それ以上に思秋期に注意が必要なのはうつ病です。実際、40歳以降は、うつ病にかかる人が増加します。(2)
<「手すり」があるとないとじゃ、大違い>
・そんなヨタヘロ期強い味方、それは手すりです。
・そして現在、この家の手すりはさらに増えています。
いつどこで転ぶかわからぬ91歳。最初に手すりをつけた場所以外でも、支えが必要になったのです。
・要所、要所の手すりのおかげで、家のなかはさらに安全。転びにくくなりました。
・認定を受けるときは、自治体の職員や委託されたケアマネジャーが自宅にやってきて、どの程度の支援や介護が必要か、聞き取り調査が行われます。
・ちなみに、お風呂は手すりがあっても危険がいっぱい。湯船をまたぐのがつらくなったら、一人のときに入浴するのは避けましょう。
<出かけましょう、歩きましょう!>
・通勤途中、ジョギングや犬の散歩をしている同世代の方をよく見かけます。昔と違って、元気な高齢者が増えました。
・たとえばコロナ禍では、「巣ごもりフレイル」という言葉がよく聞かれました。フレイルとは、加齢による心身の活力の衰えのこと。感染予防で家に閉じこもる日常が続くうちに、気がついたら「歩くスピードが遅くなった」「よく転ぶようになった」、ひどい場合は「起き上がれなくなった」という人が増えたそうです。
こうした退行性の症状は、廃用症候群と呼ばれ、健康な人でも起こるもの。筋肉は、使わないとあっという間に衰えてしまうんですね。高齢の場合、2週間程度巣ごもりしただけで、下半身の筋肉は2割も委縮してしまうそうです。
・でも、少なくとも80歳になるまでは、自分でロコモーション機能(立つ・歩く・走るなど、生活に必要な身体を移動させる力)を鍛えていきたいと思っています。貯金はできませんが、せめて「貯筋」しようというわけです。「貯筋」のコツは、「今日、用」「今日、行く」です。みなさんも、なるべく積極的に出かける用事をつくって、あちこち出かけていきましょう。
<大切なのは「食」「触」「職」>
<食――食べる>
<母と娘の食卓は、ほのぼの時々バトル>
・そんなわけで、最近ではシルバー人材センターの方に週3日来ていただいて料理の作り置きをお願いするほか、講演でもお話ししたように宅配弁当も利用しています。
<料理だって定年があっていい>
・台所に立つのが億劫になったのは、80歳を過ぎた頃からでした。
・それに、夫は定年退職して家でのんびりしているのに、妻だけ80歳になっても早起きして料理なんて不公平。妻にも料理定年があったっていいと思うのです。
<健康の王道は“バランス食べ”にあり>
・私たち世代にとっては、よくいわれる「ま・ご・は・や・さ・し・い」も参考になるでしょう。「ま=豆」「ご=ゴマ」「は=ワカメ(海藻)」「や=野菜」「さ=魚」「し=椎茸(きのこ類)」「い=いも類」。
ただ、これら一つひとつは、これさえ食べれば安心という魔法の食材ではありません。大切なのは、あくまでもバランスよく食べることです。
<「食べる」を通じて世代間交流を>
・「じじばば食堂」は、高齢者の食べる楽しさと健康を支える、人生100年時代の重要拠点となりそうです。
<触――コミュニケーション>
<「ファミレス時代」がやってきた!>
・昭和ひとケタ世代は、夫婦の間に平均5人の子どもがいたものです。でも、今の日本は、世界有数の少子社会。2022年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)は、過去最低の1.26だそうです。
・おまけに、男女共同参画局によれば、2020年、50歳の女性の約6人に1人、男性の約4人に1人は結婚経験がありませんでした。
家族のサイズは、どんどん小さくなっていきます。
・けれどもこれからは、夫婦2人暮らしや連れ合いをなくした人、最初から未婚・非婚のおひとりさま世帯が、多数派になるということです。私はこれをファミリーレス、略して「ファミレス社会」と呼んでいます。
・実際、わが家がいい例です。私は3人きょうだいの末っ子に生まれましたが、姉も兄も早世し、実質的には1人っ子。甥も姪もいません。連れ合いを早くに亡くし、やはり1人っ子の娘は、子どももいないシングルです。私があの世へいったら、娘は親レス、姪レス、甥レストラン、従兄弟レスで、親類縁者がほぼいなくなるのです。
日本は介護を血縁に頼ってきた社会ですから、これからの高齢者は、いったい誰を頼りにしたらいいのでしょう。これは時代を揺るがす大きな問題です。
<今から加入するなら、だんぜん人間関係の保険がおすすめ!>
・来たる2025年には、国民4人に1人が75歳以上です。
・高齢医療専門のお医者さんも、「人付き合いをまったくしない人は、運動をまったくしない人よりも老いが進む」とおっしゃっています。
・とにかく、出かける、出会う、何かできる。私はこれを「3D主義」と勝手に呼んでおりますが、こういう心持ちが大事です」
・いざというときのお金は、もちろん大事。でも、お金持ちでなくても“人持ち”ならば、たいていのことは乗り越えられます。
・「遠くの親戚より、近くの他人」とは、昔の人は本当にいいこと言った!
