ロシアのウクライナ侵攻後、日本では中国とインドの国境紛争問題への関心は薄らいでいるが、専門家は「中国がいずれインドを攻撃する」と警戒感を強めている。(1)

(2023/12/3)

『ウクライナ危機後の地政学』

藤和彦 集英社  2023/8/25

<終わりのない戦いが続く>

・ウクライナ危機は日本人が思っている以上に歴史の転換点である。

 2023年5月現在、ロシアとウクライナの間で停戦交渉が開始される兆しはなく、「終わりのない戦いが続く」との暗い見通しが支配的となっている。

・ウクライナ戦争が核兵器の使用を伴う第三次世界大戦につながるリスクになりつつあるからだ。

・いわゆる「戦争PR企業」は150に上ると言われている。今回の戦争では、米国の戦争研究所が発信する情報が日本をはじめ世界のメディアで広く使われているが、この研究所は著名なネオコン(新保守主義)のケーガン一族が運営している。

・ロシアは安全保障に敏感な国だ。四方から包囲されているという被害者意識が強い。

・ウクライナ戦争の大本の原因を突き止めるには冷戦終結時にまで遡る必要があるのかもしれない。

・世界は群雄割拠の時代に逆戻りしつつある。

<揺らぐ冷戦後の国際体制>

<汚職国家ウクライナ>

・国際社会の同情を一身に集めているウクライナは実は世界に冠たる汚職大国なのだ。

・「腐敗認識指数」は、世界の国々の腐敗に関して最も一般的に用いられる指標だ。2023年1月に公表された最新版でもウクライナは世界180カ国中116位とランキングは低いままだ。ソ連崩壊後、ウクライナでもロシアと同様の腐敗が一気に広がった。独立後のウクライナはマフィアによって国有財産が次々と私物化され、支配権力は底なしの汚職で腐敗していった。現在に至るまでウクライナには国家を統治する知恵や経験を持った政治家や官僚がほとんど存在せず、マフィアが国家の富を牛耳ったままの状態が続いている。政党「国民の僕」を立ち上げ、大統領に就任したゼレンスキー氏も有力なオリガルヒ(新興財閥)の傀儡に過ぎないとの指摘がある。

<破綻国家になりつつあるウクライナ>

・ウクライナはロシアから理不尽な侵略を受けた被害者だ。だが、このような事情を勘案したとしても、同国の民主主義に疑問を抱かざるを得ない事態が生じていることも紛れもない事実だ。

・ウクライナはさらに深刻な問題を抱えている。避難民の9割は女性や子供である。人身売買を巡る犯罪の懸念が急速に高まっている。

・ウクライナは違法薬物の大生産地にもなりつつある。

・戦争状態が続けば、ウクライナの合成麻薬の製造能力がさらに拡大することは間違いないだろう。

 残念ながら、このままいけばウクライナは旧ソ連が侵攻したアフガニスタンのような「破綻国家」になりかねない。

<ウクライナ戦争で得する国々>

・以上説明してきたとおり、ウクライナはけっして模範的な国家ではない。にもかかわらず「ロシア憎し」のあまりウクライナにばかり肩入れしている西側諸国の対応について、発展途上国で不満が高まっている。

<変容を余儀なくされる国際金融システム>

・ウクライナ危機は世界を多極化するだけではなく、冷戦終結後の国際経済システムに大きなストレスを与えている。最も大きな変化が生じる可能性があるのが国際金融だ。

<多様化が始まる決済通貨>

・IMFは2022年3月、「米国によるロシアの外貨準備の凍結措置は世界の金融システムにおけるドルの影響力を弱め、現在の国際通貨体制に綻びを生じさせる可能性がある。今後、二国間貿易に立脚した決済システムの動きが活発になり、国家間の貿易をベースとする通貨ブロックが出現する可能性がある」との見解を示した。

<世界はグレート・デプレッションに向かう>

<グローバル化の終焉?>

・「ロシアのウクライナ侵攻は成長鈍化とインフレ高進という形で世界経済全体に影響を与える。長期的には世界経済の秩序を根本的に変える可能性がある」

<「欧州の病人」に逆戻りするドイツ>

・ドイツはEU全体の経常収支の黒字の過半を占めるなど群を抜くパフォーマンスを示してきたことから「欧州で一人勝ち」と長らく言われていたが、再び「欧州の病人」になってしまうとの懸念が生まれている。

