ロシアのウクライナ侵攻後、日本では中国とインドの国境紛争問題への関心は薄らいでいるが、専門家は「中国がいずれインドを攻撃する」と警戒感を強めている。(2)
<中国のウルトラナショナリズム>
・中国のナショナリズムは政府に奨励されてきたが、最近では国民の方が過激になっており、皮肉にも政府は自らつくり出したナショナリズムを制御できなくなっている。
・日々の生活への不満が高まれば高まるほど、ナショナリズムがショービニズム(好戦的愛国主義)に変質するというのは過去の歴史が教えるところだ。
<金融分断がもたらす米中の衝突リスク>
・このところ米中のデカップリング(分断)があらゆる分野で進んでいる。
冷戦時代の米ソ対立ではヒト、モノ、カネの往来が制限されていたが、現在の米中対立は経済面での相互依存が強い分、決定的な対立には発展しにくいとの楽観論があった。だが、貿易、技術や人権問題に加え、分断が経済活動全般に及ぶにつれて、米中関係の先行きが危ぶまれる事態となっている。
・世界第二位の経済大国となった中国だが、いまだに資本取引を厳しく制限しており、「無秩序な資本の拡張防止」を掲げて社会主義に傾倒し始めている習近平指導部はさらに規制を強化しようとしている。
・「金融が良好な外交関係を醸成する」という歴史の前例がある。
・「歴史は繰り返す」と断言するつもりはないが、米中の金融分断により、今後米中間の衝突リスクが飛躍的に高まってしまうのではないだろうか。
<中国とインドの国境紛争のリスクが高まる>
・世界の注目は台湾海峡に集まっているが、危機は常に想定外の場所で起きる。
ロシアのウクライナ侵攻後、日本では中国とインドの国境紛争問題への関心は薄らいでいるが、専門家は「中国がいずれインドを攻撃する」と警戒感を強めている。世界第2位の軍事大国中国と第3位のインドの間で大規模紛争が勃発するリスクがこれまでになく高まっていると筆者は考えている。
中国は見かけ上強大に見えるが、その内実は「張り子の虎」に過ぎない。現在の中国がかつてのソ連のように突然崩壊するリスクが生じている一方、アジアでは中国を巡って地政学リスクがこれまでになく高まっている。
米国が「世界の警察官」の役割を放棄し、ロシアとの飽くなき戦いを始めてしまったことで世界全体の地政学リスクも悪化するばかりだ。
<群雄割拠の時代を日本は生き残れるのか>
<「安全保障のジレンマ」に陥るウクライナ危機>
・ロシアは西側諸国との直接衝突も覚悟している可能性がある。
・ロシアは「西側諸国との間で第三次世界大戦が既に始まっている」と考えているのかもしれない。
国際政治学には「安全保障のジレンマ」という概念がある。軍備増強や同盟締結など自国の安全を高めようとし意図した国家の行動が、別の国家に類似の行動を誘発してしまい、双方が欲してしないのにもかかわらず、結果的に軍事衝突につながってしまう現象を指す。
・軍事専門家の間で「ロシアのように大量の核兵器を保有する大国を追い詰めるのは極めて危険だ」との理解は一致している。
<国際社会の治安を悪化させるウクライナへの武器支援>
・欧州連合は2022年7月、ウクライナからの武器密輸を中心とした組織犯罪を防ぐ拠点を隣国モルドバに設置する計画を発表した。EU域内の武器密輸の情報共有を目的の一つとする欧州刑事警察機構が6月初めに、「ウクライナに参集した外国人志願兵の中にマフィア組織の構成員が紛れ込んでいる。ハイテク兵器は世界各地に横流しされるリスクがある」と警告を発していたことを踏まえての措置だ。
米CBSは2022年8月上旬、「ウクライナの武装化」と題するドキュメンタリー番組を放映し、その中で「アメリカがウクライナに対して行なっている数十億ドルの軍事支援のうち、同国の最前線に届くのはわずか30%だ」と指摘している。
・武器が供与されているウクライナはソ連崩壊後の武器取引の拠点だった過去がある。経済危機に陥ったウクライナに貯蔵されていた大量の武器が世界各地の紛争地に流出した。
21世紀に入るとその動きは沈静化したものの、2014年のロシアによるクリミア半島の併合や親ロシア派勢力によるウクライナ東部ドンバス地方の一部掌握を受け、ウクライナで再び武器の略奪が起きるようになった。
