核弾頭数は2021年には400発を超え、さらに2035年までに1500発を保有する可能性もあります。(2)
<中国が考える現代戦――「超限戦」と中国の現代戦>
・習は、中国の夢を実現するために、海洋強国の夢、航空強国の夢、宇宙強国の夢、技術大国の夢、サイバー強国の夢、AI強国の夢など多くの夢を実現すると主張している。つまり、列挙したそれぞれの分野で世界一になるということだ。これらすべての領域で世界一になるという夢は、全領域戦に勝利する決意の表れである。
<領域(ドメイン)と全領域戦>
・中国が一番重視しているのが情報戦だ。通常の民主主義国家の情報戦は、主として軍事作戦に必要な情報活動を意味する。しかし、中国は情報戦を広い概念でとらえていて、解放軍の軍事作戦に寄与する情報活動のみならず、2016年の米国大統領選挙以来有名になった政治戦、影響工作、心理戦、謀略戦、大外宣戦(大対外宣伝戦)などをすべて含むものだと理解すべきであろう。
解放軍にとっては情報戦が現代戦のもっとも基本となる戦いになる。情報戦を基本として、宇宙戦、サイバー戦、電磁波戦などがある。
<中国の政治戦:統一線工作による「静かな侵略」>
・中国において、その長い歴史のなかで繰り広げられてきた政治戦は、伝統的な戦いである。現代の政治戦は、中国共産党の一党独裁体制を維持するために、中共中央統一戦線工作部の工作として実施されているが、最近は習近平主席の意向もあり、国外における工作も重視されている。
<中国の統一戦線工作>
・このなかで中央統戦部は、「秘密主義」「曖昧」「目立たない」と表現されている組織であり、日本人には馴染みの薄い組織だと思われるが、我が国の平和と安定を維持するためにはさけて通れない組織だ。中央統戦部は、中共に対する中国本土の国民、海外の中国人、世界中の広範な華僑コミュニティの忠誠を確保しようとする、中共中央委員会直轄の組織だ。
<日本における統一戦線工作>
<日本における工作組織>
・日本での中央統戦部の活動についてはあまり公表されてこなかったが、その存在自体は日本の公安警察や米国の国防情報局などでもかなり把握されている。
<日本で懸念される「移民戦」の脅威>
・「移民戦」という言葉を知っているだろうか。ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が移民を利用して、ポートランドなどの隣接国の政情や治安を意図的に不安定にすることを狙っているが、このような戦いのことを「移民戦」という。
<外国人参政権・外国人住民投票の問題>
・在日外国人が増加してくると、次なる問題は外国人参政権や投票権の問題だ。
<突然襲ってくるウイルスと化学兵器との戦い>
・新型コロナウイルスが2020年以降2年にわたり、世界中で猛威を振るっている。これを「ウイルス兵器を使用したウイルス戦だ」と主張する人もいるが、否定する専門家は多い。いずれにしても、新型コロナのパンデミックは、私が現役の自衛官のときに恐れていた事態であることは確かだ。
軍事の世界では大量破壊兵器またはNBC兵器という専門用語があるが、これは核兵器、生物兵器、化学兵器のことだ。
<新型コロナウイルスをめぐる中国の大問題>
<武漢で発生した新型コロナについて謝罪もなく情報隠しをする中国>
・新型コロナが2019年12月に中国・武漢市で発生してから2年が経過した。この間、世界における新型コロナの感染者数は約2.8億人、死亡者数は538万人(2021年12月23日現在)という未曽有の状況になっている。各国は新型コロナに対して悪戦苦闘しているが、発生源である中国からの謝罪は一切ない。
新型コロナへの対処は国家の危機管理あるいは国家防衛そのものであり、新型コロナとの戦いはまさにウイルス戦の様相を呈している。
新型コロナのパンデミックは明らかに武漢市から始まったが、その発生源に関しては明確な答えが出ていない。感染拡大の早い段階から、多くの人や組織が「武漢ウイルス研究所からの流出説」を主張している。
<新型コロナをめぐる論戦の結論>
・新型コロナの起源に関する論戦の最終的な結論は、中国当局が武漢での感染発生当初の情報を開示しない限り出てこない。敢えて現時点における私の結論を出すとすれば以下の通りだ。
① 新型コロナは解放軍が関与したウイルス兵器として開発されたものか?
