言葉だけの「党改革」では意味がありません。「殿さま商売」というのは、言い換えればずっと与党であった驕りでしょう。その驕りと決別して、お客さまである国民の目線に立つ。(2)

<私がテレビのバラエティ番組に出る理由>

・とは言え、一軒一軒お宅を回っても、多くの方にお会いするのは難しいものです。

・そういうバラエティ番組に顔を出せば、まったく政治に興味がない若い人たちにも関心を持ってもらえるようになるかもしれません。

・そのための努力のひとつと考えているので、テレビ出演や新聞・雑誌などのメディア取材も、可能な限り受けています。

 この本も、ひとりでも多くの方に私や自民党の考えを伝えられたら、と思って書きました。

・学生の頃に読んだ清水幾太郎先生の本に、このように書いてありました。

「政治の仕事は、国家のためにどうしても必要なもので、しかし、国民が必ずしも望んでいない事について、それを語り、説得し、理解していただけなければ強制的にやる事。ただ国民が欲するものを口当たりよく約束するのなら、セールスマンで沢山で、政治もステーツマンも要らないでしょう」

 学生当時、右を読んで大いに感銘を受けたものです。

 今こそ、この清水先生の言葉を胸に刻むべきだと思います。私利私欲を捨てて働いているという自負を持って、堂々と国民の皆さんに語りかけるべきです。

<国民の政治不信、政治家の国民不信>

・「政治不信」という言葉は近年よく使われますが、ここで逆のことを考えてみましょう。つまり「政治家は本当に国民を信じているのか」という問題提起です。そもそも国民を信じていない政治家が、国民から支持されるはずがないのです。

・たとえば、「票にもカネにもならない」と言われる典型である「憲法改正」について、これまで選挙区で「憲法改正は必要です」と訴えることはあまりなかったのではないでしょうか。

 「危険な思想の持ち主だ」と思われたり、「もっと国民に身近な話題を」と言われたりして、わざわざ憲法改正を街頭で訴えることは今まで少なかったのだと思います。

・私たちは野党時代に、深い反省に立って新しい党の綱領を作りました。そこには「新憲法の制定を目指す」ことを堂々と掲げました。だからこそ今、これだけ憲法改正が話題になっているのだと思います。

・「日本の政治は、日本の政治家はダメだ」そんな政治不信がこれ以上広まってしまったら、本当に日本は立ち直れなくなってしまいます。

 そうなってしまう前に、政治家は国民を信じ、政治を信じてもらえる日が戻ってくるまで、必死に汗をかかなくてはいけいないのです。

<真の政権奪還を果たすために>

<安価で便利なら、きっと普及する>

・経済も安全保障も、我が国はなるべく早く高度経済成長期・冷戦期モデルから脱却しなければならない、という話をしました。それにはいろいろな新しい技術を汎用化させていかねばなりません。

・地方分権も、これからの日本にとって必要な要素です。

・これからの日本を元気にするのは、地方を元気にすることが絶対に必要です。

<地方にできることは、地方に>

・地方議会は「何がこの地域にとって必要か」という視点ではなく、「どの事業がもっとも補助率が高いか」「どの事業の交付税が多いか」という理由で予算を優先的に決めがちです。もともと少ない収入をどう効率的に使うかという議論ではないので、どんどん財政が肥大化してしまうわけです。

・他方、国会議員の側も、これまでのような地元誘導型の選挙スタイルを改めねばなりません。中央政府が主になすべきは外交、防衛、教育、財政です。

 地方にできることは、地方で。徹底した地方分権により、国民の声を適時適切に反映する身近な体制を作る。そのためにも真の地方分権が求められるのです。

<復興政策は国が責任を負う>

・東日本大震災からの復興に関しても、「いまだ道遠し」という状況下にあり、政治がさらなる力を尽くさなければならない難題が山積みしています。

・津波で甚大な被害を受けたから集団移転をしましょう。その土地も国が確保します。住宅建設にかかるお金も国が出します。そして「それは国民みんなの負担である」と言い切らない限り、物事は決して前に進みません。

