日本が長期デフレに陥った諸悪の根源は、日本人の努力不足などではなく、過去の政府や日銀の経済政策の失敗です。(5)
――財務大臣を入れないんですか?
当たり前ですよ、入れたら大変じゃないですか。「弾丸がなくなりそうです」という時に「節約しろ」とか言われたら軍隊は焦るでしょ。そんなことはできないよ。だから財務大臣を入れないでやるのが常識。それはそういうものなの。良い悪いじゃなくて、現場を考えたらしかたないんだよ。有事に近い話をしているときに、一国のリーダーが「開発コストが……」なんて言っちゃいけない。
それに、そんなの簡単に反論できる。私の今までの言論を見ている人だったらすぐ思いつくだろうけど、原子力潜水艦をわざわざ持たなくても、レンタルでいいわけ。つまり、借りるだけだよ、自動車だって、新車を買うより借りたほうがずっと安いでしょ。
――耐用年数が過ぎていても大丈夫なんですか?
どんな機械でもそうだけど、耐用年数が過ぎたらすぐバタッて倒れるわけじゃない。耐用年数は余裕をもって考えられているから、10年落ちの中古車だってメンテナンスすれば何とかなるでしょ。
――ゼロから原潜を作るとなったら、配備されるのはずっと先の話になるんですか。
はっきり言えば、ゼロから開発するのは無理です。すっごい大変。
――中国は国産の新しい空母を完成させましたよね。
新しい空母には、電磁カタパルトが3本も付いている。これがすごいんだよ。中国は、最初のうちは中古をどんどん買って、それからそういうすごい国産の空母を造った。
・そういうことを考えたら、原子力潜水艦がないと大変なんだよ。それなのに「開発コストがかかる」なんて、情けないことに一国の総理大臣が財務省の主計局の主査レベルの話をしてるんだよね。ちょっとやめてほしいよな。
・あれで保守層は自民党に対して失望したと思うよ。だって、出演した党首9人の中で、当然、立憲民主党と共産党、それにれいわと社民は手を挙げなかったから、岸田さんはそういう人たちと同類項になっちゃった。これじゃどうしようもないよ。
<国際経済篇 アメリカで利上げが良くて日本でダメな理由>
<プーチンが「経済制裁は失敗」と主張。ロシア経済は万全だって?>
――プーチン大統領が、「ロシア経済は安定している。西側の経済制裁は失敗だ」と語ったというニュースが流れました。これは本当なんでしょうか。
・ルーブルが回復したのはそのとおりですよ。だけど、ルーブルを回復させるために金利をすごく上げちゃったんだよね。ハッキリ言うと、これは為替というか金融政策としては初歩的な誤りなんだ。金融政策というのは何のためにやるかというと、何度も言いますが、国民生活、もう少し具体的に言うと、実は雇用のためにあるんだよ。
――日本も、いま円安が進んでいるからといって……。
・金利を変えたらアウト。マスコミも円安が大変だと騒ぐでしょ。金利を上げれば円安は簡単に是正できると言う人がいるけれど、経済が良くない時に金利を先に上げるととんでもないことになるのを知っている人は「ああ、バカなことを言っているな」で終わってしまう。
<英国トラス首相の経済政策が失敗した理由を図解します>
――英国のトラス首相が減税政策の失敗で辞任することになりました。
・トラスさんが減税したから英国経済が急落したって思い込んでいる人が多いようだけど、そこが間違っている。
・イギリス経済のことを考えてみると、ちょっと前にEUを離脱したでしょ。それに加えて最近のウクライナの問題によるエネルギー高騰。この二つがイギリス経済にけっこう影響があるんですよ。
・それでトラスさんは減税をした。減税は需要を増やすから、こういうふうに需要曲線が上がっていく。でも、そうするとインフレ率も高くなってしまう。こういう時に減税はあまりやっちゃいけないんだ。だからトラスさんは間違った政策をした。マクロ経済の対応を見誤ったというだけなんだよ。
――じゃあ増税をすればよかった?
