このように日本が弱体化した最大の原因の一つが、総合的なインテリジェンス力の弱体化であることは間違いない。戦後日本は、インテリジェンスの重要性をあまりに軽視し過ぎた。(5)
<「新聞はウソを伝える」が中国では常識>
・私が小学生の時代から高校に至るまで、「新聞」とはウソを書くものというイメージがあった。それが台湾人共有の「常識」だった。大陸から逃げてきた国民党の蒋介石・経国の親子が総統として台湾を統治する時代だったからである。人類史上最長の戒厳令下で、新聞だけでなく、電波禁止法まであった。
・私が高校を卒業するとき、父・蒋介石の後を継いで総統になった経国は、なおも300曲以上の「禁唱」、つまり歌ってはならない歌曲を発表した。「禁唱」といわれたら、声を出さないか、心の中に秘めて歌うか、あるいはトイレに隠れて小さな声で歌うしかなかった。友人の兄はバイオリンが好きで、たいていの曲が弾けた。だから、共匪(中国共産党)のスパイ容疑で逮捕され、獄死した。
私の青春時代は、謀反の計画を知って密告しないと、謀反者と同罪で捕まるという社会で過ごした。だから、学生と市民は街を練り歩きながら、「匪諜(スパイ)自首」の歌を大きな声で歌い、共匪のスパイが自首することをしかたなく呼びかけたものである。
密告によって捕まった人物の財産は全部没収された。当局は密告を奨励するため、没収財産の40%を密告者に渡していた。つまり、密告が手っ取り早い金儲けの手段となっていたのである。「密告業者」も百鬼夜行していた時代だった。私も「僥倖な生き残り」といえるかもしれない。
・ときは移り、世も変わる。1990年代に入って、私は29年ぶりに祖国の土を踏むことができるようになり、言論も随分と自由になったが、地下放送は300以上もあった。新聞はメディアとして没落しつつあったが、ウソばかりの「烏龍記事」が残り、テレビやラジオもウソとマコトを混同した「烏龍報道」を性懲りもなく伝えていた。「言論」はかたちを変えただけだったのである。
・どこの国でも、たいていの女性は男性に比べ、暮らしには敏感だ。1960年代に台湾から欧米へ留学生として出国した女性から話を聞くと、一様に「いままでの人生は『白活』につきる」という声が返ってきたものである。「白活」とは、「ただ生きているだけ」という意味だ。
私のような同時代人からすれば、じつに感無量のひと言である。しかし、「白活」という人生観でさえも、私には贅沢だった。私のある友人は、高校生のときに逮捕され、大学にも進学できなかった。入試のない「牢屋大学」で7年間も学んだのである。「僥倖な生き残り」の者たちは、「白活」以上の悲惨な暮らしだった。
私たちが生きてきた「中華民国」は自称「自由中国」である。しかし、「自由中国」なるものを僭称していたにすぎない。
・どういう中国であろうと、古代から今日に至るまで、国がもっとも恐れているのは、やはり「民」である。私の若いころは、「3人以上同行してはならない」という規則があった。もしその規則を破れば、謀反を企てたと見なされかねない。だから、3人以上集まらないように、いつも気にしていた。もちろん、中国にも同様なタブーがある。
・中国のインターネット警察は、人員300万人といわれているが、いわゆる「五毛党」を含めると、実質はもっと多い。五毛党とは、ネット世論を操作して誘導するために政府に雇われた「ネット工作員」のことだ。ネットで政府寄りの書き込みを一つすると、5毛(0.5元=約6円)もらえるということから、その名がつけられた。
<世界市場の80%のニセモノが中国産>
・中国は堂々たる「ニセモノ大国」として有名だ。世界でもっとも知られているのは、「世界市場に出回っているニセモノの80%が中国産」だということだ。ちなみに、その次は韓国産である。何でも「世界一」を好む韓国人だが、いくら頑張っても、ニセモノづくりは中国には敵わない。
