世界の大学ランキングを見ると、日本の立ち後れが目立つ。とくに、コンピュータサイエンス分野では、アメリカはもちろん、韓国に比べても著しい差がある。(1)
(2025/3/28)
『2040年の日本』
野口悠紀雄 幻冬舎新書 2023/1/20
<はじめに:なぜ未来を考えるのか>
<未来は、いまと同じではない>
・ところが、そのときに社会全体がどうなっているかについては、はっきりとした見通しを持っていない人が多いのではないだろうか?
・他方で、新しい医療技術が開発されて、いまは不治の病と考えられている病気が治療可能になるかもしれない。
だから、人生の長期計画を考えるにあたっては、日本と世界が将来どのような姿になっているかを予測する必要がある。
<仕事の成果を上げるために、未来予測が不可欠>
・日本の将来は、必ずしも明るいものではない。それは、人口の高齢化が避けられないからだ。これは、労働力の減少や社会保障負担の増加という形で、将来の日本人の生活に重くのしかかってくる。
<遠い未来のほうが見通しやすい面もある>
・つまり、10年後、20年後の経済の予測は、1年後経済の予測より確実な面もあるのだ。本書が取り上げるのは、そのような側面だ。
<予測できない「重大な事態」が起こることもある>
・私は半世紀前に21世紀の日本を予測する本を書いたが、その時に頭の隅にもなかったのは、中国だ。中国の動向が日本に大きな影響を与えることになるとは、想像もしなかった。
<各章の構成>
・人口の高齢化によって、労働力人口が減少する。そこで、技術進歩が経済成長を決める。とくに、デジタル化の推進が重要だ。これができれば、実質1%程度の成長ができる。ただし、2%の実質成長率は、難しいと考えられる。
それにもかかわらず、日本政府の長期推計では、さしたる根拠なしに、今後、2%程度の実質成長率が想定されている場合が多い。
・日本の1人当たりGDPは、すでに台湾より低くなり、アメリカの半分以下になった。今後は、アメリカとの賃金格差が拡大する可能性がある。
・将来予想される超高齢化社会では、医療や介護の問題が深刻化せざるをえない。医療・介護の問題はこのように深刻だが、医療技術の進歩が事態を改善してくれることが期待される。未来の医療技術の4本の柱は、ナノマシ-ン、細胞療法、ゲノム編集、AIの応用だ。介護分野ではロボットの進化が期待される。また、メタバース医療も実現するだろう。
・メタバースの可能性は、エンターテインメントだけではない。メタバース内での経済取引が可能になる可能性がある。
・自動車関連の技術進歩を見る。「レベル5」と言われる完全自動運転が実現すれば、社会に大きな変化が生じ、われわれの生活環境は大きく変わるだろう。
・テーマはエネルギー問題だ。ここでは、原発に頼らず脱炭素を実現できるか?という問題を考える。
・まず、実現が容易でない技術として、どのようなものがあるかを見る。その代表が核融合発電だ。第8章ではさらに、フードテックの可能性、量子コンピュータや量子暗号について述べる。
・テーマは、人材育成だ。将来に向けての成長に重要な役割を果たすべきデジタル化は、一向に進展しない。デジタル化を実現する基本は、人材の育成だ。ところが、日本の大学は、とくにコンピュータサイエンス分野で、世界に大きく立ち後れている。
<1%成長ができるかどうかが、日本の未来を決める>
<1 なぜ経済成長が必要なのか>
<「成長率の違い」は絶大な差をもたらす>
・想定していた高い成長率が実現できないと、税収や保険料収入が確保できなくなる。社会保障政策をはじめとする、あらゆる施策の財源が確保できなくなるのだ。成長率が1%と0.5%の差は大きい。
<財源は国債だけでは賄えない>
・この経験から、「財政支出の財源は、中央銀行が貨幣を発行して賄えばよい」というMMF(現代貨幣理論)の考えが正しいように思われた。しかし、そうしたことは成立しない。これは、いまアメリカでインフレが発生していることから明らかだ。
<とくに成長が必要なのは、日本>
・この数年間、われわれは、コロナとインフレという問題に振り回されて、長期的な課題を忘れている。
<2 少子化の下で1%成長を実現できるか>
<OECDの長期予測は当たるか>
・もっとも、これは潜在成長率だから、実際にこれだけの成長率が実現できるかどうかは、分からない。そうであっても、他国に比べると、日本の成長率は低い。ことにアメリカと比べると低い。
<財政収支試算では、2%を超える成長率を想定>
