リアルに人や組織を動かすための方法論や、目の前の生々しい安全保障と経済がどのような関係にあるのかという、「地政学」ならぬ「地経学」的な発想のことなどです。(2)

(2024/8/26)

『アメリカの日本改造計画』

マスコミが書けない日米論

関岡英之 イースト・プレス 2006/12/22

<アメリカの「年次改革要望書」の研究  横田一>

<――いま明かされる、マスコミに黙殺された「内政干渉」の全貌!>

・関岡英之のベストセラー『拒否できない日本』で白日の下に晒された、アメリカの「年次改革要望書」。その影響で、日本社会はどう変質していったのか?論客たちの熱気ある発言を読んでいただいた後に、そのアウトラインを、あらためておさらいしておきたい。

<なぜ、石原慎太郎氏は「郵政反対派」に賛同しなかったか>

・「アメリカ政府の『年次改革要望書』に盛り込まれていた郵政民営化は、参議院でいったん否決されたものの、その直後の解散・総選挙で小泉自民党が圧勝し、実現することになった。こんな姿を思い浮かべるといい。アメリカ人がコーヒーを飲みながら、日本をどう国家改造をすればアメリカにプラスになるかを考えている。これがアメリカの属国と化した日本の実情と捉えてまず間違いない」

・郵政民営化で一気に注目された「年次改革要望書」は、日本の政治を読み解くための必読文書と言える。2005年最大の政治イベントだった「郵政選挙」も、この要望書を通して眺め直すと、まったく違った様相が目の前に広がってくる。

・石原慎太郎東京都知事の「日本よ」のことである。

 ここで石原知事は、関岡英之著『拒否できない日本』を読んで愕然とさせられたとして、《この日本に毎年アメリカから「年次改革要望書」なるものが送られてき、日本はそれを極めて忠実に履行してきている》と本の核心部分を紹介、米国による「内政干渉」とも指摘していた。

《靖国に関する中国や韓国からの非難も日本国の芯部に関する内政干渉だが、アメリカのこうした執拗な一方的改革要望も内政干渉以外の何ものでもあるまい。せめて国会はこの事実について国益を踏まえての議論を持つべきに違いない》

・「年次改革要望書」には総選挙の争点となった郵政民営化が盛り込まれており、当然、2005年の通常国会でも「国益を踏まえての議論」が白熱していた。

 たとえば、解散の6日前の2005年8月2日、参院郵政民営化特別委員会で桜井充参院議員は、「年次改革要望書」を紹介したうえで、「民営化というのは、アメリカの意向を受けた改正なのかわからなくなってくる」と小泉純一郎総理と竹中平蔵郵政担当大臣に迫った。

・「去年(2004年)の日米首脳会談でブッシュ大統領から郵政民営化の要請があり、その翌年(2005年)に会談内容に沿う形で郵政民営化法案が出てきた。アメリカが350兆円の郵貯簡保資金を狙っているのは明らかだ」

 要するに小泉総理は「郵政民営化はイエスかノーか」を最大の争点にしたが、反対派(国益擁護派)は「米国迎合(内政干渉)イエスかノーか」という、まったく違う捉え方を示していたのだ。

<隠蔽された郵政民営化の“真の争点”>

・郵政反対派の期待を裏切ってしまった石原知事だが、同情の余地はある。日本のマスコミは、この「年次改革要望書」についてほとんど報道していなかったからだ。

 たとえば、先の桜井議員の質問を報道したのは、五大新聞の中では産経新聞だけだった。

・こうして郵政民営化を進める小泉総理は“改革派”、法案に反対した国会議員は(本当は「国益擁護派」と言える)は小泉改革に抵抗する非国民のようなレッテルを貼られてしまったのだ。

<かくして国民は小泉総理に騙された>

・国益擁護派を非国民扱いにするレッテル貼り(イメージづくり)に大きく貢献し、若年層の自民党支持拡大の牽引車になったのが、広島6区から立候補した堀江ライブドア社長だ。

