余談になりますが、衆議院議員なら当選5回、参議院議員なら当選3回が大臣適齢期といわれます。(2)
<野党議員の嫌がらせ>
長尾:議員の朝は早いですが、総理大臣の朝はさらに早いです。特に予算委員会が行われている期間の総理の1日は、ものすごくハードですね。毎朝6時から、自宅もしくは首相官邸で予算委員会の答弁のレクチャーを受けています。
長尾:質疑の前々日の正午に提出するというフワッとしたルールなので、野党議員はそれを守りません。
23時に質問通告を受け取った役人は、すぐに担当の議員の質問を取りに行きます。これを「問取(もんとり)」といいます。
役人は問取をして、深夜に役所に戻って答弁書を作成します。答弁書の内容がほかの省庁と考えに齟齬がないか、擦り合わせもしなければなりません。
だから予算委員会の期間中、国会担当職員は、ただの1人も帰宅できないのです。これは無駄なことでしょう? 野党がルールどおりに質問通告を提出していれば、徹夜などしなくても済むはずです。
渡邊:本当に無駄なことをやっていると思います。また、質問通告によって官僚答弁が行われる国会は、まるでプロレスショーのような側面があります。これでは建設的な意見など期待できませんね。
<有事のときの召集は時代遅れ>
渡邊:しかし、いまだに官邸に飛んでいくことを求められており、少しでも遅れるとメディアに叩かれます。大臣は落ち着いて眠ることもできません。
国家公安委員会委員長になると、多摩川を超えることすらできないでしょう。多摩川を超えると、すぐに都内に戻れなくなるからです。
<議員がコンビニで食料を買い漁るワケ>
長尾:議員に対する制約といえば、「禁足(きんそく)」もその一つです。
・では、この禁足が何かといえば、国会で審議中の法案をどうしても成立させなければならず、本会議が深夜に及ぶときに出る号令です。そのため禁足が出ると、議員も秘書もみんな、国会内にあるセブンイレブンに駆け込んで食料を買い漁ります。おにぎりやカップラーメンは瞬く間に完売します。
・禁足は通常国会の会期中に一度出るかどうかで、年がら年中出るわけではありません。それでも議員は大変な思いをします。
<不要な在京当番>
長尾:大臣・副大臣・政務官にはもう一つ制限があります。
小泉純一郎総理の時代に、震災などの有事が起きたらすぐに政府が対応できるようにと、週末は政務三役の誰かが東京で待機するというルールが設けられたのです。これを永田町用語で「在京当番」といいます。
長尾:国会会期中なら東京にいるのもいいですが、閉会中も、いなくてはならないのはつらいですよ。
<政教分離に対する誤解>
渡邊:事件以降、メディアはなぜか山上容疑者ではなく、安倍氏やほかの自民党議員、そして旧統一教会ばかり批判しています。安倍氏や自民党議員が旧統一教会と深い関係を築いており、特に便宜を図っていたというのがメディアの言い分です。
この一件に関する報道に触れるたびに感じるのは、日本人の多くが政教分離を誤解しているということです。現に政教分離を理由に、自民党議員と旧統一教会の関係を問題視している人が多いでしょう。
政教分離とは、政治と宗教を切り離すということではありません。国や自治体が特定の宗教団体を優遇したり、弾圧したりしてはならないということです。宗教政党の公明党の存在が認められている理由も、政教分離の原則があるからです。
<宗教団体から支援を受けるのは悪か>
長尾:旧統一教会の信者数は、公称で56万人とされています。信者数が公称827万世帯の創価学会と比べれば、非常に小規模な宗教団体です。創価学会のほうが、大きな影響力があるのは明白です。
<日本を脅かす危険思想>
<参議院議員は各県の代表者>
渡邊:現在、衆院選では、「拘束名簿式比例代表制」を採用しており、各政党は候補者の名簿順位をあらかじめ決めています。
・一方、参院選では、「非拘束名簿式比例代表制」を採用しています。
長尾:特定枠とは、各政党が優先的に当選させたい候補者をしている制度です。
渡邊:特定枠はあくまで特定枠です。以前は、参議院議員は各県から選出されるのであり、各県の代表といえる存在でした。ところが高知・徳島と鳥取・島根が合区になったことで、代表者のいないエリアが生まれてしまいました。
<「1票の格差」より大切なのは>
長尾:「1票の格差」を主張している人は、都会の百人と田舎の百人を同一に考えているのでしょう。それはおかしい。