ひと昔前なら、「世界一聡明なのは、大国人(支那人)、韓国はその次」だった。韓国が大国人の次に屈せざるをえないのも当然である。やはり国家規模も人口も中国には劣る。スケールがまったく違うからだ。しかし、ニセモノやパクリに関しては大差がない。大中華と小中華は、大と小の差だけだろう。
・「ないものはない」とまでいわれる中国である。ニセモノが出ないのは、核兵器と戦闘機や旅客機くらいだ。それ以外はだいたい揃っている。たとえば、戸籍名簿、営業許可証、伝票、領収書などの書類なら、多くの企業や個人が何かと便利なので、よく利用している。ニセ領収書やニセ伝票を使っていない企業に至っては皆無だろう。それは中国企業の慣行ともいってもよい。
大卒、修士、博士のニセ証明書となると、80元から100元で販売される。ニセの大学卒業証明書には、ご丁寧に4年間の成績表までついているというから驚く。そのサービス精神には頭が下がる。もちろん、購入者の希望に合わせて、どの大学でも大丈夫である。おもに就職活動に重宝されているようだ。ニセ結婚・離婚証明書は、未婚のカップルがホテルに宿泊する際に欠かせない。公安当局の取り締まり対策である。銀行融資の書類としても必要だ。
しかし、こんなニセ書類の氾濫に、もっとも頭を抱えているのが、日本の法務省だろう。ことに中国人留学生の書類審査では、どれがニセ書類でどれが本物か見分けがつかず、お手上げに近い。
・ある中国人から、「中国の食品については、中国人でもこわい。だから、日本での生活のなかでも、中国産食品はやたらに買わない」という話を聞いた。私は台湾に行くたびにお土産を買って日本に帰ってくるが、友人からよく「中国製だから買わないほうがいい」と注意されたものだ。
日本に来ている中国人たちも中国産食品を信用していない。たとえタダ同然の値段であっても買わないのである。ましてや、わざわざ日本で中国産食品を「爆買い」するバカはいないだろう。中国人たちは、自分たちの食品に、こんな評価を下している。
動物を食べたら、激素(生物ホルモン)がこわい。
植物を食べたら、毒素がこわい。
飲み物を飲んだら、色素がこわい。
何を食べたらいいのかわからない。
<ウソから生まれた人間不信の社会>
・「詐欺師だけが本物」の社会だから、人々はごく自然に「人間不信」になってしまう。当然、信頼関係は成り立たないので、一匹狼のみが生き残る条件になり、さらに自己中が加わって中華思想が生まれたのだろう。また、そういう社会の仕組みから、ウソが生きるための必要不可欠の条件となった。そんなメンタリティが国風となり、国魂にまでなったのである。こういう社会のエートスから言行に現れるのは、ウソにまみれたビヘイビアしかない。
もちろん、それは現代中国だけではなく、古代からすでに人間不信の社会だから、伝統文化にもなり、「騙文化」とまで呼ばれる。
・人間不信の社会だから、「男子門を出ずれば、7人の敵あり」という諺どころではない。「門前の虎」や「後門の狼」がうようよいるのだ。
それ以上にこわいのは、「門内」である。女子は男子どころではなかった。門を出なくても、門内では骨肉の争いが繰り広げられたからだ。それがいちばんこわい。
ことに中国社会では、古代から氏族、宗教、「家天下」とまでいわれる一家一族の天下だから、一家一族の絆は強いという「家族主義観」を常識としてもっている。しかし、それは常識であっても、決して「良識」ではない。一家一族にこだわるあまり、親族間の利害関係から権力争いに発展することも日常茶飯事だ。
中国では「妻まで敵」ということを知る人は少なくない。しかし、所詮「夫婦は他人」だ。中国では、親子、父子、兄弟姉妹の争い、いわゆる骨肉の争いが日常的だ。というよりも、利害関係がからむと必然的に起こるものである。母と子、父と娘でさえ、例外ではないのだ。