・ウクライナは世界の不安定な地域へ兵器が横流しされる「グレーゾーン」としても知られていた。国際NGOの汚職・犯罪組織研究センターは2017年9月、「西側諸国の武器がウクライナを経由してアフリカ諸国の過激派勢力に流れている」と指摘していた。
ロシアのウクライナ侵攻から3カ月を過ぎた頃から、「スティンガーやジャベリンは既に闇市場に出回っている」との噂が流れており、「ハイテク兵器の巨大なブラックホール」になってしまう可能性が生じている。
・同盟国の支援を意図した武器が結果的に米国と利害を異にする勢力の手に渡ってしまうという光景を私たちは何度も目にしてきた。
・米国は2010年代前半にも、シリアのアサド政権打倒のために反政府軍に大量の武器を供与したが、これらの武器を大量に確保したイラクのスンニ派過激派勢力が2014年に「イスラム国」を建国するという皮肉な結果を招いている。
先述のようにユーロポールは「ウクライナに参集した外国人志願兵の中にマフィア組織の構成員が紛れ込んでいる。ハイテク兵器は世界各地に横流しされるリスクがある」と警告を発しており、ウクライナに供給されたハイテク兵器はマフィア組織を介して西側諸国でも犯罪に悪用される可能性が生じている。
ウクライナへの武器支援が仇となって世界の安全保障環境が急速に悪化するリスクが生じている。
<日本は米国の「代理戦争」戦略に巻き込まれるな>
・ウクライナ危機を契機に、日本はロシアはもちろんのこと、中国に対しても強硬路線に転じたかのような印象が強いが、はたして大丈夫だろうか。
・ウクライナに未曽有の規模で武器供与を行っている米国で深刻な武器不足が生じている。武器の生産能力には限りがあり、在庫補充には数年を要するという。
中国が台湾に武力侵攻しても、米国は多くの武器をウクライナに供与してしまったために、インドと同様、台湾への武器支援を行うことはできなくなっているのだ。
米国の「代理戦争」戦略の失敗のせいで多くのウクライナ人が犠牲となっていることは否定できない事実だ。米国の挑発が台湾有事を招き、「アジアは次のウクライナ」になってしまう可能性は排除できない。
軍事専門家が指摘するように、「台湾有事」は「日本有事」に直結する。
・冷戦期につくられたウクライナの核シェルターが、ロシアの攻撃から住民を守る避難場所として有効に機能していることが日本でも知られるようになり、政府は2022年12月に策定した安全保障関連三文書に核シェルター整備の方針を初めて明記した。
気運が盛り上がってきたことはたしかに望ましいが、海外との格差はあまりに大きいと言わざるを得ない。
NPO法人の日本核シェルター協会が2002年に実施した調査によれば、各国の人口当たりの核シェルターの普及率は、スイスやイスラエルが100%、米国が82%、ロシアが78%と高い比率を示す一方、日本はわずか0.02%だ。核シェルター協会は、「この状況は現在も変わっていない」と指摘している。
国民の身を守ることができる核シェルターが敵の核攻撃を断念させる効果を有する点も見逃せない。皮肉なことだが、日本は唯一の被爆国でありながら、抑止力が乏しいがゆえに核攻撃を最も受けやすい国の一つになっているのだ。
日米同盟を強化していくのはもちろんだが、台湾有事をなんとしてでも回避するための日本の外交力の真価が問われている。国難に直面している今こそ、日本は真の国益を追求しなければならない。対話重視に徹した安倍外交の真価をもう一度見つめ直すべきではないだろうか。
<「鎖国」再考>
・日本では18世紀末まで平和が続いたが、産業革命を経て強国となった西欧列強の脅威が意識され始めた幕末になると、富国強兵を妨げる負の遺産としての江戸幕府の管理貿易制度が「鎖国」として否定的に評価されるようになった。
「賢者は歴史に学ぶ」と言われているが、グローバル化(大航海時代)を謳歌した世界経済が絶不調に陥り、国際社会が大動乱の時代を迎えつつある現在、17世紀前半の教訓を真摯に学ぶ必要があるのではないだろうか。
江戸時代の日本にとって中国の物品が不可欠だったように、現在の日本には化石燃料が必須だ。