・こういう時に増税すると需要曲線は左下に下がってインフレ率は下がるけれど、実質GDPも下がっちゃう。だから増税もできなければ減税もできないパターン。仕方がないからTPPに加入するとか、貿易相手をたくさん増やすとか、そういうやり方しかないんだよ。
――じゃあ、その逆であるいまの日本の状況は対処しやすいんですか。
・日本の場合はコストアップがなくて需要だけ下がっている。あまりインフレにならないでGDPが下がるパターンだから、需要を戻すという意味では簡単な政策でできる。
置かれている状況によってどういう処方箋がベストかは違ってくるけど、日本の場合は需要が少ないんだから、需要を付けるのが解になる。だけど、イギリスの場合は供給が上がっているから需要対策は解にならないんだよ。
<SHEINでクレジットカード情報盗られまくりの危険!>
――中国のアパレルのSHEINが日本の進出して話題になっていますが。
・前に中華製のアプリのことを調べたことがあるんだけど、だいたい情報を抜かれるんですよ。SHEINで情報を抜くといったら、クレジットカード情報でしょ。これはみんなけっこう抜かれているんじゃないかなっていう気がして、それまでそういうことをテレビで言ったんだけど、それなりの反響があったんです。
<国際政治篇 日本の最善策は「原潜レンタル+核共有」>
<共産党大会の胡錦涛退場劇で近づく台湾侵攻>
――中国共産党大会で、前国家主席の胡錦涛さんが強制的に途中退席させられる映像が世界的な話題になりました。これはどう見ればよいのでしょうか。
・ああいう映像を見ると、いくらなんでもびっくりするよね。共産党大会は原則として非公開なんだけど、海外のメディアを含めて報道陣を入れた閉幕式の場で、ああいうことが起こった。でも、あれこそが中国でしょう。
――まるでプーチンですね。
・共産主義はそうなんだよ。みんな共産主義を勘違いして、自分たちの民主主義の基準で見がちだけど、全く考え方が違う。だって、憲法なんか、中国共産党の規約の下にあるんですからね。憲法よりずっと権威のあるその共産党規約に、習近平の言うことは絶対であるって習近平を奉る条項が入っちゃったんだから、もう誰も文句を言えるわけないよ。
・独裁国家の経済成長はあり得ないとも私は言っていたけれど、それも明らかになってきましたね。成長率が予想以上に鈍ったから、共産党大会での発表を控えたくらいです。
これまでも数字を操作してきたけれど、ずっと前から少しずつやっているから違う操作をするとわかるんだよ。だからやりにくかったんじゃないの。「いくらなんでも今さらそんなインチキをしたらさすがにバレますよ!」というので、発表を控えるしかなかった。そのくらいのレベルだよ。だから、経済成長がストップしたことは間違いない。
そうすると独裁者は、台湾か何かで一発当てようと考える。歴史を振り返ると、実によくある話です。
<北朝鮮の核ミサイルに対抗するには大量報復しかない>
――北朝鮮が相も変わらずミサイルをどんどん撃ってきている。今後はどうなるのでしょう?