・確かに国民は平等ですが、こと選挙の「1票」においては、土地の広さも考慮すべきです。
<二大政党制は日本にそぐわない?>
渡邊:日本では自民党政権が続いています。こうした状況に対して「自民党一強」とネガティブにいう人がいます。安倍政権が続いていたときには、「安倍独裁」などという人までいたでしょう。
長尾:二大政党制の必要性を訴えている人の多くは、欧米と比較して、日本にも根づかせるべきだといいます。ただ、国家にはそれぞれの国柄があるものです。
・だからアメリカの真似をして二大政党制にこだわるのではなく、日本にとって最適な方法を追求すべきだと思います。
<なぜ新党の寿命は短いのか>
渡邊:自民党政権では総裁が代わるたびに事実上の政権交代が行われており、二大政党制にこだわる必要はないと述べました。
・以上のような理由から、ミニ政党や5人以下の会派では国会で目立つことができません。委員会で何か意見を述べたとしても、その意見が通る可能性は極めて低いのです。
・現状では、ミニ政党や泡沫政党が党勢を拡大して、大政党に成長することは極めて困難でしょう。
長尾:近年生まれた政党で、唯一党勢を拡大したのは日本維新の会です。
・政党を作り、拡大するには、こうすればよいというノウハウを考えられるものではありません。また現状は、新しい政党を作ることよりも、自民党のなかでどうするかを考えたほうが、物事を前に進められるはずです。
<日米の政治システムの違い>
渡邊:政権交代のたびに人材が入れ替わるため、「回転ドア」と呼ばれています。これがアメリカ式であり、日本のような年功序列のピラミッド構造とはまったく異なるのです。
では、アメリカの大統領はどのようなかたちで政権を運営しているのでしょうか。まず行政と立法が半ば一体化している日本とは異なり、アメリカでは行政と立法が分離しています。
大統領が議会に出席するのは、毎年1月に一般教書演説を行うときだけです。
・日本では、法律は法律、予算は予算で別々に成立します。ところがアメリカでは、予算と法律が一体化しています。そしてこの法律は議会が決めるので、ホワイトハウスの権限はさほどないのです。
<大統領制で独裁国家に?>
渡邊:日本人のなかには、アメリカの大統領に大きな期待を寄せ、大統領選の結果に一喜一憂する人がいます。ところが、大統領には法律を成立させる権限がないので、議会の思惑どおりに働かなくてはならないのが実情です。
・大統領制を訴える声には注意してもらいたいと思います。
<国民が政治を動かすためには>
渡邊:国民ができることは投票だけではありません。私たちは「請願権」という権利を有しています。つまり議員に対して陳情する権利があるのです。
長尾:無理な陳情を受けたときは、キッパリと断ることが大切です。
<一つの陳情が起こした奇跡>
渡邊:陳情をきっかけに政治が動いたことはありましたか?
長尾:ありました。平成26年に過労死等防止対策推進法という法律が施行されました。
<永田町の裏話>
<永田町に巣食う怪しい人々>
渡邊:永田町にいると、この人はいったい何をしているのだろう、と感じる人を見かけることがあります。例えば議員会館事務所を訪れ、取材という名目で政治家から情報を集めて、その情報を売って稼いでいる人です。
渡邊:また、ロビー活動という名目で議員会館に入館して、通行証を首からぶら下げながら、工作活動をしている人もいます。
・また、「パーティー券を買いますから」といって、議員を取り込もうとする人もいます。
「政治とカネ」というと献金が槍玉に上がる傾向がありますが、本当の問題点はこのパーティー券にあります。なぜなら外国人がパーティー券を購入することは、制限されていないからです。
長尾:パーティー券の場合、20万円以上なら名前を記載しなければなりませんが、それ以下なら匿名で購入することができますからね。
長尾:政治家が作る法律には、必ず政治家にとっての抜け道があるということです。
渡邊:例えばパチンコ店です。実質的なオーナーは韓国人や朝鮮人でも、日本人に社長を任せることで、日本企業を装っている会社もあるでしょう。これも大きな問題です。
<広告出稿は口止め料>
渡邊:永田町には政界誌の記者もいます。一般の人はあまり知られていない、主に政界に身を置く人のための月刊誌です。