<中東地域の地政学リスク>
・日本のエネルギー安全保障にとってのアキレス腱は原油の中東依存度が極端に高いことだ。
・中東地域は相変わらず地政学リスクが高いことも頭が痛い点だ。
・イラクの政治システムはこれまで宗派間で権限を分け合う形で成立してきたが、若者を中心に不満が急速に高まっていた。イラクでは毎年数十万人が大学を卒業し、これまでは大半が公務員になっていたが、政府が雇用の受け皿を提供できなくなっていたからだ。就職難にあえぐ若者たちはイラクの将来を憂い、2020年から抜本的な政治改革を求めるデモを繰り返すようになっていた。
・気がかりなのはサドル師と新イラン勢力はいずれも民兵組織を抱えていることだ。大規模な武力衝突が勃発し、原油生産が大幅に減少するリスクが頭をもたげつつある。
・地政学リスクが高い中東産原油の依存度を低下させる切り札はロシア産原油だ。
中東産と違い、極東のナホトカ港から3日で日本に届く。ロシアとの関係が極端に悪化しない限り、シーレーンの確保も比較的容易だ。
西側諸国の中で日本だけはロシア産原油の輸入を制限する決定を行っていないが、これまでのところ日本への批判は高まっていない。引き続きこの路線を維持する必要がある。
<「戦略物質」になってしまった天然ガス>
・日本は天然ガスのほぼ全量を輸入に依存している。
・気体である天然ガスは、液体である原油に比べて使い勝手が悪いことから、熱量単位で比較した価格が原油よりも大幅に割安だったことも好都合だった。だが、天然ガスは現在、原油をはるかに上回る価格で取引されている。
・ロシアから網の目のように伸びるパイプラインは、冷戦終結後も欧州に天然ガスを大量かつ安定的に供給してきたが、足元の状況は様変わりした。
冷戦終結から30年以上が経ち、天然ガスの長期供給をベース築かれていたロシアと欧州との信頼関係が消滅してしまったのではないかと思えてならない。
<日本は「ガス危機」を起してはならない>
・この状況は日本にとっても「対岸の火事」ではない。東京電力福島第一原子力発電所事故の影響で、電源構成に占める原子力の比率がわずかなものになり、日本の電力供給に占める天然ガスへの依存が高まっているからだ。
・「欧州ではロシア産天然ガスが停止する」との危機感が高まる中、今回の大統領令がだされたことで「次は日本の番か」との危惧が生じているのは無理もないが、「今回の決定はサハリン2で主要な役割を果たしてきたシェルの扱いを早期に確定するのが狙いだ」と筆者は当初から考えていた。
・ロシアのやり方はいつも乱暴だが、これに振り回されることなく、日本のエネルギー安全保障を見据えた冷静かつ適切な対応が求められている。
<電気料金の抑制に不可欠な原子力発電の再稼働、政府は何をすべきか>
・電気料金の値上りが止まらない。日本の発電量の約8割を担う火力発電の燃料代が高騰していることが災いしている。
日本は化石燃料を安定的に確保するとともに、エネルギーの自給率を高めていかなければならない。日本にとって頼りになる純国産エネルギーは原子力だ。上昇を続ける電気料金を引き下げる特効薬でもある。
・なぜこのような不始末が相次ぐのか不思議でならないが、東京電力に任せていたらいつまで経ってもテロ対策は万全にならないだろう。
・政府に求められる最も必要な対策は、今一度、原子力損害賠償法の原則に立ち返り、「重大な事故が発生した場合、政府がすべての責任を負う」という姿勢を明確にすることで、国民の原子力に対する不信感を少しでも減らす努力をすべきだ。
・いずれにせよ、「国策民営」で進めてきた原子力政策の根本を見直すべき時期に来ていると言えるのではないだろうか。
<経済安全保障を追い風にせよ>
・日本企業はこれまで安全保障に対してリスク回避を優先しがちだったが、「経済の効率と安保のコストのバランスを採る」戦略を構築せざるを得なくなっている。激変する国際情勢の下で新たなチャンスを追い求めるしたたかさを忘れてはならないのだ。
<鳥インフル由来のパンデミックに備えよ>
・「国際社会は次のパンデミックに危険なほど無防備だ」