<女同士の友情は、ある? ない?>
・私の知る限りでも、わが女性たちのほうが男性より友だちの数は多い気がする。
・そんな女学校を舞台に女同士の友情を描いたのが、作家・吉屋信子の『花物語』でした。
<コミュニケーション力を上げる補聴器>
・そこで90歳の年にはじめて補聴器を買いました。ところが、使いこなすまでがひと苦労。
・補聴器の値段は本当にピンキリで、片耳で数万円から100万円するものまであります。
<おひとりさまの覚悟>
・「高齢社会白書」(2022年版)によれば、65歳以上の一人暮らしの割合は、男性が7人に1人、女性は5人に1人。しかも年々増加傾向にあるそうです。老いて大シングル時代です。
一人暮らしのノウハウを身につけ、烈々たる自立の志を保ち続ける。
・たとえば急に手術が必要になったとき、病院からは身元保証人が求められますが、引き受けてくれそうな心当たりの人はいるでしょうか。
・身元保証人は、高齢者施設へ入居するときにも必要になります。
・もう顔も忘れたような甥っ子や姪っ子で、存在そのものが貴重です。多めのおこづかいでも渡して「何かあったらよろしくね」とアピールしておくことも大事。その際は、なるべく若い人を選ぶこと。どっちが先に逝くかわかりませんけれどね。
最近では、身よりのない高齢者のための身元保証を引き受ける民間サービスも増えています。
・ちなみに、2000年になって介護保険制度がスタートしたとき、同時に「成年後見制度」というものもはじまっています。認知症などで判断能力が低下した人の財産を守る仕組みが必要になったからです。
こちらは裁判所へ申し立てて後見人を選任してもらう公的なもの。
<かかりつけ医はいますか?>
・おひとりさまが、もう一つ準備をしておきたいこと。それはかかりつけ医を決めておくことです。
・自分が死んだあとのことはもう知らん、と思うかもしれません。でも、警察署の管轄となれば、監察医務院へ送られ行政解剖から司法解剖というものものしい展開となってしまいます。葬儀までによけいな時間がかかって遺族の悲しみも深めます。
そんなわけで、かかりつけ医の存在は大切なのです。
<開けっぴろげがちょうどいい>
・人生のはじまりがそうだったように、人生の終わりにも一人で生きられない日々が待っています。これまでかくしゃくとして生きてきた身、無力を認めるのはむずかしいかもしれません。
・もちろん、介護を子どもたちだけにさせようということではありません。介護保険や他人の力を借りるのが、今の介護の前提です。ただ、介護保険のサービスを受けるにしても申請や何やらこまごまと手を借りることもあるでしょう。猫の手じゃ役に立ちませんから、やっぱり家族は大切なのです。
<第二の義務教育はぜひ必要>
・まだ若いつもりでいるかもしれないけれど、老いの道は待ったなし。
・ですから、とにかく知るのが大事。知って制度をうまく使いこなすのが、後半の人生を心地よく生きる決め手となるのです。
新入生や新入社員に向けて、オリエンテーションやガイダンスという名の説明会や勉強会があるように、高齢者にも学びの場が必要です。私は、これを人生100年時代における第二の義務教育とすべきとさえ思います。
・財源不足を理由に社会保障費を削ろうなどというけしからん動きもあります。
<同世代から口コミ情報が役に立つ>
・その意味でも、同世代の友人や知り合いは1人でも多いほうが心強いしうれしいのです。
<いっしょに歌おう!>
・歌うことが好きな人は、カラオケ教室に通うとかコーラスに参加するのもいいと思います。
<職――働く>
<「終活」なんて、まだ早い>
・でも、ちょっと待って。この人生100年時代にあって、60代や70代で余生だなんて早過ぎやしませんか。
・なにしろ女性の平均寿命は87.09歳(男性は81.05歳)。会社で働いていた人は65歳でリタイアしたとしても、残り22年もあるのです。
