トヨタの会議は30分が基本。30分会議を励行することで、年間2カ月分の勤務時間を捻出できる。(2)
<『心。』 「稲盛哲学」指南の書>
要点1:嬉しいことも悲しいことも、すべて自分の心が引き寄せている。つらいときも前向きな気持ちで乗り越えることが、すばらしい人生を送る秘訣である。
要点2:利他の心をもち、よき行いをすると、いつかそれが自分の元に返ってきて人生を好転させてくれる。
要点3:困難に遭遇したときも、瞬間的にそれを「できる」と思い、あきらめずに一歩を踏み出せば、成功へと近づく。
要点4:困難を乗り越えることによって心が磨かれ、人生が豊かなものになっていく。
<『道をひらく』 「経営の神様」の知恵>
要点1:人には、与えられた道がある。歩いているときは遠い道のように思えても、休まず歩いていれば、必ず新しい道がひらけてくる。
要点2:雨が降った時、傘や風呂敷がなければぬれるしかない。雨があがったら、もう二度とぬれないために用意しよう。
要点3:人より1時間多く働くことは尊い。一方で、1時間少なく働いて、それでいてより多くの成果をあげることも、同じように尊い。楽々と働き、それでいてすばらしい成果があげられるよう、くふうをこらしたいものだ。
<『影響力の武器』 歪められた情報からの防衛法>
要点1:日常の判断を行う際、私たちは自動的反応を用いることが多い。この反応の利点は、単純な思考で物事に対応できる経済性と、より早く正確に適切な対応ができる効率性にある。
要点2:承諾誘導(人間の心理を利用して、情報の受け手が承諾せざるを得ない状況を作り出すこと)は、大きく6つのカテゴリーに分類できる。返報性、一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性である。これらの原理は社会の中で生きる人間にとって不可欠な心理的反応であり、効率的に判断を下す助けとなっている。
要点3:自動的反応にはある刺激で一定の行動を促す作用(ほんの一部の情報で簡便に判断を下し、対応を効率化して複雑な状況を乗りこなせるようにすること)があるため、この仕組みを利用した商用活動などにより、知らぬ間に行動をコントロールされる恐れがある。
<健康・メンタル>
<『スタンフォード式 最高の睡眠 』 質の高い睡眠とは>
要点1:日本人の睡眠時間は絶対的に足りていない。
要点2:睡眠時間が長すぎても短すぎても、脳と体にダメージをあたえてしまう。
要点3:睡眠の質を高めるうえでもっとも重要なのが、入眠後すぐに訪れる90分間のノンレム睡眠である。
要点4:スムーズに入眠するためには、深部体温と皮膚温度の差を縮めることが肝要となる。
要点5:覚醒と睡眠は表裏一体である。良い目覚めは良い睡眠をもたらしてくれる。
<『スマホ脳』 集中力や心の健康を取り戻す>
要点1:人類はこれまでほとんどの期間、狩猟採集生活を送り、さまざまな危険に囲まれていた。そうした生活に合わせて進化した脳は、現代社会に適応できていない。
要点2:スマホやSNSは報酬系を刺激して依存させ、集中力を低下させる。ITの先駆者たちはそのデメリットを認識し、自分や子どものスマホ利用時間を制限していた。
要点3:SNSはむしろ人を孤独させる。とくに子どものスマホ利用は、自制心の発達に悪影響をもたらす。
要点4:睡眠時間を増やし、運動をして、スマホ利用時間を制限すべきだ。それが集中力を高め、心の不調を予防する方法である。
<『運動脳』 週3回30~40分の運動がおすすめ>
要点1:ストレスがかかると、コルチゾールというストレスホルモンが分泌される。しかし運動を習慣づけると、やがてコルチゾールがほとんど分泌されなくなり、ストレスに対する抵抗力が高まる。
要点2:太古の昔から、人間が生きていくためには運動が不可欠だった。それゆえ人間は、運動すると「報酬系」と呼ばれるシステムが働き、ドーパミンが放出されて気持ちが明るくなる仕組みになっている。
要点3:BDNF(脳由来神経栄養因子。脳細胞がほかの物質によって傷ついたり死んだりしないように保護するタンパク質)は、脳の健康に欠かせない物質だ。BDNFを増やすには、30~40分の有酸素運動を週に3回行うことが有効である。
<『「空腹」こそ最強のクスリ』 健康のために「食べない」時間を>
要点1: 1日3食はそれだけで食べ過ぎの可能性があり、さまざまな体調不良を引き起こす。16時間の空腹時間を作るだけでも、健康や若さを維持することにつながる。
