経済学の観点から見て、現在の中国は経済危機というより、すでに経済恐慌に突入しているといえよう。3年間のコロナ禍と不動産バブルの崩壊は、中国人の生活水準を予想以上に大きく下げた。(2)

<マネーゲームと金融危機>

<チャイニーズドリームの実現>

・さらに不動産絡みの政財界の癒着が横行している。習政権は腐敗撲滅を掲げ、数百万人の腐敗幹部が追放されたが、いまだに腐敗の根絶には至っていない。

 中国では不動産の証券化が遅れていて、不動産投資や投機については手段が限られている。

<中国人社会の横並び意識>

・では、富裕層以外の人々はどうだろう。そもそも、不動産価格の上昇を下支えしているのは、個人によるマイホーム購入の実需である。

・1戸しか不動産を購入していない個人は、失業したり給料が減額されれば、必然的にマイホームのローン返済が滞ることになる。中国語で「断供」(ローンの返済ができなくなること)といわれるもので、そのリスクが日に日に現実味を帯びてきている。

<金融機関がバブルを助長した>

・この不動産開発と不動産投資のバリューチェーンのなかで、バブルを助長する役割を果たしたのは国有銀行を中心とする金融機関だった。

<人民銀行は政府に「忖度」する>

・だが、実際には人民銀行が、首相の政府活動報告が示す指針を踏まえ、政府共産党の政策方針に「忖度」することが往々にして起こる。

<中小零細企業の危機>

・失業率が上昇し、消費が冷え込み、需要が著しく委縮しているなかで、貸し渋りと貸し剥がしも増加している。

・中国でもっとも流動性不足に悩まされているのは中小零細企業である。中国では、中小企業信用保証制度が整備されていない。

<中国の金融政策が鈍い理由>

・日本銀行はFRBほどダイナミックな政策変更を行っていないが、アベノミクスの成長戦略を援護射撃するために、マイナス金利と異次元の金融緩和政策を実施してきた。それに対して、中国人民銀行の金融政策は想像以上に鈍い。

・問題はコロナ禍以降だ。中国の景気は予想以上に落ち込んだうえ、不動産バブルが崩壊した。にもかかわらず、大幅な金利調整が依然として行われていない。

<不良債権が生まれる構造>

・そもそも国有銀行のバランスシートは、絶えず不良債権が生まれる構造になっている。国有銀行の主な融資先は国有企業だが、国有企業は借りた資金を契約通りに返済せず、利払いが滞ることが多いのだ。

・たとえ国有企業の業績が悪いと知っていても、国有銀行は融資を行わざるを得ない。

・なによりも不動産バブル崩壊が原因で生じる不良債権について、政府は財政資金をもって直接補填することができない。結果的に、国有銀行の収益性が下がり、金融システムリスクが高まる恐れがある。

<情報統制で金融危機は防げるか?>

・局所的な金融危機は絶えず起きているが、中国の金融システム全体が危機に陥る可能性は今のところ高くないと思われる。

・このような中国政府の情報統制によって、金融危機は局所的なものに留まることが考えられる。もっとも危機に陥りやすいのは中小国有銀行である。

・重要なのはすでに不良債権になっている資産を処理して、新たな不良債権が生まれないように、金融監督を強化することである。しかし、それは簡単な作業ではない。国有銀行への融資は一定の割合で不良債権化する構造になっているからだ。

<イデオロギーの呪縛>

<誰もが貧しく平等だった時代>

・20世紀の三大暴君、毛沢東、スターリン、ヒトラーのうち、もっとも多くの犠牲者を出したのは毛沢東だった。犠牲者数もさることながら、毛の一番の罪は、その統治時代に中国の文化を根こそぎ破壊してしまったことだった。とくに最後の10年では、文化大革命が引き起こされ、学校の先生などの知識人が多数殺されてしまった。