・職人さんの世界では、「10年やれば一人前」とよくいわれます。ということは、今から何かはじめても、その道で食べていける可能性だってあるということです。
・表舞台からは下りたとしても、まだまだ社会とかかわっていけるし、人の役にも立てるのが私たちの年代です。
<おばさんになるかもしれない症候群>
・セカンドステージに立ちはだかる最初の敵は、アンコンシャス・バイアスです。何かはじめたくても、「もう年だから」「どうせ私は終わった人」と尻込みしてしまう。
ですが、今は立ちはだかる年齢の壁は分厚く高い……と見えても、過ぎてしまえばそれも幻。
・転職したばかりの頃は、カルチャーショックの連続でした。なにしろ働き方もものごとの決め方も、すべてがこれまでのやり方とは違うのです。不思議の国のアリスになって、逆さま世界に落っこちた気がしました。
管理職だった頃と違って、部下が細かい作業を補佐してくれるわけではありません。職場ではパソコンが普及していて、これに大苦戦。こっそりパソコンの個人レッスンに通い、おそるおそるポツンポツンのキーを打つ日々でした。
・もう若くないと思った瞬間、未来の可能性にカギがかかってしまいます。終わった人、無用な人などと自分を卑下しないでください。人は年齢を重ねれば重ねるほど、失敗や成功を含めていろいろな経験をします。
<今こそ、私たちの出番です!>
・介護の需要は増えているのに、介護に従事する人は少ないのが現状です。
・健康で意欲がある人なら、まず自分がファーストペンギンになりましょう。
ファーストペンギンとは、天敵だらけの海のなかへ最初に飛び込んでエサを捕る、勇気あるペンギンのことです。この一羽目のペンギンがいるから、仲間たちも安心して次々と飛び込んでいけるのです。
最初は小さなことでいいんです。あなたがチャレンジして成功すれば、誰かが真似をして自分もやってみようと思います。世の中はこうして変わっていくんですね。
・あなたの一歩が、次の一歩につながります。その一歩が「年寄りにはどうせムリ」という年齢の壁も壊します。こうしたプラスの連鎖をどんどん起こしましょう。
<自分にできることは必ずある>
・いくつにもなってもできることで働きましょうという話をすると、「自分は何もできないから」とおっしゃる方もいますが、そんなことはありません。
・誰にも負けない強みはなくても、いろいろなことこそがそこそこできる。そんなあなたは、それだけでとてもユニークな存在なんです。
・裁縫、編み物、貼り絵、染色など、これまで楽しみながらやってきた趣味があれば、それもお金に換えられる能力です。
・人から喜んでもらうことで生活に張り合いが生まれ、生きがいが生まれます。
<老害になる人、ならない人>
・ただ一つ、私自身も心がけているのは、若い人に対して「教えてやろう」と思わないことです。
・しかし、“私たちの常識”と“彼らの常識”は違います。
・私たちは、何歳になってもまだまだ未熟です。そして、そう考えるからこそ、明日が楽しくなるんです。
<貧乏ばあさんはダメ! ハッピーばあさんになろう!>
・坂東さんの頃もそうだったと思いますが、私が若い頃は、母親が仕事をもっているだけで白い目で見られた時代です。「3歳までは母の手で」という育児神話がまかり通り、やっとつかんだ仕事も、子どもが生まれたら辞めるしかありませんでした。
・多くの人の老後の不安は、お金、健康、生きがい、孤独にまつわることだと思います。そのすべての不安を軽くし、私たちをハッピーにしてくれるのが働くこと。
91歳になった私も、自分を鼓舞しながらなんとか働いています。皆さんもどんどん世に出ましょう。社会に参加していきましょう。
<宝ものはあなたのなかにある>
<誰のなかにもある「無形資産」に注目!>
・つまり、お金だけに焦点を当てていると、誰にとっても老後は不安と心配だらけだということです。