・ドイツでは官民挙げてロシア依存脱却の取り組みがなされているが、当分の間、エネルギー価格が高騰するのを回避することはできないだろう。

<危機に直面した英国は温暖化対策の見直しに着手>

・英国経済のリセッション入りは確実視されており、その長期化が懸念されている。

 窮地に追い込まれた英国政府はタブーの領域にも手を着けている。

・八方塞がりの状況の英国だが、足元のエネルギー危機はリーマンショック以上の打撃を欧州経済に与えるとの見方が強まっている。欧州全体が危機に陥れば、国際社会における温暖化対策の優先度は一気に後退してしまうのではないだろうか。

<欧州で「エネルギー版リーマンショック」が起きる?>

・欧州ではエネルギー産業が危機に陥っている。

 ドイツ政府は2022年9月、ロシアからのガス供給に支障が生じたことで経営不振に陥ったエネルギー大手ユニパ―の国有化に踏み切った。

・欧州の電力企業を苦しめているのは先物取引市場で発生する「追加担保の拠出」だ。

・だが、予想に反して天然ガス価格が急騰したことで先物の損失が膨らみ、取引所に対し毎日のように担保の積み増しを迫られる電力企業が相次いでいる。

・いずれも最悪の事態にはならなかったが、欧州の電力企業のマージン・コールの規模(1兆5000億ユーロ=214兆5000億円)は桁が違う。未曽有の金融危機が起こってしまうのだろうか。

<「イージーマネー」時代の終焉>

・金融危機の火種は欧州ばかりではない。

 グローバル化の進展期においては、安い商品と低水準の労働コストがインフレ抑制に寄与していたが、今ではそれが反転しつつある。

・以前のような物価の安定が戻る可能性は小さく、世界経済は様変わりしており、市場関係者の間からは「低利の資金、安い労働力、エネルギー安の時代は終わった」「過去20年の『グレート・モデレーション』は完全に過ぎ去った」との声が伝わってくる。 

 史上初の世界同時量的引き締め局面に入り、低金利で資金調達が可能だった環境は過去のものとなり、いわゆる「イージーマネー」の時代が幕を閉じつつある。

 高インフレという環境は、多くの投資家にとって未経験の事態であり、不確実性がかつてなく高まっている。

「金融システムは『人類史最悪のクレジットバブル』が迫っている」

・世界の債券市場のセンチメントは既に悪化している。

《ブルームバーグ》は2022年9月2日、総合指数が2021年1月に記録した過去最高値を約20%下回り、グローバル債券市場は弱気相場入りをしたと発表した。

 世界の公社債価格を示す指標も2008年の金融危機時を下回っており、「米国債の40年間にわたる強気相場は終了した」との声も聞こえてくる。

「ロシアのウクライナ侵攻によって地政学リスクが高まり、世界の経済成長を牽引してきたグローバル化が後退したことでインフレに拍車がかかる」とのシナリオが急浮上している。

・2022年は世界中の債券の価格が急落し、最も信用度が高い国債までも売られる状況になった。投資家たちがこぞって世界の国債を売りに出したため、世界各国で国債利回りが急上昇した。

・史上初の世界同時金融引き締め局面に入り、低金利で資金調達が可能だった環境は過去のものとなった。スイス国立銀行が2022年9月に金利を引き上げた結果、大規模な金融緩和を維持しているのは日本銀行だけになった。

・米国との関係が良好ではない国々の間では米国債離れが進んでいる。最大の保有国だった中国は米国債の売却を進めている。

 前回(2015~18年)の引き締め局面ではオイルマネーなどのおかげで米国の長期金利が急騰することはなかったが、今回はこの安全装置が働かない可能性がある。

 世界の国債市場の歴史的な不調を目の当たりにして、投資家心理はリーマンショック以来、最低の水準になったと言われている。

 世界の金融市場の基盤とも言える国債のバブルが崩壊するような事態になれば、世界規模で流動性ショックが起きるのは確実だ。

<世界各地で不動産価格が下落、金融危機の火種に>

・インフレのせいで世界の中央銀行は金融引き締めに舵を切らざるを得なくなっており、これに連動して住宅ローンや社債金利の上昇も加速している。

・ケネス・ロゴフ教授は同年1月中旬、「金利の高止まりにより、2023年から24年にかけて世界の不動産市場は著しい価格下落に直面する」と警鐘を鳴らした。

・IMFは2023年2月3日、「中国のGDPの最大3割を占める不動産業の低迷が続けば、金融リスクを誘発しかねない」との懸念を示した。中国恒大集団のように巨額の債務を抱えて経営難に陥っている不動産開発企業が全土に遍在していることが背景にある。