要点2: 睡眠時間の前後に何も食べない時間を作ることで、「空腹」は無理なく始めることができる。日本の国民病ともいえる糖尿病にも、空腹は効果がる。
要点3: 空腹力を鍛えることは、がん予防やアレルギー対策、アンチエイジングにつながる。
<『食べる投資』 ハーバードが教える世界最高の食事術 高パフォーマンスの源>
要点1:現代のビジネスパーソンは、体にとって本当に必要な栄養素が不足する一方、不必要なものは過剰になる「現代型栄養失調」状態に陥りやすい。口にするものは全て自分への投資であると考えよう。
要点2:仕事に穴をあけられないビジネスパーソンには、感染症を予防する効果がある納豆を毎日1パック食べるのがおすすめだ。
要点3:健康を維持するため、何を食べるかだけでなく、避けるべきものに対しての知識も持ち、自衛する必要がある。特に糖質の過剰摂取には注意したい。
<『他人のことが気にならなくなる「いい人」のやめ方』 自分を大切にするために>
要点1:幼少期から他人の評価を受け続けて育った私たちは、人からの評価を気にしがちである。それを認識し、人からどう思われるかを気にしない。自分流のやり方で幸せになれる目標に向かっていこう。
要点2:あなた自身のやりたいことに取り組んでいれば、「我慢してまで叶えたい目標か」と考えることで嫌なことにノーと言いやすくなる。目標を理由に気乗りしない誘いを断ることもできる。
要点3:ときには依存してくる人と一線を引いたり、関わりたくない人と縁を切ったりすることも必要である。大切なのはあなたの今やこれからだ。
<『図解 モチベーション大百科』 目標を達成するための法則が満載>
要点1:目標達成の可能性を高めるには、ゴールまでの距離を見るのではなく、現在までにどれだけ進んだかという「前進度」に意識を向けることだ大切だ。
要点2:モチベーションを上げる目標とは、(1)難しいが可能であり、(2)そのための手順がわかっていて、(3)客観的な言葉で書かれているものである。また、目標を設定したら、締め切りを設けることも必要不可欠だ。
要点3:目標に対して悲観的になることが、モチベーションアップにつながることもある。悲観的になることは、目標達成に向けた戦略のひとつである。
要点4:人は基本的に自分自身にしか関心がなく、自分を理解してほしいと思っている。だからこそ、相手の関心事を優先させること。これがコミュニケーションのポイントである。
<『マインドセット』 能力を伸ばすための思考パターン>
要点1:マインドセットには、人間の能力は生まれつき固定されたものだと考える「硬直マインドセット」と、人間は成長しつづけられると考える「しなやかなマインドセット」の2種類がある。
要点2:マインドセットはその人自身や周囲、組織、人間関係から、ビジネスやスポーツなどの分野にいたるまで、あらゆる局面に影響を与える。
要点3:マインドセットがしなやかになると、何事にも臆さなくなり、自分の才能を最大限に生かせるようになる。
<『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』 ストレスと上手に付き合う>
要点1:強いストレスの有無だけでは、死亡リスクに影響はない。だがストレスを受け、さらに「ストレスは健康に悪い」と考えていると、死亡リスクが高まる。
要点2:ストレス反応には、よく知られている「闘争・迷走反応」の他にも、「チャレンジ反応」(DHEAという脳の成長を助ける男性ホルモンが、恐怖を抑制して集中力を高め、ストレスからの回復を促す)、「思いやり・絆反応」(オキシトシンの分泌により、大切な人への信頼感や役に立ちたい気持ちが高まる)がある。
要点3:一般に信じられていることと異なり、ストレスホルモンの分泌量が多いほうが、パフォーマンスは上がる。また、ストレスの効果に自覚的なほうが、ストレスの効果は利用しやすい。
<『最高の体調』 不調の根本的原因を解決>
要点1:文明がここまで発達したにもかかわらず、私たちは依然としてさまざまな問題を抱えている。だがその大半は「文明病」に起因するものであり、個人の意志の弱さや性格に原因があるわけではない。
要点2:文明病を解決するためには、まず自分が抱える問題の遺伝的なミスマッチを特定し、そのミスマッチを起こしている環境を修正することが必要である。