・この目論見は見事に当たった。小泉総理の脚本通りにマスコミが“刺客報道”に走った結果、すさまじいまでの小泉旋風が吹いた。

<国民の目を真実から逸らさせた「大政翼賛報道」>

・「郵政民営化が小泉人気を煽ったのではなくて、造反した国会議員を自民党から追放したことが圧倒的な小泉人気になった」

・小泉マジックに感心している暇があったら、毎日新聞は、本当に反対派が「古い、薄汚れた政治家」なのかを検証する記事を出すべきではなかったのか。「アメリカの「年次改革要望書」に盛り込まれている郵政民営化法案は、日本の国益を損ねる恐れがある」「アメリカの内政干渉は、日本の国益を損ねる恐れがある」「アメリカの内政干渉を受け入れる小泉政権は売国奴のようなもの」といった反対派の言い分を公平に紹介し、小泉総理の主張とどちらかが正しいかを有権者に多角的に示すべきではなかったのか。

 小泉総理の演出(国民騙しのテクニック)を暴露しないのでは、毎日新聞は報道機関の使命を放棄したとしか思えないが、これが日本のマスコミの平均的レベルだった。

・大政翼賛会的な偏向報道に走ったマスコミこそ、国益擁護派の議員の約半数を落選させ、米国追随の小泉自民党の歴史的勝利の立役者と言っていいのだ。

<そのとき、「愛国派」の産経新聞は何を伝えたか?>

・なかでも情けないのが、日ごろ愛国心を強調する産経新聞だ。靖国参拝や歴史教科書問題で中国や韓国を「内政干渉」と強く批判してきた産経だが、米国の内政干渉まがいの郵政民営化については反対キャンペーンを展開しなかった。中国や韓国は批判してもアメリカには迎合するのでは、二重基準もいいところである。

・「産経新聞は政策選挙ですらないムード選挙の先頭を走ったと言えます。郵政民営化の最大の問題は、日本の庶民が蓄えてきた350兆円の郵貯簡保マネーがアメリカの金融マーケットに流れていくことだ。90年代半ばから始まった構造改革路線の総仕上げが郵政民営化なのです。つまり、日本がアメリカの51番目の州になることに産経は肩入れをしたと言える。この属国化路線と、『よき日本を守れ』という産経の立場は矛盾します。アメリカの51番目の州になって日本の伝統文化を守る――。産経は矛盾多き自己否定の道に踏み込んでしまったと思います」

<「年次改革要望書」とは何か?>

・日本のマスコミがタブー視する「年次改革要望書」は、簡単に言えば、日本をアメリカに都合がいいように改造するための外交文書である。

・なお、「年次改革要望書」は、アメリカの要求を伝える一つの形式の文書にすぎず、ほかにも「規制改革および競争政策イニシアティブ」や「日米規制緩和対話」などの形を取ることもある。

 建前上は、日本からもアメリカに要望する双方向になっているが、日本の要求は些細なものが多く、実質的にはアメリカの恩恵のほうがはるかに多い、“不平等条約”のようなものと言っていい。

 「年次改革要望書」にある対象分野は多岐にわたる。通信、IT、金融、エネルギーや医療・医薬などの個別産業分野に加え、競争政策、民営化、法務制度改革や商法などの司法や行政全般のテーマも含まれる。ただし、目標の法制化を勝ち取るためのプロセスはパターン化している。以下のような三段階のステップを踏む共通点があるのだ。

① まず、「年次改革要望書」を日本側に突きつける

② 次に、その進捗状況を逐一チェックしていき、場合によっては政府首脳が直に確かめる場合もある

③ そして、最終的に実現した成果は「貿易障壁報告書」にまとめて、アメリカ連邦議会に報告する。

・日本の社会や経済に少なからぬ影響を与えたものをいくつか取り上げてみることにしよう。

<【例1】人材派遣の自由化>

・1996年、アメリカは人材派遣の自由化を求めた。すると3年後の1999年、日本政府は労働者派遣事業法を改正し、派遣労働を原則自由化した。

 これまでは非正社員が急増しないように派遣を認める業務を限定していたが、この改正によって、派遣を禁止する業務を、製造業・建設・医療などの一部に限定する方式に転換した。

 さらに2004年には、製造業への派遣労働も解禁された。アメリカの要望に沿って、派遣社員やパートなど非正社員の急増を招いた法改正を行ったのだ。小泉政権の負の遺産である「格差拡大」も、アメリカの内政干渉の産物といえるのだ。

