核弾頭数は2021年には400発を超え、さらに2035年までに1500発を保有する可能性もあります。(1)
(2025/5/12)
『防衛学』
小野圭司 新星出版社 2024/5/13
<はじめに>
<「何となく避けている」「考えないようにしている」ではダメ、防衛問題を知ることは、自分たちの自由や幸福を考えること>
・軍事・安全保障の目的は、我々の生命・財産を武力攻撃から守ることにあります。しかし意外と忘れられているのが、その前提となる自由や幸福を追求する権利などの基本的な価値を守ることも含んでいる点です。
<「防衛」を知れば 国同士の対立の構造と行方が見えてくる!>
・ビジネスの合間に出る話題に自分なりの意見を持つためには、世界の対立の構造や各国の思惑を押さえておく必要があります。
<ウクライナ侵攻には私たちも参戦していた ⁉>
・実はそれらはウクライナの「認知戦」が功を奏した結果です。認知戦とは、簡単に言うと情報を使った印象操作のこと。
<防衛の新領域 「ウサデン」って?>
・現在、各国が重視する防衛分野は宇宙、サイバー、電磁波の領域です。
<まるでスマホのOS ⁉ 武器にも規格があるって知ってた?>
・世界の武器はNATO規格、旧ソ連規格の2種類にわかれます。
<防衛の基礎知識>
<防衛って何? 安全保障の下の階層になる概念で奥の手として備えるカード>
<防衛=戦争じゃない! 安全保障のための一手段>
・安全保障とは、国が「国民の生命、財産、経済的繁栄、自由民主主義、基本的人権の尊重を保障すること」
<防衛の主役・軍隊って何? 「国民の安全を守ること」を目的として行動する実力組織>
<指揮系統や国際法遵守など戦争にもルールがあり>
・具体的な任務としては、「軍事侵略の抑止や阻止」、「国内の治安維持」、「それ以外の行動」があります。
<日本の防衛を担う自衛隊って何?日本が“自衛権”を行使するために持つ必要最小限レベルの武力>
<憲法第9条のもと 専守防衛を基本方針とする日本>
・自衛権とは、相手が武力攻撃を仕掛けてきたとき、それを排除するための国際法上の権利です。「日本は戦争を放棄したが自衛権はある。そのための必要最小限度の実力を持つ組織が自衛隊」というわけです。
<抑止力って何? 相手に“強制的な環状変更”の意志を抱かせない力のこと>
<「あの国にはかなわないな……」抑止力こそ最大の防御>
・また一国だけで十分な抑止力を得られない場合、同盟を結び集団で抑止力を発動させる「集団的自衛権」という考え方もあります。自衛権は独立国。主権国家が保有する国際法上の権利です。
<国によって大きく異なる日本と大国の防衛戦略>
<現在、世界は欧米のNATO勢力VS中国・ロシア勢力の2軸に>
<各国の防衛 日本>
<日本 周辺国は猛者だらけの日本! 実は太平洋安定の要所だった>
<米国とともにインド太平洋安定を目指す>
・圧倒的な軍事力を持つ米国と日米同盟を結び、抑止力を強化。
<日本 安全保障の柱! 日米同盟は実は日本が結ぶ唯一の同盟>
<日本の防衛には米軍の軍事力が不可欠>
・実は現在、日本が交わす同盟国は米国のみです。そのため日本に武力攻撃を仕掛けようとした場合、自衛隊だけでなく強大な軍事力を持つ米軍とも直接対決することを覚悟しなければならず、これが日本の大きな抑止力となっています。
<日本 自由で開かれたインド太平洋へ! 多くの同志国と手を結びたい日本>
<シーレーンを安定させ、地域の安定を目指す>
・「賛同国と協力しながらインド太平洋地域の自由と繁栄、安定を目指す」
<日本 日本と蜜月の関係に ⁉ 現在、豪・英と関係強化中>
<中国をにらみ協力 同志国との関係も重要>
・なかでも近年特に密接な関係となっているのが、オーストラリアとイギリスです。
<日本 同盟未満の緊密な関係 安全保障で連携するACSAがある!>
<ACSAでスムーズに防衛協力>
・「物品役務相互提供協定(ACSA)」とは、国同士が相互に物品や役務を提供できる枠組みを定める協定。
<日本の防衛 日本は専守防衛が至上命題! 在日米軍とセットで抑止力へ>
<米国と協力し相乗効果を狙う>
