当時、歴史を学びながら気づいたのは、世界中で現在起きているほとんどの出来事は、過去にも起きていて、それが繰り返されているということだった。(3)
<ロシア1 世界最大の領土を持った大陸国家 ロシア帝国ができるまで>
<ハートランドを制したロシア帝国>
・現在のロシアがウクライナに執着するのは、そもそもロシアという国家がウクライナから始まったためとも考えられます。
ウクライナはユーラシア大陸で最も肥沃な平原と温暖な気候に恵まれた地。ここに9世紀頃、小さな国キエフ公国が誕生しますが、13世紀には東から押し寄せてきたモンゴルに征服されます。このモンゴルの臣下になって徴税を請負った一派が力をつけ、14世紀初頭にモスクワ大公国が台頭。モンゴルの衰退と同化、内輪もめなどを経て、1613年、のちにロシア帝国を築くロマノフ家の初代皇帝ミハイル・ロマノフが即位し、ロシアの近代史が始まります。
<ロシア2 ハートランド、ソ連を包囲しろ 冷戦とはリムランドの攻防戦だった>
<アメリカが目指したソ連包囲網>
・マッキンダーの「ハートランド」という地政学の概念は、第ニ次世界大戦後の対ソ連戦略を模索するアメリカ国防省で脚光を浴びます。1942年に地政学者ニコラス・スパイクマンは、ハートランドを包囲する周辺地域として「リムランド」構想を提唱。ハートランドであるソ連の拡張を外輪(リム)で防衛しようというものでした。
周りに味方の外輪を欲していたソ連は、チェコスロバキアを制圧して、ベルリンにも侵攻。社会主義圏を広げていきます。一方、大戦で疲弊した西ヨーロッパ諸国は、ソ連と対抗するためにアメリカの軍事力を盾に、防衛同盟NATOを誕生させます。
・この東西冷戦の時代、資本主義と社会主義の戦いは永遠に続くかと思われました。ところが、1991年、ソ連はあっけなく崩壊します。一体何が起こったのでしょうか。
社会主義国ソ連は内側から病んでいました。市場のニーズとは無縁の計画経済の破綻、共産党官僚の特権化と腐敗、市民の不満を押さえつける秘密警察の横暴。さらに、ソ連軍のアフガニスタン侵攻が、決定的な財政危機を生み出します。
そんな弱体化したソ連に誕生したゴルバチョフ政権は、ペレストロイカ(立て直し)に乗り出し、ついには共産党一党独裁を終了させます。しかし共産党というタガが外れるや否や、共和国が次々と独立。瞬く間にバラバラになったのです。このソ連崩壊を、中国は大きな教訓とします。
<ロシア3 プーチンの新ロシア帝国はエネルギーと宗教が生命線?>
<プーチンの初仕事は泥棒退治>
・旧ソ連の人々は、突然のソ連消滅に茫然自失します。あれほど強固と思えた共産党も消えて、腐敗の元凶だった特権的官僚たちは、一斉に国営企業の財産に群がりました。エネルギーを中心とした資産が、ロシア系ユダヤ人の企業家によってタダ同然で「民営化」され、西側の金融資本の資金がそこに流れこみました。こうして、気がつくと旧ソ連の国営企業の資産は、新興財閥と称される人々に簒奪され、その資源を西側諸国に販売した利益によって巨大エネルギー企業群が誕生していたのです。
・国営企業の消滅、国家の混乱の中で、人々の収入も途絶え、ロシアは破綻国家になりかかっていました。そんな絶望的なときに、人々が喝采することが起こります。新興財閥の中心的人物を「泥棒」と呼び、逮捕・収監するヒーローが現れたのです。エリツィンに替わって登場したウラジーミル・プーチン大統領です。プーチンは次々と問題のある企業人を告発しました。その一人、ミハイル・ホドルコフスキーは、個人資産をキプロスなどの秘密口座に隠し、企業の株をアメリカの石油メジャーに売り払おうとさえしていました。