・まず、相互主義にのっとって、ミサイルを用意する。ディフェンスの仕方は3段階あって、最初は向こうが撃ったらすぐ叩く。次は、実際に日本に飛んで来そうだったら、これを叩く。しかし、現在の技術で100%撃ち落とせるわけはないから、何本か撃ち漏らす。それが日本に落ちたら3倍返しで大量報復する。この3段階になっているんですよ。
第1段階の撃ったらすぐ撃ち返す。これができればいちばんいんだけど、さすがに難しい。途中で迎撃するのも難しい。
・国際関係に関する考え方にはリアリズムとアイデアリズムがある。リアリズムは現実主義、アイデアリズムは理想主義です。アメリカで国際関係論を習うと、必ず両者が出てくるけれど、はっきり言うと答えはリアリズムしかない。
・戦争を回避するためのリアリズムの対応策は簡単で、防衛費を相手と同じように増やすこと。もう一つは同盟を結ぶ。この二つがリアリズムの典型的な対応。
一方、アイデアリズムつまり理想主義者の対応は、まず国際機関に参加しているかどうか。基本は話し合いだからね。もう一つ、盛んに貿易しているかどうか。理想主義の人は交易を活発にすれば戦争をしなくなるという言い方をするんです。
・何の要素がいちばん大きいかという話をすると、私の研究では「相手国が民主主義かどうか」、「防衛費がアンバランスかどうか」。3番目は「他国と同盟を結んでいるかどうか」。これが大きい。相手国が非民主主義国だと戦争が起こりやすくなるんです。
・私の出した答えは、歴史のデータから見ると完全にリアリズムの勝利ということです。話し合いも国際機関に頼るのも効果がない。最近の国際社会を例にとっても明らかなんだけれど、国連なんか機能していないでしょ。
・そうすると、リアリズムから出てくる答えは「話し合ってもしょうがない」。「大量報復を考えて相手に思いとどまらせる戦略をとる」ということになる。理想主義の人は「そんなことをしたら相手をもっと刺激する」とか言い出すけれど、それは逆で、国際機関に入っていようが、いくら貿易を盛んにしようが、相手はやる時はやる。そう割り切れば、実は大量報復が答えになります。
・北朝鮮と中国とロシア、これすべて非民主主義国だから、非常に戦争の確率が高い。とくに北朝鮮なんかは話し合いも何もないから、対応は日本の防衛力を高めること。日米同盟を強めること。防衛費を高めることで大量報復を可能にする。どこから報復するか敵に悟られたら先にやられるから、いちばんいいのは海の中の原子力潜水艦のSLBM。これが大量報復にはいちばん適しています。
そこから導かれるのは、アメリカから借りた原子力潜水艦を日本海に沈めておいて、そこからSLBMを撃つという形。これが理詰めで出てくる答えです。
――開発するよりずっと安上がりですね。
・コスパと時間を考えると、「原潜レンタル+核共有」が最良の手段です。これは安倍元総理も同意見だったけれど、いまはその話をしてくれる人がいませんね。
――国会でもその話題は取り上げられない。誰か言い出してくれる人はいないのでしょうか。
・この話を国会でしてくれたら面白いと思うんだけどな。私は年中言っているけれど、国会議員で言う人はいない。核兵器と原子力潜水艦だからね。でも何か手立てはありませんかと聞かれたら、こういう言い方しかないんだけどね。
『週刊東洋経済』2014.12.27
「危機 著名投資家ジム・ロジャーズ」
<世界規模の破綻が2020年までに来る>
<行きすぎた紙幣増刷は世界に何をもたらすか>
(――東京オリンピックまでの世界経済をどう見ていますか。)
・安倍晋三首相がおカネを大量に刷らせているから、日本経済は当分の間、景気がいいでしょう。しかし、東京オリンピック前に状況が悪化し始め、日本のみならず、世界のほぼ全土で経済が破綻するでしょう。2020年までに、少なくとも1回は世界規模の破綻が起こります。米国や欧州など多くの国々で、今後6年の間に問題が起こるでしょう。正確な時期はわからないが、たぶん16年か17年でしょう。
(――つまり国債が暴落すると?)
・そうです。国債が大暴落し、金利があがります。株価も暴落します。今すぐにというわけではありませんが、20年までに起こるでしょう。世界規模の経済問題が発生し、ほぼすべての人が影響を被るでしょう。
<安倍首相は円安誘導で日本を破滅に追い込む>
(――なぜ破綻が起こるのですか。)
・大半の国々では4~6年ごとに経済問題が発生しています。だから、もうじき、いつ起こってもおかしくない状態になります。
今の景気浮揚は、日本や米国、英国など欧州の国がおカネを大量に刷ったことによる人為的なものです。
(――破綻を回避する道は。)
・今のところ、防ぐ手立てはありません。(何をしても)非常に悪い状態になるか、少しましなものになるかの違い程度でしょう。いずれにせよ、世界経済は破綻します。
・日本は減税をし、大型財政支出を打ち切るべきです。人口問題対策も
講じなければなりません。どうせやらないでしょうがね。仮にやったとしても、問題は起こります。しかし、(何もしないと)16~18年に事がうまく運ばなくなったとき、問題が表面化するでしょう。
・安倍首相は、「日本を破滅させた男」として、歴史に名を残すでしょう。投資の世界の人たちや、(金融緩和)でおカネを手にしている人たちにとっては、しばらくは好景気が続くでしょうが、安倍首相が過ちを犯したせいで、いずれはわれわれ皆に大きなツケが回ってきます。
(――日本は、東京オリンピックがあるから、少しはマシ?)