・毛が死去した1976年の中国経済は破綻寸前にあったとされる。実際は破綻していたのだが。

・毛時代、人々の生活は想像以上に悲惨なものだった。極端な物不足に陥り、都市部では配給制が取られていた。農村では配給すらなく、芋などで飢えを凌いでいた。

<毛沢東は教祖だった>

・毛はマルクス主義を信奉する共産党指導者ではなくて、教祖のような存在だったのだ。

・1978年、鄧小平をはじめとする長老たちが毛の政治を総括した際、毛を祭壇から下ろして政治指導者と位置付けた。政治指導者だからミスも犯したということにしたのだ。

・むろん、中国を強くするために、習主席は共同富裕の夢を実現して、貧困を完全に撲滅する必要があるのだが。

<鄧小平の「猫理論」>

・40年前、改革・開放政策をはじめるにあたり、鄧小平は「猫理論」を提唱した。「白猫だろうが、黒猫だろうが、ネズミを捕る猫がいい猫だ」とする、リアリストの鄧小平らしい考えだった。

・晩年の毛は学校教育をすべて停止させ、大学に進学する若者は試験で合格者を選ぶのではなくて、労働者と農民出身の若者を推薦で選ぶことにした。

<中国経済がぶつかっている壁>

・中国経済がぶつかっている壁はまさに共産党指導体制と財産の公有制である。習政権は壁を回避しようとしているが、共産党指導体制を強化し、公有制を堅持していくと、かつての毛沢東時代と同じように経済成長は停滞していく。経済成長が停滞すれば、結局のところ、共産党指導体制が弱体化するというジレンマが生じる。

<習主席の「共同富裕」の夢>

・問題は、中国では生活保障を中心とする社会保障制度が十分に整備されていないことだ。本当の意味での共同富裕を実現させるものであれば、所得を単に平等にするだけでなく、低所得層の生活保障も強化しなければならない。

<富は権力に集まる>

・中国で格差が急拡大したのは、単に経済成長が速すぎたからではない。格差の拡大をもたらした本源的な原因は、富の配分が権力の中心を軸に行われていることである。権力の中心にもっとも近いのは共産党高級幹部だ。

・図14に示したのは、中国国家統計局が公表しているジニ係数である。ジニ係数は所得格差を表す指標で、0.3程度であれば、社会不安が起きないといわれている。0.4以上に達すると、社会は極端に不安定化する恐れがある。少なくとも中国社会の現在のジニ係数は、とっくに臨界点を遥かに上回っている。

<不動産市場の歪み>

・バブルの始まりは、中国の不動産関係が市場経済化したことだった。

・個人投資家と機関投資家は一攫千金の夢をみて不動産投資を行い、ルールを無視する特権階級は不正行為により大儲けした。そのなかで地方政府も巨額の財源を得た。

・したがって、開発が頓挫する可能性が高くなるのは、デベロッパーが資金流用などの不正行為をおこなった場合である。また、市場の需給を見誤り、物件の販売が思うように進まないのはやはり問題である。

<心配されるバブル崩壊の後遺症>

・これから心配されるのは不動産バブル崩壊の後遺症である。不動産バブルが崩壊すると、政府のバランスシート、国有銀行のバランスシート、デベロッパーのバランスシート、一般家計のバランスシートのいずれもが影響を受けることになる。経済成長の減速を習政権は認識しているはずだが、不動産バブル崩壊の後遺症の深刻さについては、十分に認識しているかどうか定かではない。

<共産党一党独裁と市場経済は両立できるか?>

・では、共産党一党独裁の政治体制と市場経済は両立できるものだろうか。今までの経験と理論的な分析を踏まえると、両者は水と油の関係にあり、両立できないことが明々白々である。

<統制と自由化の間で>

・中国経済はアメリカ経済に追いつき追い越すと、マスコミでは一時期話題になった。しかしながら、現在の習政権の政策運営を続けたままでは、中国経済がアメリカ経済を凌駕することはないだろう。

