リアルに人や組織を動かすための方法論や、目の前の生々しい安全保障と経済がどのような関係にあるのかという、「地政学」ならぬ「地経学」的な発想のことなどです。(1)

(2025/4/8)

『経営学では学べない戦略の本質』

折木良一  KADOKAWA 2017/12/1

<はじめに>

・自衛隊の役割が変化していった背景には、もちろん、日本という国が世界で果たすべき役割の変化があります。さらにその背景には、その世界自体が、かつての常識では考えられないような変貌を遂げている、という現実があることを見逃すわけにはいきません。

・世界経済のグローバル化やコネクティビティ(相互接続性)が進んだ結果、考えなくてはならない要素が飛躍的に増大し、そのなかで競争に勝ち抜くためには、以前よりもより「戦略性」が求められる時代になったのではないか、と思います。

 そうした戦略性が求められるのは、もちろん自衛隊だけではありません。企業も同じはずです。以前に比べて日本企業は、国外のマーケットを強く意識するようになっています。グローバル展開に生き残りをかける企業の戦略にこそ、世界の変化の潮流を踏まえた戦略性が求められるのは、いうまでもないでしょう。ビジネススクールで教えられているような経営学は、そうした戦略を日夜研究しているはずです。

・じつは経営戦略の考え方自体が、そもそもは軍事戦略の考え方を応用して発展してきたものだからです。もしかするとビジネスパーソンにとっては、その事実自体が驚きかもしれません。

・たとえばそれは、戦争のような局限ともいえる状況に置かれたなかで、きれいごとではなくリアルに人や組織を動かすための方法論や、目の前の生々しい安全保障と経済がどのような関係にあるのかという、「地政学」ならぬ「地経学」的な発想のことなどです。

 あるいは、自衛隊がきわめて重視しているのは、徹底的に相手と戦うために「休む(専門的な言い方では「戦力回復」といいます)」「身体を鍛える」ことですが、こうした視点を組み込んでいる戦略実行のための基礎的要素をあまり見かけたこともありません。

・それは、自衛隊の戦略とは「絶対に負けてはいけない」という目標に基づいて構築されていることです。もちろん、企業戦略にしても、その他の戦略についても、「負けてもかまわない」ということを前提にした戦略などありません。

<なぜ経営学では「戦略の本質」を学べないのか――巷の戦略論が見落としている5つの視点>

<世の中で「戦略」はどう定義されているのか>

・そもそも軍事という分野は、そのときの人類が有している知見の最先端の部分が凝縮されています。

・戦略とは「企業あるいは事業の目的を達成するために、持続的な競争優位を確立すべく構造化されたアクション・プラン」とされます。

・言葉を変えて説明するなら、戦略とは、企業の「持続的な競争優位」を確立するための基本的な考え方のことであり、企業は戦略を策定することで、何を行なうか、逆に何を行なわないかという事業領域を明らかにできます。さらには経営資源投入の選択と集中が可能になり、どのような自社の強みを磨けばよいのか、ということがわかるのです。

・そうした激しい環境変化のなかで「特別な価値」を提供しつづけるためには、イノベーションを起こして相対的な優位性を維持する経営戦略を考え、それを自社の経営資源で実現可能な事業計画や、部・課・プロジェクトチームといった現場のアクション・プランに落とし込まなければなりません。そうした計画の最上位に位置するのが、「経営戦略」というわけです。

<「定石」の通じない時代だからこそ戦略が不可欠に>

・まず重要になるのが、経営理念とビジョンです。

・さらには、もはや「想定外」として処理することができないレベルの変動要因が、近年立て続けに起こっていることを、多くの人は感じているのではないでしょうか。

・こうした時代のなかで、「定石」とされていた戦略が通じない、あるいは勝ちパターンと思っていた戦略が一瞬で過去のものになってしまう、という経験を多くの人が味わったことがあるのではないでしょうか。