そこで注目してほしいのが、お金以外の資産です。
・対して無形資産は、目に見えない資産です。たとえば、仕事で身につけたスキルや資格、人脈、経験、知識、友情、信頼、健康、人に好かれる力……。今の時代なら、SNSのフォロワー数もその一つでしょう。
無形資産は、今は目に見えませんが、人生を豊かにする何らかの価値を生み出すもの。
<健康こそ、最大の無形資産!>
・老いの最大の無形資産は、健康ではないでしょうか。
・私が紹介したような簡単なエクササイズも、健康という無形資産への投資です。ぜひ楽しみながら続けてみてください。また、50代はホルモンの状態が変わる更年期で、カルシウム不足になりがちです。将来の骨折防止のためにも、できるだけカルシウムたっぷりな食事をとることも忘れずに。
<日々、上機嫌で生きる>
・無形資産のなかには、人間的な魅力、つまり人柄も含まれます。
・仏教に「和顔愛語(わげんあいご)」という言葉があります。穏やかな顔と優しい言葉で、思いやりある態度で人と接すること。上機嫌に通じる言葉です。
・私の場合、毎朝、通勤途中の神社をお参りするのは日課なのですが、そのときを“思い出しタイム”にしています。
・さかのぼれば、たいていそれは、お世話になった人との思い出につながります。出会いもまた無形資産なのですね。自然と感謝の気持ちがわいて、心も晴れ晴れ。
さあ、今日も頑張ろう! と上機嫌の一日がはじまるのです。
<今からはじめる「かきくけこ」>
・人生後半を豊かに楽しく生きるコチ、ご紹介します!
「か(感動・学習)、き(機嫌よく)、く(工夫)、け(健康)、こ(交流)」
<化けて出るのは、もうや~めた>
・人生のどこかで出会った人が、どこでどう巡り巡って味方になってくれるかわかりません。
・人との出会いは、誰にとっても無形資産となるでしょう。
・衝突して疎遠になった人とも、年を取ってから関係性が変わることもあります。
・人生は長いようで、あとになってみれば、多分一瞬の風が吹き抜けたようなものでしょう。怒ったり恨んだりのネガティブな感情に支配されるのは、時間がもったいないなとつくづく思います。
<いくつになっても「見た目力」を磨く>
・「どうせおばさんだから、どうでもいい」と投げやりになって、肌も荒れ放題で身なりもかまわない。これでは自分で自分を見捨てたようなもの。活力がなくなり、実年齢以上に老けこんでしまいます。外から見ても“終わった人”と軽んじられても仕方ありません。
・見た目力もまた、後半の人生を充実させてくれる無形資産なのです。
・みなさんも、いろいろ試してぜひおしゃれを楽しんでください。
<美人は1日にしてならず>
・男の顔は履歴書というけれど、女の顔も履歴書です。顔立ちが変わるわけではないけれど、生き方が顔に出るというのは本当でしょう。
・それに長寿社会というのは、伸びしろが広がる時代。努力が時間切れにならず、報われるまで生きられるのです。何歳からでも遅くありません。努力で見た目力を磨きましょう。
<デジタルオンチにならないで>
<~IT技術も無形資産~>
・耳が遠くなってもメールは読める、歩けなくなっても誰かと会える。老いの多様化に備えるためです。
<おわりに>
・「最も強いものが生き残るのではなく、最も賢いものが生き残るのでもない。唯一生き残るのは、変化できるものである」進化論のダーウィンが遺した言葉です。私たちがこれから体験する超高齢社会は、樋口さんがおっしゃるように人類未踏の地。これまでの人生設計や価値観がひっくり返ってもおかしくありません。私たちもまさに変化していかなければなりません。
・みなさんも、楽しい、うれしい、おもしろいと実感できる時間をできるだけ積み上げながら、老いの海を一緒に力強く泳いでいきましょう。
(2024/7/16)
『空腹が人を健康にする』
「1日1食」で20歳若返る!