<【例2】大規模小売店舗法の廃止>

・大規模小売店舗法は、大型店の新規出店・店舗などを地域の実情を考慮して調整するための法律だった。大型店に比べて経済力の弱い小売店を守る“防波堤”の役割を果たしてきた。

 しかし、「自由な小売活動を規制している」と主張するアメリカは、1997年に大店法の廃止を要求。これを受けて日本政府は、3年後の2000年に大店法を廃止し、代わりに大店立地法(大規模小売店舗立地法)を制定した。

 その結果、大型店の無秩序な出店が加速し、小売店が営業を停止した“シャッター通り”が増えることになった。都市と地方の格差拡大も小泉政権の弊害の一つと指摘されるが、地方経済の疲弊にもアメリカの要望が関係していたのである。

<【例3】郵政民営化>

・郵政民営化も、お決まりのパターンで法制化された。まず2003年の「年次改革要望書」で、「郵便金融機関と民間競合会社側の公正な競争原理」を名目に郵政民営化が提言された。また翌2004年の「年次改革要望書」でも民営化が盛り込まれた。

 一方、2004年9月1日の日米首脳会談で、ブッシュ大統領は、小泉総理に「郵政民営化の進展はどうなっていますか」と進捗状況を直に訊ねた。

 この期待に、「ブッシュのポチ」こと小泉総理は忠実に応えた。郵政民営化法案は、翌2005年の通常国会に提出され、参院で自民党反対派の“造反”で否決されたが、すぐに小泉総理は解散・総選挙に打って出た。そして自民党が圧勝した翌10月に開かれた臨時国会で郵政民営化法案は成立した。

 多少の紆余曲折はあったものの、結局、アメリカの思惑通りに事は運んだのだ。

<【例4】建築基準法の改正>

・2005年10月に発覚し、翌年の通常国会の大きなテーマとなった「耐震偽装マンション問題」も、「年次改革要望書」と密接な関係がある。

 1997年、「年次改革要望書」に「仕様重視から性能重視への建築基準改正」が盛り込まれた。当時の建築基準は日本在来の工法や建材が前提で、輸入建材の利用が制限されていた。そこでアメリカは、一定の性能を満たせば工法や建材などは自由でいい基準への変更を求めたのだ。これによってアメリカの業者が日本に参入しやすくなるのはいうまでもない。

 翌1998年、アメリカの要望を受けて日本政府は建築基準法を改正した。「仕様規定」から「性能規定」に変更すると同時に、これまで自治体だけができた「建築確認業務」を民間開放したのである。

 アメリカはこの法改正を高く評価した。米通商代表部の2000年度版『外国貿易障壁報告』には、「改正案策定と実施で、アメリカの建築資材供給業者が市場に参加しやすくなる」と法改正のメリットを認め、検査業務の民間開放についても「建築確認の効率化」と歓迎した。

 歴代自民党政権はアメリカの要望を「構造改革」と名づけ、日本の国益にプラスであるかのように説明してきた。しかし、実際には、アメリカの利益になる要求を受け入れたとしか見えないのだ。偽装マンション問題と同じように、小泉政権の属国化路線のツケが出てくるのはこれからだ。

<2005年の「年次改革要望書」の中身>

・2005年の「年次改革要望書」の内容は次の通りである。これは一部にすぎないが、アメリカは自分の都合がいい法改正を評価しつつ、さらなる要望を日本政府に突きつけていることがよくわかる。

<① 電気通信>

・アメリカは、日本が新たに周波数を割り当てて3社に携帯電話市場への参入を認め、競争を促進したことを評価。

<② 医療機器・医薬品>

・アメリカ企業に血液製剤の販売や製造の公平な機会を与える。また、栄養補助食品、化粧品や医薬部外品の販売規制を緩和することも要望している。

<③ 競争政策>

・2005年の独禁法改正に象徴される日本の競争政策の改善をアメリカは歓迎し、独禁法違反摘発する公取委にエールを送ってもいた、公取に新たな権限を与えたり、議員と予算を十分に確保したりするよう求めていたのだ。

