国が財テクをしても、責任の所在がひどく曖昧だ。組織の状態を変えず投資に積極的になれば、それこそ莫大な損失を抱える可能性が生じる。(1)
『日本は世界1位の政府資産大国』
高橋洋一 講談社 2013/10/22
<日本国の資産総額は629兆円>
・2013年夏、国の借金が初めて1000兆円を超えたと報道された。財務省が8月9日、「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」の数字が1008兆6281億円であると発表したからだ。
・なぜなら、「国の財務書類」のバランスシートには、財務省にとって不都合な事実が書かれているからだ。2012年3月末現在のバランスシートには、「負債合計1088兆円」、そして「資産合計629兆円」とある――。
実は、財務省で日本国のバランスシートを初めて作成したのは、筆者だ。借金が大きいことを主張し、財政再建の重要性をいってきた主計局では、資産総額が明らかになることには反対で、筆者が国のバランスシートを実際に作ってから公表されるまでに10年程度の時間を要した。
IMF(国際通貨基金)などの国際機関では、国の負債の大きさに言及するとき、資産を引いた「ネット債務」で見るのが普通だ。資産を無視して負債だけを見るのは適切でない。
・しかも日本の場合、資産の中身が問題だ。現金・預金17.7兆円、有価証券97.6兆円、貸付金142.9兆円、運用寄託金110.5兆円、出資金59.3兆円の、合計428兆円もの金融資産がある。運用寄託金は年金資産だからまだいいとしても、有価証券は外国為替資金特別会計で為替介入した結果できた主にアメリカ国債を中心にした資産、貸付金と出資金はいわゆる特殊法人等への資金提供だ。
・まず、変動相場制を採る国では、これほど大きな外為資金を持たない。政府が為替に介入するのは好ましくないという国際的な統一見解が定着しているからだ。また、いわゆる特殊法人等は官僚の天下り先として問題になっており、先進国でこれほど広範な政府の「子会社」を持っている国もない。
・また、貸付金と出資金は、いわゆる特殊法人等を民営化すれば処分できる。しかし日本では、天下り先確保のために、民営化は頓挫している。その一方で、財政危機だといって、資産の処分を回避して増税する……。これでは国民を苦しめる一方で、官僚は天下り先を確保することになってしまう。
国の資産処分は財政危機に陥った国ならどこでもやっていること。それをやらないというのなら、日本は財政危機とはいえないだろう。
・IMFの対日審査――筆者も財務省時代に経験したが、実は日本のいうことを、そっくりそのままIMFが書いているだけだ。もうすこし丁寧にいえば、「起案:日本」「書き手:IMF」の共同作業なのだ。
・このように、日本に住んでいるのであれば、新聞やテレビの情報を当てにしてはいけない。こうしたほんの少しの義憤を感じて、私は本書を書いた。
・日本には1000兆円を超える見かけ上の債務はあるが、約630兆円もの「政府資産」が存在する。筆者が2011年に調べたとき、アメリカの「政府資産」は約150兆円だった。すると日本政府は、GDPが3倍も大きいアメリカ政府の、4倍以上にもなる巨大な資産を持っていることになるのだ。
<役人が狙う年金準備金100兆円>
<114兆円の年金基金GPIF>
・GPIFは、日本のGDPのおよそ4分の1の運用資産を持つ世界最大級の年金基金である。
・一方、桁が一つ違う資産規模を扱っているGPIFの職員数は、2010年4月時点で75人しかいない。この人数で真っ当な運用ができるはずもなく、これこそ、丸投げしている証拠である。
なお、ポイントは積立金を株などで市場運用しているということ。アメリカでは、連邦老齢遺族傷害保険(OASDI)は200兆円程度の積立金を持っているが、すべて非市場性の国債の引受であり、株などの運用はしない。
私がアメリカ政府関係者に「NO」といったのは、年金資金の市場での運用ほど、国が行う事業として不適切なことはないからだ。
「わざわざ国が国民から強制的に年金保険料を徴収し、それを国民に代わって財テクする理由がわからない。積極運用が好きな国民なら、自分で財テクすればいいのだから」アメリカ政府関係者には、そんなふうにいった記憶がある。
<年金がたばこ株を持つとどうなる>
・そうこうしているうちに、当時のクリントン大統領が公的年金の株式運用をぶち上げてしまった。ところが、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)議長のグリーンスパン氏をはじめとして、株式市場への介入に対する反対論が相次いだ。旗色が悪いと感じるやいなや、クリントン大統領はあっさりと提案を撤回した。