・政界や財界の「裏情報」を握っているため一流企業は“口止め料”として広告を出稿しているきらいがあります。
渡邊:余談になりますが、世界的に見ても、ジャーナリストはスパイに利用されがちな職業です。1908年に創刊され、2009年からがインターネットに限定して記事を配信しています。
長尾:かつてジャーナリストの櫻井よしこ氏が勤めていた新聞社ですね。
渡邊:同社は以前からCIAと強いつながりを持っているといわれており、また、世界の諜報機関から「最も信頼できる新聞」という評価を受けています。
長尾:連日、いろいろな人がいらっしゃいます。ただ、私に限らず議員は不在のケースが大半です。代わりに秘書が対応するのですが、多いときにはたった十分のあいだに二人も三人も来ることがありました。
<甘すぎる議員会館のセキュリティ>
長尾:議員会館のセキュリティは実に甘いです。しかし、旧議員会館のセキュリティはさらに甘かったですよ。
<議場にスマホを待ち込むのは?>
長尾:議員が足を怪我して杖を議場に持ち込む際にも、議長の許可が必要になります。
あとパソコンの持ち込みは禁止されています。本当はスマートフォンも持ち込みもNGだと思いますが、みんなポケットに入れて持ち込んでいます。
<国会でテロが起きたら>
長尾:では、国会の警備は誰が担っているかというと、衛視です。
<国会議事堂の食事事情>
長尾:国会議事堂の西側、議員会館との連絡通路の脇にある吉野家を良く利用しました。
渡邊:衆議院分館1階にあるカレー屋も有名ですよね。
長尾:「喫茶・あかね」です。あと参議院の地下にある、「みとう庵」という蕎麦屋も美味しいですよ。国会議事堂内には安くて美味しいお店がたくさんあります。
<衆議院は水、参議院はミルクとコーヒー>
長尾:国会で出される飲み物も衆参で違います。
衆議院の常任委員会を行う委員会室では水しか飲めません。しかし、参議院ではミルクとコーヒーが飲めます。
<予算がない新聞各社>
長尾:昔は人材が豊富だったので、担当記者はどんどん代わりましたが、最近は同じ記者が同じポジションにずっといますよね。やはりどこも人手不足なのでしょう。
<記者とのつき合い方>
渡邊:政治家のスキャンダルは、秘書のリークによるものも多いですね。秘書がほかの議員に喋ってしまい、その議員が週刊誌の記者に情報を売る。永田町は嫉妬渦巻く世界ですから、若くして目立っている議員だったら、その足を引っ張ろうとする人もいるでしょう。だから情報が売られてしまうのです。
<政治とどう向き合うべきか>
渡邊:改めて深く感じたのは、戦後の日本で続く国会の状況を打破すべきだということ。変えなくてならないのは、やはり野党です。与野党での議論を活発にすべきだからです。現在の姿は、議会として不健全です。
・やはり国民一人ひとりがこの国をよくしようと思わないと、状況は改善しません。まるで別世界で政治が行われているように考えている人も多いですから。
<あとがき 長尾たかし>
・法案や予算案の作成に至るまでの手続き、審議の進め方やルール、慣習など、これほどまで緻密なシステムで進められていることに驚くと同時に、なんでこんな無駄なことをやっているのだろうと、呆れ果てることも多々あるのです。国会議員の立場や仕事は、私がいままで抱いていたイメージとは、よくも悪くもまったく違うものでした。
(2023/6/3)
『自民党という絶望』
石破茂 &その他 宝島社新書 2023/1/27
<空気という妖怪に支配される防衛政策 石破茂>
・年間11兆円の防衛予算となれば800億ドル以上。インドの766億ドルを抜いて、米国、中国に次ぐ世界3位の軍事大国となる。
<GDP比2%がいつの間にか既定路線に>
・石破:GDP2%、NATO並み、という話は安倍晋三元総理が生前に言っておられたことです。
・ウクライナ侵攻が国民に大きな衝撃を与えたことは間違いありません。
・台湾の陸海空軍の防衛力について、日本としてどれだけ正確に分析評価できているかということも重要です。台湾には2018年まで徴兵制があり、さらに予備役の訓練にも力を入れています。陸海空軍合わせて166万人もの予備役がいる。
・「ウクライナの教訓は、自分の国は自分で守るという強い意志と能力を備えなければ、他の国は助けてくれない、ということだ」
