私自身、投資家として「ブル相場」ではなく、「ベア相場」を追いかけ、そのなかで将来性が感じられるものを買うことをいつも心がけてきた。おそらく5年以内に到来するだろう。(1)

(2024/10/10)

『捨てられる日本』

危機の時代の備えよ

ジム・ロジャーズ  SBクリエイティブ   2023/2/7

<はじめに>

・この国は今、未曽有の危機に直面している。

 かつて「エコノミック・アニマル」と称され、一気呵成に経済成長を遂げた戦後の栄光は、いまや見る影もない。

 国が抱える、月まで届きそうなほど積み上がった負債。先進国のなかで最も深刻な少子高齢化。新たな産業が育たず、イノベーションが生まれる土壌がない。平成以来続いている「失われた30年」は終わる気配がない。

・「一流国」から「二流国」へ転落したかのように思われるこの国に、逆境の嵐が吹き荒れた。円安だ。

・とはいえ、気を抜くのは危険だ。円安傾向は当面続くと私は考える。

・大半の海外投資家は、これまで日本円を安全資産であり、リスク回避のための避難通貨としてきた。しかし昨今では、徐々に彼らはこの国を見捨て、「円売り」の動きが加速しつつある。

 このように、日本政府や日銀の現状を見れば、どうしても暗い話が多くなる。

<世界から捨てられる日本――この国で始まった恐怖のシナリオ>

<シナリオ1 日本円は捨てられる>

<円を売り浴びせる海外投資家>

・日本は私の大好きな国だ。平成以降、日本経済の停滞は「失われた30年」とも呼ばれるが、残念なことに近年は衰退にますます拍車がかかっている。為替市場を見ればその傾向は明らかだ。

 今、世界は通貨よりも物価が上昇するインフレ傾向にある。

 このような状況のもと、円安が加速し、世界中の投資家たちから、日本(円)は捨てられ始めた。

・財政上の問題を抱える国家では、必ず通貨が値下がりする現象が見られるものだ。

 実質実効為替レートは、その通貨の本当の実力を表すともいわれているが、このレートで見れば、2022年、日本円は実に30年前の安値水準にまで落ち込んだ。

<半世紀ぶりの超円安>

・世界経済の減速傾向が強まれば強まるほど、基軸通貨であるドルを買う動きにつながりやすい。そうなれば世界中の投資家から「円を買う」という選択肢は、ますますなくなっていく。

・日本円が世界中から見捨てられ始めている、という兆候に気づいている投資家は、今はまだ少数かもしれない。大半の投資家はこれまで、「日本円は安全資産であり、リスク回避のための避難通貨」だと考えてきた。

<ロシアのルーブルより価値が下がる?>

・ウクライナ侵攻が始まって以来、世界中から厳しい経済制裁を受けたロシアにお金を貸したがる国が減ってしまったためか、ロシアの対外債務は比較的少ない。

・世界各国の10年国債利回りを比較すれば一目瞭然だ。アメリカ、ドイツなどの先進国と比べて、日本はより低調に推移している。

・日本が世界から見捨てられつつあることに気づいている人は、現状では少数だということに大半の市場参加者がこのことに気づくころ、彼らは「ほとんど利回りがない10年債券を買うわけがない」というに違いない。

<エネルギー価格の上昇が日本経済に与える衝撃>

・これまで、ロシアはエネルギー大国であり、同時に農業大国でもあった。

・しかし、今回の出来事で状況は一変し、世界中のエネルギー価格、農産物価格が大きな影響を受けている。

 とくに農作物は、有事においては生産が滞りがちで、価格が急騰している。戦争が引き金となって、さまざまなものの価格は上昇する。戦争が長引けば長引くほど、その傾向は強くなる。

 エネルギーについて、最も不利益を被っているのはヨーロッパ諸国である。

・これは日本にとっても対岸の火事ではない。食料自給率のみならず、エネルギー自給率も低いからだ。日本のエネルギー自給率は2019年度時点では約12%。

・現在起こっている世界的な天然ガス価格の急騰に近年の円安傾向もあいまって、日本のエネルギー価格は急上昇している。そしてインフレにともない日本円が売られ、「負のスパイラル」に陥りつつある。

<シナリオ2 膨大な負債を抱え、日本は沈没する>

<日銀の大失策>

・近年の為替の動きを見ていると、恐ろしいほどの速さで日本経済が崩れ落ちているようで、不安に感じる人は多いだろう。

・急速な円安の進行によって、日銀の黒田東彦総裁の金融政策に対する批判が強まった。彼の政策により、少しの間は景気が回復したかもしれない。しかし、長期的にわたって、そのツケを払ってきたのである。