新型コロナは、ウイルス兵器として開発されたものではない可能性が高い。
② 新型コロナは自然由来のものではなく、人工的に作られたものなのか?
新型コロナは、おそらく自然由来(コウモリなどが起源)のもので、人工的に遺伝子操作されたものではない可能性が高い。
③ 武漢ウイルス研究所(WIV)から流出したものではないのか?
WIVから流出した可能性を完全に否定することはできない。しかし、WIVから流出したものではなく、コロナウイルスがコウモリから他の動物へと伝染したあと、遺伝子の構成に重大な変化が生じ、ヒトに感染した可能性もある。つまり、「WIVから流出した」と断定することはできない。
私の結論は、米国の国家情報長官と国家情報会議が共同でまとめた報告書、ウイルスの専門家の意見を重視している。とくに国家情報長官は米国の16ある情報機関を統括する立場にあり、その結論は重視すべきだと思う。
新型コロナの起源をめぐる議論は、客観的事実が明確でない状況ではポジショントークになりがちである。ポジショントークとは、自分の立ち位置に由来する発言をおこなうことで、自分に有利な状況になることを目的とした発言のことだ。
とくに米中覇権争いにおいて、中国を徹底的に批判したい者は米国のみならず世界中にいるが、それに対して米国の情報機関の冷静さは注目に値する。この点が、中国やロシアなどの権威主義諸国の嘘に満ちた情報機関の主張と大きく違う点だ。
新型コロナのパンデミックを、将来的にウイルス戦として積極的に利用する国家や非国家主体が出現しても私は驚かない。まさかそんなことは起こらないだろうという考えはやめたほうがよい。つねに最悪の事態を想定し、それに備えなければいけない。
<サイバー戦:サイバー空間を利用した仁義なき戦い>
<サイバー戦とは>
・サイバー戦の明確な定義はないが、本書においては「サイバー戦とは、ある目的達成のために国家や非国家主体が実施するサイバー空間での戦い」と定義する。
サイバー空間は、インタ―ネット、インタ―ネットに接続されているネットワーク、これらのネットワークに接続されている電子機器が作り出す人工の空間だ。人体で譬えるなら、脳とその他の器官をつなぐ「脳神経系統」と言えるだろう。
このサイバー空間は、情報通信分野に目を見張る発展をもたらし、インタ―ネットを利用した様々なビジネスを生み出した。それにより経済を発展させ、民間でも軍事においても不可欠な空間になっている。
一方で、悪意ある者がサイバー空間を悪用し、サイバー犯罪、サイバースパイ活動、重要インフラに対するサイバー攻撃が発生し、世界の安定を脅かす大きなリスクになっている。そしていまやサイバー空間は、陸・海・空・宇宙に次ぐ第五の戦場と呼ばれ、安全保障における重要な空間である。
・防衛省を例にとると、一日に膨大な数の不正アクセスを受けている。日本に対するサイバー戦でとくに注意しなければいけない国々は中国、北朝鮮、ロシアだ。
<サイバー戦の三つの要素>
・サイバー戦を区分すると、サイバー情報活動、攻撃的なサイバー戦、防御的サイバー戦に分かれる。
サイバー情報活動には、ふたつの目的がある。第一の目的は、相手のシステムやネットワークに存在する情報を収集し、分析すること、即ち作戦遂行に直接必要な情報を収集・分析することである。
第二の目的は、相手のシステムそれ自体に関する技術的な情報を収集・分析することだ。
・一方、人間がおこなうハッキングは、相手のシステムへの侵入や偵察、プログラムの書き換えやすり替え、情報の窃取、システムダウンやシステムの物理的破壊などの工作をおこなう。
例えば、敵政府組織や軍のシステムの破壊や混乱、電力や通信、金融、交通などのインフラを機能不全に陥れることができれば、戦う前から圧倒的に有利な状況を作ることができる。