・赤新月社連盟(IFRC)の事務局長を務めるジェイガン・チャパガイン氏は「次のパンデミックはすぐそこに来ているかもしれない」と述べ、各国に対し、年内に準備態勢を強化するように求めている。
・「次のパンデミックは何か」との関心が高まりつつある中、筆者が懸念しているのは鳥インフルエンザの世界的な大流行だ。
・「鳥インフルエンザがヒトからヒトに感染するのは稀だが、ヒトからヒトに感染する事態となることも想定しておかなければならない」と警戒感を強めている。
・新型コロナの起源はいまだに明らかになっていないが、「機能獲得実験によって誕生した『人工』のウイルスが研究所から漏出した」との説が有力になっている。
H5NI型インフルエンザウイルスについても2012年に機能獲得実験が行われていたことが明らかになっており、どこかの研究所で保管されていた人工のウイルスが外部に流出し、大流行につながった可能性は排除できない。
<ロシアとどのように向き合っていけばよいのか>
・筆者は「エネルギー大国であり日本の隣国でもあるロシアと良好な関係を維持することが生き残りの鍵を握る」と考えているが、正直言って、ロシアと良好な関係を維持するのは難しいと言わざるを得ない。
<あとがき>
・ウクライナ戦争はけっして「小さな出来事」ではない。世界システムに大きな変化が生じるのは不可避なのだ。
・世界一の高齢化率を誇る日本では技術革新の速度は低下し、物事が変化しづらくなっていると批判されることが多い。「内向き」化する傾向が強い日本を誇る気分にはなれないが、変調をきたした世界と距離をとりながら暮らしていくことが比較的容易だと思う。
・日本は制御不能性に対処できるモデルを世界に提示することができるのかもしれない。
ケインズがかつて「最も困難なのは古い考えを捨て去ることだ」と述べた。
グローバル化を否定する構想は激しい反発を招くことを覚悟の上で、筆者は鎖国の先例を参考にして「戦略的自律」が国家の基本戦略だと確信するようになった。
(2023/7/1)
『日本人が知らないグレート・リセット 6つの連鎖』
2029年までに起こる本当のこと
高島康司 徳間書店 2022/10/15
・2020年から始まった新型コロナのパンデミック、そしてロシア軍のウクライナ侵攻は、その後の一連の出来事の連鎖反応を引き起こす起点となったブラックスワンである。しかし、長期化しそうなウクライナ戦争が第3次世界大戦の引き金になり、明日にでも大戦争が起こるようにどれほど見えようとも、一足飛びにそれが起こるわけではない。起点となるウクライナ戦争が第3次世界大戦につながるためには、2つの間に因果関係で連なるさまざまな出来事の連鎖がある。
それらの出来事の連鎖反応をどこかで止めないと、おそらく2029年頃には、連鎖反応の最終形態である第3次世界大戦を我々は体験することになってしまうだろう。
<はじめに>
・しかし、2022年に起こった数々の出来事は、そんな状況を一変させてしまった。第3次世界大戦はもはやファンタジーなどではなく、現実になる可能性が高い出来事になった。これを回避し、我々がこれからも生き続けるためには、大戦争へと我々を追い込む出来事の連鎖を自覚しなければならない。
<2023年以降の激変のスイッチとなった戦争>
・実はウクライナ戦争は、おそらく2029年前後に始まるであろう第3次世界大戦のスイッチになった可能性がある。その意味では安倍元首相の死は、大戦争に至る道を回避できた数少ない選択肢のひとつを失ってしまった可能性が高いのだ。
第3次世界大戦への道程は、多くの出来事が連鎖するジグザグの曲がりくねった道になるだろうが、ウクライナ戦争の長期化で大戦争へと至るキーとなるイベントは連鎖反応のように連なって起こっていく。安倍氏の死は、この出来事の連鎖反応の引き金のひとつに残念ながらなってしまったのだ。
<そもそもどうして戦争になったのか?>
・戦争が始まってしばらくして注目されるようになった動画がある。それは、オレクシィ・アレストビッチという人物の動画だ。
ちなみにアレストビッチは、ゼレンスキー大統領の顧問である。だが、得体の知れない謎の多い人物だ。