・その上で、日本自身の防衛力に加え、日米同盟のもと両国の安全保障・防衛協力を推進するというのが日本の防衛戦略の根幹です。
<日本の防衛“当たり前”に見えるけど実は超重要!3つの防衛目標>
<目標→アプローチ→施策ビジネス同様の目標設定>
・安全を守るためには、そもそも争いの状態に持ち込ませないことが大切です。
<日本の防衛 日本の防衛方針は「安全保障三文書」によって決定されている>
<反撃能力を保有 防衛力拡大の方針へ>
・ポイントのひとつは、周辺国の軍事的な脅威にさらされている現状を「戦後もっとも厳しい」状況と指摘し「反撃能力」の保有を打ち出した点。
<日本の防衛 目標達成のためにただ今強化中!7つの重視分野で反撃能力をアップ>
・1,スタンド・オフ防衛能力、2,統合防空ミサイル防衛能力、3、無人アセット防衛能力、4、領域横断作戦能力、5、指揮統制・情報関連機能、6、機動展開能力・国民保護、7、持続性・強靭性
<日本の防衛 シビリアン・コントロールのもと3自衛隊が活動>
<「統合運用体制」で自衛隊を一元的に指揮>
・有事にはそれぞれが連携して戦う「統合運用」が行われます。
<日本の防衛 日本全土をくまなく守る陸・海・空自衛隊>
<航空自衛隊>
・2020年に宇宙領域の専門部隊宇宙作戦隊が発足。
<日本の防衛 ミサイル防衛強化が急務 多層の構えで国民を守り抜く><BMDでは対処困難な事態も?>
・しかし、近年はBMDでは迎撃が難しい極超音速滑空兵器が登場。
<日本の防衛 中国・ロシア・北朝鮮と周辺は手ごわい国に囲まれている><緊張感を増す周辺国への対応>
・また、北朝鮮は、約20発の核弾頭を保有しているとも推察されている。
<各国の 防衛 アメリカ>
<アメリカ 国力低下で“世界の警察”が戦略転換 ⁉ 軍事力1位のアメリカの今>
<中東から撤退した理由はシェール革命>
・中東地域から手を引いた理由のひとつがシェールガスによる燃料産出に成功したこと。中東に頼らずエネルギーを賄うことが可能になり、介入の必要がなくなったのです。
<アメリカの防衛 世界展開が前提の米軍だが“世界の警察”も今は昔 ⁉><影響力は強大ながら「統合抑止」で負担減>
・注目したいキーワードがバイデン政権が打ち出した「統合抑止」です。
<アメリカの防衛 現在は対中国のためにインド太平洋地域が最優先>
<日本のシーレーン安定にも米軍が貢献>
・対象エリアに中国、ロシアが含まれる地域別統合軍「インド太平洋軍」は、現在、米軍が本土以外でもっとも多くの軍事力を集中させる重点地域です。
<アメリカの防衛 軍種を横断する“統合軍編成”で世界のどこでも即時対応!>
<宇宙にも展開! 統合軍編成の米軍>
・運営体制は、「フォース・ユーザー」と「フォース・プロバイダー」に分かれています。5つの各軍種が人事、教育を担い、運用は統合軍編成のもと、統合軍の指揮下に配属されます。
<アメリカの防衛 足りない力は同盟国=仲間と協力!「統合抑止」に転換>
<中国の対等で軍事強化が迫られる>
・国防支出で追い上げる中国や、NATO勢力とロシアの対決がさし迫る中、さらなる軍事力の増強を図らざるを得ない米国。
<アメリカの防衛 目下最大の脅威は中国! インド太平洋が関心事項だが……>
<どこで軋轢が生まれた? 中国との関係の強化>
・ただし米単独で中国に立ち向かうというそれまでの考え方から路線変更し、中国を包括的に牽制する狙いです。
<各国の防衛 中国>
<中国 一党独裁下で突き進む中国 「経済至上主義」で軍拡中!>
<経済が鈍化傾向に入りナショナリズム高まる?>
・1990年代から猛烈な勢いで発展を続けた経済が、近年鈍化傾向に、対外姿勢をさらに強めることで国内のナショナリズムを高める可能性も考えられます。
<中国の防衛 飛躍的に発展した経済力によって強引な進出を推し進める>
<目指すは米軍と同等の戦力確保!>
・さらに21世紀中頃までに中国国軍を世界一流の軍隊に全面的に築きあげることを表明しています。
<中国の防衛 中国人民解放軍は中国共産党の軍隊>
<中国の一党独裁を支える軍体制>
・中国の軍組織の特徴は、中国共産党の指揮下にある点です。
<中国の防衛 「五大戦区」で広大な領土ににらみをきかせる>