・いや、逆かもしれません。オリンピックで大量におカネを使い、債務が増えていくため、状況が悪化する可能性があります。1億2000万人強の日本の人たちを、オリンピックで救うことはできません。
(――円安誘導が間違っている?)
・最悪です。短期的には、一部の人が恩恵を受けますが、自国通貨(の価値)を破壊することで地位が上がった国はありません。この2~3年で、円は対ドルで50%も安くなりました。このことが日本にとってよいはずはありません。
<『日本を破滅させた男』として安倍首相は歴史に名を残すでしょう。>
(――以前「米国は世界の警察をやめるべき」と言っていました。オバマ大統領は実際そう宣言しました)
・米国がおカネを大量に刷るのをストップし、(世界の)人々に対し何をすべきか、あれこれ言うのをやめるとしたら、世界にとっても米国にとっても素晴らしいことだと思います。しかし、私はオバマ大統領のことは信じません。
・多くの米国人は「米国が他国にあれこれ指図すべきだ」と思っています。私は、そう考えない少数派の一人です。「米国の言うことを聞くべきではない」と考える人たちが世界中に増えているのに、大半の米国人は今でもそう思っています。
日本でも「米国に指導してもらうべき」だとみんな考えているのでしょうが、それは間違い。自分で考えるようにしなければなりません。
『円高・デフレが日本を救う』
小幡績 ディスカヴァー携書 2015/1/31
<21世紀最大の失策>
・しかし、やったことは間違っている。現実経済の理解も間違っている。戦術的に見事である以外は、最悪の緩和だった。
結果も間違い。現実認識も間違い。最悪だ。
中央銀行としては、21世紀最大の失策の一つとも言える。なぜか?
・まず、原油下落という最大の日本経済へのボーナスの効果を減殺してしまうからだ。
日本経済の最大の問題は、円安などによる交易条件の悪化だ。原油高、資源高で、資源輸入大国の日本は、輸入に所得の多くを使ってしまい、他のものへの支出を減らさなければならなくなった。これが今世紀の日本経済の最大の問題だった。交易条件の悪化による経済厚生の低下として経済学の教科書に載っている話そのものだ。
・その結果、他の支出へ回すカネが大幅に減少した。雇用が増え、勤労所得が増えても、資源以外は買えるものが減り、より貧しくなったという生活実感だった。
この実感は、数字的にも正しく、輸入資源以外への可処分所得が減少したのである。これが実感なき景気回復である。
・影響は原油だけではない。円安が急激に進むことによって、多くの生活必需品、原材料が高騰した。パソコンや電子機器の部品を含めて輸入品はすべてコスト高となった。我々は貧しくなった。
・そして、さらに根本的な誤りがある。テクニカルだが、将来の危険性という意味では最も危険で致命的な誤りがある。
それは、誤った目的変数に向かって戦っていることである。
誤った目的変数とは、期待インフレ率である。期待インフレ率とはコントロールできない。
それをコントロールしようとしている。不可能なことを必死で達成しようとしている。
この結果、政策目的の優先順位まで混乱してしまった。期待インフレ率のために、あえて日本経済を悪くしてしまっている。
・異次元緩和という、長期にはコストとリスクを高める政策をわざわざ拡大して、わざわざ日本の交易条件の悪化を目指している。長期のコストとリスクを拡大することにより、短期的に日本経済を悪くしている。しかも、それをあえて目指している。
21世紀中央銀行史上最大の誤りだ。
<量的緩和による中央銀行の終焉>
・ここで、量的緩和のリスクについて触れておこう。
