当時、歴史を学びながら気づいたのは、世界中で現在起きているほとんどの出来事は、過去にも起きていて、それが繰り返されているということだった。(2)
<エネルギー問題に直面する現実>
・現在、ヨーロッパを悩ませているのがエネルギー問題である。
・ウクライナ戦争が始まった直後、ヨーロッパはロシアを非難し、石油・石炭輸入を制裁対象としたが、ロシア産天然ガスの輸入に頼る状況は続いた。
・エネルギー政策に失敗すれば、ヨーロッパの失速はさらに決定的なものとなる。
・ドイツは名目GDPで日本を追い抜き世界第3位となる見通しだが、実質GDP成長率はマイナスであり、景気の後退が予測されている。
<EUの直面する現実>
・なお、私はEUの将来について悲観的なスタンスを取っている。
・出生率が下がっているヨーロッパでは、移民の受け入れによって人口減少を何とか食い止めている状況だが、前述したように移民政策が分断の火種となっている側面もあり、状況は楽観視できない。
ヨーロッパの国の多くでは、地方自治体レベルでも大きな負債を抱えている。債務超過と少子高齢化トレンドを克服する国はしばらく出てこないだろうと予測している。
<日本――戦後の栄光はもう訪れない>
<「人口減少」「少子高齢化」が止まらない>
・私は日本が好きであるが、日本が再び大国の地位に返り咲くのは、おおよそ非現実的であると考えている。問題を解決できなければ、将来的に日本語という言語が消滅することになるかもしれない。
・一つの問題は人口減少である。
・このペースでいけば、56年には9965万人、70年には8700万人まで減少すると見込まれている。
・22年の合計特殊出生率は過去最低の1.26で、すぐに人口を増やすのはおおよそ不可能だ。
また、日本では高齢化も大きな問題となっている。日本の高齢化率(65歳以上の割合)は29.1%(2023年)と過去最高を記録し、世界一となっている。もはや「3人に1人」が高齢者という状況に近づいているのだ。
<借金大国・日本>
・加えて、日本は借金が急増している。
・今や国の借金は1000兆円を超え、国民1人あたり1000万円に迫るまでに増加している。
・歴史を振り返って、人口が減少し続け、借金が急増し続ける国に発展がもたらされた例など存在しない。
・冷静に考えれば日本の将来が明るくないことは自明である。
・「日本の国民は巨額な資産を持っているので、国全体としては債務が少ない」というのもよく聞く話だ。
・日本が抱える借金を考えれば、どんなに稼いでも税金として返済にあてられるだけであり、これでは経済成長ができるわけがない。
<外国人に対して閉鎖的な国民性>
・日本は莫大な借金を抱えており、人口は減少している。
・このまま財政を健全化させなければ、いつか国債の金利は跳ね上がり、日本円は暴落する恐れがある。
・残された方法は、移民の受け入れだ。
・しかし、日本は人口減少傾向が決定的になっている今に至っても「移民が増えると治安が悪化する」という理由で、移民の本格的な受け入れを拒否している。
・日本では定員割れして経営難に陥る大学が出てきている。そういった大学は外国人学生をもっと受け入れるべきだ。
<日本は観光立国を目指せ>
・日本において将来性がある産業の一つが観光だ。観光は成長が見込める数少ない分野である。
・現状、日本はまだまだ外国人観光客にとって開かれた国とはなっていない。
・観光産業を発展させるメリットの一つは、費用対効果が高いということだ。
<韓国――38度線が開かれるか否か>
<朝鮮半島のポテンシャル>
・それと比較すると、韓国が超大国になるというストーリーは、およそ非現実的であることがわかるだろう。
・アフリカを見ていると、資産が豊富で負債が少なく、若くて教育の行き届いた労働人口が増え、経済発展の軌道に乗っている国を見つけることができる。こうした国に倣えば、北朝鮮が経済発展できる可能性はある。