・今後、世界の不動産価格の下落が進めば、亀裂が生じつつあるクレジット市場へのストレスがさらに高まり、最悪の場合、新たな金融危機が起きる可能性は排除できない。

 リーマンショックが起きた際には「100年ぶりの大恐慌になる」と世界は悲観的になったが、成長著しい中国経済に助けられて破局を迎えることはなかった。

 しかし、その中国も建国以来最大の経済危機が起きつつある。

<「第二の中国」になれないインド>

・世界銀行によれば、2021年のインドの一人当たりGDPは2257ドルで、中国の1万2556ドルの6分の1に過ぎない。

 中国は膨大な人口を先進国の製造業の労働資源として提供することで「世界の工場」となり、大成功を収めてきた。

 だが、インドの製造業はお世辞にも競争力があるとは言えない。

 世界銀行によれば、製造業がGDPに占める割合は中国が約27%、ベトナムが約25%であるのに対し、インドは約14%に過ぎない。

・中国をはじめとするアジアの国々は、労働集約型の製造業の製品輸出のおかげで多くの雇用を創出できたが、製造業に弱みを抱えるインドは慢性的な雇用不足に苦しめられている。

 インドではここ10年、毎年700万~800万人の求職者が市場に参入してきたが、新規の雇用を満足につくることができなかった。このため、職にありつけない若者は農村にとどまるしかなく、インドでは全労働者の半数近くが農業分野に従事しているという。

・インドは今後10年で雇用を2億人増やす必要があると言われており、そのためには輸出指向の労働集約型製造業の競争力強化が不可欠だ。

・経済が失速すればインドの失業問題がさらに悪化するのは火を見るより明らかだ。

・インド政府が強権的な取り締まりに踏み切れば、人権状況を巡る西側諸国との軋轢はさらに激化することだろう。

 グローバルサウスの代表として存在感を増しつつあるインドだが、世界を牽引する新たな盟主としての成長モデルを見いだせていないのが実情なのではないだろうか。

<世界経済はグレート・デプレッションに陥ってしまうのか>

・世界銀行は2023年3月27日、「世界経済の制限速度(インフレを起こすことなく長期持続可能な最大成長率)が2030年までに、この約30年間の最低水準まで低下する」との見通しを発表した。「欧米経済全体が深刻な資産デフレに陥り、長期にわたって不況にあえぐ(グレート・デプレッション)」との悲観的なシナリオが現実味を帯びつつある。

 思い起こせば、1930年代の経済危機は世界各国で政情不安を招いた。この悲劇が繰り返されることになるのだろうか。

<未曽有の経済不況は深刻な政情不安に直結>

・2022年12月26日、ロシアのメドベージェフ国家安全保障会議副議長が2023年の10大予測を公表した。メドベージェフ氏は「年末は多くの人が荒唐無稽な未来予測を競うようにする」としているが、真意は定かではない。

