「クオータ制」の制度を採り入れていない先進国は日本くらいなものです。(2)

<再度の政権交代の可能性>

・小選挙区比例代表並立制によって、党執行部の権限が強大になり、物が言いにくい雰囲気になったかもしれませんが、一方で、政策を争点にした選挙が可能となり、それによって、国民が政権を選択できる仕組みが整ったということは言えると思います。

・民主党が政権を奪取したときの衆院選では、その得票率は47%だったにもかかわらず、全体の74%もの議席を獲得しました。民意は半数であるのに、あたかも国民4人のうち3人が支持したと錯覚してしまうマジックがそこにあります。もしかすると、民主党が政権運営を失敗した根底に、この錯誤があったのかもしれません。

<小選挙区制の良し悪しではなく、どう運用するか>

・なぜ二大政党制が定着していないのか、それはわかりません。日本の国民は米国や英国のように二つの理念では分けられないという指摘もありますが、知事選や首長選は小選挙区と同じ一人を選ぶ仕組みとして定着しています。

・小選挙区比例代表並立制の導入に伴い、達成された目標もあります。たとえば、選挙や政治にかかる金額は、中選挙区の頃に比べて一桁以上減ったと思います。また多くの党で公募制度が定着し、政治の世界につながりを持たない人でも、立候補者となる道が開かれました。

・この観点で言えば、国政選挙は無論、地方選挙でも投票率の低下傾向に歯止めがかからない現実を、政治家は深刻に受け止めなければなりません。これでは、小選挙区制という選挙制度とも相まって、民意と政治勢力に大きな乖離が生じてしまいます。

<政治家は国民を信じているか>

・よく、「投票したい候補者がいない」という声も聞きます。しかし「投票に行かない」という行動は、その不満を表すことにはなりません。

<国民の支持層分布と制度の深い溝  久米晃>

<政党よりも人を選ぶ日本の有権者>

・なぜかと言えば、地域の代表者を選ぶ、人を優先して投票するという、日本固有の土壌が今も連綿と続いているからだと思います。

・つまり、政治改革イコール中選挙区制廃止という誤った認識が、メディアも同調することで拡散して、世論が熱病に侵されてしまったわけです。

・要するに、二大政党側は絵に描いた餅に終わったのです。私は改革論議の時、まだ若手の党職員でしたが、「改革派」「守旧派」とレッテルを貼り、ばか騒ぎしていると見ていました。今でも改革の発想は誤りだったと確信しています。

<投票の基本は候補者個人への信頼>

・確かに、旧民主党が2009年から約3年間にわたって政権を担い、一時的に二大政党のような構図になりました。しかし私は、これは自民党から人心が離れた反動で野党が政権を一時的に奪取した結果に過ぎないと思っています。なぜかと言えば、そもそも日本では今の選挙制度が想定した二大政党が形成されるような有権者の二極化が起きにくいからです。

 日本が参考にした英国では、歴史的に抵所得層や都市部出身者の支持が多い労働党、一方、それに対して保守党はどちらかと言えば中間層や富裕層などの有権者からの支持が多いと言われています。

・つまり日本では、政治家とは基本は地域の代表であり、選ぶときの大きな基準は、その候補が信頼できるのか、一票を投じるに値するのか、ということなのです。

・要するに、候補への信頼、日常的な活動が当落を大きく左右します。それは与党でも野党でも変わりません。自民党の公認を受けても、自民支持層の7割しか得票できない人は当選もおぼつかないのです。

・日本がお手本にした欧州の政党は、ドイツとキリスト教民主同盟や社会民主党などのように、みんなイデオロギーや宗教観を持った政党です。しかし、日本の政党、とくに自民党はまったく違います。

・安倍政権以降、よく「自民党の岩盤支持層」という言葉がメディアでも多用されるようになりましたが、ここで言う「岩盤支持層」というのが本当にどれほどいるのか、私には疑問です。ネットの普及で実態以上に大きくとらえられているのではないでしょうか。