<観光地としての伸び代は十分>
・私は北朝鮮と韓国の統一が、そう遠くない将来に実現すると予想しているし、期待もしている。
・さらに、朝鮮半島は観光地としても十分な伸び代がある国だ。
<国の浮き沈みに左右されない「投資戦略」>
<歴史的な大潮流に乗り遅れないための「投資戦略」>
<投資の基本は「安く買って、高く売る」>
・ここからは、個人投資家として2030年に向けてどう備えるべきかを考えていきたい。
まず、非常に重要なのはプログラミングなどに代表される、基本的なITスキルを身に付けておくことだ。
・その上で、投資に重要なのはタイミングである。基本の心得は「安く買って、高く売る」だ。
・ほとんどの投資家は強気相場にばかり目を向け、弱気相場を見ようとしない。
・みなが絶望的になっているときに、人々が目を向けていない将来有望で割安な投資対象を見つけるのだ。
・人々が熱狂しているときこそ、かえって慎重になるべきだ。
・重要なのは、ただ安い株式や商品を見つけるだけでなく、その将来性を考えることだ。
<知らないものに投資をしてはいけない>
・投資では、一般的にリスクを減らすために資金を減らすために資金を分散させることが有効だとされている。
・だから、卵を入れるカゴは「正しいカゴ」でなければならない。
・それは投資する金融商品についても同様である。
・よくわからない分野で投資をしたいなら、徹底的に勉強をすればいい。
<これからの時代、ハイリスクな投資とは>
・世界では債券バブルが続いており、今は世界中の債券に投資すべきではない。
・債券に投資する際、まず注意すべきは発行体の信頼性だ。
・債券バブルがはじけたら、最悪のバブル崩壊となり、世界中の人々が甚大な損失を被ることになる。
・イスラエル・パレスチナ情勢がさらに悪化すれば、金の価格がより一層上昇する可能性もある。かくいう私も金が好きだ。
・しかし、私は金を売り買いして利益を上げようとは考えていない。あくまでも災害から資産を守るために金を保有しているのだ。
<他人のアドバイスを聞いてはいけいない>
・投資をするときには、不安を解消するために、他人の意見を聞きたくなることがある。しかし、他人の意見を聞くべきではない。もちろん、私の意見も信用すべきではない。
・なぜなら、自分自身で調査を行い、自分自身で判断したことだったからだ。
・あのとき、周囲の助言を鵜呑みにして、原油を手放さなくて本当に良かった。成功したいのなら、自分以外の誰の言葉も信じてはならないし、最終的には自分で判断しなければならない。
私はこれまで常に自分一人で判断して投資を行ってきたし、これからも同じやり方を続けていくだろう。
<投資で成功する秘訣は、学び続けること>
・他人の声に依存することなく、自分自身の力で判断するためには、常に学び続けることが大事だ。
・情報を得るにあたって、英語を知っておくに越したことはない。なぜなら、多くの情報は英語で発信されているからだ。
・もっとも、インターネットが発達した今は、昔のように現地を直接訪れる必要性は薄れている。
・ちなみに普段の私は新聞とインターネットを主な情報源としている。
・ほかに読み続けているのは経済誌「エコノミスト」であり、これもやはり国際的な情報源として期待している。
・ウズベキスタンに豊富な天然資源と観光資源があり、成功のポテンシャルを持っていることは知っていた。
・ただ、情報に目を通し続けることの重要性だけは断言できる。
<「沈む国」「伸びる国」への投資術>
<チャンスの見極め方①:魅力的な製品を作っているか>
・観光以外に、成長する国を牽引する要素となるのが製造業だ。
・いずれ、サウジアラビア人の女性が、工場で外国に輸出するシャツの縫製を行う時代が到来するというのも、まったくの空想とは言い切れない。
<チャンスの見極め方②:イノベーターが存在するか>