・多額の借金を抱えながら速く走るのは難しいことなのである。

<大クラッシュを被るのは次世代>

・通貨の流通量を増やせば増やすほど、その価値は下落する。たしかに一時はバブル景気となり、不動産価格や株価が上昇するかもしれない。しかし、その先には大きなクラッシュが待ち受ける。そして、そのツケは次世代の若者たちが払うことになる。

・多額の債務を抱える日本にとって、利上げは大きな試練となる。そのため、日本は金融緩和を全面的にやめることができないのだ。

・遅かれ早かれ、ツケはできるだけ早く払ったほうが身のためだ。対応が遅れれば遅れるほど、後始末は大変になる。

 日本経済はさらに弱体化し、いずれは国際収支と為替相場を安定させるため、政府が外国為替に直接規制を加える為替管理のほか、あらゆる規制が導入されるだろう。歴史上、スペイン・ポルトガル・イタリア・オランダなどといった、かつての覇権国も同じ道のりを経て力を失っていった。

<シナリオ3 金利上昇と通貨切り下げで、日本経済は大打撃を受ける>

<金利上昇で国が破綻する?>

・先進国において、金利はそれほど上がることはないという説も存在するが、必ず上がる。金利が上がった時、政府債務が多い日本は大惨事に見舞われるだろう。

 積み重なった巨額の債務によって、金利負担は大きくなる。

・また、金利が上昇すると、金融機関は以前より高いコストで資金調達しなければならない。

・金融緩和によって株価は上昇し、恩恵を受けた会社もたしかにあった。しかし、日本国民全体の暮らしがよくなったかというと、必ずしもそうではない。

金利上昇と通貨切り下げは、いずれも日本経済に打撃を与える。歴史上、通貨の切り下げによって経済が成長した国は存在しないが、金利上昇に比べれば容易な解決策に見えるためか、通貨切り下げという手法が選ばれることは多い傾向にある。

<恐るべきは為替管理>

・さらに恐れるべき事態は、国債費支出と為替相場の安定維持のため、政府が外国為替取引に直接規制を加え、為替管理を行うことだ。

<シナリオ4 インフレで競争力が低迷する>

<大半の国民にとってインフレは悪>

・今、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻、さらには近頃の円安傾向によって、日本の物価は急速に上昇しインフレ状態にある。

・インフレのもたらす悪影響として、競争力の低下がある。

<低価格、高品質では勝てない>

・なお、インフレとともに生じた円安傾向は、輸出企業にとってはプラスの側面もある。

・日本企業が低価格路線を追求しても、さらなる低価格を実現することができる韓国と中国などの国々が存在する。

<加えて、イノベーションも重要>

・質を担保し続けるためには、イノベーションを起こし続けるほかない。

・時代の変化に対応しなければならないのは、日本に山ほどある中小企業も同じである。

・企業の競争力低下は日本の経済力を低下させ、多くの雇用を奪うことになる。その最終責任を負うのは日本政府なのだ。

<DXの遅れが雇用を奪う>

・シンガポールでは、役所で行われるほとんどの手続きがオンライン化されている。一方で、日本ではいまだに役所に足を運び、紙で手続きをしなければならないという。

なぜ、日本ではこれほどデジタル化が進まないのか?

・テクノロジーの進化に抵抗する国は成功できない。抵抗すればするほど、その国の競争力が低下するからだ。むしろ、雇用を奪うのはイノベーションではなく、競争力の低下である。

<シナリオ5 混迷する食料自給率が新たな危機を生む>

<食料コスト上昇で起きること>

・皆さんもご存じの通り、日本は食料自給率が低い。

・2022年、ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、世界レベルで状況が悪化したことを受け、多くの国々が食料安全保障の重要性を再認識することとなった。