そのときの、グリーンスパンの言い分がきわめて興味深かった。私が主張したように、市場での運用は政府の活動として不適切だという一般論に加えて、次のような論理を展開したのである。
「政府は健康のためにたばこ会社に対して厳しい措置をしなければいけないが、そのときに公的年金でたばこ会社株を持っていたらどうするのか」非常にわかりやすい。
<年金で株を運用する真の狙い>
・これに対して、大半の市場関係者は賞賛の声をあげたが、果たして本当にそうだろうか。先述した通り、国が財テクをしても、責任の所在がひどく曖昧だ。組織の状態を変えず投資に積極的になれば、それこそ莫大な損失を抱える可能性が生じる。
・なお、この運用資産の組み入れ構成を変化させる理由について、役人は、「少子高齢化で加入者が減る一方、受給者は増える。運用利回りの改善が必須」と主張する。投資が成功するのが大前提となっている。実際には1993年から2013年までの20年間におけるGPIFの運用成績は、とんでもないが芳しいとはいえない。
<インフレで喜ぶのは資産家だけか>
・全体を見渡せば、株高によって年金運用がずいぶんと楽になったという事実がある。
2012年10月から12月における、厚生年金と国民年金の公的年金積立金を運用するGPIFの運用益は、約5.1兆円。公的年金の保険料は30兆円程度なので、この運用収入は大きい。
<担当者一人で年金運用ができる妙手>
・GPIFを通じた株式の運用から物価連動国債の引受に――これでGPIFを即刻廃止することもできるし、厚労省の担当者一人だけで行える話だ。この担当者は、「今月はいくら買います」と、財務省に電話すればいいだけなのだから。
こうした提案に反対するのは、GPIFだけではない。GPIFから運用委託を受けている民間の金融機関もそうだ。100兆円を超える資産を運用し、その信託報酬を0.1パーセント取れただけでも、金融機関には手数料として1000億円が転がり込む構図になっている。金融機関にしてみれば、年金運用は外為資金の運用とともに、とてもおいしい仕事なのだ。
<国民が年金運用先を選ぶ制度>
・現状では、政治家やマスコミは年金の危機を訴えたり、その運用に疑問を唱えたりするが、その主張はGPIFといった組織の存続を大前提としている。しかし、GPIFの存続を許せば、既得権益の存続を許し続けることとなり、結果的に国民の年金を危機に陥らせることにつながりかねない。
つまり、GPIFの組織そのものを廃止・縮小できるかどうかが、年金改革の根幹になるともいえる。
国民から日本年金機構、日本年金機構からGPIF、GPIFから金融機関という形でカネが流れているが、国民が直接、金融機関に納入できるようになれば、日本年金機構やGPIFのような中間搾取団体をなくし、無駄なコストカットもできる。
今後、政治がGPIFにどのようなメスを入れるのか――国民はそこに注目しなければならない。
こうした日本国の仕組み自体を根底から変える改革が成功すれば、2020年には、日本の成長率を実質3パーセント以上に引き上げることもできる。
<天下り法人を廃止する方法>
・莫大な資産を保有するとは、裏返せば、政府の外郭団体が非常に大きいということを意味している。多くの外郭団体や特殊法人に資金を融資しているから、結果的に資産が巨額になる。そして、融資の見返りとして天下りポストを拡大するのだ。
この意図で霞が関が作った特殊法人や独立行政法人は、実に約4500。そこに25000人が天下りし、国費が12兆円も注ぎ込まれた。この数字を見れば、日本の公務員の数が少ないというのもまやかしだということがわかる。こうした法人で働く人間も、実質的には「公務員」だからである。
<300兆円は容易に捻出できる>
・バランスシートが苦手な学者やマスコミは、この財務省の言い分を鵜呑みにし、そのまま発言するが、これが真っ赤な嘘であることは、バランスシートをチェックすればわかる。
金融資産428兆円の内訳を見ると、有価証券97.6兆円、貸付金142.9兆円、出資金59.3兆円、運用寄託金110.5兆円など。財務省が取り崩せないとする年金の積立金(運用寄託金)は、110.5兆円で、資産の2割程度だ。財務省の「多くは社会保障の積立金」という表現は、詐欺的であることがわかるだろう。それ以外の300兆円くらいは、すぐに売れるはずだ。
<日本再生の3段階とは>