プーチンはこれらのエネルギー企業を再び国有化し、国家管理のもとに、ヨーロッパ諸国に対するエネルギー供給国としてロシアの国家戦略の再構築を図ったのです。
・解体寸前だったロシア経済をエネルギー政策で再稼働させたプーチンは、もう一つ、ロシアの新しい統一理念をつくろうとしています。それは、共産党政権下では非合法だったロシア正教の復権です。ロシア正教は、ローマ帝国の東西分裂後、カトリックと袂を分かったキリスト教の一派、東方正教会がロシアに根づいたものであり、ロシア帝国時代以前からロシア人の心の拠り所であり続けてきました。プーチンはこのロシア正教の聖地に何度も出向いて教会との連携を深め、宗教の権威のなかに、自らの権威も位置づけようとしています。
・(ウクライナ問題)ウクライナは、エネルギー戦略と海軍のために、絶対にゆずれない。
ロシア人の多く住む地区。現在ロシアが実効支配。
・(チェチェン問題)チェチェン紛争は西側諸国のロシアへの挑戦だ。ロシア帝国時代からチェチェン人の独立闘争は続き、ソ連崩壊で武装闘争。2009年にロシア軍により鎮圧される。
・(クリミア)2014年にロシアの支援でウクライナから分離独立。
・イラクの平和のためにロシアが動く。アメリカが攻撃の矛先をシリアからイランに変更した。シリアの混乱を調停する実力者はプーチンしかいない。
<海洋国家日本が選ぶ平和のための第3の地政学>
<太平洋ネットワークの起点国家へ>
<日本は国家の始まりから明治まで、繁栄するアジアの辺境にあった>
・この憲法が生まれた背景には、戦勝国の「理性による地政学」がありました。連合国側が戦後世界に期待した、国連軍による平和です。国連軍だけが国際紛争解決のための軍事力となり、国連軍は国連の安全保障理事国だけが組織できる。この構想の下では、日本の戦争と軍備の放棄は当然の道筋でした。
しかし、地政学的状況は激変します。平和憲法の制定を指導したアメリカが、日本に再軍備を要求したのです。原因は1950年に勃発した朝鮮戦争でした。
・しかし、視点をいま一度、太平洋を中心とした地図に戻してみましょう。ここで日本は辺境ではありません。台頭する中国の勢力圏とは、「引っ越しのできない隣同士」でもあります。日本はアメリカと中国、拮抗する2つの勢力の中央に位置しています。これが現在の日本が置かれた地政学的な位置です。
このような日本が選択し得る道筋は、大きく3つあり得ます。
1、 日本は、縮小するアメリカの太平洋勢力圏維持のための最前線として、中国の膨張圧力に対抗し続ける。
2、 日本は、勃興するアジア経済圏の一因として、中国の勢力圏に含まれていく。
3、 日本は2大国のどちらにも隷属せず、その中央に位置する地政学的特徴を生かして、太平洋の海洋国家をネットワークする新たな経済・文化圏を構築する。そして、このネットワークをインドやイスラム圏に繋ぐことで、アジアの成長のコア・センターの1つとして貢献する。このプランは、日本政府・ASEAN諸国が推進する構想と多くの共通点をもっています。
あなたなら、どの選択肢を支持するでしょう?