<④ 透明性およびその他の政府慣行>

・アメリカは、その地域だけ特別に規制が撤廃される「構造改革特別区域」が全国に拡大することを求めている。

<⑤ 法制度改革>

・アメリカは、外国法務弁護士が日本に参入しやすくするための措置も要望している。

<⑥ 商法>

・アメリカは近代的合併手法の導入や重要な企業再編成を容認する条項を含む2005年の会社法改正を評価。日本の株式会社との三角合併取引における制限の撤廃も求めている。

・なお、「年次改革要望書」は、マスコミではタブー視されているものの、在日アメリカ大使館のホームページで誰でも見ることができる。ぜひ、本書と併せてご覧いただきたい。

『闇の権力とUFOと2012年』

中丸薫 矢追純一   文芸社   2011/2/28

<アメリカからの「年次改革要望書」によって改革されてきた日本>

・ご存知でしょうか。日本は、アメリカ政府から毎年「年次改革要望書」というものを突き付けられているんです。それがどういうものなのか、マスコミはそこで取り上げられていることを一切報道しません。以下は、要望書でどんな案件が取り上げられ、日本がいかに改造されていったのかを記したものです。

・アメリカの要望書通りに日本が変えられてきているということは、アメリカに経済戦争を仕掛けられ、そのままジリジリと攻め込まれているのと同じです。

1997年   独占禁止法改正→持ち株会社の解禁 

1998年   大規模小売店舗法廃止→大規模小売店舗立地法成立、建築基準法改正

1999年   労働者派遣法の改正→人材派遣の自由化

2002年   健康保険において本人3割負担を導入

2003年   郵政事業庁廃止→日本郵政公社成立

2004年   法科大学院の設置→司法試験制度変更

2005年   日本道路公団解散→分割民営化、新会社法成立

2007年   新会社法の中の三角合併制度が施行

・アメリカにとって都合のいい制度がこうやってどんどん取り入れられ、日本は法改正を次々進めてきました。

・中でも小泉政権時代に推し進められた郵政民営化は、特にひどいものでした。

・アメリカが欲しかったのは、郵政が保有している約340兆円(当時)の資産に他なりません。

<日本が緊急になすべきこと>

・まず小泉改革の過ちを正すこと

・政府紙幣の発行による財源の確保

・食糧危機に備えて食糧の備蓄を増やす

・危機管理に万全を尽くす

・北朝鮮問題を対話によって平和的に解消していく

・アメリカ隷従をやめ、パックス・ワールドを志向する

『日本がもしアメリカ51番目の州になったら』

属国以下から抜け出すための新日本論

日米問題研究会     現代書林  2005/8/23

<言語;英語が公用語になって日本語は使えなくなってしまうのか?>

・日本がアメリカの一員になると、英語が公用語になるのではないかと心配する人がいるだろう。しかし、州化されても必ずしも英語を使う生活が始まるわけではなさそうだ。

・意外に思われるかもしれないが、今のアメリカ50州を見てみると、何らかの形(制定法、州憲法修正、拘束力のない決議など)で25州が英語を公用語と宣言しているが、反対に英語を公用語としないことを決議した州や公用語化を違憲であると判決した州もある。そういった面でも各州の独自性がはっきりと表れている。

・ハワイ州などでは、事情が少し異なる。ハワイ州では州憲法第15章第4条で「英語とハワイ語がハワイ州の公用語である。ただし、ハワイ語は法の定めがある場合のみ、一般法律および取引行為に適用される」とし、英語と並んでハワイ語を州公用語として認めている。

・ニッポン州で英語を公用語にすると間違いなく大混乱をきたすから当面のところ英語は公用語にならない。

・オンリー派は日本語だけをやればいいというグループで、プラス派は、日本語を中心に、生活での英語の使用範囲をもう少し広げようとするグループだ。現在の日本でも英語学習がかなり浸透しているし、ビジネスなどでは英語が必須になっている点から考えると、プラス派が優勢になるだろう。

・ごく一般の生活をしている限り、英語が理解できなくても特別の不都合はない。しかし、州政府レベル以上になると話は違ってくる。州知事を始めとするニッポン州政府の主だった立場の人間は、英語での意思の疎通が条件になる。英語が話せないと、連邦政府との関係上、政治や行政、裁判を進めていくうえでも支障が出てしまうからだ。ここで新たな階級社会が始まるとも言える。つまり英語で情報を得られる層と、得られない層で情報階級社会が促進する。