比較的よく知られるのは、則天武后が娘を殺して、皇后と王妃の座を争い、自分の腹を痛めた皇太子まで殺したことである。
・中国史を読むかぎり、骨肉の争いは決して希有や限定的な歴史ではなく、伝統の国風である。ことに上にいけばいくほど、骨肉の争いがより激しくなり、数万人もの人間が巻き添えになることもあるのだ。九族まで誅殺されることも少なくない。それが歴史の掟であり、定めでもある。
ニセ書類、ニセ札、ニセ学歴と、ニセモノなら何でもある中国では、ニセ銀行や周恩来のニセの公文まで登場した。ニセモノが氾濫する社会だけでなく、「汚職・不正をしない役人はいない」といわれる国である。国富を私財に換える役人も跡を絶たない。御用学者の鑑定によれば、その総額はGDPの十数%だが、実際はGDPの4分の1から2分の1にものぼるといわれる。
<「詐道」を貴ぶ中国兵法>
・中華世界最大の本質は、「戦争国家と人間不信の社会」として捉えるべきだ。仏教の因果、輪廻の思想でいえば、戦争が「因」で、不信が「果」である。
・だから、「鈍」と「誠」をモットーといっている日本人は、中国人にとって、もっとも「いいカモ」である。騙されても、また懲りずに騙されるというのも、この発想法の違いからくるものではないだろうか。
<「厚黒学」が「論語」に代わってはやる理由>
・では、なぜ近年になって、「厚黒学」ブーム、しかもビジネスの聖典として再燃したのだろうか。中国人の「欲望最高、道徳最低」の現実については、民間学者だけでなく、国家指導者に至るまで語りはじめた。
「厚黒学」はただ反伝統・文化の逆説ではない。中国ではこの厚黒史観が広く認知されるようになった中国人がますます面の皮を厚くし、腹黒く進化していることも実証され、実感もされている。このウソだらけの社会をいかにして変えていくかと思う中国人は、すでにいなくなった。中国から逃げ出せない人だけになったのだ。
いかに、「詐欺師だけが本物」の社会で厚かましく、腹黒くという処世術で生き残ればいいのか。「厚黒学」はまさしく処世の聖典としてブームとなったのである。
<香港と台湾問題から瓦解する中国>
<民主化した台湾と独裁に戻った香港>
・しかし、それこそ独裁政権の中国の反発するところであった。21世紀に残された覇権国家・中国は、日本列島とフィリピン諸島とのあいだにある島、台湾をあくまで「自国の領土」だとして取り込もうとしている。
<天意と民意をめぐる中台対立>
・1993年8月、中国政府は全5章、1万2000字からなる「台湾白書」を発表した。
・その白書いわく「台湾は古来、中国の領土である。古代には夷州、琉求と呼んだ。秦漢代には船による往来があり………」と書かれており、台湾は2000年前から中国の一部であったという主張である。
<史書には「台湾は古来、中国に属していない」と書いてある>
・前述したように、中国はさまざまな歴史書をもちだしては、台湾が中国の絶対不可分な一部だったことにこじつけようと必死だ。日本が遣隋使を派遣した隋代に1万人以上の兵を台湾に派遣したとか、17世紀には10万人もの中国人が台湾に渡っていただとか、明代から台湾は中国が統治していただとか、なんの根拠のない話をでっち上げる。
<中国は台湾を日本の領土と見ていた>
<「野蛮で危険な台湾などいらない」と中国は言っていた>
・現在の中国政府がなぜ台湾を自国の領土だと主張するのかといえば、それは清国時代の領土を継承した正統政府だと自認しているからにほかならない。歴史も言葉も異なるモンゴル地域、中央アジア、チベットまでも「中国」となっている現状がその結果である。ただし、外モンゴル、すなわちモンゴル国が領土に入らなかったのは、ソ連(当時)の力に勝てなかったからだ。
<中国の法的根拠「カイロ宣言」は存在しない>
・中国が台湾領有の根拠としているのが、「カイロ宣言」と「ポツダム宣言」である。