<なぜベンツの工場が日本にないのか>

・これから東北を復興のみならず「日本発展」のモデルにしていくなら、たとえば太陽光発電なり、風力なり、地熱なり、といった技術を導入して、エネルギー問題に対する新たな解決の姿を実現することも必要です。

・では、なぜ外国の企業は日本に工場を作らないのか。それは、法人税の高さがネックになっているからでしょう。

 

<こうして国土を強靭化する>

・首都直下型地震、あるいは東海・東南海・南海地震が起きるとされる確率は、政治が看過できるほど低いものではありません。もっとハッキリ言えば、われわれの世代が生きているうちに起こる可能性が高い。東日本大震災で学んだことを決して無駄にしてはなりません。

・加えて、老朽化してしまった高速道路や地下鉄などのインフラに関する安全性の総点検も加速していかなくてはいけません。

・これは国防にも当てはまるのですが、私は心配して備えることが政治の責任だと思っています。心配して、心配して、考え得る限りすべての想定に備えて、それでも何もなかったら「良かったね」でいいではないですか。

<増税論議に決着を図る>

・前回の参院選(2010年)で、自民党は消費税10%を公約に掲げました。消費税を含む税制の抜本改革は、麻生内閣以来の自民党の方針です。

・だからこそ、安倍総理はいわゆる「アベノミクス」と言われる大胆な金融緩和、効果的な財政支出、重点的な成長戦略の3セットの実現に踏み切ったのです。

・本当に重要なのは、いかにして経済を活性化させていくか、ということです。

・いかにして企業の負担を軽減し、海外が投資したいと思えるような税制を含む環境を整備していくか。経済を成長させていく具体策が重要なのです。

<これでは「保険」ではなく「贈与」だ>

・消費税とセットで考えるべき社会保障の改革は、「選択と集中」がその基本です。平たく言えば「もらいすぎている人は、少し我慢してください」という話です。

・都心に土地を持ち収入もあるような富裕層が、年金をもらい、公共交通機関を無料や格安料金で利用する。年金には手をつけず貯金して、相続で子どもに引き継がれる。これでは格差が拡がる一方です。

 本来、医療も、年金も、介護も、病気や高齢になって、資産も収入もなくなった時のための「保険」だったはずです。

・これを続けていけば、いずれ消費税を20%にしても30%にしても補えなくなってしまいます。

 よく「高齢化社会の到来」と言われますが、富士山で言えば、まだ3合目にすぎません。本当の高齢化社会はこれからやって来るわけです。そこまで視野に入れて仕組みを整えていかなければ、問題の先送りになってしまう。

<なぜ憲法改正が必要なのか>

・自由民主党は、その発足時から「憲法改正」を党是として掲げてきました。

・東日本大震災の際も、「国家非常事態宣言」が発令されることはありませんでした。「有事」と呼んでもいい巨大災害が起きても非常事態と宣言しないなど、国際常識的にはあり得ない話です。

 それもそのはず、ほとんどの国の憲法で非常事態条項が想定されている中で、日本国憲法にはその規定がないからです。

 なぜか。それは憲法ができた時、日本は独立した主権国家ではなかったからです。

・もし憲法を改正しないまま、次の有事を迎えたら……本来であれば、日本はもっと早い段階で独立国家として憲法を改正しなくてはいけなかったのです。それを先送りにして、やってこなかった。