(2021/2/7)

『アフターバブル』

近代資本主義は延命できるか

小幡績      東洋経済新報社   2020/9/4

<世界恐慌か、新しい中世か>

●すでに膨らみ始めたコロナショックバブル

●ゼロリスク志向が財政危機を加速させる

●日銀は「新次元の金融政策」に踏み切るべき

●新たなバブルをつくり出せない「本当の危機」

●不要不急の消費による「成長モデル」の終焉

<バブルがつくった経済成長、壊した経済成長>

<バブル・アフターバブル>

・バブルとは常にバブル・アフターバブルである。

これこそがバブルの基本構造であり、バブルの本質である。

 バブルにおいては、バブルの次にバブルが来て、バブルが崩壊すると、それを救済するためにバブルがつくられる。そして、またバブルは崩壊し、そこから立ち直るためには再びバブルが必要となるのである。これを繰り返しているのである。

・バブルとは何か。

 それは、先に何気なく触れた「外部の力で膨らませたもの」である。

 これは私独自のバブルの定義だが、バブルの本質だ。

 バブルはいつ始まったのか。

 貨幣が社会に登場したと同時に資本主義が始まったと考えるのが、岩井克人氏などであるが、貨幣を通じた交換により富が蓄積し始め、生産が起きなくても、資本主義は存在しうるという主張だ。交換が資本主義の基礎であるという考え方である。

 ここではその議論に深入りはしないが、私の考えは、「資本主義とはバブルそのものであり、バブルの一形態が資本主義である」とバブルのほうを資本主義よりも広く捉えている。

<近代資本主義とはバブル>

・バブルとは「外部の力で膨らませたもの」と述べたが、では、バブル経済とは何か。

 自給自足から外れた経済状態、すなわち、同一の規模で経済の営みの循環を繰り返す安定的な状態から外れた状態、と定義する。

 そもそも、経済は通常は定常状態にある。毎日同じ営みの繰り返しである。生物はみな同じで、人間社会ももともとは同じはずだ。ここに生産力の上昇が、たとえば技術革新で生まれたとしよう。農業の発明でもいいし、道具の使用でもいいし、言語の発明でもよい。そうすると何が 起こるか。人口増加である。生物は種を繁殖させるために存在するから、余力が生まれれば、それは個体の増加となる。

 これは、マルサスの人口論であり、マルサス的な経済成長である。定常状態における経済成長と言ってもいいかもしれない。

<バブルの3つの循環>

・そして、定常的な循環を外れバブルが始まると、経済は、今度はバブルの循環に支配されることになる。

 欧州経済(20世紀以降は欧米経済と言うべきだが)に関していえば、現在は、1492年に始まったバブル拡大期のことを指しているに過ぎない。

・最後に、短期のバブル循環が存在するが、これが我々が普段バブルと呼んでいるものである。冷戦終了後、移行経済バブルがあり、それが崩壊し、ITバブル(テックバブル)があり、テロやエンロンで崩壊し、そこから世界金融バブルが世界的な金融緩和により生まれたのである。このときはEUバブルも同時に始まっていた。そして、リーマンショックで終わり、リーマンショックからの回復で量的緩和バブルが生まれた。短期のバブル、その崩壊、そこからの回復のための政策によるバブル生成、これが短期循環では繰り返されるのであり、「バブル・アフターバブル」と呼べるのである。

<経済成長とはバブルの拡大>

・このように考えると、近代以降の経済成長とは、バブルの拡大のことであった。バブルが拡大することこそが、経済規模の拡大であり、一人当たりGDPの上昇であった。GDPの拡大による生活水準の上昇とは、ぜいたく品の消費拡大であり、都市における大量消費社会の拡大のことであった。それは、実質的な生活水準の上昇を含むこともあったが、本質的には無関係であった。