・先にあげた2000年の「台湾白書」には、
1943年12月、中米英3カ国政府が発砲した「カイロ宣言」の規定により、日本が奪い取った中国東北、台湾、澎湖諸島などを含む土地を中国に返還しなければならない。1945年、中米英の3カ国が調印し、のちにソ連も加わった「ポツダム宣言」は「カイロ宣言の条件を実行しなければならない」と規定している。同年8月、日本は降伏を宣言し………10月25日、中国政府は台湾、澎湖諸島を取り戻し、台湾への主権行使を恢復した。
と記されている。これははなはだしい曲解である。ところが、日本の有識者のなかには中国の身勝手な言い分をそのまま受け入れ、「1945年、台湾は日本から中国に返還された」と書く人がいて、腹が立つというよりあきれてものも言えない。
日本は占領地を「返還」などしていない。「放棄」したにすぎないのである。
<台湾関係法とアメリカの戦略>
・アメリカの「台湾関係法」は中国と関係を結ぶ一方で、東シナ海におけるアメリカの覇権を維持するためのものだが、その基本は「中華民国」が自由主義体制として認められたからである。
<台湾が大反発した中国の「半国家分裂法」>
・2005年3月、中国の第10期全国人民代表大会で「反国家分裂法」が決定された。この法はこれまでの「白書」の記述をさらに一歩進め、軍事力をもってしても必ず台湾を中国の一部とすることを示している。
<台湾人は「中国人」ではない>
・台湾は当然、中国の一部であるという中国の一方的な言い分を考えなしに天真爛漫に信じている一部の日本人は、中台統一を支持することこそリベラルだと思っているから困る。しかも、「同じ中国人なのだから、統一したいと思っているだろう」と言う者も多い。
・しかし、いったい台湾人民と大陸の「中国人」が同じだと言えるのだろうか。台湾では明らかに大陸の人種とは異なる東南アジア系の人種がもっとも古い住民である。彼らのことを台湾では、もともとの民族という意味で「原住民」と呼んでいるが、中国では「高山族」と呼び、日本は台湾を統治していた時代、「高砂族」と呼んでいた。
台湾というこの島の歴史と文化を考えるとき、原住民の存在を抜きにしてはならない。ところが、かつて中国の国家最高指導者であった江沢民は「高山族は人口のたった2%にすぎない」として無視し、そのほかの多数が「同じ中国人」だからという理由で統一の正統性をでっちあげた。
<台湾島の中の台湾民族主義の大中華民族主義>
・彼らは規律正しい日本軍とは正反対で、豊かな台湾人たちの生活を見て目がくらみ、台湾人の財産を掠奪しはじめたのだ。これは敵の財産は奪ってよいという中国古来の弱肉強食の戦争と同じ観念である。
末端の国民党軍兵士たちだけではない。国民党軍は指令第一号の降伏受け入れという命令を拡大解釈して、旧日本軍の軍用機、戦艦をすべて接収し、20万もの兵士を2年間支えることができるだけの装備や軍需品、医薬品、食糧を国民党軍のものにした。さらに、台湾総督府をはじめとする官庁、公共機関や施設、学校、官営企業、病院などのすべての資産を接収し、そのうえ日本人経営者のもっていた企業や個人財産などまで「敵産」だといって取り上げた。これらを金額にすると109億990万円、全台湾の資産の60~80%にものぼると推定されている。
・豊かだった台湾はたちまち疲弊し、1946年、有史以来と思えるほどの飢饉に見舞われ、台湾人はイモと雑穀で飢えをしのぐまでになった。
陳儀長官が台湾にやってきてから、全台湾産業の90%が国民党に奪われ、高等教育を受けた人材6万3000人余りが失業に追いやられた。そのうえ中国の悪性インフレが台湾に持ち込まれ、紙幣を無限に乱発して終戦から2年後の1947年には10倍以上もの額になり、台湾人の生活はたちまち困窮したのである。
<台湾人の胸に刻まれた228事件>