・小泉改革から取り組みが始まった政府資産の圧縮は、官僚べったりで財務省に牛耳られていた民主党政権下で完全に骨抜きにされ、ひたすら政府は増税へと歩を進めた。そして財務省は、自民党政権に替わったいまも、ホップ、ステップ、ジャンプで大増税を企んでいる。
逆に、日本の再生への道筋を、この財務省の3段階の増税路線になぞらえれば、次のようになる。
ホップは「経済成長」。デフレを解消するとともに経済成長政策によって少なくとも名目4パーセントの成長を達成し、税収増を目指す。
ステップは「埋蔵金」の拠出。政府資産は、元はといえば、税金から形成され他国民の資産である。国民のために使わずに、政府が温存し、官僚が自分たちのために使い、なおかつ国民にさらなる負担を求めるのは、とんでもない話だ。
ジャンプは「公務員人件費カット」。国家公務員や地方公務員の人件費を2割カットすれば、6兆円の財源ができる。これが毎年使えるようになるのだ。国民感情からいっても、増税して国民に負担を強いる前に公務員が血を流すべきだ。
<無駄遣いしても5兆円の埋蔵金が>
・特別会計の余剰金はまだまだある。
たとえば、厚労省所管の労働保険特別会計には、数理に基づいた保険料が設定されていないために、「私のしごと館」など無駄遣いをしても埋蔵金が5兆円程度あったのだ。
<財務省の増税三段跳び>
・財務省の戦略は「増税一直線」。ホップ、ステップ、ジャンプの増税三段跳びだ。これは、東日本大震災直後、不謹慎にもいわれていたことである。
震災直後には、復興財源のために増税が行われ、その次は社会保障のための消費税増税が行われる。これら増税は復興や社会保障に充当するので、直ちには財政再建にはつながらない。その後に、本格的な財政再建増税になる。ホップが復興増税、ステップが社会保障、ジャンプが財政再建という三段階大増税計画だ。
<消費税の社会保障目的税化の罠>
・財務省が民主党政権を使って導いた消費税の社会保障目的税化は、理論的にもあり得ない。まず、所得の再配分、給付と負担の明確化という社会保障の二大原則に反している。
消費税と所得税の性格からいっても、消費税を社会保障財源にするのはおかしい。
・根源的なことをいえば、そもそも消費税が国税になっているのがおかしいのだ。
日本ではなぜ、消費税が国税として徴収されているのか。消費税はフランス大蔵省が発明したもので、徴税コストが安いうえ、大きな税収が得られる優れた税。だから財務省が、安定的な財政収入を確保するといって話さないのだ。
つまり、消費税を社会保障目的税化すれば消費税を国税として固定化できる――これが財務省の社会保障と税の一体改革の狙いなのだ。
『財政破綻に備える』 今なすべきこと
古川元久 ディスカヴァー携書 2015/6/18
<日銀のジレンマ~出口の見えない異次元の金融緩和~>
・かつては民間金融機関に加えて、GPIFや郵貯などが国債を買い支えてきたが、今は、日銀がその役割を担っているという話をした。日銀はどんな高値でも国債を大量に購入するから、長期金利は上がらない。では、いつまで量的緩和を続けるのであろうか。
本来、日銀の金融政策の目的は、物価の安定であるから、仮に目標である物価上昇率2%を達成したら(この目標自体、達成は容易ではないが)、もはや日銀が国債を買い続ける必要はない。2%を達成したのちも、国債を買い続けたとしたら、それこそ金融政策としてではなく、政府の借金を賄うためにお金を刷って国債を買う、財政ファイナンスだと認識されるだろう。
・だから、いずれは、米国のように、日銀も出口を考えなければならないが、それは量的緩和を絞ることであり、日銀が国債を買う量を減らすことを意味する。健全化のためにはそうしなければならない。リフレ派の人たちも、物価が2%を超えれば、日銀はもはや国債を買い続けなくてもいいと言うかもしれない。
・したがって、仮に日銀が出口戦略を実施した場合には、皮肉ではあるが、それが金利上昇のトリガーとなるのである。
金利が上がれば、これも前述したように、金融機関の保有する国債の巨額の評価損から金融危機を招いたり、政府の利払い費の急増から財政の急激な悪化を招き、現在潜在的に抱えているさまざまな問題が顕在化し、それこそ財政破綻につながっていくだろう。
・だから、少しでも金利が上がりそうになれば、また日銀が買う。それで金利を抑える。どんどん買い増すしか他に方法が見当たらない、ということになることは必至である。今は物価上昇率が2%になったら国債購入額を減らしてもいいと言っている人たちも、そうなったらきっと日銀に国債を買い続けろと言うに違いなく、日銀は政治的にも猛烈なプレッシャーを受けることになるだろう。