(2022/1/16)
『日本人が知るべき東アジアの地政学』
2025年 韓国はなくなっている
茂木誠 悟空出版 2019/6/25
<日々のニュースに躍らされないために、地政学で“知的武装”せよ>
・ここ数年を振り返るだけでも、朝鮮半島にはさまざまな未解決、不透明な問題が存在しているのですが、同時に周辺の国々も、それぞれの国益を追求して蠢いています。
・本書の書名でもある地政学はリアリズムの一つで、地理的な所与の条件をもとに国家の行動、国家間の関係を考えるものです。比較的安定した条件に恵まれてきた日本人が、あまり気を配ってこなかった思考法でもあります。
日本はかつて、地政学を軽視し、あるいは曲解したために歴史上いくつかの失敗を犯しました。敗戦国として米軍の駐留を受け入れた日本は、ますます地政学的な考え方、ものの見方から距離を置き、いわゆる「平和ボケ」のなかで成長することを許されてきました。
世界史は地政学抜きに語れません。
<2025年、韓国はなくなっている>
・地政学と世界史でこれからの挑戦半島を展望するとき、そう遠くない将来、必然的に、まだ多くの人が予想していない事態が起こると考えています。
それは、「統一朝鮮」の出現です。
早ければ5年、遅くとも10年以内に起きるでしょう。2025年ごろには現実化していてもまったく不思議ではありません。これは、朝鮮半島に存在する二つの国家の都合だけでなく、関係する国々まで含め、「統一する条件が揃ったから統一する」ということです。
詳細は順を追って説明しますが、当初は韓国と北朝鮮による緩やかな連邦制、イメージとしては中国本土と香港・マカオのように、新しい政府がヒト・モノ・カネの移動を制限する、一国二制度で運用していくことが考えられます。
この国家を、本書ではあえて「統一朝鮮」と呼ぶことにします。日本で教えられている世界史において、「朝鮮」とは、単に朝鮮半島、朝鮮民族を指すか、時代としては李成桂が打ち立てた朝鮮王朝あるいは北朝鮮を示します。ですからここで私が用いる「統一朝鮮」とは、韓国の経済力・軍事力によって統一されるのではなく北朝鮮の主導で統一が実現する国家になることを意識しています。
<米中対立のなかで、日本はどうすべきなのか>
・実は朝鮮半島、統一朝鮮がどうなるかは、日本にとってさほど重要な問題ではありません。あくまで、現象の一つ、変数の一つにすぎません。
もっと深刻な問題は、米国が衰退し、世界の警察としての役目を終えようとしているなかで、中国の覇権を防ぐために、日本は何をすべきか、どの国と連携すべきかということです。東アジアで交錯する7ヵ国のうち、メインプレーヤーはあくまで米国と中国です。両国の覇権争いがもっとも大きな構造であり、日本も統一朝鮮も、そのなかでどうなっていくかという視点から捉えるべきです。
<国家は地政学で動いている>
・地理的条件は、世界史を方向づける決定的な要因です。なぜなら、地理的条件は人間の手によって、改変することが難しく、これを受け入れることはリアリズム(現実主義)そのものだからです。
<「バランス・オブ・パワー」が崩れたとき、戦争が起きる>
・まず、「バランス・オブ・パワー」、すなわち「力の均衡」とは、同等の軍事力を持つ相手からの反撃が予想される場合には攻撃をためらい、結果的に平和が維持される状態を指します。同じ意味で「抑止力が働く」という言い方もします。反対に、バランス・オブ・パワーが崩れてしまっていると、戦争の危険性はむしろ高くなります。
何らかの理由で軍事的な空白が生じる事態も、バランス・オブ・パワーを崩壊させ、戦争が起きやすくなります。
<統一朝鮮(韓国+北朝鮮)の戦略――大国間で二枚舌外交を繰り返す半島国家>
<韓国は東アジアの“アン・バランサー”>
・早ければ2025年、朝鮮半島は再び「統一国家」になるというのが私の見立てです。「統一朝鮮の出現」という結論を突飛に思う方も多いでしょう。
・機を見るに敏な朝鮮半島では、中国の経済成長に伴って微妙な変化が起きました。韓国では、米国の衰退に伴って朴槿恵政権を支えた親米派が勢力を失い、文在寅政権を生み出した親北朝鮮派が世論の支持を背景に権力を掌握し、半島統一を最終的な目標に据えて北への経済支援を始めました。貿易相手としての重要性は米国よりむしろ中国のほうが高くなり、中国との距離を近づけつつ、米国とは微妙な距離を保つ政策を取って「北東アジアのバランサー」を自認します。これは朝鮮戦争で支援してもらった米国への裏切り行為、米韓同盟の空文化であり、米国は韓国への不快感を隠そうとしません。文在寅政権は韓国歴代政権のなかでもっとも北との統一を志向している特異な政権です。もはや米国関係も日韓関係も、「ボタンの掛け違い」を通り超して、根本的に考え直さざるを得ないような事態になりつつあります。