・アレストビッチの名前が有名になったのは、ロシアのウクライナ侵攻を公の場で予測していたからだ。2019年、ゼレンスキーが大統領選挙に勝利する少し前、彼はウクライナの放送局のインタビューで、ロシアの侵攻がどのようなものになるか詳細に説明した。
「もしウクライナがNATOのメンバーになりたいのであれば、いまの戦争を終わらせるデッドラインを定めなければならないのでは?」という質問にアレストビッチは答えた。
ちなみに戦争をしている国はメンバー国にはなれない規定がNATOにはある。ウクライナは2014年のマイダン革命以来、東部のドンバス地方の親ロシア派と内戦を続けている。もしウクライナがNATOに加盟したいのであれば、内戦を終わらせないとならないのでは、という質問だった。アレストビッチは次のように答えた。
(アレストビッチ):戦争終結のデッドラインはない。逆に、ロシアによるウクライナへの大規模な軍事作戦が実施されるだろう。なぜなら、ロシアはウクライナのインフラを破壊しなければならないからだ。そして、ウクライナの領土を破壊し尽くす。
インタビュアー:ということは、ロシアはNATOと直接対峙するということですか?
(アレストビッチ):いや、NATOではない。そのようなことは起こさせない。ロシアは我々ウクライナがNATOのメンバー国になる前に、攻撃しなければならないのだ。そしたらウクライナは破壊されるので、NATOはウクライナに関心を持たなくなる。これは99.9%の確率でかならず起こる。
だが、ウクライナからしてみると、NATOに加盟するためにはロシアとの大規模な戦争をしなければならない。もしウクライナがNATOに加盟しないと、10年から12年でロシアはウクライナを占領するだろう。これがいまの我々の分かれ道だ。
インタビュアー:ならば、全体的に見るとどちらの方がよいのですか?
(アレストビッチ):もちろんロシアとの大戦争だ。そして、ロシアとの戦争に勝利してNATOに加盟する。
インタビュアー:ロシアとの大規模な戦争とはどのようなものなのですか?
(アレストビッチ):ウクライナ国境のロシア軍による空爆。キーウ(キエフ)の占領、ドネツク近郊のウクライナ軍の包囲、クリミアに水を供給するためのカホフカ貯水池の攻撃、ベラルーシ領からの攻撃と新たな人民共和国の設立、主要なインフラと建造物の空爆など、要するに本格的な戦争だ。それは99%……。
インタビュアー:それはいつ起こるのですか?
アレストビッチ:もっとも危険な年は2020年と2022年だ。
これがインタビュー動画でもやりとりだ。戦争は予告されたように2022年に始まった。そして、まさにここで述べられているような地域をロシア軍は攻撃している。
<戦争は事前に仕掛けられていた? 報道されない真実>
・2012年以来NATO内部からウクライナをモニターしてきた元スイス参謀本部の大佐、ジャック・ボーは、2022年前後にロシア軍の侵攻をいわば予言したアレストビッチの発言を、NATOにはウクライナを加盟させる長期的な計画があった証拠だとしている。
<ロシアが2月24日に軍事進攻した理由>
・この記事を読むと、そもそもロシアがなぜ2022年2月24日にウクライナの軍事侵攻に踏み切ったのか、日本ではまったく知られていない理由が明かされる。ロシアのウクライナ軍事侵攻の可能性が意識され始めたのは、2021年3月末であった。このときロシアは10万人を超える規模の軍隊をウクライナ国境に配備し、軍事演習を実施した。軍事演習終了後も軍は19万人まで増強され、撤退しなかった。さらにロシアは、ベラルーシとの合同軍事演習も実施した。
・実は2021年3月24日、ゼレンスキー大統領はクリミア奪還の政令を発し、南方への軍備配備を開始したのだ。同時にバルト海の間でNATOの演習が数回行われ、それに伴いロシア国境沿いの偵察飛行が大幅に増加した。ロシアはその後、自軍の作戦遂行能力をテストするために、いくつかの演習を実施した。
つまり、そもそもロシアによる軍事演習の実施は、ゼレンスキーのクリミア奪還攻撃に対する構えだったのだ。日本ではプーチンの領土拡大欲が理由だとされているが、そうではない。