要点3:現代人の問題は大きく「炎症」と「不安」に大別できる。炎症を防ぐうえでもっとも手軽でメリットが多いのは自然との接触を増やすことであり、不安に対処するうえでもっとも重要なのは価値観を固めることだ。
<『運命を拓く』 心の動きが生命の強うさを生む>
要点1:心を積極的に働かせることが、活き活きとした生き方をするための秘訣である。自分の健康や運命を好転させられるかは、すべて心がけ次第だ。
要点2:痛かったり苦しかったりするときは、それを口に出しても構わない。しかしそれで心が消極的になってしまっては駄目だ。
要点3:迷信に惑わされてはいけない。たとえ昔から信じられていることであっても、合理性に欠けるものは切り捨てるべきである。
要点4:不必要な知識を身につけるとかえって身を滅ぼしてしまう。人間の使命はあくまでも創造的に生きることだと自覚しなければならない。
<『ネガティブ・ケイパビリティ』 不確実性に向き合う>
要点1:ネガティブ・ケイパビリティとは、「事実や理由をせっかちに求めず、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいられる能力」を意味する。
要点2:人間の能には「分かろう」とする性質があるため、ネガティブ・ケイパビリティを持つことは難しい。しかし、安易に「分かろう」とする姿勢をやめ、ネガティブ・ケイパビリティを通して、発展的な深い理解をめざすことが重要である。
要点3:終末期医療の現場や精神科医の診療だけでなく、創作活動や教育現場でも、ネガティブ・ケイパビリティが求められる。
<『平常心のコツ』 誰かに言ってほしかった言葉がここにある>
要点1:物事が上手くいかないときほど他人の言葉に惑われやすい。最終的な決断は自分で下すものである。
要点2:失敗は成功の原動力となる。失敗から学ぶという姿勢があれば、動じずに前へ進める。
要点3:平常心を保つには心を癒す方法を持っておくとよい。意識的に一人の時間を作ることや、本の朗読などで声を出すことは、心を落ち着かせるのに効果的だ。
要点4:頑張っても何の見返りも得られないこともある。そう心得て努力を続けていれば、期待した以上の見返りが得られることもある。
<おわりに>
・本はその企画から出版までおよそ1年程度かかります。その間に著者はもちろんのこと、編集や校正などのさまざまな人の目を通ります。
・私はすべての本はかならず誰かを救っていると考えています。
2019/3/4
『ビジネスを揺るがす100のリスク』 日経BP総研2030展望
日経BP総研 編著 日経BP社 2018/10/25
<リスクとは「目的に影響を与える不確実な何か」である。>
<日経BP総研が選ぶ十大リスク>
<2019年以降ビジネスパーソンが注意すべき10大リスク>
ルール急変――国家や企業がビジネスのルールや条件を恣意的に変える
開発独裁優位――テクノロジー利用を遮二無二進めた国家が果実を得る
認証品争奪――違法な伐採や操業に無縁の産物を取り合う
社員大流出――人生百年論や五輪などを契機に永年勤続に見切り
新車販売不振――配車アプリと自動運転が共用を加速
中間層消滅――平均的な消費者などいなくなる
火葬渋滞――高齢化で多死社会、斎場や火葬場が大都市で不足
存在感ゼロ――ネットで検索しても企業名が上に出てこない
学習データ汚染――誤りが混入しAI(人工知能)が誤学習
リスクマネジメント形骸化――チャンスをつかめずリスクも回避できず
・リスクを識別する一助となることを目指し、本書はビジネスパーソンが注意すべきリスクを百件選び、解説する。中でも重要なものを「2019年以降ビジネスパーソンが注意すべき十大リスク」として表にまとめた。
十件は「確実に来るリスク」であり、経営者や自治体の首長、事業部門の幹部、現場の担当者まで、すべてのビジネスパーソンは「自分や自分の組織にどう起こるか」「影響はどの程度か」と、ぜひ問うてみてほしい。
リスクは不確実な何かだから「確実に来るリスク」という言い方は本来おかしいが、十件は「時期は特定できないが起こる」あるいは「すでに起きつつある」ものである。そして十件の影響の度合いはそれぞれの組織ごとに異なる。