・実質成長率は「成長実現ケース」では、2023年度を除き、2026年度までは2%を超える高い率だ。その後も、2%に近い成長率が想定されている。「ベースラインケース」では、2026年度までは1%を超える率だ。その後も1%程度の成長率が想定されている。
<公的年金の財政検証の見通し>
・成長実現ケースでは、2029年度以降20~30年間の実質経済成長率が、0.4%から0.9%とされている。
・このように、成長率がマイナスになることもありうると予測されているのだ。
<民間の成長率の予測は、政府の見通しよりも低い>
・そこにある数字から計算すると、名目GDPの2018年度から2040年度の期間の平均成長率は、成長実現ケースで2.30%、ベースラインケースで1.50%だ。
・このように、民間の予測は、政府の見通しよりは成長率を低めに評価している。
<3 高い成長率見通しは、深刻な問題を隠蔽する>
<実質成長率が1%か2%かで経済は大きく変わる>
・低成長シナリオは、実質成長率が1%程度だ。それに対して、高成長シナリオは、実質成長率が2%程度だ。
1%成長と2%成長とでは、10年経っただけで実質GDPの値は1割以上違ってくる。40年経てば5割程度も違う。
・では、どちらが現実的なのだろうか?明らかに低成長シナリオだ。言い換えれば、「高成長シナリオは実現できない」ということだ。
<財政収支試算が予測していた「2020年度の姿」>
・試論の結論は、2020年度におけるプライマリーバランスが、つぎのようになるというものだった。
(1) 慎重シナリオでは、21.7兆円の赤字、対名目GDP比がマイナス3.8%程度になる。
(2) 成長戦略シナリオでは、13.7兆円の赤字、対名目GDP比マイナス2.1%程度になる。
このように、成長率の見通しが異なれば、結果はまったく違ってしまうのだ。
<「高成長」も「財政収支改善」も実現できず>
・したがって、2010年に描かれた将来像は、実現できなかったわけだ。2020年度経済見通しに示されている名目GDPの値は、「慎重シナリオ」が予測した値にも到達できなかった。
<低金利で財政収支問題が見えなくなっている>
・財政収支試算は、現在、ほとんど注目を集めていない。これは、「財政収支問題は深刻でない」と考えている人が多いだろう。
・実際、財政収支試算も、長期金利は2029年度以降には2%を超え、2031年度には2.8%になるとしている。そうなれば、国債費も増加せざるをえなくなる。ただし、金利が上昇しても、すぐに国債の利払い費が増えるわけではない。
<「高成長」前提は、未来に対する責任放棄>
・2%の実質成長は実現できないと分かったのだから、これに基づいた政策は、虚構以外の何ものでもない。高成長シナリオは捨てなければならない。
・日本の政策体系全体が、2%実質成長という虚構の土台の上に立っている。虚構は実現しないのだから、日本の政策は、将来に向かって維持することができないことになる。
<年金財政検証では「実質賃金」の見通しが異常に高い>
・公的年金の財政検証においては、実質成長率の低下が予測されているのだが、その反面で実質賃金の上昇率はかなり高く予測されている。
・財政検証における実質賃金の高すぎる見通しは、年金財政における問題点を隠蔽する効果を持っていることに注意が必要だ。
<4 日本経済の長期的な成長率を予測する>
<成長率を規定する3つの要因>
・つまり、労働や資本ストックが増えれば経済が成長するが、その他に、技術進歩の影響もある。
・まず労働力、年齢別の労働力率が現在と変わらないとすると、今後の日本では、若年者が減少するために、労働力は大きく減少する。
・つぎに資本。しばらく前から、日本の設備投資は、ほぼ減価償却に見合った規模のものになっている。つまり、資本ストックは増えない状況にある。したがって、資本設備の寄与はゼロと考えるのが適切だ。
・最後に、技術進歩率。これは、TFP(全要素生産性)とも呼ばれ、労働と資本では説明ができない成長要因だ。通常言われる意味の技術進歩だけでなく、その他のさまざまな要因が含まれている。
・とくに重要なのは、「デジタル化」とか「データ経済への移行」と呼ばれる変化に対応できるように、経済構造を変革していくことだ。それがうまくいけば、年率1%程度のTFP成長率を期待することも不可能ではない。
<日本経済の長期的な成長率を評価する>
