いま、日本の防衛で何が問題かと言うと、一言で言えば、「誰も軍事を知らない」ということです。恥ずかしながら、私ども自衛隊OBも軍事を知らない。現役の人たちはもっと知らない。(1)
(2024/12/8)
『新・自衛隊論』
自衛隊を活かす会 講談社現代新書 2015/6/18
<はしがき>
・「自衛隊を活かす会」をご存じでしょうか。正式名称は、「自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会」といいます。
この「会」は、自衛隊を否定するのでもなく、かといって集団的自衛権や国防軍に走るのでもなく、現行憲法下で誕生した自衛隊の可能性を探り、活かしていくための提言を行うことを目的に、2014年6月7日に発足しました。
<「専守防衛」と「安全保障」の本質を考える>
・自衛隊は「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて」武力を行使することになっていましたが、集団的自衛権の行使とは、日本が武力攻撃を受けないのに自衛隊が武力を行使するということだからです。なお、専守防衛は、軍事用語としては「戦略守勢」とも言われます。
・しかし、専守防衛という考え方が生まれたのは、あのソ連の脅威が目の前に立ちはだかっていた時代のことでした。
・いろいろな挑発には対処し、阻止するだけの軍事力は必要だが、いま重要なのは不測の事態が起きないような「危機管理」であって、専守防衛を超えるような軍事戦略は不要ではないのかというのが、「会」の問題意識です。
<現代に生きる専守防衛 柳澤脇二>
・「専守防衛」というのは非常に政治的な言葉であって、軍事的な言葉ではありません。軍事の言葉としては「戦略守勢」などが使われます。しかし、専守防衛は、政治的なメッセージとして現代に生きているのではないかと思います。
<安全保障とは何か>
・それは、一言で言えば国家の自己実現です。つまり、自分が生きたいように生きる――それは平和、独立、自由、繁栄、いろんな言葉で表されますが――国家であることが出来るということです。現実にはそれを阻害する要因、リスクがあることは仕方がにあので、それをどのように現実化させないようにするか、というのが安全保障だと私は定義します。
・その場合、やはり一番大事なキーワードは、敵を知り、己を知るということです。それに加えて、孫氏もクラウゼヴィッツも言っていますけれども、戦争管理の技法を知るということです。
<己を知る>
・日本を守る時に考えないといけないのは、地政学的な条件です。
・一言で言うと、日本は島国ではありますが、大陸に近いです。
・その意味では、相手にとって攻めやすく、海外線が長いことによって守りにくいという状況にあります。また、南北に細長い格好をしているので、日本海から太平洋に抜けようとすれば、東北地方の最短距離は100キロ程度です。軍事的にはこれを縦深性と言っていますが、国土の懐が狭いのです。
・同時に、石油など自前の資源がないのも特徴です。戦争に必要な物資を自給する能力がないのです。
・そうすると、白紙で考えた場合、選択肢は三つあります。
一つめは防衛線、いわゆる利益線を拡大することです。主権線だけではなく、国防ラインを拡大していくというのが一つの発想です。
・二つめは、地形に弱点がある以上は、できるだけ紛争を局地に封じ込めて、早く終わらせるよう考えることです。
三つめは、最小限抑止としての自前の核兵器を持つことです。
<簡単には作れない「戦争をする国」>
・以上は客観的、地理的な条件です。加えて、主観的、主体的条件を考えなければなりません。その前提となるのは、日本は貿易が出来なければ成り立たない国という意味では、国際公共財、グローバル・コモンズが安定していないといけないということです。
・戦争をする国はそんなに簡単に作れるものではありません。
<「基盤的防衛力」から「動的抑止」へ>
・当時、一番大きなものとして想定されていたのは核戦争でした。