専門家や関係者と話をすると、多くの人が同じ概念を持っていることがわかる。それは、「もはや、どう考えても出口はないのではないか」ということだ。つまりは、日本は戻ってこられない道に入り込んでしまったのではないかという心配だ。
・この先、日銀の行きつく先はどうなるのであろうか。
結局、低金利のままでは、誰も国債を買わないから、ひたすら日銀が国債を買い続けなければならなくなる。するとそれだけ市中に通貨が出回るわけだから、通貨価値はどんどん減っていく。大幅な金利上昇、大幅なインフレが起こるマグマはどんどん溜まっていく。
いったい政府が発行する国債をすべて中央銀行が買うような国家を誰が信頼できるだろうか。そうなったら財政ファイナンスだと思われ、日銀の信用は失墜する。国債の格付けは下がり続けるだろうし、破綻すれば、通貨は暴落するから、その前に円建ての資産は投げ売られる。結局、日銀がいくら国債を買い続けても、やがては崩壊の道をたどることになるだろう。
・だからこそ、私たちが今から考えなければならない対応は二つある。
一つは、日銀が出口戦略を進めようとした場合に、金利が上昇するのは巨額の財政赤字がリスクプレミアムとして金利に上乗せされるからでもあるので、それだけで金利上昇を回避できるかどうかはわからないが、少なくとも財政の健全化を具体的、かつ、強力に進めなければならないということだ。
もう一つは、万一財政が破綻した時でも力強くしなやかに生き抜くことができるような社会構造を今のうちから作っておくことだ。
<はたして円安は日本にとって好ましいのか>
<「円安は善、円高は悪」は時代遅れの発想>
・安倍総理のいうように「輸出」という観点で考えれば円安は好ましいが、逆に言えば円安は「輸入」の際には日本が弱い立場に追いやられることを意味している。また輸出企業といっても、国内で原材料を調達して国内だけで生産をしている企業が今どれだけあるだろうか。実際にほとんどないのではないだろうか。海外から原材料を輸入して国内で生産して、その製品を輸出したり、そもそも海外で最初から生産を行なったり……。そういう企業がほとんどではないだろうか。だからこそこれだけ円安が進んでも輸出はほとんど増えていないのだ。
アベノミクスが目指す円安による輸出増は、確かに国内で生産して海外に輸出することが主だった昭和の時代、それこそ高度経済成長の時代であれば、大幅に円安が進めば、それより大幅に輸出も増加することを期待することができただろう。しかし、時代は大きく変わったのだ。
・帝国データバンクが全国10583社を対象として行った円安の影響についての調査結果が15年1月に発表された。これによれば、全体の46.2%が円安は業績にとってデメリットが大きいと回答している。それに対してメリットのほうが大きいと回答した企業はわずか7.2%に過ぎない。
<通貨の価値は国力を表す>
・こうした例を見れば、通貨の価値は国家の信用力や国力を示しているということがいえる。したがって国家として考えれば、基本的に通貨の価値は少しでも高い方がよいと考えるのが国家の指導者としては当然だと私は思う。目先の輸出や海外からの観光客の増加は確かに魅力的に見えるかもしれないが、通貨安は長い目でみればじわじわと国力を落としていることにほかならない。
<円安進行が招く国力の低下>
・この円高トレンドから円安トレンドへの為替相場の長期的トレンドの転換は、今後、日本社会にさまざまな形で大きな影響を及ぼしてくる。その影響を最小限に食い止めるためには、これまで無意識のうちにビルトインされていた、円高トレンドを前提とした私たちの生活様式やビジネスモデル、政策等々、あらゆるものを見直していかなければならない。さもなければ今後、円安の進行とともに日本の国力は衰え、国民の生活水準も低下していってしまうだろう。
<自立した地域社会が日本を救う>
・都会が田舎に頼るのは、実際にはこうした危機のときだけではない。都会の人たちがふだん使う電力や食べるものの多くは田舎でつくられている。またそもそも、都会がこれまで繁栄を続けることができたのは、田舎から人をどんどん引き寄せてくることができたからだ。
つまり都会は、都会だけでは生きていけないのだ。もちろん田舎も、田舎だけでは生きていけない。都会と田舎は、両者が共に共存して初めて、互いに繁栄できる。いま「消滅自治体」などという言葉に象徴されるように、日本の中から田舎が消滅し始めているが、こうした状況がこのまま進めば、それはいつか都会の衰退、消滅にもつながっていくのだ。
そうならないために必要なこと。
それはさまざまな形でふだんから都会と田舎とをつなげていくことだと私は思う。
学校では絶対に教えてくれない『僕たちの国家』
三橋貴明 TAC出版 2014/1/10