サイバー空間における防御にはふたつの備えが必要になる。
ひとつ目は、DDos攻撃――攻撃目標に対し、大量のデータや不正なデータを送り付けることで、正常に稼働できない状態に追いこむこと――のようにシステム内部に侵入することなく、直接システムに負荷をかける攻撃への備えだ。
ふたつ目は、敵が我々のシステムに侵入し、プログラムを書き換え、情報の窃取やシステムダウンをおこなう攻撃への備えだ。
<最近のランサムウェア攻撃>
・世界中でランサムウェア(身代金要求型ウイルス)によるサイバー攻撃が相次いでいる。
ランサムウェア攻撃とは、標的型メールなどを利用して端末に侵入し、コンピュータ内のファイルを不正に暗号化したうえで、暗号を解除するための身代金を要求するというものだ。
サイバーセキュリティの専門家は、事態を悪化の一途をたどっていると警鐘を鳴らしている。
<ランサムウェア攻撃を回避または被害を局限するための心構え>
・ランサムウェア攻撃は企業のみならず個人もターゲットになる可能性がある。とくに個人がランサムウェア攻撃をいかにして回避または被害を極力減らせるか、専門家に質問すると異口同音に返ってくる答えが、以下のようなサイバーセキュリティの基本を事前の予防措置として、日ごろから徹底することだという。
⓵データ等のバックアップをこまめに取る。
②OSやソフトウエアの更新を徹底し、セキュリティソフトを導入する。
④ パスワード保護を確実におこなう。
⑤ 不審なメールを開封しない。
⑥ 安全なネットワークのみを使用する。
<ランサムウェア攻撃を受けてしまったら>
・不幸にしてランサムウェア攻撃を受けた場合、以下の対処が推奨される。
⓵すぐに切断する
②身代金を支払わない
<日本における軍事面でのサイバー攻撃の実例>
・サイバー空間に「平時」はない。文字通りの「常在戦場」であり、つねにアップデートされた最新技術を駆使した攻撃が続けられている。その目的はただひとつ、政治、経済、軍事などあらゆる面で、対象国より自国の優位を実現することにある。
<ロシアによる攻撃>
・ロシアの場合、実際にサイバー戦の重要性を証明した例がある。2014年にロシアとウクライナがクリミア半島の領有権を争った「ウクライナ危機」だ。この紛争は「新時代における戦争の作法」として、各国の軍関係者から注目を集めた。
クリミア半島の併合を目論むロシアの計画は周到だった。まず、軍事侵攻の7年前にウクライナへのサイバー攻撃を仕掛けた。
・当初、彼らはウクライナ国内の官民組織のネットワークのハッキングに着手。至るところにその後の工作・破壊活動を有利にする「バックドア(コンピュータへ不正に侵入するための入り口)」を設置し、以降は政府組織や主要メディアのサイトの改竄や変更をくりかえした。
同時に「Redoctober」「MiniDuke」などのコンピュータウイルスを活用した「アルマゲドン作戦」に着手。これはウクライナ政府や軍の情報を搾取するほか、以降のロシア軍部隊の動きを支援する情報操作や撹乱を企図したものだ。
いよいよ侵攻を翌年に控えた2013年には、複数のテレビ局や新聞などのメディアとその関係者、反ロシア、親EUの立場の政治家やその支援者のサイトをダウンさせた。
・かくして2014年2月に侵攻作戦が始まった。親ロシア派武装勢力を装ったロシア特殊作戦軍や、ロシア軍が支給する武器や装備品をもたないことから「国籍不明」と判断され、「リトル・グリーンメン」と呼ばれた覆面兵士の集団――実際にはロシア軍特殊部隊の「スペツナズ」だった――が、半島中央に位置するシンフェローポリ国際空港や地方議会、政府庁舎、複数の軍事基地などの重要拠点を占拠した。