・当たり前ですが、フリーランチなどありません。大切なものはタダでは手に入らないのです。自民党はよく「国防こそ最大の福祉である」というフレーズを使うのですから、そうであるならば、恒久的な財源が必要だというのはきわめて当然の議論でしょう。
<アメリカからの“買い物リスト”が増えるだけではいけない>
・今回の防衛費増額によって、日本の大企業も受注が増えていくことになるでしょうから、法人税増税という選択肢は合理的だと考えます。
・陸海空のオペレーションを統合するのですから、防衛力整備についても当然統合して考えるべきで、この点は以前から指摘していたことなのですが、今回は「統合運用に資する装備体系の検討を進める」という表現にとどまりました。
<「自衛隊がかわいそう」という空気は予算倍増の理由になるのか>
・しかし、実力組織として、自衛官には国の独立と平和を守るという任務があり、その遂行のために物理的破壊力を行使します。
・戦後日本に軍事法廷はありません。人権侵害をするかもしれないから、あるいは自衛隊は軍隊ではないからと、そもそも設置をしていない。しかし、そのために個々の自衛官の人権を守れないということが起きている。これこそ本末転倒です。
・その意味で、日本は怖い国です。かつてはアメリカを相手に戦争をしたのですから。日米開戦当時の昭和16年、アメリカのGDPは日本の約10倍、工業生産力も10倍ありました。まともに考えれば勝てるはずのない相手なのですが、それでも、この国は戦争に突き進みました。当時、これを批判したメディアはほとんどありませんでした。
<保守の間で「戦後」がうまく伝承されてこなかった悲劇>
<――なぜ、国家の安全保障政策について冷静な検証や議論が深まらないのでしょうか。>
石破:敗戦の検証が不完全だったからではないでしょうか。
・保守というのは本来、右翼の街宣車ではありません。本来の保守に必要なのは、柔軟性と寛容性です。
<国家として自主独立は居心地のよいものではない>
・その意味では、私は日本はまだ真の独立国家には達していないと思っています。日米安保の本質は、その非対称性にあります。
・自主独立は、まったく居心地のよいものではありません。どうやって抑止力を維持していくか、常に緊張を強いられることですし、自分たちで決めたことに対して自分たちで責任を負うしかない。しかし、それこそが独立国家のあるべき姿ではないでしょうか。
<実力組織は「情」ではなく「規律」で動く>
石破:むしろ、それだけの予算があるのであれば、予備役を増やすことを考えたほうがいいと思います。
・企業が予備役を雇用する際のメリットをもっと用意して、予備役をきちんと確保する環境を整えることが必要でしょう。
・命を懸けて任務を遂行する実力組織を持っているということは、国民全体でその責任と覚悟を負わねばならないということです。これもまた、民主主義の根幹だと私は思っています。
<反日カルトと自民党、銃弾が打ち抜いた半世紀の蜜月 鈴木エイト>
・この統一教会問題を長く取材し、『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』(小学館)などの著書があるジャーナリストの鈴木エイト氏に、日本の宿痾とも言える「政治と宗教の癒着」について聞いた。
<成立した「被害者救済法案」の問題点>
鈴木:いわゆる「マインドコントロール」に関する規定が明記されていないという点です。
<「何が問題かわからない」という本音>
・日本において、自民党議員のカウンターパートとなってきたのは、統一教会と表裏一体の関係にある政治団体の「国際勝共連合」です。
・教団が議員たちに重宝された最大の理由は選挙協力です。
<安倍元首相が統一教会に接近した「瞬間」>
・安倍氏が教団との関わりを深めたのは、第二次安倍政権が発足した2012年の以降のことだったと思います。
・ところが冒頭でもお話しした通り、2013年夏の参院選で、安倍氏は自ら票の取りまとめと選挙支援を統一教会にお願いするわけです。この候補とは、山口県出身で産経新聞の政治部長を務めた北村経夫氏で、比例全国区から立候補した北村氏は当選を果たしました。
<「マザームーン」問題の本質はどこにあるのか?>
・教団は、ある時期まで政治家との関係性を外部に向けてアピールしませんでした。