<「保守的な無党派層」こそ自民党支持層の中核>

・小選挙区制では相手候補が1人の場合、有効投票数の過半数を取らなければ勝つことはできません。そうなると、まず党首の「顔」が大事です。

<野党は「今の政治への不満」を吸収できるか>

・自民党以外の政党はどうかといえば、創価学会を支持母体とする公明党、そして共産党は明らかに組織政党です。自民党の対抗してきた旧民主党は、立憲民主党と国民民主党に割れています。いずれも労組のナショナルセンターである連合が支持の中核ですが、その連合が官公労・日教組と民間労組で支持政党が分裂している。これでは、選挙制度が想定する二大政党制は実現のしようがありません。

・私は、国政選挙での有権者の判断は「今の生活、政治に満足しているのか、不満なのか」「自民党に入れたいか、入れたくないか」に尽きると確信しています。もちろん、その前提として、先ほどから指摘している候補個人の問題もあります。

<志ある人がスタートラインに立てない選挙の不平等性>

・本来は中選挙区制の方が日本の風土に合っていると思いますが、小選挙区比例代表並立制で当選してきた人が制度を変更するのは無理でしょう。自分たちが当選してきた制度を自ら壊すはずもありません。

・公募のときには、選考する支部長や役員が現職とつながりが深いケースが多く、その場合、二世を選びがちです。

・小選挙区比例代表並立制を抜本的に見直すことは難しいにせよ、部分的な修正は検討すべきだと考えます。無所属でも出馬できるように門戸を開けることに加え、比例復活当選の基準をしっかりと議論すべきです。

<下がり続ける投票率が物語ること>

・自民党は政権を奪取してから国政選挙で連勝してきました。しかし、この間、投票率はずっと下がり続けています。有権者の半分強しか投票所に足を運んでいません。

<政権交代の夢と現実>

<「熱病」から覚めて見えてきた蹉跌   船田元>

<「選挙制度改革は熱病だった」の真意>

・小選挙区制が何をもたらすのかについて十分に吟味をしないままに、「小選挙区制=政治改革」というイメージをつくり上げ、みんながそれに踊ってしまったのではないかという反省でした。

<小選挙区制では専門性を持った議員が育たない>

・中選挙区制当時の定数は3~5人区でした。たとえば5人区であれば、有効投票数の2割程度、3人区なら3~4割の有権者から支持を受ければ当選を果たせたわけです。ところが、小選挙区での一対一の戦いとなると、有効投票数の過半数の方々から名前を書いてもらわなければなりません。この違いが、政治活動にも選挙運動にも非常に大きな差異を生じさせているのです。

中選挙区制の時には、ある程度自分の専門分野や得意分野に特化して実績を重ね、その積み重ねを有権者に訴えることが選挙での勝利につながりました。しかし、小選挙区制ではオールマイティというか、あらゆる分野において、自身の考え方や実績を蓄えていくことが求められるようになりました。

<現行制度は60点、理想は中選挙区連記制>

・私は小選挙区比例代表並立制がまったくダメだったと結論づけているわけではありません。100点満点で言えば、60点くらいでしょうか。どんな制度でも功罪の両面を併せ持っています。

・小選挙区制のメリットとしては、やはり政権を選ぶことができる、つまり政権交代が比較的可能であるということがあります。

<安倍派の増大が裏金問題の背景>

・そんな状況で100人規模まで大きく膨らんだのが安倍派だったわけです。安倍派を中心に派閥パーティーの裏金システムが定着していった背景には、増大する派閥を維持していくという裏事情があったのではないでしょうか。

<いま改革の熱を熾すために>

・2023年末から自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件に端を発して、政治改革が叫ばれています。「政治とカネ」の問題は喫緊のテーマです。

<世襲の跋扈、政治の劣化を招いた   田中秀征>

<金権腐敗批判が選挙制度改革へとすり替わる>

・岸田首相内閣では2022年秋に不祥事や失言で4閣僚が相次いで更迭され、23年秋には同様の理由で副大臣や政務官4人が政治資金パーティー裏金問題が噴き出しました。こうした状況を見て、政治の劣化を改めて痛感しました。