・つまり、核戦争を自分で戦いぬくということではなく、アメリカ軍の来援まで、およそ1ヵ月、独力で対処することに防衛力の意味があるという考え方をしたのです。
・その足らざる部分は何によって拡大するかといえば、政治の決断なのです。
・それが安倍政権でどうなったのか。安倍政権下、国家安全保障戦略がつくられ、それと同時期の2013年末に「防衛計画大綱」が閣議決定されました。「ヒトサン大綱」と言っておりますが、ここでの防衛構想の要となるキーワードは「動的抑止」と「離島防衛」です。
まず動的抑止というのは何か。防衛大綱では、「相手が出てくる、出てきたらピッタリくっついてプレゼンスを示すことによって、防衛の意思を示す。それによって、相手に手出しをさせないようにする」という意味で使われています。
相手が来たらこっちも出るということを考えていくと、運用の頻度を相当上げなければならなくなります。
<現実離れしている「離島防衛」>
・次に離島防衛についてです。これは、政府が何をしたいのかが本当に分からない。
そもそも、防衛の対象は尖閣諸島なのかという問題もあります。
・「大綱」は防衛予算獲得のための理屈ですから、そうなってしまう部分もあるのだろうと思いますが、そのあたりの理屈の説明がなさすぎると思います。
「大綱」では、核の脅威に対してはアメリカの拡大抑止に期待すると書いてあります。一方、それ以外の本格的な侵攻に対して、アメリカに期待するのかというと、そこは何も書いていない。現実味がないと考えているのか、アメリカに期待せず、自衛隊がやるのか。後者だとすれば、中国と同じ規模の無限の軍拡が必要になってくるという、変な結論になってしまいます。
<問題は武器の共同開発>
・しかし、日本が生産している武器の完成品、システムとして組み上がった日本製の武器は売れません。実戦で使ったこともないし、人件費も高いので、国際競争力などありません。
問題になるのは、共同開発でしょう。
・しかし、今の解禁の仕方があまりにも問題です。テロの被害を拡大する要因になっている小型武器やミサイルなどの管理のレジームをしっかりと作っていかなければいけません。
・こういう点で、2014年4月1日の閣議決定は、あまりにも拙速だったと思います。武器の輸出は課題として考えなければいけないけれども、もっと慎重な議論が必要だと思います。間違っても、アベノミクスの成長戦略の一環として大いにやっていくんだというような、馬鹿げた発想に立ってはいけません。
<抑止力の変化と米中関係の現状>
・先ほど、「大綱」の問題点を指摘しました。なぜ「大綱」が現実離れしたものになるのかというと、それなりの理由があると思います。防衛政策というものを抑止力だけで考えていくからです。
・しかし、今のアメリカと中国の関係は、最大の貿易相手国、投資の対象国、国債保有国の一つです。3・11の地震で日本の工場が止まって、部品が供給できなくなったら、中国やアメリカをはじめ、ヨーロッパの工場も止まってしまうというようなことを考えると、グローバル化というのは、実は想像を絶した深まりを持っている。すべての先進国がすでに一つの生産ライン、一つの金融システムの中に組み込まれてしまっている状況ではないでしょうか。
だから現在は、戦争が怖いから、核が飛んできて滅びてしまうのが怖いから、戦争が起こらないのではない。そうではなくて、戦争をしたら自分の経済が滅茶苦茶になり、バカバカしいからではないでしょうか。
・全体として言えば、抑止力、特に報復的な抑止というのは、従来、相手が侵攻してきたら倍返し、3倍返ししてやるというものでしたが、そこが変わってきているということです。
・それでは米中の対立要因はどうなっているか、戦争する可能性はあるのかということです。米中は戦争をしない、そう私は思います。常識的にそう思います。
かの歴史家トゥキディデスは、「恐怖」と「名誉」が戦争の要因だと言いました。今日風に言えば、恐怖とは軍事的脅威が迫っている事態、名誉とは内政面での権威を確保しなければならない事態です。また、今日では、「利益」も戦争の原因であると思います。