とはいえ、だから現代においては戦略を立てることに意味がない、といいたいわけではありません。

・「戦略の本質」を考えるうえで、いまの戦略論が見落としがちであるにもかかわらず、どうしても考えなければならない問題を、まずは以下に五つのかたちでまとめたいと思います。

<見落とし① 「軍事戦略」を知らずに「戦略」は語れない>

・先にもお話ししましたが、戦略という言葉の起源は軍事学にあります。そして、経営戦略の多くは、軍事戦略を経営に活用・応用したものです。

・そこで生まれたのが、独自の補給部隊などをもち、個別に独立した作戦を展開することのできる軍事組織である「師団」。

・アンゾフが生み出した有名な概念として、「シナジー」があります。

・さらなる成長を実現するためにどの分野に出ていくべきか、というなかでは当然、「いかに新しい分野の競合と戦うか」が重要な課題となります。

・ウクライナでは2014年に武装勢力が地方政府庁舎を占拠して紛争が始まり、それがロシアによるクリミア併合につながりました。

・先の大戦の影響もあって、日本ではなかなか戦史研究というジャンル自体が認知されていませんが、海外ではメジャーな学問です。

<見落とし② 有事でも確実に戦略を実行する方法論がない>

・すなわちそこにおける理論とは、あることに対する成功事例と失敗事例をベースにしながら、そのなかで「普遍的な部分」を体系化し、いわば「形式知」として言語化・理論化・フレームワーク化したものである、ということです。

・「形式知」として言語化・理論化できない要素がもっとも重要になるのは、つくった戦略をどう実行するのかという「戦略の実行」のときではないでしょうか。

<見落とし③ 地政学・地経学的リスクへの感度が低い>

・毎年、必ず起きる地政学的リスクの衝撃が経営を襲った場合、あるいはコンプライアンス違反などの企業不祥事が発覚した場合、企業はマスコミ対応を含めた危機に突入します。そこでかじ取りを一つ間違えば、倒産といった最悪の事態も考えられるでしょう。

・しかし、これも経営環境の変動要因になった立派なリスクと捉えるべきです。そう考えれば、経営戦略の策定にあたっては「想定外」のリスクが起きることこそ想定すべきであり、ビジネスパーソンこそ目前の生々しい安全保障について、経営と結びつけて語ることのできる知見を有しておくべきではないでしょうか。

・グローバル化したビジネスの世界と同様、国家安全保障も世界の隅々がつながり、それが複雑に絡み合うかたちで「想定外」が起こりうるのです。そのリスクを少しでも減らすためには、いまの世の中がどんなかたちでつながっているのかという認識が欠かせません。

<見落とし④ 日本人の「集合的無意識」を自覚していない>

・ビジネス誌では日本企業の海外戦略が語られ、いかに世界に足場を築き、市場を広げていくのか、という議論がやむことはありません。

 そのためにはもちろん、海外支社で現地採用を行なったり、外国人を幹部として招くことが必要になります。すでに1960年代以降から、日本企業は事業の国際展開を積極的に実施しました。

・こうした多様な国の文化や人々の行動様式をどうマネジメントするのか、ということが事業の国際展開における非常に重要な経営テーマとして70年代あたりから注目を集めるようになってきたのである。

 そうした経営課題を背景として、各国の国民性を定量的に測定し、指数化しようという試みも現れました。

・価値観や行動様式が似た国民性の国では、同じようなマネジメントスタイルや人事制度が通用しやすい半面、異なる国民性の国に進出する場合は、人事制度に加えて、上司と部下のコミュニケーションのとり方までを変える必要があります。

・しかし、カネと並んで重要な経営資源であるヒトのマネジメントの段階では、人事制度、評価制度、報酬制度を各国共通にユニバーサル化する試みはほとんど頓挫せざるを得なかった。

・自衛隊を率いて他国の軍隊と共同訓練を実施するなかで痛烈に感じたのは、私たち日本人の行動に暗黙のうちに影響を与えている「集合的無意識」、つまり、個人的な意識の領域を超えた、民族、集団、人種など人々の集合がもつ無意識が、いかに強固なものか、ということでした。