・台湾人たちの怒りは激しく、各地で闘争組織が結成された。国民党政府はそれに対して軍事力で弾圧をかけ、民主的な話し合いで解決しようとする台湾人組織にはテロリズムでこたえ、2万人以上の人々が罪なくして殺害された。その後、政府は30年以上にわたり戒厳令をしき、1947年2月28日に始まった大弾圧の真実は封印され、語ることが許されなかった。
<「光復」という名の暗黒>
・その後、陳儀長官が台湾に進駐すると事態はさらに悪化し、前述したように、全台湾の産業の90%が接収された。そして、ほとんどの産業は民政長官公署によって中断させられてしまった。これにより、大学や専門学校の近代教育を受けた6万3000人余りの人材が失業に追いやられ、公営企業にされたすべての企業は中国からやってきた役人、軍人一族に独占されたのである。
・戦前の台湾銀行券の発行額は約8000万円であった。戦時中も、日本、台湾、朝鮮において銀行券が増発され、戦争末期になると台湾銀行が発行した銀行券の額は、約14億3300万円にもなっていた。
それでも、貯蓄が奨励されており、民間の通貨は絶えず国家銀行に還流されていたため物価の急騰などといった事態は起こらなかった。しかし、陳儀が台湾に入ってからは、紙幣を無限に増発し、台湾からあらゆる物資を掠奪して中国で売りさばいたため、台湾島内の物資はあっという間に欠乏した。台湾住民は、知らぬ間に飢えと失業に苦しむハメになったのだ。
・日本が50年かけて台湾で蓄積した国富は、中国人の掠奪により、たった1年で消えてなくなったのである。その代わりに中国人が台湾へもたらしたものは、天然痘、コレラ、ペストなどの疫病であった。
<白色テロの時代を生きた台湾人のメンタリティ>
・市中引き回しの形といえば、江戸時代に行われていた刑罰の方法だ。日本では明治になってから、大衆への見せしめとして公開処刑するという方法は行われていない。
しかし、国民党独裁の白色テロ時代の台湾では、犯罪者の市中引き回しや駅前広場での見せしめ銃殺が行われていた。蒋経国の時代になっても、テレビでは強盗を働いた少年犯の銃殺シーンが放送されていた。
・台湾政治犯連誼会の調査によると、白色テロの時代、蒋経国が亡くなる1987年までに死刑やリンチを受けて迫害された人は14万人にものぼるという。近年の台湾のマスメディアでは20万人という数字が通常語られている。こうした人々の95%はまったくの無実で、当局がでっちあげた罪状による。
<そして「中国の時代」は終わった>
<21世紀の歴史的事件となる香港動乱>
・しかし、どういう結末を迎えようと、21世紀の人類史に残る事件となるにちがいない。デモの長期化は21世紀の一事件にとどまらず、今後の一大課題として提起されるだろう。
<「天下統一」から「五独乱華」といわれるまで>
・秦の始皇帝の天下統一後、「統一」こそが最高の政治的価値となった。漢の武帝の代には、それまで見向きもされなかった孔子や孟子らの儒家思想が「天下統一」のための国教とされるようになる。しかし中国はモザイク国家であり、中央の求心力に対して地方の遠心力が働き、一治一乱・一分一合のような統一と分裂を繰り返してきた。
・繰り返すが、漢の天下崩壊後、漢の遺民である漢人は非漢人の五胡(匈奴・鮮卑・羯・氐・羌)によって中原から追いやられた。『資治通鑑』「粱紀」によれば、548~550年の侯景の乱によって「南京大虐殺」が生じ、「三呉」(南京中心の地方)の漢人は絶滅同然となって、生き残った婦女子はことごとく奴隷として売られたという。『史記』『漢書』といった中国の正史(通称「二十四史」)にも「漢族」という言葉はない。
「漢族」「漢民族」「中華民族」は、20世紀に入って革命派と維新立憲派による民族主義論争のなかで出てきた新しい言葉であり、それまでは存在しなかった。
<統一を嫌う台湾人の戦中世代>