<日本政府の借金は毎月減り続けている!>
・現在、日本銀行はデフレ脱却を目指し、国債買入れ(いわゆる量的緩和)を拡大しています。結果的に、日本政府の実質的な借金は、毎月数兆円のペースで減り続けているのです。12年9月末と比べると、13年6月時点ですでに24兆円も「実質的な政府の借金」が減少しました。
・ところで、中央銀行が国債を買い入れ、実質的な政府の借金を減らせるのは、我が国の「国の借金」が自国通貨建てであるためです。政府が外貨建て、共通通貨建てでお金を借りている国は、日本と同じことはできません(ギリシャなど)。ちなみに、日本政府が発行した国債は、外国人が保有する分(5%弱ですが)を含め、100パーセント日本円建てです。
・しかも、日本は長期金利(10年物国債の金利)がわずか0.6%と「世界最低」です。さらに、デフレで日銀の国債買入れ余地も大きいのです。我が国には「財政問題」は存在しません。加えていうならば、わが国の「対外純資産(=対外資産―対外負債)」の金額は世界最大です。我が国は「国家」としてみると、世界一のお金持ち国家なのです。
・それにもかかわらず、財務省は「国の借金、1000兆円突破。国民1人あたり800万円の借金!」といった「ウソ」を振りまき、国民を騙し続けています。そもそも、「国の借金」という言葉がプロパガンダ用語です。国の借金ではなく「政府の負債」が正しい用語になります。何しろ、財務省がいう「国の借金」を借りているのは、日本国家でも日本国民でもなく、日本「政府」なのです。
<日本国民は国の借金の「債務者」ではなく「債権者」>
・さらにいえば、政府の負債は「国民の借金」ではありません。というよりも、政府の負債を「貸している債権者」こそが、日本国民なのです。「自分は国債など買っていないし、政府にお金なんか貸していない」と反駁したくなった人もいるのかもしれません。国債を保有していない人であっても、間違いなく日本政府にお金を貸しています。何しろ、国債を持っている個人は少数派ですが、銀行預金を持たない人はいません。
<公務員――日本の公務員数は少ない。間違った認識の下では制度改革はできない!――>
・「一般政府雇用者」には、特殊法人や独立行政法人など政府系企業の職員、自衛隊員、国立大学の教授などが「すべて」含まれています。日本の公務員数は、対労働人口比で見るとOECD諸国の中でもっとも少ないというのが、厳然たる真実なのです。
<公務員の給与もOECD中で最低レベル>
・さらに、公務員の給与である一般政府雇用者報酬対GDP比率も、日本はOECDで最低です。国民の所得つまりは名目GDPとの比較で見ると、日本はもっとも公務員給与が「最小」の国です。そもそも公務員数が少ないわけですから、公務員給与の対GDP比が小さくなって当たり前なのですが。
<警察――警察官が増員され、日本の犯罪認知件数も減少した!――>
・日本の犯罪認知件数はここ数年、減り続けている!
<デフレはやるべき手を打てば必ず終わる!>
・ところで、世に集う「デフレ論者」の中には、
「日本は○○であるため、デフレは何をやっても終わらない」
と主張する、おもしろい人たちがいます。○○に入るのは、「人口減少」「少子化」「経済の成熟化」などになるわけですが、日本が本当に「何をやってもデフレ脱却できない」が事実であるとすると、これほどすばらしいことはありません。何しろ、日本が永遠にデフレであると仮定すると、日本銀行がどれだけ莫大な通貨を発行しても、インフレにならないということになってしまいます。
・日本政府は必要なだけ日本銀行に通貨を発行させ、消費、投資、所得再分配として支出すればいいのです。税金は徴収する必要はありません。「無税国家日本」の誕生ということになります。
もちろん、日本銀行が「無限に」通貨を発行しても、インフレにならないなどということはあり得ません。日本のデフレは、単に政策のミスにより継続しているだけです。政府が正しいデフレ対策を打ちさえすれば、我が国の長年の宿痾とでもいうべきデフレは終わります。
<法人税減税は「国民」経済の成長に貢献するとは限らない>
・それにもかかわらず、国民すべてに負担を強いる「消費税増税」の代わりに、法人税減税が検討されている現状は憂うべきです。現在の日本政府の政策は、日本国民の所得拡大という目的に反している可能性があります。
<自衛隊――装備品は軍隊そのものでも軍隊ではない国防組織――>
・法律に書かれたこと以外の行為を、自衛隊が行うと「違法」になってしまいます。
・ポジティブリスト方式の自衛隊は、攻撃を受けた友軍のために反撃することすらできません。何しろ、集団的自衛権はポジティブリストに載っていないのです。