・アメリカだけでなく、EU諸国やイギリスも多くの負債を抱えている。
・イギリスがEUを離脱したことが良かったのか悪かったのか、私は完璧に判断することができない。ただ、EU離脱後も債務が増え続けているのは事実である。
こうした沈みゆく国々で、投資機会を見つけるのは困難である。
・特に重要なのは、賢く革新的で、誠実な起業家を見つけることである。
<チャンスの見極め方③:技術革新が生まれているか>
・2022年11月、AI開発を手がけるアメリカのオープンAIが「ChatGPT」を公開し、23年には爆発的な広がりを見せるようになった。
・いずれにせよ、AIは世界中の多くの人から仕事を奪い、彼らを廃業へと追い込むだろう。
・しかし、心配する必要はない。何度も繰り返すが、危機は絶好のチャンスであり、仕事を失った人間は新しい仕事、新しいチャンスを得ることができる。
<チャンスの見極め方④:危機から立ち上がろうとしているか>
・危機に直面した国への投資にはリスクが伴う。しかし、私の投資信条である「災害は買い」に基づいて投資を行うと、5~6年後に賢い投資をしたと評価できるケースが多い。
・チャンスの危機として、最もわかりやすいのは戦争だ。
・戦争による危機をチャンスに変えた最大の成功例の一つが日本だ。
・また、現在は沈没すると見込んでいる国についても、大災害に見舞われるなどして、壊滅的なダメージを受ければ、一転して投資対象になる可能性は高い。
・こうした手法については「人の不幸に乗じている」という批判が絶えないが、それは見当違いというものだ。
・危機というものは、視点を変えればまたとないチャンスでもある。この本を手にとった読者には「危機」を見通す先見の明を身に付け、今まさに到来している、史上稀に見る大転換の時代を乗り切ってほしい。
(2022/4/28)
『図解でわかる14歳からの地政学』
鍛冶俊樹・監修 インフォビジュアル研究所・著
太田出版 2019/8/24
<地政学 Geopolitics=地理学+政治学>
<「引っ越しのできない隣人同士」が共存するための理想と理性の地政学は可能だろうか>
・例えば、日本と中国の関係は、しばしば「引っ越しのできない隣人同士」と形容されます。ずっと土地の境界を巡って争いが絶えず、先祖代々仲が悪い。かといって引っ越すわけにもいかず、これからもずっと隣同士で暮らさなければならない。この絶対的な地理的条件の中で、我が家は隣との関係をどうするか。これを考えるのが典型的な地政学の課題です。
・狭いヨーロッパをナチス・ドイツが席巻した時は「帝国の生存圏」という地政学的概念が他国への軍事侵略を正当化しました。同様に日本がアジアに進出した時には「大東亜共栄圏」という地政学的概念が提唱されました。また、アメリカが一貫して追求してきたのは「海洋大国」という地政学的国家戦略であり、その結果としての太平洋支配でした。
しかし、それらの結果起きた戦いのあまりの非道さ、あまりの破壊の凄まじさに、人間はやっと理性に立ち帰り、理性による地政学的問題解決を試みます。1000万人近い死者を出した第一次世界大戦のあと、国際連盟が誕生します。
・しかし、この理性の平和の時は、いま大きな転機を迎えています。
再び自国第一主義が叫ばれ、異民族・異教徒の排斥が叫ばれ、恒久平和という理想のために人類がつくり出した国際協調の制度が揺らいでいます。
<ホムルズ海峡 日本のタンカー攻撃事件は中東地政学の高等練習問題>
<謎に包まれたタンカー攻撃の意図>
・2019年6月13日、ホルムズ海峡オマーン沖で、日本の会社が運行するタンカーが、何者かの攻撃を受け、炎上しました。折しも、緊迫するアメリカとイランの関係調整のために、日本の安倍首相がイラン首脳と話し合いを行った、その日に起こった事件でした。
この事件の意図と犯人をめぐって、世界では様々な憶測が流れ、幾つもの犯人説が浮上しました。
