いていった。
<霊との交信>
・何千年もの間、人々は魔法の儀式を通じて霊を招き寄せようとしてきた。祈祷師は召喚と喚起の2種類を区別している。召喚は霊を誰かに依るように呼び寄せるが、喚起は、サロンや秘密の地下室など霊にとって都合の良い場所に姿を現すように促す。霊を招く者は、霊が病気を治す手助けをしたり、知識を授けてくれたり、時には敵を攻撃してくれると信じていた。
・ノアイデ(ヨーロッパ北極圏の霊と話す者)/ジャアクリ(ネパールの祈祷師)/ムーダン(朝鮮半島の霊と話す者)/プラスチック・シャーマン(伝統的な祈禱は、他の文化の人々から不当に盗用されることがある。ネイティブアメリカンの運動家はこれをプラスチック・シャーマンと呼んでいる)
<怪しい古城>
・城に、幽霊の伝説はつきものだ。戦いの歴史、恐ろしい地下牢、そして歴史上の人物が、古城を幽霊の物語の完璧な舞台にしている。
・姫路城/バンガル砦/ズヴィーコフ城/エディンバラ城/プレドヤマ城/フーカス城/キニティ城
<護符>
・幽霊と邪悪な霊を信じることは、様々な文化において身を守る方策を発展させた。その方策は護符から儀式まで、あらゆる形と大きさのものが作り出されている。霊を避ける方策は、魔除けと呼ばれている。
【イフリート】古代エジプトと近隣の中東地域には、「殺人現場にはイフリートという、復讐心に燃えた霊が取り憑く」と信じる者がいた。霊を追い払うための儀式として、殺人現場に釘を打ち付けるというものがあった。
【レムレース】古代ローマ人は攻撃的な霊をレムレースと呼んだ。レムーリアの祭りの期間、ローマ人はにごやかなパーティーを開き、レムレースを追い払うための儀式として豆を投げた。
【ゴルゴネイオン】古代ギリシャ建築には悪霊を怖がらせて追い払うためにゴルゴン(ギリシャ神話の怪物)の姿の画像がしばしば掲げられた。彫刻、レリーフ、モザイク画などがある。
【クモの巣チャーム】北アメリカのオジブウェ族の人々は、古くからの伝説として、悪霊や悪夢を捕まえるためにクモの巣のようなお守りを作る。このチャームは現代では「ドリームキャッチャー」という名で呼ばれることが多い。
【グロテスクの彫刻】中世以来、ヨーロッパの教会や城には怪物の彫刻があしらわれてきた。怪物はあざ笑うような顔つきをしていて、悪霊や悪魔の進入を退けると考えられていた。グロテスク彫刻は雨樋に集めた水を吐き出す装置として、屋根の上にも置かれた。これはガーゴイルという。
【蹄鉄】中東起源の古い魔法儀式では、悪霊払いとして出入り口の上に鉄の蹄鉄をかけるものがあった。ヨーロッパでは、キリスト教と関連付けられるようになり、英国のダンスタン主教が悪魔を蹄鉄で追い払ったという10世紀の伝説が起源だとされている。
【邪眼】魔除け魔法のもっとも一般的な儀式は、邪眼から身を守るために護符を使うものだ。古代の地中海地方と中東の文化に起源がある邪眼は、人を狙って投げかける呪いの一種だと信じられている。邪眼の護符は、幽霊や魔物などに対してもよく使われている。
<コック・レーンの幽霊>
【コック・レーン】
英国ロンドン コック・レーン、1762年
・英国でもっとも有名なホーンティングのひとつは、18世紀のとあるロンドンの家で起こった。ファニー・ラインズの死後、彼女の幽霊は、自分が住んでいた下宿屋の部屋で物を叩いたり、引っ掻いたりして音を出すことで、現世の人々と交信しようとしているという噂が立った。
<19世紀>
<心霊主義>
・大きな悲劇を生んだ米国での内戦後、残された人々は新しく急進的な思想を求めた。改革主義、社会主義、女権拡張活動と並んで、心霊主義と呼ばれる宗教運動が台頭した。
【フォックス姉妹】
米国ニューヨーク州ハイズビル、1848年
・心霊主義はそもそも、交霊会(または降霊会とも書く)という儀式を通じて幽霊と接触しようとする試みだ。交霊会は1848年ニューヨーク州のハイズビル出身のフォックス姉妹によって広く知られるようになった。
【新しい宗教】心霊主義は霊媒師にとって利益を生む事業であることが証明され、遺族に悲しみからの解放をもたらした。この運動は特に白人の中流階級の人々の間で人気となり、間もなくヨーロッパに輸出された。