というわけで、安倍政権は憲法解釈を変更することで、自衛隊の集団的自衛権行使を容認しようとしています。日本とは、本当に奇妙な国です。
<法律では定められていないが、防衛費はGDP比1%未満>
・逆に、GDPが低成長であっても、安全保障の危機が高まっているならば、防衛費は増額しなければなりません。さもなければ、国家という共同体の安全が確保されず、国民の生命や財産に危険が及ぶことになります。
<隣国は、過去24年間で国防費が30倍に増えている>
・安倍政権あるいは自民党は、最終的には憲法9条を改正し、自衛隊を「国民に適切な安全保障サービスを提供できる組織」に変更しようとしています。すなわち、自衛隊の軍隊化です(ちなみに、名称は自衛隊のままでも問題ありません)。
<「自国語」で大学教育を執り行える国は限られている>
・日本のマスコミでは、「タイや韓国では、大学教育を英語で受けられる。すばらしいー」などと、卑屈としか思えない論調を見かけます。現実には、タイヤ韓国はすき好んで大学教育を「英語」で行っているわけではありません。自国の言語、語彙では、外国の概念を翻訳し、正しく伝えることができないからこそ、英語のまま学生に教えるしかないのです。
<抑止力として核兵器保有>
・ちなみに、日本がまともな外交を実現するには、軍隊を持ち、最終的には核武装をするしかないでしょう。
・そもそも日本人の多くが勘違いしていますが、核兵器は「使用する」ために保有するわけではありません。現在の核保有国にしても、たとえ中国にしても実際に使用することは想定していないでしょう。核兵器を保有するのは、単にそれが抑止力になるためです。
・核兵器とはあまりにも攻撃力、殺傷力が高すぎるため、核保有国同士が戦争をすると、最終的に双方が必ず破滅することになります。結果、核保有国同士が核兵器を打ち合う事が発生しないのはもちろん、通常兵器による紛争も起こせなくなるのです。この考え方を相互確証破壊といいます。
・今後も、大国同士が総力戦となる第3次世界大戦は発生しないでしょう。なぜならば、相互確証破壊が成立し、互いに破滅的な結末を迎えるであろうことがわかっているためです。
・ちなみに、日本の憲法9条改正や核保有に対し、中国や韓国は猛烈に反対するでしょう。とはいえ、それ以上に厄介な国があります。日本の再軍備をもっともイヤがる国は、実は中国でも韓国でもないのです。その国とは、もちろんアメリカです。
<日本政府は防災に力を尽くすことが急務>
・幸い(?)なことに、現在のわが国には政府が絶対に支出を増やさなければならない分野が存在しているのです。すなわち、防災です。現在の日本は、首都直下型地震と南海トラフ巨大地震という、2つの「国難級の災害」が発生する可能性に直面しています。
◆首都直下型地震
マグニチュード7クラス発生確率:30年以内70%
死者:1万2000人(M8クラスで15万人)
建物全壊:85万棟(M8クラスで300万棟)
経済被害総額:112兆円(M8クラスで325兆円)
◆南海トラフ巨大地震(東海・東南海・南海地震の連動)
東海地震発生確率:30年以内88%
東南海地震発生確率:30年以内70~80%
南海地震発生確率:30年以内60%
東海・東南海・南海地震の3つが連動するケースを「南海トラフ巨大地震」と呼びます。
・『東海地方、近畿地方、四国地方及び九州地方それぞれが大きく被災するケースで、今回の想定の組み合わせで推計される被害の大きさは下記のとおりである。』
◎ 東海地方が大きく被災するケース
全壊及び焼失棟数:約954千棟~約2382千棟
死者数:約80千人~約323千人
◎ 近畿地方が大きく被災するケース
全壊及び焼失棟数:約951千棟~約2371千棟
死者数:約50千人~約275千人
◎ 四国地方が大きく被災するケース
全壊及び焼失棟数:約940千棟~約2364千棟
死者数:約32千人~約226千人
◎ 九州地方が大きく被災するケース
全壊及び焼失棟数:約965千棟~約2386千棟
死者数:約32千人~約229千人
『「死に体」中国の宿命』 歴史が示す習政権の末路
石平 宝島社 2015/8/20
<汚職の一掃に乗り出した習近平体制>
・もちろん、摘発・立件された汚職者は氷山の一角にすぎない。
・つまり、20数年を経て、汚職はすでに「数千万元時代」から「数億元、あるいは数十憶元の時代」へと大躍進しているというわけだ。
<取り締まる側の政権幹部も腐敗まみれ>