・そのなかでも、もっとも堅固な「集合的無意識」というバイアスをも相対化して認識しなければ、ほんとうの意味でのグローバル化を実現することはできません。そして日本人の「集合的無意識」は、他国に比べてもきわめて特異なものである、と私は国境を越えた仕事をするたびに感じてきたのです。

<見落とし⑤ 「戦力回復」で生産性を上げる視点がない>

・誤解を恐れずに申し上げれば、現在の企業経営とは、どのような戦略を実行することでいかなる成果を手にするか、ということに主眼が置かれているように思います。そこで戦略を実行する人たちはつねに一定のモチベーションを保ち、いくら働いてもパフォーマンスが落ちないという、「つねに人は合理的な行動をとる」というモデルのような存在として位置づけられているのではないでしょうか。

・そこで重要なのは、十分な休息・休養をとって鋭気を養うことであり、戦略実行のためには「戦力回復」という視点が入っていなければ、どんなに素晴らしい戦略をつくったところで、中途半端にしか機能しません。

・しかし、実際にビジネスの現場で戦いを続けている人たちは、こうした「戦力回復」の重要性を直感的に理解しているのではないかと思います。

・「100の判断をしたら、その100を絶対に間違えないつもりで全身全霊を傾けてきた。会社を救うためには、判断を間違えるわけにはいかなかったからだ。そうやって毎日仕事をしていると、本当にヘトヘトになる」

・仕事にとって重要な認知機能に、『ワーキングメモリ』がある、なにかを覚えながら、作業をしながら、別のことに取り組んでいく機能である。

・自衛隊は、この「戦力回復」という視点を絶対に欠かさない組織になりました。2011年の東日本大震災の災害派遣においても、発災約2週間後の3月下旬から逐次、陸上自衛隊を中心とした「戦力回復」対策を実施しました。

・戦力回復センターでは、睡眠、食事、休養に加えて、家族支援や厚生、衛生・健康管理、そしてメンタルヘルスも実施しました。

・そうした「戦力回復」のおかげもあって、体調不良などで災害派遣から脱落した自衛官はごく少数にとどまりました。

<戦略に必要なすべては戦史が教えてくれた Ⅱ――ミッドウェー海戦、ガダルカナル作戦>

<「戦略目標の統一」の大切さをミッドウェー海戦に学ぶ>

・この敗北から、私たちは何を学べるのか?戦略目的を統一すること、さらにはそれを徹底して現場に指示することが戦略を実行する要諦である、というのが、その最大のメッセージではないかと思います。

<「出口戦略」を含めた全体構想がなかった日本>

・当時の日本海軍の基本方針は、広大な太平洋を挟んだアメリカ艦隊を少しずつ撃破し、日本近海での艦隊決戦によって、一気に撃滅するという「漸減邀撃(ようげき)作戦」でした。

・そもそも当時の陸海軍の出口戦略は、まったく異なったものでした。

・出口戦略を決めることは入り口戦略よりもはるかに考えるべき要素が多く、その実行にも困難が伴いますが、その困難を乗り越えていかに戦争を終結させるかを決定・実行できるかどうかが、国家の明暗を分けるのです。そうした出口戦略も含めて、当時の日本には明確な全般構想がなかった、といわざるをえないでしょう。

会社で譬えるなら、そこで存在していたのは、事業部別のバラバラな事業戦略・戦術だけでした。そこには中長期的な経営の基本方針も、会社戦略も存在しなかったのです。

<目的が「二重」だった日本軍、優先順位の明確な米海軍>

・それにもかかわらず、なぜ日本軍は完膚なきまでに叩きのめされたのでしょうか。『失敗の本質』でも指摘されているとおり、その敗北の最大の要因は、ミッドウェー海戦の目的の「二重性」です。