・私たちの世代は「養鶏場のニワトリになりたくない」と逃げだしてきた「監獄島からの脱獄者」が多く、中国にかかわらないことが正解だという考えを共有している。若手の立法議員に若い世代の動向を聞くと、ほぼ100%が天然独(生まれながらに台湾独立思想をもつ人)だという。これは欧米由来の出身地主義が血統主義を上回った当然の結果ではないだろうか。
・「統一が理想」というのは、あくまで中国人の思い込みである。私のような戦中世代や戦前世代にとって、「統一」は「恐怖」と同義語でしかない。それには以下の理由がある。
① 戦後、中国国民党軍の台湾進駐によって知識人は虐殺され、中学生や高校生までわけのわからない理由で政治犯として逮捕されることが相次いだ。
② 4万元と新台湾元1元が同価値というハイパーインフレとデノミなどを経験している。国民党軍と役人は大日本帝国の遺産を横領・収奪し、売れるものは上海の市場で大放出した。私も長蛇の列に並んでアメリカ軍や教会からの粉ミルクやバターなどの支援品を受けたことがあるどころか、飢えて道端の草を食べたこともある。
③ 政治経済の「統一被害」に加え、大陸からの難民の流入によってコレラ、ペスト、天然痘が流行した。こうした疫病の蔓延から救ってくれたのがアメリカ軍である。私も野外の後援で疫病撲滅の映画を見た記憶がある。
<70年間の愚民教育のつけ>
・台湾での選挙予想が難しいのは、戦後70年にわたった中華伝来の「奴隷化」と「愚民教育」、ことに「愛国教育」のためだろう。建前と本音が違いすぎるせいでもある。
台湾人は中国人、インド人と並んで「世界の3大無知国民」と揶揄されたことがある。選挙に関して「将来」より「カネ」のことばかり考える者も少なくない。農村では「いくらくれる?」と買収が横行することもある。
いわゆる「三票(騙票=選挙公約で騙す、作票=投票を不正操作する、買票=票をカネで買う)」と呼ばれる風習や、70年以上にわたった愚民教育のつけもあることはよく知られている。
大勢から見ると、誰が総統になろうと、最終的に台湾の運命を決めるのはアメリカの力だ。
・中国には弱点が多い。魅力あるソフトパワーはゼロに近く、孔子や孟子の儒学、老子や荘子の道家思想など諸子百家の思想はあっても、西洋や中近東に影響をおよぼすことはなく、インド世界にすら入ることがなかった。そして、外から入ってきたソフトパワーは暴力で排除する。インドから流入した仏教に対する「三武一宗の廃仏」、太平天国の乱後にキリスト教徒を殺害した湘軍(義勇軍)による「南京大虐殺」、北清事変で義和団が行ったキリスト教徒殺し、イスラム教徒の皆殺し「洗回」などがその例だ。
私が小学4年生のころ、国民党軍による台湾人の大虐殺が発生した。
戦後の中国行政府の統計資料によれば、当時の生活レベルの評価基準である電気使用量は、台湾人が中国人の200倍以上だった。
・改革開放後の中国はエネルギー資源のすべてを輸入に頼っている。すでに世界最大の通商国家ではなく、内外にアピールできるポイントもない。人民共和国時代の「台湾解放」から「台湾統一」へとキャッチフレーズは変わっても。もはや自力更生も長期戦もできず叫びつづけるだけだ。「一国両制」も台湾から拒否されている以上、文攻武嚇も無力でしかない。
<日本人の胆力が試される>
・香港の今日は明日の台湾であり、沖縄や日本本土にとっても対岸の火事ではない。台湾海域を通る日本の船は1日平均200隻以上である。
・私がしばしば疑念を抱くのは、「憲法9条を死守すれば世界平和が守れる」という思い込みに対してである。アメリカと中国の貿易や経済戦争、日韓関係悪化の背後にある国際関係の変化をみず、ひたすら傍観を決め込む輩の見識には憂慮を禁じえない。
・野蛮が世を支配する時代は終わった。香港デモが台湾の民主主義を動かしたことが、その証拠でもある。軍事パレードや威嚇で権力を誇示する手段は、古代中国でしか通用しないことを知るべきである。