・私は憲法改正をライフワークだと考えていますし、安倍総理も同じお気持ちでしょう。自民党の議員であればみなそうなのだと思います。

<憲法改正までにすべきこと>

・憲法改正については、われわれは覚悟もアイデアもありますが、一朝一夕にできるようなものだと思っていません。

・集団的自衛権行使の問題は、永らく憲法問題だという思い込みによって、手がつけられないものと考えられてきました。

・しかし党内での膨大な議論の蓄積の結果として、われわれは集団的自衛権不行使は必ずしも憲法の要請ではない、との結論を得ました。

・だからこそわれわれは、「今できること」の選択肢を広げるために、憲法改正を待たずして「国家安全保障基本法」を国会の責任において制定すべきだと提案したのです。

<日米同盟の根本問題とは>

・日本はいまだに真の独立主権国家とは言えない、と私が考えるもうひとつの憲法上の理由は「軍隊」に関する規定を欠いているということです。

・そもそも国際社会において、永遠の問題などあり得ませんし、永遠の敵もいません。唯一、永遠なのは、自国の国益だけなのです。

<日本にできることは日本で、本土にできることは本土で>

・在沖縄米軍基地問題の本質とはなんでしょうか。

・「日本にできることを、アメリカにやらせていないか」「本土でできることを、沖縄に負担させていないか」

日本の陸海空自衛隊には、海兵隊は存在しません。四方を海で囲まれている島国に海兵隊がないというのは、国際的に非常識です。

・また、沖縄における抑止力も、米軍ではなく日本国自衛隊に代替できるものは代替していかなければならない。

・日本ができること、本土でできること、それらを見極め政治が主導していかなければ、これからの時代の安全保障は確立できません。

<政治と政治家を今一度信じてほしい>

・あらゆる面において、日本という国は今、厳しい状況に立たされています。ただ、今なら、まだ間に合います。

・もちろんその中には増税などのご負担をお願いすることも含まれます。厳しい現実を乗り越えて、より良い未来を切り拓くために協力していただきたい、と誠意を持って伝えることのできる政治でありたいと思っています。

・われわれの先輩が後世のことを考えてくれたからこそ、私たちは豊かな生活を当たり前のように享受しています。

 この私たちが受け取ったバトンを、最高の形で子孫に受け渡すことが、今を生きる私たちの使命だと思うのです。

 私たちは、もっと民主主義に自信を持つべきです。

<おわりに>

・早いもので、私が国会議員になってから四半世紀以上の歳月が流れました。

・社会保障、エネルギー、安全保障、憲法改正。

 先送りにしたがために国民に不利益を負わせてきた多くの問題の責任の大半は、長く政権を担当してきた自民党にあり、それは長く議員を務めてきた私自身が負うべきものです。

 だからこそ、これ以上の先送りを許さないように、二度と「想定外」という言葉で逃げることのないように、残された時間、与えられた議席を精いっぱい働いていきたいと思うのです。

(2023/6/27)

『有事、国民は避難できるのか』

「ウクライナ戦争」から日本への警鐘

日本安全保障戦略研究所  国書刊行会  2022/10/10

<ウクライナ戦争の教訓から緊急提言――日本に「民間防衛」が必要――>

・2022年2月24日に勃発したロシアによるウクライナへの軍事侵攻(ウクライナ戦争)は、日本をはじめ世界中に深刻な衝撃を与えました。特に、戦後の平和ボケの中で戦争のことなど全く念頭になかった日本人にとって、その衝撃は計り知れないものとなりました。

 ウクライナ戦争が日本人に突き付けたことは、①戦争が始まれば国土全体が戦場となり、安全な場所などないという現実です。

 また、②民間人を保護することによって、戦争による被害をできる限り軽減することを目的で作られた国際法は安易に破られるという現実です。

 いま、国際情勢も安全保障環境も激変する中で、日本は空想的平和主義から現実的平和主義への大転換を迫られています。

・ウクライナ戦争では、ロシアは「国連憲章第51条に基づいて『特別軍事作戦』を行う」と述べ、ロシア軍がウクライナ領土に侵攻しました。それをJus ad Bellum(戦争法)に照らして大多数の国家が非合法であると明確に意志表示しています。

 ウクライナ戦争では、多数の民間人が犠牲になるとともに、国内外併せて1300万人の避難民が発生しています。このロシア軍による攻撃は、ジュネーヴ条約第1追加議定書52条2項の軍事目標主義を逸脱しています。つまり、Jus in Bello(戦争遂行中の合法性)の考え方に明らかに反しています。

・本書では、特にJus in Belloに違反する民間人への戦争被害をいかに極小化するかについて「民間防衛」というテーマで考察しています。

・提言の主要な事項は、憲法への国家非常事態及び国民の国防義務の規定の追記、民間防衛組織とそれを支援する地方予備自衛官制度の創設、各地域の国民保護能力と災害対処能力の拡大などです。

 