【神智学】1870年代、ウクライナ出身のオカルト主義者ヘレナ・ブラバッキーが心霊主義から派生した宗教運動を創造し、「神智学」と名付けた。神智学では「古代叡智の大師たち」と呼ばれる霊と交信会を行う。普通の死者の幽霊と異なり、大師たちは悟りを通して肉体と魂を分離した人間だと信じられていた。
<降霊術>
・心霊主義の最盛期には、霊媒師は個人のイベントや劇場での公演に引っ張りだこになった。「幽霊は光を嫌う」と霊媒師が主張したため、実演は暗闇の中で行われた。懐疑論者は、「薄暗がりの目的はトリックを隠すためでしかない」と述べていた。
【交霊会】もっとも人気のある交霊会の形式では、参加者は暗い部屋でテーブルのまわりに座って手を繋ぐ。霊媒師が集まりを主導し、幽霊からと見られるメッセージを伝えた。
<日本の幽霊>
【不気味な絵画】
・日本の「幽霊」は、かすかな霊、あるいはぼんやりした例という意味だ。19世紀、幽霊は芝居や木版画(浮世絵)の題材として人気があった。幽霊には様々なタイプがあり、それぞれが生きている間に耐えた苦しみの違いによってこの世に現れるといわれている。
1、怨霊(おんりょう) 自分を不当に扱った者に復讐しようとする幽霊、2、船幽霊(ふなゆうれい) 復讐を欲する怨霊のうち、海で死んだ幽霊、3、浮遊霊(ふゆうれい) 目的なく浮いてさまよう霊、
4、御霊(ごりょう) 高貴な人の幽霊のうち、自然災害などを起して恨みを晴らそうとするもの、
5、地縛霊(じばくれい) 目的のない浮遊霊に似た幽霊だが、特定の場所に縛り付けられている、
6、座敷童子(ざしきわらし) イタズラ好きな子どもたちの幽霊、
7、産女/姑獲鳥(うぶめ) 出産で死んだ母親の幽霊、
8、悲痛な女性 (絵画では、幽霊は通常、白い着物を着たやつれた表情で髪のもつれた女性として描かれている)
<北アメリカの幽霊伝説>
・北アメリカには非常に多くの幽霊伝説があり、ネイティブアメリカンの神話にさかのぼるものも、またヨーロッパから来た入植者の伝承に影響を受けたものもある。
【ベル・ウィッチ(ベル牧場の魔女)】
米国テネシー州ベル牧場、1817-1821年頃
・伝説によれば、ベル牧場は口うるさい幽霊に取り憑かれていた。地元の人々によれば、この幽霊は地元の魔女ケイト・バッツだという。
【グレート・ディズマル・スワンプ】
米国、バージニア州ノースキャロライナ州18世紀頃
・広大でアリゲーターでいっぱいのこの沼地は、13000年以上にわたって沿岸に住むネイティブアメリカンの人々の暮らしの場となってきた。
・「湖の女性」と呼ばれる幽霊は、霧の中から蛍に照らされてカヌーを漕いで現れるという。
<霊応盤>
【プランシェット】
・1850年代、ヨーロッパの製品デザイナーは、プランシェットという鉛筆を挟んで動かす車輪付きの小さな木製パレットを売ることで降霊術を商品化した。参加者がプランシェットの上に手を置くと、霊が手を導いて図形や字を書かせると信じられていた。
<人里離れた怪しい場所>
【デヴェンネク灯台】
・フランスのデヴェンネク灯台(19世紀)はかなりの量の幽霊の話の舞台となっている。
<心霊写真>
・19世紀は、写真家が写真スタジオや交霊会で撮影した「本物の」幽霊の写真を販売するのが流行した。
【ウィリアム・マムラーのメモラビリア】ウィリアム・マムラーは1860年代に、写真のネガを2枚以上重ねると、幽霊のような姿を映し出せることを発見した。マムラーの妻のハンナは、心霊主義界に精通した霊媒師だった。二人は顧客の亡くなった親族を主役とした写真を売るようになった。南北戦争後、米国には親族を失った人々を顧客とした大きな市場が存在した。二人の顧客となった有名人の中には亡くなった大統領の未亡人、メアリー・トッド・リンカーンもいた。マムラーは詐欺で告発され、裁判で無罪となったが、社会的な評価は大きく傷つくことになった。
<クラブと協会>
・19世紀、西洋では心霊主義が熱狂的に流行した結果、知識人やマニアは幽霊現象を研究、議論する団体を作った。奇妙な現象の研究は、流行に従って名称が変わってきた。一般的な用語としては心霊研究、超心理学、超自然現象研究、超常現象研究などがある。