・二つの戦略目的を同時に並べる失敗は、経営の世界でも同じではないでしょうか。営業戦略としてシェアをとりにいくことと、収益力の向上は、ときに矛盾します。

・そうした事態を避けるためには、やはりまずは主目的を定めるしかありません。

・戦略目的の不明確さや不徹底は、戦況が苦しくなればなるほどに、現場の作戦に致命的な影響を及ぼすということを、この戦例は教えてくれるのです。

<「米空母出撃」の情報は無視され、現場に届かなかった>

・対する日本海軍も、ミッドウェー海戦前の無線探知によって、米空母出撃の確証を摑んでいましたし、海戦前夜には、旗艦大和の傍受班が米空母らしき電波を傍受しています。ところが、この貴重な情報は軽視されていたか、あるいは黙殺され、現場で共有されることがなかったのです。

<「ガナルカナルとは、帝国陸軍の墓地の名である」>

・太平洋戦争における海戦のターニング・ポイントがミッドウェー海戦ならば、陸戦のターニング・ポイントとなったのが、ガナルカナル作戦です。

・ガナルカナル作戦の失敗は、適切な時期、場所に戦力(経営資源)を集中することが、作戦でも、経営でも共通して重要であることを教えてくれます。

・ジャーナリストであった伊藤正徳は「それは帝国陸軍の墓地の名である」と書いています。ミッドウェー海戦によってアメリカ優位に傾いた戦局ですが、ガナルカナル作戦以降、その趨勢はさらに確固たるものになったのです。

<勝負どころでの「戦略の逐次投入」がいかに愚かなのか>

・ガナルカナル作戦におけるもう一つの教訓は、1942年8月から翌年2月までのあいだに、一木支隊、川口支隊、青葉支隊、第2師団、第38師団と、陸軍戦力を逐次投入したことです。この逐次投入こそ、ガナルカナル島が日本にとって戦略的にいかに価値をもっているかを認識できなかった甘さを示すものにほかなりません。

<徹底して実力・成果主義を貫いた米軍のしたたかさ>

・さらにいえば、日本で戦術レベルの戦い方が進化しなかった遠因として、実力・成果主義の人事が行なわれていなかったことも大きかったのではないでしょうか。

・その一方、米軍は実力・成果主義の人事を徹底しました。

<「きれいな戦略」だけでは、人も組織も動かない――自衛隊式「IDA」サイクルと現場の士気の高め方>

<「相手を知る」のに不可欠なのは「相手の立場で考える」>

・付け加えるならば、戦略についてはとくにその実行に際し、リーダーの資質が大きく関係してくる、ということもお伝えできたのではないでしょうか。

・軍事戦略・作戦を立てるときに自衛隊がまず行なうのは、現状認識のための「情勢見積もり」です。

<「情報」をどう手に入れるかこそ、自衛隊の生命線>

・とはいえ、「情勢見積もり」の情報とは、ただ集めればよいわけではありません。そうして集めた情報資料について、当然ながら自衛隊は取捨選択を行なっています。

<戦略立案で決定的に重要な「情報」と「作戦」のバランス>

・じつはこの「情報」と「作戦」のバランスこそ、戦略を考えるうえでは決定的に重要であることを、重ねて強調しておきたいと思います。

<なぜ私は原発に対してヘリコプター放水を命じたか>

・さて、こうして「情報担当」と「作戦担当」のオプションが出揃ったところで、そのなかで最良のオプションとは何か、ということが徹底的に議論されます。その議論の結果を踏まえて、最終的な意思決定を指揮官が行なうのです。

・日本国民ひいては日本という国を守るためには水をまかなければならない。あの程度の量の水をまいたところで意味があるのかと揶揄されましたが、当時は原発の暴走を止めるためにできることは何でもしなければならない、という状況でした。

<「PDCA」とは以て異なる、自衛隊の「IDA」サイクル>

・こうして自衛隊の戦略立案手順を概観したとき、それがビジネスの世界でいうPDCAに似ている、と思った方も多いでしょう。しかし自衛隊の戦略立案手順が一般的なPDCAと異なるのは、先ほど申し上げた「情勢見積もり」の部分です。