・「南北統一など夢のまた夢」に見えますが、実際はその反対なのです。文政権が北に肩入れするのは、歴史的、そして地政学的な背景から理由を読み解くことができるのです。深読みすれば、文在寅はわざと事態を混乱に陥れようとしているのではなかとも受け取れます。多くの日本人の目には、こうした状況は危険かつ非現実的に映りますが、韓国世論がこれを強く支持しているのです。
<地政学で韓国リベラル政権の意図が見える>
・北は、南北統一の最大の障害となっているのが米韓同盟と在韓米軍の存在だから、これは何とかしろ、と文政権に圧力をかけてきました。これを受けて文政権は、同盟国であり統一の鍵を握っている米国に対して、「北朝鮮は非核化を行う意思があるから、私たち韓国のコーディネートに乗って米朝交渉を進めてほしい」という態度をとり続けてきたわけです。
<韓国で「進歩系」が力をつけた理由>
・ところが、リベラルが理想としたグローバリズムの弊害(貧富の格差、移民問題)が顕著になった21世紀の先進国では、伝統回帰の保守勢力が選挙で議席数を増やしています。日本の安倍政権、米国のトランプ政権、英国保守党政権下でのEU離脱の動きは、すべて連動しているのです。こうした状況を見ていると、韓国だけ、理念先行のリベラル系勢力が大きく支持を得ているという状況に違和感を抱く人も多いでしょう。
・韓国で「進歩系」が力をつけたことと、李明博・朴槿恵の保守系政権に戻った時代でさえ、韓国は米国と中国を両天秤にかけるような行動に出るようになり、米国の韓国に対する不信は深まっていきました。同時に、かつて経済面で頼っていた日本の存在感も低下していきます。結局は、「もっとも強い国に事大する」という半島国家のふるまいに先祖返りしただけだと言えるのです。
<半島国家・ギリシアに酷似する朝鮮半島>
・こうした朝鮮半島の流れによく似た先行例が欧州に存在します。バルカン半島先端にあるギリシアです。ボスフォラス海峡とダーダルネス海峡は、国会とエーゲ海、地中海を結ぶチョークポイントで、長年争いを続けてきたシーパワーの英国と、ランドパワーのロシアの利益がぶつかる場所です。
・いまのところEU諸国は、ギリシアのわがままを受け入れ、財政支援をじゃぶじゃぶと注ぎ込んでいます。それをしないと、ギリシアが反EU側に寝返り、欧州の安全保障が危うくなるからです。
<韓国の「反日」「侮日」感情は、現代に残る朱子学>
・ギリシア文化はキリスト教(ギリシア正教)に深く影響されていますが、朝鮮半島の文化を規定しているのは朱子学です。これは過去の話ではなく、現在もなおそうなのです。
・モンゴル支配を脱した朝鮮王朝が朱子学を官学化したことによって、自らを「中華」=文明人、中華文明を受け入れない日本人を「夷狄(いてき)」=野蛮人として蔑視してきた、というお話は、第2章で説明しました。この圧倒的な優越感を大前提として、近代になって「格下の日本に併合された」という事実に、ぬぐいがたい屈辱感を持っているのです。併合したのが中国やロシアだったら、これほどの屈辱を感じずに済んだでしょう。「日本だからダメ」なのです。この感情が、韓国人をしてリアリズム的な思考を困難にしているのです。
・韓国ではいまでも強力な学歴主義、学閥主義で、大企業、公務員に就職人気が集中し、それ以外の道を選ぶくらいなら何年浪人してでも試験にチャレンジする文化が続いています。これは、「ヤンバンでなければ人ではない」「知識人こそ至上で、体を動かすような仕事は恥ずべき」「科挙に合格しなければならない」などという伝統的な考え方が、サムスンの入社試験や公務員試験に置き換わっただけと考えると理解しやすいのです。
<外国頼みの保守派と民族独立の進歩派>
・つまり韓国の「右派」は親米独裁を是とし、韓国の「左派」は労働党独裁を是とします。たとえば、金大中・廬武鉉・文在寅の三代の左派政権は、北朝鮮におけるキム一族への個人崇拝や強制収容所での人権弾圧、韓国人拉致被害者の問題についてかたくなに沈黙を守ってきました。批判しないということは、是認しているということです。一体どこが、「左派」なのでしょうか?