<対抗する思想潮流がない日本>

・小選挙区論者は「政権交代可能な二大政党を実現するため」と言うのですが、それは先に二つの思想潮流があって、初めて出来上がるものです。日本にはそれがありません。

<政治家の官僚依存、世襲の跋扈>

・小選挙区制論者が目指した二大政党ができなかっただけではありません。政治の側が政策調整を官僚に丸投げするようになりました。これが、小選挙区制がダメな二つ目の理由です。

・こうして政治家は官僚に対して弱くなり、かつてはあんなに霞が関に怖がられた自民党政調会はすっかり骨抜きにされてしまいました。

もう一つ、小選挙区制の弊害を挙げるとすれば、世襲議員が跋扈するようになり、新しい優れた人材が選挙に出られなくなったことです。自民党には大きな支援組織が6つあります。農業団体、商工団体、建設団体、遺族会、かつての全国特定郵便局長会、そして日本医師会と日本歯科医師会と日本薬剤師会による「三師会」です。

こういう形で6つの団体が一本化して一人の自民党候補を推したならば、誰が敵うでしょうか?この6団体だけでも強いのに、ここに世襲候補が持つ個人票と、公明党の票がつくのだから、党に公認されれば、たいていの候補はそのまま当選します。

・残念ながら、このままでは政治は劣化の道をたどる以外にないですね。政治の劣化の根源は政治家の劣化であり、政党の劣化です。

<現状打破のために中選挙区連記制を>

・そのためにも選挙制度はもう一度、何が何でも見直さなければなりません。繰り返しになりますが、私はやはり現状を打開するためには中選挙区連記制がいいと思っています。

<「カネのかかる政治」を認めてはならない>

・なぜ政治家はカネを集めてばかりいるのかと言えば、カネのかかる政治をやっているからです。結婚式や葬儀といった慶弔電報などで、月に100万円単位のカネを使う議員もいます。無駄な印刷物も多い。だけど、もっとカネがかかるものがあります。情報交換に名を借りた高価な飲食です。

・そもそも政治活動に必要以上のカネがかからない仕組みはできています。政策研究なら国立国会図書館や衆参両院の事務局があります。国費で政策秘書を付け、調査研究広報滞在費や立法事務費まで支給されています。むしろ、それらを名目通り正しく活用しない議員が多いことが問題です。

<裏金問題は選挙制度の問題でもある>

・だから、この裏金問題は選挙制度の問題でもあるのです。小選挙区制は、世襲議員が増えるという悪しき流れに拍車をかけたのは説明した通りです。そして、彼らは親がそうだったので、知らず知らずに会食文化まで引き継いでいるのではないでしょうか。政治の劣化の無視できない一因になっています。

<小選挙区制は間違っていない   岡田克也>

<制度を使いこなせなかった民主党>

・小選挙区比例代表並立制を導入した衆議院選挙制度改革は、基本的には間違っていなかったと思っています。中選挙区制時代のあんなドロドロとしたカネまみれの政治は、今の自民党でもないでしょう。

・それでは、われわれと自民党は何が違ったのかというと、自民党はこの制度をうまく使いこなしたんですね。小泉純一郎さんや安倍晋三さんは首相として、自分に不利な状況をひっくり返すために、小選挙区制をうまく利用して議席を大幅に増やしました。

小泉さんは政治改革に真っ向から反対していたのに、最も政治改革の果実を享受したわけです。

<「ねじれ」を産んだ民主党政権の失敗>

・そして、やっぱり民主党政権時代の失敗です。民主党政権では、2010年の参院選で負け、衆参両院で多数派が異なる「ねじれ」になったことが痛かった。あれで自民党の言うことを聞かないと、法案が一本も通らない事態になってしまいました。

・自民党は、創価学会との関係がますます深くなり、選挙ではそれに依存するようになっています。自身の後援会もなく、業界団体と創価学会に頼り切りの議員が増えていますから、そんなに強くないはずです。