 世界のなかでも、とりわけ日本は深刻な状況にある。もともと食料自給率が低いことに加えて、急激な円安なども重なったためだ。

 こうした背景のなか、食料価格は高騰している。

・過去を振り返ると、食料危機や食料価格の高騰をきっかけに暴動が起こり、崩壊してしまった国は多数存在する。

<過度の保護主義をやめ、外国人労働者を雇え>

・では、どうすれば「食料安全保障」に関する諸問題を抜本的に解決できるだろうか。

・日本は、主に次の2つの保護策をとることで自国の農家を守っている。

 1つ目は、輸入食料に高い関税を課すことだ。

・2つ目は、所得補償などといった経済的支援だ。当然、税金があてられる。こうした過保護を見直すことが必要だ。

・農作物をより安価にするためには、生産量を増やすことも重要だ。そのためには人手を増やすことが必要になる。

<漁業が抱える課題も、農業と同じ>

・食料自給率という点では、農業だけでなく、漁業についても考えておく必要がある。

「日本は島国という地の利を生かし、漁業でよいポジションをとれるか?」という問いに対しては、私は必ずしもそうではないと答える。

 なぜなら、日本の魚は非常に高価だからだ。

・ここで課題になるのが、農業と同じく「誰が担い手になるか」である。国内の担い手は、平成から今まで絶えず減少している。1988~2018年の30年間で約60%も減少し、約15万1700人となってしまった。解決のための選択肢は、

① 少子化に歯止めをかけて、子どもを増やす

② 移民を積極的に受け入れる

この2つだ。漁業従事者を増やすことと、漁業の収益性および魅力の

の底上げが重要だ。

・近ごろ、日本政府は「毎年6万9000人の外国人労働者を受け入れる」と言ったが、総人口1.25億人に対して、これはとてつもなく低い数字と言わざるを得ない。

 受け入れる外国人を増やすことに加えて、彼らに永住権だけではなく国籍取得要件を緩和するなどの工夫が必要だ。

・食料自給率を上げることは食料安全保障のうえで不可欠だが、そのためには農業や漁業の担い手を育てることが欠かせない。国内に担い手が乏しいなら、海外に求めるべきだ。

<シナリオ6 人口減少、少子高齢化で国力が地に落ちる>

<なぜ、少子化対策を怠ったのか>

・前項で述べたように、食料自給率を上げるためには「担い手を増やす」ことが欠かせない。こうした事態の原因は、日本政府が少子化政策を先送りしてきたことにある。

 同時に、世界でも例を見ないほどのスピ―ドで高齢化も進んでいるため、労働人口の減少は依然として続いている。

・日本は巨額の財政赤字を抱えているにもかかわらず、税金や社会保障費の担い手は減り続けている。財政赤字を減らすための努力を怠ってきたこの国において、人口減少は致命的なリスクだ。

・日本政府は、少子化対策に効果が期待できそうなことなら何でもやるべきだ。

・もし①の日本人の出生率を上げる方策をとることが難しいのであれば、②の移民を積極的に受け入れるという方策しかない。だが、日本人はどういうわけかあまり外国人を好まないようで、なかなか状況は好転しない。

<超高齢化時代と社会保障の大問題>

・少子化と同時に高齢化も進む日本においては、社会保障の問題も非常に深刻だ。高齢者の人口が増えると、その生活を賄うために多くの労働者が必要になる。

・先進国の大半は日本と同じ課題を抱えているが、中でも日本の労働人口の減少は著しい。先進国のなかで最初に深刻な年金問題に直面するのは、おそらく日本だろう。

<日本が捨てられても、充実した人生を送ることはできる>

・本章では、日本が直面している6つの恐ろしいシナリオについて論じてきた。現状を見れば暗い話が多くなる。しかし、危機的状況でも必ず希望はある。

・政府というものはえてして、国民に対して「国のために犠牲を払え」と言いつつも、彼ら自身は身を切ることはしないものだ。

第2次世界大戦終結後、イギリス政府が国民と共に痛みを分かち合い、耐えることをしていれば、失業率が上がりある程度の貧困を生んだかもしれないが、それと引き換えに国内の産業に競争力が備わり、イノベーティブな新技術も生み出すことができたはずだ。しかし、それをやらなかった結果が後述する「英国病」である。

・「英国病」時代のイギリスも同じだった。国民は目の前にあるリスクをしっかりと認識できていないどころか、むしろ楽観的なムードであった。

<「2流国」に転落した日本――激変する世界の覇権地図と、この国が進むべき道>

<「失われた30年」の正体>

<「英国病」と「日本病」――経済はこうして停滞する>

・平成から令和にかけて、数十年にわたる停滞にあえぐ今の日本の姿は、まるで「英国病」に悩まされたころのイギリスを見ているかのようだ。戦後の一時期、この国は「一流国」であった。しかし、そのころの栄華はいまや見る影もなく、もはや「二流国」に転落した、と言っても過言ではない。