・それでは、韓国の「左派」「進歩派」の政治的主張とは一体何か?これこそが、「民族統一の悲願達成」なのです。
・近年、中国発と思われる微粒物質PM2.5が韓国を襲い、深刻な大気汚染を起こし社会問題化していますが、韓国の度重なる協議要請を、中国政府は門前払いにしています。習近平は2017年の米中首脳会談でトランプに対して「かつて朝鮮半島は中国の一部だった」と語りました。高句麗や元の歴史を考えればそうとも言えるわけですが、朝鮮民族としてこれは、恥辱以外の何ものでもありません。文在寅大統領が中国を訪問すれば、まるで冊封国の王のように扱われます。「仮想敵国」の日本やインドの首脳よりも冷遇され、首脳会議でも要人との会食が用意されず、「一人飯」を余儀なくされたことが韓国人を憤激させました。
・さらには、韓国の歴史教科書で「漢民族の祖先」と教えている高句麗について、「中華民族の一部にすぎない」と中国の歴史学界が定義するという動き(東北工程)についても、中韓の間で歴史論争が続いています。高句麗は満州人と同じツングース系民族ですから漢民族でも韓民族でもないのですが、この問題は中国東北地方の延吉周辺に住む朝鮮系住民の帰属に関わる政治問題なのです。
・「反日」では共闘しているかに見える中韓の間には、このようにさまざまな葛藤があるのです。そして韓国の「左派」「進歩派」とは、実は中国とも相容れない強烈な朝鮮民族至上主義者であり、「保守派」以上に妥協の余地がない勢力であることが、日本ではほとんど理解されていません。日本のリベラル勢力は、民族主義を忌避する勢力ですので、韓国人のこのメンタリティが理解できないのです。
<金正男はなぜ殺されたか?>
・こうした中朝関係を理解すれば、北朝鮮の二代目指導者・金正日が「中国を信用するな」という遺訓を残したことも合点が行くでしょう。中国は当然このことを快く思わず、北朝鮮の指導部内に「親中派」を育成していきました。金正日の妹婿で経済官僚の張成沢と金正日の長男である金正男です。
・北朝鮮で「親中派」の張成沢・金正男が粛清されたこと、韓国で「親中派」に転じた朴槿恵政権がろうそくデモで倒されたこと、この二つの事件は、朝鮮半島から中国の影響力が排除されつつあることを意味します。金正恩がトランプとの米韓首脳会談に応じた最大の理由も、中国の圧力に対抗することなのです。
<文在寅がこだわる「1919建国」史観>
・それでも1919年の3.1運動と上海臨時政府は、「わが民族が日本帝国主義に立ち向かったほとんど唯一の事例」として賞賛に値するわけです。3.1運動以降、大規模な反日運動は起きていないため、他に選択肢がありません。
<「アメリカ・ファースト」と「朝鮮ファースト」が一致>
・一方で、世界の警察官をやめたいトランプにとっても、在韓米軍の縮小は絶好のアピールポイントになります。
・トランプの「アメリカ・ファースト」に対して、金正恩も文在寅も結局は「朝鮮民族ファースト」であり、お互いにナショナリストという意味では了解し合えるのです。
<金正恩の「核・ミサイル放棄」はあり得ない>
・一連の米朝首脳会談を通じて、金正恩の頭の中に「非核化」や「核・ミサイル放棄」などまったくないという事実が明白になりました。
<主体思想は「マルキシズム風味の朱子学」だ>
・北朝鮮は、現在の韓国「進歩派」、朝鮮民族至上主義を完全に手なずけてしまった感があります。
韓国の「進歩派」が外国勢力に頼ることを批判しても、彼らもまた完全に資本主義化し豊かな暮らしを送っている人々であり、なぜ世界最貧国の北朝鮮に肩入れできるのか、という疑問を持たれるでしょう。この疑問も、実は朱子学で説明できるのです。朝鮮労働党の指導原理である「主体(チュチェ)思想」は、韓国の「進歩派」にとって、非常に共感できるものだからです。
<統一朝鮮は当面「一国二制度」になる>