・これほど腐敗が深刻化すれば、当然人民から大きな反発を買うことになる。それは中国で近年、流行っている新造語の一つを見ればわかる。「仇富仇官」という言葉であるが、日本語に直訳すれば「お金持ちを仇敵にして官を目の仇にする」ということになる。つまり、中国の一般国民の目から見れば、お金持ちになるのはみな共産党の幹部(官)とその一族であり、彼らこそが人民の仇敵というわけだ。
<民衆が暴徒化するきっかけとは?>
・以上が中国全土を震撼させた「広州暴動」の一部始終である。暴動のきっかけとなった被害者の露天商夫婦と、暴動参加の主力はみな、農村部からの出稼ぎ労働者であることが特徴的である。中国では農村からの出稼ぎ労働者のことを「農民工」と呼ぶが、この暴動はまさしく「農民工暴動」なのである。
<暴動多発の温床となる「農民工」の存在>
・都市部に大量に集まってきている農民工たちは今や暴動発生の温床となっており、彼らこそが暴動などを起こして社会の秩序を一気に引っくり返す「危険な存在」となっているのだ。
・2013年9月に発表された統計によれば、流動人口の数字がさらに増えて、2億6000万人に膨らんだ。中国の「流動人口」とは、要するに安定した生活基盤を持たず、職場や住居が転々と変わる人々のことを指す。日本の総人口より1億人以上も多い人々がこのような不安的な生活をしている。その人々の大半が内陸部の農村から流れてきた「農民工」であり、前述の「8割が農村戸籍」という数字でも示されている。
・つまり、今の中国では、いつでも暴動を起こしそうな「暴動予備軍」としての農民工が2億人以上もいる、という驚くべき現状があるのだ。ここに本書が王朝崩壊史の中で論じてきた、流民の大量発生という条件が揃ったことになる。
<農民の生活基盤を破壊した経済成長>
・ここからわかるように、中国経済は民間消費、つまり内需ではなく、政府による公共事業や民間の不動産投資が牽引してきたのである。とにかく中国ではこの数十年間、全土で公共投資や不動産投資が盛んに行われ、道路や鉄道や不動産などの開発が進み、それが経済の急成長を後押ししたのである。
<公共投資で経済成長の数字を稼ぐ地方官僚>
・つまり、各地方政府主導の土地転売と不動産開発により農民たちの生活基盤を潰すことで、中国経済は土地と労働力という二つの資源を手に入れたのである。実はそれこそが「流動人口2億6000万人」が生まれた最大の理由である。
しかし、農民の生活基盤を奪うことで創出してきた経済成長は今、破綻と崩壊の重大危機を迎えようとしている。その1つは、2014年4月に始まった中国の不動産バブル崩壊である。
<「カンフル剤頼り」の経済政策が破綻する>
・この一件から露呈したのは深刻な資金不足を抱える中国の金融システムの脆さである。問題は貯金率のひじょうに高い中国で13億の人民から膨大な貯金を預けられている中国の各銀行が一斉に「金欠」となったのはなぜか、である。
その理由は、実に簡単だ。中国の各銀行が、預金者から預かっているお金を無責任な放漫融資や悪質な流用などで放出しすぎたからである。
<過剰な投資が生んだ数々の副作用>
・無計画な投資拡大が莫大な不動産在庫と企業の生産過剰を生み出した結果、これらは回収不可能な不良債権と化していった。貸し出した資金が回収できなくなると、各銀行は当然、大変な資金不足に陥ってしまうのである。
・このようなことは今までにもよくあったが、温家宝首相の時代は一般の銀行が「金欠」となると、中央銀行はすぐさま彼らに救済の手を差し伸べて無制限に資金を供給した。しかしその結果、中央銀行から放出される貨幣の量が洪水のように溢れてきて、深刻な過剰流動性を生み出したのである。
<流通貨幣量が100兆元を突破した!>
・2014年4月10日、中国の各メディアが中国人民銀行(中央銀行)の公表した一つの経済数値を大きく報道した。2014年3月末の時点で、中国国内で中央銀行から発行され、市場に流通している人民元の総量(M2)が初めて100兆元の大台に乗って103兆元に上ったという。
ドルに換算してみると、それは米国国内で流通している貨幣総量の1.5倍にもなる。経済規模が米国よりも小さい中国国内では今、「札の氾濫」ともいうべき深刻な過剰流動性が生じてきていることがよくわかる。
・2002年初頭、中国国内で流通している人民元の量は16兆元程度だった。流動性が11年間で6倍超に増えたことは、世界経済史上最大の金融バブルと言える、
<2014年以降、目立つ不動産バブル崩壊の兆し>
・こう書いているだけでも、中国における不動産バブルの崩壊は決定的な趨勢となっている観がある。問題は、バブルがついに崩壊したとき、それが中国の経済・社会情勢にどのような影響を与えてくるのかである。実はそこからはまさに、本書の論ずる「共産党政権の崩壊」における最大の正念場となってくるのである。