<執行部に権力が集中し、腐敗の温床に   辻元清美>

<「採決要員」と化した議員たち>

・ところが、小選挙区比例代表並立制が導入されると、自民党では公認権や資金を握る執行部の力が強大になりました。

・ところが、安倍さんに最後はすべて握られているから、誰も物が言えず、権力の腐敗を止められなくなったのだと思います。つまり、現在の制度では執行部が腐敗していくという新たな弊害が生じたわけです。

・しかし、小選挙区比例代表並立制に変わってから、ほとんどの議員は「採決要員」と化しているように私には映ってしかたありません。

 小選挙区で1回でも当選すれば、なかなかその牙城は崩せません。他方、永田町に来れば、執行部の顔色をうかがうばかりになりがちです。

<地域との過度の密着で小粒化する政治家>

・選挙区に目を転じると、与野党を問わず、政治家のスケールがとても小粒になってしまいました。

・そうすると、当選するためには地域のさまざまな会合に出たり、盆踊りなどのイベントに積極的に顔を出したり、非常にこまめな活動が欠かせなくなります。

・私は立憲民主党の前に社民党や民主党に所属し、小選挙区で当選を重ねてきましたが、小さな政党の候補が小選挙区で勝ち抜くには、自分のエネルギーのほとんどを日常の政治活動に費やさなければなりません。

<政治の質を変える三つの改革>

・こうした潮流と日本の政治の質を変えるために、私は三つの改革を提唱しています。

 まずは世襲制限です。その弊害は先述したように、惰性と馴れ合いの政治に陥り、有為な女性や若者の挑戦を阻んでいることです。

 二番目は、国会議員の女性割合を一定数決める「クオータ制」の導入です。小選挙区比例代表並立制の現状では、やはり女性の政治進出を推し進めるにはハードルが高いと思います。

・私は現実的な解決策として、比例代表での女性候補の割合を各政党が定める一種の「クオータ制」を導入するとともに、少数意見でも国会に議席を取れるように比例代表を現在のブロック制から全国区に広げるべきだと思います。

 世界では、196カ国のうち、129カ国で「クオータ制」を導入しています。この制度を採り入れていない先進国は、日本くらいなものです。経済界でも女性の役員や管理職を増やして意思決定に反映させる制度のある方が、そうした措置を講じなかったときと比較して、経済成長率が上がったという統計も出ています。これは与野党を挙げて取り組むべき喫緊の課題なのです。

・そもそも日本の政治の閉塞感は、男性が優位で世襲がやたらに多いという現状が引き起こしているのではありませんか。そんな状況に追い打ちをかけるように、小選挙区制で党執行部やトップに権限が極度に集中しています。多様化する社会から逆回転するこんな政治の風土と構造を変えていかない限り、日本の未来は開けないと確信しています。

・最後は被選挙権の変更です。国会議員の被選挙権を衆参両院とも20歳以上に引き下げ、若者の意見をもっと政治に反映すれば、投票率も上がり、政治に躍動感が出てくるものと信じています。

・政党交付金も所属する現職議員の人数によって配分されるので、小さな政党は圧倒的に不利です。

<選挙制度と国民>

<制度改革の失敗を認め、今こそ変えるとき   田原総一朗>

<議員がイエスマンになってしまった>

・30年前の1994年1月、細川政権で、衆議院への小選挙区比例代表並立制導入を柱とする選挙制度改革が実現したが、これは失敗だったと僕は思っている。問題はいろいろあるが、一番大きいのは小選挙区制だと一人だけを選ぶので、議員が執行部のイエスマンになってしまうことだ。

・2012年以降の第二次安倍政権の時が典型だ。長期政権が続くうちに、みんな安倍晋三首相のイエスマンになった。自民党執行部に「ノー」と言えなくなり、昔はあれほどあった論争が党内からなくなってしまった。選挙の公認権もカネも握られているからだ。