・「中東では、何が起こるかわからない」
<中東情勢は、なぜ予測不可能なのか>
・この民族、文明、宗教が複雑に絡み、対立する地域で、近代になり石油が発見されたことで、欧米との資源をめぐる抗争の歴史が始まります。特に、イランとアメリカの積年の抗争、そこから拡大したイラク、アフガニスタン、シリアの紛争が現在へと受け継がれています。
今回のタンカー攻撃事件は、地球の地層のように深い、中東の地政学的な歴史が、地表に噴出させた噴火のひとつとも言えるでしょう。
<南沙諸島 なぜ大陸中国は南シナ海内海化を強引に推し進めるのか>
<南シナ海進出によりアメリカを牽制>
・地政学の法則のひとつに内海化があります。海域周辺の島々、沿岸地域を勢力圏に収め、その海域をあたかも自国の海のように支配することです。現在、中国が南シナ海で実施する強引な島嶼の軍事基地化は、その典型といえます。
・そして中国のもうひとつの目的は、アメリカに対して核報復力を誇示することです。大陸間弾道ミサイル搭載の原子力潜水艦を、この内海の深部に潜ませ、台湾から西太平洋へ進出させることを意図しています。
<アメリカは大陸国家を包囲しいま中国は、その包囲の突破を図る>
<覇権国家アメリカの3つの勢力圏>
・アメリカは、この地球全域を覆う勢力圏に世界最強の軍事力を配備しています。海洋には打撃艦隊と呼ばれる、原子空母を中核とした、海洋から内陸を攻撃できる戦力を配備しています。陸上にも世界に約800箇所、約20万の兵を配備しています。
・この軍事によって平定された世界は、同時にアメリカの通貨ドルによる自由貿易と、自由な経済行為が保証された世界でもあります。国境を越えて、単一の通貨システムと経済・金融システムが働く世界をグローバル経済の世界と呼び、このようなシステムを設定した国家を覇権国家と呼ぶこともあります。
<トランプのアメリカ トランプ大統領を誕生させた分断されたアメリカの地殻変動>
<白人貧困層の怒り>
・共和党のドナルド・トランプ氏が、第45代アメリカ大統領に選出されたとき、アメリカは自身の国土に巨大な亀裂があることを、世界に暴露しました。
これまでの政権政党であった民主党は、主に北西部のカトリック教徒と、西部海岸、そして北東部のリベラルな白人層を基盤としていました。その一方で共和党は、一般的に保守的と言われる中西部、南部を地盤としています。その南部にはプロテスタントの原理主義の超保守層が存在します。
・かつて製造業ベルトと呼ばれていたこの地区は、現在はラストベルト(さびついた地帯)と呼ばれています。衰退した産業と、そこにしがみつく白人未熟練労働者たちの地帯というわけです。
・トランプ氏は、彼らに訴えました。製造業を再びアメリカに呼び戻そう。安い賃金で働くメキシコからの移民は、壁を作って締め出そう。一見粗暴な訴えは、確実に労働者層を動かしました。トランプ大統領は、アメリカの亀裂から誕生したのです。
<アメリカの資本主義 世界を覆ったアメリカ型資本主義 その特異性と正義の源>
<富は善であるとする教義が発端>
・グローバル経済という言葉をよく耳にします。当初は成長する世界経済を表す言葉として肯定的に使われていましたが、2008年に起きた経済危機以降は、アメリカ主導の強欲な資本主義によって世界に経済格差と貧困を持ち込んだ経済政策として、批判にさらされています。覇権国の軍事力で世界の政治をコントロールしたアメリカが、経済政策でも世界をコントロールした結果、その失敗が問われている、とも言えるでしょう。
・アメリカに渡ったカルヴァン派の教義のひとつに、勤勉に働いて豊かになることによって、人間は神の善を体現し、天国へ行けるというものがありました。反対に、勤勉に働かず、負債を背負う者は、罪人と見なされます。これらの人々は貧弱の道を進み、地獄へ堕ちるというのです。
