こうして日銀は「過去の間違い」を正当化するために、その後もずっと間違いを犯し続け、デフレを引き起こし放置し、どんどん悪化させました。(3)
<移行期の経済分析、マルクス経済学の課題>
<21世紀の資本主義の生産力基盤の分析と「理論の拡張」>
・詳しい解説は省きますが、一言で言えば、現代資本主義の生産力基盤は、機械製大工業にICT革命が付け加わって構成されています。そのもとで、近年は、さらにAIが急速に進化し、さまざまな産業・社会分野に応用されつつあるが、これはまだ社会全体の生産基盤にまではなっていません。しかし、AIは、おそらく21世紀後半には生産力基盤の重要な役割を果たすようになると思われます。
<AIの進化と労働過程論、剰余価値論の「理論の拡張」>
・コンピュータやAI、ビッグデータやIoTなどによって、労働過程の内と外がつながるようになり、介護や医療などの対人関係の労働、サービス労働、ケア労働の労働過程も変化しています。『資本論』の労働過程論の「理論の拡張」が求められています。
<資本蓄積のグローバル化と再生産論の「理論の拡張」>
・現代の支配的資本は、ICT革命などの巨大な生産力を掌握することによって、「生産と資本の集積・集中」を新たな段階におしすすめてきました。独占『資本論』の「生産と資本の集積・集中」は、言うまでもなくレーニンが『資本論』の資本蓄積論を基礎にして、20世紀初頭の資本主義の研究によって理論的に発展させたものです。
<労働力の再生産過程の「理論の拡張」(人口問題)>
・労働力の再生産、雇用・失業問題などの分野では、『資本論』で解明された相対的過剰人口の法則は、現代の資本主義のもとでも基本的に貫いているのですが、それと同時に労働市場や労働過程の外でのさまざまな問題も重要になってきています。『資本論』で解明された人口法則(相対的過剰人口論)の「理論の拡張」が必要です。たとえば、人口減少時代のもとでの相対的過剰人口の法則の貫徹の特徴など、新しい解明が必要です。
<21世紀資本主義の矛盾の複合的な発現をめぐる「理論の拡張」>
・20世紀後半の急速な情報通信技術の発展と経済のグローバル化の進展のもとで、世界的に通貨・金融の分野でも新しい特徴が生み出されてきました。金融の肥大化と投機的なマネーがグローバルに運動するようになったことです。
現代の金融の肥大化・投機的マネー増大の背景には、それ自体は価値を持たない架空資本(擬制資本ともいう)が異常に膨張していることがあります。
<地球環境問題、エネルギーと地域経済、人間と自然の物質代謝の回復の理論>
・20世紀末から21世紀はじめの時代の特徴の一つは、科学・技術と生産力の発展によって、自然や地球環境を守る課題があらためてクローズアップされてきたことです。これは「理論の拡張」というよりも、新しい歴史的課題です。
<価値。価格論、サービス労働論における「理論の拡張」>
・マルクス経済学の基礎に据えられる労働価値説についても、新たな「理論の拡張」が必要になっています。
マルクスの『資本論』の労働価値説は、言うまでもなく物質的生産労働による価値形成を前提にしています。マルクスが『資本論』を書いた当時はサービス労働が市場で取引される量的な割合は小さかったのですが、現在では非常に増大しています。そこからサービス労働の価値論における扱いをめぐってさまざまな議論が生まれています。
<現代の帝国主義の検討>
・現代の帝国主義では、もちろんアメリカ帝国主義の研究が中心になります。その世界支配の軍事力、軍事国家の機構の分析は言うまでもありませんが、ここでは、「国際独占体」の発展が「現代帝国主義」の変化の土台になっていることだけを指摘しておきます。
<現代中国の政治・経済体制の研究>
・アメリカ帝国主義とともに米中対決の相手である中国の政治・経済体制の研究は、21世紀の世界史的な重要課題です。中国の問題は、本章の表題にかかげた「21世紀資本主義の研究のために」というよりも、さらに視野を広げて、「21世紀社会主義」の研究も含んできます。
<ブルジョア経済学(社会科学)の批判的検討>
・ブルジョワ経済学の批判的研究も必要です。ちょうどマルクスが、封建制から資本主義への移行期と資本主義確立期のブルジョワ経済学の研究に全力を傾けたように、資本主義の没落期と社会主義への移行期のブルジョワ経済学の動向を体系的に研究することが求められています。