中国の視点から見て、恐怖、名誉、利益という戦争の条件が全て揃っているのは、おそらく南シナ海だろうと思います。台湾はどうかというと、内政要因は非常に大きいけれども、他の要因はあまり大きくありません。
・では、尖閣諸島はどうか。内政要因だけの問題でしょう。
<アメリカが日本に期待するもの>
・アメリカは、オバマ政権になり、対テロ戦争の店じまいをして(なかなか足を洗えていませんが)、対中リバランスに向かっていると言われています。そのスタンスを「封じ込め」とは言っていません。中国は敵でも味方でもないということで、あるいは敵でも味方でもあるべきか、フレネミー(friend enemy)という定義の仕方をしている。
・もう一つの大事な点は、アメリカは今、国益重視に戻りつつあることです。
・ですからアメリカは、米軍再編ということで、オーストラリアのダーウィンなども対象として、基地を分散しようとしています。
<冷戦の終結で同盟と抑止力の存在意義が問われた>
・そういう状況下で、いま、日米同盟そのもののあり方が問われています。
・その日米同盟を生んだ冷戦構造が根底から変化したわけです。
・もう一つが、いまの安倍首相に代表されるものです。もっとアメリカにサービスするから、アメリカからもっと大きな報償がほしいとするような考え方です。
<日米同盟は相対化せざるを得ない>
・日本は、この二つの考え方の間で、揺れてきました。日本の安全をどうするのか、その安全の代償としての対米従属はどの程度容認できるのか、そのバランスが見えないできたのです。
・こういう状況のなかでは、日米同盟は相対化せざるを得ないのであって、相手に対してもオープンなものにしていくべきです。そういう条件があるのに、ただただ同盟を強化するという選択肢しかないところに、現在の安倍政権の戦略的な貧困さがあらわれていると言えるでしょう。
<「守るべき米軍の船がない」という事態も>
・集団的自衛権の問題は、それを行使したらどうなるのか、日本の利害の問題としても整理しておく必要があると思います。
冷戦時の防衛計画大綱で想定された防衛力というのは、陸18万人、海60隻、空430機という体制でした。現在の大綱では、陸が15.9万人、海が54隻、空が360機です。
・さらに、米中が仮に本当に戦争をするのだったら、日本は最前線なのです。敵の目の前にいるわけです。
・だから、自由と民主主義という価値観を共有するが故に同盟国だという、そういう冷戦時代は明確だった分水嶺がなくなってきているのです。
<安全保障のジレンマ>
・結論として言えば、繰り返しになりますが、紛争の局地化・早期収拾というのが、日本が考えるべき防衛のあり方です。それが一番かしこいやり方だと思います。
・総じて専守防衛というのは――戦略守勢でもいいんですが――基本的にはこちらから先に手出しはしないということなのです。
・その戦略を構築するにあたって、われわれが今考えなければならないのは、グローバリゼーションの三つの側面です。一つめは、相互依存が強まって戦争という手段が合理性を欠くようになってきているというところをどう捉えるか。二つめは、同盟というのは相対化していって、もっと利益共有型のものになっていくのではないかという問題の捉え方。そして三つめには、「イスラム国」のような、グローバリゼーションから疎外された者の不満の表明にどう対処するかです。
<日本の防衛にとって何が必要か 冨澤暉>
・いま、日本の防衛で何が問題かと言うと、一言で言えば、「誰も軍事を知らない」ということです。恥ずかしながら、私ども自衛隊OBも軍事を知らない。現役の人たちはもっと知らない。
<まず守るべきは平和ではなく独立>
・第一に、自衛隊の存在目的は何だというところが、誰も分っていません。
・ところで、独立という言葉は、現在の日本の憲法にも全く書かれていません。占領下にできた憲法ですから、独立という言葉は当然使っていないのです。独立というのは別の言葉で言えば、国家主権を守るということですが、この言葉も全くありません。