・結局のところ、山本氏も山際氏も、自分で行きたいから統一教会の会合に顔を出しているわけではなく、自民党から場の盛り上げ隊として「お使い」に出されているにすぎない。
<“商業性とマッチしないテーマ”を追求する難しさ>
・事件が起きる前は、統一教会問題や2世信者をテーマにした本を書きたいと言っても、出してくれる出版社などありませんでした。
・私自身のスタンスは事件前から変わっていませんが、本来は取材する側だった自分が今では取材を受け、仕事のオファーがくるようになりました。
・安倍元首相銃撃事件によって噴出した自民党の「統一教会汚染」が、国民に重要な事実をはっきりと見せてくれました。それは、政治家の劣化です。本来、社会的弱者に目を向け、その言葉に耳を傾けなくてはいけないはずの政治家が、多くの被害者やその家族が苦しんでいる事実を知りながら、元凶となっているカルト教団をひたすら庇護してきた。
・統一教会を追求することは、自民党、ひいては日本の政治を追求することと同義であり、ジャーナリズムがこの問題の検証を終わらせてはいけない意味もそこにあると私は考えます。
<理念なき「対米従属」で権力にしがみついてきた自民党 白井聡>
白井:日米関係の意味合いについて理解するには、戦後の自民党の成り立ちのところまでさかのぼって考えざるを得ません。
<アメリカによる“自民党支配”の歴史的起源とは>
・これについては、岸自身が獄中で残した手記がヒントになります。堀の外では、中国で共産主義政権が成立し東西対立がどうも激しくなっているようだが、もっともっと燃え上がれば俺にも再起を果たすチャンスが巡ってくるぞ、と書いています。そして実際にそうなっていったわけです。
<自主外交を試みて、アメリカの逆鱗に触れた角栄>
・経済成長をうまく取り仕切っているということで、自民党の政権基盤は強化されていきます。
・しかも、実は沖縄返還を先に持ちかけているのはアメリカですからね。いつまでも返還要求してこない日本に困惑して、「お前ら、そろそろ返還要求しろよ」とケツを叩かれた形で実現しただけ。佐藤栄作の手柄でもなんでもありません。
・角栄はソ連とも関係を改善しようと動いていましたから、ある意味で石橋湛山のような全方位外交をやろうとしていました。
<対米交渉のカード=反米勢力を、自ら叩き潰した中曽根>
・ところが、中曽根政権の頃には、このアンビバレントが解消されている。敗戦の痛みはすでに癒え、ベトナム戦争も過去のものとなる中で、暴力としてのアメリカという側面がどんどん見えなくなっていったのです。
・白井:そういうことです。やがては自立するために従属している。
白井:実績ベースで考えるならば、社会党は、万年野党として万年与党の自民党と55年体制を確立したときから、居心地のよい野党第一党の地位を確保できればそれでよし、という勢力に堕してしまった。
<拉致問題で爆発したナショナリズムが安倍政権を生んだ>
・しかし結局は、拉致問題がはじけてしまい、「こんなとんでもない国とは国交交渉なんてできないぞ」という被害者ナショナリズムが国内で爆発してしまった。このナショナリズムの爆発から、「保守派のプリンス、安倍晋三」が誕生するわけです。
・自称保守ですね。安倍氏に代表されるナショナリズムの前提には、常にアメリカ依存があります。
<“腹話術師に操られた人形”と化した岸田政権の惨状>
白井:あの長かった安倍政権において注目すべき点は、前半と後半で外交方針が見境もなくブレていったところにあるでしょう。
・つまり、いずれの方向転換も不徹底で、簡単にブレる、場当たり的だったことが特徴と言えるでしょう。
・そして、今や防衛費の大幅増額、大軍拡が進んでいます。この動きの背後にあるのは、要するにアメリカでしょう。
・この光景は何なのですか。3人の政治家がいるけれども、3人全部同じ、金太郎アメの腹話術人形ではないですか。もちろん背後の“腹話術師”はアメリカです。
<日本という“戦利品”の利用価値>
白井:「軍隊は強くしたいけど、増税はイヤ」というのは単なるバカじゃないでしょうか。強い軍隊が欲しければ、カネがかかります。
・つまり、自国の兵隊を大勢殺すような戦争はできなくなっているわけです。
・「対米従属のための対米従属」で延命を図ってきた自民党が、そうした流れの中でどのように振る舞うのかは、すでに自明でしょう。自己保身のためにいくらでも自国民の命を差し出すはずです。