<移行期の変革主体の形成をめぐる課題>
・私は、21世紀の資本主義は、劣化しながら延命しているとみているわけですが、そのおおきな要因は、社会変革の主体形成が立ち後れていることです。
<経済的土台・国家・イデオロギーを含む総合的な研究が必要>
・第1に、社会変革の主体形成の研究は経済的な分析だけではできないということです。国家、政治的な法制度、イデオロギー、文化、メディア、教育、などなどの上部構造を含む全体的な体系の中で変革主体が形成されるわけですから、総合的な分析が必要になります。
<ハードとソフトの両面からの研究が必要>
・第2にコンピュータ用語にはハードウェアとソフトウエアという分け方がありますが、変革の主体形成の理論の場合にも、ハードとソフトとの両面があると思います。ハードというのは客観的な社会科学的な分析による主体形成の戦略的な理論であり、ソフトというのは実際に実践的に運動をしながらつかみ出してくる変革主体の理論的な問題です。
<ジェンダー平等社会の実現の戦略的意義>
・第3に、男女差別を是正する課題の戦略的な位置づけの問題です。従来の19世紀以来の通説的理解からすれば、男女差別の根本的な解決は、資本主義の枠内ではできない、それは搾取制度を廃止する社会主義になってからだ、とされてきました。
私は、現代では「新しい民主主義革命」の段階で、ジェンダー平等の実現へ向けての社会的経済的な条件がすでに形成されつつある、戦略的にそう位置づけて「理論の拡張」をはかるべきだと考えています。それは、現代の生産力と経済社会の発展段階が19世紀のマルクス・エンゲルスの時代とは比べられないほど飛躍的に発展してきているからです。またジェンダー平等へ向けての社会的運動の飛躍的な前進があるからです。
<労働者階級論の「理論の拡張」>
・第4に、労働者階級論の「理論の拡張」という課題です。マルクスとエンゲルスが19世紀に達成した機械制大工業を土台とする労働者階級論をあらためて研究し直しながら、21世紀資本主義のもとで生産力体系がさらに発展してきている土台の上で、労働者階級論を深く研究する必要があります。
<21世紀の未来社会論の課題>
・第5に、移行期の社会変革の主体形成にとっては、新しい社会がどのような社会になるか、未来社会についての研究も大事です。その場合、マルクスが19世紀に構想した未来社会論を研究することは、もちろん重要な意義がありますが、それにとどまらずに、21世紀の現代資本主義の生産力的到達点を基盤にすえた未来社会論を創造的に研究する必要があります。
<21世紀資本主義から未来社会への「移行過程」の理論的探究>
・21世紀資本主義から未来社会への「移行過程」の理論的探究については、とりわけ高度に発達した資本主義における「新しい民主主義革命」の理論的探究の問題が重要です。
<移行期の唯物史観、唯物論をめぐる課題>
・最後に、移行期の歴史理論、唯物論、という哲学的な課題についても、簡潔に触れておきます。これらは私の専門外の領域ですが、歴史理論や認識論、論理学、方法論などの問題は、経済学の研究にとっても前提になりますから、たえず考えている問題ではあります。
<エマニュエル・トッドの家族人類史観>
・トッドは、家族の研究を土台に据えて人類史を再構成し、家族の類型によって世界史の大きな流れは良く説明できると主張しています。世界史は唯物史観だけでは説明できない、階級闘争史観だけでは駄目なのだ、家族の在り方、家族の類型的分類を基礎に据えた歴史の研究が必要だと強調しています。
<Y・N・ハラリの『サピエンス全史』、『ホモ・デウス』など3部作の批判的検討>
・マルクス主義を、宗教やナチズムと同列視する乱暴な世界史論については、しっかり批判的な検討が必要です。
<グローバリゼーションと人類史観、世界史論の新しい潮流の検討>
・21世紀に入り、「グローバル・ヒストリー」という新しい人類史の構想を展開する動きが起こっています。「非ヨーロッパ世界の歴史やそこでの歴史発展のあり方の重視」、「異なる諸地域間の相互連関、相互の影響の重視」などの特徴があり、従来の唯物史観による世界史理解への異論が主張されています。
<AIの進化にともなう人間論、唯物論的世界観の展開>