『コロナ後に生き残る会社 食える仕事 稼げる働き方』
遠藤功 東洋経済新報社 2020/7/10
<コロナ後の最強の処方箋が1冊でわかる!>
<「コロナ・ショック」を「コロナ・チャンス」に変える>
<「まさかこんなことに………」という時代を生きる>
・近年、大企業の経営者たちから、「VUCA」という言葉がさかんに聞かれるようになった。{VUCA}とは「Volatility」(不安定性)、「Uncertainty」(不確実性)、「Complexity」(複雑性)、{Ambiguity}(曖昧模糊)という4つの単語の頭文字からとった略語であり、「先がまったく読めない不安定、不透明な環境」を言い表している。
私たちは「VUCA」という新たな混迷する環境を頭で理解し、備えていたつもりだった。
しかし私たちの認識は、とんでもなく甘かったと認めざるをえない。
・中国に端を発する新型コロナウイルスは、わずか半年ほどで世界を震撼させ、経済活動や社会活動をいっきに停滞させ、世界中の人々の生活をどん底に陥れようとしている。
「つながる」ことや「ひとつになる」ことの恩恵ばかりを享受していた私たちは、その裏で広がっていた「感染」というリスクの怖さを、日々身をもって体験している。
<世界的な「コロナ大恐慌」の可能性は高まっている――インパクトはとてつもなく大きく、長くなる>
・世界の累計感染者数は2020年7月5日現在、1120万人を超えた。6月28日に1000万人を突破してから、わずか7日で120万人も増加し、その勢いは加速している。累計の死者数も53万人を突破した。
・たとえ今回のコロナが収束しても、シベリアの永久凍土が溶け出し、新たな感染症が懸念されるなど、ウイルスによるリスクは間違いなく高まっている。
パンデミック(感染爆発)のインパクトはとてつもなく大きく、長くなることを私たちは覚悟しなければならない。
経済の低迷は、企業の倒産、失業者の急増、自殺者の増大、食糧問題の深刻化など社会不安を高め、世界は混迷を深めている。
・ドミノ倒しのようにさまざまな問題が連鎖し、世界的な「コロナ大恐慌」になる可能性は高まっている。
<「緩慢なる衰退」から脱却する千載一遇のチャンスでもある――コロナ後に確実に起きる変化は、ある程度読み解ける>
・現時点で、コロナ後の世界がどうなっていくのかの全貌を予測するのは時期尚早だ。それほど、コロナのインパクトは広範囲に及び、複雑で、根深い。しかし、コロナ後に確実に起きる変化を、ある程度読み解くことはできる。
その変化を先取りし、先手先手を打たなければ、私たちはコロナの大渦に呑み込まれてしまうだろう。
世界経済は大きく縮む。
当面はコロナ前と比較して「30%エコノミー」「50%エコノミー」を想定せざるをえない。その先においても、「70%エコノミー」が妥当な予測だろう。
それぞれの会社は、まずは「縮んだ経済」に合わせて、身を縮めるしかない。生き残るためには、痛みを伴う施策を断行せざるをえない会社も出てくるだろう。
・むしろ、平成の「失われた30年」という「緩慢なる衰退」から脱却し、力強い再生へとシフトする千載一遇のチャンスである。
<「プロの時代」「レスの時代」の幕開けになる>
・コロナ・ショックは、ビジネス社会における「プロの時代」の幕開けになる。滅私奉公的なサラリーマンは淘汰され、高度専門性と市場性を兼ね備えた「プロ」が活躍する時代へと突入する。
競争は激しくなるが、「個」の活性化なしに、この国の再生はありえない。そして、働き方においては「レスの時代」の幕開けとなるだろう。
「ペーパーレス」「ハンコレス」にとどまらず、「通勤レス」「出張レス」「残業レス」「対面レス」、さらには「転勤レス」といった新たな働き方がこれから広がっていく。