量的緩和とは、現在では、実質的には国債を大量に買い続けることである。これはリスクを伴う。国債市場がバブルになり、金融市場における長期金利、金融市場のすべての価格の基盤となっている価格がバブルとなるのであるから、金融市場が機能不全になる。
それを承知で、すなわち、バブル崩壊後の金融市場の崩壊のリスクは覚悟のうえで、国債を買い続けている。中央銀行が買い続けている限りバブルは崩壊しないで、そのバブルが維持されている間になんとかしよう、という政策である。
・この最大のリスクは、財政ファイナンスだと見なされることである。それによって、中央銀行に対する信頼性、貨幣に対する信任が失われることである。
財政ファイナンスとは、政府の赤字を中央銀行が引き受けるということである。実質これが始まっている、という見方もあり、アベノミクスとは異次元の金融緩和に支えられた財政バラマキであるという議論も多い。
・財政ファイナンスに限らない。貨幣およびその発行体である中央銀行に対する信任が失われるのであれば、その原因は、きっかけは何であれ、中央銀行は危機を迎える。危機と言うよりも終わり、中央銀行の終焉である。
量的緩和は、あえて、自己の信用を失わせるような手段をとりつつ、信用を維持することを目指すという綱渡りのような、非常に危うい政策なのである。
<米国FEDと日銀の根本的違い>
・実は、国債などを大量に買い入れるという、この「量的緩和」は米国も行ってきた。
しかし、「量的緩和」は前述のようなリスクを伴う危うい政策である。このような危うい政策は、どこかで脱出しないといけない、できれば、勝ち逃げして逃げ切りたい、つまり、景気刺激といういいとこどりをして逃げ切りたい……。
・米国中央銀行FEDは脱出に成功しつつある。出口に向かい始めたのだ。しかし、日本は脱出に失敗するだろう。なぜなら、米国FEDとは根本的に考え方が違うからだ。日銀は、達成できない目標を掲げ、その達成に向けて全力を挙げているからだ。
・なぜ、米国が成功し、日本が失敗するのか?
米国は、インフレターゲットは手段であり目的ではない、ということをわかっているからだ。
彼らは、2%のインフレターゲットを掲げながら、インフレ率が2%に達していなくても、出口に向かい始めた。なぜなら、目的は米国経済だからだ。失業率が十分に下がれば、インフレ率がターゲットに達していなくとも、異常事態の金融緩和を解消し、正常化に向かい始めるべきだ、と判断したのだ。米国は手段と目的を取り違えていないのである。
<期待インフレ率を目的とする致命的誤り>
・なぜ「期待インフレ率」を目標とすることが、そこまで致命的に誤っているのか?もう少し詳しく述べておこう。
第一に致命的なのは、目標を達成する手段を持っていないことである。
期待インフレ率という目標を達成する手段を中央銀行は持っていない。手段のない目標は達成できるはずがない。だから、これは永遠に達成できない目標であり、たまたま運良く経済インフレ率が2%に来て、そこにたまたまとどまってくれることを祈るしかない。これは祈祷である。祈祷だから、異次元であることは間違いがない。
『円高・デフレが日本を救う』
小幡績 ディスカヴァー携書 2015/1/31
<アベノミクスは失敗したのではない。最初から間違っていただけだ>
・円安・インフレを意図し、達成した。唯一の問題は、アベノミクスの達成により日本経済が悪くなったことである。
<人に価値を蓄積させるような政策に絞って、それを全力で行う>
・これは、賃金の上昇をもたらすことになる。賃金の継続的な上昇は、企業の利益を吐き出させることでは持続しない。日本経済のためにならない。単なる移転であるから、日本全体としては何の意味もないのだ。