作戦がスムーズに進んだ最大の理由は、ウクライナ国内のインタ―ネット・エクスチェンジ・ポイントや通信施設はほとんどが無力化されていたからだ。都市機能のマヒだけでなく、ウクライナ軍の通信網も大混乱に陥っていたのである。
<我が国の「サイバーセキュリティ」に対する甘い認識>
・しかし、本書においては「サイバー戦」という用語を重視して使用する。なぜなら、我が国では中国、ロシア、北朝鮮などのサイバー攻撃の脅威を甘くみすぎているからだ。
<日本のサイバー安全保障の体制>
・現実世界の戦いと同様に、サイバー空間でも敵を排除して攻撃を防ぐには、反撃の意志と能力をもつことが不可欠だ。しかし、自衛隊は「防衛出動」や「治安出動」が命じられない限り動けない。ここでも憲法に規定された「専守防衛」が足枷になっているからだ。
<世界各国のサイバー戦能力比較>
・ロシアの大手セキュリティベンダー「ゼクリオン・アナリティックス」によると、各国のサイバー軍の総合力は、1位・米国、2位・中国、3位・英国、4位・ロシア、5位・ドイツ、6位・北朝鮮、7位・フランス、8位・韓国、9位・イスラエル、10位・ポートランドである。日本は北朝鮮より下の11位。
・パイプラインへの攻撃が示す通り、一等国の米国でさえサイバー攻撃を完全に防ぐことは難しい。その米国と比べてはるかに劣る、日本の課題はあまりに多い。
<サイバー空間における将来のリスク>
・元NATO軍最高司令官ジェームズ・スタヴリディス大将の著書『2034』(翻訳は『2034米中戦争』二見文庫)は、米中核戦争を扱った小説であり、米国では10万部以上のベストセラーになっている。
『2034』では、米海軍の艦艇37隻が中国海軍に撃沈され、米本土の重要インフラに対する大規模なサイバー攻撃を受ける。米国はその報復として、中国の湛江(たんこう)市に戦術核攻撃をおこなうというストーリーだが、重要インフラに対する大規模なサイバー攻撃というシナリオは現実離れしている。さらに『2034』は、サイバー攻撃を過剰に評価している。
<情報戦、とくに影響工作の主戦場としてのSNS>
・SNS時代においては、ソーシャルメディアが世論の形成にますます大きな影響を与える存在になることを認識しなければいけない。私はSNSを多用しているが、SNSは影響工作の主戦場になっているという実感がある。
<我々はフェイクの時代を生きている>
<SNSを使った影響工作>
・インタ―ネットとSNSの普及により、真実や事実のみならず、偽情報や誤情報も流布され、私たちがそれらに踊らされる事例が数多く発生するようになった。
<中ロの影響工作とデュープス>
・SNSを使っていると、米国の大統領選挙や新型コロナのワクチンをめぐりSNS上で流布されている偽情報を簡単に信用し、その偽情報を自らも拡散する人たちの多さに驚かされる。私はこれらの人たちは、中国やロシアのデュープスではないかと思っている。ここでいうデュープスとは、「明確な意思をもって中国やロシアのために活動しているわけではないが、知らず知らずのうちに中国やロシアに利用されている人々」のことだ。中国やロシアが流す偽情報を信用して、その情報をSNS経由で拡散する人たちがなんと多いことか。
<米国大統領選挙における影響工作>
<2016年の米国大統領選挙における影響工作>
・影響工作が世界的に有名になったのは、2016年の米国大統領選におけるロシアの影響工作で、「ロシアゲート事件」とか「プロジェクト・ラクタ」と呼ばれている。ロシア参謀本部情報総局(GRU)は、ヒラリー・クリントン候補を落選させる目的で、彼女の選挙戦を不利にする偽情報などをSNSやウィキリークスなどに大量に流布した。
<2020年の米国大統領選挙における影響工作>