南雲吉則 サンマーク出版 2012/1/16
・「1日1食」にすれば、
① 体の傷んだところが修復される
② 自分の適正体重になる
③ 皮膚年齢がどんどん若返る
< 空腹になると発動する遺伝子がある!>
・「どんどん栄養を摂れば元気になれる、というのは古い考えである」。いえ、それどころか、「空腹でお腹が鳴ると、体にいいことが細胞レベルでどんどん起きて、若返りの効果がある!」とまでいい切れるのです。
私が今のような「1日1食」のライフスタイルになったのは10年ほど前、45歳の頃からです。
・試行錯誤をする中で、肉食をやめて野菜中心の食生活に変えたところ、あんなに頑固だった便秘があっという間に治ったのです。
・余談ですが、肉を食べなくなったら、なんと体臭がなくなりました。肉食を好む人やメタボの人は皮脂の脂分が多いのですが、それが酸化して過酸化脂質になると独特の臭いを発します。「ノネナール」という、いわゆる「おやじ臭」です。それがほとんど消えたのです。
・さらに「一汁一菜」で食事の量を減らしたら、体重は一直線に下がってゆきました。体調もどんどん良くなっていきました。栄養面から見ても、質素に見える食事の中に含まれている「完全栄養」を摂取することで、体が活性化することがわかりました。ただ毎食一汁一菜を用意するのは大変です。
・そこでいろいろ工夫してたどりついたのが、現在の「1日1食」生活です。以来10年あまり、健康状態はすこぶる良好、体重も62㎏を維持しています。何よりも肌が若々しくなり、人間ドックで血管年齢が26歳といわれるようにまで若返ったのです。
・それを払拭してくれたのが、近年発見された「延命(長寿)遺伝子」です。あらゆる動物実験で、食事の量を4割減らしたほうが、1.5倍長生きすることが証明されたのです。それだけではありません。食事の量を減らしたほうが表情も生き生きとして毛並みも良く、外観が若く美しくなることがわかったのです。
・「見かけ」というのは、すごくわかりやすい健康の指標です。
・肌が若々しくきれいでウエストがくびれていること。それが「1日1食」生活のめざすゴールなのです。
<食べないことがなぜ健康にいいのか?>
<人類の生き残りのカギは「生命力遺伝子」>
・でも、この地球上に人類の祖先が出現してから17万年の歴史をたどってみたとき、人間が三食、満腹するまで食べられるようになったのは、わずかにここ数十年のこと。どんなに長く見積もったとしても、せいぜい100年にも満たない、つい最近の話です。
・毎日3度3度、満足に食べられないことのほうがむしろ当たり前だったからこそ、「十分な栄養を摂ることが健康の秘訣」などという神話が生まれたのでしょう。
・つまり、人類の歴史は、つねに飢餓との闘いだったといっても過言ではありません。
・つまり、人類存亡の危機を何とかかいくぐって、生き延びてきた者の子孫である私たち現代人には、飢えや寒さや感染症のときこそ生きる力が湧いてくる「生命力」というものがあるのです。
その生命力の源こそが、私たち人類が危機を乗り越えることによって獲得してきた「生命力遺伝子」なのです。
生命力遺伝子は一つの遺伝子ではありません。飢餓に打ち勝つ「飢餓遺伝子操作」、飢餓状態において生き残る「延命遺伝子」、飢餓状態のときこそ出生率を高める「繁殖遺伝子」、感染に打ち勝つ「免疫遺伝子」、癌と闘う「抗癌遺伝子」、老化や病気を治す「修復遺伝子」など数え切れないほどの遺伝子が、私たちの体には備わっています。
ただやっかいなのは、飢えや寒さの状態におかれないと生命力遺伝子は働かないこと、さらに飽食状態では逆に、体を老化させ、出生率を下げ、免疫が自分の体を攻撃するほうに働いてしまうことです。
<水を飲んでも太るワケ>