・とはいえ、実際の場面においてはそのサイクルは簡単には回りません。試行錯誤の連続です。

・そこで重視しなければならないのは「IDA」サイクル、いわゆる情報、決心、実行サイクルだと思います。

・「IDA」サイクルに似たような考え方として、米軍には「OODA」サイクルと呼ばれるものがあります。まず相手をよく観察し、状況を判断して方向づけを行ない、決心して、行動するというサイクルのことです。

<いかなる組織においても、戦略を実行するのは「人」である>

・「このようなモデルや理論はいずれも職場から人間性を奪うものであり、そういう意味では図らずも効果を発揮したと言えるだろう。従業員は使い捨ての機械よろしく最大限まで酷使され、一人ひとりの個性も才能も埋もれたまま終わってしまう」

なぜそうなるのか。答えは簡単です。いかなるビジネスにおいても、あるいは軍隊という組織においてすら、それを実行するのは、結局は「人」であるからです。「企業がさまざまなモデルを導入し、数値データに従って意思決定を行っても、期待していたような効果は決して得られない。なぜなら、ビジネスは理屈どおりにはいかないからだ。人材はビジネスの一部分ではない。人材なくしてビジネスは成り立たないからだ」

<中間管理職は「抵抗勢力」化させずに躍らせよ>

・自分自身の経験を思い浮かべても、上級リーダーが積極的に主導し、それを理解したミドルが自発的に動いたからこそ、組織の変革が一気に進んだ、という例には事欠きません。それは「統合運用体制への移行」においてもそうでした。

<折木流・人と組織をほんとうに動かす「5つの原則」>

・自衛隊という組織は危険を顧みず、事に臨むと同時に、最悪の事態にも備えなければなりません。この点が他の集団組織との大きな違いです。

・力のいることですが、忍耐もリーダーシップの一つです。これらをあえて五つに整理してみれば、以下のようになるでしょう。

① リーダーの使命感と情熱が部下との信頼関係を築く

② 達成すべき任務の重要性・意義を認識させる

③ 話を聞いてやる

④ 現場のことは現場に任せる。そして権限を与える

⑤ 指導は「性善説」で行なう

<ビジネススクールにはない「地経学」の授業――「地政学」を超える最新理論がビジネスに教えること>

<相手の「能力」と「意志」だけに基づく判断の危うさ>

・戦略立案において、「相手を知る」とき、仮想敵国や競合他社の「能力」と「意志」を見極めることが重要であると述べました。

・つまり、相手の能力と意志から、その相手がとりうる戦略と、彼らの打ち手によって自分たちが被るであろうリスクを判断しながら、負けないための戦略をつくりあげるわけです。

 とはいえ、相手の能力と意志を過剰に意識したままで状況を判断すると、結果的にひどい過ちを犯すことがあります。なぜでしょうか。それは相手の能力と意志もまた、いま置かれている世界の「基盤的環境」に大きく影響を受けるからです。

<なぜ現代はテロや紛争が頻発するようになったのか>

・地政学とは、「国家が行なう政治行動を、地理的環境、条件と結びつけて考える学問」といえるでしょう。

・地政学的リスクの二大要因は、「テロの脅威」と「地域紛争の勃発」といわれます。

・そうした意味で、対テロ戦争における最大の「不安定要素」は「破綻国家」でしょう。とくに中東で統治能力のない、あるいは統治能力が低下している「破綻国家」が増大しているからこそ、そこに「力の空白」が生まれて、テロ組織が入り込む隙が生じるのです。

<日本企業の「地政学的リスク」への意識は突出して低い>

・しかし、それが企業で真剣に議論されるようなことは、それほど多くないのではないでしょうか。その結果かどうかはわかりませんが、日本企業には地政学的リスクに対する意識がそもそも欠けているように思われます。