 筆者が注目したのは、❶英国がEUに復帰し、そのせいでEUが崩壊する。❷ドイツにネオナチ政権(第四帝国)が誕生し、フランスと戦争する、というものだ。

 これらの予測は荒唐無稽というより、メドベージェフ氏の欧州に対する呪いの言葉のように思えてならない。

・そのせいでEUは深刻なインフレに苦しみ、ユーロ圏の金融市場は不安定な状態になっている。生活費は高騰し、2022年10月以降、計画停電の可能性も浮上した。

 EUは自ら招いた未曽有のエネルギー危機で苦境に陥っているが、心配されるのは政治への悪影響だ。多くの欧州諸国の政治は既に右傾化している。

<内戦のリスクが高まる米国>

<エネルギー戦争の勝者となる米国>

・米国のモノの貿易収支赤字は減少傾向にある。輸出が過去最大を記録したのが主な要因であり、中心的な役割を担っているのは原油や石油製品、天然ガスなどだ。

 シェール革命により米国はエネルギー大国の地位に返り咲いたが、ウクライナ危機のおかげで今やロシアを抜いて世界最大のエネルギー輸出国となっている。

 一方、ロシアも2022年前半はエネルギー貿易で記録的な黒字を得ていたが、今後の見通しはけっして明るくない。ウクライナ侵攻前、ロシア政府幹部が相次いで「自国産原油の寿命が20年に満たない」と語っていた。

・ロシアの石油産業は同国のGDPの15%、輸出の40%、連邦財政の歳入の45%を占める経済の屋台骨だ。旧ソ連崩壊を招いた大本の原因は1980年代後半の原油価格の急落であると言われている。プーチン大統領の登場後に世界の原油価格は上昇し、ロシアは大国の地位に返り咲くことができたが、自国の原油埋蔵量の枯渇という未曽有の事態が生ずれば、再び苦境に立たされてしまう可能性がある。

 ウクライナ危機は米国とロシアの代理戦争の様相を呈しているが、「エネルギー戦争の勝者は米国、敗者はロシア」との評価が固まりつつある。

<米国を蝕む薬物被害>

・だが、社会に目を転じると、米国は「病める巨人」と言っても過言ではない。

・米国における薬物中毒死の問題は、新型コロナに劣らぬ深刻さだ。

 モルヒネに比べて100倍の強さと言われる合成オピオイド系のフェンタニルなどが出回っていることが死者数が急増している要因だ。純度100%なら2ミリグラムで死に至るといわれている。

・オピオイドはもともとは専門医や病院での使用が一般的だったが、1995年に薬品メーカーが、医師の処方箋があれば誰でも近くの薬局で購入できるオピオイド系の鎮痛剤を開発したことがきっかけとなり、全米で常用者が広がった。

・米麻薬取締局(DEA)は2022年8月、「カラフルに着色されたフェンタニルが米国の若者をターゲットとして使用されている」として警戒を促した。18州で着色されたフェンタニルが押収されており、若者にも薬物被害が広がることが懸念されている。

<「アヘン戦争」を米国に仕掛ける中国>

・フェンタニルはメキシコの犯罪組織が米国に持ち込んでいるが、「もともとの製造国は中国だ」と米国政府は考えている。

・中国からのフェンタニルの流入はオバマ政権時代から問題視されていたが、中国との間の外交課題として初めて取り上げたのはトランプ前大統領だった。

・「21世紀版アヘン戦争」を仕掛ける中国に対する米国側の激しい怒りが、両国関係を危険なレベルにまで悪化させてしまうのではないだろうか。

<少子化と不動産バブル崩壊で衰退する中国>

<「ウクライナ危機の最大の勝者は中国だ」との主張は本当なのか>

・FRBがインフレ抑制のために大幅利上げを続ける構えを見せていることから、人民銀行が市場介入を行っても人民元の下落は止まらない。

<ゼロコロナ対策が招いた習近平指導部の危機>

・原油需要を見る限り、中国経済は改革開放以来の危機に直面している。

 2019年の終わりに武漢市で新型コロナが発生して以来、中国政府は「ゼロコロナ」政策を断行することで、感染者を完全になくす対策を強力に推進してきた。

<ゼロコロナ解除でも経済のV字回復は期待できない>

・製造業や不動産業が深刻な苦境に陥っていることをかんがみれば、ゼロコロナ政策を解除した程度で中国経済が急速に回復するとは思えない。

<苦境に陥る不動産業界>

・不動産市場の不振も中国経済の足かせとなっている。

 2021年9月に中国恒大集団の経営破綻への懸念が明らかになったことを契機に、中国の不動産業界全体が窮地に追い込まれつつある。

・21世紀に入り、中国の成長率は常に貸出金利を上回っていたが、2021年から成長率が貸出金利を下回るようになった。2022年も同様の状況が続いており、中国で続いてきた合理的バブルの条件が消滅した感が強い。