そうではなく、働き手が労働力としての価値を高めれば、企業にとっても価値が高くなるから、高い賃金を払ってでも雇いたくなる。そうなれば、企業の製品の価値も上がり、利益も増え、賃金も上がる。
これこそが、真の好循環である。
これが、真の成長戦略であり、アベノミクスの代案だ。
個人的には、代案などと比べられるのは本当は不満だが、ここに対案として提示したい。
<円高・デフレが日本を救う>
・本章では、最後に、本書のタイトルでもあり、私が今、どうしても本書を世に問わなければならなかった理由である円高・デフレの必要性について、ここまでの議論と重複する点も多いが、改めてまとめて述べることにする。
・今、日本に一番必要なのは、円高だ。
自国の通貨の価値を高める。これが、一国経済において最も重要なことだ。通貨価値とは交易条件の基礎であり、交易条件が改善することは、一国経済の厚生水準を高める。つまり、豊かになる。
<通貨価値至上主義の時代>
・かつて19世紀までは、これは常識であった。
古代において、国家権力を握る目的は通貨発行権を得るためであり、通貨発行益、いわゆるシニョレッジを獲得するためであった。
歴史を経て、シニョレッジの安易な獲得が難しくなった近代は、通貨価値を高めることが重要となった。発行益を得ることができる通貨発行量が限られているのであれば、その単位当たりの利益を高める。すなわち、高い通貨価値を維持することが国家の利益を最大化するうえで最重要となったのである。
しかし、いつの時代にせよ、通貨価値は最も重要なものであった。シニョレッジは、<通貨発行量×通貨価値>だから、あえて価値を下げる国家はなかった。価値が下がっていないように見せかけて、大量発行することに邁進したのであった。
<通貨価値、資産価値、成熟経済>
・このように見てくると、通貨を安くすることが自国の利益になったことは、例外的な場合を除いては、歴史上なかったと言える。大恐慌時や一時的な大不況に陥ったときの緊急脱出策として選択肢になる場合があるだけであり、しかも、それは一時的で、長続きはしない。
ましてや、21世紀の現在の成熟国において、ストックである資産価値についても、将来へ向けての投資についても、そして、フローの輸出に関しても、すべての軸において、通貨は強いほうが望ましい。
・現代における経済成熟国の最適戦略は、通貨高による資産価値増大およびそれを背景とする新興国など世界への投資である。それにより、さらに自国の資産を増大させ、さらなるシナジーなどを加え、資産価値を通貨価値の上昇以上に増大させることを目指す。
<国富の3分の1を吹き飛ばした異次元緩和>
・日本の国富(負債を除いた正味資産)は、2012年度末で3000兆円ある。これを1ドル80円で換算すると、37.5兆ドルだ。1ドル120円なら、25兆ドル。33%の減少だ。3分の1が失われたのである。そんな経済的損失は、これまでに経験したことがない。
たとえば、12.5兆ドルの損失とは数百年分の損失である。
<円安で輸出が増えない理由>
・円安に戻して輸出で世界の市場を制覇するというのは、1960年代、あるいは1980年代前半の日本経済の勝ちパターンに戻りたいということだ。それは不可能であるというより、望ましくなく、圧倒的に不利な戦略である。
<円安の企業利益≦他部門の損失>
・人口減少で日本経済が衰退する前に、金融政策により40%日本経済は小さくさせてしまったのだ。
どうしたらいいのか?
「円高・デフレで日本を救う」のである。
<円高は日本を救う>
・手段としては、具体的にどうするか?