<永田町を跋扈する「質の悪い右翼もどき」たち 古谷経衡>
・自民党は「保守政党」と呼ばれている。ただ、そこにいる政治家の顔ぶれを眺めると、必ずしもそうとは言えない。“リベラル”もいれば、“伝統的な右翼”もいて、まさしく呉越同舟の包括政党というのが実態だ。
<――まず、岸田政権についてどのような印象を抱いていますか。>
古谷:率直な感想として、「自民党の絶望」をこれ以上ないほどわかりやすい形で示した政権だと感じていますね。多くの人が、「少しは何か変わるじゃないか」と期待して結局、裏切られたからです。
・自民党の最後ともいえる良心が失われてしまったわけですから、「絶望」以外の何ものでもありません。
・一言でいうと、伝統的な宏池会の方向性と完全に真逆のことをしているところです。
・そんな宏池会の衰退ぶりがよくわかるのが、旧統一教会問題です。あれはもちろん自民党全体の問題ですが、発端は岸信介――つまり清和会(保守傍流)を中心としたものであるはずなのに、調査をしたら、宏池会もけっこう関わりを持っていたことがわかった。宏池会は政策に明るい一方で、武闘派的な争いが得意ではないことから公家集団、なんて呼ばれていますが、結局はそんな高尚な集団ではなく、「汚れた公家」だったというわけですよね。
<岸田政権迷走でわかった、保守本流の消滅>
<――宏池会はなぜ、ここまで姿を変えてしまったのでしょうか。>
古谷:やはり、「清和会政権」が異常なまでに長く続いたことが大きいと思っています。
・つまり、タカ派風の主張をしたり、新自由主義路線みたいなことを言ったりしたほうが、政治家として生き残れるんじゃないかという「空気」に自民党内が支配されていくのです。
<――つまり今、多くの人が自民党に「絶望」している原因を突き詰めていくと、清和会の20年支配の弊害がある、と。>
古谷:そうですね。私は今の自民党には3つの絶望があると思っています。
・このように同じ政党の中でも、政権交代すればガラリと色が変わるっていうのが自民党の売りだったはずなのに、この20年でそれが完全に失われてしまったというのが、第一の「自民党の絶望」です。
第二は、そのおかげで保守本流である宏池会の「良心」まで消滅してしまったことです。そして第三の絶望は、左側にいてバランスを取っていた公明党まで鳴かず飛ばずになってしまったというところですね。
・たしかに選挙の区割りとか、票の格差とかの問題もありますが、自民党がこれほどまでに衰退したのは、基本的には「貧すれば鈍する」ということでしょう。
・一方で、この20年間は人口も減少し経済もどんどん縮小、日本人がみんな貧乏になってしまったことで、政治もすごくディフェンシブになってきた。市場がシュリンクしていく中で、生き残るためにはエッジの効いた「何か」を打ち出さないといけない。そうした生存戦略が、自民党の中では、清和会的なタカ派っぽい政治信条だったということでしょう。経済力と政治思想は関係ないと言う人もいますけど、実はめちゃくちゃ関係があると私はみています。
<中国・韓国を叩けばいいという「質の悪い右翼もどき」>
・でも、私はけっしてタカ派が悪いと言いたいわけではありません。私自身もタカ派ですから。問題なのは、言い方はちょっと悪いのですが、「質の悪い右翼もどき」のような政治家や自民党支持者が増えてしまったことなんですね。
・つまり、ネット右翼の強烈な後押しで安倍政権が誕生したわけではなく、瞬間風速的なブームのような形で火が点いただけなんです。
<ネット右翼にさほどの実力はなかった>
・そういう実態を踏まえれば、ネット右翼の力はかなり過大評価されていると言っていい。私の調査では、ネット右翼の総人口は全国に200万~250万人です。参議院全国比例で2議席程度の実勢です。
<忖度コメンテーターによる“イス取りゲーム”>
・ベースにあるのは日本の経済停滞です。とりわけテレビメディアの広告収入がどうしようもなく停滞しており、業界は完全に守りに入っています。
・今の勢力を何とか維持するだけで精一杯ですから、忖度が横行します。日本の経済停滞が、言論の分野にまで「保守化」を生んでいくのです。
<「はだしのゲン」の鮫島町内会長=自民党>