<戦略パターン ただ一国戦い続ける帝国がもつ不可解な戦略パターン>
<担ぎ上げて裏切るアメリカ>
・第ニ次世界大戦から約70年が経過し、全世界を巻き込む大規模な戦争は、いまのところ起きていません。しかし、その間もほとんど絶え間なく戦争を続けている国があります。世界の警察官を標榜するアメリカです。自由主義・資本主義世界のために、敵対する国々と戦ってきました。
・民主主義の名のもとに、アメリカが誰かを担ぎ出して政権をつくります。その誰かは必ず独裁を始め、汚職と腐敗にまみれます。するとアメリカは、この誰かを、やはり民主主義の名のもとに、謀略、クーデター、軍事侵攻で排除します。イラクのフセイン元大統領は、その典型です。
<シーパワー 太平洋を支配することが海洋帝国アメリカの基本戦略>
<シーパワーによって太平洋を西へ>
・こうして確保した太平洋を、いかに支配するか。その戦略理論を提示したのが、海軍軍人マハンの『海上権力史論』でした。
「世界の諸処に植民地を獲得せよ。アメリカの貿易を擁護し、かつ外国に強圧を加えるために諸処に海軍基地を獲得し、これを発展させよ」と、マハンは述べています。こうした海上の権力をシーパワーと定義して、その獲得の手段として海軍力、造船力、工業力の育成を提唱。シーパワーによって、公海での商船隊・漁船隊の活動が保障され、アメリカは太平洋支配に乗り出します。
・これ以降のアメリカの太平洋戦略は、マハンの理論通りに展開されていきます。次々と太平洋の島々を領有し、1897年には、フィリピンでスペインと争い、独立しようとするフィリピンに侵攻し、1902年に植民地化します。
<宗教国家 巨大宗教国家アメリカの神の正義と戦争の正義>
<神の名のもとに進められた開拓>
・アメリカを建国した人々の精神のバックグラウンドには、故郷であるヨーロッパの名誉革命の精神を受け継いだ市民の武装の権利がありました。そして、もう一つ、未開の蛮地、西部開拓を支えたものに、アメリカで誕生した独特な信仰があります。
新天地アメリカ大陸は、神から与えられた「約束の地」である。この土地を開拓=文明化することは、キリスト教徒である自分たちの使命であると考えたのです。
・今でも週に1回は教会に行く人々が、たくさんいる社会だ。
<武装する市民 戦い続ける覇権国家アメリカ その精神のルーツを探る>
<建国以来守られる武装市民の権利>
・しかし、トランプ大統領を始め、アメリカの政界も主流の世論も、年間1万人以上が銃により死亡しても銃規制に動きません。アメリカ以外の国であれば規制されている銃が、なぜ放置されているのでしょうか。
彼らが銃の所持を擁護する根拠は、アメリカ合衆国憲法修正第2条です。そこにはこう書かれています。「人民が武器を保有し、または携帯する権利は、これを侵してはならない」
なぜこのような物騒な憲法ができたのか、その理由は、アメリカという国家ができた時代にまでさかのぼります。
<インド1 第二のアジアの大国が中国を超える日はくるのか>
<パキスタン、中国との地政学的緊張>
・インドと隣国パキスタンとは、常に地政学的緊張関係にあります。両国が1947年にイギリスから分離独立する際、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒の間に起こった凄惨な虐殺から、相互の憎悪は生まれました。
この分離独立以前、イギリスが支配するインド帝国は、現在のインド、パキスタン、バングラデシュにまたがる国家でした。
・その結果起こったのが、流血の惨事と、それ以降のカシミール、アッサム、バングラデシュをめぐる3度の戦争、そして印パの核開発競争の危機でした。ガンディーが予見した危機が、そのまま現実のものとなったのです。インド、パキスタンの地政学的危機は、イギリス帝国の意図的な置き土産だったともいえるでしょう。