<コロナ禍が遺したもの>

<ゼロコロナ政策の混乱ぶり>

・コロナ禍化による人々の生活への影響についても、これからの分析が持たれる。とくに中国ではコロナ禍に対処するため、暴力的ともいえるゼロコロナ政策が3年にわたり実施されていた。

<海外に移住する中国人が急増>

・一方、富裕層、中所得層、低所得を問わず、海外へ移住しようとする中国人は急増している。中国の富裕層にはもともと、欧米諸国の永住権を持っている人が多い。彼らは複数の不動産を所有しており、物件を売りに出して、それで得た資産を海外に送金している。

・低所得層の人々の一部も中国での生活に失望し、限られた現金を持って海外に移住しようとしている。中国のパスポート保持者にビザを免除している中南米の国へ出国し、陸路でメキシコを経由しアメリカへ密入国することが多い。

<市場経済は「信用」の経済>

・統制された計画経済は、政府の権力の強さによって成り立っている。強権的な政府がなければ、経済計画の目標は達成されにくいと考えられている。

・中国は2001年にWTOに加盟したが、世界主要国はいまだに中国を市場経済国と認めていない。これについて、中国政府は先進国による差別だと反論している。

<契約関連のトラブルが多発>

・中国では賃貸のマーケットが育っていない。その原因も、契約がきちんと履行されないことにある。

・業界内でもトラブルが絶えない。デベロッパーからの、下請けの建設会社や工務店に対する支払いが滞ることが増えている。

・不動産開発および不動産取引をめぐるトラブルは、単なる不動産業の問題ではなく、中国社会に内在する信用危機の表れと理解されるべきである。中国では共産党一党独裁の政治が堅持されているため、野党が実質的に存在しない。マスコミは政治を批判することができないため、ガバナンスが機能していない。不動産関連の理財商品で大損を食らった人々は、裁判所や政府機関に訴えても聞き入れられることはない。マイホームを購入したものの、いつまで経ってもマンションが完成せず、途方にくれている人々もいる。不動産バブルの崩壊は中国の社会危機の縮図であるといえる。

<スマホを使った大規模な監視システム>

・中国はIT大国であり、インターネットの利用者は10億人を超えている。そのほとんどはパソコンではなく、スマホを使ってインターネットにアクセスしている。中国政府は地場のベンダーが開発したソフトを利用し、人々の行動を厳しく監視している。これほど大規模な監視システムの導入と実験は、人類史上はじめてのことである。

・政府部門にとって現場での混乱は重要なことではない。人々の行動さえ追跡できれば、それでいいと考えているはずだ。結果的にこの監視システムは、人々の行動を監視する意味では期待以上の効果を発揮した。

<「良薬苦口」を忘れてしまった習近平>

・習政権政権執行部から聞こえてくるのは毛時代のスローガンばかりである。とくに問題なのは、習政権のメンバーたちが現場の実地調査よりも、習主席の意向を重視していることだ。独裁政治でよく見られるが、指導者に対する「個人崇拝症候群」のようなものである。

<習主席が「安全維持」を連発>

・中国政府にとって一番の不安は、人々の不満が予想以上に増幅し、政府への抗議活動が起こることである。

・今の中国社会は乾ききった大草原のようなもので、少しの火花でも、大規模な山火事へと発展する恐れがある。前にも述べたが、中国で国防費以上に増えているのは社会治安維持費である。

<消費者は見捨てられる>

・それに対して中国では、消費者が法に訴えても、多くの場合は問題が解決されない。会社の経営者が共産党幹部や裁判所と結託しているからである。結局、中国人は法に訴える代わりに、北京の中央政府に「上訪」(陳情)する人が多い。

・民主主義国であれば、政府はまず個人を優先して保障する。しかし、民主主義の選挙が起こなわれていない独裁国家では、個人に対する保障は後回しにされがちである。社会はますます不安定化し、治安維持費は積み上がっていくだろう。