・統一朝鮮の未来像をここで予測しておきましょう。そのモデルとなるのは、中国が香港返還の際に採用した「一国二制度」です。
<金正恩は民族の「象徴」になれるか?>
・やや唐突かもしれませんが、キム一族は統一朝鮮の出現後、まるで日本の天皇のように、朝鮮民族統合の「象徴」になるかもしれません。
<統一朝鮮は核兵器を手放さない>
・自主独立の統一朝鮮は人口7600万人を擁し、ドイツ(8200万人)、フランス(6200万人)と肩を並べる中規模国家となります。その安全を保障するものは、北朝鮮から引き継ぐ核ミサイルです。つまり、朝鮮半島は史上初めてどこにも支配されない朝鮮民族の国家を、核とミサイルをベースとした国防力によってつくりあげるということになります。
<中国の戦略――大中華思想を貫く宗主国>
<ランドパワー帝国はシーパワーに変身できるか?>
・日清戦争のとき、アメリカはまだハワイに手を伸ばしたばかりでした。もし西太后が李鴻章の海防策を全面採用していれば、中国海軍はこの段階で西太平洋への進出を果たし、フィリピンを手中に収めたかもしれません。新疆から撤退していれば、その後ウイグル問題に悩まされることもなかったのです。それができなかったのは、新疆の併合を狙うロシアの存在でした。ランドパワー化とシーパワー化は両立しない、というのが中国人が学ぶべき歴史の教訓です。
<シーパワー化は致命的な失策>
・中国はせっかく経済成長したのに、むしろ求心力を失い、そのうえ米国と全面対決の様相を呈してきました。もはや四面楚歌の状況です。「孫子の兵法」の「戦わずして勝を最善とする」を実践し、謀略と宣伝を得意としてきたはずの中国。これは、実は弱者の生き残り戦術だったのです。「大国」を自負するようになった習近平の中国は、謀略戦、宣伝戦では負け続けています。
<統一朝鮮と「中国の夢」>
・ところが、中国の経済成長で事情が一変します。鴨緑江の国境から、直接資金も技術も北朝鮮側に流れるようになったのです。この結果、日本が経済制裁を行っても効き目がなくなってしまったのです。
中国はこのルートを利用し、北朝鮮を手なずけます。もちろん、疑い深い北朝鮮が簡単に中国の意図に従うわけではありませんが、カネと物資を握っている中国は、「北朝鮮を動かせる国」と自負するようになりました。実際に中朝貿易を仕切ってきたのは北京政府ではなく、旧満州と内モンゴルを統括する人民解放軍の北部戦区です。
・当初は魅力的なマーケットと安価な労働力をアピールして韓国や日本、欧米の企業を呼び込みます。その技術やノウハウを吸収して国内企業が育成されると、外国企業にはあれこれ圧力をかけて中国から出ていくように仕向けます。よく使われるのが、税務調査で追徴課税する、中国人労働者にストをやらせる、という方法です。そもそも許認可権は中国共産党が握り、裁判所も中国共産党の傘下にあるので、外国企業は対抗できません。
<共産党政権崩壊の火種は「朝鮮族自治州」問題>
・統一朝鮮の登場が中国の火種となるリスクもあります。日本ではあまり関心を持たれていませんが、中朝国境の中国側、鴨緑江の北側の「延辺朝鮮族自治州」の存在です。
中朝国境の中央からやや東寄りに白頭山という美しい活火山があります。朝鮮民族の伝説的始祖である檀君が、国を開いたとされる聖地です。その周辺部は満州族の居住地でしたが、清の時代から朝鮮人の開拓民が入り込み、やがて朝鮮人の居留地になりました。
・中国における少数民族の「自治」とは名ばかりで、実際には北京から派遣される中国共産党の幹部が独裁権力を握っています。これは、延辺でもチベットでも同じことです。現在は人口210万人のうち、3分の1以上が朝鮮語を話す朝鮮系の人々です。彼らは隣の吉林省にも広がっています。