・国家の三要素はというのは、高校の教科書によると、国土と国民と主権です。その「主権」という言葉は、憲法には3ヵ所で出てきますが、主には主権在民のことを書いた箇所であって、国家主権のことはあまり重視されていません。日本国は国家主権という言葉をよく承知していないのです。
<独立も平和も必要である>
・実は今、新憲法をつくるという議論が、我々の仲間で流行っています。
・要するに、平和ということも必要ですし、主権や独立も当然必要なのです。
・しかし、僕の後輩でも平和をやめましょうなどと言う人がいる。そういうおかしな人がいるということが、日本の防衛の最大の問題だということです。
<独立と平和は矛盾する>
・実は、平和という言葉と、主権や独立という言葉は矛盾するんです。独立だけを追求していったら、どうしても平和じゃなくなります。ホッブズが言ったとおりです。一方、平和だけを追求していったら、独立がなくなります。
・ソ連が来ても追い返さないというのは、奴隷の平和と呼ばれる状態です。奴隷というのはお金でマスターに買われていて、マスターはお金を損するから、奴隷を殺したりしないわけです。だけど、奴隷には何の自由もない。
・ひどい人は主権はある部分は移譲してもいいと。当時の鳩山由紀夫首相なんて得意だったですよね。彼の好きな博愛のためには主権を移譲することを言いました。それもあると思うんです。TPPなんてまさにその問題です。
<「主権線と利益線」>
・次は、「主権線と利益線」の問題です。
・1890年に帝国議会が初めて開かれた時、山形有朋首相が、主権線のみならず、主権線と密着した関係である利益線を守らなければいけないと言いました。
・では現代の利益線は何か。特に海上自衛隊の仲間に意見によれば、日本は中東から石油をたくさん買っていますから、シーレーン(海上交通路)がそれに当たります。中東の平和は日本の平和にとって非常に大事です。
・ですから、現在のアメリカ主導の考え方で言うと、このシーレーンというのは、グローバル・コモンズ、みんな共通のものだということになります。
・国連が納得しない場合、有志連合で守らざるを得ませんが、グローバル・コモンズを守るのは集団的自衛権ではなくて、集団安全保障なんだということを、よく理解していただくことが大事です。
<警察と自衛隊(軍隊)の違いを知ること>
・警察と自衛隊は違うのだと知られていないことが問題です。
・国内の治安を守るのは警察の仕事です。自衛隊がやるのは武力行使です。武力行使というのは、逮捕ではなくて、相手を殺すことです。
・そこで問題となるのが、テロやゲリラへの対処です。テロ・ゲリラ対処は警察の役割か、自衛隊の治安行動の役割かというのが、今、非常に問題になっています。
日本にとって一番恐ろしいのは、原子力発電所が襲われることです。
・これらは今のところ一義的に警察の役割とされています。自衛隊の出番は警察がお手上げになってからです。
・治安行動がやれるというのは自衛隊法には書いてあるのですが、そういう経緯があるので、それ以来ずっと訓練もやっていません。訓練していないものはできるわけがないことをよく承知していただきたい。
<現代の脅威は「核拡散」と「国際テロ」>
・現代における世界の脅威は「核拡散」と「国際テロ」と知ることが大事です。このことを誰も知りません。
2010年にQDR(「4年ごとの国防計画の見直し」)という報告書がアメリカで出ました。今からちょうど5年前です。QDRというのはアメリカの一種の戦略です。
・この報告書では、戦略環境として一番の問題は核拡散と国際テロと書いてあります。
・その時ヒラリー・クリントン国防長官が、「リバランス」という用語を使い、我々はアジアに焦点を移すと初めて言いました。
・実際のアメリカは、その時、正にアフガン、イラクと戦っていたのです。それを片付けることが第一でした。
・それなのに、日本はその真意を良く理解せずに、むしろこれからは海軍力だと本気で思ったのです。それで陸上自衛隊が減らされました。