<コロナショックとバブルの最終局面>

・今、起きていることは何か。

 感染症に右往左往している社会である。高度に発達した技術を持ち、20世紀初頭に比べれば想像を絶するほどの経済成長を実現したはずの社会が、20世紀初頭の感染症対策と同じステイホーム、移動制限、マスク着用という手段しかとれず、しかも、それを実行することですら社会を挙げて大論争を行い、その間に60万人以上が死んでいる社会である。

 我々の経済社会は、この数百年で、バブルとバブル的な消費以外の何を生み出してきたのだろうか。

<バブル・アフターバブルの30年――史上最悪の株価暴落はなぜ起こったか>

<コロナ危機と株価の大暴落は無関係>

・2020年2月24日、米国株式市場は、理由もなく突然暴落した。それはまるで、1987年のブラックマンデーの再来かと思われた。

 理由がない? バカな。明らかな理由があるじゃないか。コロナウイルス危機じゃないか。コロナショック暴落だろう? すべての人がそう言うに違いない。

 確かにコロナ危機は起きている。しかし、株価の暴落とは無関係だ。丁寧に言えば、暴落の最期の引き金、きっかけはコロナショックだったが、それは原因ではない。

<リーマンショック後になぜまたバブル?>

・では、そもそもバブルになっていたのか。

 直接的な理由は金融緩和、それも世界的なかつ異常な規模の金融緩和である。世界にマネーが溢れ、それが株式市場になだれ込んできたためにバブルになっていたのである。

 大規模緩和と言えば日本銀行だが、日本の場合は、2000年のゼロ金利開始、2001年の量的緩和の「発明」からずっと続いているので、日本関係者には当然のようになってしまっているが、この日本銀行が発明した量的緩和は、日本銀行自身の中で進化を遂げただけでなく、世界に感染していった。

<あらゆる市場でバブルが発生>

・しかし、これはまさにデジャブ、既視感のあるものだった。既視感とは、リーマンショック前の不動産バブル、そしてすべてのリスク資産がバブルになったリスクテイクバブルとまったく同じ状況、経緯であったのだ。

 リーマンショック前に不動産バブルになったのは、世界で資金が余り、投資先を求めて資本がさまよっていたからであった。

<冷戦終了と30年バブル>

・これが、繰り返されるバブルの始まりだったか?

 違う。これよりも先にバブルが生まれていたのである。

 2001年に超低金利をつくったグリーンスパンは、1996年に米国議会に呼ばれたときの証言で、株価について「根拠なき熱狂」と言ったのだった。

・この異常な株価が、いわゆるテックバブル(日本ではITバブルと呼ばれている)を生み出し、2000年前後のテクノロジー株に関するバブルは、テクノロジーベンチャー企業たちの株価を狂気としか思えないような水準に膨張させていた。

<市場資本主義とは流動化による収奪>

・経済の拡大から金融バブルになるのが、大きな波のバブルの特徴だ。金融市場だけでは大きなうねりにはならない。金融市場の拡大を持続的に支える実体経済の需要の拡大が必要だ。ただし、これは必ずしも経済が真の意味で良くなっていることを意味しない。

<バブルに次ぐバブル>

・旧ソ連、東欧の移行経済バブルが90年代前半に起こり、90年代半ばは東アジアの奇蹟からバブルとなった。90年代後半は米国がバブルになり、インターネット革命と相まって、テックバブルとなった。

 しかし、これらのバブルはすべて崩壊する。

<コロナショックバブル>

・リーマンショックによるバブル崩壊の痛み、処理から逃げ続けるための、世界的な大規模金融緩和、金融緩和によって生じた世界金融バブルの崩壊に対して、さらなる金融緩和で、バブルの最終的な完全崩壊を先送りしたというのが、2009年以降の10年間に世界で起きていることである。

・欧州も新型コロナの感染による死者が集中した地域であり、ECBもイングランド銀行も最大限の緩和を行った。日本は米国、欧州に比べれば無傷に近い新型コロナ感染症による死者数であったが、それでも政府や都道府県知事がメディアやSNSに押されて、大規模な休業要請をしてしまったために、経済活動が急激に縮小した。これに対応して、日銀も緩和を拡大する姿勢を示さなければならず、すでに国債買入は限界を超えていたため、上場株式ETFの購入額を倍増させ、株式バブルを直接つくった。