・2020年の米大統領選挙に際しても、諸外国による大量のメール送信やSNSなどに偽情報を流すなどの情報工作がなされた。
<Qアノン信奉者やトランプ支持者による偽情報の流布>
・典型的な偽情報のひとつに、「米大統領選挙で大規模な不正があり、じつはトランプが勝利していた」という主張がある。
このトランプ支持者がらみの偽情報が大きな影響力を発揮した要因は、トランプ前大統領自身が「米大統領選で大がかりな不正がおこなわれた。不正がなければ私が当選していた」という虚偽の主張を執拗にくりかえしたからだ。
<●Qアノンとは>
・中国やロシア以外にも複数の団体や個人が、2020年米大統領選挙に関連してSNSなどを通じて、偽情報を流布し、社会を混乱させた。これらの行為は、団体や個人による影響工作といえるだろう。彼らの代表がQアノンである。Qアノンとは、2017年10月に匿名掲示板「4chan」に政府関係者「Q」を名乗る人物が登場し、米政府の機密だと主張する内容の投稿を始めたことに由来する。アノンは、匿名を意味する「アノニマス」に由来している。「Q」はトランプ政権内にいた者だと私は思っている。
Qアノンの主張を熱狂的に信じる支持者(熱心な層だけで米国に数十万人)はトランプ支持者と重なる。彼らは「米国や世界はディープ・ステート(DS:世界を操る影の政府)に支配されていて、DSと戦う救世主がトランプだ」という陰謀論を信じている。
・このQアノンやトランプ支持者らの偽情報が大きな影響力を発揮した要因は、トランプ氏自身が「米大統領選挙で大がかりな不正がおこなわれた。不正がなければ私が当選していた」という根拠に乏しい主張を執拗にくりかえしたからだ。
<●QアノンやJアノンが信じた偽情報>
・日本にもQアノンの支持者が流布する偽情報を信じ、SNSで活発に偽情報を流す者が多数いるが、彼らはJアノンと呼ばれている。
<新型コロナをめぐる影響工作>
・新型コロナのパンデミックにともない、中国やロシアの「意図的な偽情報の拡散」が世界的な問題になっている。
さらに問題なのは、中国やロシアの偽情報とまったく同じワクチン陰謀論などをSNS上で拡散する日本人も相当数存在することだ。彼らは、知らず知らずのうちに中国やロシアの偽情報を拡散するデュープスの役割を果たしている。
<SNSの問題:偽情報や誤情報の流布をいかに防ぐか>
・現代は「フェイクの時代」だと私は思っている。2016年の米大統領選挙以降に顕著になった誤情報や偽情報などの有害情報やヘイトスピーチなどのSNS上での氾濫は「ポスト真実」の時代のひとつの表れだ。
<●事実は虚偽に負ける ⁉>
・情報を受け取る者にも問題がある。人はみたいものをみて、聞きたいものを聞き、読みたいものを読む傾向がある。人々はSNSを通じて事実か否かよりも面白さを重視して情報収集し、それを好んで拡散する。また、すでにもっている先入観に合致する情報を選択的に収集し、拡散する傾向がある。SNSで同じような考えの人とつながることを好み、自分が信じたい情報を好み、好みの情報を流布することにより、フェイクニュースが急速に拡散されていく。
<●アテンション・エコノミー(注目経済圏)>
・偽情報や誤情報はいかなるメカニズムによって、広がり浸透するのか。それについては「アテンション・エコノミー」の効果が注目されている。フェイスブックやユーチューブなどのビジネスモデルのベースは、人々が閲覧し、クリックすることでコンテンツ提供者に収入が発生するネット広告の仕組みだ。この構造全体は「アテンション・エコノミー」と呼ばれている。
<●訴訟による賠償請求など>
・最近、SNSで相手を誹謗中傷した者が訴えられて賠償請求されるケースが目立ってきた。将来的には、新型コロナワクチンに関する偽情報を流布した者が訴えられるケースが出てくる可能性もある。また、偽情報や誤情報を安易に垂れ流すソーシャルメディアに対する集団訴訟の可能性もあるだろう。