・十大リスクの一つ、「ルール急変」は続発しつつある。米国は自動車関税を含め貿易のルールを恣意的に変えようとしており、受け入れる国もあれば対抗する国もある。EUは自域の優位確保を狙い、GDPR(一般データ保護規則)を策定、個人情報の域外移転を規制している。
・「開発独裁優位」は起きるかどうかまだ分からない。一党独裁の中国はITや遺伝子組み換えといったテクノロジーの利用をトップダウンかつ猛スピードで推し進めている。その結果、合議で物事を進める民主主義国家より優位に立てる、あるいはすでに立った、という見方がある。本当に優位に立ったとしたら、他の民主主義国家は大きな影響を受ける。
・いわゆる配車アプリと自動運転によって自動車の共用(シェアリング)が進み、「新車販売不振」が顕著になると指摘されている。配車アプリはすでに使われているが自動運転の普及はこれからである。新車販売不振がはっきりした場合、自動車産業は多大な悪影響を受けるが、シェアリングに伴う新ビジネスに取り組み、リスクをチャンスに変える企業も多数出てくるだろう。
このように「これがリスクであり、こうすべきだ」と万人に向けて明解に言い切ることが難しい。前述した通り、リスクが厄介な所以である。
・一方、自然あるいは人間に関わる不確実性を「ESG」(環境・社会・ガバナンス)のリスクとして括り、第4章で説明する。ESGは企業や自治体が守るべき事柄の総称である。例えば、組織が取り扱う食料や材料は適法の伐採や操業によって得られたことを示す認証品でなければならない。一斉に各組織が調達に動いた場合、「認証品争奪」が起きかねない。環境問題には確実なことと不確実なことが混在しているが、しかるべき対応をしておかなければ悪影響を受ける危険があり、組織の評判まで落としてしまう。
・企業の経営や自治体の運営を考えると、人・自然のリスクとして「人財不足」の分野が、テクノロジー・人工物のリスクとして「自動運転」の分野が、それぞれ関連してくる。前者は「社員大流出」など人出不足や人の質に関するリスクである。
・組織の外側にある市場すなわち顧客についても当然、配慮しなければならない。人、すなわち消費者に注目して市場関連のリスクを検討し、「格差社会」という分類で総称した。「中間層消滅」に加え、「消費欲減退」「富裕層二分化」といったリスクが含まれる。
・さらに消費者が住む場所に注目してリスクを検討し、「都市スラム化」として分類した。人口集中、賃金格差、都市内地域格差、能力格差、AI(人工知能)などによる特定分野の無人化とそれによる失業などが絡み合う。斎場や火葬場が大都市で不足する「火葬渋滞」や「高騰ビルと座礁ビル」といった事態が懸念される。
・業種・業態、営利組織・非営利組織を問わず付いて回るのは情報の取り扱いである。本書では大きく二つ、組織内の人と組織外の人をつなぐコミュニケーションと、組織内におけるデータ利用に分けてみた。例えばネットで検索しても企業名が上位に出てこない「存在感ゼロ」、誤りが混入してAIが誤学習する「学習データ汚染」といったリスクが潜む。
・AI利用としたのはAIが注目されているからだが、AIやIoT、ビッグデータなどのIT利用を進めていく場合、不確実性が常に付いて回る。
以上の九分野で取り上げたリスクの大半はビジネスとテクノロジーに関するもので、企業なら経営会議で議論し、手を打つことができる。
百件に絞るにあたり、中国の海洋進出、朝鮮半島情勢、テロ拡散といった、地政学や政府が絡むカントリーリスクは割愛した。南海トラフ地震・津波、首都直下地震、破局的噴火、パンデミック、特定外来生物などの自然災害関連は第四章(ESG)などでいくつか触れたが、かなりの部分を省いた。
半島情勢や2018年の日本を襲ったような地震、台風と大雨、酷暑といった自然の猛威はいずれもリスクだが、これらは発生時に緊急対応すべき危機管理の対象であり、リスクをチャンスに変えるマネジメントの対象とはみなしづらいと判断したからだ。
・九分野とは別に「リスクマネジメント形骸化」など、リスクマネジメント自体のリスクを百件に含めた。本書のまとめとして第十一章でリスクをチャンスにする方法を検討し、リスクマネジメントと危機管理を包含し、既知のリスクに加え、未知のリスクにも対処しうる「アサンプションマネジメント」を提案する。
<「(我々が未来について)試みうることは適切なリスクを探し、時にはつくり出し、不確実性を利用することだけである」>