【ゴースト・クラブ】ゴースト・クラブは1862年にロンドンで創立された。メンバーには影響力のある著名人が多く、作家のチャールズ・ディケンズ、詩人のW・B・イェーツ、科学者のウィリアム・クルックスなども所属していた。クラブは現在も活動を続けていて、もっとも長期間存続している研究団体となっている。
【心霊現象研究協会(SPR)】1882年に創立されたSPRは、テレパシー、催眠状態と交霊会のデータを収集した。SPRは現在も現地調査、分析、発表の活動を存続している。
【メタフィジカル・ラボラトリー】ハンガリーの化学者エレメア・チェンジジェリー・パップは、1928年から様々な実験を行った。研究室は中でも、霊媒師が何もないところから物体を突然出現させるトリックに焦点を当てた。パップは霊媒師たちにSF的なつなぎ服を着せて、手品のトリックができないようにした。
【フォーティアン協会】米国の作家チャールズ・ホイ・フォートの本『呪われしものの書』(1919年)は、奇妙な現象を一貫して収集した最初の本だと考えられている。
【国際心霊研究所(IMI)】フランスのIMIは1919年に、幅広い現象を研究する目的で設立された。ギュスターヴ・ジュレ博士などの分野で有名な研究者が霊媒師を精査する試みを指揮した。
【オーストラリア超心理学研究所(AIPR)】1977年に設立されたAIPRは幅広く超常現象を研究している。
【超能力研究】米軍のスターゲイト・プロジェクトは、1970年代に超能力を実用化するための方法を見つけようとした。リモート・ビューイング(遠隔透視)が敵の秘密を探るために使えるのではないかと信じていたのだ。
<20世紀>
<インチキを暴く>
・20世紀、懐疑主義者は幽霊信仰のインチキを暴こうとし続けた。幽霊を信じるのは迷信と霊媒のインチキの結果だと信じる人が多かったのだ。米国のマジシャン、ハリー・フーディニは、霊媒師たちがインチキと決まりきったトリックで、悲しむ遺族から金をだまし取るのを見て呆れていた。ローズ・マック・マッケンバーグはフーディニのインチキ暴露作戦に基づく捜査活動を率いていた。証拠を集めるためにマックは様々な独創的な変装をして潜入調査を行った。
<想念形態>
・オカルトでいう「想念形態」は、霊能力で考えを移転させることだ。神智学協会のメンバー、アニー・ベサントとC・W・リードビーターは1909年の著書『思いは生きている-想念形態』でこの現象を「放射される波動と浮遊光」として説明した。焦点が外れた想念形態は、幽霊のような現れ方をすると信じた信者もいた。
【抽象美術】想念形態はこれを主題とした鮮やかで想像力豊かな絵画があった。流行遅れとなった19世紀のリアリズムから逸脱したこの美術は、急成長中の多くの抽象主義の画家たちに影響を与えた。ワシリー・カンディンスキー、カジミール・マレーヴィチ、ピエト・モンドリアンなどの画家はすべて、心霊主義者と神智学の説くところから発想を得ている。
【タルパ】想念形態はチベットのタルパ(応身/化身)という概念に似ている。タルパは精神または霊的な力が作りだした物体や存在だ。タルパは、人や動物として自分自身の人生を歩むとされている。ゴーストハンターのエド・ウォーレンは、ビッグフットのようなUMA(未確認動物)は、実は霊能者が作り出したタルパなのかもしれないと推測している。
<幽霊が出る廃墟>
・廃墟をさらけ出した家は、かつてここで暮らしていた人々の謎めいた記念碑だ。廃墟から悲劇的な様子を見せるようになると、幽霊の伝説が宿される。20世紀になって、自動車と飛行機の登場により、人々が個人的に幽霊が出ると言われる場所を巡る旅へ出られるようになった。
<ゴーストハンター>
・ゴーストハンティングは幽霊が出るという話を調査し、幽霊であるという証拠や合理的で科学的な説明を求める仕事だ。特別な教育体系があるわけではないが、ゴーストハンティングでは幽霊が出るといわれる場所について通常、系統立った調査をする。20世紀のもっとも有名なゴーストハンターは、ほとんどが米国と英国の中産階級の白人男性たちだった。
<戦争と幽霊>
・戦場では人が苦しんで死に、病気も蔓延するため、幽霊が出ると考えられることが多い。20世紀中は、愛国的な寓話や心理戦で、こうした幽霊を積極的に取り上げた。
【モンスの天使】