まず、円安を止める。日本国内の資産価値が高まり、海外の投資家や企業に、不動産や知的所有権、企業、ノウハウ、人材を買収されるのを防ぐ。ストック、資産、知的財産の国外流出をまず抑える。
次に、通貨価値を少しずつ回復していく。この過程で、海外の最貧国、あるいは低コスト労働の生産地と価格競争だけで生き残ろうとする企業、工場、ビジネスモデルは、現代の世界経済構造に適した企業、ビジネスモデルへの移行を迫られる。高い価値を持ったノウハウ、労働力、知的財産を安売りするのを止め、高い付加価値をもたらすものに生産特化していく。
自国生産にこだわらず、日本でも海外でも生産する。海外労働力、海外工場をうまく使い、その生産から得られる利益の大半を知的財産による所得、あるいは投資所得、あるいは本社としての利益として獲得し、国内へ所得として還流させる。
これは実際に、日本企業が現在行っていることである。リーマンショック以降、この流れは加速しており、実現しつつある。実は、現在の円安誘導政策で、この流れを政策によって止め、過去のモデルに企業を引きずり戻そうとしているのである。
これを直ちに止める。
・といっても何も特別なことはしない。円安を修正するだけである。
この方向が進むと、国内生産量、工場労働者数は減る。しかし、生産量や国内工場雇用者数をとにかく増やそうとすることは、世界最低コストの労働力と永遠に競うことを意味する。
<欧米は強い通貨を欲している>
・しかし、円安を非難しない最大の理由は、欧米はもはや通貨安競争の枠組みにはないということだ。
欧米は強い通貨を欲している。自国経済を強くするためには、自国の利益のためには、通貨が強いほうが圧倒的に望ましい。もはや資産のほうが重要であり、政治的に労働組合などがうるさいが全体では圧倒的に強い通貨を望んでいるから、日本が勝手に通貨を弱くしてくれるのは大歓迎なのだ。
通貨を強くし、世界の魅力ある有形、無形資産を手に入れ、国力を強くしていく。経済を強くしていくという考え方だ。他国の通貨が安くなるのは、投資しやすくなるので、絶好のチャンスなのだ。
・日本ももう一度、遅まきながら、この流れに加わる必要がある。円の価値を維持し、高める。これにより、世界の資産、財を安く手に入れる。
円高を背景に、世界中の企業を賢く買収し、世界に生産拠点、開発拠点、さらには研究拠点のポートフォリオを確立し、それを有機的に統合する。
すでに大企業ではこれを行なっているが、中堅企業を含めて、この大きなグローバルポートフォリオに参加する。
・企業は人なりである。国家も人なり、地域も人なりだ。だから、人を、個人を徹底的に育てる。政府がそれを支える。
マクロ経済全体では、円高で経済の価値を高め、強くする。ミクロでは、プレーヤーである人を育てる。人が育ち、成長する結果、経済全体も成長する。
これが日本という地域の「場」としての力を強める唯一の道である。
<デフレは不況でも不況の原因でもない>
・社会は、第一には生活者の集まりである。消費者としての個人を支えるためのヴィジョンがデフレ社会だ。我々は、「デフレ社会」を目指す。
現在、巷で使われているデフレ、デフレ社会、という言葉は本来の意味から離れている。間違って使われている。
デフレとは不況ではない。デフレとはインフレの逆であり、物価が上がらないということであり、それ以上でも以下でもない。景気が良く物価が上がらなければ、それは最高だ。あえて無理にインフレにする必要はまったくない。
・所得が下がったのはデフレが原因ではない。デフレは結果である。
所得が下がり、需要が出ないから、モノが高いままでは売れないので、企業は価格を下げた。効率性を上げて、価格を低下させても利益の出た企業が生き残った。バブルにまみれて、高いコスト構造を変革できなかった企業は衰退した。
・さて、デフレ社会が望ましいのは、同じコストでより豊かな暮らしができるということに尽きる。所得が多少減っても、住宅コストが低ければ、経済的にもより豊かな生活が送れることになる。広い意味で生活コストを下げる。これが、生活者重視の政策であり、円高・デフレ政策の第二の柱だ。
円高は、エネルギーコスト、必需品コスト、あるいはさらに広げて、衣料品やパソコンのコストを下げることになる。まさに交易条件の改善による所得効果だ。