<はじめに>

・こうした緊張状態が加速する中、2023年2月24日にはロシアがウクライナに軍事侵攻しました。非戦闘員である民間人の犠牲者は日々増加しているとの報道が毎日のように流されています。

・NPO法人「日本核シェルター協会」が2014年に発表した資料によれば、本書で「民間防衛」研究の対象とした米国、韓国、台湾、スイス4か国の「人口あたりの核シェルターの普及率」は、アメリカが82%、韓国(ソウル市)が300%、スイスが100%であり、各国ともに緊急避難場所を確保していますが、日本はわずか0.02%にしか過ぎません。

 台湾は、本資料には入っていませんが、100%です。台湾では、全国の公的場所には必ず地下壕を用意することが法的に義務付けられており、年に一度は必ず防空演習も行われています。

 世界各国では、核ミサイルの脅威に対する備えの重要性を認識し、いざという時の避難場所として、核シェルターの整備を政府主導で進めています。しかし、わが国は唯一の戦争被爆国であり、周囲を中国、ロシア、北朝鮮などの核保有国に囲まれているにもかかわらず、核シェルターの普及が全く進んでおらず、議論すら行われていません。

 

・このため、世界の国々は、武力紛争事態において国民の生命及びその生命維持に必要な公共財等を守るために軍隊以外の政府機関及び地方自治体並びに民間組織及び一般国民が参加する、国を挙げて行う「民間防衛」の制度を整備しています。

 わが国においても、遅ればせながら、武力攻撃事態等において、国民を保護するための「国民保護法」が作られ、2004年に施行されました。

<諸外国の民間防衛を知ろう>

<諸外国との比較による真の「民間防衛」創設に向けた日本の課題>

<諸外国の民間防衛を知ることの意義>

・その際、日本の唯一の同盟国である米国、日本と同じように中国や北朝鮮の脅威に直面し、かつ自由、民主主義などの基本的価値を共有する隣接国の韓国と台湾、及び「永世中立」政策を採り世界でも最も民間防衛に力を入れているスイスの4か国を対象とする。

<諸外国における民間防衛の概念>

・一般に諸外国では、自然災害及び重大事故に対応する措置を市民保護と称し、武力攻撃に対する被害の最少化を民間防衛と位置付けており、民間防衛こそが軍事行動―国防と密接に連動した概念である。

<民間防衛の歴史的変遷>

・戦時に国民を保護する体制を意味するものとしての民間防衛の起源は、欧州における第一次世界大戦時の空襲経験にその緒を見ることができる。

<民間防衛と市民保護の関係性>

・民間防衛と市民保護の関係性をみると、国家レベルの民間防衛が、地方レベルの市民保護の発展を促してきたという各国に共通した特徴をみることができる。

<「共同防衛」を基本とする米国の民間防衛>

<アメリカ合衆国憲法>

<全般>

・わが国の現行(占領)憲法の起草に当たって、基礎史料の一つとされたアメリカ合衆国憲法は、その前文で、次頁のように宣言している。

 われわれ合衆国の国民は、より完全な連邦を形成し、正義を樹立し、国内の平穏を保証し、共同の防衛に備え、一般の福祉を増進し、われらとわれらの子孫のために自由の恵沢を確保する目的をもって、ここにアメリカ合衆国のためにこの憲法を制定し、確定する。

・なかでも、「…、国内の平穏を保障し、共同の防衛に備え、…」の記述は、州政府を束ねる連邦国家が、各州および国民の力を結集して社会全体で国を守ろうとする強い決意を表わしており、それを踏まえて、付帯的な内容が、立法、行政及び司法の各条項に定められている。

 まず「連邦議会の立法権限」では、「宣戦布告」、「陸軍の設立」、「海軍の設立」、「軍隊の規則」、「民兵の招集」、「民兵の規律」に関し規定している。

 「大統領の権限」では、冒頭の1項目で「大統領は、合衆国の陸海軍、及び現に合衆国の軍務に服するために召集された各州の民兵の最高指揮官である」と軍の統帥権について規定している。