・以上をまとめると、2020~2030年の期間について言えば、つぎのようになる。労働力率が変わらなければ、人口の高齢化によって、労働力人口が減少する。平均年率で言えば、マイナス0.7~1.0%程度だ。これを、女性と高齢者の労働力率の向上で、マイナス0.5%程度に抑えることができるだろう。他方で、資本ストックの増加率はほぼゼロだろう。
そこで、技術進歩、とくに「労働増大的技術進歩」が経済成長を決める。これは、主としてデジタル化の進展によって決まるだろう。これができれば、実質1%程度の成長ができるだろう。ただし、2%の実質成長は、難しいと考えられる。
<OECDによる成長要因分析>
・どの国でも最も重要なのは、「労働効率のトレンド」だ。これは、経済理論で「労働増大的技術進歩」と呼ばれるものだ。
労働増大的技術進歩とは、それまで2人でやっていた仕事を1人でできるようになるというようなことだ。
・日本の場合、デジタル人材を育成し、業務のデジタル化を進めることによって、こうした技術進歩を実現することが必要だ。
・OECDの予測で日本の将来の成長率がかなり高い値になっているのは、労働効率の上昇率が高く想定されているからだ。すでに述べたように、日本では、これはデジタル化の推進とほぼ同義である。
<デジタル人材の育成に向けて、リスキリングを強化できるか>
・これを実現するには、よほどの大きな改革が必要だろう。しかし、政府が掲げる「デジタル田園都市国家構想」によって、必要な人材を本当に育成できるかどうかは疑問だ。
デジタル人材の育成に向けて、企業がリスキリングに乗り出す動きが始まっている。そうした動きをさらに加速させる必要がある。
<政府は「ゼロ成長のシナリオ」を示すべきだ>
・また、参考ケースを示すものであれば、楽観的な見通しだけを示すのではなく、慎重な見通しをも示すことが望ましい。
説明できる成長要因である労働と資本だけをとれば、多分マイナス成長になるのだ。だから、慎重な見通しを示すのであれば、ゼロ成長の場合にどうなるかを示さなければならない。
<5 出生率低下は日本の将来にどんな影響を与えるか>
<日本は世界で最も高齢化が進んだ国>
・60歳以上が総人口に占める比率を「高齢化率」と呼ぶことにしよう。日本の2020年の値は、28.7%だ。他の国を見ると、アメリカ16.6%、イギリス18.7%、ドイツ21.7%、フランス24.1%、韓国15.8%などとなっている。日本は、これらの国に比べて、飛び抜けて高い。
新興国や開発途上国ではこの値は低いので、日本は世界で最も高齢化が進んだ国だ。
日本経済から活力が奪われたとしばしば言われるが、その大きな原因が人口高齢化にあることは、間違いない。
<かつては英米のほうが高齢化国>
・1980年代頃までは、イギリスやアメリカのほうが高かった。
・ところが、1990年代の中頃以降、日本の高齢化率が急速に高まり、英米を抜いた。そして、この頃から、日本経済の長期停滞が始まった。
<出生率低下で、少子化がさらに深刻化>
・これまでも深刻であった日本の少子化が、さらに深刻化している。厚生労働省が2022年6月に発表した人口動態統計によると、2021年の日本の出生数は81.1万人で、1899年以降で最少となった。
<出生率が低下しても、労働力人口や高齢者人口は変わらない>
・現役世代人口(=生産年齢人口=15~64歳人口)も、同様の理由によって、2030年までを見る限りは、ほとんど変わらない。2040年になって100万人程度減るだけだ。このように、今回の調査で分かった出生率の低下は、2040年頃までの高齢者数や労働力人口には、ほとんど影響を与えない。
・なお、出生率低下が、何の影響ももたらさないわけではない。影響はもちろんある。それは、0~14歳人口が、これまで想定されていたよりは、2040年で2割程度減ることだ。これは、教育関係の諸事項には大きな影響を与えるだろう。
現在でもすでに、私立大学の定員割れが問題となっている。この問題は、今後さらに深刻さを増すだろう。
<社会保障制度を維持できるか>
・2020年には1人の高齢者をほぼ現役2人で支えていた。ところが、2040年にはほぼ1.5人で支えることになるのだ。
・後期高齢者医療制度では、すでに負担増が行なわれている。
・今後は、負担増だけで対処することはできず、給付を相当程度引き下げざるをえないだろう。年金については、支給開始年齢を、現在の65歳から70歳に引き上げるといった対策が必要になるだろう。
なお、国民年金保険料を65歳まで納付する議論がスタートした。また、65歳以上の人の介護保険料を引き上げることも議論されている。これらの議論のゆくえも注目される。