・20世紀初頭にレーニンは、『経験批判論と唯物論』を執筆しました。それから100年後の21世紀の今、唯物史観や唯物論について、あらためて哲学的な理論的考察が求められています。すでに述べたように、21世紀の資本主義のもとでは、ICT革命やAIの進化とともに、認知科学、情報科学、量子物理学、生命科学などなど、自然科学も急速に発展しています。人間論、唯物論的歴史理論、認識論などの哲学的研究が必要になっています。
<『資本論』の最終章>
・私は、はじめて『資本論』を読むという方がたの学習会、読書会に、チューターとして参加する機会が増えていますが、そうした場合には、学習会の第1回で参加者が顔合わせをするガイダンスのときに、最初に『資本論』第Ⅲ巻の最終章、すなわち第7篇第52章を読む、声に出して読み上げることにしています。第Ⅲ巻の最終章ですから、『資本論』体系全体の最終章でもあるわけです。
・『資本論』は、全3巻で98章、新刊書で3700頁を超える分厚い本ですから、推理小説や恋愛小説のように、一晩徹夜すれば読めるというものではありません。
<マルクスは、生涯にわたって「土地(自然)」「土地所有」問題を探求した>
・もともとマルクスとエンゲルスは、初期の「ドイツ・イデオロギー」のなかで、原始共同体や古代社会における土地所有のあり方について、さまざまな面から論じていました。
このように、マルクスとエンゲルスは、理論活動の出発点から最晩年にいたるまで、土地所有問題に関心を持ち続け、その歴史的、理論的な探求を続けていたのです。
<経済学体系における「土地(自然)」「土地所有」の現代的意義>
・さて、これまで述べてきたことをもとに、現代の資本主義を分析するときに、「土地」の問題や「土地所有」の問題をどのように考えるべきか、現代の経済学体系における「土地」「土地所有」範疇の位置づけについて考えておきたいと思います。
すでに述べてきたことのまとめとして、具体的に6点をあげておきます。
① 資本主義的生産関係(搾取関係)の前提としての「土地」の問題
② 地球環境危機、自然災害の問題
③ 原発ゼロ・自然エネルギーへの転換の問題
④ 自然科学・技術の発展と労働者階級の問題
⑤ 農業・食糧問題
⑥ 生命の維持・再生産(人口問題――長寿・生殖・家族・社会保障)の問題
・現代の資本主義社会では、「少子化」と「人口減少」が大きな問題となっています。「資本」は、人間にとっての外的な自然、地球環境を破壊するだけでなく、自然の一環としての人間そのものの存在をも、脅かし始めているかのように見えます。そうした視点から、経済学のなかでの人口問題の位置づけも検討してみる必要があります。
<むすびにかえて>
・マルクスも述べているように、資本主義生産の発展とともに、土地所有のあり方は大きく変貌し、それとともにかつての大土地所有者階級はしだいに分化・解体し、土地所有形態も多様化します。そして、社会階級としては《資本―労働》への二極化が進んでいきます。しかし、すべての土地が国有化されない限り、資本主義のもとでは、土地の私的所有の問題が消滅することはありません。いずれにせよ、土地の所有形態がどのようなものになろうと、その根源にある「土地(自然)」そのものの意義がなくなることはありません。
資本主義的生産様式は、近代社会の三大経済範疇(資本・土地所有・賃労働)を前提として成り立っているということを、あらためて明確につかんでおくことが必要です。
・しかし範疇としての「土地所有」は、その根源には「土地」を前提としており、それは社会主義のあらゆる経済活動の根本的な自然現象をなすものです。さらに「土地」「土地所有」は、資本主義社会だけでなく、人類発生以来の全歴史にかかわる「広義の経済学」の最も基底的な範疇です。科学的経済学は、そのことをつねに念頭に置いておく必要があります。
<あとがきにかえて――21世紀資本主義と「新しい民主主義革命」>
・「新しい民主主義革命」の「新しい」とは、かつての資本主義生成期の土地改革を戦略的課題とする「ブルジョア民主主義革命」が旧い民主主義革命だったとすれば、21世紀の高度に発展した資本主義のもとでの新しい民主主義革命という意味である。
・よく知られているように、日本の科学的社会主義の政党である日本共産党の場合は、第2次大戦前から民主主義革命をへて社会主義革命へすすむという二段階革命の戦略をとってきた。