インドはまた、ネパールとブータンという小さな緩衝国を挟んで、中国とも緊張関係にあります。イギリスがアッサム地方に設定した国境線を不満として中国が攻撃、領有権を主張しています。また、カシミール地区でも両国は戦火を交え、実効支配地域を分け合う状態が続いています。
・中国は一帯一路の一環として、ミャンマーのチャウピュ港、パキスタンのグワダル港など、沿岸の港の運営権を次々手に入れ、インド洋に進出。この「真珠の首飾り」とも呼ばれる包囲網に対抗し、インドは日米との連携を軸に、インド洋沿岸に拠点を張り巡らせる「ダイヤのネックレス」戦略を図っています。
<インド2 21世紀のアジアの時代にインドのもつ多様性が何をもたらすのか>
<多様な人々を束ねる巨大な民主国家>
・21世紀の世界経済の中心軸となると期待されるアジアの中で、インドは常に中国と比較されてきました。人口では2030年までに中国を上回り、少子高齢化の進む中国に比して、若年層の多いインドはGDPが高まるだろうと予想する声もあります。
・インドには17種類の公用語と200以上の方言があり、それらをもとに29の連邦州と7つの直轄行政区に分けられています。この地理的な区分のほかに、インド独特の身分制度(カースト制)による社会的差異が存在します。インドは、このように細分化された人々が、民主主義のもとに束ねられた世界でも稀な国家だといえます。
<海洋と大陸 大陸国家と海洋国家の法則 陸と海、二兎を追う国は破綻する?>
<地政学的ポイント>
・大陸国家と海洋国家は相互依存的存在で、共存が可能。長期間、一国が海洋国家と大陸国家の役割を担うことは困難。
<大陸国家と海洋国家の違いを知る>
・この大陸国家と海洋国家の違いとは何でしょうか。
まず人間の営みの基本である農業から考えてみます。農業には土地が必要で、人口が増えると、もっと広い農地が必要です。そこで国家は領土の拡大を図ります。
ユーラシア大陸の場合は、それぞれの国が拡大を続ければ、当然ぶつかり、争いが起こります。大陸国家は領土紛争が宿命。陸上の国境を守る強大な陸軍が必要であり、その資金と兵員維持のためには権威主義的な政権が生まれやすくなります。
・一方、アメリカは東西を海に挟まれています。農地が海岸に至れば、それ以上の拡張は不可能です。人口を養うには海に出て交易に励む必要があります。
この地理的条件から、アメリカは世界一の貿易国となり、全世界から膨大な資源、エネルギー、商品を輸出入しています。この交易のために、自由で開かれた貿易ルートが不可欠であり、アメリカはその防衛のために世界最大の海軍を擁しています。
・このように大陸国家と海洋国家は活動領域が異なるために、相互補完的で平和な関係の維持が可能です。しかし、どちらかが相手の領域を侵すと、戦いになります。
これまでの歴史のなかから、地政学が一つの法則を導いています。それは「大陸国家と海洋国家を、長期間兼ねることはできない」というもの。その理由は、一国が巨大な陸軍と海軍を同時に維持すると、財政的な破綻を招くから、現在の中国は、この法則に挑んでいる、とも言えるのです。
<シーパワーの誤算・日本>
・かつて日本は南太平洋にまで広大な権益を有する、典型的な海洋国家だった。その海洋国が中国大陸に進出し、大陸国家を形成しようとし、その一方で、海洋国としてアメリカと戦い敗北した。
<半島と内海 半島国家は大国に利用される宿命 ただし内海をもてば大国にもなる>
<内海の法則とは、海洋国家が内海を持つことで大陸国家に変身すること>
<半島国家の法則と内海の法則>
・次に半島に位置する国々を見てみましょう。地政学的な半島国家の典型は朝鮮半島です。朝鮮半島は、背後には広大な大陸国家、半島の先に広がる海洋には強力な海洋国家が控えています。この位置関係が、朝鮮半島に悲劇の歴史をもたらしてきました。