<2060年には現役世代人口と高齢者人口がほぼ同じに>
・現役世代の総人口に対する比率は、現在は約6割だが、2060年頃には、これが約5割にまで低下する。そして高齢者人口とほぼ同数になる。
<出生率引き上げより、高齢者や女性の労働力率引き上げが重要>
・出生率を高めることは、さまざまな意味において、日本の重要な課題だ。
・また、新しい技術やビジネスモデルを採用して生産性を引き上げ、労働力不足を補うことが可能だ。超高齢化社会に対応するには、こうした施策を進める必要がある。さらに、外国からの移民を認めることも必要だ。
<雇用延長で対処できるか>
・高齢者の労働力は、これまでも上昇しつつある。また、年金支給開始年齢を65歳まで引き上げたことに対応して、政府は、65歳までの雇用を企業に求めている。今後、年金支給開始年齢を70歳に引き上げれば、70歳までの雇用延長を企業に求めることとなる可能性がある。
<第1章のまとめ>
1, 経済成長ばかりを求めなくてもよいという意見がある。しかし、高齢化が進む日本では、賃金が増加しないと、社会保障を支えるための負担率が著しく高くなる。
2, OECDの予測では、2020年から2030年までの年平均実質成長率は0.9%だ。日本政府の財政収支試算は、2%を超える成長率を予測している。
3, 日本政府のさまざまな長期見通しは、非現実的に高い成長率を見込むことによって、問題の深刻さを隠蔽している。財政収支試算には高成長シナリオが示されているが、これは到底実現できないものだ。そこで示された収支バランスも、実現されていない。
4, 今後20年程度の日本の将来を考えた場合、労働力率が変わらなければ、人口の高齢化によって、労働人口が減少する。平均年率で言えば、マイナス0.7~1.0%程度だ。女性と高齢者の労働力率の向上で、これをマイナス0.5%程度に抑えることが可能だろう。他方で、資本ストックの増加率は、ほぼゼロだ。
そこで、技術進歩、とくに「労働増大的技術進歩」が経済成長を決める。これは、主としてデジタル化の進展によって決まるだろう。これができれば、実質1%程度の成長が達成できる。ただし、2%の実質成長は、難しい。
5, 日本の出生率が、政府がこれまで想定していたより大幅に低下し、歴史上最低値となった。しかし、20年後程度を問題とする限り、労働力人口などには、あまり大きな変化はもたらさない。それより、女性や高齢者の就業率を引き上げるほうが重要だ。
<未来の世界で日本の地位はどうなるか>
<1 日本は豊かな国であり続けるが、新興国との差は縮まる>
<日本の人口は2050年までに2割減少する>
・日本の人口は今後減少を続け、2040年には2020年の88%に減少する。2050年には、81%になる。
<未来の世界では、中国、インド、アメリカが経済大国>
・こうして、世界経済の中心が、欧米から中国、インドなどのアジアへと移行するだろう。世界経済の様相は、現在とはかなり異なるものになると考えられる。これらの国が成長する中で、日本はほとんど成長しない。
<これから豊かになるのは、どの国か>
・だから、GDPの成長率よりは、豊かさを表す1人当たりGDPの成長率を問題とすべき場合のほうが多い。
<中国やインドと日本の所得格差が縮まる>
・日本が世界平均や中国やインドに比べて豊かな国であることは、40年経っても変わらない。1人当たり潜在GDPで見れば、中国もインドも、2060年になっても日本の水準より低いままだ。
<購買力平価での評価は、将来実現できない可能性も>
・これまで見てきたOECDの推計は、潜在GDPを、購買力平価を用いて評価している。この結果を見るには注意が必要だ。
<2 中国との関係構築は、きわめて重要だが難しい>
<巨大で特殊な国:中国>
・とりわけ重要なのは中国だ。巨大であるだけでなく、特殊な統治体制を持つ国だからだ。中国との関係をどう築くかは、決して簡単な課題ではない。
<中国の高額所得者は、日本よりずっと多くなる>
・しかし、今後を見ると、消費財の輸出が増える可能性がある。なぜなら、中国の所得水準が上昇するからだ。すでに述べたように、中国の高額所得者の総数は、日本の人口よりずっと多くなる。
<中国政府によるデータ規制の強まり>
・中国の場合には、強権的な政府による恣意的な規制によって、経済活動が阻害される危険がある。
<「リショアリング」はありうるか>
・以上のような条件を考慮した場合、中国からの「リショアリング」(中国に移した生産拠点を再び自国へ移し戻すこと)が進むだろうか?