<バブルはつかの間の夢だった>

・マンション投資を行っていた人たちにとって、不動産バブルの崩壊は悲劇の始まりだった。これまでのサイクルが崩れて、新規のローンを返済できなくなったからである。

<すでに経済恐慌に突入している>

・不動産バブルの崩壊で苦境に陥ったのは、不動産投資を行っていた人々だけではない。大学を卒業した若者は毎日のように就職説明会に参加するが、どこからも内定をもらえない。大企業も人員削減を行っているとの情報が、SNSなどで広がっている。なにより、地方政府も公務員の賃下げを行っている。

・経済学の観点から見て、現在の中国は経済危機というより、すでに経済恐慌に突入しているといえよう。3年間のコロナ禍と不動産バブルの崩壊は、中国人の生活水準を予想以上に大きく下げた。

<習近平政権の正念場>

<同窓会で見栄を張る中国人>

・中国人社会のトラブルでもっとも多いのは、見栄を張ることに起因する嫉妬と恨みによるものである。

<習政権が進める腐敗撲滅>

・毛沢東の政治は中国の歴史において暗黒の時代だったと、歴史学者たちは結論付けている。

・そんな時代ももはや過去のことだ。習近平政権にとっての正念場は、中国人の見栄を張る国民性、とりわけ共産党幹部の贅沢三昧な生活態度との闘いである。

・不動産業界をみると、デベロッパーは土地の入札、不動産開発と販売、銀行との付き合いの過程で、共産党幹部への贈賄を続けている。共産党幹部に賄賂を贈らなければ、不動産開発を成功させることができないからだ。

・独裁政治の特徴は恐怖による支配である。毛沢東時代でも、今の中国社会でも、密告は奨励されている。

・中国の社会・経済・政治は、爆発するか滅亡するかの岐路に立っている。不動産バブル崩壊をきっかけに、中国人の真価が問われているといえる。

<すべての価値判断がお金になった>

・それに対して、中国では「愛国」を口にしないと、売国奴と罵られる恐れがある。学校や職場などでは盛んに愛国者教育が行われている。筆者が小中学校のころは、毎日のように「国を愛する、毛沢東を愛する」と教わった。

・一方、中国では、自分の給料を人にいうことにあまり抵抗がない。互いに相手の給料の金額を尋ねることもよくある。

・中国社会の富は上から下への配分が遅い。逆に、下から上には激しく富が巻き上げられていく。その結果、所得格差は年々拡大し、社会不安がもたらされている。

・日本では30年前に経済バブルが崩壊したが、日本政府はプライオリティを決めるのに時間をかけすぎて、スピ―ド感に欠けた対応をとっていたのが反省点だった。ここ数年の中国政府も、経済の減速ぶりに対して、政策決定のスピードが明らかに鈍い。

<失われたアイデンティティ>

・変化が起こったのは毛時代だった。文化大革命により、中国の古典文化は根こそぎ破壊され、人々は中国人としてのアイデンティティを失っていった。

・毛時代にはほとんどの古典文化が破壊されたが、実は一つだけ、重要な文化が生き残っていた。それは中国人の食文化である。

<お金、人材、技術が流出している>

・コロナ後も中国経済は回復せず、海外旅行に行く中国人は予想以上に少ない。一方、海外へ留学する中国人学生は増えている。

・現在、中国社会のほとんどのベクトルは海外へ向かっている。

・一方、中国では不動産バブル崩壊後、お金も人材も技術も、どんどん海外へ流出している。サプライチェーンが再編され、外国企業は相次いで工場を海外へと移転している。

<習政権の深刻な欠陥>

・まず、目下の景気減速は、政策ミスと構造的な原因によるところが大きいと思われる。具体的には、3年間のコロナ禍、民営企業に対する締め付け、反スパイ法によるサプライチェーンの中国離れ、米中対立によるデカップリングの加速などを挙げることができる。