 一件目の住宅需要のターゲットである25~34歳人口が既に減少しており、住宅市場の早期回復は見込めないとの指摘もある。

 このため、政府がいくらてこ入れ策を講じたとしても、中国の不動産市場が早期に回復することはないと筆者も考えている。

・このことはCPの不払いが元の債務の何倍をも凍結させ、その結果、裏書きをした無数の企業が倒産に追い込まれるリスクが生じることを意味する。不動産開発企業の不振のせいで、中国全土に「連鎖倒産の波」が起きかねない状況となっている。

 資金繰りに窮したサプライヤーらは「窮鼠猫を噛む」ではないが、銀行ローンの返済を拒む動きに出ている。

・住宅市場が今後大幅な長期調整を迎えるのは必至であり、中国経済のハードランディング・シナリオが現実味を帯びてきていると言えよう。

 2023年5月現在、中国の不動産市場の規模は約55兆ドルと世界一だ。米国の2倍を誇る巨大市場に異変が生ずれば、世界の不動産市場に影響が及ばないわけがない。ドイツのGDPにも匹敵する中国の不動産開発部門の不振が世界経済に与える影響は甚大なものになると覚悟すべきではないだろうか。

<「賃下げ」の嵐が吹き荒れる中国経済>

・中国各地で公務員の賃下げラッシュが起きている背景に、地方政府の台所事情がある。

 地方政府の財政は国有地の使用権を払い下げて得る収入に大きく依存しているが、使用権の買い上げ側である不動産企業が苦境に陥っていることから、払い下げが思うように進まず、収入が大幅に減少している。

 中国の法律では地方政府は払い下げ金の3割を中央政府に上納し、残りの7割を自主財源として利用できることになっている。払い下げ金が地方政府の歳入に占める比率は3~4割に上ることから、払い下げ金の大幅な減少は地方政府の財政難に直結する。

・収入が減少する一方、支出面では新型コロナ対策の経費がかさんだ。

 住民に求めるPCRの検査費用は主に地方政府が負担している。これに加えてワクチン接種や入院費なども負担しなければならない。地方政府は拡大する一途の財政赤字を少しでも減らすため、やむなく公務員の減給に踏み切ったのだろう。

 吹き荒れる「賃下げ」の嵐は公的部門にとどまらない。

 景気の急速な悪化から、民間企業も軒並み賃金カットに乗り出している。

<人口減少が始まった中国>

・満身創痍の中国にとって最大の悩みは出生数の減少が止まらないことだ。公式統計では2022年通年で1000万人の大台を割り込み、出生数が死亡数を下回り、総人口が61年ぶりに減少に転じた。

 中国政府は2021年5月、一組の夫婦に対して三人目の出産を認めたが、効果はまったく出ておらず、人口政策当局は「短期的な解決は難しい」との見解を示している。

・「現在の出生率が持続する場合、45年後には中国の人口は現在の半分の7億人にまで減少する」との調査結果を公表した。

・「今後出生率が1.0まで低下すると仮定した場合、中国の人口が半分になる時期は2050年に前倒しされるという」。

 

・中国の現在の人口規模にも疑義が生じている。中国政府は「2020年の総人口は14.1億人に増加した」と発表しているが、ウィスコンシン大学の易富賢氏は「中国の人口統計は1億人以上水増しされており、実態は12.8億人ほどである。2018年から人口減少が始まった」と見積もっている。

<共同富裕が打ち出された理由>

・中国で少子化が進む最大の理由は養育費の高さだ。22歳になるまでにかかる一人当たりの予算で費用は100万元(約1500万円)になるとの試算がある。

・子育て支援を行う役目を担うのは地方政府だが、前述したとおり、財政は火の車だ。

 中国政府がすべての夫婦に三人目の出産を認めたことを受けて、地方政府は相次いで子育て支援策を打ち出しているが、具体策で目立つのは産休の拡充だ。子育て手当など家計に現金給付するケースは限られている。

・「中国の人口問題が深刻化していることがその背景にある」と筆者は考えている。

 「共同富裕」の方針が示されると同時に「一組の夫婦に三人目の出産を認める」方針が打ち出されたことがその証左だ。

 人口の急減に歯止めがかからなければ、政府が主導してきた産児制限の失敗が露わになり、指導部は前代未聞の政治的な激震に直面する。「ソ連崩壊も人口減速が要因の一つだった」と筆者は考えている。