・「英国病」とは、第2次世界大戦後、イギリスで長期間続いた社会・経済の停滞現象だ。

・(イギリス)復活の決定打となったのは、1960年に開発が始まった北海油田だ。

・以降のイギリス経済は、1992年から2007年まで連続してプラス成長を続け、2001年には、ブレア政権が「英国病克服宣言」を行うに至った。

<イギリス衰退は、「スウィンギング・ロンドン」の時代に始まっていた>

・イギリスは第2次世界大戦の戦勝国となり、国全体が浮き足立っていた。やがて、1960年代の「スウィンギング・ロンドン」が到来する。これは、若者たちが担い手となった一種の「文化革命」であり、現代性と新しい快楽主義を強調した一大ムーブメントだった。

・第2次世界大戦で支出が膨張し不況に見舞われたことで、次第にイギリスは債務に苦しむようになる。同じような状況に見舞われた国はほかにも存在したが、なぜかイギリスは対策を怠り、債務超過に陥った。

・こうして資金難に見舞われたイギリスは、国土から遠く離れた植民地を統治する余力を失い、引き揚げることとなった。

<「シンガポールの奇跡」はなぜ可能だったのか>

・その後、イギリスは、世界を牽引した19世紀の栄華を見る影もないほど破綻し、イギリスの後ろ盾を失ったように見えたシンガポールは一大経済大国になった。いまや、世界的な金融ハブである。

<「世界一裕福な国」だった日本に起きた異変>

・かつてのイギリスと現在の日本の姿が重なるのはここまで見てきた通りだ。この先、日本がたどる道もイギリスと同様のものになるかもしれない。

・イギリス経済は北海油田の開発で復活したが、国内にほとんど資源がない日本において、北海油田に代わる復活の起爆剤になるものは、残念ながら思い浮かばない。

<栄光は永遠に続かない>

・一時代を築き、覇権を握っていた国は、いつか必ず衰退の道へ至るものだ。これは人類史上の必然である。例外は存在しない。

・たとえばイギリスが覇権国の座につく前、16~17世紀の時代には、オランダが世界の覇者であった。

 スペインから独立したオランダはアムステルダムを中心として、驚くべき経済成長を遂げた。

・イギリスは、オランダから造船技術を盛んに取り入れた。そしてついに17世紀後半、イギリスは世界一の海洋国家となり、覇権の座はオランダから移り変わる。

・日本も、戦後の一時期「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称えられるほど輝かしい成功を収めた時代がたしかにあった。

・時代が移り変わるにつれて、イノベーションの中心地も同時に移り変わる。

<覇権国アメリカの時代が終焉する>

<アメリカの次は中国だ>

・ここまで述べてきたように、覇権地図の塗り替えは人類史上何度も繰り返されてきたことである。

 近代以降の歴史だけを見ても、前項で述べたように、16~17世紀の覇権国はオランダ、その後イギリスが18世紀後半~19世紀までその座にあった。そして、20世紀の覇権国は、間違いなくアメリカだった。

 そして今まさに起こっている覇権争いで、アメリカを追い落とそうとしているのは中国である。

 中国は非常に特異な国である。なぜなら、数千年の歴史のなかで4回も世界の覇権を握っているからだ。世界一にのぼりつめ、衰退したのちに改めて覇権を握った国は、中国以外には存在しない。

 中国が初めて覇権国になったのは、2200年以上前、秦の始皇帝が中国を支配した時代だ。

・一般的に、中国人は共産主義者だと思われているが、私はそうは思わない。歴史的に見て、中国人こそが最も優秀な資本主義者であり、そこに鄧小平が訴えかけたことで、中国は世界の産業や技術の最先端を走る国になっていった。

<覇権への道にはいくつもの苦難がある>

・覇権国の座につくまでの道のりでは、何度も困難な状況に見舞われるものだ。アメリカもその途中で、深刻な不況、内戦、暴動など幾度の危機に見舞われた。ご多分に洩れず、中国も同じ状況下にある。