<日本~イスラム圏までを想定し、広範囲を防衛>
・さらに軍以外の一端を担います。さらに軍以外の武装力のひとつとして「民兵」が存在し、海上民兵によるゲリラ活動も懸念されています。
<中国の防衛 対アメリカを想定し、防衛力爆上げ中!核大国になるのは時間の問題>
<国防費は日本の6倍、武装の近代化も進める>
・核弾頭数は2021年には400発を超え、さらに2035年までに1500発を保有する可能性もあります。
<中国の防衛 勝手に「十段線」を主張! 台湾までを自国領アピール>
<ルール無用の権益拡大 太平洋の防衛線も確保>
・9段線、10段線とは別に、中国が主張する権益に「第一列島線」「第二列島線」があります。
<各国の防衛 ロシア>
<国境数世界一! 広大な領土ゆえに防衛の悩みの尽きないロシア>
<プーチン大統領のもと「強い国家」を自認>
・現在はプーチン大統領をトップとした垂直的な権力構造のもと「強い国家」を目指して欧州勢力へ対抗意識を強めます。
<ロシアの防衛 大国主義のプーチン大統領のもと米・欧州(NATO)勢力に対抗>
<権力一極集中により広い国土を統一>
・大統領に権力を一極集中させて広大な国土の安定を図ろうとする垂直的な権力構造を目指します。
<ロシアの防衛 世界一の領土を守る軍管区体制3軍種+2独立兵科を統合運用>
<重要部隊は大統領直轄に>
・3軍種を運用するのは、ロシアの5つの軍管区にそれぞれ設置された「統合戦略コマンド」で、米軍の統合軍編成と同じ考え方になります。
<ロシアの防衛 中国と同じ軍管区制 海軍力も重視>
<旧ソ連型組織をコンパクト化へ>
・現在は5つの軍管区で広大な領土を守ります。
<ロシアの防衛 近代化の遅れを原子力潜水艦と核兵器で補う>
<足りない力は数で勝負 ウサデンにも注力>
・さらに新領域(宇宙・サイバー・電磁波)での軍の運用能力の拡充も目立ちます。中国軍と連携する動きも見逃せません。
<ロシアの防衛 味方を増やしNATOの一極集中化阻止!>
<軍事費大幅増! NATOとの対立鮮明に>
・軍のコンパクト化を目指していたものの、ウクライナ侵攻で軍事費を大幅増額。背後に控える欧米勢力をにらみます。
<各国の防衛 北朝鮮>
<軍事先進国を目指す北朝鮮 金正恩体制となり尖鋭化>
<金正恩体制下で軍拡に拍車をかける>
・しかし慢性的な経済不振などにより、通常戦力では韓国軍・在韓米軍と大きな開きがあります。
<各国の防衛 韓国>
<あくまで休戦中の韓国 在韓米軍の再編成がカギに>
<米軍頼みの韓国 再編の結果は?>
・しかしあくまで休戦中の状態で、終戦したわけではありません。
<防衛戦略を左右する世界の勢力図>
<金の切れ目が縁の切れ目に ⁉ 経済協力問題>
<中国型のODAが問題の火種に>
・一方、中国は、ODAとは別の形で大規模な経済援助を行っています。中国型の援助は、自国の資源確保や権益拡大が目的です。
<限られた天然資源の争奪戦に エネルギー問題>
<燃料止めるぞ!は多くの国で死活問題>
・相手国との対立により供給をストップされてしまうことは国の運営の死活問題。こうした天然資源に恵まれ、強い貿易カードとしているのがロシアです。そんななか、米国は特殊な地層(シェール層)から原油や天然ガスなどエネルギーを掘削する技術を開発。供給問題から一抜けする形となりました。
<2000年以上続く根深い対立も 宗教・民族問題>
<中東・アフリカの混乱は欧州にも責任あり>
・解決が難しい理由は、政治・経済的な対立が深くかかわり、そこに諸外国の思惑が絡んで構造が複雑化するためです。
<細かいことだけで実は超重要! 世界の武器規格問題>
<冷戦時の対立構造をそのまま踏襲>
・実は、世界の武器の規格は大きく2つの分かれています。ひとつは西側諸国が使用するNATOの規格で、もうひとつは旧ソ連の規格です。
<アメリカ・韓国VS中国・北朝鮮>
<実はいまだ継続中の朝鮮戦争 北朝鮮の臨戦態勢は変わらず>
・中国を後ろ盾にした北朝鮮VS国連軍(米軍)に頼る韓国
<朝鮮半島が経済協力問題で対立する米中の最前線に ⁉>
<現在は中国と手を組む北朝鮮>
・韓国は、政権によって対北政策、対米姿勢が変化するバランス外交を続けてきました。