・1914年、ウェールズ出身の小説家アーサー・マッケンが戦場の幽霊を題材にした短編小説を新聞に発表した。この作品は、第1次世界大戦中のこの年、ベルギーのモンスでドイツ軍と戦っていた英国軍の部隊の前に、アジンコートの戦いにおいて活躍した「弓兵」の幽霊が援軍として現れ、追い詰められていた部隊は全滅を免れるというものだった。発表後、マッケンは驚愕のうちに読者が自分の創作を事実として信じてしまったことを知る。英国のジャーナリスト、デイビッド・クラークは、短編がイギリス政府関係機関によって戦争プロパガンダとして推奨された可能性を指摘している。
<最恐の心霊スポット>
【ポーリー牧師館】
英国エセックス州ポーリー、1927-938年
ゴーストハンターのハリー・ブライスが「英国でもっとも幽霊が出る家」と説明したポーリー牧師館は、数十年にわたって多数の心霊現象と調査が行われてきた場所だ。
<リミナル・スペース>
・幽霊が出るという心霊スポットの中には、恐ろしい景観のせいで評判を得ているものがある。トンネルは光と闇を繋ぐので、リミナルスペース(異なった場所を繋ぐ通路)となる。世界中で多数のトンネルが心霊スポットだとされていて、幽霊の厄介な伝説がつきまとう。
【清滝トンネル】
日本京都、1929年
日本の清滝トンネルは超常現象好きの観光客に人気のある心霊スポットだ。だが、複数の不愛想な看板が訪問客に、車が走るトンネルに徒歩で入る危険を警告している。
<お化けアトラクション>
・20世紀の技術者は、いつでも都合よく出現してお金を稼いでくれる幽霊の代役として模擬アトラクションを作った。もっとも人気のあるアトラクションであるお化け屋敷と幽霊列車は、現在でもテーマパークやイベントで見ることがあるだろう。
【幽霊列車】幽霊列車ライドが最初に登場したのは1930年、英国イングランド地方の遊園地ブラックプール・プレジャー・ビーチだった。
【お化け屋敷】お化け屋敷アトラクションは、恐ろしい装飾とお化けを演じる俳優が一杯の構造物を客がさまよい歩くというものだ。アトラクションとしてのお化け屋敷は1920年代の米国で目立つようになったが、舞台マジシャンが企画することが多かった。
<タイムスリップ>
・「別の時代や場所に遭遇した」と報告する人々がいる。英国の詩人で心霊研究者のフレデリックW・H・マイヤーズはこれを遡及的認知と呼んだ。一般的にはタイムスリップと呼ばれているもので、幽霊のような姿や幻のような光景を特徴とする体験だ。
【フランス ベルサイユ宮殿】1901年英国の学者シャーロット・アン・モバリーとエレノア・ジュールダンが、18世紀のべルサイユ宮殿に迷い込んだという。懐疑論者の推測の一つは、二人が前衛アート的なLGBTQ+パーティーに遭遇したというものだ。ちょうどこの時期に耽美主義詩人のロベール・ド・モンテスキューが華麗なドレス仮装パーティーをここで開いていたのだ。
【英国リバプール ボルド・ストリート】ボルド・ストリート周辺でタイムトラベルしたという話はいくつかある。一例では、警官が短い間、1950年代のファッションの人々と店に囲まれていることに気がついたという。1967年にいる自分を発見して驚いた、ある男性の話も新聞記事になっている。
【コンゴ川流域 モケレ・ムベンベ】モケレ・ムベンベは中央アフリカで目撃されたという竜脚類恐竜だ。「竜脚類が奇跡的に絶滅を免れた」と言う人もいるし、「この動物がたまたま劇的にタイムスリップしてしまった」と信じる人もいる。
<ドッペルゲンガー>
・ドッペルゲンガー(ドイツ語で「二重に歩く者」)は生きている人々の幽霊のような分身だ。こうした分身の行動だとされているものは、不気味なものから平凡なものまで多岐にわたる。超自然についての概略書として名高いキャサリン・クロウの『自然の夜側』(1848年)では、ドッペルゲンガーは、人が病気のときか眠っているときにもっとも目撃されると述べられている。心理学者は、この現象は「自己像幻視」という幻覚だとしている。
<20世紀中頃>
<乗り物の亡霊>
・20世紀、車社会がどんどん当たり前になっていくと、車の調子がおかしいのは幽霊に取り憑かれている証拠ではないかと疑う人も出てくるようになった。地上、空、海に出るという乗り物の亡霊は、都市伝説の常連だ。