・中国共産党というよりも習近平政権が崩壊する、もっともリスクの高いシナリオは、経済成長が行き詰まり、人民解放軍の各戦区の統率の乱れから、国内が諸勢力に分割されることです。延辺の朝鮮人独立運動が「統一朝鮮」と結びつけば、満州が再び独立国になる可能性もあります。
<中国による「沖縄の属国視」にどう反論するか?>
・中国は日本やインドに対して、韓国のような「属国待遇」をしませんが、これは歴史上「中華の圏外」にいて中国の支配が届かなかったからです。「夷狄(いてき)」「化外の地」として認識しているのです。
・両者を混同することは、日本にとっても困った事態になりかねません。沖縄は琉球王国時代に明に朝貢し、薩摩藩に占領されていた江戸時代も、明・清から冊封を受けていました。朝貢貿易の利益を確保するため、薩摩藩はこれを黙認していたのです。
日本で保守派の論客が強調する「朝鮮は中国の属国論」を中国側が逆手にとって、「琉球は中国の属国論」を展開すれば、尖閣を含む沖縄領有権問題に火がつくおそれがあるのです。すでに中国国営メディアは、明治政府による琉球王国併合に疑義を呈しています。「中華帝国は沖縄を軍事占領したことはない。朝鮮とは違う」ことを強調しておきたいと思います。
<永楽帝以来のシーパワー化は成功するか?>
・中国から見ると、太平洋へ直接出ることはできません。日本列島に囲まれた日本海、沖縄・台湾に囲まれた東シナ海、フィリピン・マレーシア・ベトナムに囲まれた南シナ海が存在し、横須賀を母港とする米海軍の第七艦隊が展開して、中国海軍の進出を阻んでいます。
<歴史カードで「日韓離間」「日米離間」を図るが逆効果に>
・中国の新たなシーパワー戦略が日本にどのような影響を及ぼすのか、ひとまず二つのポイントを指摘しておきましょう。
まず中国は、日韓・日朝の分断を望みます。朝鮮半島を米国や日本から離間させ、中国にとって便利なカードとして利用したいという考えは、統一朝鮮の出現でより強まるでしょう。そこで中国が持ち出すのが、朝鮮民族を麻痺させる「歴史カード」です。
・中国の「反日」は天安門事件で求心力を失った共産党政権が1990年代に始めたもので、きわめて現実的かつ戦略的です。対米関係が悪化するとあっさり「反日」姿勢をやめ、韓国の文在寅政権が北朝鮮に擦り寄ると、ハルビン駅の安重根記念館を閉鎖したり、朝鮮人抗日独立運動家を称える施設を「何者かが」荒らしたりします。
日本に対しても歴史カードは大きな成果を生んできました。
<「琉球独立」問題と中国>
・日本国内で唯一、中国の宣伝工作が効果を発揮している地域があります。
沖縄です。多くの米軍基地を抱え、騒音問題や米兵による犯罪も少なくない沖縄では、反米基地闘争が常に一定の支持を得てきました。民主党の鳩山由紀夫首相が、米海兵隊の普天間基地を辺野古へ移転するという日米合意に反対し、日米関係を悪化させたことは、中国の日米離間工作のもっとも成功した事例でした。この鳩山由紀夫という人は元首相としてお元気ですが、本人が自覚しているかどうかはともかく、常に中国共産党の意向に沿い、日米を離間させようとする発言を続けています。
私が習近平なら、鳩山のような親中派や沖縄の反米運動を積極的に支援するでしょう。
・そこで中国は「沖縄対日本」、あるいは「沖縄対東京の政府」という構図を描き、「沖縄」への投資という形で資金援助するでしょう。このとき持ち出されるのが、「かつて琉球王国は中華帝国の属国だった」という論理です。まだ少数ですが、沖縄国際大学や琉球大学には「琉球独立」を叫ぶ勢力もあり、2016年には北京で開かれた「琉球・沖縄最先端問題国際学術会議」に参加し、「琉球独立」「米軍基地撤回」に関する論文を発表しています。中国が反基地闘争に手を貸すメリットは十分にあると考えるべきうでしょう。
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