・コロナという「目に見えない黒船」は、この国を再生させる大きなきっかけになりえる。私たちは「コロナ・ショック」を、自らの手で「コロナ・チャンス」へと変えなければならない。
<コロナがもたらす「本質的変化」とは何か>
<「移動蒸発→需要蒸発→雇用蒸発」というコロナ・ショックのインパクトを理解する>
◆1000兆円の所得が消える
◆ポストコロナの「機関車」(牽引役)が見えない
◆「移動蒸発」が発端に
◆「移動蒸発」が「需要蒸発」を引き起こす
◆「需要蒸発」がもたらす、深刻な「雇用蒸発」の衝撃――米国では、すでに5人に1人が職を失った
<「弱肉強食の時代」に突入する>
◆「70%エコノミー」を前提に経営をする
◆多くの企業は、身の丈を縮めざるをえない
◆「コロナ特需」は限定的で、「蒸発した巨大な需要」
◆「生命力」のある国、会社しか生き残れない
◆「真面目な茹でガエル」は死滅する
<「低成長×不安定」の時代に、生き残る覚悟を>
◆「経済成長率」と「環境安定性」という二軸で現在を捉える
◆昭和=戦後続いた「高成長×安定」の時代
◆平成=バブル崩壊によって「低成長×崩れゆく安定」の時代に
◆令和=コロナでいっきに「低成長×不安的」局面へ
◆危機的な異常事態は「新たな様式」を生み出す
◆「出口のないトンネル」から脱出する
<コロナ後に、日本企業は何を、どう変えるべきなのか>
<日本企業が再生のためにとるべき戦略>
◆いま必要な4つの経営戦略――「SPGH戦略」
①サバイバル戦略(Survival)
②生産性戦略(Productivity)
③成長戦略(Growth)
④人材戦略(Human Resource)
<ポストコロナのサバイバル戦略>
<ダメージを最小化するため、まずはしっかりと「守りを固める」>
方策❶ 人員の適正化(ダウンサイジング)を断行する
◆「本社で働く3割はいらない」
◆「船の大きさ」に定員を合わせる
方策❷ コストの「変動費化」を進める
◆「身軽」にするのが最大のリスクヘッジ
◆コア業務以外は、外に切り出す
方策❸ 目先のビジネスチャンスをものにし、「しっかり稼ぐ」
◆「顧客の変化」を見逃さない
◆まずは国内市場に目を向け、「内需開拓」で生き残る
<ポストコロナの生産性戦略>
◆会社は「不要不急」なものだらけだったことが露呈した――止まったからこそ、いろいろなものが見えてきた
◆コロナによって「必要な人」と「不要な人」が顕在化した
ポイント❶ オンライン化、リモートワークを「デフォルト」にする
◆私たちは「新たな選択肢」を手に入れた
◆日立やNTTは、リモートワークを今後も継続
◆オンライン化やリモートワークを、「補助」ではなく「主」と位置づける
◆デジタル化は、オンライン化やリモートワークの前提条件
ポイント❷ 業務の棚卸しをしっかり行う
◆何を「廃止」するのかをまず決める
◆「不要な業務の廃止」+「リモートワーク」で、生産性を倍増させる
ポイント❸ 生産性と「幸せ」を両立する「スマートワーク」を実現する
◆働く人たちが「幸せ」にならなければ意味がない
◆リモートワークは「見える化」が難しく、社員が「孤立」しがち
<ポストコロナの成長戦略>
◆新たな「インキュベーション・プラットホーム」を確立する
ポイント❶本体から切り出し、社長直轄とする
◆「アジャイル方式」で新規事業を育てる
◆社内に積極果敢な「企業家精神」の気風を取り戻す
ポイント❷若手をリーダーに抜擢する
◆いま必要なのは「新たなレールを敷く」人間――若い力に賭ける
◆新たな事業化の方法論を確立する
ポイント❸M&Aで時間を買う
◆有事のいまこそ、M&Aを活用する
◆「PMI」(買収後の統合マネジメント)が成否を分ける
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