<日本の「国家安全保障戦略」の問題点>
・その後、2013年、日本政府は「国家安全保障戦略」を出しました。それを見て私はびっくりしました。何と脅威という言葉が使われています。
・まあ、QDRに添って大量破壊兵器等の拡散と国際テロの二つが脅威だと言ったまでは良いのですが、それに対する対策はほとんど出ていません。
・核拡散について言えば、それまでの大綱では、アメリカの核の傘に頼るとしか書いていません。ようやく新大綱で「拡大抑止」という新しい言葉を使っていますが、「拡大抑止」とは何かという説明もない。これが現在の日本の安全保障戦略の水準です。
<中国脅威論と北朝鮮脅威論について>
・要するに今の中国の脅威というのは、彼ら自身が言っているように、「三戦」なのです。三戦というのは、心理戦、広報宣伝戦、そして法律戦のことです。この狙いは日本の弱体化です。
琉球独立に関する本が沢山売れています。
・そうならば、日本の戦いも中国と同様、三戦でやるしかありません。三戦を誰がやるんだと言えば、自衛隊ではありません。それこそ今度出来た国家安全保障会議(NSC)がやるべきものです。
自衛隊の軍事力はどうあるべきかというと、その三戦の背景として、適切なものをつくることが大事なのです。それが軍事のあり方です。
・ただし、北朝鮮は危険だと思います。大した力を持ってはいないが、追い詰めると何をやるか分かりません。
・追い詰められた時に怖いのは核ミサイルです。それと、陸上自衛隊と同じくらいいる、十何万人の特殊部隊です。そして、第五列(スパイ)が日本には相当入っている。そうなると、対核兵器防護と対テロ・ゲリラに焦点をあてなければいけないというのが私の考えです。
<ミサイル迎撃はあてにならない>
・ミサイル・ディフェンスはあてになりません。「これさえあれば」と言う人がいますけれども、そんなものではありません。あったほうがいいという程度のものです。
それよりも、中国が先んじてやり、スイスやスウェ-デンもやっているように、核シェルターを考えたほうがいい。核シェルターというと大げさのように聞こえますが、今は地下街が多いので、都市にいる人は地下街に潜って、何日間か生きられるようにすればいいのです。
・アメリカのASB(エアー・シー・バトル)は、あくまでアメリカの軍事力整備戦略です。
・最近では、中国がA2AD(接近阻止)をやるから、日本もA2ADをやるべきだという人が多くなっています。
・アメリカにはいろいろな人がいます。シンクタンクもたくさんあります。それに振り回されないようにしなければならない。そのうちの一つを持って来て、「こうしよう」などとするのは良くありません。
<海上自衛隊は敵の基地を把握していない>
・軍事力の実態を知ることが大事です。専守防衛が大事だという人がいます。これは、もともとが戦略守勢と言われたものを、誰かが勝手に専守防衛というのはあり得ない。こちらから何も手を出さないというのでは、本当に戦争をやったら必ず負けます。
・情報はアメリカから貰うと言いますが、アメリカも情報は不十分なんです。そんなものに頼って、「敵基地攻撃をやる」などと言っても、全く無意味です。出来ないことをやってはいけません。軍事が分かっていないと、こうなるのです。
<現実離れした「南西諸島防衛」>
・南西諸島防衛についても、現実を知らないで議論されている現状があります。沖縄本島の防衛なのか、尖閣諸島の防衛なのかも、あまり意識されていません。最近の若い人たちの中には、チョークポイント封鎖を口にする人もいます。
・しかし、昔我々が北海道のチョークポイントと言った場合、その間は40キロとか20キロのことでした。一方、沖縄本島と宮古島の間は250キロあるんですよ。
・それなのに、チョークポイントを守れば中国の海洋進出を阻めるなんて、これも「冗談ではない」と言わざるを得ないのです。
<監禁された邦人の救出は不可能>
・監禁された邦人の救出というのは、到底無理な話です。