<「タテマエ」世界の崩壊がトランプ大統領を誕生させた>

・SNSなどが市民の手に渡った高度情報社会では、そうしたホンネが猛スピードで拡散し、社会にポピュリズムが充満します。移民問題、人種問題、宗教問題、経済格差に取り組もうとすると、自己中心主義の自国・自国民ファーストの政策が好まれ、タテマエの世界で成立していた既存の制度、システムが壊れて、社会が不安定な状態に陥ってしまう。

 それがアメリカのトランプ大統領の誕生や、イギリスのEU離脱などの原動力となったことは、いうまでもありません。

<「主権国家」ではなく「サプライチェーン」がつくる新秩序>

・認識しておくべきは、すでに世界はこうしたサプライチェーンによって「つながっている」という事実であり、それが基盤的環境になっている、ということです。

<「地経学」で中国の進める「一帯一路」を分析すると……>

・こうした基盤的環境のなかで、地政学よりもさらに重要になってくるのが「地経学」という概念である。

・「地政学」が「国家が行なう政治行動を、地理的環境、条件と結びつけて考える学問」であったのに対し、「地経学」とは、「地政学的な利益を、経済的手段で実現しようとする政治・外交手法」と定義づけることができるでしょう。

<「平和的協力」の裏に見え隠れする中国のホンネ>

・しかしもちろん、「一帯一路」には経済的側面だけではなく軍事的側面も存在します。

・すでに中国は現在、軍事拠点として有力な港湾であるパキスタン、スリランカ、マレーシア、ジブチなど、いわゆるインド洋の「真珠の首飾り」を中心に港湾建設を進めるとともに、積極的な寄港を行なっています。

<単眼ではなく複眼的・統合的に物事を見る重要性>

・中国の海洋進出という事実一つとっても、それは経済的にも、政治的にも位置づけられるような出来事であり、複眼的・統合的に見なければ、その出来事が現代社会においてどのようなインパクトを生み出すのかを計り知ることはできないのです。

<韓国のTHAAD配備と中国の報復も「地経学」の典型だ>

・しかしこのTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備について、中国とロシアはその本来の目的は北朝鮮ではなく中露を対象にしたものだ、と強く反発しました。

<日本人としての「集合的無意識」を自覚しよう――「他者への甘え」を脱しなければ真の国際化は図れない>

<安保や経営にも関係する日本人の「他者依存性」>

・つまり、日本人のすべての行動やコミュニケーションには、「相手に気を使って優しく接することで、周囲の人に好意をもってもらいたいという他者依存」のバイアスがかかっている、といえるでしょう。これが日本人の安全保障観に大きくつながっていることは、いうまでもありません。

<ウィラード司令官との協議で痛感した日米の違い>

・そこで痛烈に感じたのは、日本とアメリカは立場や戦略眼の異なる国である以上、それぞれが重視する国益がある、という当たり前の事実でした。

<「アメリカは日本を見捨てたのか」という声は甘えそのもの>

・大局から世界の平和と安全、繁栄を考えているアメリカと、自国を中心にせいぜいアジアまでしか視野に入れない日本とのギャップは、軍事だけでなく、政治の世界でも同様です。

<日本人は「ハイコンテクスト文化」の中に生きる民族>

・しかし、「集合的無意識」が異なる人たち同士のコミュニケーションをとる、あるいは「集合的無意識」が異なる国家や地域のマーケットを開拓する、という際には、私たちはさらにその「無意識の違い」に自覚的になる必要があるのではないでしょうか。

・自然国境と、人工的な政治的国境と、文化・言語・民族、それが完全に一致して、一国を形作って来たという歴史は、世界中で日本だけが持つ特色である。

・「ハイコンテクスト文化」とはコンテクスト(文脈)の共有性が高い文化のことで、意味を伝えるための努力をせずとも相手の意図を察し合い、なんとなく意思疎通が図れてしまう環境のことを指します。とりわけ日本は先進国のなかでももっとも、ハイコンテクストの傾向が強い。