<不動産バブル崩壊で生まれる大量の流民>
・かつて日本の経験したことからしても、バブル崩壊がもたらす経済的悪影響の1つは、金融機関が大量の不良債権を抱え込んで全体の金融活動が急速に委縮して停滞することであろう。
そして金融活動の停滞は結果的に生産活動の停滞を招き、経済の冷え込みを誘うことになる。しかも、不動産バブルが崩壊すれば、不動産投資が大幅に減少することとなり、それまでに不動産業の繁栄にぶら下がって膨張してきた鉄鋼産業やセメント産業など多くの基幹産業にも深刻な影響を及ぼす。
・そして中国の場合、不況となると、まず起きるのは製造業での人員整理、つまりリストラの嵐が吹き荒れることだ。真っ先にリストラの対象となるのは「農民工」たちだ。都市部で市民権を持たない彼らのほとんどは正規雇用ではない。さらに特別な技術も持っていないから、首も一番切りやすい。
・今後数年間、輸出産業からも鉄鋼などの基幹産業からも、そして彼らの最大の就職口の不動産投資の建築現場からも、まるで使い捨ての「不用品」のように農民工たちが大量に吐き出される事態が生じてくるだろう。
しかし、問題はこうした農民工が都市部から「余剰労働力」として吐き出されても、農村にはもう戻れないということだ。今の農村地域には、彼らが耕す土地も生計を立てる職もない。中国の耕地面積では、今いる7億人の農民すら食わせることができない。数十年間の不動産開発で大量の耕地を奪ったツケがきているのだ。
・そうなると、2億人以上いる農民工の多くは行き場を失い、正真正銘の「現代流民」になるしかないのだ。平素より社会の底辺で生きていてこの国の現状に大変な不平不満を募らせている彼らが「現代流民」となれば、いつ大爆発を起こしてもおかしくない危険性を孕むことになる。
これをもって、数千年の歴史の中で数多くの動乱と崩壊を経験してきた中国において、崩壊をもたらす大動乱発生の条件はいよいよ整ってきているようである。
<「赤い王朝」が崩壊する二つのシナリオ>
<共産党政権も認識する「大革命前夜」の危機的状況>
・ここまで現在の中国を支配している共産党政権という「赤い王朝」の歴史と現状をさまざまな角度から見てきて、崩壊と民衆反乱の発生条件が整ったことがよくわかっていただけただろう。
中国の歴代王朝の崩壊史から見つけ出した「王朝崩壊の要素」は、何度も繰り返すが、次の三つである。
1.権力者による国家の私物化と人民からの収奪
2.反乱勢力の主力をなす流民の大量発生
3.知識人の王朝からの離反
この三つは、現在の中国で見事に揃ってきている。中国の長い歴史から見れば、現在の中華人民共和国はまさに、王朝崩壊の前夜にさしかかっているのである。
実は、現在の共産党政権自身も、このような危機的状況を認識している。
<権力を使って規制を強める習近平政権>
<知識人と農民工が手を組んで始まる真の革命>
<社会に不満を持った「大卒未就業者」の存在>
・たとえば2013年には、中国全国の大学から699万人の大学生が卒業したが、政府当局の発表した水増しの数字でも、彼らの約3割が就職できなかったという。3割が就職できていないということは、200万人程度の「大卒未就業者」の誕生を意味する。今から7年前の2007年から「就職前線超氷河期」はずっと続いているから、全体数は1000万人を優に超えている計算となる。
・そのとき、国内で何らかの突発的事件、たとえば農民工や蟻族の誰かが官憲によって迫害されたり殺されたりするような衝撃的な事件が起きれば、それをきっかけに知識人と蟻族と農民工がどこかの地方で立ち上がる。さらにインターネットを通じて全国に伝われば、大反乱があっという間に全国へ広がることは十分にあり得る。
・その際、彼らは武器を取って蜂起する必要はまったくない。長年の独裁政権を一気に潰してしまったかつてのエジプト革命のように、知識人と蟻族と農民工からなる数百万人、あるいは数千万人の人々が北京、上海などの各大都市に集結してその中心部を占領して抗議集会やデモを行えば、それが大革命の発生となるのである。
もちろんそれで中国共産党政権が一夜にして潰れることはないだろう。しかし、数千万人参加の大革命が現実に起きてしまえば、それは間違いなく、内乱勃発と政権崩壊の第一歩となる。共産党政権下での「天下泰平」はもう二度と戻ってこなくなる。新しい政治体制と政権が革命の嵐の中で誕生するまでは、中国という大国は天下大乱の時代から逃れられないのである。
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