・しかし、かつてバブル景気に沸いた中国の不動産業界も、しばらくは「冬の時代」を迎えざるを得ない。

・なにせ過去4回も覇権の座についた国だ。5回目もありうる。

<中国の技術者たちが技術革新を牽引する>

・私が「これから中国の時代がやってくる」と確信し、初めて投資をしたのは約30年前。バイクで中国を横断した時代のことだ。

・当時の取引所は傾きかけたビルのなかにあり、その窓口で取引されていた銘柄もほんの一握りだった。

・私がこれほど強い確信を持つことができた理由は大きく2つある。

1つ目は、膨大な人口と資本。人口規模は国力に直結する。

・2つ目は、優秀な人材を輩出するための技術に力点を置いた教育制度。

<これからのイノベーションの震源地>

・私が見るかぎり現在、世界で最もイノベーションが盛んな国は中国だ。

・さらに、教育の問題もある。日本では文系と理系を早期に分ける教育が行われている。

・このようなシステムがあるのに、かつての日本は経済的に成功を収めたという事実があることに驚く。従来のやり方で大きな成功を収めた経験があると、そのやり方を大きく変えるのに勇気がいる。

<米中衝突リスクに日本はどう備えるか>

<アメリカによる中国の封じ込めに同調する必要はない>

・中国がアメリカから覇権国の座を奪うタイミングはいつになるだろうか。

 私は将来的に起こるであろう「私の人生で最大のベア相場」がそのタイミングだと予測している。

・私自身、投資家として「ブル相場」ではなく、「ベア相場」を追いかけ、そのなかで将来性が感じられるものを買うことをいつも心がけてきた。おそらく5年以内に到来するだろう。

・ベア相場は歴史上、何度も起こってきた。これからも必ず起こる。

・将来的に起こる「私の人生で最大のベア相場」は、おそらく長期間にわたるブル相場で株価が上昇しすぎたことが要因となるだろう。

・次のベア相場では、中国の下落がアメリカよりはるかに小さくなるだろうと私は見ている。

<米中戦争は起きるのか>

・ベア相場以外に、中国がアメリカに取って代わる可能性があるのは、米中戦争だ。

 アメリカは世界最強の軍隊を有しているので、戦争には勝つかもしれない。しかし、仮にアメリカが勝利を収めたとしても、その後の繁栄が約束されるわけではない。

・もし仮に、「最も手ごわい競争相手」と認めてアメリカが中国の封じ込め策を試みたとしても、日本は無視を決め込むべきだと思う。

・日本は、失敗に終わる可能性の高いこの試みに加わらないほうがいい。

<「不要な戦争」に参加してはいけない>

・アメリカの国民は、「仮にアメリカが中国と戦争を始めても勝てない」と感じているのに、無理やり戦争に参加させられた日本が「勝つ」ことはないだろう。

<それでもアメリカは戦争をやりたがる>

・とはいえ、米中戦争に歯止めをかけることは難しい。歴史上、最盛期を過ぎた覇権国と次期覇権国が対峙した場合、非常に高い確率で戦争が勃発するからだ。

・実際のところ、米中の関係は年々悪化している。ワシントンは何度も中国に対して侮辱的な態度を取ってきた。

・アメリカは、1776年に独立してからというもの、今まで一時期を除いて常に戦争に参加していた。

<サプライチェーンの脱・中国化が進む世界>

<脱・中国、日本回帰は可能か>

・近年、世界各国によるサプライチェーンの脱・中国を目指す動きがだんだんと生まれているが、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻がその動きを加速させている。

・過去の成功と現在の挫折の差分が大きいため、日本でビジネスをするには非常にコストがかかるようになってしまった。

 このようななか、近年の円安傾向は歓迎されるものの、はたしてコストが抑えられるのか。今後の展開に注目している。

<これから20年、注目すべきビジネスは半導体>

・コロナがもたらした大きな災難の一つに、世界的な半導体の不足がある。

・私は、半導体が向こう20年の注目すべきビジネスだと想定しているが、これからの日本にはチャンスがあるかもしれない。

<日・中・韓、どう付き合うか>

<アジアの国同士、手を携えよ>

・日本の将来を考えるなら、中国や韓国とうまくやっていくことが重要だ。しかし残念ながら、日本はこの両国を警戒しており、円満な関係とはいいがたい。

<日本は韓国に学べ>

・これまで見てきたように、中国の時代が到来することは明らかだ。そうしたなかで、日本と中国双方の隣国である韓国に注目すべきだと私は考えている。

<38度線が開き、韓国にビッグチャンスが到来する>

・このような状況下において、38度線が開けば韓国はとてつもないチャンスが到来するだろう。

・なお、そのほかで最近、私が注目している国はウズベキスタンだ。

<日本政府はもう、頼りにできない>

<変化を嫌う政府は国を亡ぼす>

<今こそ大変化が必要だ>

・私はここまで、日本で始まった恐ろしいシナリオと、戦後、一流国の座にあった日本が二流国へと転落し衰退の道を歩んだ理由を論じてきた。本章では、世界中から見捨てられ始めたこの国が抱える問題について論じていく。