・ゲームのルールが変わり、常識や前提をくつがえすリスクがしのびよっている。オープンイノベーションのような他の組織との協業を進めると共に、守るべきルールは守る。中期経営計画や成長戦略を作りっぱなしにするのではなく状況の変化に応じて見直す。必要な情報をパートナーと共有できるように組織を開くべき時に開き、閉じるべき時に閉じる。簡単ではないが、しなやかに動かなければならない。リスクマネジメントは組織や人を縛るものではなく、動かすためのものである。
<ルール急変>
<どこから敵が現れるのか分からない>
・オープン化の影響の一つはルールの急変である。世界がつながったため、新興勢力が新たなルールを持ち込むと、それがあっという間に広がってしまう。オープン化への反動として、グローバルな商取引ルールを一夜にして覆す意思決定を下す国家もある。
米アマゾン・ドット・コムが参入することで事業領域のルールが変わってしまい、既存のプレーヤーが駆逐される。いわゆる「アマゾンエフェクト」はインターネットによって世界の消費者と生産者がつながったことによってもたらされた。リアルな書店、CDショップ、玩具店、衣料品店などはアマゾンによって多大な打撃を受けた。アマゾンは次に薬局を狙い、さらに金融サービスに乗り出すのではないかと見られている。
・ルールを恣意的に変える典型例が2018年、世界の関心を集めた米中の貿易戦争だろう。
・日本の産業界にとっては米国の自動車関税の行方が関心事だが、一企業にとっても世界のオープン化とルール急変は様々な形で影響する。金余りの中国企業に取引先がいきなり買われる。長年の付き合いの発注先がより良い条件を出した米国企業の傘下に入ってしまう。
<日本素通り>
<お金も技術者も日本に来ない>
・ところが中国企業が力を付けてくるにつれ、試作の段階から中国側が受注する動きが顕著になり、日本企業はバイパスされつつある。
さらに、ここへ来て中国側の技術競争力が高まり、開発自体を中国で進め、一部の業務をシリコンバレーに発注する逆転現象がみられるようになっている。
中国でコンピュータサイエンスを学んだ優秀な学生がシリコンバレー企業に就職、その後米国で独立、起業したり、中国に戻って企業し、シリコンバレー企業と連携したりするといったことは当たり前になった。さらに米国の優秀な学生が中国のIT企業に入ることもしばしばある。
<製造業のデジタル化遅れ>
<日本の強みを維持できるか>
・日本の産業界を見渡すと依然として世界に通じる競争力を保持しているのは、自動車やエレクトロニクス部品など製造業である。中国や韓国に追い越された製品も多いが、品質や機能の点で日本の製造業にしか作れない物はまだまだある。
だが、電子商取引が席巻した流通業や金融業のように、製造業も「デジタル化」の動きが世界中で出てきている。そこでいうデジタル化とは製造業全体の変革という大きな概念を表しており、従来の手法や仕組みにデジタル技術を取り入れることに留まらない。
・日本の製造業の場合、中小企業と呼ばれる企業がほとんどを占める。こうした多くの企業を動かさない限り製造業全体のデジタル化は望めない。だが、多彩なデータを利用しながら製造業の仕組みを進化させるIT基盤を導入するための必要な資金や人材を中小企業はなかなか確保できない現状がある。
・この変化に追随できないと、競争の舞台に上がることすらできなくなり、日本の製造業が衰退していくことになりかねない。そうまでならなかったとしても、日本以外の国や地域に有利なビジネスの仕組みができ上ってしまうと、日本企業が市場で有利なポジションを獲得するのは格段に難しくなる。
<海外進出暗転>
<二重課税など進出先が勝手にルールを適用>
・日本企業にとって国内市場に留まらず海外市場に進出して事業を拡大するのは長年の課題であり、多くの企業が挑戦してきた。世界販売台数の半数をインド市場で売るまでになったスズキのような例があるものの、様々な難題に直面して撤退に追い込まれた企業も死屍累々、といった状況である。
・これら新興国へのインフラ輸出で悩ましい問題となってきたのが、外為取引、制度・許認可の変更、資産の接収、政治暴力、政府・政府機関の契約違反といったポリティカルリスクである。ここでもルール急変が起きている。
特に近年増えているのが契約違反だ。例えば、インドに進出した企業の多くが土地収用に関わる契約違反に直面している。