偽情報の垂れ流しに対する訴訟は、安易な偽情報や誤情報の流布に対する一定の抑止手段になる可能性はある。
<情報戦に際して個人で対応できること>
・SNSには偽情報や誤情報が満ち満ちている。出所の怪しい情報をファクトチェックすることなく簡単に信じている人たちがなんと多いことか。怪しい情報を鵜呑みにする人が、米大統領選挙の陰謀論者になり、同時にワクチンの陰謀論者になっている。
陰謀論の氾濫は、「誰もが自由に情報発信できること」が招いた危機である。
<宇宙戦:宇宙平和利用は甘い、宇宙での戦い>
<「宇宙の平和利用」が通用しない「宇宙は戦場」という現実>
<米国の宇宙政策>
<ドナルド・トランプ政権の国家宇宙戦略>
・トランプ前大統領が2018年3月に発表した、国家宇宙戦略は、米国が宇宙における覇権を死守することを宣言したものであり、その要点を紹介する。
・宇宙に関しては、米国の利益を最優先し、米国を強く、競争力があり、偉大な国家にする。
・米国の宇宙をめぐる足枷を取り除き、米国が宇宙サービスと技術において世界的なリーダーであり続けるための規制改革を優先する。
・宇宙における科学・ビジネス・国家安全保障上の利益を確保することが政権の最優先事項だ。
・米国の繁栄と安全にとって不可欠な宇宙システムの創造と維持において引き続き主導的役割を果たす。宇宙における米国のリーダーシップと成功を確保する。
・宇宙分野における「力による平和」を追求する。宇宙への自由なアクセスと宇宙での活動の自由を確保し、米国の安全保障、経済的繁栄、化学的知識を増進する。
・米国のライバルや敵が宇宙を戦闘領域に変えてしまった。宇宙領域に紛争がないことを望むが、それに対応する準備をする。米国と同盟国の国益に反する宇宙空間の脅威を抑止し、対処し、撃退する。
以上で明らかなように、トランプ前大統領の「アメリカ・ファースト」は宇宙にも適用される。明らかに宇宙における覇権を追及しているからだ。
<電磁波戦:みえない領域での危険な戦い>
<電磁波について>
<電磁波の軍事利用>
<ハバナ症候群>
<中國人民解放軍の「マイクロ波兵器」>
・マイクロ波を利用した対人兵器システムは、もともと米国企業が暴動鎮圧用に「非致死性兵器」として開発したもので、米軍はアフガンとの対立で短期間戦地へもちこんだが、使用しなかったとも言われている。
マイクロ波は、電子レンジや携帯電話に利用されることで知られているが、専門家によれば、95ギガヘルツのマイクロ波を照射されると、一瞬で皮膚表層が熱くなり、やけどこそしないものの、皮膚細胞の水分が体内に到達して脳や内臓にダメージを与え、頭脳、吐き気、記憶障害、激しい倦怠感などを引き起こすという。微弱なため、当初は自覚症状がなく、外傷も残さないのが特徴だ。兵器化にあたっては、その出力と条件を研究することが課題だともされる。
指向性エネルギー兵器とは、レーザー、メーザー波、マイクロ波、素粒子エネルギー、電子ビーム、音響など、多種にわたるエネルギーを使用して、目標物や人間に対して直接照射し、破壊したり機能を停止させたりする兵器だ。現在も研究開発の段階にあるとはいうものの、技術の進歩と投資の増加により、2027年までに、世界の指向性エネルギー兵器市場は大幅な拡大がみこまれている。
<電磁パルス(EMP)攻撃>
<EMP攻撃とは>
・EMP攻撃とは、核爆発などにより強力な電磁波(ガンマ線など)を発生させることで、電子機器に過負荷をかけ、誤作動を発生させ、破壊することを目的とした攻撃である。EMP攻撃は、パソコン、電車、飛行機、自動車、インフラなど、対象地域の全ての電子機器に致命的な打撃をもたらす。