<欧州VSロシア ロシアへの対抗で設立されたNATO>
<NATO勢力が東側へ勢力を拡大中!>
・冷戦後には旧ソ連だった東側諸国も多数加わり、その境界線がロシア領へどんどん接近。ロシアはバッファーゾーンがなくなることを恐れています。
<一枚岩とはいかないNATO ロシアにエネルギー依存を続ける国も>
<燃料と経済を握られた国もあり協調できず>
・NATO内でも思惑はさまざまです。その理由のひとつが、エネルギー問題。ウクライナ侵攻ではNATOの一部の国がロシアへのエネルギー依存度高いため、同国への強い制裁を支持できず足並みが乱れました。
<インドVS中国・パキスタン>
<カシミール地方をめぐる宗教対立中国も絡み長期戦へ突入>
<カシミール地方や東パキスタンをめぐり3度の印パ戦争>
・宗教の対立により、インド独立時に問題になったのが、カシミール地方と東パキスタンの帰属です。同地をめぐり、3度の印パ戦争が繰り返されます。
<もともとは宗教問題 現在は経済問題も絡み複雑化>
<中国&パキスタンがインド包囲網形成>
・インド、中国は一時国交断絶となりましたが、1976年に関係を回復。しかし中国がパキスタンと経済的な結びつきを強め、インド包囲網を固めるなか、再びの対立が懸念されます。
<事例で見る各国の背景と防衛>
<ウクライやイスラエル・ガザだけじゃない>
<現在進行形の紛争地帯 紛争の火種を抱える地帯>
<ウクライナ侵攻>
・クリミア半島をめぐり対立するロシアが、2022年に隣国ウクライナに軍事侵攻。
<プーチン大統領の思惑が外れた2022年のウクライナ侵攻>
<長期戦となり国内が疲弊>
・短期間で傀儡政権樹立を目指したものの失敗し、装備品の不足や軍の士気低下などロシア国内が疲弊。しかし長期戦となり、国力で劣るウクライナも苦境に。
<ロシアの脅威を世界中が再認識 NATO勢力VSロシア勢力の構図再び?>
<各国の思惑で泥沼化 想定外の長期戦に>
・西側職に対し、ロシアは旧ソ連国家を中心に同盟によって関係を強化。
<傭兵の新形態!新しい危機管理の形・民間軍事会社>
<世界で活動! 大統領暗殺計画も>
・侵攻開始直前には同社によるゼレンスキー大統領と要職者20数名の暗殺が企てられていたことが明らかにされています。
<世界的企業がロシアから撤退!>
<SNS時代の経済制裁に?>
<ブランドイメージを見据えた企業の戦い>
・「ロシア=悪、ウクライナ=善」として形成されていった世論を踏まえ、ブランドイメージを優先するグローバル企業の多くがロシア事業から撤退。
<段ボール製も登場! ウクライナの善戦の影に無人機の活躍あり!>
<戦場の様相が一変 無人機が大活躍>
・無人機の戦いで優位に立ったのはウクライナです。西側諸国の協力を得て。使用する無人機自体はもちろん、機体を操作するための戦術情報の領域でもリードしています。
<やり過ぎのイスラエルに非難轟々>
<2023年イスラエル・ガザ地区>
<2023年 ハマスがイスラエルへ大規模テロ攻撃>
・追い詰められた武装勢力ハマスが、イスラエルへ大規模なテロ攻撃を仕掛けます。
<根深い宗教対立の歴史 実は西欧諸国の密約が根源 ⁉>
<土地をめぐる譲れない戦いの歴史>
・逃れた先の欧州などでは、宗教上の対立から厳しい迫害に合います。
<親イスラエルなアメリカも情報戦で分断の危機に>
<親イスラエルの米国 近年風向きが変化>
・これまで明確にイスラエル支援の立場をとってきた米国。その理由のうち特に大きいのがユダヤ系ロビー団体の存在です。
<太平洋最大の懸念……中国が攻勢を強める>
<台湾有事と南シナ海問題>
・現在、台湾は国連で国と認められていません。台湾は自分たちの一部と主張する中国と対立し、1949年から現在まで緊張状態にあります。
<実際に台湾有事が起きたらどうなる ⁉ 実は米国がシミュレーション済み>
<米軍の参戦不可欠!日本にも影響が>
・台湾統一を掲げる中国は、2022年の党大会で「決して武力行使の放棄を約束しない」と踏み込んでいます。
<南シナ海をめぐる問題は日本にも影響あり ⁉>
<50年代から進める「九段線」構想の現在>