・20世紀末から今日にかけて、旧ソ連・東欧諸国の「社会主義体制」が崩壊することで、欧米諸国の共産党が軒並み危機的な状態に陥ったのにたいして、日本共産党が国内で確固とした地位を維持してきたのは、同党の綱領的礎がしっかりしていたからである。それは国際的に見ても、その理論的水準の高さを証明していると言ってよいだろう。
・こうした21世紀世界で実現すべき「新しい民主主義革命」の戦略的課題は何か。たとえば、次のような課題がある。
① 核戦争の阻止・核兵器の廃棄
② 地球環境・気象変動、感染症対策などを含め、人間と自然の物質代謝の合理的管理
③ ジェンダー平等社会の実現、LGBTなどを含め、より発展した人権の制度的確立
④ 国際独占の支配を民主的に規制する経済改革と民主的労働改革
⑤ デジタル社会のための民主的ルール、人間の成長のための教育・文化改革
⑥ 民主主義的な選挙制度による民意を正確に反映する議会政治の実現――などなど
こうした課題は、まだ資本主義的生産様式を社会主義的生産様式に変革することをめざすものではない。労働者階級だけではなく圧倒的国民多数派の要求を実現する「民主主義的な課題」である。しかし、かつての「ブルジョア民主主義革命」が土地制度の改革を中心的課題としていたこととは、その性格が質的に発展している新しい性格の民主主義的変革である。
(2022/6/21)
『マルクスの資本論 見るだけノート』
資本主義とお金のしくみがゼロからわかる!
白井聡 宝島社 2022/3/16
<『資本論』を知ることで、あなたの常識が180度変わる>
・今からおよそ150年前、「労働者が身を粉にして働くのが正しいことになるのか?」と、世の中に訴えたのが本書で紹介するマルクスの『資本論』です。
<唯物史観>
・人間はどんなに理想的な言葉を述べようとも、結局は食べて寝て遊ぶ存在。ただ、動物とは異なり、道具をつくり、自然に働きかけ、必要なものを自ら生産、すなわち経済的な活動をします。この生産する条件によって歴史が発展する、と見るのが唯物史観です。
<「万国の労働者よ、団結せよ」と訴えたマルクス>
・1848年に刊行されたマルクスの『共産党宣言』を締めくくる文言。この「労働者よ、団結せよ」という言葉は共産主義に関して最も有名なスローガンとなり、社会の歴史=闘争階級の歴史として、あらゆる労働者運動の礎となりました。マルクスは労働者の味方なのです。
<1,資本主義社会は商品と労働で溢れている>
<資本主義経済の解明は商品を知ることからはじまる>
・マルクスは世の中に溢れる商品の数々を、資本主義液剤を構成する主要な要素と見なしました。資本主義経済下の世の中では、すべての富が商品化されるということです。これが『資本論』の出発点になります。商品を、人間の欲望を充足させるだけでなく資本主義社会に特有の機能を持つものと定義したマルクスは、そうした商品を分析することが資本主義社会を知るための第一歩であると主張しました。
・資本主義社会を知るためには、その細胞たる商品を詳しく調べる必要があると考えたのです。
・資本主義社会は、さまざまな労働の組み合わせである分業によって成り立っています。
<資本主義社会の富は商品の集合体である>
・人が何かをしたいという、その欲望を満たすことで値段がつけられるのが、資本主義社会を構成する商品の位置づけです。
・すべてが商品となった社会では、富は「巨大な商品の集合体」として考えられるとマルクスは述べています。
<資本主義は分業によって成り立つ>
・商品は労働の組み合わせで生まれる。
・多くの人が協力することによって成り立つ無数の仕事があり、それが組み合わさって商品が生産され、社会に富が蓄積されます。
<使用価値と交換価値という2つの価値①>
・商品には人の欲望を満たす有用性(使用価値)と、商品同士を交換する際の交換比率(交換価値)があります。
・AをX個=BをY個という形で価値量を比較すれば、すべての商品をイコールで結ぶことができるのです。商品にはこれらの2つの価値があることから、商品の二重性とマルクスは考察しました。
<使用価値と交換価値という2つの価値②>
・商品が自ら価値を示すには、比較する対象がなければ成立することはないとマルクスは考察しました。