・なお、米国議会は、1950年5月に、それまであった沿岸警備隊懲戒法を含むすべての軍事犯罪に関する法律をまとめた『軍事法典』を可決、施行している。

 以上の他に、連邦議会の権限の冒頭にある徴税の項で、「共同の防衛および一般の福祉のため、租税、(…)消費税を賦課徴収すること」として、税徴収の主要な目的は防衛のためであることを明記している。

<日本国憲法とアメリカ合衆国憲法>

・日本国憲法の成立過程研究の第一人者とされる米国のセオドア・マクネリー博士の研究によると、日本国憲法の前文は、時系列的に、①アメリカの独立宣言、②米合衆国憲法、③リンカーン大統領のゲティスバーグ演説、④米英首脳による大西洋憲章、⑤米英ソ首脳によるテヘラン宣言、⑥マッカーサー・ノートの6史料を基礎として作られた。

・すなわち、米国憲法は、連邦法律の執行、反乱の鎮圧及び侵略の撃退を目的とする軍務に服する組織として民兵団を設けることを定め、その招集、編成・武装・規律及び統率に関して規定する権限を連邦議会に、将校の任命及び訓練の権限を各州にそれぞれ与えている。

 その歴史は、アメリカ合衆国の植民地時代に遡る。当時、各植民地は志願者から成る民兵団を結成した。それは基本的に入植民による自警団であったが、独立戦争では大陸軍とともに重要な戦力の一翼を担い、また独立後も国内外の紛争・事案にたびたび動員されたことから、1792年民兵法が制定され、究極の指揮権を州に与えた。

<米国民の「国防の義務」>

・国防の義務については、ほとんどの国の憲法に明確な規定がある。しかし米国の場合は、さらに踏み込んで、修正第2条で「規律ある民兵は、自由な国家にとって必要であるから、人民が武器を保有し、携帯する権利は、これを侵してはならない」と規定し、国民の民兵としての必要性を強調するとともに、武器を保有する権利すなわち武装の権利を保証している点に大きな特徴がある。

<米国の「武器保有権」と銃規制問題>

・アメリカでの銃の所持は、建国の歴史に背景があり、アメリカ合衆国憲法修正第2条によって守られているアメリカ人の基本的人権である。

 全米で適用されている銃規制の法律では、銃販売店に購入者の身元調査を義務づけ、未成年者や前科者、麻薬中毒者、精神病者への販売を禁止し、また、一部の自動機関銃などの攻撃用武器の販売を禁止している。

・銃販売、保持するための許可証の取得、使用など銃に関する法律は州によって異なり、カリフォルニア、アイオワ、メリーランド、ミネソタ、ニュージャージー、ニューヨークなどの州は銃規制が厳しく、銃の所持禁止区域が設定されている。

・しかし、近年、銃乱射事件が劇的に増加し、銃規制強化を訴える世論が高まりを見せている一方、米国社会では銃規制より、自衛のための銃器に関する正しい使い方の教育、情報、訓練の必要性と強化を求める動きも広がっている。

なお、2022年5月に発生した南部テキサス州の小学校銃乱射事件など相次ぐ銃乱射事件を受け、上下両院が超党派で可決した銃規制強化法案にバイデン大統領が署名して6月25日、同法が成立した。本格的な銃規制法の制定は28年ぶりで、21歳に満たない銃購入者の犯罪暦調査の厳格化や、各州が危険と判断した人物から一時的に銃を取り上げる措置への財政支援などが柱となっている。

<「国家警備隊」あるいは「郷土防衛隊」としての州兵>

<連邦政府と州政府との関係>

・州政府は連邦政府の下部単位ではない。各州は主権を有し、憲法上、連邦政府のいかなる監督下にも置かれていない。ただし、合衆国憲法や連邦法と州の憲法が矛盾する場合には、合衆国憲法や連邦法が優先する。

<州兵>

・州兵は、アメリカ各州の治安維持を主目的とした軍事組織で、平時は州知事を最高司令官として、その命令に服するが、同時に連邦の予備兵力であり、連邦議会が非常事態を議決した場合には、アメリカの連邦軍の一部として、大統領が招集することができる。