その後、10月から11月にかけて行われたロシアの軍事演習は終了し、事態は沈静化したかに見えた。しかしウクライナ軍は、ドローンを使って親ロシア派のドンバス地域の燃料庫を攻撃した。これは、ドンバス地域の親ロシア派に自治権を与えた2015年の「ミンクス合意」に違反した攻撃だった。
・ここでウクライナは、依然として「ミンスク合意」の順守を拒否していることが明らかとなった。これは明らかにアメリカからの圧力によるものであった。プーチンは、マクロンが空約束をしたこと、西側諸国が合意を履行するつもりがないことを指摘した。
<ウクライナ軍のドンバス攻撃>
・他方、東部ドンバス地域ではウクライナ軍の攻撃は続いていた。2月16日以降、ドンバスの住民への砲撃は、劇的に増えていた。EUもNATOも、西側政府も、そして西側のメディアも反応せず、見て見ぬふりをしていた。アメリカやEU諸国は、ドンバスの住民の虐殺について、それがロシアの介入を誘発することを知りながら、意図的に沈黙し無視してきた。
・2月17日、バイデン大統領は、ロシアが数日以内にウクライナを攻撃する可能性があると発表した。なぜ、彼はこのことを知っていたのだろうか?答えは明らかだ。自分たちからゼレンスキーに圧力をかけてドンバス地方を攻撃させ、プーチンが反撃するように仕向けたからである。
このように、2014年以来NATO側からウクライナの情勢をモニターしてきた本格的な軍事専門家は、今回の戦争をアメリカが仕掛けた実態を書いている。
<アメリカの長期計画>
・ブレジンスキーは、多極化した世界を認めない。「アメリカの優位性のない世界は、暴力と無秩序が増え、民主主義と経済成長が低下する」とし、「予見可能な将来において、アメリカのグローバルリーダーシップに代わる唯一の真の選択肢は国際的無秩序である」と言い切っている。
そしてブレジンスキーはこの著書のなかで、次のようにアメリカの外交政策の骨子を総括する。
・ソビエト連邦の崩壊により、アメリカは唯一のグローバルパワーとなった。
・ヨーロッパとアジア(ユーラシア)を合わせた面積、人口、経済規模は世界一である。
・アメリカはユーラシア大陸を支配し、他国が米国の支配に挑戦することを防がなければならない。
・今回、ブレジンスキーの弟子が多い「CFR」と米国務省は、かつてのアフガニスタン戦争と類似したシナリオを計画した。今度はウクライナを舞台に戦争を仕掛けてロシアを巻き込み、ロシアの国力の衰退とプーチン大統領の失脚を狙ったのが今回のウクライナ戦争の真実だ。
<決して弱くはないロシア>
・要するにロシアは財政的に非常に健全で、また民間部門よりも公共部門の方が大きいので、経済制裁による民間部門の落ち込みの影響はあまり受けない。またエネルギー価格も高騰しており、輸出も堅調だ。したがって、欧米の制裁があってもロシア経済は相当に長い間持ちこたえるだろうという予測である。
・おそらく、これがもっとも現実的な予測であろう。主要メディアで喧伝されているロシアのGDPのマイナス15%を超える落ち込みという状況にはならない可能性が高い。また、経済制裁をきっかけとして、中国とロシアによる新しい決済システムの構築をベースにして経済圏として自立するという楽観的な見通しもある。事実、ロシアは中国やインド、またブラジルなどのBRICS諸国との経済関係を強化しており、貿易額は急増している。これがウクライナ戦争による経済制裁から受けたマイナスを補っている。ロシアの国力消耗という「CFR」と軍産複合体の狙ったシナリオは実質的に頓挫しつつあるようだ。
<安倍元首相の死と開いてしまったパンドラの箱>
・このようにみると、安倍元首相の死の意味は非常に大きいように思う。ウクライナ戦争の和平交渉が必要なときに、それを仲介できる理想的な人物がいなくなったのである。
ロシアの欧米への憎しみは深い。また欧米のロシアへの嫌悪感と敵対感情は強烈だ。ウクライナは停戦を最後まで拒否し、国土の荒廃を覚悟したゲリラ戦を選ぶかもしれない。