・商品は交換をもって価値を表現する。
<商品の価値はそこに費やされる労働量で決まる>
・有用性を持った商品を生み出すためには人間の労働が必要です。つまり労働が商品の価値を決定づけているのです。
・このように労働が価値を形成するという理論を経済学では「労働価値説」といい、マルクスが完成させました。
<労働にも二重性がある>
・使用価値を生み出す具体的有用労働と、交換価値を生み出す抽象的人間労働、両者を指して「労働の二重性」と呼びます。
・具体的有用労働は、何かをつくったり、何かのサービスに従事したりするなど、有用性をつくり出す具体的な労働を指しています。
あらゆる具体的有用労働には共通点があります。どんな種類の具体的な労働も、人が脳と筋肉を使って働くことに変わりはありません。マルクスはこの共通するものを抽象的人間労働と定義し、この2つの属性を「労働の二重性」と名づけました。
<労働価値は社会全体の平均で見る必要がある>
・商品の価値の大きさを決めるのは労働価値です。ただし個々の労働価値ではなく、平均的な労働価値を見る必要があります。
・マルクスは、個々の労働価値ではなく、社会全体の「平均的な労働価値」がその商品の価値を決めると考えました。
<他人に有用であることが商品であるための条件>
・有用であっても個人的なものは商品ではありません。商品であるために必要なものは、他人にとっての使用価値です。
・商品を生産するには、自分にとっての使用価値だけでなく、他人に対する使用価値を生産しなければならないというのがマルクスの主張です。
他人が欲しがったり交換したがったりする品とは、すなわち社会的使用価値がある品と言い換えることができます。
<労働力もまた商品である>
・商品を生み出す際に働く労働力。労働市場において売買されるため、こちらも商品だといえます。
・労働力という商品が商品を生産する。
・労働力も商品である以上、値段がつきます。いわゆる賃金の多寡です。優れた頭脳や技術といった使用価値が大きく希少な労働力商品には高い値段がつき、非熟練労働のように誰にでもできて使用価値が低い労働は、低い値段がつけられます。
<商品はどこからやってきた?>
・商品交換は金銭による等価交換です。お金と商品の交換だけで買い手と売り手の関係は完結し、人間としての関係は残りません。
・資本主義が発展するにつれて金銭による交換の領域が拡大することは、共同体世界の領域が狭くなっていることを示しているのです。
・たとえば、前近代的共同体の内部では貸し借りがあったとしてもそこに金銭は発生しません。
<2,商品から誕生した貨幣>
<布や塩が貨幣のはじまりだった>
・物と物との交換で成り立っていた時代では、どんな商品とも交換することができるものが貨幣の代わりでした。
・また、紙幣の「幣」は布からきているなど、布や稲がお金の代わり、すなわち一般的等価物になっていたことがうかがえます。
・さまざまなものが貨幣の役割を果たしていた。
<貨幣としての優位な地位を確立したのは金>
・金や銀はあらゆる商品とイコールで交換することができる「優越的な地位」を獲得しました。マルクスは、「金や銀は本来貨幣ではないが、貨幣は本来金と銀である」ともいっています。変わった表現ですが、これは商品のなかから貨幣が生まれたという見方を示しています。こうして商品経済が誕生し、それはやがて資本主義社会を生むことになります。
<この世界は商品―貨幣―商品の繰り返し>
・商品と貨幣の関係を示す交換過程の式は、商品が貨幣に変わり、貨幣が商品に変わり、それが繰り返される過程を表します。
・商品を売り、お金をつくる。
・「W(商品)-G(お金)-W」 は社会全体で行われた。
<商品の命がけの飛躍とは?>
・商品を売ることは難しい。マルクスはこれを「商品の命がけの飛躍」という言葉で表現しました。商品と貨幣には同じ量の価値があっても、両者の関係は対等ではないのです。
・商品を売ることで貨幣を手にするには、貨幣を渡す側にとってその商品が使用価値のあるものでなければなりません。まったく同じ商品が複数あれば買い手は値段の安いほうを求めるでしょう。商品を貨幣に変えるためにはあの手この手を使う必要があるのです。
<貨幣の機能>