<異次元>
・幽霊は別次元からやってくると考えている人たちもいる。この仮説は、特にUFO研究家に人気で、SFではよくある設定となっている。
【マゴニアへのパスポート】天文学者でUFO研究家のジャック・ヴァレは、著書『マゴニアへのパスポート』(1969年)の中で、20世紀のエイリアンやUFOとの遭遇と、妖精界のような神秘的な場所からやってきた自然の精などの歴史的な物語を比較している。ヴァレは「すべての超常現象は、異次元の力によって起こっているのではないか」と示唆している。
【ゴブリン宇宙への旅】英国のジャーナリスト、テツド・ホリデーの死後に出版された『ゴブリン宇宙』(1990年)は、ネス湖の怪物からポルターガイスト、UFOまですべてが高い知性を持つ存在だとしている。その後、話が脱線して進化論の批判に及ぶのが厄介である。
【エセリアより愛をこめて】1950年代、米国の超心理学者ミードレインは、UFOは彼がエセリアと名付けた異次元からやってきているという説を唱えた。レインは「エセリア人が接触してきている」という霊媒師マーク・プロバートとの会話を元にこの推測に至った。
<不快な渦>
・一部の超常現象の専門家によると、異常な現象を地図上に落としていくと特別な特異点が明らかになるという。
【レイライン】1920年代、英国のアマチュア考古学者のアルフレッド・ワトキンスは、「古代遺跡は意図的に線上に並んでいる」という説を立てた。ワトキンスはこの並びを「レイ」と名付けた。当時の専門家たちは否定したが、この説は1960年代の超常現象研究家の間で人気となった。レイラインは魔法に満ちていて、心霊現象の原因となり、UFOを呼び寄せると彼らは信じている。
【バミューダ・トライアングル】この北大西洋の大まかな海域は、数多くの消失事件で知られている。もっとも有名なのは1945年米海軍の5機からなる第19飛行部隊が同時にすべて消失した事件だ。この説の一部の信奉者によれば、バミューダ・トライアングルは世界最大の心霊地域かエイリアンがはびこっている場所なのだという。
【ドラゴン・トライアングル】この海のトライアングルは日本の南にあり、何隻かの船が消失している。
<幻の動物>
・動物のような形で現れた幽霊を目撃した人もいる。未知動物学(UMAを研究する学問)では、こうした動物をクリプティッドと呼ぶが、幽霊とモンスター(怪物)、UMAの違いは文化によって説明が多様なためにはっきりしないことが多い。
【ネス湖の悪魔払い】一部のUMA研究家は、ネス湖の怪物は奇跡的に絶滅を免れた古代の生き物だと信じている。だが1975年、教区牧師がこの有名な生き物に対して悪魔払いをしようとした。彼は、「これは悪霊で、地元地域で心理的にアルコール依存と鬱病を引き起こしている」と信じていたのだ。
<幽霊の出る病院と学校>
【ポヴェーリア島】
ヴェネツィア イタリア、1960年代頃
ヴェネツィアの潟にあるポヴェーリア島は、18世紀に隔離用の島となった。100年以上に渡って隔離地域となり、多くの腺ペスト患者がここに置き去りにされて死を待ち、その死体は火葬されるか集団墓地に埋葬された。1922年に島の建物は精神病院に改装されて、その後1960年代に閉院、廃墟となった。2016年、5人のアメリカ人観光客が恐怖のあまりゴーストハントを放棄して島から救出された。
<メディアの中の幽霊>
・映画の中に初めて幽霊が登場したのは、フランスの映画監督ジョルジュ・メリエスの『悪魔の館』(1896年)だ。この時代の作品の典型で、幽霊は白いシーツを被ったひらひらする姿で描かれている。その後、何十年もの間、幽霊は映画、テレビ、テレビゲームに登場し続けている。
<ポストモダン期>
<ハイゲイト墓地>
・ポストモダン期になると、テレビや新聞のマスメディアを舞台として、ホーンティングが素早く、広く伝えられるようになった。あるメディア由来のヒステリア(社会現象的パニック)のケースとしては、怪奇小説的なビクトリア朝のハイゲイト墓地に、超常現象研究家、墓荒し、自称エクソシストが押しかけたlことが挙げられる。
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