・例が挙げればキリがありませんが、たとえば2000年代に入って、中国市場の巨大さ、安価な人件費に惹かれ、多くの日本企業が中国へと進出しました。そこで中国リスクに対する甘い見立てや以心伝心を期待して、結果的には工場撤退や合弁解消などに踏み切らざるをえなかった企業が相次いだことは、これまで報道されてきたとおりです。

<なぜアメリカ企業は文化人類学者を雇うのか>

・実際に、すでに欧米の一部では、企業では、企業戦略を構築するときに、文化人類学者の知見を取り入れることがある、といわれます。

<「休む」ことで戦略の成功確率は上げられる――自衛隊が震災時に行なった「戦力回復」の真髄>

<睡眠時間の長短はパフォーマンスに大きく影響する>

・自衛隊の「戦略」が企業をはじめとする組織の「戦略」ともっとも異なるところは、「絶対に負けてはならない」ということではないでしょうか。

もちろん、いかなる戦略もその本義は、勝負に「負けない、勝つ」ためです。しかし自衛隊の戦略は、負ければ「日本が滅ぶ」。そうした極限状態を想定した戦略において、何が重要となるのか。

・しかし、絶対に勝負に負けないためにも、「休む」ことによってその戦いを継続するという意識が必要なのです。

・さらには、たんに「休む」だけではなく、本章では「心身を丈夫に保つ」ということにも焦点を当ててみましょう。

・自衛隊は、「人は疲労し、疲労が人のパフォーマンスを低下させる」ことを前提として日ごろの訓練を行なっています。

・社員一人ひとりが十分な睡眠時間を確保し、適切なタイミングで休日・休息をとれるように配慮することは、組織として最大限のパフォーマンスを発揮するための環境整備の一環ともいえるでしょう。睡眠は、じつは仕事そのものなのです。

<人がある日、突然「折れる」原因は「遅発疲労」>

・阪神・淡路大震災にせよ、東日本大震災にせよ、発災直後の「人命救助・捜索活動は、いわば人海戦術で行わざるを得ないので、隊員が疲労困憊の極にあっても、非情であっても活動の継続を命じざるを得ないが、生活救援活動は、人命救助活動に比してそれほどのマンパワーは必要としない」

・下園氏は疲労の蓄積レベルを以下の三つに分類しています。

 第一段階=ぐっすり一晩眠れば、疲れがとれる。

 第二段階=イライラし、不安になりやすい。同じ出来事でも疲れやすさが二倍になり、回復にも二倍の時間がかかる。

 第三段階=心身に「病気」の症状が現れる。元気なときより三倍傷つきやすく、疲れやすい。回復にも三倍の時間がかかり、そのあいだに次のショックが重なりやすくなる。

 大震災の災害派遣のような、ご遺体の収容・搬送を伴うショッキングな現場を経験した自衛官のなかには、少なくとも「第二段階」まで疲労の蓄積レベルが上がっている人がいる、と考えるのが普通です。

・遅れてやってくる疲労について、下園氏はそれを「遅発疲労」と呼んでいます。

<戦略は「一発勝負」でないからこそ「戦力回復」が必要に>

・巷に溢れる戦略指南書のほとんどが、下園氏がいうところの、一晩眠れば疲れがとれ、もちうる最大のパフォーマンスを発揮できる「第一段階」の人を想定して書かれているのではないか、と感じられるのです。

・しかし、現実の組織は違います。「第二段階」「第三段階」にまで至っていて、蓄積した疲労が回復しないままパフォーマンスの落ちた状態で仕事に取り組んでいる人が、社内には少なからずいるのではないでしょうか。

・私が災害派遣に限らず、自衛官の蓄積疲労の解消をなぜ強調するかといえば、彼らには国防という、絶対に負けることが許されない継続的な任務が待っているからです。

・彼らは災害派遣を終えたあと、再び国防の任務や訓練に勤しむことになります。その際、遅発疲労でパフォーマンスが低下してしまうようでは、極端にいえば日本国が消滅してしまう可能性を高めることにすらなりかねません。