・少子化は、世界で最も速く進んでいる中国の高齢化問題も深刻化させることになる。2億人以上の中国版団塊の世代が60歳定年を迎え始め、2035年には60歳以上の高齢者の割合が30%を超えるとの予測を出した。今後中国の社会保障経費は爆発的に増加する。中国の財政赤字は2025年には10兆元(約170兆円)を突破し、現在の2.3倍になるとの見通しもある。

 「共同富裕」を最初にスローガンに掲げたのは毛沢東だった。

<労働力不足に悩む製造業>

・「安価な労働力」を武器に世界第二位の経済大国にのしあがった中国だが、2010年をピークに生産年齢人口(15~64歳)の減少傾向が続いている。

・その根拠は、中国政府が2017年に「脱虚向実」というスローガンを打ち出しているからだ。このスローガンが意味しているのは「政策を通じて実体の伴わない業界を排除する」ということだ。中国政府は、資金が実物投資に回らずリスクの高い金融資産投資に投じられることを「脱実向虚」と非難し、不動産バブルを抑制するための金融市場への規制強化を開始した。

 強権的な手法を用いて経営難に陥らせ、従業員を解雇せざるを得ない状況に追い込むという、いかにも中国共産党的な荒っぽいやり方だ。

・その一方で大学卒業生は増加するばかりだ。2023年の大学新卒者数は前年比823万人増の1158万人の見通しで、史上初めて1000万人を超えた前年に続き、就職市場にプレッシャーと試練をもたらしている。

 16~24歳までの都市部失業率は20.4%にまで上昇し、若者の就職難が特に悪化している。大学を卒業する1200万人のうち、就職先が決まったのは半分以下だろう。

 歴代の中国政府にとっての最優先の政策課題は雇用の確保だった。

・中国政府は引き続き雇用の確保に尽力するだろうが、これまでのように国民全員に雇用の場を提供することはできなくなっている。中国は建国以来最悪の失業危機に直面していると言っても過言ではない。

<都市の中産階級の不満が中国政府を揺るがす>

・中国では各地で「物件が引き渡されていない」ことを理由にマンション購入者が住宅ローンの返済停止を主張する動きが広まっている。

・中国の民間調査会社によれば、工事の停止で引き渡しが遅れているマンションに関連する住宅ローンは2兆元(約41兆円)に上るという。

 返済拒否の動きが沈静化しなければ、金融機関の貸出残高の2割を占める住宅ローン全体が不良債権化してしまうリスクが生じる。

・「懐の豊かさ」を保障することができなくなれば、中国政府の正当性を揺るがす由々しき事態にもなりかねない。

<コロナ政策の失敗で薬が買えなくなり、怒りの声を上げる中国の高齢者>

・「政府は庶民の医療保険の金に手を出すな」

 中国湖北省武漢市で2023年2月15日、医療手当の削減に反対する高齢者の大規模デモが行われた。1万人規模の高齢者が病院や公園などに集結し、革命家「インターナショナル」を合唱した。警戒に当たる警察官との間で小競り合いも生じた。毎月260元(約5000円)程度支給されていた医薬品購入の際の補助が、2月から約80元に減額されたことがそもそもの原因だ。

・その様子はネット上で「怒りの傘デモ」として広く拡散されていたが、武漢市当局が要求を拒絶したことから、彼らは再びデモを実施するという異例の展開となった。

・中国では男性60歳、女性50~55歳が法律上の定年年齢だ。香港紙によれば、中国政府が進めている医療保険制度改革は3億5000万人に悪影響をもたらす可能性があるという。

 

・地方では沿岸の大都市以上に深刻な状態となっているのは言うまでもない。

 高齢化が沿岸の大都市に比べはるかに進んでおり、高齢者の8割以上が基礎疾患を持っている。新型コロナに対して極めて脆弱な状態にある。

 さらに、医療体制が都市部に比べて貧弱だ。地方の医療体制の拡充が計画されていたが、コロナ禍の3年間でむしろその能力は低下してしまった。

・中国政府によれば、地方政府が2022年にゼロコロナ政策に投じた金額は少なくとも3520億元(516億ドル)に上っている。あてにしていた土地払い下げによる収入が激減しており、医療品の購入補助にまで手が回らなくなっている。