 一方、不動産バブルが崩壊したにもかかわらず、北京のポリシーメーカーはそれにきちんと対処していない。

・さらに深刻なのは、当局が都合の悪い経済統計を公表しなくなったことである。

・オーソドックスな経済分析では、中国経済はここまで急減速しないはずだと考えられていた。中国経済のファンダメンタルズはさほど悪くなっていない。にもかかわらず、経済にここまで急ブレーキがかかっているのは、明らかに政策のミスと制度の運用面の問題によるところが大きいと思われる。

<中国は世界経済のリスクに>

・おそらく世界の習政権を見る目が大きく変わったのは、2018年の憲法改正がきっかけだった。

・中国市場はかなりのレベルで開かれた市場になっており、世界経済の一部になっている。中国がくしゃみをすると、世界経済は風邪を引くとされている。そのような事態をなんとか防ごうと、デリスキングが提案されている。

<斬新な技術革新が生まれない>

・2018年、米中貿易摩擦が勃発してから、米中デカップリングが進んでいる。長い間、中国はアメリカにとって最大の貿易相手国だったが、今はメキシコとカナダに抜かれて3番目に落ちた。アメリカがリスク低減を図った結果である。

 習政権はG7による経済制裁の影響を回避するため、外需が落ち込んだ部分を内需によってカバーしようと、国内循環型経済への移行を推進している。

<国際社会の連携が必要不可欠>

・習政権がもっとも恐れるのは、政権への不満と社会不安である。それを助長するのは経済成長の急減速だ。目に前にある一つのヤマは、不動産バブルの崩壊である。

・ここで強調しておきたいのは、米中が新冷戦に突入したために、国際機関の機能がほとんど低下してしまっていることだ。

<チャイナ・リスクに備えよ>

<不動産バブルは蜃気楼だった>

・最終的な結論をいえば、不動産バブルは蜃気楼のようなものだ。バーチャルリアリティーのようなものともいえるだろう。

・中国で膨らんだ不動産バブルも、同じような蜃気楼だった。36年前、海外へ留学する中国人は、中国銀行で50ドルしか両替できなかった。今は、1人につき1年間で5万ドル(約750万円)の外貨を買うことができる。

<習政権にとっての試金石>

・最後にもう一度、バブル崩壊後の現状を整理しよう。一部の家庭は不動産ばバブルの崩壊によって債務超過に陥った。多くのデベロッパーも債務超過に陥り、政府の救済がなければ倒産する運命にある。国有銀行を中心に、金融機関は巨額の不良債権を抱えることになる。地方政府は土地財政の財源を失って、社会保障基金の不足分を補うことができなくなるかもしれない。地方政府が設立した「融資平台」の多くは、債務超過に陥っているとみられている。中国政府は不動産バブル崩壊の後処理にあたり、その債務連鎖をどのように断ち切って、影響を最小限に留めるか、まだ答えを導き出せていない。

<中国史の「40年の呪縛」>

・結論をいえば、不動産バブル崩壊は40余年間続いた改革・開放政策の終わりの始まりを意味するのかもしれない。歴史家によれば、中国の長い歴史を振り返っても、繁栄期はほとんど40年を超えることがなかったという。

<日本もチャイナ・リスクに備えよ>

・問題は、日本企業は完全に中国から撤退する、いわゆるゼロ・チャイナを進めることができないということだ。

・したがって、日本企業はウィズ・チャイナの戦略、すなわち、中国市場でのビジネスを続けながら、中国市場の縮小を補うために、第三国の市場を開拓する戦略を強化する必要がある。

<あとがき>

・インターネットでの情報検索は日課になっているが、その情報の信憑性を確認するのにいつも苦労する。

・他方で、中国経済に対するニーズは高まっている。政財界から「中国経済はこれどうなるなるか」といった質問が多く寄せられる。そのニーズにどのようにして応えるか。研究者として毎日、苦悩している。