<兵役制度と予備役制度>

<兵役制度>

・米国の兵役制度は、志願制である。

 予備役は、現役の連邦軍および州兵とともに米軍を構成する重要なコンポ―ネントの一つであり、「総合戦力」として一体的に運用される。その勢力は、約80万人である。

<予備役の目的>

・予備役の目的は、戦時または国家緊急事態、その他国家安全保障上必要な場合に、米軍の任務遂行上の要求に応えるため、動員計画に基づいて部隊および人員を確保・訓練し、現役に加え、必要とする部隊および人員を提供することである。

<予備役としての州兵>

・民兵に起源があり、国家警備隊あるいは郷土防衛隊としての性格をもつ州兵には、陸軍州兵と空軍州兵があり、連邦と州の「異なる二つの地位と任務」を付与されている。

<米国の民間防衛体制が示唆する日本への主な教訓>

<憲法前文における「共同防衛」の欠陥>

・連邦制を採る米国の憲法は、その全文で、国家の安全を保障するためには、「共同防衛」が重要であることを強調している。この共同防衛では、中央の連邦政府から州・地方政府に至るまで、また軍官民が一体となり、社会全体で国を守る防衛体制が必要であると説いている。

<米国の州兵に相当する「郷土防衛隊」の欠如>

・米国の州兵は、植民地時代の志願者から成る「自警団」としての民兵に起源があり、国家警備隊あるいは郷土防衛隊としての性格をもち、地域の緊急事態等において、大規模災害対処や暴動鎮圧等の治安維持などの主任務に携わっている。

・このような、多種多様な任務の急増に応えているものの、自衛隊は前掲の「主要国・地域の正規軍及び予備兵力」に見る通り、その組織規模が列国に比べて極めて小さいことから、本来任務である国家防衛への取組みが疎かになるのではないかとの懸念が高まっている。

 自衛隊は、中国や北朝鮮からの脅威の増大を受けるとともに、ロシアに対する抑止にも手を抜けないことから、本来任務であり国家防衛に一段と注力する必要がある。そのため、自助、共助を基本精神として具現化すべき、米国の州兵に相当する「郷土防衛隊」が欠如していることは大いに懸念されるところである。

<予備役制度の拡充の必要性>

・予備役は、陸軍、海軍、空軍、海兵隊、沿岸警備隊、陸軍州兵、空軍州兵の各予備役、そして公共保健サービス予備役団の八つから構成されており、その体制は極めて充実している。

 

・近年、東日本大震災以降、即応予備自衛官が招集され、また、医療従事者、語学要員、情報処理技術者、建築士、車両整備などの特殊技能を有する予備自衛官補の需要も高まっており、この際、予備自衛官制度の抜本的な改革増強が急務である。

<国家非常事態における国家の総動員体制と組織の統合一元化の欠落>

・日本国憲法には、その根本的な問題の一つである、国家の最高規範として明確ににしておかなければならない「国家非常事態」についての規定も各省庁を統合する体制もない。

<「統合防衛」体制を支える韓国の民間防衛>

<大韓民国(韓国)憲法>

<全般>

・大韓民国(韓国)憲法は、米国の軍政下にあった1948年7月に制定、公布されたものであるが、その後9回の改正が行われている。

<韓国の民間防衛体制が示唆する日本への主な教訓>

<日本国憲法には国防及び国民の「国防の義務」についての規定なし>

・韓国の憲法は、前記の通り、国軍の保持とその使命並びに国民の「国防の義務」について明記している。また、憲法の規定を根拠に、「民防衛基本法」を制定し、民間防衛体制を整備している。

 一方、日本国憲法は、第9条2項で、「戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認」を謳い、国家の唯一の軍事組織である自衛隊は、憲法のどこにも明記されていない。

<国民の「国防の義務」に基づく民間防衛体制の欠如>

・韓国は、憲法によって国民の「国防の義務」を定め、徴兵制度と民防衛隊を制度化してその目的に資する仕組みを作っている。

 わが国の憲法には、国家と国民が一体となって国の生存と安全を確保するとの民主主義国家としてごく当たり前のことが記述されていない。

<国家非常事態に国を挙げて対処できる枠組みの欠如>

・韓国は「江陵(カンヌン)浸透事件」を契機に、国家として適切な対処が行えなかったという反省を踏まえ、「統合防衛法」を制定し、この法律のもと、国防関連諸組織をすべて組み合わせ、網羅して、外敵の侵入、挑発などに一元的に対処する仕組みを作った。