<円高・デフレ戦略の王道>
・マクロ政策としては、円高を追究し、世界における研究・開発・生産ポートフォリオを効率よく確立する。場としての日本の価値を守るために、また発展させるために、日本の資産価値を上げる円高を進める。
<異次元の長さの「おわりに」>
・成長の時代は終わった。もはや経済成長を求める時代ではないのである。それは成熟経済だ。成熟とは何か。経済を最優先としない経済社会である。
・日本経済の昔の構造にとらわれ、昔のビジネスモデルに固執し、円安は日本にプラスという昔のイメージに支配され、日本経済が置かれている現実を直視しない。
<コントロールの誤謬。政策依存症候群。>
・人口が減少する。これはたいへんだ。じゃあ、移民を増やそう。子供を産ませよう――これは問題を裏返しているだけだ。問題の裏返しは解決にならない。
人口が減少している原因は何なのか。人口が減少することはなぜ悪いのか。これを突き詰めて考えずに、人口減少という現象を嘆き、悲観し、右往左往しても、何も解決しない。ただ、対症療法を繰り返すだけでは、かえって問題を複雑化し、解決をさらに難しくするだけだ。
年金問題が立ちいかなくなるから、若い世代を増やす。それは間違いだ。問題は、人口ではなく、年金制度にある。
<将来の経済状況の予想により左右されるような制度は、根本的に誤りだ。>
・GDPの増加率が、人口が減ると低下する。マイナスになる。労働力が減ると生産力が落ち、GDPが減少する。だから、人口を増やさないといけない。これは最悪の間違いだ。
・それも、政策で無理に増やすのではない。国のために増やすのではなく、子供を育てたい両親が実現できない障害があれば取り除く。政策にできることは、それだけであり、それで十分だ。
・アベノミクスとは、問題の裏返しそのものだ。
異次元の金融緩和とは、現象への対症療法に過ぎない。一時しのぎに過ぎず、より大きなシステムリスクを呼び込む政策だ。
昔の日本経済に戻ることはできない。円安で輸出して不景気をしのぐ時代は終わった。価格競争で通貨を安くして輸出を増やす時代は終わったのだ。フローで稼ぐ時代は終わり、これまで蓄積したストックの有効活用により健全な発展を図る。成熟する。それがヴィジョンだ。
蓄積したストックとは金融資産だけでない。これまでのノウハウ、ブランド、いやそんなものをはるかに超えた、日本社会に存在する知的財産だ。それが社会の力だ。
そして、その力は、個々の人間の中にある人的資本だ。それを社会で有機的に活かす仕組みだ。
<金融政策がまったく意識されない状態。それが理想だ。>
・だから、現状で言えば、ゼロ金利は継続する。しかし、量的緩和は縮小する。市場をびっくりさせることはしない。国債の買い入れはできる限り少なくする。しかし、スムーズに少しずつ減らす。ゆっくりと慎重に出口に向かう。財政も金融も影武者でなくてはならない。
・政府の政策は、社会政策に絞る。経済成長ではない。人を育てる。健全な人間を社会が育てる。その環境を整備する。
・リフレ政策に見られるような一挙解決願望。願望を持つ側も悪い。それに応えられるようなふりをする有識者、エコノミスト、政治家も悪い。両側で、日本経済の成熟を妨げている。
・所得水準は、これから平均ではそれほど伸びない。世界の競争は激しく、日本だけが勝ち残ることを無邪気に期待するわけにはいかない。生産の多くは途上国、新興国にゆだねることになる。国内の働き手は、国内サービス産業を中心に雇用を得ることになる。
同時に、ストックの有効活用が進む。政府は、ストックの活用を助けるのが仕事だ。
・すべての個人、すべての企業が自分で責任を持って、自分の選んだ道を行く。コストの低い、しかし、環境の充実した、ストックの豊かな社会であることが、それを支える。
政府は、その補助をし、制度を、社会システムを、修正して、社会の持続を支える。デザイナーとして日々修正をしていく。
もちろん、経済成長という名のGDPの拡大は目指さない。この社会の結果としてそうなればそれでいい。
これが21世紀から22世紀のヴィジョンだ。
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