・しかもこの選挙制度は、親から「地盤」「看板」「カバン」を引き継ぐ世襲議員に有利に働くから、自民党は今でも世襲だらけだ。

・もう一つ、岸田政権下でとんでもないスキャンダルも露呈した。派閥が開催する政治資金パーティーのパーティー券をノルマ以上に販売した議員に売り上げをキックバックしていた上に、キックバックを受けた議員は政治資金収支報告書に計上しないで、裏金化していたのだ。

<安倍首相も制度見直しに賛成だった>

・この選挙制度は変えた方がいい。だから、第2次安倍政権で自民党幹事長だった石破茂さんと会い、「元の中選挙区制に戻したらどうか」と言ったことがある。でも、石破さんは「確かに自民党の中には論争がなくなりました。しかし中選挙区制に戻すのは反対です」と言った。

 石破さんは中選挙区制時代の選挙を戦っている。その経験から、中選挙区制は表に出せないカネがどうしても必要になるが、今の小選挙区制はカネがかからず、クリーンな選挙ができるという認識だった。

<政治を変えられると思えば投票に行く>

・選挙の時、有権者に必死さと覚悟を見せるにはどうすればいいか。それはカネを使うことだった。カネを使えば必死さが伝わる。そのためには裏金が必要だったということなのだろう。

 繰り返すが、今の制度では執行部へのイエスマンばかりになる。

<英国の理想化という陥穽   伊藤惇夫>

<特殊だった英国の制度 欧州大陸は比例代表が中心>

・私たちはスタートの段階で英国を手本にしました。

<動いた小沢一郎>

・小選挙区って、何度も当選するとある種の「領土」になるのです。すると、そこで当選している政治家は殿様、領主様になり、隠居した後は若殿が後を継ぐ。周辺で支えている連中も利益共同体ですから、殿の後には若殿という仕組みをつくってしまう。それが、世襲がなくならない要因だと思います。

 こうなると、同じくらいの能力、あるいはそれ以上の能力を待っていて、その選挙区から出たいという意欲があっても、その人は結果的につぶされてしまう。

・いつも見慣れた「おらが若殿」に投票しているわけですから、これだけ世襲が多い状況は、世界の先進民主主義国家の中ではきわめて異常です。

<「その先」の考察不足だった選挙制度改革   高安健将>

<公正な競争を歪める裏金>

・自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件をきっかけとして、2023年末から「政治とカネ」を巡る問題が日本政治の大きな焦点になりました。

・政治とカネの問題は、選挙制度とも密接に絡みます。

・果たして、不透明なカネの問題点はどこにあるのでしょうか。

・利益誘導する政党や政治家を落選させることができれば、自浄作用が発揮される余地があります。しかし、そもそも選挙における競争が歪められていては、こうした自浄作用が機能する余地が失われてしまいます。

・政治にカネがかかるというとき、秘書の雇用、ビラの印刷、インターネットを含めた広告、冠婚葬祭での出費、地元議員への資金提供がしばしば具体的な用途として挙げられます。いずれも政党や候補者の間で、同じ資金量でそもそも競われていなければ、競争が歪められる支出内容です。

<いまの制度は二大政党制も野党間協力も困難にする>

・30年前の政治改革を顧みると、同士討ちでカネがかかる中選挙区制の廃止が最優先され、その先の考察が不足していた点は否めません。 

<制度を変えれば意識が変わる 衆議院に中選挙区比例代表制を

 大山礼子>

<やる気のない議員しか選べない制度の問題>

・政治の劣化が著しいですね。「失われた30年」と言われますが、国会の審議にしても政治資金のありかたにしても、何も変わらないばかりか、後戻りしているようにさえ見えます。