・そう、私たちの体はちょっと食べるだけで太るようにできているのです。そうでなければ、私たちの祖先は飢餓との闘いの歴史を生き残ってこられなかったでしょう。ですから、少しの量の食事でも太ってしまう体質は人類の進化の結果なのです。
食事を効果的に脂肪に変えて温存する「飢餓遺伝子」は、その働きをズバリ示して、「倹約遺伝子」と呼ぶこともあります。
・一般的には、食べたぶんだけ内臓脂肪がつくのが自然の摂理にかなっています。それによって、人類はこの17万年を生き抜いてきたのです。
<細胞を修復してくれる「サーチュイン遺伝子」>
・「飢餓遺伝子」は、わずかの食事から最大のエネルギーを蓄えることができる、いってみれば「省エネ遺伝子」です。
・それが、最近にわかに注目を集めている「延命(長寿)遺伝子」、正式名「サーチュイン遺伝子」です。
・その発見のきっかけは、そもそも「私たちの体は、空腹であればあるほど生命力が活性化し、若返るのではないか」という仮説でした。
これまでも仏教の「断食」やイスラム教の「ラマダン」に見られるように、飽食状態よりも小食であるほうが長生きすることが経験的にわかっていました。そこで実際にあらゆる動物でエサの量を変えて生存期間を観察してみたのです。
するとアカゲザル、ラット、モルモットなど、あらゆる動物実験において、エサの量を40%カットしたときが一番延命効果が高く、なんと寿命が1.4~1.6倍にも延びたのです。
・こうした実験結果から、生物が飢餓状態におかれた場合、何とか生命を維持しようと活性化する遺伝子がどこかにあるのではないか。そんな予測のもとに研究を続けた結果、見つかったのが「サーチュイン遺伝子」です。
さらに調べていった結果、この遺伝子は、空腹状態におかれたとき、人間の体内に存在している50兆の細胞の中にある遺伝子をすべてスキャンして、壊れたり傷ついたりしている遺伝子を修復してくれる、ということが明らかになりました。
これは、寿命だけでなく、同時に「老化や病気をくい止める働き」にも関与しているということを示しています。
・それは「生命力遺伝子」を活性化させることこそが、私たちに長寿と健康をもたらしてくれるということ、そしてこの「生命力遺伝子」は飢餓のときにしか発現しないということです。
これが、本書のテーマである「1日1食健康法」の根拠となっています。
昔から、「健康の秘訣は腹八分目」として満腹を戒めてきたのは、このような遺伝子をしっかり発現させるようなライフスタイルを心がけろといっているのです。
<食べすぎこそ病気の始まり>
・毎日欠かさず、三度三度お腹いっぱい食べることが、本当に体にとって健康的なのかと問われれば、明らかに「NO」といえます。栄養は足りなければたしかに病気になりますが、体内の生命力遺伝子はその病気を治癒・予防するために働きます。
しかし食べ過ぎたときに働く生命力遺伝子はほとんどないために、飽食と誤った食生活によって病気になっている人が、あとを絶たないのです。
・なぜこんなに「外見」のことばかりいうかというと、外見の若さと美しさこそが、健康のバロメーターにほかならないからです。
<満腹には適応できない現代人の体>
・私たちの体は環境に適応するため、つねに最適化されるようにできています。こうした人類の適応力、環境への最適化は、その環境下において最高の力を発揮します。「生命力遺伝子」についていえば、飢えと寒さにおかれたときほど活性化するというわけです。
・私たちの体は飢えには強いけれども、満腹には適していないのです。
<糖尿病は人類の進化の証 ⁉>
・近視は病気だと思っている方が多いでしょうが、じつは環境への適応なのです。
・糖尿病とは、あらゆる捕食器官が退化していく病気です。
・必要のなくなった器官は、どんどん退化してくのが自然の摂理なのです。