<70年以上をかけ海域を実効支配化>
・中国が南シナ海への進出をはじめたのは、同地域からフランス軍が撤退した1950年代。
<世界経済の主役変更!>
<アメリカの防衛戦略も変化する>
<経済の重心移動で大西洋重視へ?>
・米国にとっては21世紀後半に向けて、人口増と経済成長が見込まれるアフリカと中南米に挟まれる大西洋地域こそが重点地になり、防衛の力点を転換する可能性は否定できません。
<気候変動は安全保障にも脅威>
<温暖化で懸念される2つの問題>
・①北極海の海氷減退、資源&航路争奪戦が激化、②海面上昇による島嶼水没の危機!沖の鳥島がピンチ。
<戦場から兵士の姿が消える ⁉>
<ウサデン&AI領域が防衛の主役に>
・ハイブリッド戦がこれからの防衛を制す。
<おわりに>
<安全保障論議の裾野が広がれば健全な防衛力の育みにつながる>
・「戦争は軍人だけに任せるにはあまりに重大である」
(2023/2/4)
『日本はすでに戦時下にある』
すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル
渡部悦和 ワニ・プラス 2022/1/26
<まえがき>
<平和なときにおいても「目にみえない戦い」は進行している>
・我が国周辺の安全保障関係は世界でもっとも厳しい状況にあると言っても過言ではない。
・また、北朝鮮は核ミサイルの開発を継続し、その能力は目を見張る進歩を遂げ、やはり日本の脅威になっている。さらにロシアは、ウラジーミル・プーチン大統領が唱える「ロシアの復活」に基づき、米国を中心とした民主主義陣営を敵視する政策を展開している。北方領土問題を抱える日本にとってロシアは警戒すべき国家である。
つまり、日本周辺には中国、ロシア、北朝鮮という民主主義陣営と対立する世界的にも有名な独裁国家が存在していることになる。
・マイケル・ピルズベリーは、現在進行中の中国が仕掛ける戦いについて、「我々はゲームに負けているのかどうかわかっていない。実際、我々はゲームが始まっていることさえ知らないのだ」と表現している。
ピルズベリーが言っているゲームとは、中国が100年間の屈辱の歴史を晴らし、世界一の覇権国を目指して実施している「100年マラソン」のことで、習近平国家主席が主張する2049年を目標とする、「中華民族の偉大なる復興」の実現と符合する。
<あらゆる領域が侵略される「全領域戦」の時代>
・米国は、現在の国際情勢を称して「大国間の競争の時代」と呼んでいるが、大国とは米国、中国、ロシアのことだ。とくに中国は米国と覇権争いを展開している。米中覇権争いがおこなわれている現在を、ある者は「新冷戦の時代」「第3次世界大戦の時代」「ハイブリッド戦の時代」「超限戦の時代」などと表現している。私は現代を「全領域戦の時代」と表現したいと思う。
・官庁や民間企業では、システムが不正アクセスされて秘密情報を盗まれ、システム全体を凍結され、その解除のための身代金を要求される事件(ランサムウェア攻撃)が日々報道されている。
そのような不法なサイバー攻撃には個人や民間組織のみならず、国家レベルの軍事組織が関与しているケースが多い。例えば、中国人民解放軍やロシア軍、とくにロシア連邦参謀本部情報総局(GRU)は、自らサイバー攻撃をおこなうのみならず、民間のサイバーグループを組織化してサイバー攻撃をさせるケースが増えている。
<オーストラリアにおける中国の統一戦線工作>
・中国との戦いがすでに始まっていることを知らない人は多い。中国共産党の中央統一戦線工作部(以下、中央統戦部)の工作(統一戦線工作)のことを知っている日本人は少ないと思う。中央統戦部についてはいままで語られることが少なかったからだ。私は中央統戦部と統一戦線工作を多くの人に知ってもらわなければいけないという使命感をもって本書を書いた。
・とくに大きかったのは新型コロナの蔓延である。オーストラリア人が
新型コロナを機に中国が仕掛ける「静かな侵略」の脅威に覚醒したのだ。この静かな侵略に対して堂々と戦っているオーストラリアは日本のいいお手本になる。
<日本におけるトロイの木馬>