・実際、大勢としては、中国での事業を拡大する企業が多い。
<3 GDPが日本の10倍になる中国と、どのように向き合うべきか>
<40年経てば世界は大きく変わる>
・2060年、中国のGDPは、日本の約10倍になる。
・中国では、少子化によって、今後、労働力不足が顕在化するが、それでもこのように成長する。
<市場為替レートでは、日中間格差は縮まる可能性>
・購買力平価による評価は、市場為替レートに比べると、新興国のGDPを大きく評価する傾向がある。
<日本が防衛費を増やすことに意味はあるのか>
・日本のGDPの1%は、2060年においては、中国のGDPの0.1%にすぎない。
・国防の基礎は経済力だと言われる。そのこと自体は将来も正しいが、これだけ経済規模が開いてしまっては、その意味を考え直す必要がある。
<これから日本は何を目指すべきか>
・日本がこれまで経済大国だったのは、経済規模が大きかったからだ。しかし、日本がいくら大きくなっても、今後の中国とアメリカの成長を前にしては、もはや何の意味も持たない。
・日本は「大きさ」に代わる何かを見出さない限り、世界経済の中で生き延びられないということだ。
・しかし、そうであっても、日本の役割がなくなるわけではない。
<4 急激な円安で、日本は台湾より貧しい国になった>
<円の購買力は60年代水準まで逆戻りした>
・2022年になって、信じられないほどのスピ―ドで円安が続いた。
・このため、ドル換算したさまざまなデータの値が大きく変わり、世界での日本の地位が大きく低下している。
<1人当たりGDPで、日本は台湾に抜かれた>
・豊かさを表す指標である1人当たりGDPの順位も、為替レートの変動で大きく変わっている。
・なお、アメリカの1人当たりGDPは7万5179ドルだ。日本は、この46%でしかない。
<賃金が上がらなくても、iPhoneは値上がりする>
・日本国内で生産できないものの価格は、円安によって確実に上昇している。それを端的に示すのが、iPhoneの値上げだ。
<iPhoneでは、国際的な「一物一価」が成立する>
・それに対して、iPhoneのように国際的転売が可能な場合には、日本の賃金が低くても、価格が値上がりしてしまうのである。
・同じことが、国際的に移動できる労働力について言える。日本の賃金が低いと、国際的な一物一価が成立しなくなるので、日本から海外に流出してしまうのだ。
<第2章のまとめ>
1、 今後、20年から40年の間に、中国の経済成長率は鈍化するものの、アメリカを抜いて世界一の経済大国になるだろう。
2、 中国の高所得者数は、日本の人口より多くなる。中国への消費財の輸出が重要な意味を持つ。中国における生産活動をどう進めるかが、困難で重要な課題だ。
3、 中国のGDPは日本の約10倍になる。日本が防衛費の対GDP 比を1%から2%にしたところで、どんな意味があるだろうか?
4、 急激な円安が進んだ結果、日本の一人当たりGDPは、台湾より低くなり、アメリカの半分以下になった。米韓との賃金格差も拡大している。これらは、数字上の変化だけではない。日本人が実際に貧しくなり、日本の産業が弱くなったことを示しているのだ。
<増大する医療・介護需要に対処できるか>
<1 社会保障負担を4割引き上げる必要があるのに、何もしていない>
<2040年、国民の社会保障負担率は驚くべき数字になる>
・したがって、1人当たりの負担は、低くて42%増、高くて43%増だ。これは、驚くべき負担率の上昇だ。このような負担増が本当に実現できるだろうか?