(2023/9/12)

『中国経済崩壊宣言』

石平、高橋洋一  ビジネス社  2023/8/1

<数字が証明する中国経済崩壊宣言!>

・劉教授は「ポストコロナ」において中国の経済回復は思うとおりに進んでいないことを認めたうえで、その問題点として次の「5つの20%」を指摘した。

① 若年層失業率が20%を突破したこと

② 工業企業の利益が前年同期比で20%近く落ちたこと

③ 地方政府の土地譲渡金収入が前年同期比で20%減ったこと

④ 不動産の新着工面積が前年同期比で20%減ったこと

⑤ 消費者信頼感指数が20%以上も落ちたこと

それらの問題点を根拠に、劉教授は「中国経済はすでに自己回復能力

を失っている」と分析し、中国経済の今後に対しては極めて悲観的な見方を示した。

彼のいうとおり、「中国経済はすでに自己回復能力を失っている」の

であれば、この巨大国家の経済沈没は最早避けられないのではないか。

・こうしてみると、現在の中国の経済状況といえば、輸出もダメ投資もダメ、失業者が溢れて消費が消失している最中であり、まさに絶対絶命的な状況に追い込まれ、崩壊の真っただ中にいるのである。

<崩壊しかない無残な中国経済の数字>

<簡単なごまかしさえ放置する統計局>

・石平:高橋先生との対談本は今回で4作目となりますが、先生には以前から「中国経済崩壊論をいうのは10年早すぎた」と言われていました(笑)。

高橋:そう、中国経済崩壊論じたいが間違いなのではなく、言うのが早すぎたということです。しかしここのところの中国経済を見ていると、まさしく石平さんの言うとおりになりつつある。今こそ中国経済崩壊論を唱える絶好のタイミングです。

・石平: 自分たちの数字のウソを辻褄の合うようにするという最低限のことさえやらなくなりました。

<中国財務省が23年第1四半期のマイナス成長と発表>

・石平:この一連の財務省の数字は国家統計局より信憑性があります。どう考えてもマイナス成長でしょう。

高橋:確かにマイナス成長っぽいですね。

<投資が中国のGDPの半分近くを占めるカラクリ>

高橋:中国の統計が異常なのは、消費税の割合が異様に低いことです。普通の国なら消費はだいたいGDPの6割。それが4割にも達しないことを中国は投資が大きいからと解説する向きがありますが、無理がある。

石平:中国ではこの20年間、消費率はずっと4割未満でした。

高橋:途上国の経済問題を分析する経済学の一分野に「開発経済学」という学問があります。途上国の貧困や飢餓、栄養失調、失業、低賃金労働、低教育水準、女性差別、乳幼児や妊婦の高い死亡率、HIVやマラリアなどの感染病の蔓延、環境問題や水問題、汚職、貿易政策や債務問題など、幅広いトピックを扱うのですが、この学問からすると、中国では国内消費が十分に育っていないと見なせるわけです。

・高橋:単純に一国が豊かになるということは国民の消費が増えることとイコールです。国民が貧しい国を豊かとは誰もみなさないでしょう。したがって、消費の割合はだいたい6割ないとおかしい。

石平:中国経済の持つ歪な構造がここでわかりますね。

高橋:だから中国経済は投資で持たせているように見える。

石平:22年の固定資産投資総額は57兆2130億元。全体のGDPに占める割合は約47%になっています。

高橋:投資のほうは普通の国なら2割ぐらい。消費も投資も割合が異様です。

・石平:現に中国の投資のなかでいちばん大きかったのはやはりインフラ投資。22年のインフラ投資は9.4%でした。ウソか本当かは別として、何とか中国経済を3%成長させようとすると、結局、インフラ投資に頼らざるをえないわけです。