・日本も統一戦線工作のターゲットになっていることを強調したい。この工作は、日本の政界、経済界、メディア、アカデミア(学会)、中央省庁、芸能界、宗教界、自衛隊、警察などあらゆる分野に浸透している。
外国資本が自衛隊や海上保安庁の基地周辺の不動産や北海道などの広大な土地を買いあさり、日本の団地に中国人が大勢住むようになり、その団地が彼らに占領されかねない状況になっていることなど、工作の例は枚挙にいとまがない。
<我々は賢くて強くなければいけない>
・以上記述してきたように、我々がいまは平和なときだと思っていても、中国などが仕掛ける「目にみえない戦い」は進行している。このままでは「目にみえない戦い」に気づかないまま敗北してしまう可能性がある。
中国は、統一戦線工作の国家であり、「超限思考」の国家でもある。
・『超限戦』の本質は「目的のためには手段を選ばない。制限を加えず、あらゆる可能な手段を採用して目的を達成する」ことを徹底的に主張していることだ。民主主義諸国の基本的な価値観の制限を超え、あらゆる境界を超越する戦いを公然と主張している。
・超限思想を信じる国家にとって、日本は鴨がネギを背負った状態の“鴨ネギ”国家だと思う。目的のためには手段を選ばない手強い国に対して、日本はあまりにも無防備だ。
愚かなことに我が国は非常に多くの安全保障上の制約やタブーを、自ら設けている。日本人はもっと危機感をもたなければいけない。そして、鴨ネギ状態から脱却しなければいけない。
脅威には目にみえるものと目にみえないものがある。日本人は賢くなければいけないし、強くなければいけない。
<あらゆる領域が戦いの場となる「全領域戦」の時代>
・米国のジョー・バイデン大統領は2021年3月の記者会見で、米中のせめぎ合いは「21世紀における民主主義と専制主義との戦いだ」と表現した。「民主主義」対「専制主義」という構図は、2021年3月18日にアラスカでおこなわれた米中の外交トップ会談でも明確であった。
・中国があらゆる手段で米国を中心とする民主主義陣営に対抗しようとする際に、米国の同盟国である日本も攻撃の主たるターゲットになっている。だからこそ、「日本は戦時中である」という認識になるのだ。
・筆者は、『現代戦争論―超「超限戦」』で、情報戦、宇宙戦、サイバー戦、電磁波戦、AIの軍事利用を中心に現代戦の一端を紹介した。これらの戦いが中国要人の発言にある「あらゆる手段」になるのだ。
・全領域戦の特徴は、①あらゆる領域を使用すること、②軍事的手段や非軍事的手段などあらゆる手段を活用すること、③軍事作戦が主として戦時におこなわれるのに対して、全領域戦は平時と戦時を問わずおこなわれること、④いままで平時とおもわれていたときをとくに重視しておこなわれることである。
<「平時と戦時」の概念の変化>
・米陸軍はその作戦構想「多領域作戦」において、期間を競争と紛争のふたつに分けている。つまり、昔でいうところの平時は文字通りの平和なときではなく、競争相手国と競争している期間だと解釈したのだ。この解釈は適切で、中国やロシアはこの競争の期間を重視して情報戦、宇宙戦、サイバー戦などを仕掛けてくる。
・米海軍はその作戦構想「統合全領域海軍力」において、日々の競争から危機を経て紛争になると考えている。
・米空軍はその作戦構想「全領域作戦」において、協力から競争を経て武力紛争になると考えている。
・筆者の造語である「全領域戦」は、米国防省や米軍が最近主張している全領域作戦からヒントを得ている。米軍の作戦構想に関しては、前述のように米陸軍が主導する多領域作戦がある。米国防省や米軍は最近、多領域作戦を一歩進めた全領域作戦を提唱しており、その具体化を進めている。
軍事作戦としての全領域作戦は、米軍を中心とした作戦構想を知るためには米軍の作戦を研究して、その考え方を模倣している。つまり、解放軍の作戦構想を知るためには米軍の作戦構想を知ることが近道になる。
そして、全領域作戦は軍隊がおこなう軍事作戦であるが、筆者が提案する全領域戦は政府を中心として多くの組織が参加し、あらゆる手段とあらゆる領域を利用しておこなう戦いである。
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