・これまで監禁された人を無傷で救出した例というのは、おそらく一例あるだけです。
・なお、軍備を議論する時、よく「これさえあればいい」とか、逆に「これは不要だ」とか、言われることがあります。例えば「ミサイルディフェンスさえあればいい」とか、「戦車は不要だ」とかいうものです。何も軍事が分かっていないことの表れです。そういう意味で、ずっと日本の防衛政策で使われてきた基盤的防衛力というものを、もう一度考え直す必要があるというのが私の意見です。
いずれにせよ、こうした問題を発信できる自衛官、自衛官OBの組織が必要だと思います。私は戦車のことは詳しいですけれども、海軍のことや空軍のことはよく分かりません。だからみんなで考えないといけません。
<情報収集の問題点について>
・最後に情報収集能力の不足について指摘しておきます。
情報という場合、敵情だけじゃなくて、全ての情報が必要です。METTT(メッツ)という言葉があります。これはアメリカ軍が状況判断する時の、最悪の場合の最小限の条件のことです。任務、敵、我が部隊、地形、時の全てが必要です。孫氏は「敵を知り、己を知れば百戦危うべからず」と言いましたが、それだけではないんです。
・軍事だけではなく、経済・文化の情報も必要です。国家の体系には、力の体系と利益の体系と価値の体系があるのです。
・情報収集で一番大切なのは相手の意図と能力を知ることです。
・私は、個々に言うと、安倍首相のやることにはいろいろ不満があります。さらに、集団的自衛権などは言わないで、集団安全保障をまずやるべきだという意見です。
<中級国家・日本の平和国家戦略 加藤朗>
・私の結論は、平和国家戦略です。具体的には自衛隊は原点に戻って専守防衛戦略に基づく国土防衛に徹し、国際協力は平和憲法の実践すなわちNGOや民間による非軍事活動に専心すべきということです。
<日本は大国から転落している>
・日本はもはや世界の大国でもなければアジア随一の大国でもありません。いずれの地位も中国に譲ってしまいました。
・しかし、今では世界そしてアジアの大国の両方の称号を持つのは中国です。
・世界の国家を見渡すと、大国、中級国、小国の三つに大別できます。大国は経済的、軍事的そして政治的に卓越した影響力をもち国際秩序を形成する能力のある国です。現在はアメリカと中国の2ヵ国です。
<「普通の国」と「民生大国」の折衷>
・こうして、日本は国際公共財については人道支援と非武装のPKOの派遣、アジアの安全保障には日米安保の強化で対応しようとしました。
<日本が「普通の国」になれない理由>
・日本はバブル崩壊後20年にわたるデフレで経済は疲弊し、今や財政赤字は1000兆円を超えるなど、中国との国力差は開くばかりです。
・もはや日本はかつてのような世界第2位の経済大国にもアジアの盟主にもなれません。だからと言って、普通の国にもなれません。
・だからこそ、われわれは普通の国ではない、中級国家としての日本の安全保障政策を考えていく必要があります。
<「積極的」国際貢献の必要性>
・普通の国ではない、中級国家日本の安全保障政策は大きく二つに分けることができると思います。第一は国家安全保障政策。第二は国際安全保障政策。前者は、日本の国土、国家主権をいかに防衛するかです。後者は、グローバル・コモンズすなわち国際公共財としての国際社会の秩序をいかに維持するかということです。結論から言えば、前者については専守防衛、後者については非軍事分野での貢献に徹するということです。
・その意味で専守防衛戦略は厳密には軍事戦略ではなく外交戦略です。
<大国という虚像>
・ちなみに専守防衛の名称が外交戦略として使用されたのは1971年の佐藤栄作内閣の時です。当時中曽根康弘防衛庁長官は「非核中級国家論」を唱えました。
・ここに日本の安全保障政策の難問が横たわっています。すなわち大国としての虚像と中級国家としての実像の分裂です。
・だからこそ中級国家としての実像に合わせて中級国家にふさわしい戦略、それを中級国家論と呼ぼうが専守防衛と呼ぼうが、日本の国土防衛に徹した防衛戦略をとるべきだと私は考えます。