・こうした事態が起こる原因として、政権交代のたびに前政権の実績を全否定する傾向があること、汚職の蔓延、役人の契約概念や実務能力の欠如、などがあり、根は深い。
・グローバル化を進める日本の製造業がもう一つ直面しているのが二重課税の問題である。
・移転価格税制とは、親会社と海外子会社など関連企業間の取引を通じた所得の海外移転を防止するため、この取引が通常の第三者との取引価格で行われたものとみなして所得を計算し直し、実態と乖離している部分に課税する制度だ。この制度はもともと、グーグルやアマゾンといった米国のグローバル企業の大がかりなタックスプランニングスキームに対抗するために設けられた。米国グルーバル企業は当該国で上がった利益をタックスヘイブン(租税回避地)に移転し、節税している。
しかし、日本の製造業の場合、そうした意図はなく適正な取引をしていても、移転価格税制を盾に法外な税金を要求されてしまう。
<重要インフラへのサイバー攻撃>
<どこから攻撃されるか分からない>
・2017年5月頃から世界数十ヵ国で猛威を振るったランサムウェア「ワナクライ」によるサイバー攻撃は従来とは異なる脅威を企業や社会に見せ付けた。
ランサムウェアは脅迫型ウイルスとも呼ばれ、感染したパソコンやサーバーといったコンピュータのデータを勝手に暗号化し、暗号解除キーと引き換えに対価を要求する。データをいわば人質に取った身代金の請求である。
・日本政府はサイバー攻撃を受けた場合に企業活動や国民生活への影響が大きい十四分野を「重要インフラ」に位置付け、警戒を強めている。
・重要インフラへのサイバー攻撃の実行主体としては、政治的な主張を持ったハッカーを意味する「ハクティビスト」、テロ集団、対立する国家などの関与が疑われるケースが多い。ミサイルのような射程距離がないサイバー攻撃は、世界中どこからでも標的に攻撃を仕掛けられる。
・2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会を控える日本は今後、ハクティビストやテロ集団による示威的なサイバー攻撃の標的にならざるを得ない。2012年のロンドン大会、2016年のリオデジャネイロ大会では、公式サイトなどへのサービス妨害攻撃が多発、2018年のピョンチャン冬季大会では国連組織に対する標的型攻撃も行われた。東京大会の場合、社会インフラを狙ったランサムウェア攻撃などが加わり、テロリストや犯罪者がサイバー攻撃の技を競い合う場になる恐れがある。
<ビジネスメール詐欺>
<組織のお金が電子メールでかすめ取られる>
・上司から「至急対応してください」という見出しのメール。本文には「○○社の○○さんからのたっての依頼で、海外の提携先企業と緊急でプロジェクトを始めることになりました。1600万円の業務委託料をこの口座ヰに振り込んでください。申し訳ないですが急ぎで」とあった。
○○社は得意先で○○さんのこともよくよく知っている。指定された振込先口座がいつもと違うが、急ぎのことだったので振り込み手続きをした。ところがそのメールは偽のもので依頼は詐欺だった。
こんな事件が2015年頃から急増している。ビジネスメール詐欺と言われるこの犯罪は、攻撃者が取引先や自社の経営幹部を装って電子メールを現場の担当者などに送り、攻撃者の口座に入金を促し、資金をかすめ取る。
・日本国内でも高額な被害が確認されている。2017年12月には日本航空がビジネスメール詐欺の被害に遭い、合計3億8千万円が奪われたと公表した。
・ビジネスメール詐欺の手順は次のようになる。まずウイルスメールなどを社員に送り付け、企業のサーバーに侵入するためのルートを確保する。業務メールを盗み見て、過去にやり取りされたメールの本文や契約書を手に入れる。メールや契約書を参考にして本物であるかのようなメールを作成し、それを担当者に送って攻撃者が用意した口座への入金を促す。
取引先とやり取りしている間に割り込んで偽の口座に振り込ませる。弁護士や顧問など社外の権威者になりすます、といったケースもある。詐欺の準備のために、同じ手順で従業員情報を盗む場合もある。
・情報セキュリティ分野の情報収集と発信を手がけるIPAセキュリティセンターは「ビジネスメール詐欺という事件が発生していると知ること自体が大切」と助言する。その上で通常と異なる依頼が来た場合、依頼者本人に電話で確認をとる、または社内の第三者に確認を依頼する、といったことを徹底する。併せてコンピュータウイルス対策などの基本的な対策も促す。