・貨幣には「価値尺度」の機能が備わっています。まず、商品には値段がついています。また、「流通手段」も貨幣の役割の1つです。貨幣は商品を購入する際に売り手に支払うもの。
・商品が価値を持つのは人間の労働力があってこそ。結局、貨幣は労働の価値を表しているのです。
<なぜ人は金を欲しがるのか?>
・こうして貨幣によって価値を保存できるから、多くの人は、「貨幣はいくらあってもいい」という気持ちになります。言い換えれば、商品を売る立場よりも買う立場に立ち続けたくなります。より多くの金を欲することをマルクスは「黄金欲」といいました。
・貨幣は常に人から欲されるもの。お金が貯まれば欲しいものがたくさん買え、できることも増えます。だから人はお金を欲しがるのです。
<3,貨幣から誕生した増殖を止められない資本>
<資本=絶えざる価値増殖>
・マルクスは商品を生産して販売することで価値の大きさを変化させ、より大きな価値を得る運動を資本であると定義しました。
・剰余価値の生成は、資本主義の肝です。剰余価値を求めてより高い生産力が追及されることになります。
・つまり、資本主義社会には剰余価値を求めて絶えず生産力を増大させ続けなければならないという命題が内在しています。
<資本とは運動である>
・マルクスは、資本を、常に価値増殖を求める運動として定義しました。
・商品を生産して販売する際、利益、すなわち剰余価値を生み出そうとします。こうした流れこそが「資本」の本質であり、絶えず工夫を凝らし価値増殖に努める運動こそが「資本」というわけです。
<資本家は資本の人格化>
・資本家の道徳心は関係ない。
・マルクスは資本家の貪欲さを、単なる個人の道徳問題とは考えませんでした。資本家は資本の運動の担い手として、資本が人格化した存在なので、その貪欲さは、資本の無限の価値増殖に駆られてのものなのです。現に、資本が株式会社化や株式の持ち合いなどにより脱人格化されても、資本の貪欲さに変わりはありません。
・いつの間にカお金儲けが目的になる。
<不変資本と可変資本>
・生産過程の攻勢においてその「原料」の価値がまったく変化しない部分を「不変資本」といいます。このように不変資本部分だけで価値増殖が起こることはありません。しかし、「労働力」が加わってくると話は変わってきます。労働力は、消費すればするだけ価値が増えていくものです。
・労働力は生産物の価値を変化させる。
<剰余価値を生み出すのは労働力という特殊な商品>
・商品をつくるということは、労働者の持つ労働力を消費させる行為であるのと同時に、剰余価値を生む行為でもあります。マルクスは労働力が持つ特別な機能を「商品の使用価値自身が、価値の源泉」と表現しました。
<資本家が労働者を雇うのは剰余価値を得るため>
・資本家が利潤を目的として労働者を雇用して商品を生産しようとする結果、資本主義社会において生産過程=価値増殖過程となっていったのです。
<剰余価値を得たいがために労働者は搾取される>
・資本家は、商品を生産するために購入した労働力を給料分以上に働かせます。剰余価値を生み出すためです。
・剰余価値を生むためには剰余労働時間が必要。
<資本家は労働者を平等だと都合よく考える>
・資本家は労働力によって生み出される剰余価値を、自分の才覚と機械によって生み出されていると捉えがちです。これについてマルクスは、商品売買の原則は等価交換であるのに、労働力に関しては不等価交換が行われていると分析しました。
・つまり、資本家には剰余価値が労働者の搾取によって生み出されているという認識がまったくなく、ただ労働力と貨幣を等価交換しているだけだという認識なのです。
<4,資本による労働者の搾取>
<労働者の給料は労働力再生産の費用に等しい>
・資本家は、より多くの価値を生み出すために労働者から労働力を買いました。それは必ず労働者お搾取をともないます。
・剰余労働時間は給料に含まれていない。そこで、資本家は労働者の再生産を生む「必要労働時間」に、利益となる「剰余労働時間」を加えて雇用契約をします。マルクスはここに搾取を見出し、「労働力の価値は、すべてのほかの商品の価値に等しく、この特殊なる商品の生産、したがってまた再生産に必要な労働時間によって規定される」といいました。
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