・同じような境遇にある半島が、イベリア半島とバルカン半島です。イベリア半島はヨーロッパとアフリカを結ぶ通路として、地政学的歴史を刻んできました。バルカン半島も地中海とスラヴの草原の境目にあり、両勢力の抗争の舞台であり続けてきました。こうした抗争が臨界に達したのが、第一次世界大戦だったと言えます。
しかし、同じ半島でも全く異なった地政学的条件で大英帝国となった例もあります。イタリア半島からスタートしたローマ帝国です。
<世界史で検証する地政学の法則① アテネとスパルタ>
<アテネとの戦いでスパルタが落ちた罠>
<陸海両軍の増強が破滅を呼ぶ>
・紀元前5世紀頃の古代ギリシアは、都市国家の集合体でした。その中で指導的な役割を果たしたていたのが、アテネとスパルタです。
・ペルシア戦争後、アテネとスパルタはギリシアの主導権をめぐって対立します。アテネはデロス同盟を作り、スパルタも対抗し同盟軍を組織します。ギリシアの覇権争いは、新興の海洋国アテネと旧勢力の大陸国スパルタという構造になりました。
この両勢力が戦ったペロポネソス戦争は、複雑な経緯をたどり、延々と27年も続いたのです。
・この戦いは結果的にスパルタの勝利となるのですが、それを決定づけたのは、海軍でした。それまで陸軍主体だったスパルタは、ペルシアと結び、その資金で劣勢だった海軍力を増強し、ついに大艦隊でアテネを破ったのです。ここでスパルタは大陸国家と海洋国家を一国で担うという、地政学的な罠に落ちたのです。
ギリシアの覇権を握ったスパルタでしたが、新興都市国家テーベとの戦いに、あっけなく敗北します。その理由は、スパルタの財政破綻による国力の衰退でした。陸軍と海軍を同時に維持することは、不可能だったのです。地政学の法則は、遠くギリシアの時代から生きていました。
<世界史で検証する地政学の法則② モンゴル>
<モンゴル帝国の世界征服と滅亡>
<大陸を制して一大経済圏を確立>
・モンゴル帝国の創始者チンギス・ハンは、情報と機動力を生かした騎馬戦略を展開。わずか20年余りでアジア大陸の半分を制します。騎馬軍団の圧倒的組織力が、距離をものともしない遠征を可能にしたのです。
チンギス・ハンの死後も、モンゴル帝国は優れた後継者たちに恵まれて拡大を続け、13世紀末には大帝国が築かれました。それまで分裂していたアジア大陸の大半が初めて統一されたのです。
<海洋進出を阻まれた大陸国家>
・1271年、第5代皇帝フビライによって、モンゴル帝国は中国式に元と改称されます。当時、元は大都(現在の北京)を首都として中国北部を支配していました。中国南部には、海に面した海洋国家、南宋がありました。元はこの南宋を攻め滅ぼし、海軍を手に入れます。そして、南宋のあった地域を新たな海洋進出の拠点として、海洋国家としての道を模索し始めました。
・しかし、日本を始めとする周辺の海洋国家に度々遠征を試みたものの、ことごとく失敗。大陸国家と海洋国家は両立できないという地政学の法則は、ここでも実証されることになりました。そして、維持するにはあまりに広大になりすぎた帝国は、14世紀半ば、元の滅亡によって崩壊します。
<日本史で検証する地政学の法則① 日本内海>
<大和朝廷の興亡を決した瀬戸内海>
・神武天皇は現在の宮崎県から船で北上し、瀬戸内海を通って現在の奈良県に至り、そこで天皇として即位したと『古事記』も『日本書紀』も伝えています。これを神武東征と呼びますが、ここで重要なのは経路です。
・大和朝廷は神武天皇を始祖として、関西で勢力を拡大し、やがて日本全体を統一しました。神武天皇が瀬戸内海沿岸に拠点を築いていったのを見れば、成功の秘密は地政学の「内海の法則」にあったわけです。
<瀬戸内海を奪われて滅亡した平家>
・大和朝廷は奈良朝、平安朝と都の位置を変えながら平和と繁栄を維持しましたが、それは平安朝の終わりとともに潰えてしまいます。その原因は何だったのでしょう?