核EMP攻撃は、高高度で核爆発をおこなうことにより、地上で人体に有害な影響――爆風、熱、降下物による被害――は発生しないが、電子機器に致命的な被害を引き起こすため、敵の防衛力を低下させる比較的簡単な手段であるとみなされている。このため、中国、ロシアなどは、核EMP攻撃は核攻撃ではないと主張している点が厄介である。
<西側は北朝鮮の核ミサイルの実験やEMPの脅威を軽視してきた>
<EMP攻撃シナリオ>
・プライ博士は、2020年6月18日の論考のなかで、「(世界は武漢ウイルスで右往左往している場合ではない。というのも、)中国は長年、EMP攻撃を計画してきた。中国のEMP攻撃こそ脅威なのだ」と主張している。
<北朝鮮による日本と韓国に対するEMP攻撃シナリオ>
・北朝鮮は自らが世界の大国であることを証明するために、国際法を無視して核ミサイルをテストし、配備している。北朝鮮の戦略は、核戦争の恐怖を高め、米国とその同盟国を従属させるために、「核による恫喝」を通じて韓国と日本に対する米国の安全保障協力関係を断つことだ。
●東京上空で核爆発を引き起こす
●EMP影響圏は北朝鮮には及ばない
●中国は米国の空母打撃群に対しEMP攻撃をおこなう
<日本よ、賢くて強靭な国家を目指せ>
<強靭な国家・日本を目指せ>
・「超限戦」の主張は、突き詰めれば、国家もマフィアやテロリストたちと同じ論理で行動しなさいということだ。しかし、国家が「超限戦」の教えを実践することにはリスクが大きすぎ、実行すべきではない。一方、中国には民主主義国家のような倫理や法の限界などない。超限戦は日本人をはじめとする民主主義国家がしてはいけない戦いなのだ。
<日本における機微技術管理を強化せよ>
・中国などの各種工作に有効に対処するのは難しい状況だ。「スパイ天国日本」の汚名を返上すべきだ。
そのためには、憲法第9条の改正とスパイ防止法の制定は急務であり、日本の膨張組織の充実、サイバー安全保障体制の確立も急務である。さらに、米国の輸出管理や投資管理を参考にした法令の整備も急務になっている。
<スパイ防止法の制定と諜報機関の充実を急げ>
・我が国はスパイ天国だと言われている。我が国にはスパイを取り締まる法律「スパイ防止法」がないからだ。スパイ防止法がないということはスパイ罪の規定がないということである。
我が国では、国家の重要な情報や企業等の情報が不法に盗まれたとしても、その行為をスパイ罪で罰することができない。スパイ行為をスパイ罪で罰することができない稀有な国が日本なのだ。
・日本以外の国では死刑や無期懲役に処せられるほどの重大犯罪であるスパイ活動を、日本では出入国管理法、外国為替管理法、旅券法、外国人登録法などの違反、窃盗罪、建造物侵入などの刑の軽い特別法や一般刑法でしか取り締まれず、事実上、野放し状態なのだ。
<日本の諜報機関の充実を>
・世界各国では、国外でも諜報活動を実施する米国のCIA、中国のMSS、英国のSIS、ロシアのFSB、ドイツのBND、イスラエルのモサドなどの有名な対外諜報機関が存在するが、日本には国外で諜報活動を実施する機関は存在しない。
<日本政治の抜本的な改革が必要だ>
・かつては「日本の経済は一流、政治は三流」と言われてきたが、一流と言われた経済も三流の政治の影響で二流の経済になる可能性がある。かつては政治が三流であっても、一流の日本企業が頑張って一流の経済を実現していた。しかし、失われた30年を経て、一流の企業が諸外国の企業に敗北するケースがだんだん増えてきている。電機産業や半導体産業が典型的である。
米国や中国をはじめとして主要国のなかで成長力が最低なのが日本である。ひとりあたりの国民実質所得が低下しているのも日本だけだ。失われた30年の責任の相当の部分は三流の政治にある。