<真似される、真似する>
<どこから訴えられるか分からない>
・インターネットを通じて流れる情報が爆発的に増え、知的財産権に関わるトラブルが生じている。自分たちの製品や作品を真似されてしまう。あるいは知ってか知らぬか、他者の製品や作品を真似したり、他者の知的財産を誤用したりする。
前者はこれまで特許権に基づいた「技術」の模倣が多かったが、近年はそこに「デザイン」が加わった。
・意匠登録をすれば必ず模倣問題が防げると言うわけではないが、デザインを重視した商品を販売している場合、国内のみならず海外も含めた国際意匠出願が必須になっている。
・知的財産権を巡っては、真似されるだけではなく、意図的ではないにしろ真似してしまう恐れがつきまとう。それは金銭的にも、金銭に換算できないブランド価値の損失という意味でも、大きな悪影響を与える。
<GAFA落日>
<栄枯盛衰、ITの覇者は弱る>
・「ルール急変」のところで述べた通り、オープン化は「その影響を嫌う勢力から揺り戻しの圧力を受けつつある」。インターネットで人々がつながる世界で巨大化した、「GAFA」と呼ばれる米国企業4社に対する反動が目につき出した。
特にグーグル、フェイスブック、アマゾンはインターネット上で利用者がどのような行動をしたか、閲覧や投稿、購買の履歴を記録している。世界経済フォーラムが「パーソナルデータはインターネットにおける新しい『石油』になる」と予想した新資源を手に入れた。
<GDPR(一般データ保護規則)>
<データ保護がもたらす分断>
・EUは2018年5月25日からGDPR(一般データ保護規則)を施行した。目的はEU域内の個人・住民が自身の情報をコントロールする権利の確保。言うまでもなく、GAFAのような米国勢、台頭する中国のネット企業に、EU域内の個人データという「石油」が流出することを防ぐ狙いがある。
<ネット経済への無理解>
<分かっている人は誰か>
・このように米国とEU、そして中国を支え、新たな石油を巡る競争がインターネット上で繰り広げられているが、ここでも「日本素通り」の恐れがある。そもそも日本企業はインターネット・エコノミーを理解しておらず、法規制への遵守は別として、戦略的な対処をしていないという指摘がある。
<開社力の欠如>
<守りの意識が強すぎる>
・社会が成熟し、ニーズの多様化が進んだことで、企業の継続的な成長、あるいは業績維持が難しくなっている。単一の商品やサービスをマス市場に販売できなくなってきた。従来と同じモノやサービスを提供しているだけでは顧客は離れていってしまう。
・新たな価値を生み出すには、こうした元々あまり接点がなかった業界同士が同じ目的のために協調していく必要がある。それには社外に門戸を開き、外部と積極的に連携することで複雑な問題の解決を目指す「開社力」が欠かせない。
・こうした状況に陥ると業績が伸び悩んでも斬新な対策を打ち出せない。ディスラプティブな(破壊的な)プレーヤーが登場し、市場を奪っていくのを、指をくわえて見ていることになる。業界あるいは海外の動向をつかめなくなれば世界の新しい常識も分からなくなり、ますます乗り遅れていく。
企業組織の「生命力」を強くし、さらなる成長を目指すには、社外に求める技術やノウハウと自社で持ち続ける技術やノウハウを明確に区別するとともに、スピード感をもって効率的に社外の力を取り込むことと、そのための意識改革が欠かせない。
<企業メディア炎上>
<ネット時代の新たな落とし穴>
・ネット社会においてはウェブサイトや企業SNSなど、自ら情報を発信できる、いわゆるオウンドメディアの重要性が高まった。同時にネット社会ならではの「炎上」という事態が頻発しつつある。
・とはいえ、情報発信の目的の一つはネット上で話題となりSNSなどを通じて拡散してもらうことにある。いわゆる「バズらせたい」ということだ。そのため情報発信の担当者、広告担当者はある程度エッジの効いた内容を発信していかざるを得ない。それが行き過ぎると炎上してしまう。
ネット炎上によって企業ブランドにダメージを与えたとしても、業績に大きな影響を与え、経営者の責任が問われる事態にまで発展することは今までそれほどなかった。だが、それは変わってくる。
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