高橋:とすると公共投資をがんがんやって無駄なものをどんどんつくっていることになります。本来、公共投資では社会便益が投資コストを上回るものしかやらないのが大前提です。

・石平:ゴーストタウン(鬼城)をせっせとつくっているわけです。

<中国経済の実態をつかむには貿易統計がいい>

・石平:中国では消費と投資と輸出の3つが中国経済を引っ張っていく「3台の馬車」と呼ばれています。

・高橋:輸出が大きくなることはときどきあるのでまだわかります。自国通貨安に誘導して輸出ドライブをかければいい。それはありえるとしても、やはり投資の割合がそんなに大きいのは、異常です。裏を返すと、消費がそこまで少ないということもありえません。

石平:構造的に見たら、やはり中国の消費が徹底的に不足している。

・高橋:いずれにせよ、中国の統計であっても輸出入の数字だけはけっこう信頼できる。というより、唯一信用できるのが輸出と輸入の貿易統計しかないということです。

<失業率の高さで成長率の低さはまる見え>

・高橋:GDPと深い関係があるのが失業率です。「オークンの法則」といって、経済成長がないと失業率が高まることを証明したのです。

・石平:共産主義の中国が「失業者」の存在を認めていることじたいが、前進だといえるかもしれません(笑)。

・高橋:やはり正しい失業率は発表できないと思いますね。中国では、GDPも失業率も国家統計局が発表していますが、失業の統計を出すセクションとGDPの統計を出すセクションを分けるのが国際基準です。

・高橋:GDPと失業率の場合、独立している別々の役所の発表する統計がオークンの法則で連動しているからこそ、どちらの統計も信用できることになります。中国の場合、GDPと失業率の数字はやはりオークンの法則からちょっとずれている。それで私は中国の失業率にはちょっと怪しいところがあると言ったのです。

<働き場を失った若者たち>

・石平:国家統計局は23年第1四半期の成長率を4.5%増だとする一方で、同時期の16歳から24歳までの失業率を19.6%、4月は20.4%と発表しました。4月の数字は2018年以降で最も高い失業率です。オークンの法則からしたら矛盾する数字です。

 さすがに中国政府も失業率に関しては、多少は真実に近づいている数字を発表するようになったのではないでしょうか。

高橋:それでもまだごまかしている感じがあります。とはいえ、20%前後の失業率は間違いなく高い。ごまかしてもそのレベルになっているとしたら、中国の失業はかなり深刻です。オークンの法則によれば、若者の失業率の高さからすると、成長率がマイナス成長になっていても不思議ではありません。

・石平:いずれにせよ近年、中国では毎年1000万人もの大学生が卒業していますが、そのうち就職できる大学卒業生はおそらくその3分の1になるかならないかというところです。

・石平:毛沢東時代なら失業の解決策として都市部の知識人や知識青年たちを農村で働かせるという「下放運動」が行われました。習近平自身も下放されたことは周知の事実です。

 実は今、広東省がこれを行っています。23年から30万人の若者たちを動員して農村に行かせる「下郷運動」です。

高橋:しかし若者が送られる農村でも失業問題に悩んでいる。

石平:むしろ失業問題が最も深刻なのが農村部なのです。農村部の若者たちは、ほとんど耕す土地もないため、いわゆる「農民工」となって大量に都会に出ています。農民工は今の数字でも2億5000万人くらいいる。

・石平:中国では再び「露店経済」が脚光を浴びてますよ。露店経済というのは、2020年にコロナ感染が始まって経済が悪化したときに、当時の首相だった李克強が言い出したことです。「失業者には仕事がないから、みんな勝手にどこかに露店を出して、何でも売って食べていけ」と。

・石平:露店経済は大量の雇用を生むこともないし、安定した収入や安定した仕事を保障するものではありません。だから、このままでは経済が落ち込んでいったら、中国では大変な社会的大動乱が起こるでしょう。

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