・同様に、氷河時代を生き延びるためには、ヒトにとって体毛は必要なものでした。
・捕食する必要がなくなった人類にとっては、手足も感覚器官も、もはや不要となって退化していく。ある意味では飽食への急激な環境変化に対する「適応」といってもよいでしょう。
<糖尿病でやせる本当の理由>
・つまり糖尿病とは、飽食という新たな環境に適応するために生じた「いくら食べても太らない体」をつくるものだともいえるのです。
・一般的に進化というと、何かすばらしい方向に身体器官などが変化することだと考えられがちです。けれど本来的な意味では、糖尿病や近視のように、環境に適応した状態への変化は「適応」と呼び、それが遺伝子変化を伴えば「進化」と呼ぶのです。
<危機が迫ると脳細胞まで活性化する>
・脳細胞は、1日に数万個ずつ壊れているといわれます。そんな勢いで壊れ続けていたら、早晩、脳細胞はなくなってしまうのではないかと心配でしょう。
けれども実際には脳細胞は脳全体で1000~2000億個もありますし、そのうち実際に使われている脳細胞は、全体のわずか3%だといわれています。生涯にわたって毎日数万個ずつ壊れるとしても、脳全体で見れば、ほんの数%に過ぎないのです。
とはいえ、脳細胞がそれを上回る速さでどんどん壊れてしまえば、認知症が生じることはたしかです。
ところが人間の体というのは、本当によくできているものです。海馬と呼ばれる部分に幹細胞が存在し、神経細胞を再生することが最近の研究で明らかになりました。
・ただし不摂生を続けていれば脳細胞は増えません。どんなときにこの脳細胞が増えるのかというと、なんと「飢えと寒さ」にさらされたときだというから驚きです。
・海馬の働きをひと言でいうと、脳の中での記憶の取捨選択です。
・夢とは、実際の体験を順不同につなぎ合わせたものです。だから支離滅裂で意味は通じませんが、まったく体験したことのないものは登場しません。
フロイトは夢判断の中で「夢とは抑圧された願望と潜在思考の合わさったもの」といっています。
<寒いとなぜ体がガタガタふるえるのか>
・先述したように、私たちの体は、少しの食べ物を摂取しただけで、脂肪を蓄えるようにできています。脂肪には「皮下脂肪」と「内臓脂肪」があり、女性は皮下脂肪型、男性は内臓脂肪型です。
・一方、寒いとき私たちは体をガタガタふるわせますが、これは筋肉を収縮させることによって、筋肉の中のグリコーゲンという糖分を燃やして熱を発しようとしているのです。ところが糖分は薪ストーブと同じで燃焼効率が悪く、1gを燃焼させても、わずかに4kcalにしかなりません。
・そこで冬眠する動物や赤ちゃんは、もっと燃焼効率の良い発熱体を利用するようになりました。それが内臓脂肪です。脂肪は灯油やガソリンと同じように効率が良く、1gを燃焼させると、9kcalの熱を生産することができます。
つまり、飢えや寒さといった非常時には、脂肪がいちばん効力を発揮するというわけです。
・飢えと寒さの中で、それでも人類が生存を続けられたのは、何も食べるものがないときにも耐えられるような体のメカニズムを備えていたからです。それが、体内に内臓脂肪を蓄えさせておくという機能でした。
<必要以上に蓄えられている内臓脂肪>
・赤ちゃんが寒さでふるえているのを、見たことはないと思います。なぜなら、赤ちゃんは内臓脂肪のかたまりだからです。
同様に、冬眠する動物も内臓脂肪のかたまりで、食べるもののない冬の間じゅう洞穴の中で眠って過ごしても凍死することがないのです。
・それにもかかわらず、私たちの体は食べ過ぎて内臓脂肪をたくさん蓄えてしまっていますから、暑さ寒さに関係なく一年じゅう内臓脂肪を燃やし続けなければならない状態にあるともいえます。
0コメント