・今の制度は衆参両院ともに、大いに問題があります。

・一人しか当選できない小選挙区制は野党の結集を促す効果がありますが、比例部分があるため、中小政党はそこで生き残ることができてしまう。

しかも、小選挙区に候補者を立てた方が比例票が増える傾向があるから、都市部の選挙区を中心に多党乱立となって、結集効果がますます打ち消されてしまうんです。

・参議院の選挙制度はもっとひどいです。1人区に加えて2~6人区の中選挙区が生き残っており、衆議院以上に個人を選ぶ選挙になっています。

・そして、同じ比例代表制でも衆議院と違って、参議院では名簿が原則的に非拘束式になっています。非拘束というのは、政党が独自の順位を決めず、候補者の得票順に当選を決める方式なので、こちらでも個人中心の性格が強いんですね。しかも全国比例ですから、組織、団体の後押しを受ける候補者が有利になっています。

・また、「1票の格差」解消のため、2016年の参院選から鳥取県と島根県、徳島県と高知県が合区になりましたが、この問題もどうしていくのでしょうか。

<おわりに 埋まらなかった理想と現実の溝    内田恭司>

<30年を経たことで可視化された問題点>

・あれから30年あまり。日本の政治はどう変わったのかと言えば、国会の与野党勢力は、当時の改革派が思い描いた政策を軸とした二大政党には収斂せず、政権交代のダイナミズムが定着することもなかった。

・そればかりか、現在の政治は首相官邸や与党執行部への権限集中に加え、議員の質の劣化による議会機能の低下に喘いでいると言っていい。当の政治家も多くが「失敗」との評価を下す選挙制度改革とは何だったのか。

・10年や20年では明確でなかったが、30年を経た今、制度の問題点や歪みは間違いなく顕在化した。その最もたるものが権力の集中や政治家の劣化だ。国民の政治不信や無関心を招いて、ますます政治が国民不在のものになっていくという。負のスパイラルを生んでいる。

・16人の選挙制度改革に対する評価は、やはりと言うべきか、否定的なものが多かった。

・田中秀征氏も「改革は間違いだった」と明確に言い切った。

・当時、若手改革派の旗手だった石破茂氏は「間違えたかなという率直な思いを強く抱いている」と吐露した。「中選挙区だから同士討ち、サービス合戦になるのだ。政策本位で、二大政党が戦う制度に変えなければならない」。当時彼は真剣にそう考えていたという。しかし今、過去を回想して「思ったようにならなかった。改革で派閥がなくなるというのも幻想だった」と総括し、理想と現実の深い溝を認めた。

・ジャーナリズムの立場から改革を強く迫っていた田原総一朗氏も「小選挙区制が正しいと思い込んでいた」と、当時を省みて述べた。

・やや異色だったのは、政策グループ「YKK」の一角としてならした山崎拓氏だ。政治の現状に照らし「小選挙区制の弊害は大きい」と警句を発しながら、「政治は権力闘争の世界だ」として、選挙制度改革も「その手段だった」と語った。

<政権交代の実現という光の側面>

・少数であるが、16人の中には肯定的な評価もあった。石破氏と同じく若手改革派として邁進した岡田克也氏は、「選挙制度改革は基本的に間違っていなかった」というスタンスで一貫している。

 実際に、民主党において、自身も中核メンバーの一人となって政権交代を果たしただけに、「今後もこの制度の下で自民党に対峙していく」と言い切る。

・しかし、ここまで肯定的な姿勢を貫いているのは岡田氏くらいだ。当時、小沢一郎氏や岡田氏とともに自民党を割り、「若手のホープ」とも言われた船田元氏は、現行制度について「60点ぐらい」と、ギリギリ合格とも言える点数を与えてはいる。だが、1995年の時点で、すでに政治改革は「熱病だった」と指摘したように、遮二無二小選挙区制導入へと突き進んでいったことに懐疑の目を向ける。

 

・かつての中選挙区制への批判から、現行の選挙制度を評価するのは野田聖子氏だ。サービス合戦を強いられた旧制度では、国会を欠席してまで後援者の結婚式や葬式に駆けつけなければならなかったが、そういうことはなくなり「より政治に専念しやすくなった」と言う。だが、今の制度が「女性の政界進出を阻んでいる」という見方は鋭かった。もともと男性優位の政界において、小選挙区で男性議員がいったん議席を得ると、女性の入る余地はないという指摘だ。