 バブル崩壊からの金融システム破綻を防ぐために、世界の中央銀行は、大規模金融緩和で、まさに再度バブルをつくったのである。これにより世界の株価は大きく上昇し、コロナショック前の水準をあっさり回復し、米国ダウやナスダックは、史上最高値を更新した。

<実体経済バブルから財政破綻>

・コロナショックに対応するバブル生成政策は、金融政策にとどまらない。コロナショックの社会経済に与える影響が国民生活に直接及ぶことから、財政出動を余儀なくされたからである。しかも、金融以上に財政出動は、前代未聞、人類史上最大の財政出動であった。

<コロナショックは史上最大級の危機か――「社会が一変する」はあり得ない>

<アフターコロナは存在しない>

・中国、韓国など多くのアジア諸国は、政府が強権を発動して、人々の行動に制限を課したのみならず、スマートフォンのアプリケーションなどを駆使して、プライバシーをほとんど無視してと言っていいくらい個人の行動を把握し、それを新型コロナ感染防止のデータとして最大限活用し、そして感染拡大防止に成功した。

・世界の知性と呼ばれる人々は、自分の議論したいことに現実の現象を引き寄せているだけであり、自分の商売のネタにしているだけだ。彼らは自分の見たい現象だけを見ているにすぎない。

 現実はどうなるか。コロナショックで世の中は何も変わらない。

 コロナとは、自由主義、管理社会の問題ではない。感染症の問題、それに尽きる。それだけだ。ビフォーコロナ、アフターコロナなど意味はない。コロナでは何も変わらない。

・私の個人的な結論を先に言っておくと、良い政府もあれば悪い政府もある。政府が良いことをすることもあれば、悪いことをすることもある。それだけのことだ。良い政府を選び、政府が良いことをするように仕向ける。データも同じだ。政府が良いことしか使えないようにする。そうでなければ反対する。それだけのことだ。

<大恐慌ではなく最後のバブルがやってくる>

・さて、コロナショックで社会も変わらないが、経済も変わらない。

 経済は大不況、いや大恐慌になる。リーマンショックをはるかに超える危機だ。いやそれどころではない。1930年代の大恐慌よりも酷い。前代未聞だ。

 そのような声が大きいが、間違いだ。

 コロナショックがあっても、経済は一時的に不況になるだけのことだ。それは瞬間風速は史上最強だが、トータルの影響はそれほど大きくない。すぐに回復に向かうだろう。もちろん、その回復がどの程度かという点に関しては、議論が分かれる。しかし、逆に言えば、その程度だ。回復するスピード、戻ったときの経済の水準の高さという相対的な程度の話として議論する水準の危機、不況なのだ。普通の不況にすぎない。

 一方、人々が気づいていない重要な点があり、コロナショックの次に来るものがある。それは何か。

 バブルである。コロナショックバブルが起きる。

 これからバブルになる。そして、それはおそらく最後のバブルになる。

・最後のバブルとはどういう意味か? 私の考えでは、バブルにはいくつかの循環がある。短期の循環、中期の循環、長期の循環がある。ここでは、中期の循環が終わる可能性があると考える。

 短期のバブル循環としては、たとえばリーマンショック後のバブルがある。

・バブルが膨らめば、その後は崩壊する。この繰り返しだ。

 中央銀行バブルも同じことだ。この流動性バブルは、2019年には、すでに崩壊寸前で、いつ破裂してもおかしくなかった。そして、その気配は何度かあったのだが、なかなか決定的なきっかけがなく、株価の上昇は10年も続いてきたが、そこへコロナショックが起こり、決定的に崩壊した。

・そして、これから再びバブルが起きる。次は、コロナショックへの経済対策と称する大規模な財政出動によるバブルだ。

 コロナバブルと呼んでよいし、世界財政出動バブルと呼んでもよい。これが次のバブルだ。

 そして、この短期バブルが最後となり、短期バブルを繰り返した中期のバブル循環が終焉を迎える。この中期循環は、オイルショック後に始まったもので、冷戦終了によりバブル拡大局面を迎え、それがかなりの期間にわたって継続し、大規模に膨らんだ中期バブルの循環となった。それが、コロナショックによる世界財政出動バブルで終わるのである。

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