<世界に誇れる「平和大国」ブランド>
・次に、国際安全保障政策は非軍事に徹するべきです。これこそ普通の国ではない中級国家日本の国際貢献だと思います。その理由は下記の通りです。
第一は、巨額な財政赤字を抱える日本にとってもはや巨費を支出することが難しいこと。
・第二は、東アジアの安全保障環境を考えると、自衛隊を海外に派遣することは日本の国土防衛を危うくする恐れがあること。
・第三は、これまで自衛隊が行ってきた人道支援・復興支援などは、自衛隊よりもむしろ建設、医療、教育等民間の専門家が適任であること。
・第四は、戦後70年間培ってきた平和大国というブランドを今後とも護るためです。
<平和憲法の実践>
・平和憲法を実践するのは、今一度憲法を理解する必要があります。
・したがって、「公共の福祉に反しない限り」において、ジョン・ロックが主張するように武装する権利を個々人が保有することになります。
<国際紛争とは何か>
・憲法学者はともかく、一般国民の多くは限定放棄説を支持しています。限定放棄説に立てば、日本国民は政府に対して国民の生命、財産を自衛戦争で護ることを求めています。憲法の効力が及ぶのは日本の主権の範囲内ですので、自衛のための武力行使は原則日本国領域に限定されます。
<対テロ戦争で日本と自衛隊が求められる役割>
・9・11以来、テロ問題には多くの方が関心を寄せています。「イスラム国」の登場は、日本に何ができるのかという議論を加速させています。
この問題では、一方に、安倍政権の中では、人質になった日本人を救出するため、「自衛隊を投入すべきだ」というような議論がありました。
<国際テロ対策と日本の役割 宮坂直史>
<テロの現状>
・テロの現状といった場合、発生件数や被害者数が問題になります。
・それによるとこの10年間、おおむね1万件前後のテロが発生していることが分かります。
・このうち、国際的な焦点となっているのはイラク、パキスタン、アフガニスタンの最初の3ヵ国で、インドは意外かもしれませんが、テロのデパートと言われており、宗教的なものから政治的なものまでさまざまな種類のテロが起きています。
・シリア、ソマリアになると正確なデータがありません。
<テロ組織の背景と終わり方>
・次に、誰がテロをやっているのかということです。
実は、年間1万件テロが起きるとして、その7割は誰がやっているか分っていません。犯行声明も出ていないし、犯人が捕まっていないのです。捕まらないにしても、これにはタリバンが関与しているとか、そういうことが分かるのは3割程度です。
・宗教的なテロ組織のライフスパンは長いです。40年間に生まれた約650団体の平均寿命は、だいたい8年から9年と言われていますが、宗教的な団体に関してはその倍が平均寿命です。
<テロの原因>
・問題解決になぜそんなに時間がかかるのか。なぜ、テロ集団が生まれてくるのか。やはり、テロの原因から考えることが大事です。
実はそれが非常に複雑であって、原因をなくせばテロがなくなるという単純な話ではありません。そもそも、原因を一言で言うこともできません。
・テロの根本原因として貧困とか抑圧、教育などを指摘する人も多いです。それがテロの直接の原因とは言えないと思いますが、それらが背景にあることは考えられます。南米のペルーにおけるテロを例にとると、テロ組織のメンバーを見れば、特定の貧困地域の人が入っています。しかし、現在世界で最も暴れている人たちを見ると、必ずしも貧困層の出身ではありません。
・ただし、テロの土壌としては、一つだけは言えると思います。テロが多い国は、そして内紛・内戦が多い国にもあてはまるのですが、15歳から24歳の人口が非常に多く、高等教育を受けても職業に就けないということです。そういう相関関係はあるのだと思います。
<国連安保理決議に基づくテロ対策>
・国連のテロ対策は、加盟国200ヵ国近くを包摂するような形で、あらゆる分野で進められています。
0コメント