・高齢化比率(全人口に占める65歳以上の割合)が2021年に14%を超えた中国は、今や「高齢社会」に突入している。2022年時点の高齢化比率は約15%に上昇し、高齢化のスピードは日本よりはるかに速い。

 

・「敬老」の精神が今も根付いている中国では高齢者の政治的影響力は大きい。その高齢者が各地でデモを起こしている状況(白髪革命)を踏まえ、中国人は今や強権的な政府への恐れを振り払った。望むものを勇敢に表現する人がさらに増えるだろう。

<共産党に忠誠心を示さなくなったZ世代>

・ゼロコロナ政策を解除させる原動力となったZ世代の動向も気になるところだ。

 各種調査によれば、中国で1995年から2010年までに生まれた2億5000万人のZ世代はどの年齢層よりも将来に対して悲観的になっているという。

・現在の中国の若者たちの間で寝そべり族が増えている。

 「タン・ピン」とは「だらっと寝そべる」という意味である。仕事をしないで寝そべって何も求めない、マンションも車も買わず、結婚もせず、消費もしないというライフスタイルのことである。

・だが、その上をいく「腐り族」がいることが最近明らかになっている。

バイ・ランとは中国語で「そのまま腐らせろ」という意味だ。モチベーションをなくし、生きる気力を失ってしまった彼らは、悪化する自らの状況を積極的に受け入れている。寝そべり族以上にニヒリスティックな精神の持ち主だと言っても過言ではない。

・激しい競争社会で疲弊した中国の若者たちの絶望感が、コロナ禍や経済の低迷などでさらに増幅されたことのあらわれなのかもしれない。

・習近平氏は「若者の将来を改善することは不可欠だ」と認めたものの、最悪の環境に苦しむZ世代の生活水準を改善させるのは不可能だと言わざるを得ない。

 Z世代の賃金を上げれば、中国の輸出競争力は低下するし、住宅価格を手頃な水準に下げれば、中国経済の屋台骨である不動産セクターのバブルが崩壊してしまうからだ。

<統治制度の限界に直面している中国>

・ゼロコロナ政策の解除により、政府の存在感が急速に薄れている。

・中国人は今、実質的に共産党抜きでの生活を体験しており、ゼロコロナ下で非常に大きな存在感を示していた共産党の存在は「今は昔」だ。

・中国共産党の統治のあり方そのものにも疑念が生じている。

米スタンフォード大学の許成鋼客員研究員は、中国の統治制度を「地方分権的全体主義」と定義している。

・個人崇拝などで最高指導者の絶対的権威を確立する一方、行政の立案・運営の権限のほとんどを最高指導者が任命する地方の指導者に与えるものだ。

・半世紀以上にわたり続いた地方分権的全体主義が限界に達しつつある中、習氏はさらに事態を悪化させる方向に舵を切るようだ。

・政府に失望した富裕層はシンガポールへの移住を加速させている。

・慣れ親しんできた統治制度を抜本的に見直すことは困難だ。だが、そうしない限り、中国の体制の危機が一気に進んでしまうのではないだろうか。

<衰退期を意識し始めた中国に要注意>

・「中国がやがて米国を上回るとの予測は過去の外れた予言と相通じる部分がある」

・たしかに世界の中国経済に対する見方がガラッと変わった感が強い。

 市場で安価なマネーがあふれているものの、財務力が低下している不動産企業の資金繰りはさらに困難になっている。当局が潤沢な資金を供給して再生を図ろうとしても経済が一向に回復しないという。

 

・経済成長率を決定づける三つの要因は、①労働力、②資本ストック、③生産性だ。

 中国の資本ストックの水準は高くなったが、肝心のリターンが小さくなっている。過剰生産能力や入居者不在の建物が集まるゴーストタウン、交通量が極端に少ない幹線道路などはいずれもこうした問題を浮き彫りにしている。

生産性の向上に必要な構造改革も停滞している。

・成長の源泉だった労働力も減少に転じている。

日本は津波による大きな被害をうけるだろう UFOアガルタのシャンバラ

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