・「多くの日本の政治家は本来の意味の政治家ではなく“政治屋”だ」と言う人がいる。私は「政治屋は次の選挙のみを考えるが、真の政治家は日本の将来を考える」と思っているが、日本の将来よりも自らの生活を優先する政治屋がなんと多いことか。そういう政治屋が中国のハニートラップやマネートラップに引っかかり、中国の代弁者になるのだ。
とくに政権与党の議員は奮起しなければいけない。議員一人ひとりが、厳しい国際環境のなかで日本が存在感のある国家として生き残るために何をしなければいけないかに集中すべきである。
<親中の政権与党・公明党の問題>
・中国共産党の機関紙である『人民日報』には、いかに公明党が親中であるか、いかに日本政府を親中に導いているかを記述した論考が掲載されている。
<統一戦工作や影響工作の実態を知り効果的に対処せよ>
・北京の世界戦略における第一の狙いは、アメリカの持つ同盟関係の解体である。その意味において、日本とオーストラリアは、インド太平洋地域における最高のターゲットとなる。北京は日本をアメリカから引き離すためにあらゆる手段を使っている。
<中国の超限戦に対して全領域戦で勝利せよ>
<「超限戦の中国」に「専守防衛の日本」は勝てるか>
・国際政治において、大国関係は基本的にゼロサムゲームである。一方が勝てば、他方が負けるという厳しい現実がある。日本人独特のガラパゴス的な発想を捨て、軍事や安全保障の要素をつねに取り入れた国際標準の発想をしないと、憲法前文に記述されている<国際社会における名誉ある地位>は確保できない。
<日本は現代戦のすべての分野で米中に比し出遅れている>
・米中ロは力を信奉する国々だ。この三国と比較すると、日本の現代戦への取り組みは遅れている。とくに米中に対しては、すべての分野において、出遅れていると言わざるを得ない。
・ここで強調したいのは、現代戦における日本の出遅れの原因は多岐にわたるが、最大の原因は憲法第9条にあるということだ。
・これらのドメインにおける戦いでは「先手必勝」の原則が成立する。なぜなら、攻撃する者は、いつどこを攻撃するかについて、主導権を持っているからだ。さらに、衛星が破壊される例が典型だが、攻撃による損害の早期回復が困難で、負けっぱなしになってしまう。だから、「先手必勝」なのだ。
また、防御のみの戦いでは勝てないし、防御的な手段には膨大な費用とマンパワーが必要だ。なぜなら、受動的な立場にある防御側は、すべての攻撃に備えなければいけないからだ。
現代戦における日本の出遅れを取り戻し、中国の超限戦に対抗するためには、まず第9条を改正するか、少なくとも専守防衛などの過度に抑制的な政策を見直すべきだ。
なぜ憲法改正が必要か。憲法が国家の根幹をなすものだからである。その影響は多分野にわたるからだ。
<最先端技術開発のために人材および予算を確保せよ>
・予算なくしてまっとうなAIの軍事適用などできない。思い切った予算の増額が必要だ。現在の防衛費はGDPの約1%枠内だが、中国や北朝鮮の脅威を勘案すると、AIのみならず防衛省の事業のほとんどの分野で予算不足が指摘されている。
防衛費の目標については、自民党の安全保障調査会が2018年5月に提言したGDP2%(NATOの目標値でもある)が基準になる。
<新たな「国家安全保障戦略」への提言>
・だからといって、全領域戦を無視するわけにはいかない。中国やロシアは全領域戦を日本に対して仕掛けてくるからだ。
日本は全領域戦の戦時下にあり、これに対処しなければ日本はあらゆる領域において侵略されるだろう。これが本書でもっとも言いたかったことだ。
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