・企業も同じでしょう。疲労蓄積した人材を多く抱えた状況を放置しておくと、長期的なパフォーマンスは必ず低下します。

・だからこそ、「人は疲労し、疲労が人のパフォーマンスを低下させる」という前提に立ったうえで、組織のパフォーマンスを維持する最大限の努力、つまり「戦力回復」を戦略的に行ない、「第二段階」以降の人でも戦略を実行できるよう、スタッフの疲労をつねにコントロールすべきなのです。

<「三つの自信」を備えて疲労の蓄積を抑えよう>

・東日本大震災の災害派遣では、メンタルヘルス以外にも、阪神・淡路大震災の災害派遣では行なっていなかった新たな試みを実施しました。その試みが隊員の疲労度の回復に直接的な影響を与える、という確信があったからです。その試みとは、「家族支援」でした。

・下園氏は「自信」について、以下の三つにそれを分類しています。

 第一の自信=できるという自信、第二の自信=自分の体力や生き方に対する自信、第三の自信=守ってくれる仲間がいる。愛されている、必要とされている自信。

 この三つの自信が、人間の生きる力の根底を支えている、というのです。

<「休む」と同じくらい重要なのは「身体を鍛える」>

・戦略を実行するうえで「休む」ことがいかに重要かを説明してきました。しかしもちろん「休む」だけで強靭なメンタルをつくりあげることができる、というわけではありません。

・人間にとって体調の好不調と、決断力や判断力の強弱は密接に関連しています。であれば当然、ビジネスパーソンはいつも身体を鍛えることを通じて健康に留意しておくべきでしょうし、アクション・プランの実行に支障をきたす病気という「戦線離脱行為」は、できるかぎり避けなければなりません。

・また、運動やトレーニングは、睡眠と同じように、脳によい刺激を与え、神経伝達に物質のバランスを整えてくれます。運動することで交感神経が活性化されると心拍数が上昇し、軽い興奮状態になります。この交感神経優位の時間が増えると人間は意欲的になり、ポジティブな思考になるといわれます。

 さらに、ジョギングやウォーキング、サイクリングといった一定のリズムで身体や筋肉を動かすリズム運動は、心のバランスを整える神経物質のセロトニンの生成を促します。脳内のセロトニン量が増えることによって、心が落ち着いてさわやかな気分になり、集中力も高まるのです。

<「少しストレッチしないとできない任務」がなぜ大切か>

・レンジャー訓練では、メンバー約20人に対してほぼ1対1の割合で教官がつき、さらにその陰で支援するサポーターが大勢、配置されます。メンバーが失神しても教官がすぐに助け、負傷したり、病気になっても教官とサポーターがベース拠点に連れて帰る安全管理体制が整えられています。

・たとえば日々の業務のなかで、少しストレッチしないとできない負荷の仕事を上司が与える、部下なら自らもらいにいくことで、現時点での限界を少しずつ広げていく。

・一部の優秀な人たちは、とやかくいわなくとも自分で実践し、自己の力を高めていける。そこで現場レベルのパフォーマンスの底上げに影響するのは、動機づけ次第で限界に挑戦するかもしれない残りの大半の人たちなのです。

<おわりに>

・「日本地雷処理を支援する会「JMAS」という組織の名を聞かれたことがあるでしょうか。退職自衛官を中心として、2001年に創設された国際協力NGOです。20人ほどの駐在スタッフを抱えるJMASの国際貢献活動は、自衛隊が初めてPKO派遣されたカンボジアの不発弾処理からスタートしました。

・経済発展の足かせになっている地雷・不発弾の安全処理は簡単ではありませんし、子供たちの教育基盤・環境の向上もたやすくありません。それでも子供たちが、「未来」とは、明るく希望に満ちたものだ、と思えるような時代が来ることをめざし、微力ながらJMASがやれることをやっていきたいと考えています。

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