<社会保障の負担を一定にするには、給付を4分の1削減するか、4割の負担増の必要がある>
・負担調整型の場合には、社会保障の給付は、高齢者人口の増加によって、現在の1.101倍になる。これを現在の0.795倍の就業者で負担するのだから、一人当たり負担額は、1.38倍になる。つまり、4割程度の負担引き上げになる。
<「負担が4割増える」ことの具体的イメージ>
・「負担が4割増える」とは、11万2573円が15万7602円になり、勤め先収入に対する比率が、20.4%から28.6%になることだ。
つまり、現在は収入の約5分の1であるものが、3分の1近くになるということであり、大きな負担増だ。
<国民の負担引き上げの具体的手当てが議論されていない>
・政府見通しの第三の問題は、負担率を上げるための具体的手段が示されていないことだ。
<医療保険の自己負担率はどこまで上がるか>
・自己負担率引き上げの必要性は、後期高齢者だけに限られたものではない。現役世代についても、現在の3割負担で済むかどうか、分からない。
<年金支給開始年齢が70歳になれば、生活保護受給者が激増する>
・現役時代に非正規である人は、退職金もごくわずかか、まったくない場合が多い。だから、老後生活を退職金に頼ることもできない。そうなると、生活保護の受給者が続出する可能性が高い。
<資産所得課税の強化が必要>
・税制調査会は、資産課税の強化を打ち出す方向で検討を始めた。
<銀行預金口座とマイナンバーとの紐づけに関する誤解>
・税務調査の場合とは異なり、仮に資産とマイナンバーの紐づけを行なったとしても、資産保有状況を調査することはできないだろう。それを行なうためには、かなり大規模な制度改革が必要になる。
<医療保険制度の本質に関する議論が必要>
・医療保険制度に関して必要とされるのは、窓口負担の引き上げだけではない。保険料そのものの引き上げも、検討されなければならない。そのためには、医療保険制度が果たすべき役割についての根本的な議論が必要だ。
<「全世代型社会保障」は目くらまし?>
・政府は、その後、財源の問題を真剣に議論していない。そして、議論を「全世代型社会保障」に転換した。
<2 超高齢化社会では誰もが要介護になる>
<「90歳以上、夫婦とも介護・支援不要」の確率はわずか5%>
・85~90歳では、ある人が要介護・要支援になる確率はほぼ5割だ。だから、夫婦のどちらも要介護・要支援にならない確率は、その2乗である25%でしかない。つまり、この年齢層では、介護と無関係という人々のほうが少数派になってしまうのである。
90歳以上になると、もっと厳しくなる。
<親が要介護になるのは、ほぼ確実>
・しかし、その考えは間違っている。なぜなら、親が要介護になるからだ。夫婦の親は4人いる。全員が85~90歳で、生存していることを前提にした場合、4人のうち誰も要介護・要支援にならない確率は、0.5の4乗で、6.25%でしかない。
兄弟姉妹がいれば誰かが面倒を見てくれるかもしれないが、最悪の場合には、夫婦2人で4人の要介護老人の面倒を見なければならなくなる。このように、超高齢化社会において、介護は「誰にとっても、避けられない」問題なのだ。
<長寿者は死者を羨むか?>
・そして、90歳以上では3分の1を超える人々が介護3以上の受給者になる。これから見ても、80歳までとそれ以上とでは、介護の必要度について、質的な違いが生じることが分かる。
<3 医療・福祉が最大の産業となる20年後の異常な姿>
<2040年の医療・福祉関係の就業者は全体の18.8%>
・医療・福祉分野の就業者は、つぎのとおりだ。2018年度においては、823万人。これは総就業者数6580万人の12.5%だ。2040年度においては、1065万人になると予測される。これは、総就業者数5654万人の18.8%になる。
<生産性が向上しても、必要就業者数はあまり減らない>
・医療・介護技術の進歩があっても、必要な就業者数にはあまり大きな影響を与えないことが分かる。
<医療・福祉だけが成長を続ける>
・そして、2037年には、医療・福祉が卸売・小売業を抜き、就業者数で見て、日本最大の産業となる。
・医療・福祉以外の産業は、就業者数で見て減少を続ける。したがって、ごく少数の例外を除いて、今後は量的な拡大を期待することができない。成長を前提とした経営戦略は成り立たないのだ。マイナス成長のビジネスモデルを確立する必要があるだろう。
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