・「失われた30年」と呼ばれる日本経済の長期的停滞の原因については、あまたの専門家たちが答えを探している。私の答えはこうだ。「過去の成功は自己満足につながり、国の停滞を招く」

・かつて、1980年代においては、日本人は世界中の国々から浮世離れした存在として高く評価されていた。そのころの日本を評して、「エコノミック・アニマル」と言われるが、私はあえて、「エコノミック・スーパーパワー」と表現したい。

それから約40年後の今、かつての栄光が見る影もなくなった日本は、先進国のなかで最下位を争っている。そして、残念ながら日本はこのレースでビリになってしまいそうだ。

<金融界の激変に乗り遅れる日本>

・過去の大成功に酔い、時代の変化への対応を怠り急速に衰えているのは、日本という国だけではなく銀行も同様だ。銀行がかつてよりも力を失いつつあるというのは世界中で見られる現象でもある。

・アメリカには1万社近い銀行が存在するが、そこまでたくさんの銀行は必要ない。いずれ大半が消滅するだろう。

・インターネットバンクが誕生したのは1990年代のことだが、ブロックチェーンテクノロジーの進化により、デジタル銀行の影響力は今後ますます高まっていくだろう。

・新時代がもたらす変化の大波は、「通貨」にも到来している。

・実際、中国ではすでにそうなり始めていて、中国人民銀行が発行する法定デジタル通貨のデジタル人民元が実際の通貨と同様に使われている。

<今も残る「アベノミクス」の傷跡>

・世界中でこれほど大きな変化の波が訪れているにもかかわらず、日本政府の動きはどこか緩慢だ。

・アベノミクス第一の矢である金融緩和は、一定期間は日本の株価を押し上げたものの、円安に誘導した。

・第二の矢である財政政策も、ひどいものだった。

 私は、日本を破壊する宣言のように感じた。先進国で最も深刻なレベルの財政赤字を抱えているなか、無駄な事業に公費を使うのは正気の沙汰ではない。

そして最も大きな問題は、肝心の三本目の矢にあたる「新しいビジネスの創造」が十分に行われなかったことだ。

結果として、新たな人材や企業が芽を出したり成長したりすることができず、日本国内にアメリカや中国のような優れたベンチャーが育つことはなかった。

・アベノミクスから数年経過した今の日本の状況は、残念ながら悪化の一途をたどっていると言わざるを得ない。「アベノミクスは日本経済を救う解決策だ」と言う人もいるが、結果的に経済をさらに悪化させた。

アベノミクスの金融緩和は恐るべき規模で実施され、日銀は日本の国債を買うという前代未聞の金融政策をとっている。「指し値オペ(公開市場操作)」も導入したが、これらはいわば紙幣を無限に刷っていることに等しい。こうした政策によって日本の株価を押し上げるとともに、円安に誘導した。日本企業が息を吹き返したように語られがちだが、こうした通貨切り下げ策が中長期的に一国の経済を成長させたことは、歴史上一度もない。

・かつてアメリカも日本との競争に勝とうとして、紙幣を大量に刷る政策を実行したことがある。「ドルの価値を下げれば生産価格が抑えられ、自動車などがもっと売れる」といった誤った思い込みから生まれた政策だった。

 簡単な足し算と引き算ができる人であれば、誰でも日本の未来を予測することができる。試しに、人口や借金がどのように変動していくか、統計データから確認してほしい、きっと、誰もが前向きな気持ちではいられなくなるはずだ。

 すべての日本人が日本の衰退を実感するのは、もう少し先になるはずだ。

 そのころには、アベノミクスを支持した人はこの世にはいない。そして、そのツケを払うのは次世代を担う若者たちなのだ。

<過去の過ちを認めず、政策を転換しない>

・これほどの間違いを続けたにもかかわらず、安倍政権に続いて発足した菅政権や岸田政権は、アベノミクスから方針を転換するどころか、政策にそれほど大きな変化が見られない。

・政治家の手腕でもたらされた成功であれば、いろいろな国が日本のやり方をまねして同じようにうまくいったはずだ。しかし、そのようにはならなかった。日本国民の努力と、特殊な環境があったからこそ、日本は成功できたのである。

0コメント

  • 1000 / 1000