 わが国でも、東日本大震災において、国家として適切な対処が行えなかったことなど多くの問題や課題が指摘された。

<「全民国防」下の台湾の民間防衛>

<中華民国(台湾)憲法>

・中華民国(台湾)憲法は、その「まえがき」で、「国権を強固にし、民権を保障し、社会の安寧を確立し、人民の福利を増進する」ために憲法を制定するとし、国家目標の四つの柱の一つに国防の重要性を掲げている。

<台湾(中華民国)の民間防衛体制が示唆する日本への主な教訓>

<全国民参加型の国防体制の欠如>

・台湾は、憲法20条で「人民の兵役の義務」を定め、それを基に台湾全民参加型の「全民国防」体制を敷いている。

 台湾は、九州とほぼ同じ面積の領土・領域を守るため、現役を約16万人にまで削減したが、約166万人の予備役を確保しており、有事には現役と予備役を併せて約182万人を動員することができる。さらに、高等学校以上の生徒を含めた70歳までの市民の力と自衛・自助の機能を有効に活用し、人々の生命、身体、財産を共同で保護する民間防衛体制を整備して、全民国防の実効性を担保している。

<民間の力と国民の自助・共助の機能を組織化した民間防衛体制が欠如>

・台湾は、「人民の兵役の義務」を背景に、全民参加型の「全民国防」体制を敷き、現役及び予備役を背後から支える民間防衛体制を整備している。 

 その役割は、「民間の力と市民の自衛と自助の機能を有効に活用し、人々の生命、身体、財産を共同で保護し、平時の防災・救援の目標を達成し、戦時中の軍事任務を効果的に支援すること」にある。

 民間防衛体制は、現役及び予備役以外の、高等学校以上の生徒を含めた70歳までの市民によって組織化されており、平時の重大災害対処と戦時の軍事任務支援の平・戦両時に備える構えになっている。

<学校における国防教育の欠如>

・台湾では、「全民国防教育法」に基づき、台湾全民に対する国防教育に力を入れ、全民国防を知識や意識の面からも高めている。特に、学校教育では、国防教育を必修科目とし、青少年の愛国心と国防意識を高揚し、軍事能力の向上を図っている。

 それに引き換え、日本の国防教育は、あらゆる世代を通じて皆無に等しい状態にある。

 中国は、現代の戦争の本質を「情報化戦争」と捉え、「情報戦で敗北することは、戦いに負けることになる」として、情報優勢の獲得を戦いの中心的要素と考えている。そして、「情報化戦争」においては、物理的手段のみならず非物理的手段を重視し、「輿論戦」、「心理戦」および「法律戦」の「三戦」を軍の政治工作の項目に加えたほか、それらの軍事闘争を政治、外交、経済、文化、法律など他の分野の闘争と密接に呼応させるとの方針を掲げている。特に近年は、サイバー、電磁波および宇宙空間のマルチドメインを重視して情報優越の確立を目指そうとしている。

・その際、情報の優越獲得の矛先は、軍事の最前線に限定される訳ではなく、相手国の政治指導者、ソーシャルサイトやメディアそして国民など広範なターゲットへ向けられるため、中国の「情報化戦争」は、一般国民の身近な生活や社会活動、ひいては国の防衛に重大な影響を及ぼさずには措かないのである。

 台湾と同じように、中国の世論戦、心理戦、サイバー戦などの脅威に直面する日本としては、敵から身を守り、敵の侵略を阻止するには、物理的な力と無形の力を組み合わせる必要性に迫られている。自衛隊の防衛能力を強化するのは当然であるが、併せて国民が脅威を正しく認識し、防衛意識を高める施策が伴わなければならない。

 そのため、特に学校教育では、国防教育を必修科目とし、青少年の愛国心と国防意識を高揚し、自衛隊の活動に関する理解を深め、それに協力して共に支える社会環境の醸成が不可欠であるものの、甚だ不十分な状況と言わざるを得ない。

0コメント

  • 1000 / 1000