平安末期、太政大臣に登りつめた平清盛は、幼い安徳天皇を擁立し、南宋との貿易を推進するため、突如、瀬戸内海に面した福原に都を移しました。瀬戸内海を内海とする大陸国家となっていた日本を海洋国家に変えようとしたのです。
しかし、そのため大陸国家的な性格が濃厚な関東方面への防備がおろそかになり、源氏が挙兵して陸路を進撃するのを押さえられなくなりました。源氏の指揮官であった源義経は陸戦の名手でしたが、瀬戸内海に臨むや、海戦も恐れず、平家を攻め立てます。最後は北九州近くの壇ノ浦で、当時としては世界史上最大規模の海戦で平家を滅ぼしました。安徳天皇も崩御し、ここに平安朝は終わりを告げたのでした。
神武東征の地図と平家滅亡の地図を見比べてみると、朝廷が瀬戸内海を制圧して確立し、反対に瀬戸内海の覇権を奪われることによって衰退した様子がよくわかります。
<日本史で検証する地政学の法則② 秀吉の朝鮮出兵>
<秀吉はなぜ唐突に朝鮮を攻めたのか?>
<地政学の視点から見る朝鮮出兵>
・1592年、天下を統一して日の浅い豊臣秀吉が、突如、予備兵力も入れて30万という大軍を投入し、海を越えて朝鮮半島に攻め入りました。秀吉の朝鮮侵攻とも言われる、海洋国日本が半島国家に仕掛けた侵略戦争でした。
結局、秀吉の死後、日本軍は撤退することになりましたが、この唐突な朝鮮出兵の理由については、古くから様々な説が唱えられています。主君であった織田信長の野望の継承だとする説から、秀吉の家臣のための新たな領地獲得説、はては老齢の秀吉の妄想説まで諸説あります。しかしこれらの説に欠落しているものがあります。それは当時の東アジアの地政学的視点です。
16世紀は、ヨーロッパ諸国による大航海の全盛期。その主役はスペインでした。
1、 豊臣家臣団にはまだ200万とも言われる武士軍団がいた。
2、 この家臣団のために、新たな領地獲得も必要だ。
3、 日本の武士は50万丁と言われる鉄砲を有するアジア最強の武装勢力だった。
<日本史で検証する地政学の法則③ 太平洋戦争>
<なぜ日本軍は、大陸と海洋への壮大な二面作戦を実行してしまったのか>
<分裂した日本の海軍と陸軍>
・日本軍が戦った戦域は、大きく2つに分かれています。中国大陸への戦域と、南太平洋から東南アジアを巻き込む戦域です。この2つの方向性を持つ日本の対外戦略は、北進論、南進論と呼ばれ、それぞれ陸軍と海軍が主張したものでした。極めて大雑把に言えば、アジア・太平洋戦争とは、陸軍と海軍が、それぞれの持論を掲げて戦った、2つの戦争だったとも言えます。
・1941年8月、対日石油輸出禁止という経済制裁に踏み切ったのです。
これにより、日本の南進政策が決定的なものとなります。インドネシアの石油とビルマ、マレーシアの資源確保のために、ついに英米蘭と開戦。初戦は奇襲によって勝利したものの、海軍はその半年後には劣勢に立ち、アメリカはオレンジ計画通りに日本を敗北に追い込みました。
陸海軍を統合する戦略をもてなかった、それが日本の過ちでした。地政学の法則に反し、陸と海を共に求めてしまったのです。
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