・この制度で最初となる1996年の衆院選に初出馬した辻元清美氏は、「2009年に民主党が政権に就き、この制度が政権可能な仕組みだと実証した」と評価した。だが、「それ以上に影の部分が大きい」として、野田氏と同じく「自民党では公認権や資金を握る党執行部の力が絶大になった」と指摘した。

<失われた政治の活力>

・だが30年もの間、制度がより良いものに変わることはなく、細川氏の期待に応えるような、大きな波を起こすことのできるリーダーも現れていない。現時点で選挙制度改革に対する歴史家の評価は、細川氏の意に反するだろうが、厳しいものなのではないだろうか。

・当時、新進気鋭の政治学者として政治改革を理論の面でリードした佐々木毅氏も、立ち位置は細川氏と似ている。改革後の政治のありかたについて「政治家の当人たちでも総括できないほど、失敗の歴史になった」と振り返り、「この制度を金科玉条のごとく守る必要はない」として、将来の改革に期待を寄せるからだ。

<なぜ選挙制度改革はかくも挫折したのか>

・それにしても、まぜ選挙制度はこうも挫折の道を歩んだのだろうか。佐々木氏は「政治の力学の中でもみくちゃになり、選択肢が残っていなかった。あの段階では、相対多数が確保できる案ならしかたがないというのが実情だった」と内実を話す。自民党職員の立場で改革に携わった伊藤惇夫氏はもっと率直に「妥協の産物だった」と語り、続けた。

 フルメニューの政治改革は難しいと、端からあきらめて選挙制度に特化する。だが、他の国の制度を調べるすべはなく、歴史も文化も違う英国の制度を盲目的に理想視してしまった。さらには野党だけでなく自民党内の反対派の賛同を得なければならず、比例代表を組み込み重複立候補も認めてしまった――。

・だが、自民党で選挙対策本部事務部長を務め「選挙の神様」と評された久米晃氏は、日本では有権者の二極化は起こりにくく「小選挙区制が想定する二大政党制は、そもそも実現しようがなかった」のだと喝破する。日本では、政党や組織よりも人を優先して投票する、固有の土壌が連綿と続いている。有権者の支持分布は多層的であり、現行制度でくみ取るのは無理があるのだという。

・政治学者の高安健将氏も「日本に複数のグループが混在しており、制度だけでは二大政党に支持が収束しない」として同意見だ。佐々木氏同じく、政治学者として選挙制度改革に関わった曽根泰教氏は「改革の時は、国民の意識は保守と中道左派的なものに分かれるとの予測があったが、中道左派という塊はできなかった」と述懐した。

<日本の民主主義そのものの危機>

・評価については、改革への関わり方や、その後の政治的立ち位置によって分かれたとも言えるが、少なくともこの制度が導いた政治の現状については、16人がほぼ一致して否定的に捉えていた。

・では、今後の選挙制度はどうあるべきなのだろう。実はこの点については、ほとんどが明確なビジョンを示し得なかった。

 それでも河野、田中、船田の各氏は、複数候補に投票できて複数が当選できる「中選挙区連記制」が望ましいと提起する。他にも、かつての中選挙区制の方がよかったという意見はあった。だが、石破氏は「あんなカネのかかる制度には戻りたくない」と、中選挙区制を真っ向から否定した。

・政治学者の大山礼子氏は、選挙区を中選挙区にして、比例代表で当落を決める制度なら同士討ちはなくなるのではないかと持論を示したが、現職の議員は現行の選挙制度で当選してきている以上、この制度を変えることには否定的だろうとも推察した。同様の見解は山崎氏らからも出された。

・政治家の劣化は進み、国会は十分に機能しない。立て直さなければならないが処方箋はなく、もう一度改革しようというエネルギーにも欠けている。結果として国民の政治不信や無関心は進み、選挙の投票率は下がる一方だ。日本の民主主義そのものが危機的状況に陥ろうとしていると言っていい。

 どうすればいいのかと問うてみても、特効薬は見つからない。

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