・停戦合意ができないと、ウクライナ戦争は泥沼化する公算が高い。すると、戦争の長期化でエネルギー危機、食料危機、高インフレ、景気後退、国内の抗議運動の激化というすでに各国で起こっている一連の状況がさらに悪化し、それがまた白人至上主義者の本国帰還、欧米国内の暴力の激増、そしてアメリカの内戦に近い状況という出来事の連鎖のリミッターを解除するスイッチの役割を果たすことになる。
・こうした一連の出来事は、これ以外の多くの出来事が付随して起こるジグザグのコースの始まりとなる。そして2029年前後には、ロシア軍のヨーロッパ侵攻から第3次世界大戦が始まると筆者はみている。まだ7年ある。うまくいけばこの出来事の連鎖を止めることができるかもしれない。だが、止められない場合でも、少なくとも我々個々人は出来事の余波を最小限にくい止め、それに対処することができるはずだ。本書はそのために書いた。
<中国の共同富裕の試み>
・社会的格差の拡大に起因した矛盾が無視できなくなったいま、中国の習近平政権が立ち上げ、注目されているのが「共同富裕」の概念である。
・一方で中国では月収1000元(約1万7000円)程度で暮らす人が約6億人にも上る。0から1の範囲で格差の度合いを示す数値にジニ係数があるが、中国は公式な数値を発表していないものの、社会が不安定になるとされる0.4をかなり超えていると見られる。これはかなりの格差だ。
・格差が国民の分断をもたらし、深刻な国内対立を招いてアメリカがこのよい例だ。中国共産党は、現代のアメリカを反面教師としながら、格差の放置と固定化がもたらす体制上の危険性を認識していると思われる。この危険性を回避し、共産党の一党独裁体制を永続させるためには、格差を共産党の手によって解消しなければならないというのが、習近平政権の認識だろう。
<取り締まりと再分配>
・この「共同富裕」の宣言の前から、習近平政権の取り締まりは加速していた。2020年11月、「アリババ」の「アント・グループ」が上海と香港の証券取引所に上場するのを阻止するという驚きの決定を下した後、中国当局はボーイズラブ、塾などの教育サービス会社、芸能人のファンクラブ、さらには若者のビデオゲーマーまで、幅広い分野で取り締まりを開始した。すでに中国では、14の「取り締まり」が企業や個人に対して同時に行われているという。
そして、これらの取り締まりの多くは、「共同富裕」の概念のもとで行われている。取り締まりの目的は、「過剰な所得を合理的に調整する」ことや、高所得者や企業に「蓄えた富の社会への還元」を促すことが目的だ。ちなみに習近平政権は、富の分配の方法として以下の3つをあげている。
第1次分配:市場メカニズムによる分配
第2次分配:税制・社会保障による分配
第3次分配:個人や団体による自発的な分配
<ドゥーギンの新ユーラシア主義>
・ドゥーギンは欧米の民主主義と市場原理とは異なるロシア的な理念を新ユーラシア主義と呼んでいる。
・ドゥーギンの「新ユーラシア主義」の思想はさほど複雑なものではない。それぞれの国の文化は独自な価値を有しているので、この文化的な価値を尊重し、それに基づく社会システムを形成すべきだとする主張だ。
ドゥーギンによると、20世紀までは、(1)自由民主主義、(2)マルクス主義、(3)ファシズムという3つの思想が社会形成の基礎となる思想として存在していたという。しかし21世紀になると、マルクス主義もファシズムも姿を消し、「自由民主主義」が唯一の思想として残った。
・どの文化圏も、その文化に独自な社会思想を基盤にしてユニークな社会を構築する枠組がある。この権利を追求し、グローバルな「自由民主主義」に対抗する第4の思想の潮流こそ「新ユーラシア主義」である。
・ロシアは、このユーラシア的価値の守護者として振る舞い、どこでも同じ価値を強制する「自由民主主義」とグローバリゼーションに対抗しなければならない。そして、ロシアが「新ユーラシア主義」の守護者となることで、中国は中華文化圏の、ヨーロッパは欧州文化圏の、そして北米は北米文化圏のそれぞれまったく独自な価値を社会思想として追求し、それぞれ独自な社会を構築することができる。
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