・また、私はこういった現象は、中沢啓治先生の漫画『はだしのゲン』に登場する「鮫島町内会長」という人物を引用することで、構造的には説明できると考えています。この鮫島という男は、戦時中の広島で典型的な中間階級の右翼(体制派)として描かれます。反戦を鮮明にするゲンとその家族を「非国民」となじって嫌がらせをするのですが、被曝して九死に一生を得ると、戦後は広島市議会議員になってコロッと態度を変えて反戦平和を唱えるようになる。
・『はだしのゲン』は、一般的には反戦や被爆体験をテーマにしていると思われがちですが、実は戦後日本の痛烈な批判として見るべきです。
・その中でたとえば、「議論や正当性ではなく、強い者の意見に従ったほうが得」という権力者の顔色を窺う忖度みたいなもの、またミソジニー(女性嫌悪)批判や同性愛は社会を壊すものであり、許せない、などという偏見などが解体されませんでした。これはつまり封建的な農村部の発想です。
・たしかに明治国家は急速な近代化を果たしました。
・いわゆるGHQによる民主改革が不徹底で終わったからです。
<戦後80年を経て“グロテスクな親米”だけが残った>
・そして究極的には、日本は本土決戦をしていないということが大きいと思います。
・GHQの民主改革が冷戦のせいで「逆コース」に転換したのがすべての因でしょう。
・戦時中には「鬼畜米英」を標榜していたはずなのに、戦争に負けた途端、空気を読んで「民主主義万歳」と叫ぶ、『はだしのゲン』の鮫島町内会長みたいな人たちが集まったのが自民党なのではないですか。
<“旧ソ連みたいな日本”に希望はあるのか>
古谷:私の好きな野口悠紀雄先生が「今の日本ってソ連末期みたいだ」って言っているんですが、それにはすごく共感しますね。
・ただ、仮に移民政策が来月始まったとしても、日本社会の人口構成が大きく変わるのには数十年かかるでしょう。衰退を食い止める即効薬にはなりません。
・しかもベトナムでは、日本に行けば奴隷労働をさせられるという悪評も広まっています。
・今、私たちにできるのは、「自民党ってもう絶望しかないよね」ってどんどん言っていくことしかない。
<“野望”実現のために暴走し続けたアベノミクスの大罪 浜矩子>
浜:まず、私はアベノミクスではなく、本質を明確にするために「アホノミクス」と呼ばさせていただきますが、アホノミクスにおいて経済の舵取りが「うまくいかなくなった」のではなく、「非常に悪質になった」ということだと思っています。
<経済を政策ではなく「手段」にしてしまった安倍政権>
浜:日本経済があの時、そして、今もなお直面している最大の問題は何だと思いますか。それは豊かさの中の貧困問題でしょう。貧しさの中の貧困ではありません。
<“企業のため”の働き方改革を推進>
・つまり、「フリーランスや非正規雇用などのさまざまな形態により、労働者を安上がりに使いまくることができる環境を作る」ということが、働き方改革構想の土台にはあったわけです。
・それと並行するようにして、2014年には日本取引所グループと日経新聞が共同開発したシステムによる株価指数「JPX日経インデックス400」がスタートします。このインデックスは全東証上場銘柄から「投資魅力の高い会社」として選ばれた400銘柄を並べるというものですが、ROEが重要な選択基準になっています。
・ROEを高めるために、必死になって収益率を上げようとするわけですが、その結果、コストの削減が大命題になり、最大のコストである人件費を減らしていくという流れにつながっていきました。流行りのようにして今、盛んに取り沙汰されているギグワーカー(単発の仕事をいくつもこなしていく働き方をする労働者)やフリーランスであれば、コストをカットしやすい、状況に応じて変動させやすいということで、雇用の流動化が一気に進んだのです。
<――8%の利益率を死守するために、資本額の変動に対して人件費が調整弁のような役割を果たしているということですね。>
浜:本来、賃金というのは固定費であるはずなのですが、正規雇用の社員ではなく、フリーランサーやギグワーカーを活用することによって、人件費を固定費から変動費に移してしまったのです。
・つまるところ、アホノミクスによって「稼ぐ力を取り戻せ」というプレッシャーを企業がかけられ続けた結果、労働者は完全に“モノ扱い”されるようになってしまったということです。
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